二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】
日時: 2017/01/26 02:02
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
 知っている人はしっているかもしれませんが、過去に同じ作品を投稿していたことがあります。その時は、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
 諸事情あって、一度は更新を止めてしまっていましたが、色々思うところがあり、また更新を再開……というか、リメイク。書き直したいと思います。
 また、大変申し訳ありませんが、リメイクにあたって募集したオリキャラは一度リセットさせていただきます。ただ、またオリキャラ募集をする予定です。詳細はその時にまた説明します。
 以前までのような更新速度は保てないと思いますが、どうかよろしくお願いします。

 基本的にはリメイク前と同じシナリオ、キャラクター、設定で進める予定ですが、少し変更点があります。
 前提となる変更点としては、非公式ポケモンと、非公式技の廃止。そして、第六世代、第七世代のポケモン、システムの導入です。基本的なシステム、タイプ相性などは最新の第七世代準拠とします。
 なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。また、覚えられる技の設定がゲームと少し違います。その設定に関しては、従来通りのままにするつもりです。

 ちなみに、カキコ内でモノクロという名前を見つけたら、それはこのスレの白黒とほぼ同一人物と思っていいです。気軽にお声かけください。

 それでは、白黒の物語が再び始まります——



目次

プロローグ
>>1
序章
[転移する世界] ——■■■■■——
>>2 >>3

シコタン島編
[異世界の旅立] ——ハルビタウン——
>>4 >>5 >>6
[劇場型戦闘] ——シュンセイシティ——
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
[罪の足音] ——砂礫の穴——
>>26 >>27 >>28 
[バトル大会Ⅰ] ——ハルサメタウン——
>>29 >>30 >>31
[特質TSA] ——連絡船ハルサメ号——
>>34 >>35 >>36

クナシル島
[バトル大会Ⅱ]——サミダレタウン——
>>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>74 >>75 >>76


登場人物目録
>>32

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19



第52話 箱庭区画 ( No.90 )
日時: 2017/02/04 03:30
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ジム戦開始の合図をするや否や、クリは一人家の中に入っていった。彼女の部屋——ジムリーダーとバトルするための、二重ロックのかかった部屋に向かったのだろう。
「さて、始まったな。まずはどうする?」
「……家に入るしかないんじゃないか? そうしないと、ジム戦は始まらないだろ」
 ノニがそう言うと、P・ターミナルから声が発せられる。
『いいえ。それはノンノン、ですよ』
「うわっ。クリさん?」
 P・ターミナルからの声は、クリだった。彼女がインストールしたというナビゲーションシステムによる音声だろう。
 彼女が消えてから一分と経たないが、もう部屋に入ったのだろうか。
 クリはP・ターミナル越しに、フィアたちの認識の相違を指摘する。
『家に入ったらジム戦、ではありません。ジム戦は“既に始まっています”』
 クリは、家の外で、ジム戦スタートの合図を出した。
 それはつまり、その時点で、ジム戦が開始されたということだ。
 刹那、なにかがフィアたちのすぐそばを過ぎ去った。
「!? なに!?」
「ポケモンだ!」
 三人はそれぞれボールを手に取り、現れたポケモンたちと相対する。

『第一のエリア。『私の箱庭ガーデンエリア』……さて、どう攻略しますか?』

 P・ターミナル超しに、彼女の小さな呟きが響く。
「このクモみたいなポケモンは、昨日も見た。バチュルだ」
「あっちに見えるのはデンヂムシだな。こっちの地方で見るのは初めてだ」

『Information
 デンヂムシ バッテリーポケモン
 体内で発電するだけでなく、蓄電
 する器官も持っている。貯めた電気
 は他のポケモンに分け与えることがある。』

 ノニが見つめるのは、直方体に近い身体の虫ポケモン。デンヂムシという名前らしい。タイプはバチュルと同じく、虫と電気。
 バチュルとデンヂムシ。それぞれが複数見え、こちらに敵意を向けている。
「ど、どうすれば……」
「落ち着け。ここがエリアとやらの一つだとしたら、どこかにパラボラがあるはずだ。それの破壊を考えろ」
 キョロキョロと辺りを見回す。
 すると、テイルがバッと腕を上げ、指差した。
「あった! 屋根の上だ!」
 指差す方向には、白い傘のようなアンテナがあった。正にパラボラアンテナだ。
「あんなに高いところ、どうすれば……」
 人間の力では破壊できないというが、屋根の上ではポケモンでも簡単には上れない。
 しかしそれは、フィアにとってはだ。
「簡単なことだ。頼むぜ、エモンガ!」
 テイルはボールから、エモンガを繰り出す。
 エモンガは滑空とはいえ飛行できるポケモンだ。空を飛び、屋根に上るなど造作もない。
「あれを壊せば、庭のポケモンも大人しくなるんだろ? なら、とっとと破壊するに限る! スパークだ!」
 電気を纏い、エモンガはパラボラ目掛けて滑空する。
 しかし大きな影が、エモンガに向かって飛び込んできた。
「! テイルさん!」
 フィアが叫ぶ。それによって、テイルもその存在に気付いたようだ。
「エモンガ! 左だ! 避けろ!」
 テイルの指示が飛び、エモンガは強引に軌道を変えて、飛び込んでくる影の攻撃を避ける。
 それは動きを止め、空中で停止。それにより、その姿が明確になった。
 ポケモンだ。姿はクワガタムシによく似ている。
 そのポケモンを見るや否や、ノニが叫んだ。
「あれは……クワガノン!」

『Information
 クワガノン くわがたポケモン
 体内の電気を顎の間に集めて射出
 する。デンヂムシを抱えることで
 大量の電気を得ることができる。』

 クワガノン。デンヂムシの進化系だ。
「デンヂムシにクワガノン……のっけからまずいぞ、これは……!」
 元々鋭い目つきのノニが、さらに険しい表情を見せる。
 それほどに、強力なポケモンなのだろうか。
「あのポケモンが、エリアマスター?」
「たぶんな。あいつは強力なポケモンだ。一筋縄じゃいかないぞ」
「だけど、あのパラボラを破壊すれば問題ないわけだろ? だったらやっぱ、目標に変更はない。援護頼むぜ、二人とも!」
「無理だ」
「なんでだ!?」
 テイルが再びエモンがを向かわせようと、そう言ったところで、ノニから思わぬ返答が返ってくる。
 ノニは、庭に蔓延る他のポケモンたちを目で指しながら、言い返す。
「周りを見ろ。パラボラの破壊にだけ集中すればいいというわけじゃない。クワガノン以外にも、攻撃を仕掛けてくるポケモンはいるんだ」
「ぐっ、確かにそうだが……」
「だからこいつらを相手しつつ援護なんてできない……とか言ってるうちに、来るぞ!」
 クワガノン、そしてバチュルやデンヂムシたちが、痺れを切らしたかのように襲い掛かってきた。
 ノニはアローラのサンド、フィアはブースターをそれぞれ繰り出し、応戦する。
「サンド! 弾き飛ばせ! 高速スピン!」
「ブースター! 火炎放射だ!」
「エモンガ、スパークだ!」
 ノニのサンドが高速回転してバチュルを弾き飛ばし、ブースターの炎がデンヂムシを焼き払う。
 エモンガは電気を纏ってクワガノンに突撃するが、クワガノンは機敏な動きで躱すと、アクロバティックな空中飛行で接近し、エモンガを突き飛ばした。
「アクロバットか! 意外と機敏に動くな!」
 素のスピードは、はっきり言って遅い。しかいsアクロバットという技の性質上、瞬間的な速度が生まれている。
 流石マスターというだけあり、強い。
 今度は大きな顎を煌めかせ、エモンガへと突貫する。
「! こいつはまずい……! エモンガ!」
 エモンガも直感的に危険を察知してか、その言葉だけですぐに回避行動を取る。
 直進してくるクワガノンの動きは簡単に読め、回避も容易だったが、今の技には冷や汗が流れた。
「ハサミギロチン……! 危なかったぜ……」
 ハサミギロチン。当たれば一撃でポケモンを戦闘不能にしてしまう、必殺の攻撃。
 この技が見えるだけで、一気に緊張が走る。
「こっちを蹴散らすのも、なかなか骨だ」
「数が多いね……!」
 フィアとノニも、少々苦戦していた。
 出て来るのはバチュルとデンヂムシばかり。正直強くはないが、数が多い。どこに隠れているのか、次から次へと湧いてくる。
 そんなポケモンたちを薙ぎ払っていると、ふと、ノニの動きが止まった。
 耳に手を当て、耳を澄ませている。
「ノニ君?」
「……なにか聞こえないか?」
「え? なにかって……?」
 フィアも同じように耳を澄ませてみようとするが、フィアがそれを聞くよりも早く、音の主は姿を現した。
「! 伏せろ!」
「わ……っ!」
 ノニに頭を掴まれ、強引に伏せさせられる。ブースターとサンドはそれぞれ横に跳ぶ。
 次の瞬間。

 吹き荒れる草の嵐が、フィアたちの頭上を通過した。

「……!」
「今のはリーフストームか……!」
 起き上がるフィアとノニ。
 見れば二人の目の前には、バチュルとデンヂムシだけではない。もう一体、別のポケモンがいた。
 正確には、庭の奥から、突っ込んできた。
「な、なにあれ!? 芝刈り機……!?」
「あれは……まさか」
 フィアが見る限りでは、小型だが、芝刈り機だ。周りの芝を巻き込みながら、一直線にフィアたち目掛けて突っ込んでくる。
「サンド、氷柱針!」
 サンドは氷の針を何本も生み出して射出するが、芝刈り機はそれらをすべて躱しつつ、こちらへの直進を止めない。
「ブースター、火炎放射!」
 迫り来る芝刈り機に炎を放つブースター。すると芝刈り機は軌道を変えて、ようやく止まった。
「な、なんなのあれ? 芝刈り機が動いてるけど……っていうか、あれ、なんか見覚えが……」
「あいつはロトムだ」
「ロトム……? あれが?」
「カットロトムだな」
 クワガノンとの空中戦を繰り広げるエモンガに指示を出しつつ、テイルが言う。
「ロトムのフォルムチェンジ形態の一つだ」
「あれもロトムの姿……ってことは、あれがクリさんのポケモンか」
 発電所で、クリはロトムを使っていた。
 あの芝刈り機もロトムなのだとすれば、あのロトムが、クリの言っていた遊撃隊だろう。
「とにかくあいつはまずい。真正面からやり合うのは厳しいぞ。テイル、そっちはまだか?」
「悪ぃ……ハサミギロチンで脅されて、深く突っ込めねぇんだ」
 空中でクワガノンとバトルするエモンガ。スピードではエモンガが勝っているのだが、クワガノンがパラボラ周辺を陣取っており、上手くパラボラに近づけない。
 ハサミギロチンを有するクワガノン。それによって、常に一撃必殺の恐怖が付きまとい、頭ではエモンガのスピードで攪乱できるとわかっていても、最悪の可能性を考えてしまう。このままでは、消耗戦になってエモンガが不利だ。
 と思ったら、クワガノンは陣取っていたパラボラ周辺から離れた。
「ん? パラボラから離れた……?」
 行き先は、庭。地上だ。
 その様子を見たノニは、焦ったように叫ぶ。
「っ、馬鹿野郎! 早くクワガノンを止めろ! さもないと——」
 まずいことになる。
 そう言い切る前に、クワガノンは目的を達した。
 ガシッ、と。
 クワガノンは、それを掴む。
「デンヂムシを抱えた……?」
 クワガノンの脚がデンジムシを捕える。そしてそのまま、空中へと戻った。
 なぜデンヂムシを抱えたのか。元々素早くないのに、余計に機動力を落としているようにしか見えない。
 フィアが首を傾げていると、ノニから厳しい言葉を浴びせられる。
「知らないのかよ。あんたのポケモン図鑑は飾りか?」
「ご、ごめん……」
「本で読んだことがある。確かクワガノンは、デンヂムシを抱えて、バッテリーにするんだ」
「バッテリー?」
「電力だ。クワガノンはデンヂムシを抱えて、デンヂムヂ体内に貯蓄された電力を、自分の力として放つことができるらしい」
 つまり、あのデンヂムシは、クワガノンにとってはパワーアップアイテムということだ。
 さらにノニが口を添える。
「それだけじゃない。デンヂムシの特性はバッテリー。近くのポケモンの特攻を高める特性……それがクワガノンと一緒くたになってる今、奴の火力は底知れないぞ」
 クワガノンがエモンガに迫る。エモンガはクワガノンが離れている隙に、パラボラに近づいて破壊を試みるが、クワガノンはそれを許さない。
 顎の間に収束された光が、シグナルのように点滅し、光線を放つ。
 光線は的確にエモンガを狙い撃ち、空高くに吹き飛ばした。
「っ、シグナルビーム……なんつー威力だ」
 効果いまひとつだというのに、かなり手痛いダメージだ。
「こんな初っ端から躓いてたら話にならないな……どうする」
「……あのクワガノンは俺に任せろ」
「大丈夫なのか?」
「覚悟は決めたぜ。エモンガ、戻ってこい!」
 テイルは一度、エモンガを呼び戻す。クワガノンは追いかけてこない。どうやら、パラボラの防護が優先のようだ。
「なら、あの芝刈り機はおれたちでどうにかするしかないな」
「う、うん……」
 ガガガガガ、と駆動音を響かせながら、たまに草の嵐を吐き出すカットロトムに立ち向かうフィアとノニ。
 しかし、バチュルやデンヂムシの攻撃に加え、カットロトムの不規則かつ素早いな軌道。吐き出される高火力のリーフストームと、非常に厄介な相手だ。
 なんとかブースターの炎でいなしながら戦っていると、テイルがエモンガになにかを渡しているのが見えた。
「よし! 行けエモンガ!」
 そして、テイルはエモンガを飛び立たせる。
 片手でなにかを持っているようで、片翼のみの滑空。安定性が非常に悪く、ぐらついていた。
 クワガノンはデンヂムシを落とした。電力はもう、十分に溜めこんだということだろう。デンヂムシから得た電力によって強化された機動力を持って、エモンガに突っ込む。
「エモンガ、エアスラッシュ!」
 エモンガは片翼で空気の刃を放つ。クワガノンも放電し、迫り来る刃をすべて粉砕した。
 そして、鋭い顎をギロチンの如く煌めかせ、エモンガへとその刃を向ける。
 エモンガもまた、クワガノンへと突っ込んでいく。
「行け、エモンガ!」
「真正面からぶつかる気か……!?」
 しかしそうすると、ハサミギロチンの餌食だ。
 クワガノンとエモンガが交錯する。その瞬間。
「今だエモンガ! “そいつ”をクワガノンにお見舞いしてやれ!」
 エモンガは、片手に握っていたものを、クワガノンの顔面に叩きつける。
 すると、バフンッ、という破裂音と共に、紫色の煙が巻き上がった。
 その煙に驚き、クワガノンは空中で体勢を崩して大きく軌道が逸れる。
「あれって、イヤイヤボール……!?」
「あぁ。ポケモンが嫌がるってことは、こうしてぶつければ、動きを狂わせられるはずだ」
 テイルの言う通り、クワガノンはぐらぐらと不安定なまま飛行している。
「今がチャンスだ! エモンガ、スパーク!」
 クワガノンの動きが狂っているうちに、エモンガは電気を纏ってパラボラ目掛けて突っ込む。
 電気を流しこまれたパラボラは、バチバチと嫌な音を立てながら黒煙を吹き出していた。
「やったか」
「おう。これでこのエリアのポケモンは大人しくなるはずだぜ」
 見れば、バチュルとデンヂムシはもぞもぞとどこかへ消えていく。クワガノンも、いまだふらふらしているが、同じように消え去った。
 パラボラが破壊されたことで、このエリアのポケモンたちが襲い掛かってくることはなくなったのだ。

 そう。“このエリアのポケモン”は。

 刹那、草を巻き込んだ嵐が吹き荒れた。



あとがきです。今回は本編が長いので、特に書けないです。ごめんなさい。次回は今回の続きです。次のエリアはたぶん次々回。というわけで、お楽しみに。

第53話 「箱庭攻略」 ( No.91 )
日時: 2017/02/04 13:47
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「伏せろ!」
 ノニの叫びで、フィアたちはそれぞれ身を伏せる。
 直後、頭上に草の嵐が通過していった。
 目の前には、自律する芝刈り機の姿。
「ロトム……!」
「やっぱりあいつが遊撃手だな」
 パラボラが破壊されても、エリアに縛られない遊撃隊は攻撃してくる。他のポケモンたちが撤収する中、ロトムだけが攻撃を続行しているということは、やはりこのポケモンがクリのポケモンなのだ。
 パラボラを破壊した以上、このエリアにはもう用はなかったが、背中を見せればリーフストームで吹き飛ばされる。このまま放置しておくわけにもいかなかった。
 しかし、トレーナーがいないとはいえジムリーダーのポケモンだ。そう簡単に倒せる相手でもない。
「だが、テイルのお陰で攻略法は見つけたぞ。サンド、氷柱針! ロトムのルートを狭めるんだ!」
 芝の上を縦横無尽に駆け回るロトムに、サンドは細く尖った氷を連射する。
 その軌道は、ロトムを攻撃するというよりも、ロトムの動きを阻害するかのように、ロトムの周辺に向けて放たれた。
「成程な。エモンガ、俺たちも援護するぞ。エアスラッシュ!」
 エモンガも同じように、空気の刃を放つ。目標は、サンドと同じく、ロトムの周辺。
 明らかにロトムを狙わない二人の攻撃の意図が読めず、フィアだけが棒立ちで呆然としていた。
「ぼさっとすんな! あんたもあの芝刈り機を止めろ!」
「え? あ、うん……ブースター、火炎放射!」
 ノニに叱責され、とりあえずフィアもブースターに指示を出す。
 ブースターは、真正面から突っ込んでくるロトムに向かって炎を噴射する。その炎に、ロトムの動きが一瞬だけ止まった。
「そこだ! 喰らえっ!」
 その一瞬の隙に、ノニはロトムになにかを投げつける。
 それは、エモンガが持っていたものと同じ、球状の物体。
「イヤイヤボール……!」
 ロトムに直撃したボールは、炸裂した音と紫煙を噴き出す。
 するとロトムは、スルッと芝刈り機の中から、ノーマルな状態で飛び出した。
 そしてそのまま、クワガノンと同じように、家の中へと逃げるように去っていく。
「芝刈り機だけ置いて出て行ったな」
「ってことは、家の中に入ったら、また襲われるのかな……?」
「たぶんな」
 カットロトムのリーフストームは、喰らってこそいないが、凄まじい威力だった。
 先日見せられた、ヒートロトムのオーバーヒート、フロストロトムの吹雪。いずれも非常に高い火力で、脅威的だ。あんな火力の技で、また襲われるのかと思うと、戦慄する。
「だが、対処法はある。なんでこんなものを配られたのかと思ったが、こういうことだったんだな」
「?」
 ノニは渡されたイヤイヤボールを弄びながら言う。
 フィアはその言葉に首を傾げた。
「あんた、結構鈍いんだな」
 疑問符を浮かべるフィアに、ノニが呆れたように息を吐く。
 年下に呆れられてしまい、少し落ち込んだ。
 一方テイルは、ノニの言わんとしていることを理解しているようだった。
「このイヤイヤボールを上手く使って、エリアマスターと、さっきのロトムを切り抜けろってことだろ?」
「そういうことだ。明らかに強力なエリアマスターと、ジムリーダーのロトム。そのうえ、そのへんの雑魚も合わせて多勢に無勢。真正面からぶつかっても消耗が激しすぎるから、こいつで追い払いつつ、パラボラを壊していけってことだ」
 あまりに障害の多いナルカミジム戦。エリアマスターたちとまともにバトルして、一体一体倒しているようでは、ジムリーダーの部屋に辿り着く頃には、満身創痍でまともに戦える状態ではないだろう。
 そのためのイヤイヤボールだ。このボールを使えば、先ほどのクワガノンのように、かなり動きが狂う。ロトムもすぐに逃げ出したので、効果はかなりある様子。これで戦闘を回避しつつ、ロックを解除していけばいい、ということだ。
「そ、そうなんだ……全然わからなかったよ」
「……まあ、おれもテイルがクワガノンにぶつけたから気づいたんだけどな。あんたはこのボールについて知ってたのか?」
「あー、まあ、ほんの少しだけな。本でチラッと名前が出てたような気がする、って程度だよ。確か、ナントカって島の写真家が、ポケモンの写真を撮るために使ってたとかなんとか……」
「このボールをどうやって撮影に使うんだ……?」
 非常に謎である。
「それにしても、ポケモンって本当に凄いよね。こんな家電? の中にも入っちゃうんだもん」
「ロトムだからできるんことなんだけどな。こんなポケモン、他になかなかいないぜ?」
「そうだな。ロトムは人間の作った物体を、侵入という形で利用する、かなり特殊なポケモンだ。ちなみに、その性質を逆に人間が利用したものとして、こんなのもある」
 そう言ってノニは、鞄を開く。
 すると中から、赤いなにかが飛び出した。平たく、正方形に近い形状。上部は角のように突起が伸び、左右は稲妻型に伸び、下部には小さな足のようなものがある。
 ひとりでに浮遊するそれは、物体としては奇妙な形をしているのだが、形以上に目を引くのが、中央付近に見られる目と口のような模様。
 その目の感じが、どこかで見たことのあるような気がする。
「こ、これって……?」
「うぉっ! すっげー! ロトム図鑑じゃねーか!」
 目をキラキラどころか、バチバチと稲光が弾けそうなほど光らせるテイル。それほど珍しいものなのか、かなり興奮している。
「……図鑑? ロトム?」
「ロトム図鑑。ロトムが図鑑の中に入り込んだ姿だ」
「ロトムが図鑑に!? そんなこともできるんだ……凄い」
 そんな月並みな感想しか出てこないが、心の底から凄いと思う。
 フィアの図鑑も様々な機能があり、薄型で、科学技術の粋が詰まった先進的な傑作だ。
 しかし、フィアの図鑑が先進的ならば、ノニの図鑑は革新的だ。図鑑がひとりでに浮いているうえに、これがポケモンの力だというのだから、なおさら驚きである。
 ロトムというポケモンに対しても、図鑑に入ることまでできるというのだから、驚きに驚きが重なり、もはや言葉にならない。
「といっても、こいつは試作機で、本物ほどの性能もないんだけどな」
「本物って?」
「本物のロトム図鑑は、ロトムの思考をおれたちにもわかるように翻訳して音声にするから、ありていに言えば人語を喋れるんだ」
「…………!」
 流石に絶句した。
 翻訳の延長なのだろうが、ポケモンが人語を喋る。フィアの感覚でも、それが如何に凄まじいことなのかは理解できる。
 この世界の科学技術には、驚かされてばかりだ。
「すげーよノニ! ロトム図鑑を持ってるなんてな! どうやって手に入れたんだ?」
「アローラからこっちに旅立つ時、博士とちょっとな……試作機だからもう使わないって言って、ロトムと一緒にくれたんだ」
 どこか歯切れ悪く、遠くを見るような目で答えるノニ。
 対するテイルは、ロトム図鑑に釘付けになっていた。
「あ、そうだ。テイルさん、ノニ君。この芝刈り機なんだけど、使えそうじゃないですか?」
「使えそう? なににだ?」
「ロトムだよ」
「……あぁ」
 ノニはその言葉で理解したようだ。
 テイルも同じく頷き、フィアの言いたいことがわかっているらしい。
「俺たちはロトムを持ってる。ってことは、ロトムが入れる家電にロトムを入れて、フォルムチェンジできるんだな! 名案だぜフィア! んじゃ出て来い、ロトム!」
「……あんたも持ってたんだな、ロトム」
 クリのロトムがフォルムチェンジに利用していた芝刈り機。この芝刈り機に、テイルやノニのロトムも入れば、それだけで戦力アップが見込めるだろうという考えだ。
 早速、テイルはクリのロトムが置いて行った芝刈り機に、自身のロトムを侵入させようとする。
 しかし、
「あ、あり?」
 バチッ、という音と共に、ロトムが弾き出された。
『すみませんが、それはダメなんです』
 P・ターミナルからクリの声が聞こえる。淡々としているが、どこか申し訳なさそうだ。
「クリさん……」
『そのモーターは私が制作した特殊なモーターなので、私のロトムしか入れないのです。ごめんなさい』
「ちぇ、そうなのか」
「まあ、わからないでもないな。悪用されないための対策か」
『しかし使用自体は構いませんよ。どのような用途で使うかは、わかりかねますが!』
「いや、無理っしょ。こんなのロトムのフォルムチェンジ以外の使い道なんて……」
『私がそのモーターにかけた7×7重イガ式反転機構ロックを解除すれば、他のロトムも入れますけど』
「なんすかその必殺技みたいな名前……ますます無理っしょそんなん」
 要するに、この芝刈り機はクリのロトム専用というわけだ。
 良い考えだと思ったのだが、フィアの思惑はすぐに頓挫した。
 せっかくの考えが意味をなさず、残念だ。名残惜しそうに芝刈り機に視線を落とすと、ふと妙なものが目に入った。
「? この芝刈り機、なにか書いてあるよ?」
 それは、妙な模様のようなもの。しかし、その一ヵ所にしかそれはまく、絵や記号のようにも見える。
 横に一本のライン。それを分断するように、左右対称の『ノ』の字が描かれている。
「なんだろうこれ……『大』って読めるけど……」
「なにかの記号か?」
「さぁ……?」
 もしかしたら、本当になんでもない、デザイン性のためだけにあるただの模様かもしれない。もしくは、クリだけがわかるコードのようなものなのかもしれない。
 これが自分たちにとって意味あるものなのかはさっぱりわからなかったが、この妙な模様が無関係だとは思えなかった。
「……暗号のヒントってのは、これのことかもな」
 ノニが言った。
「暗号は全部で五つ。ロトムがフォルムチェンジできる形態も、ロトム図鑑を除けば五つだ」
「ってことは、ロトムがフォルムチェンジできる家電に、暗号のヒントがあるってこと……?」
「確定ではないが、その可能性はある。だからこの芝刈り機の文字だか記号だかも、その一つだと考えられるな」
 仮にそうだとすれば、それが遊撃隊としてロトムが存在する理由にもなる。
 暗号のヒントを得るためには、ロトムを撃退することも必須条件ということだろう。
「イヤイヤボールといい、ロトムといい、ここのジムリーダーは妙に理屈付けでジム戦のルールを決めているな」
「本業は研究者らしいし、理論的な人なんじゃないかな……?」
「女は感情的なもんだがな……まあいい。お喋りはこのくらいにして、家に入るぞ。制限時間もあるからな」
 見れば、既にこのエリアだけ二十分近く経過している。
 制限時間がある以上、そして家の中でなにが起こるかが分からない以上、タイムロスはできるだけ避けたい。
 ノニの言うように、三人は攻略したガーデンエリアを後にして、本命の家屋へと、入っていく——



あとがきです。ちょっと今回ロトム持ってる人多すぎませんかね? テイルのロトム、クリのロトム、ノニ君のロトム図鑑と、フィアの周囲でロトム所持者が一極集中しておりますよ。この短期間でどんだけロトムが集まっているんだよ……まあ、そのようにシナリオ組んだのは自分ですけど。ノニ君のはロトム図鑑であって、手持ちのポケモンではありませんし。ちなみに喋れない設定にしたのは、ロトムにキャラ付けをして“登場人物”のような扱いにしたくなかったからです。実質キャラが増えるようなもんですしね、あいつだと。あと、口調再現が面倒だった。なので、試作機、という設定にしてただの図鑑にしました。作者はロトム図鑑嫌いですしね、アニメ版は特に。いちいち喋りかけて来て鬱陶しいです。ゲーム版はまだいいですけど。逆に好きなロトムはカットムかミトムです。水ロトムは対戦でも大活躍、草ロトムは芝刈り機という家電? のチョイスが好きです。それでは、色んなロトムが見れたところで、箱庭エリア攻略。次回はいよいよ家の中へと入り、次のエリアの攻略です。お楽しみに。

第54話 「家屋捜索」 ( No.92 )
日時: 2017/02/06 20:59
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 家に入り、玄関。
 フィアは靴を脱いで上がるべきか、わりと真剣に悩んだが、クリから『どうせめちゃめちゃになることを想定した実験室なので、土足で大丈夫ですよ』と言われ、靴を履いたまま家に上がる。自分が空き巣か、戦時の検閲官のような気分になる。
「二人とも。ポケモン、出しておけ」
「え? どうして?」
「いつ襲われるかわからないからな。すぐに対応できるようにしとけって言ってるんだ」
 家に入るや否や、ノニからの厳しい言葉。しかし正論なので、言葉を返すことはできず、フィアはブースターを出した。
 なおテイルは、エモンガをずっと肩に乗せている。聞けば、基本的にはボールから出しているらしい。
「あれ? でもジム戦前とか、停電した時は乗せてませんでしたよね?」
「停電した時は、ポケモンセンターで回復したすぐ後だったからな。ボールから出す前だったんだ。それ以降は、停電のせいで電気タイプに悪影響があるかもしれないと思って、あえて出さなかったな。停電復旧後も、まあ、念のためだ」
 ということらしかった。
 自分のパートナーということもあるのだろうが、電気タイプのことを案じた行動。とことん電気タイプが好きなようだ。
「廊下にはなにもいないか……そうだな」
 首を伸ばして廊下の様子を窺う。廊下は長く、扉がいくつか見えるだけで、ポケモンの姿やパラボラは見られない。
 不用意に扉を開け、部屋に入れば、いきなりポケモンに襲われかねない。制限時間があるとはいえ、慎重なる必要がある。
「……ニャース、出て来い」
 唐突に、ノニはボールからポケモンを出す。
 出て来たのは、黒っぽい毛色の、猫のようなポケモンだ。額の小判が金色に輝いている。
「ニャース……これも、アローラの姿のポケモンか……」
「そうだ」
 ノニのロトム図鑑が、フィアの前に現れ、情報を開示する。

『Information ver.Alola
 ニャース 化け猫ポケモン
 元々はアローラに存在しないポケモン。
 富豪たちがペットとして輸入したが、
 王権の崩壊で野生化した経緯を持つ。』

 ニャースはノニからなにか耳打ちされると、家の奥へと消えて行った。
「ニャース行っちゃったけど、いいの?」
「構わない。それが目的だ」
「? どういうことだ?」
 疑問符を浮かべるテイル。フィアも、ノニが急にニャースを出した意図がわからない。
「偵察か?」
「それもなくはないが、目的は鍵だ」
「鍵? 扉の、ってこと?」
「鍵というのはたとえだが、扉の鍵もあるなら、それも含まれるだろうな」
「はっきりしないな」
 テイルが口を尖らせて言うと、ノニ少し思案してから、言葉を紡ぎだした。
「いいか、ジム戦の舞台はこの家だ。家屋ということは、数多くの“物”があると考えていい。同時に、障害も多く存在する」
 多くの物と障害。
 物というのは、そのままの意味だろう。机、椅子、クローゼット、芝刈り機、etc……家具を始めとする、この家にある道具等々のこと。
 障害というのは、現在進行形でフィアたちが壊して回っているパラボラや、暗号。さらには解き放たれたポケモンにエリアマスター、遊撃手のロトムがそれにあたるといえるが、ノニが言うにはそれだけではない。
「数々の障害の中には、鍵——鍵というのは、特定の障害を突破するための道具、キーアイテムの比喩だが——を必要とするものがあると推測できる。たとえば、さっきフィアが言ったみたいな鍵のかかった扉があるとすれば、その鍵を探す必要があるな」
「言われてみれば、そうだね」
「鍵のかかった扉か。そのくらいなら、ある可能性は高そうだな」
「他にも工具だとか、本やメモ書きの情報が必要な場合もあるかもしれない。ジムリーダーはわざわざ、『この家にあるものはなにを使っても構わない』と言った。逆に、この家にあるものを使わなくては進めないところがある、という考えが立つのは自然な思考だ」
 クリは表面上で、最低限のルールしか説明しなかった、ということだ。
 ノニの考えは正論である。家屋内という特殊で、物を設置、隠匿が容易なフィールドにおいて、障害がポラボラや暗号、ポケモンだけとは考えにくい。鍵というのは一例だが、家屋という特性を考えると、最も可能性が高そうな障害だ。
「とにかく、鍵のかかった扉なら鍵が必要だが、そんなものを障害が見つかるたびにいちいち探すのはタイムロスだ。だからニャースに、探しに行かせたんだ」
「ニャースにできるのか?」
「当たり前だ。おれのニャースの特性は“物拾い”。放っておくとなんでも拾ってくるぞ」
 とはいえ、どのような障害があるのかはわからないので、あくまで多少の目星をつける程度だが、なにもしないよりはマシだし、思わぬ発見がある可能性もある。送り出して損はないだろう。
「さて、おしゃべりはこれで終わりだ。おれたちも、腹を括って進むぞ」
「う、うん……」
「まずは、この部屋から調べてみるか」
 ノニはまず、一番手近にあるドアノブに手をかける。
 ゆっくりとドアノブを回す。鍵はかかっていないようだ。
 慎重に少しずつ扉を開けていくが、部屋の中にはなにもいないように見える。恐らく隠れているのだろうが、扉の隙間からでは中がよくわからない。警戒心は緩めず、思い切って部屋へと入る。
 部屋はそれなりに広く、ソファとテーブル。奥には食卓なのか、何脚かの椅子とダイニングテーブルもある。さらにはいくつかの棚や観葉植物も見られるので、恐らくダイニングと折衷したリビングだ。
 そう認識を下した直後、物陰から何体もの影が飛び出した。
「! ポケモン……!」
「コイルとビリリダマか」

『Information
 コイル 磁石ポケモン
 電気を食べるポケモン。一時期
 ある地域ではコイルを交換する
 ことが流行っていたらしい。』

『Information
 ビリリダマ ボールポケモン
 モンスターボールによく似た
 ポケモンだが、冷静になれば、
 大きさですぐに見分けがつく。』

 現れたのは、銀色の球状ボディに一つ目に、左右にU字型磁石、頭頂部にネジをつけたポケモン。
 それと、上部が赤、下部が白という、モンスターボールを思わせる姿をした、球体型のポケモン。
 コイルとビリリダマだ。コイルは浮遊しており、ビリリダマは床を転がっている。どちらも数が多い。
「見るからにこいつらは雑魚だ。本命を叩くぞ」
 数が多いという時点で、エリアマスターという線は切る。
 とにかくパラボラを破壊しなければならないため、目的のパラボラを探す。
 目線を彷徨わせていると、フィアが部屋の奥を指さした。
「あった! パラボラ!」
 リビングのパラボラは、奥の壁から突き出ており、非常にわかりやすい。
「エリアマスターとやらどこだ?」
「それらしいポケモンは見えないけど……」
「いないなら好都合だ! エモンガ、スパーク!」
 ぼやぼやしていたら、あっという間にコイルとビリリダマに囲まれてしまう。テイルは先手を打って、エモンガを飛ばした。
 エモンガは道を塞いでくるコイルの隙間を通り、瞬く間に抜き去る。そして、電気を纏ってパラボラに突撃するが、
「!? エモンガ!?」
 パラボラに直撃する直前。ビタンッ! という痛々しい音がリビングに鳴り響いた。
 エモンガの突撃が、なにかに阻まれたようだ。エモンガはずるずると落下していく。
「ど、どうなってんだ?」
「透明でよく見えないけど……壁……?」
 目を凝らすフィア。窓から差し込む太陽。その光の反射や屈折による“歪み”で、辛うじて見えるのは、パラボラを覆う直方体の透明な壁。形としては箱のようだった。
「あのパラボラ、強化ガラスのようなもので防護されているな。力ずくで破壊しなければ、パラボラに触れられないってことか」
「エモンガのスパークで破壊できなかったってことは、俺のポケモンじゃ無理だぜ……」
「なら、僕がやります! ブースター!」
 ブースターが咆え、駆け出した。
 単純な力なら、この中ではブースターが最も強い。エモンガの力では破壊できなかった強化ガラスでも、ブースターならば破壊可能かもしれない。
「援護するぞ。サンド、氷柱針!」
「頼むぜフィア! エモンガ、エアスラッシュ!」
 ブースターの侵攻を食い止めようとするコイルとビリリダマ。サンドとエモンガがそれぞれ、立ち塞がるポケモンたちを押し退け、ブースターの道を作り出す。
「ブースター、ニトロチャージだ!」
 そして、ブースターは炎を纏い、椅子、テーブルと飛び移りながら跳躍。炎の突撃を繰り出す。
 ガァンッ! と鈍く激しい音が響き渡るが、強化ガラスは割れていない。
「っ、硬い……! アイアンテール!」
 続けざまに鋼鉄の尻尾を叩きつけるも、激しい音が響くだけで、破壊できない。
 この強化ガラス、想像以上に硬い。ブースターのパワーでも、傷一つついていない。
 再び鋼鉄の尻尾を叩きつけようと体勢を整えるブースター。その時、後方から電撃が放たれた。
 電撃を浴びたブースターの動きが、止まってしまう。
「な、なに!?」
 電撃は、コイルやビリリダマのものではない。それよりも、もっとブースターに近い位置。観葉植物の陰から、二つの影が飛び出した。
「あいつらは……」
「プラスルとマイナンだ!」

『Information
 プラスル 応援ポケモン
 火花のポンポンを作って仲間を
 応援するが、応援するよりも、
 される方が好き。マイナンと仲良し。』

『Information
 マイナン 応援ポケモン
 火花のポンポンを作って仲間を
 応援する。プラスルとは仲良しで
 マイナンの方が応援するのが得意。』

 現れたのは、よく似た二体のポケモン。
 容姿、体型はどことなくピチューと似ており、ネズミを思わせる姿をしている。
 しかしピチューのように黒い部分はなく、手足、尻尾、耳の先端が、プラスルは赤、マイナンは青く染まっていた。
 その時、P・ターミナルから音声が響く。
『その子たちが、『私の居間ダイニングエリア』のマスターですよ』
「この二体が?」
「エリアマスターって、一体だけじゃなかったのかよ!」
『私はマスターが一体だけなんて、一言も言ってませんよ? うふふ』
 悪戯っ子のように、わざとっぽく笑うクリ。
『まあ、その子たちは単体だとそれほど強くないので、二匹一組の存在ですよ。二匹揃った時の力は、保証しますけどね』
「そんな保証はいらないんだがな」
 などと言っているうちに、コイルやビリリダマが襲い掛かってくる。一時的に払い除けることはできても、倒しきるのは難しい。
 加えてエリアマスターの存在もある。
 マイナンが電気をスパークさせ、両手に火花のポンポンを作り出す。それをリズムよく振って、踊るようにステップを踏む。
 すると、プラスルの身体が光り輝き、プラスルは星型のエネルギー弾を放った。
「スピードスター……! ブースター!」
 回避不能のスピードスターが、ブースターを襲う。ブースターだけでなく、サンドやエモンガにも飛んで行った。
「スピードスターは広範囲に放つ全体攻撃……威力が分散するとはいえ、手助けとプラスマイナスで強化されちゃ、流石にきついぜ」
 しかも、コイルは衝撃波を放ち、ビリリダマは自爆してくる。
 最初に素早くパラボラを破壊できなかったばかりに、混戦状態に陥り、フィアたちは数で圧倒されつつあった。
「ちぃっ、コイルとビリリダマがウザい……! フィア、一旦ブースターを戻せ! 撤退だ!」
「で、でも……」
「そのガラスはブースターでもすぐには壊せない! 壊せるかもわからないんだぞ! まだ博打を打つ時じゃない! とっとと戻せ!」
 ノニから厳しい言葉が飛んでくる。
 確かにノニの言う通りだ。このまま攻撃し続けても、強化ガラスを破壊できるかはわからない。仮に破壊できたとしても、それはいつになるのか。こちらは数で負けている。破壊する頃には疲弊しきっているだろう。
 フィアは致し方なく、ブースターをボールに戻す。
「一度、撤退するぞ! テイル!」
「おう!」
 テイルもこの状況はよくないと感じていたようで、ノニの指示に素直に応じた。
 扉付近にいたので、すぐさま廊下に出る。素早く扉を閉めたが、扉を突き破って突入してくる様子はない。
「……エリアから出たら、ポケモンは襲ってこないのか……?」
 各エリアがそれぞれのポケモンの持ち場になっているのだろうか。ポケモンは持ち場から離れることはできない。だとすれば、廊下は安全地帯ということになる。
 ただ一つの存在を除けば。
「! 伏せろ!」
 ノニの叫び声が轟くと同時に、フィアは頭を掴まれて伏せさせられる。どこかで見聞きした状況。
 三人が身を屈めた瞬間、頭上でヒュンッという空を切る音が聞こえた。
「ま、またこの展開……」
「今の技は……」
「あいつみたいだな」
 テイルが廊下の先を指差す。そこには、浮遊する物体が一つ。
「どうやら、遊撃手の登場みたいだぜ」
 浮遊しているのは、オレンジ色のボディとプロペラだった。
「扇風機……!?」
「スピンロトムだな」
 扇風機に入り込んだロトム。
 顔がある位置のすぐ頭上にはプロペラが高速回転しており、そこから風がなびくようにプラズマも放出されている。
「距離が遠い。廊下は狭いし、ここから接近して戦うのは愚策だな」
「つまり?」
「逃げろ!」
 満場一致で賛成だった。
 三人は迫り来るスピンロトムに背を向け、走り出す。



あとがき。文字数ギリギリだけど書きたいことたくさんあって困ります。この約5000字の中でも、たくさん小ネタと伏線があるんですけど。なんというか、後の展開を考えて書くことが本当に多くなりました、はい。でも書き切れないので、読者の皆様方に見つけてもらえると、嬉しいです。では次回、ナルカミジム続きです。お楽しみに。

第55話 「台所戦争」 ( No.93 )
日時: 2017/02/09 21:19
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 後方から放たれる空気の刃を躱しながら、三人は適当な扉を開け、中に飛び込んだ。逃げ道のない廊下でエアスラッシュを連発されるのは御免だったので、多少のリスクを負ってでも、縦の空間から逃れる。
 飛び込んだ部屋は明かりがついておらず、窓が小さいので薄暗い。
「この部屋は……?」
「キッチンみたいだ」
 外から漏れる光を頼りに見回すと、大きな調理台にシンク、コンロ。壁にはフライパンやお玉がかかっている。
 明かりがついていないのでわかりづらいが、この調理器具の数々はどう見ても台所、キッチンだ。
 と、その時。暗がりで電光が弾けた。
「! サンド!」
 弾けた電撃を喰らい、ノニのサンドが倒れ込む。
「攻撃されている! 構えろ!」
「う、うん! ブースター!」
 フィアは戻していたブースターを再び出して、臨戦状態へ。
 パチン、と明かりをつけると、敵の正体がはっきりと浮かび上がった。
「またコイルか……!」
 そこにいたのは、リビングでも見た無数の一つ目。コイルだ。
 コイルは電気ショックを放ち、攻撃を仕掛けてくる。
「ポケモンがいるってことは、たぶんここにもパラボラがあるってことだな。破壊するぞ」
 しかし、パッとみた感じ、狭い調理室内にパラボラは見当たらない。どこかに隠されているのだろうか。
 ならば捜索に力を入れたいところだが、コイルたちがそれを許さない。
「次から次へと鬱陶しい! サンド、高速スピンで弾き飛ばせ!」
「ブースター、火炎放射だよ!」
「エモンガ、動きを止めろ! エアスラッシュ!」
 襲い掛かるコイルを相手しながら、パラボラを探す三人。
 コイル自体は強くないが、この状況ではあまり時間をかけたくなかった。
 なぜなら、
「! ロトムが来たぞ!」
 ついさっきまで、自分たちはロトムに追われていた身。
 この場にロトムまでやって来ると、非常に厄介なことになるという未来を想像するのは容易であった。
 ロトムはどこかで扇風機を捨てて来たのか、通常状態でやって来た。
「ノーマルフォルム……なにかに入る気だな」
 バッと視線を彷徨わせるノニ。目についたのは、大きな冷蔵庫。
「フロストロトムはまずいぞ。この狭い空間で吹雪なんて放たれたら、ひとたまりもない」
「なんとしてでも阻止しないとだな。エモンガ、エアスラッシュだ!」
 エモンガは空気の刃を飛ばして、ロトムを攻撃。ロトムはちょこまかと動き回って襲い掛かる刃を躱すが、冷蔵庫付近はフィア、テイル、ノニの三人がついており、近づくことを許さない。
 だが、彼らは存在感を放つ冷蔵庫に注視しすぎていた。
 そのためか。キッチンという場所にあるロトム用の家電が他にあることに、気づけなかった。
 ロトムは進路を変える。
 その先にあるのは、冷蔵庫とは真逆の性質を持つ、冷蔵庫よりも小さな四角い箱。
 電子レンジだった。
「! しまった、あっちにも……!」
「あれはまずいな。エモンガ、エアスラッシュで止めろ!」
 再び空気の刃を飛ばし、怯みの効果を期待してロトムを攻撃するエモンガ。
 エアスラッシュは確かにロトムを切り裂いたが、効果はいまひとつ。怯みも発生せず、ロトムは電子レンジの中に入ってしまった。
「ヒートロトム……まずいな」
 フィアも、先日の停電でヒートロトムは見たことがある。
 あのロトムのオーバーヒートは、ブースターの火力よりもずっと強かった。あの炎が、この狭い部屋で放たれれば、逃げ道がない。
 ヒートロトムの存在に戦慄する三人だったが、それだけではなかった。
 真後ろから、ガタガタ、と音がする。
「? なに?」
「冷蔵庫から音が……」
 と、その時。
 バッと冷蔵庫の扉が開け放たれ、中からポケモンが飛び出した。
 白い小魚のようなポケモンと、茶色くやたら平べったいポケモンたちだ。

『Information
 シビシラス 電気魚ポケモン
 稀にとても素早いシビシラスが
 生まれ、体当たりで数々の相手
 を突き飛ばしたという記録がある。』

『Information
 マッギョ トラップポケモン
 イッシュ地方では、夏の夜になると
 マッギョの群れを観賞する風習が
 あり、コアなファンが多いポケモン。』

「この冷蔵庫、中にポケモンが……!」
「は、早く遠ざけないと……ブースター、火炎放射!」
 急に現れたポケモンたち。前方にロトム、上空にコイル、後方にシビシラスとマッギョという、あらゆる方向から囲まれてしまった。
 フィアは慌てて指示を出し、ブースターの炎で焼き払うが、
「熱……っ! おい、こっちに飛び火したぞ!」
「ご、ごめん! 攻撃するつもりはなくて……」
 あまりに急だったため、近くにいたノニやテイルにも、散った炎が飛び火してしまう。
 そうこうしているうちに、コイルやシビシラス、マッギョらが電気をバチバチを弾けさせながら迫ってくる。
「炎がダメなら……アイアンテール!」
 この狭い部屋で下手に炎を放つと、味方に散って危険だ。
 なので、硬化させた尻尾を振り回して、迫り来るポケモンたちを薙ぎ払おうとするが、
「うぉ!? こっちに鍋飛んできたぞ!?」
「す、すいません!」
 今度は勢い余って周りの棚やぶら下がっている調理器具を吹き飛ばしてしまい、中身が弾け飛ぶ。
 ノニの真横の壁にも包丁が刺さっており、青ざめていた。
「パワーがあるのはいいが、もう少し加減しろ……!」
「ごめん……」
 この狭い空間では、ブースターの攻撃力が強すぎる。
 周りの物を破壊し、行き場を失った力が思わぬ方向へと飛んでいくため、味方にまで被害を及ぼしてしまう。
 ここでは下手にブースターに攻撃させない方がいいとノニに指摘され、フィアがブースターを一度下がらせる。その時。
 電子レンジの影が浮かび上がる。
「っ、来るぞ!」
 パカッ、と電子レンジの中身を曝け出すロトム。
 中に溜め込まれているのは、膨大な熱量の、炎。
 この狭いキッチンでは、そのあまりに巨大すぎる炎から逃れる場所がない。
「フィア! ミズゴロウを出せ! あの炎を少しでも減衰させるぞ!」
「え? あ、うん……ミズゴロウ、お願い!」
「こんなとこでは出したくなかったが、非常事態だ。出て来いロコン!」
 ノニに促されて、フィアはミズゴロウを、ノニは雪のように真っ白な体毛の、狐のようなポケモンを繰り出した。

『Information ver.Alola
 ロコン 狐ポケモン
 雪山の神秘的な力を授かったと
 されているポケモン。大昔は
 ケオケオという名で呼ばれていた。』

「ロコン……だけど、通常の姿と違うな」
「ってことは、あれもリージョンフォーム……ん?」
 なにかが顔に当たった。見上げてみれば、部屋の天井付近まで暗雲が立ち込め、パラパラとなにかが降ってくる。
 この肌を刺すような冷たい感覚と、降ってくる小さな粒。これは間違いなく、
「雪……?」
「いや、霰だ。雪降らしの特性だな」
 雪降らし。ボールから出ると同時に、天候を霰状態にする特性だ。
 氷タイプ以外のポケモンは、寒さと霰によって少しずつ体力を奪われていく特性だが、ノニはこの霰を単なるダメージとして使うつもりはない。
 この霰は傷つけるための刃ではなく、守るための盾だ。
「ロコン、オーロラベール!」
 ノニの指示を受け、ロコンが鳴く。すると、冬のように冷たい空気が、部屋の中にオーロラを作り出した。オーロラはベールのように、優しくフィアたち三人を包み込んだ。
「この技は……?」
「これ以上の解説は後だ! あいつのオーバーヒートを止めろ! オーロラベールだけじゃ話にならん!」
「というあえずお前のやりたいことは理解した。俺も援護するぜ。頼むぞロトム、怪しい風だ!」
 テイルはロトムを繰り出して、黒い瘴気の混じった、その名の通り怪しい風を吹かせる。
 風はオーロラベールと絡み合うように渦状に放たれ、二つの壁の二層構造となった。
 そして、その時。
 遂にロトムが、電子レンジ内に溜め込んだ爆炎をすべて、外へとぶちまける。
「来るぞ! フィア!」
「う、うん! ミズゴロウ、水鉄砲!」
 オーロラベールと怪しい風、二層構造の壁をいとも容易く突き破ってくる爆炎に、さらに水鉄砲をかけるミズゴロウ。
 その水流は、巨大な炎の塊に対しては、あまりに貧弱だった。焼け石に水とはこのことだ。
「ちぃ! ロコン、神通力だ!」
 そこにさらにロコンが神通力を放ち、炎を削ぎ落す。
 しかし、結果的には莫大な炎を消滅させることはできず、残った炎がそのままミズゴロウ、ロコン、ロトムたちに降りかかる。
「ミズゴロウ!」
「流石に相殺は無理だったか……」
「全員、見事に炎を喰らっちまったな」
 オーロラベールと怪しい風による二重の壁、申し訳程度の水鉄砲と神通力で、オーバーヒートの威力はそれなりに抑えられ、誰も戦闘不能になっていない。
 しかし、
「! ノニ君、ロコンが……」
 ノニのロコンだけは、大きなダメージを受けていた。
 全身が煤け、白い体毛が黒く汚れている。息も切らしており、見るからに苦しそうだ。
 最後の神通力。あれでミズゴロウやロトムよりも前に出たこともあり、炎の直撃を受けてしまったのだろう。戦闘不能ギリギリで持ち堪えているだけで、もはやまともに戦えはしない状態だ。
 だがノニは落ち着いていた。
「気にするな。アローラのロコンは氷タイプ、いくら減衰させてもあの威力の炎を喰らって耐えるのは無理だ。最初からわかってる」
 わかっていて、彼は自分たちを守るために、ロコンを差し出したのだ。
 ロコンのオーロラベールがなければ、オーバーヒートによる被害はもっと大きかったが、その代償も決して小さくはない。
 まるで防御に役立たなかったフィアは、どこかいたたまれなく、俯いてしまう。
「…………」
「だから気にするなと言ってるだろ。ロコンはもう戦えないが、悪いことばかりじゃない。今の爆炎のお陰で、周りの雑魚も散った」
 あまりに強力すぎるロトムのオーバーヒート。それは、浮遊しているコイルやシビシラスたちをも巻き込むほどの大きさで、囲んでいたポケモンのほとんどを焼き払ってしまった。
「邪魔な奴らはいない。今のあいつはフリーだ。電子レンジから追い出すぞ! サンド、氷柱針」
「了解だ! エモンガ、エアスラッシュ!」
「う、うん……ミズゴロウ、水鉄砲!」
 サンドが細い氷の針を、エモンガが空気の刃を、ミズゴロウが水流をそれぞれ放ち、ロトムを攻撃。
 ロトムは素早い動きでそれぞれの攻撃を回避していくが、もとよりダメージを与えるための攻撃ではない。
 直線的に放たれる攻撃はロトムの移動ルートを狭める。そして、
「そこだ!」
 ノニの手から鋭く放たれた、一球。
 イヤイヤボールが電子レンジに直撃し、紫煙を噴出した。



ちょっと長くなりそうなナルカミジム。この辺若干ぐだり気味な気もしますが、欲しいところではあるのでちゃんと書きます。ノニ君の手持ちはこれで、サンド、ニャース、ロコンと三体目を公開です。全部アローラの姿ですよ。流石にもう分かったと思いますが、というかちょいちょいそれらしいこと言ってましたが、彼の手持ちはリージョンフォーム統一にしています。ちなみにアローラロコンは好きです。アニメのロコン可愛すぎませんか? SMの旅パにも入れてましたが、もふもふ系のポケモンはやっぱりアニメで動く時に映えますね。あとがきはこの辺にして、次回。キッチンエリアを終わらせて、次に行きたいところですね。お楽しみに。

第56話 「舞台装置」 ( No.94 )
日時: 2017/04/27 22:27
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 もくもくと、ヒートロトムを巻き込んで紫煙が噴き出す。
「やったか!」
 イヤイヤボールの直撃を喰らったロトム。ロトムは慌てて電子レンジから抜け出し、キッチンから飛び出していった。
 ひとまず、大きな難は去った。テイルはロトムをそのまま。フィアとノニは、それぞれタイプで不利なミズゴロウ、満身創痍のロコンをボールに戻す。
 しかし、
「パラボラはどこにあるんだか」
「エリアマスターも姿を現していないようだしな」
 三人が再び視線を彷徨わせ、パラボラを探す。
 と、その時。
 なにかが飛来し、ノニのサンドが押し倒された。直後、床にコロコロと転がる、青い木の実。オレンの実だ。
「フィア! 下手に暴れてものを飛ばすな!」
「ぼ、僕じゃないよ! 今のは……」
 前科があるので強く出れないが、ブースターもそれはわかっている。無闇に攻撃してはいない。
 ではどこから飛んできたのかと、オレンの実が飛んできた方へと視線を向ける。
 すると、部屋の隅の物陰に隠れた、小さな影を見つけた。
「! あいつだ!」
 それは、丸々としたボディで、ネズミのような姿をしたポケモン。ヒゲがアンテナ状に伸びており、前歯がネズミらしさを助長している。
「ポケモン……」
「デデンネだな」

『Information
 デデンネ アンテナポケモン
 尻尾をコンセントに差して、電気
 を吸収する。電気は電波に変換され
 ヒゲのアンテナで仲間と連絡する。』

 デデンネは物陰に隠れ、尻尾をプラグのようにコンセントに差していた。
「充電中、ってことなの……?」
 やがて尻尾を引き抜くと、シンクに上がり、暴れたせいでそのへんに散乱している調理器具を掴み取ると、ハンマー投げのように振り回しながら、こちらに投げつけてきた。
「この攻撃、投げつけるか!」
 投げつけるは、文字通り手にしたものを投げるつける技。技の威力は追加効果は、投げたものに依存する。
 デデンネは狭いキッチンを駆けまわり、手当たり次第にその辺のものを投げつけてくる。
 デデンネだけではない。シビシラスは体当たりで突っ込んできて、マッギョは泥の塊を放って攻撃を仕掛けてきた。
「ロトム、怪しい風だ!」
 投げつけられる物や泥、突っ込んでくるシビシラスを、ロトムは妖気を含む風でまとめて吹き飛ばす。
「サンド、氷柱針!」
 その直後、サンドが鋭い氷の針を連射。吹っ飛んだシビシラスや、床を這っているマッギョに突き刺して、蹴散らした。
 しかし、肝心のデデンネは大きくジャンプして、氷柱針を回避している。
「行ったぞ、フィア!」
「う、うん。ブースター、アイアンテール!」
 デデンネがジャンプした着地点を狙って、ブースターは鋼鉄の尻尾を叩きつける。
 アイアンテールは直撃し、デデンネへの攻撃は成功したものの、その一撃で小柄なデデンネは大きく吹っ飛び、また距離が空いてしまった。
 立ちあがったデデンネはそのままとっとこ、物が散乱したキッチンを駆けまわる。
「やばい、逃げられるぞ!」
 散乱した調理器具やら、倒れた棚やらに身を隠しながら駆けるデデンネ。小さいので、その姿を追うだけでも苦労する。
 ふとデデンネの動きが止まる。見れば、なにかを齧っていた。
「あれって、木の実……?」
「オレンの実だな。回復しやがったか……!」
 歯噛みするノニ。どこで見つけたのか、オレンの実を食べて体力を回復させたようだ。
 しかも、それだけではない。
「!? 木の実が戻ったよ!?」
 瞬きする一瞬のうちに、食べたはずの木の実がデデンネの手元に戻っている。ほんの一瞬なので、どこかで拾ったわけでもない。本当に、元に戻ったのだ。
「今のはリサイクルだな……」
「リサイクル……?」
「自分の持ち物を再生させる技だ。面倒くさいぞ、こいつは」
 木の実を食べて回復し、リサイクルで食べた木の実を取り戻す。
 デデンネ本体への攻撃の当て難さもあり、厄介な相手だ。
 もう一度オレンの実を食べて、デデンネは散らかった器具に隠れながら近づいてくる。
 そして、サンドに接近すると、自分の頬を擦りつけた。その瞬間、バチバチ! と電気が弾ける。
「! サンド!」
「ほっぺすりすり……麻痺させられたな」
 頬を擦りつけられたサンドは、身体が痙攣している。フィアも見たことがある。麻痺状態だ。
 デデンネはサンドから離れると、今度はブースターに飛び掛かり、同じように頬を擦りつけた。
「あぁ、ブースター!」
「ところ構わず麻痺をまき散らしてやがる……!」
 動きを鈍らされたサンドとブースター。高い機動力を生かして、こちらの足を奪ってきた。
 さらにデデンネは、今度はエモンガへと飛び掛かる。当然、電気を帯びた頬をエモンガへと押し付けるが、
「おっと、残念だったな。俺のエモンガの特性は電気エンジンだ。電気技は効かないぜ」
 擦りつけられた電気を受けても、エモンガは平気な顔をしている。完全にノーダメージだ。
 それどころか、デデンネを振り落し、今まで以上のスピードでその周囲を旋回する。
「速い……!」
「電気エンジンの特性は、電気技を受けると、電気を吸収してスピードアップするんだ。エモンガ、捕まえろ!」
 デデンネは、自身以上のスピードで動き回るエモンガについてこれず、背後を取られ、捕えられてしまった。
 そして、エモンガはデデンネを、逃げ場のない空中へと投げ飛ばす。
「フィア! ノニ! 頼む!」
「あぁ。動けよサンド! 氷柱針!」
「ブースター、ニトロチャージだ!」
 宙に放り出されたデデンネに、サンドの氷柱針が突き刺さり、ブースターのニトロチャージが叩き込まれ、吹っ飛ばされて壁に激突する。
 恐らくはこのデデンネがエリアマスターだ。簡単に倒せたとは思わない。まだ耐えている可能性を考慮して、追撃の構えを取るが、それは結果として杞憂だった。
 デデンネは完全に目を回しており、見紛うことなく戦闘不能だ。身体が小さい分、打たれ弱かったのか。
 周りを確認すると、見えるすべてのポケモンが戦闘不能。新しくポケモンが出て来る様子もなかった。庭では無限にポケモンが湧き続けたが、この狭いキッチンでは限度があるのだろうか。いや、単純にポケモンが隠れられる上限が違うだけか。
 すべてのポケモンを倒し、これ以上は邪魔が入らないと見て、三人はそれぞれ、パラボラの探索と、家電の確認に入る。
「パラボラ、見つけたぞ。上の棚の奥に上手く隠しているな。普通に見上げても見つからないわけだ」
 行儀悪くも調理台の上によじ登って、高い位置にある棚の奥を確認するノニ。狭いからこそ、見つかりにくいところに隠されていたようだ。
「サンド、氷柱針だ」
 発見したパラボラは、サンドの氷柱針を突き刺して破壊する。これで二つ目のパラボラを破壊できた。
「冷蔵庫にはなにもないな。ロトムが入れそうな感じもないし、ただの冷蔵庫みたいだな」
「こっちもの電子レンジにはありました」
「なんて書いてあるんだ?」
「えっと……『才』?」
「『オ』じゃないか?」
「わかりにくいですけど、突き出てるから『才』だと思います……でも、まったく意味が分からない……」
 芝刈り機に記された暗号のヒントは『大』だった。
 次は『才』。繋げても意味が通らず、まるで関連性が見出せないが、それでもヒントはヒント。答えに近づいているはずだ。
「これでこのエリアも攻略できたな」
「結構、手痛い被害を受けたけどな……」
 ノニが呻く。このエリアで受けた被害は、決して無視できるものではない。
 ポケモンのダメージは勿論、ブースターとサンドが麻痺状態になってしまった。
 ブースターは根性が常時発動するが、それでも、ジム戦はまだ先が長い。この後ずっと、身体が痺れたまま、動きを制限された状態で進むのは危険だ。
「……だったら、ここにあるもの使おうぜ」
「ここにあるもの?」
「さっきデデンネが、木の実を食べり投げたりしてただろ? そんでもって、ここはキッチンだ」
「……あぁ、そういうことか」
「え? どういうこと?」
 ノニは気づいたようだが、フィアは首を傾げている。
 百聞は一見にしかず。ノニはデデンネが散らかした木の実を拾い上げ、テイルも冷蔵庫の中から同じように木の実を取り出した。
「食材だ。料理を作るための食材がキッチンに用意されている。そういう“セット”だ」
「セット……」
 この場合のセットとは、舞台装置という意味だろう。
 つまり、ここがキッチンであるという“設定”で物が用意されているのであれば、調理するもの、即ち食材があって然るべきである。
 その食材が、彼らの取り出した木の実だ。
「冷蔵庫の中には、あんまりいいのはないな……モモンの実とマゴの実とラムの実と……そっちはどうだ?」
「デデンネが食い散らかしたオレンの実と、クラボの実がある」
「お、いいな。体力回復と、痺れは治せるぜ」
 クラボの実には、麻痺状態を治す効果がある。ラムの実はどんな状態異常も治せる万能な木の実だ。
 ブースターとサンドはそれぞれの木の実を食して、痺れを治す。
「他の使えそうな木の実も一応、持てるだけ持って行くか」
「家の中にあるものを使っていい、っていうのは、こういうことでもあったんだな」
「そうなると、常備薬……キズぐすりみたいなのもありそうだな」
 適当に有用そうな木の実を鞄に詰めていくノニ。彼の考えが正しければ、こちらとしてはありがたい。
 残るパラボラは五つ、暗号のヒントは三つ。
 まだまだジム戦は始まったばかり。先は長い。
 制限時間もあるので、早く次のエリアに行くべく、キッチンを出ようとするフィアとテイル。
 しかし彼らの首根っこを掴んで、ノニが引きとめた。
「なにすんだよ」
「動く前に、少し聞け」
 有無を言わさぬ鋭い眼差しで、睨むように見つめるノニ。
 彼は二人に順番に目を合わせると、おもむろに口を開く。

「ここからは、分かれるぞ」



お久し振りです、白黒です。ご無沙汰になって申し訳ない。今回はキッチンのエリアマスター、デデンネ登場回です。デデンネというと、XYの時のインターネット大会『フェアリーガーデン』でボコボコにされた記憶が蘇って笑顔になれないのですが、ネタ的存在としては愛されていますよね。まあ、デデカスとか呼ばれてますけど。次回こそは次のエリアに行きます。次回更新がいつになるかは分かりませんけど……お楽しみに。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19



この掲示板は過去ログ化されています。