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ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
日時: 2015/07/18 08:39
名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)

 はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。

 今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
 この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。

 主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
 吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
 まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。

 各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪

 ではでは、次のレスから始めていきますよー!

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Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎 ( No.90 )
日時: 2015/08/11 09:39
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



 2


「おっはよー!」
 元気な声とともに真冬が教室の扉を開け、中に入って行く。夏樹もその後に続いて中へと入って行った。
 すると、教室の窓際で話していた三人組が二人がやって来たことに気が付き明るい笑顔を浮かべ、黒髪のショートカットに、右側の髪の一部を見つかって三つ編みにした少女が真っ先に手を挙げて声を出した。
「おっすー! 今日も仲良く登校だねぇ。妬けるねえ」
 真冬の親しい友人の一人、金城真咲がニヤニヤとからかうような笑みを浮かべながら言う。言われた真冬は顔を赤くして、真咲に駆け足で詰め寄った。
「ち、違うよ! そんなんじゃないもん!」
「真冬ちゃん照れてる。可愛い〜」
 露骨な照れ方をする真冬の赤い頬を、深緑のロングヘア美少女である永原結花がつんつんと面白そうにつつく。
「……か、可愛くないもん……」
 顔を真っ赤にして、目を逸らしながら弱々しい声で言い返す真冬に、真咲と結花はさらに萌えを感じたのか、
「可愛い〜!」
 揃えて声を出し、自分よりも小柄な少女に左右から抱きついた。二人にもみくちゃにされる真冬に、同情の眼差しを向ける夏樹に、
「……おはようっす」
 控えめな声で妙な挨拶をする聞き覚えのある少女の声。
 声の方向に視線を向けると、茶髪でホブカットの少女が低く手を挙げて夏樹をじっと見つめている。
「おう戸崎。おはよう」
 真冬と同じくらい小柄な少女の戸崎比奈が小さく頭を下げた。
 最近割と話すようになったためか、夏樹が比奈と付き合えば真冬と親しくなれる、と考える男子が増えたらしい。薫の話だからあんまり信じていなかった夏樹だが、言われてみれば比奈と話した途端にちらちらと男子がこちらの様子を窺っている気がしないでもない。
 別に付き合わなくても親しくなれるだろうが、やはり男子と常にいる女子に話をかけるのは少し勇気がいるようだ。それに夏樹と真冬が付き合っている、などという噂も流れているらしい。
 さすがにそんな噂が流れているのなら声はかけづらい。だがその噂はデマだ、といっても声をかける男子は増えないだろう。
「ねえ、桐澤くん。質問いい?」
 遠慮がちに聞いてくる比奈に、夏樹は朗らかな笑みを浮かべる。
「ああ。どうかしたのか?」
「……その、桐澤くん、私の小説、面白いって言ってくれたよね?」
「……あ、ああ」
 いきなりそんなことを聞いてどうするのか、夏樹には疑問だった。もしかしたら最近感想やアドバイスをあまり言ってないことに不安を感じたのだろうか、と考えていると、比奈は自分の席に戻り鞄の中から何かを取り出すと夏樹のもとに帰ってくる。
「……その、これ……知ってるかもしれないけど、知らなかったらオススメしたいなーって……」
 比奈が差し出して来たのは一冊のライトノベルだった。表紙はとても綺麗な絵で、描かれている女性キャラも可愛らしい。
「この作品もファンタジーで……ちょっとアクションも入るから、私のとは路線異なるんだけど、もしかしたら好きかなって……」
 夏樹が差し出されたライトノベルをゆっくり手に取ると、
「……これ、昨日発売された新刊だよな……?」
「え、あ……うん」
 確認が終わると夏樹の表情が一気に明るくなる。
「マジか! 欲しかったんだよ、これ! 今まで全巻持ってるから買いたかったんだけど金なくて……」
 テンションが高くなる夏樹に、比奈は幸せそうな表情をこっそり浮かべると、
「……良かったら、貸すよ……? 私はもう読み終わったから」
「もう読み終わったのかよ!? いいのか、借りても」
「うん。もう手が表紙めくろうとしてるし」
 思わず、といった調子で手が動いた夏樹に、小さく笑って指摘する比奈。夏樹も恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。
「ありがとう。なるべく早く返すから」
「あ、気にしないで。ゆっくりでいいから」
 真咲や結花と話す時とは違い、可愛らしく普通の女の子として話す比奈を、ニヤニヤしながら見つめる真冬を含めた『キューティーズ』。しかし真冬だけは、まるで覗いてるような二人のやり方に少し呆れている。
 比奈と楽しく話している夏樹はふと気付いた。
 いつも誰よりも親しそうに、悪くいえば馴れ馴れしく声をかけてくる騒がしい存在がいないことを。
 夏樹の視線は、自然にその人物の席へと向けられ、まだ来ていないことを確認すると、
「……なあ、戸崎」
「どうかした?」
 夏樹が少し動揺していることに気が付いた比奈が、小首を傾げて問いかける。
「……アイツ……薫のやつ、まだ来てないのか……?」
「……奏崎さん……?」
 比奈も気付いたようで、いつもならもう来ている時間帯になっても来ていない彼女を思い出し、
「……まだ、見てない……よ……?」

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎 ( No.91 )
日時: 2015/08/23 23:47
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



 3


「はあ? 風邪引いただあ?」
 一時間目の授業が終了し、夏樹は薫に電話を掛けていた。
 朝のホームルームが始まっても、授業が始まっても来ないので、心配で一時間目の授業内容は正直頭の中に入っていない。
 担任の教師の中原も何も聞かされていないらしく、授業が終わったら電話しようと思っていたのだ。
 今まで小学校や中学校でも休んだことはないらしく、学校中でインフルエンザが流行る中、薫だけはインフルエンザにならなかったし、夏樹が罹った際にはノーマスクで様子を見に来るなど、風邪やウイルスにはめっぽう強いはずだった。
 そんな薫が風邪を引いたことが、夏樹にとっては意外だった。
 そういえば、この前の漢字の小テストだって、薫の点数が思ったより低かった。
 彼女は大抵勉強しなくとも、割といい点数を取るという羨ましい頭の持ち主だ。しかも漢字となると、普段からゲーム漬けである薫は漢字には詳しいはずなのだ。
 そんな薫が、半分程度しか点数が取れていないことに、夏樹は首を傾げていた。
 最近彼女の調子が悪い気がする。
「……お前、大丈夫なのか?」
 思わず真剣なトーンで聞いてしまう。
 しかし、当の薫はそんな様子に気付く素振りもなく、
『うぃー、平気平気ー。明日にはよくなってると思うからさ』
 電話越しでも彼女の体調の悪さがよく分かる。
 声も普段みたいに出てないし、弾むような口調も今は感じられない。
「……学校終わったら様子見に行くから、大人しくしてろよ」
『ホントに? じゃあついでにゼリーかプリンを所望するー』
「調子乗んな。お前が何を欲しがるかは分かってるから、黙ってろ」
『えへへ、ありがと』
 夏樹は薫との電話を切る。
 すると、真冬が心配そうな表情で尋ねてくる。
「……薫ちゃん、大丈夫?」
「声は元気なかったけど、多分アイツなら大丈夫だ。放課後アイツの家に行くけど……赤宮も来るか?」
 尋ねられて真冬はどうするか考える。
 真冬と薫はある約束を交わしている。
 それは、真冬が夏樹を好きになった場合、薫は二人が結ばれるように協力する、ということだ。
 真冬が一緒に行ったら、きっと夏樹と二人きりにしようと、薫に変な気を遣わせてしまうかもしれない。風邪を引いている薫にそんなことをさせるのは心が痛む。
 薫の体調は気になるが、ここは夏樹一人に行かせた方がよさそうだ。
「ううん。わたしはいいよ。夏樹くん一人で行ってあげて」
「……そうか? じゃあそうするよ。ちゃんと赤宮も心配してたって伝えとく。アイツ喜びそうだし」
 お願いね、と言って真冬は小さく笑う。
 すると一緒に薫の様子を心配していた真咲が頭の裏で指を組みながら、
「あーあー、あたしもお見舞い行きたかったなぁー!」
 残念そうに言う真咲に、夏樹は不思議そうな顔をして、
「あれ? 薫と金城って仲良かったっけ?」
「いや? あんま話したことないよ? でも、いつも学校に来てる人がお休みとか、やっぱり心配じゃん?」
 たしかにそうかもしれない。
 それに、真咲たち三人は真冬の友人だ。もしかしたら薫とも打ち解けるかもしれないし、薫の友達も増えることになる。もしかしたら、真咲は薫と友達になろうとしていたのかもしれない。
「じゃあ別に来てもいいんだぞ?」
「いやー、実はあたし今日バイトあるんだよねー」
 真咲はばつが悪そうな表情でそう言う。
 そういえば彼女は姉がいる喫茶店でバイトしているのを思い出した。創立記念日に真冬と一緒に行って、偶然出会ったことを憶えている。
「今日ボブ子と一緒に遊びに行くんだけど、真冬ちゃんも来る?」
 結花がそう尋ねる。
 てっきり夏樹と一緒に見舞いに行くものだと思っていたのだが、予定が空いたのなら、と思い結花は声を掛けた。傍ではボブ子が親指を立てている。
「わたしも行っていいの?」
「もっちろん! サービスするよぉ?」
「行く行く! 行きます!」
 今サービスの言葉に釣られたな、と夏樹が溜息をつくと、それに気付いた真冬が恥ずかしそうに、顔を赤くして頬を膨らませた。その仕草も可愛らしくて、朝に真冬についてどう思っているんだろう、という疑問を抱いた思い出し、目を逸らしてしまう。
「じゃあ決定だね」
「びっくりするよぉー? 真冬っち意外と食べるから!」
「ふゆたんの細くて小さい身体のどこに入ってるの……?」
 真咲の言葉に戦慄するボブ子。三人の会話の輪の中に真冬も入っていったため、彼女が夏樹の様子に気付くことはなかったが、いちいち気にするということは、割と気があるんじゃないだろうか、と柄にもなく考えてしまっていた。
 ほどなく二時間目を告げるチャイムが鳴り、もやもやした気分を抱えながら受けた授業は、一時間目と同様にほとんど頭の中に入ってこなかった。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎 ( No.92 )
日時: 2015/09/04 23:40
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



 4


 授業が終わり、夏樹が休んでいる薫に電話をかけた頃、別のクラスでは白波涙が疲れ切った様子で机に突っ伏していた。
 ふぇー、と中々聞かないような溜息がもれている。そんな彼女の周囲に三人の女子が集まってきた。
 真ん中の一人を取り巻くように二人がついており、真ん中の金髪の女子は腕を組み不機嫌そうな顔で涙を見下ろしていた。
 友達ではないのは明白だ。周りの生徒も、楽しげに話していたが、急に声が小さくなり、ヒソヒソと内緒話をするトーンにまで落とす生徒までいる。
 三人の接近に気付かないのか、あるいは気付かないフリをしているのか、一向に顔を上げようとしない涙に、焦れたように金髪の女子が涙に声をかけた。
「……白波。ちょっと話あるんだけど」
「なんだい母さん。今日は学校休みだから、あと五分は寝かせてよ」
「ふざけんなっての」
 顔を上げるどころか、まともに相手にもしようとしない涙に、金髪の女子は眉間にシワを寄せ、涙の制服の襟を掴んで強引に顔を上げさせる。
 涙の顔は明らかに不機嫌だ。
「……何? 寝不足なんだけど」
「話あるっつってんだろ。ちょっと来いよ」
 そう言いながら襟を引いて、どこかへ連れて行こうとするが、涙はその前に相手の手を襟から引き剥がした。
「離せよ。服伸びるだろうが」
 普段とは明らかに違う、冷たさと怒気を滲ませた口調で相手に言葉を返す涙。
 彼女はそのまま三人の後をついていく。
 その様子を静かに見ていた昴は、一緒に話していた友達に心配そうな声をかけられる。
「おい、昴。白波さんまた連れていかれたぞ? 大丈夫かよ?」
 彼は小学校からの付き合いで、涙とも割りと親しい。
「まあ平気だろ。今回も」
 二人してこれが初めてだ、という様子を見せずに、涙が連れていかれた方向を見ている。

 校舎裏、というベタな場所に連れていかれた涙は壁際に追い込まれた。
 金髪の女子が涙の背後にある壁に手をついた。男女でやればドキドキするシチュエーションだが、女子同士でしかも二人とも睨み合っているのでそんなピンク色の空気は似つかわしくない。
 壁際に追い込まれた涙は、逃げられる三方向を三人に塞がれながらも、腕を組んだまま、相手を睨み返している。
「アンタさ、最近調子に乗ってない?」
 金髪の女子に言われた涙は鼻で笑って、
「またそれ? 何度も言うけどさ、あたしのせいじゃないし。そっちが勝手に誤解して、絶望しただけでしょ? あたしから言わせれば、そんなんで諦められるなら、最初から好きになるなよ」
 話は涙が昴と出会った頃に遡る。
 涙の転校初日、昴とは仲は良くなかった。というよりただのクラスメイトで話すこともなかった。
 しかし、偶然悪魔と出会い、人気のない場所を探し回っているところに、昴と鉢合わせてしまい、流れから契約し、その翌日から大分親しくなった。
 それを知った、昴に中学から好意を寄せていた別クラスの女子、金髪の女子の友人なのだが、彼女が涙に(やや喧嘩越しに)付き合っているのかどうか聞いたところ、相手の態度に苛立った涙が『なに、アンタ昴好きなの? ならゴメンね。もうキスまでしちゃって』と返したところ、その女子がショックを受け、不登校になったらしい。
 挑発するように言った涙に非はないわけではないが、それを逆恨みするのも角違いだろう。
 ましてその本人に、ではなく、その友達にとなれば尚更だ。
 だからこそ涙は、こんな態度を取り続けているのだ。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎 ( No.93 )
日時: 2015/09/04 23:44
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



「大体さあ、先に喧嘩売ってきたのはアンタのお友達の方よ? それを丁寧に買ってあげただけ。何か問題でも?」
 澄んだ青空のような瞳で睨みつける。
 しかしそんなことで相手が怯むこともなく、壁についていた手で、涙の髪を強引に掴み顔を引き寄せるために髪を引っ張る。
 突然の痛みに涙は顔をしかめ、至近距離で睨んでくる相手をさらに睨み返す。
「アンタのその、自分は悪くありませんよ、みたいな態度が腹立つんだよ!」
「ああ!? だからってお前らが首突っ込むことじゃねえだろ! いいから離せよ、このクソビッチが!!」
 涙が相手の手を強引に引き剥がす。
 そのせいで髪が数本抜けてしまい、相手の手に自身の髪が残っているのを見てしまう。
 さらに左右の二人はそれを見て笑っているし、真ん中の金髪の女子も薄ら笑いを浮かべている。
 さすがに限界だった。
 今までこちらは喧嘩越しではあるが、絶対に手は出さないようにしていた。
 向こうは容赦なく胸ぐらを掴んだり、そのまま壁に背中を叩きつけたりと手を出していたが、涙の中ではそれはまだギリギリ許容できる範囲だった。
 しかし、今回だけは——髪に手を出してきたことが涙の逆鱗に触れた。
 彼女の銀髪は、大好きだった母親の髪色と同じで、とても大切にしており、手入れもまいにちかかさずしている。
 それを傷つけられたため、涙の怒りの沸点を優に超えた。
「……お前らさ、していいことと悪いことがあるだろ」
「あ? 何て? もっとデカイ声で喋れよ」
 俯きながら、呟くように言った涙の言葉は相手には届かなかった。
 しかし、相手の言葉に反応せずに涙は声の大きさを変えずに続ける。
「いいんだな。お前らがそうするってことは、こっちも容赦なくやっていいんだな」
「だから聞こえないって言って——」
 金髪の女子が再び手を伸ばしたその時、涙は相手の腕の手首を掴み、そのまま腕を引いて、自分が背を預けていた壁に相手を叩きつける。
 涙の逆襲はそれだけに留まらない。
 今度は相手の金髪を力任せに引っ張るだけでなく、相手の身体がこちら側に寄らないように、腹に足で押さえつける。
 身体が前に動かせないので、金髪の女子は涙に頭を下げているような状態になっている。
「な、何すんだよ! 痛えだろ!」
 堪らず叫ぶ相手に、涙はいつもとは違う様子で怒鳴る。
「お前が先に手上げてきたんだろ! 今回もこの前もそのまた前も! 今更やり返された程度でごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ! ああ? 腹蹴られても、おあいこだよなぁ!?」
 そのまま、蹴りにくいと判断したのか髪を掴んでいた手を引っ張りようにして離した。自分の時と同じように相手の髪が抜ける。
 頭を押さえている相手の腹を涙は踏みつけるように蹴る。一回や二回じゃ終わらない。今までやられた分を返すように何回も蹴りつける。
 十回前後で相手が腹を押さえて、泣きながら座り込んでしまったため、涙も興が覚めたようにその場から去っていく。
 これだけすれば相手ももう突っかかってこないだろう、と。理由はそれだけじゃないが、だからこそ必要以上に痛めつけた。
 相手から見えない位置まで行くと、涙は壁にもたれ掛かり、背中を引きずるように腰を下ろした。
 大きなため息をつき、
「……何してんだろな、あたし……」
 自虐的に笑い、両手を顔で覆う。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎 ( No.94 )
日時: 2015/09/05 01:54
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



 チャイムの音が聞こえる。
 その音で涙は目を覚ました。
 今彼女がいるのは学校の屋上だ。一時間目が終わった後の休み時間、涙は教室に戻らず屋上にいた。戻る気になれなかったので、適当な時間になるまで屋上でやり過ごそうと思っていたら、うたた寝してしまったらしい。
 さっき聞こえたチャイムが、何度目のチャイムかは分からない。体感的には数十分程度眠っていた気がするが、実際はもっと時間が経っていてもおかしくはない。
 時間を確認しようとスカートのポケットに手を突っ込み、携帯電話を取り出そうとするが、左右のポケットの中を探ってもない。どうやら鞄の中に置きっぱなしのようだ。
 そう気付いたのと同じくして、お腹から空腹を告げる音が鳴る。財布も鞄の中だ。今から教室に戻るのも面倒だし、誰かを呼ぼうにも携帯電話もない。途方に暮れ、溜息をつくと急に屋上の扉が開けられた。
 教師でも来たのか、と思ってそちらに視線を向けると、やって来たのは教師ではなく弁当箱を二つ持った昴だった。
「……すば、る……?」
 突然やって来た相手に、目を丸くして驚く涙。
 彼が持っているのは青色の布で包まれた弁当箱と、赤色の布で包まれた弁当箱。
 涙もよく知っている。涙が昴の家に住むようになってから、昴の母親は二人分の弁当を用意してくれているのだ。青いのが昴用で、赤いのが涙用の二つを。
 昴は腹を空かせているだろう涙のために、彼女の分の弁当も持ってここまで来てくれたというのだ。
「授業サボるなよ。せめて席くらいには座っとけ」
 そう言いながら赤い布の方の弁当箱を差し出してくる。
「……ありがと」
 短く礼を言ってから受け取る涙。
 昴は涙の隣に腰を下ろすと、自分の弁当箱を広げる。綺麗に盛りつけられた弁当だ。彼はまず好物である唐揚げから食べる。
「……わざわざ来てくれたんだ」
 いつもならすぐに弁当箱を開けて食べる涙だが、今回はそうはせず、なんだか少しだけ昴と話したかったので、彼に視線は向けずにそう問いかける。
「どうせ腹空かしてると思ってな。それとこれも」
 次に昴が差し出してきたのは涙の携帯電話だった。
「せめてサボるなら携帯電話くらい持って行け。電話かけたらお前の鞄から音が鳴ってびっくりしたじゃねぇか」
 電話をかけるほどにまで、昴は心配してくれていたらしい。
 どうせ今回も、クラスの女子に連れて行かれてもけろっとした状態で戻ってくるに違いないと思っていただけに、涙が戻って来ないことが彼の心を揺さぶったのだろう。表情には出していないが、少しだけ言葉は怒っていた。
 涙は携帯電話を受け取ると、それを大事そうに胸元に抱く。
「……ごめん」
「まったく、しかし休み明けで友達から日直だって連絡が来る涙さんが屋上でサボりとはな」
「うぐっ」
 涙の表情が引きつる。
 まるで聞かれたくなかったことを聞かれてしまったような反応だ。
 昴がさっき言ったことは、涙が朝真冬に言った言葉である。自分たち以外の交遊関係を聞かれたので、真冬たち以外の友達がいない、という事実を言うのが恥ずかしくなり、咄嗟に嘘をついてしまったのだ。
「素直に言えばいいじゃねぇか」
「嫌よ。友達がいないぼっちだと思われたくないもの!」
「別に赤宮はそんなこと思わないだろ」
「それでも嫌なの! 一瞬でも『友達がいない』って思われるのが!」
 涙はプライドが高い。
 それだけに口が裂けても「友達がいない」などと言えなかったのだ。
「しかし神田が戻って来た時、教室が騒然としてたぞ。お前何したんだよ」
 神田というのは、涙を連れて行った金髪の女子だ。クラスメートからも怖がられており、あまりいい評判を聞かない。実際昴だって彼女には苦手意識がある。
「……別に。アイツが売ってきた喧嘩を買っただけよ」
 ぷいっと顔を背ける涙。
 昴はそんな涙の頭をさっと軽く撫でると、
「髪、乱れてるな。お前が何をしたか、そしてそれをした理由も分かった」
 昴は涙が自分の髪を気に入っているのを知っている。
 亡くなった大好きな母親の形見だと思っている髪を、相手に雑に扱われたことが涙の触れてはいけない逆鱗に触れたのだ。
 涙は頬を真っ赤にしながら「撫でるな」と昴を睨む。
 弁当箱を横に置いた昴は、涙の真っ赤な顔が見れないように彼女を優しく抱きしめる。
 抱きしめられた涙は大きく目を見開くが、抵抗は一切しなかった。それどころか心地よさそうに目を細め、昴の背中に腕を回し手を背中に添える。
「……何してんのよ。誰か来たら、どうするつもり?」
「さあな。適当なこと言って誤魔化すさ」
「……アンタねぇ……!」
 何か言おうとしたが、涙の口からは言葉が紡がれなかった。
 昴の雑な性格は言っても治らない。短い間だが、ずっと一緒にいるため、そういう細かいところまで分かってしまっているからだ。
「お前はそのままでいいよ」
 ふと昴が囁くようにそう言った。
「友達がいなくても、お前はそのままでいい。強がることないだろ。俺は、ありのままのお前が結構好きだ」
 昴の言葉に、涙から思わず笑みがこぼれる。
「……何それ、告白? 口説いてるつもり?」
 いつの間にか、涙の頭を撫でている昴はつまらさそうに、
「これで口説けるほど安い女じゃないだろお前は。それとも落ちたか?」
「ばーか。んなワケないでしょ」
 涙は昴の身体を軽く押して、彼の抱擁から逃れると、彼の肩に両手を載せて昴の頬に口付けをする。
「でも、ちょっと元気出た。これはそのお礼。あたしみたいな美少女からのキスなんだから、もうちょっと嬉しそうにしなさいよ」
 きょとんとしている昴に涙がそう言うと、昴は思わずと言った調子で笑みを浮かべた。
「お前と契約した身としては、今更頬にキスされた程度じゃどうとも思わねぇよ」
「うっさい。また口にしてほしけりゃ、あたしをホントに惚れさせてみなさい」
 友達以上恋人未満の二人は、昼休みが終わるまで笑いの絶えない会話を屋上で続けた。


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