コメディ・ライト小説(新)

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それでも彼らは「愛」を知る。
日時: 2022/07/04 01:42
名前: 猫まんまステーキ (ID: j/F88EhV)

こんにちは。猫まんまステーキです。

昔、主に社会系小説の方で「おかゆ」という名前でほそぼそと活動してました。

見たことあるなって方も初めましてな方もどうぞ楽しんでくれたら嬉しいなーと思っております。

それではごゆっくりどうぞ。


分かり合えないながらも、歩み寄ろうとする「愛」の物語です。


 登場人物 >>1
 Episode1『勇者と魔物とそれから、』 >>2 >>4 >>5 >>7
 Episode2『勇者と弟』 >>9
 Episode3『勇者と侍女とあの花と、』 >>11 >>12
 Episode4『絆されて、解されて』 >>13 >>14
 Episode5『忘れられた神』 >>15 >>16
 Episode6『かつての泣き虫だった君へ』◇ルカside◇  >>19 >>20 >>21
 Episode7『その病、予測不能につき』 >>22 >>23 >>24
 Episode8『臆病者の防衛線』◇ミラside◇ >>25 >>26 >>27
 Episode9『その感情に名前をつけるなら』◇宮司side◇ >>28 >>29 >>32 >>33
 Episode10『雇われ勇者の一日(前編)』◇宮司side◇ >>39 >>41 >>42 >>44
 Episode11『雇われ勇者の一日(後編)』 >>47
 Episode12『いちばんきれいなひと』 >>48
 Episode13『ギフトの日』 >>49 >>52
 Episode14『とある男と友のうた』 >>53 >>54 >>55 >>56
 Episode15『本音と建前と照れ隠しと』 >>57
 Episode16『彼らなりのコミュニケーション』 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63
 Episode17『勝負の行方と宵の秘め事』 >>64 >>65 >>66
 Episode18『物体クッキー』 >>67
 Episode19『星降る夜に』 >>69
 Episode20『焦がれて、溺れて、すくわれて、』>>70 >>71
 Episode21『そしてその恋心は届かない』>>72
 Episode22『私たちの世界を変えたのは』>>73
 Episode23『  再会  』>>75 >>76
 Episode24『すべて気づいたその先に』>>77
 Episode25『空と灰と、』>>78 >>81

 <新キャラ紹介>>>87

 Episode26『パーティ』>>88
 Episode27『勇者、シュナ』>>91 >>92
 Episode28『まっすぐで、不器用で、全力な 愛すべき馬鹿』 >>94 >>95 >>96
 Episode29『あなたを救うエンディングを』 >>97

 ◇◇おしらせ◇ >>74

 ◆2021年夏 小説大会 金賞受賞しました。ありがとうございます!>>84 ◆
 ◇2021年冬 小説大会 銀賞受賞しました。ありがとうございます!>>93 ◇

 ◆番外編◆
 -ある日の勇者と宮司- 『ケーキ×ケーキ』 >>34
 -ある夜のルカとミラ- 『真夜中最前線』 >>58

 ◇コメントありがとうございます。執筆の励みになります♪◇
 友桃さん 雪林檎さん りゅさん

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それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.95 )
日時: 2022/04/15 20:40
名前: 猫まんまステーキ (ID: j/F88EhV)





 「時間稼ぎとは何だったんですか!?」 
 「何も『城が全く壊れない』とは言ってない。あくまでもまじない程度の加護だあまり期待するな。それに本来ならあの攻撃を受けてこれだけしか壊れていないというだけありがたいと思え」
 「物は言いようだな……」
 「予想以上に厄介だがまぁ――



 あちらさまには少々“城内を見て回って”頂こうではないか」


 含みを込めたような物言いに少しは信用してもいいかと安堵する。相変わらず抽象的な言い方をするものだ。
 外を見るともう人間たちは城の中に入っていったようで一人勇者がそこに取り残されていた。

 「いつまでも愛しき勇者を見ていたところで状況は変わらんぞ?」
 こんな時でも減らず口をたたく穂積にイラつきを覚えながら振り返るとたしかに兄貴たちはいなかった。

 「……いつまでもうるさいな」
 「このような状況になっても勇者の心配をするのは同じだ」
 「……」
 「そうしてこのままじっとしてるのか?」
 「まさか」
 ゆっくりと息を吸ってはいて。最後にもう一度勇者の姿を見た。




 「あの人があそこまでしていたのに俺が何もしないなんて選択肢はありませんよ」


 ◇◇◇


 「――こねぇな。誰も。何も」

 数分前に爆発のような音がしてからどれくらい時間が経ったか。あちら側が素直に門からきてくれるとは思ってはいないが…こうしている間に少しは防御を固められそうだ。
 あの音があってから確かにあの人間たちが入ってきたような気配は感じたがそれだけだ。誰かが、千代が、戦っていたりやられたりといったこともなさそうだ。

 「……少し調子狂うな」
 きっとそれもこれも穂積が先ほどした『まじない』が効いているのだろう。



 「――このまま諦めて帰ってくんねぇかな」
 誰に対して話したわけではなく漏れた言葉はそのまま誰にも聞かれずに終わっていく。
 このまま諦めて、なかったことにして、すべてが終わったら、誰も傷つかなくて済むのにな。
 「(まぁそんな簡単にはいかねぇか)」



 「―――げ、」


 ここの奴らの声ではないものに違和感を感じ振り返る。
 「お。お前はさっき勇者のパーティーにいた眼鏡の奴だな」
 「なんだよやっぱり見ていたのか……というかあんたもしかして……、あーいつもこういう“はずれくじ”ばかり引く」
 眼鏡が深くため息をついた。

 「……あんた、おそらくこの城の中で一番強いですよね‥多分リリィが言ってた魔王とかなんとか」
 「んーまぁそうだな。世間一般でいうこの世界で魔王というのをやっている者だ!」
 あれ?こんなような会話前もどこかでしたような気がすると思い出して思わず笑いそうになる。

 「はぁやっぱり……こういうのは普通ラオみたいな筋肉馬鹿が相手でしょう……」 
 眼鏡がブツブツと何かを言いながらまたため息をつく。どことなく宮司に似てるなこいつ。

 「なぁ眼鏡。お前はやっぱり俺たちを倒しに来たのか?」
 「……ええ、まぁ。あと眼鏡じゃなくてノアです」
 「ノア――ノアか。俺は龍司だ。ノアは何を使うんだ?あいつは‥勇者は剣を使うことが多かったな」
 「弓です。なのでパーティー内では中距離や遠距離から皆をサポートするのが主だったので今回のような作戦は不向きだと自分でも思っています」
 「ハハ、それを俺にいうのか」
 「まぁ、そうですよね。でも事実なので」
 
 そういいながらも戦闘態勢に入ろうとしているノアを見ながら少しだけ防御を施す。
 

 「ですが最近はこのような事態になった時のために近距離戦の練習もしていたんですよ。不本意ですがそれをここで試せそうで良い」
 手に持つのは矢を少し短くしたようなものだった。

 「……お前、面白そうなもの持つんだな」
 「お気に召したようで何より」
 
 そして光が出るのと攻撃が出されたのはほぼ同時だった。
 
 「……少しは話が通じる奴だと思ったんだが」
 「ええ、話しますよ。あなたの身動きを封じてから」
 「人間は臆病なくせに野蛮なやつらばかりだ」
 「‥臆病で結構。そうやって自分の身を守ってきたんですから」
 「……そうかよ」
 

 ふと、勇者の顔が頭をよぎった。
 今この状況をみたら、あいつはどんな顔をするのか。


 「―――なあ、アンタは賢い奴だと、俺は思うんだが」


 そんなの


 「それを見込んで、話をしたいんだ」



 誰も望んじゃいねーと思うんだ。


それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.96 )
日時: 2022/06/12 01:44
名前: 猫まんまステーキ (ID: j/F88EhV)




 「――驚いた。あなたみたいな奴はてっきり筋力馬鹿で話の通じないタイプだと思っていたのに」
 「おい」
 「……ですがそれを俺が聞いてどのようなメリットが?」
 
 眼鏡――ノアの目がふっと陰る。こういう損得で考える姿がいつかのどこかの誰かと重なって少し笑ってしまった。

 「何がおかしい?」
 「いんや?どこかの愚弟にそっくりだと思っただけだ」

 まだ勇者に出会う前の、人間を蔑み、嫌い、憎んでいたあの頃の弟に。


 「……やっぱりあいつはすげぇな」

 ぽつりとつい口からこぼれた言葉は紛れもなく本心で。



 「……だからやっぱり、あいつが……俺たちには勇者がいないとダメなんだ」


 どうか、この日常を取り戻したいと、必死にもがく姿を見て、どうか笑ってくれ。勇者。





     ◇◇◇


 一人の少女は奔走する。




 (誰か……っ、話が分かる奴‥ノア……)



 何が正解だったかわからないまま。


 (宮司……!)


 それでも彼女は。

 

 「……え?」

 そしてまた、ある違和感に気づいて立ち止まる。


 「…………ああ、」


 気づいてそして、その場に座り込んでしまう。


 「……誰か、」


 皆を救いたいと、そう願う勇者の涙は誰にも気づかれないまま。




  ◇◇◇



 「ミラ、ミラ。どうしよう」
 「……」


 門を守り、龍司様達からの指示を待つ。
 だけどそれだけではどうやらだめだったようで。

 不安げに見つめるルカの手を握った私の手は震えていた。


 「なんだ?こいつらが魔王の手下?」
 「随分若いように見えるが‥」
 「そうはいっても相手は魔物だ。油断ならんぞ」


 何人もの人間たちがこちらに武器を構えていた。

 「今が絶好のチャンスだ」
 「俺たちもあの者たちに続け!!」
 「人数ではこっちが勝ってんだ!押し通すぞ!」


 次々に向けられる敵意にただ立ち尽くすしかなく


 「……」


 それでもとかすかな望みをかけて力を籠める。


 「…………―――やめて 」




   お願い。

 


 「……ミラ?」
 「…………もう帰っ、て 」




 お願い。




 「ひぃっ………!」
 「なんだあの黒い影は……!」
 


 「バッ……バケモノ!!!」




 「………――」




 お願いします。これ以上私達にかまわないで。



 「ミラ―――ッ!」
 「っ!?」


 ルカに言われて気づく。私の回りからでたたくさんのどす黒い影を。


 「バケモノ!!!!!!」




 そして気づく。『バケモノ』と言われている『矛先』を。


 「‥ちが、」
 「ひるむな!!今こそ忌々しいバケモノに粛清を!罰を!!」


 「……バケモノ、なんかじゃ‥」
 絞り出すように出た言葉は誰にも届かない。

 私達は何もしていないのに。



 どうして、



 「どうして……」
 「ミラ待って、落ち着いてお願い」



 「私達はいつも、悪役だ―――!!!」


 無数の影が伸びる。人間たちの悲鳴が聞こえる。
 それもどこかすべて他人事のように聞こえた。



 「ミラ!!!!!」
 ルカが声を荒げている。―――誰に?


 「ミラッ!!!!」


 影が暴走している。だめ、止まらない。
 次々と人間が影につかまり、宙に浮いていく。物語の悪はいつだって私達だ。




 

―――「私が、もし吸血鬼だって言ったら、勇者はどう思う?」
―――「吸血鬼‥ってすごい!すごいかっこいいじゃんミラ!!」

―――ああ。


 「―――っ、」



 なんで今思い出すの―――!!





 その時一瞬、影の威力が弱くなった、気がした。




 「―――ほう、これはなんとも珍しい」
 「!?」
 「落ち着け、ミラ」


 誰かが私の頭を優しくなでる。

 伸びていた影がゆっくりと威力を弱め、元の私の影の中へと戻っていく。

 「――‥なんとも野蛮な客人がきたものだな」
 「……穂積」

 「なっ‥なんだこいつは!?」
 「突然現れたぞ!?」
 「……かつてあいつを見捨てたやつらが今では仲良く友達ごっこだなんて、随分とまぁ面白いことをするもんだな」

 周りをみてぼそりとつぶやいた穂積の声色にはほんのりと怒気が混ざっていた。

 
 
 「……ミラ、落ち着け」



 頭の上に置いていた右手で再度ポンポンと優しくなで、何事もなかったかのように村人のもとへ目線を向けた。


 「悪役――あぁ、そうだな。悪役か。この物語の必要悪である俺たちは早々に退散せねばならんのかもしれないな」

 その声はどこか他人事のように薄っぺらい。

 「だが、お前たちが望むハッピーエンドはなんだ?何もしていない我々を追い出して、殺して、なかったことにすることなのか?ここにいる勇者の本当に伝えたいことをすべて無視して、自己満足の悦に浸った伝承を後世にまで語り継ぐことか?」


 穂積が吐き捨てるように笑う。

 「なんと傲慢で無知で愚かなことか!目の前にある真実を見ろ。かつてお前たちが生きている時の一度でも、ここに住んでいる奴らが危害を加えたことがあったか」
 
 
 穂積の声で村人がたじろいでいるのが分かった。




 「――こいつらは種族が違うだけでお前たちとなんら変わりない営みを送っているだけだ」

 
 そう言った穂積はあまりにも優しい目をしていた。




 「過去にも未来にもこいつらが人間に危害を加えたという事実はない!!この時の神が保障しよう!!!!!」



 そして最後は半ば無理矢理言い切っていた。――というより時の神だなんて初めて聞いたしいうほど穂積昔からここにいないじゃない。



 「さあ、理解したのならお帰り願おうか!!」

 パンッ!と1度手を鳴らし、人差し指をくるりと回す。


 「うおっ!?」
 「えっ?なんだこれっ、勝手に体が―――」

 「ほら、行った行った」

 村人の意志とは反して体が動き出し、城の出口の方へと向かう。
 自分の手のひらの上で転がすことができて楽しいのか顔つきは先ほどと比べて明るい。


 「ちょっ、まだ話は終わって―――」
 「姑息な魔法を使いやがって――!」
 「おい!!!早く解け!!!くそ!!」

 「この街やお前たちの先祖についてもっとよく調べてから出直すんだな」
 

 まるで音楽を奏でるかのように指を動かし、ついには私たちの視界からいなくなっていった。徐々に声も遠ざかっていくのをみるに本当に穂積がこの城から追い出したのだろう。



 「穂積‥」
 「なんてむちゃくちゃな」
 「ていうか、それができたなら最初からやってよ」
 「そういうな。俺だって力を使うのには条件がいろいろとあるんだ」
 「使えるんだか使えないんだか」
 「お?なんだ?窮地を救ったのに大層な口を利くのはこの口か?ええ?」
 「うぇーひゃら、いひゃい、いひゃい!」
 「……というか穂積、途中適当なこと言ってたでしょ?時の神なんて初めて聞いたしそれに、過去の事を言うほどあなたここにいないじゃない」
 「だが嘘ではないだろう?」
 「……うん」
 「そうだね。……フフ」
 「まったくこんな時にのんきな奴らだ」


 少々あきれ顔の穂積と頬が少し赤くなったルカ。そして場違いに笑う声。



 「さあ、他の奴らを迎えに行こうか。俺の家も壊されているからこれが終わったらあの魔王殿にはもっとすごいものを用意してもらわないとわりにあわん」



 そういいながら穂積は歩き出した。

 「…………ありがとう、穂積、ルカ」


 そして勇者も。

 あの時の言葉が、私を救ってくれた。


 (だから、)


 だからね、勇者。


 今度は私も、あなたを救いたいの。







それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.97 )
日時: 2022/07/04 01:35
名前: 猫まんまステーキ (ID: j/F88EhV)





 シュナ、大好きよ。


 たとえあなたが魔物たちに騙されていても、それはずっと変わらない。
 
 だから、


 早く全て終わらせて、一緒にハッピーエンドを迎えようね。




 Episode29『あなたを救うエンディングを』




 城に攻めてからどれくらい時間が経ったか。相変わらず上でも下でも大きな音が響いている。

 「いくら広いとはいえこんなに走り回っていたら誰か一人にでも会わないものかしら」

 先ほどからくまなく探し回り走り回っているつもりだけれどいっこうに誰にも会わない。魔物どころかラオたちにも会わないとなるとまるでこの城には自分一人だけしかいないようだ。


 (おそらく誰かが何かしらの厄介な魔法かまじないか‥を使った奴がいるってことか)



 ラオが声を掛けて景気づけた村人たちがもう来ている頃だろう。状況は?もし戦っているとしたらどちらが優勢だ?場合によってはリリィが加勢してもいい。


 そんなことを考えながらふと窓の方を見るとその村人たちが城から出ていくのが見えた。


 「はあ!!?」



 一瞬人違いかと考えたが、あれは間違いなく数日前にラオが必死になって声高々と激を飛ばし、説得して連れてきた村人で間違いない。


 「まだ終わってないというのに……何しに来たのよ!」

 だからリリィは反対だって言ったのに!!


 「何よ、意気地がないわね‥!」


 やっぱり一般人が来るところではなかった。
 何より、相手は魔物。危険なところに村人を巻き込みたくないとリリィはいったはずだ。それなのにラオは聞く耳を持たずあまつさえ話を聞いてやる気になった村人があれよあれよと準備をするから―――


 (……いや、今はそんなこと考えても仕方ないわ。どうせもともとリリィはあてになんてしてないんだし)


 そう自分に言い聞かせてもう一度場内を見渡す。


 「……あ」


 すると先ほどまで気づかなかったが数メートル先にリリィと同じように窓の外を見ている人がいた。というよりあの格好は―――


 「シュナ!!!!!」


 自分でも驚くほどの声が出た。大股で走っていけばそれに気づいたシュナがひどくびっくりした顔でリリィの事を見ていた。


 シュナ、シュナ。大好きなシュナ。


 リリィがどのパーティーにもなじめずずっと一人だったとき、手を差し伸べてくれた人。



 明るくて、優しくて、素直で、お人よし、少し不器用、ちょっと頑固なところもあって、そして嘘をつくのが下手。
 でもそんなところも大好きな、リリィの勇者。



 「…………リリィ」

 ばつが悪そうにリリィの顔を見る。そんな顔にさせているのは――、そこまで考えて首を振る。


 「ねえ、さっきの村人はなんだったんだ?ラオたち以外にもこの城を攻めてくる人たちがいるってこと?今城から出ていった人たちがいるけどまだこの城に残っている人が‥‥」

 今にも泣きだしそうなシュナがリリィの目を見つめる。でも、


 「ねえシュナ」

 遮るように出た言葉はまるで願いに近かった。


 「――なんでそこまで肩入れしているのかわからないの。だって相手はあの魔物だもの。長年ずっと悪さをして、人びとに影響を与えていたっていう、」
 「その長年っていつの話だ?少なくとも、この数十年間以上は何も起こっていないはずだ。それに流行り病が魔物のせいだというのも証拠はあるのか?」
 「そっ……それはそうだけど……でも皆言ってる。皆が、魔物たちの魔力や力のせいで病が蔓延したって‥それにそんなのは今だけでこれから悪さをする可能性だってあるじゃない」
 「あたしはずっとあいつらを‥リュウジやグウジたちを見てきたけど、とてもそんなことをするようには思えない」
 「そんなの、シュナをだましているだけかもしれないじゃん!」
 「そりゃああたしだって最初はそう思っていた時もあった‥特にグウジなんて人間の事心底嫌っているし、嫌味もいうし、最悪だった――でも今は違うんだ。うまく言えないけど、もう前ほどきっと人間も憎んでいない。それにたとえ最初は嫌っていたとしても、人間に危害を加えるようなことは絶対にしていない」

 
 “何か”を思い出したのか、少し勇者の顔が和らいだ。



 「あいつは……あいつらは、優しくて、少し臆病なだけた‥それは人間も魔物も変わらない」

 きっとここ以外のところではラオたちが戦っているのだろう。けれど今はそれすら気にならないくらいに周りの音なんて聞こえなかった。


 「リリィやここにいる人たちも、グウジたちのことをわかってもらえたらって思うよ」
「―――‥」

 “グウジ”と魔族の名前を呼ぶたびに感じる違和感。


「……ねぇ、シュナ。リリィの勘違いだったらいいんだけど、」




お願い。違うと言って。






「あなた、その魔物に恋をしているの……?」






 リリィ達のハッピーエンドに“それ”はいらない。


 




「……っ、それは―、」
「じゃあ嫌いと、魔族なんて、その男なんて大嫌いだと、今はっきりとこの場で言って」




 とたんに彼女の顔が歪むのが分かる。



 「‥‥‥」



―――シュナ。
明るくて、優しくて、素直で、お人よし、少し不器用、ちょっと頑固なところもあって。





そして


 「―――‥やっぱり、シュナは相変わらず嘘をつくのが下手ね」



 ああ、やっぱりそんなところも大好きよ。





(あなたを助けに行くのがもう少し早かったら、なんてとても都合がよすぎるけれど)


 今目の前で涙を流している彼女を見るのはあまりにも耐えられない。


 
 「‥リリィはシュナに笑っててほしいだけなのに」
 どうして、うまくいかないんだろう。





それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.98 )
日時: 2022/07/18 01:13
名前: 猫まんまステーキ (ID: j/F88EhV)






 ゆっくりと彼女の涙を拭く。


 いまはそれしかできない。




 「―――‥?」
 ふと、誰か別の気配があることに気づく。





 「……だれ」
 「あら。お話し中だったのにごめんなさいね」
 「……」


 そこには大きな薙刀を持った異形なものがいた。


 「……チヨさん」
 “チヨ”と呼ばれたその人はシュナをみるとにっこりと笑った。

 「その様子だとあまりいい方向には進んでないみたいね」
 「……」
 綺麗な顔で笑うんだな、と思った。
 だがそれ以上に目に入ってしまう。
 禍々しい禍々しいツノ。嫌でも見てしまう。


 「……そうね、私もできることなら、みんなとのわだかまりがとけて、仲良く暮らしたいわ」
 ちらりと窓の外を見る。きっと先ほど何が起こっていたかわかっているのだろう。


 「ねぇ、勇者ちゃん」
 少しうつむいていたシュナの顔がほんの少しだけ上がる。


 「私はね、龍司君のことを、恩人だと思っているの。感謝しているの。誇りに思っているの。大好きなの。





―――愛しているの」



 「だから……だからね、私は彼を殺そうとしたり、彼を悲しませたりする人がいた場合は―――」



 ゆっくりとその薙刀の刃がこちらに向く。

 「排除するしかないの」


 「………っ!?」

 「ごめんね。勇者ちゃん」
 その目に迷いはなかった。


 「……」
 いつでも魔法がだせるようにと身を構える。


 「……なんて。本当はこんなこといいたくはないのよ」
 スッと持っていた薙刀を下ろした。


 「――‥きっとここにいる誰だって、あなたをそんな顔にはさせたくないの。――いじわるを言ってごめんなさい」
 ゆっくりとシュナに近づき、頬をなでた。

 そしてリリィと目が合った。


 「私は千代。ここに住んでいるの。ここは勇者ちゃんの顔に免じて引き上げてくれると嬉しいのだけど」
 優しく微笑む。角についていた鈴が少し揺れた。


 「……それはできない。リリィ達はシュナを連れて帰る。そして魔王たちを倒すと決めたから」
 「リリィ!」
 「……」
 

 わからない。この人の考えていることも、シュナの気持ちも。
 わからないけれど、もう後戻りはできないのだ。
 「ねえ勇者ちゃん」
 「……?」
 「この奥をいって階段を上がったところにおそらくあなたの仲間がいると思うわ。それにきっと、宮司君もいると思う」
 “グウジ”と言われるとやっぱりシュナの顔色が変わった。


 「話してくるんでしょう?」
 シュナの手を両手で包み込みこんだ。


 「大丈夫よ。ここは私に任せて。約束するわ。絶対にあなたの仲間は傷つけない」
 
 ゆっくり。

 「――きっと、勇者ちゃんならうまくいくわ」
 

 ゆっくりと、何かが解けていくような感覚がして。でもそれが何なのか、リリィにはわからない。


 「またみんなで、お菓子でも食べましょう」
 そういわれると一瞬、リリィの顔を見た後「ごめん」とつぶやき走っていった。


―――そんな言葉、聞きたくないのに。




 「……さっき、リリィのことを傷つけないってシュナに言ってたけれど」
 二人きり。もう一度向き直り静かに聞く。

 「もしリリィがあなたの事を傷つけたらどうするの?」
 いつでも魔法が使えるようにそっと魔力を込めた。

 「んー‥そうねぇ‥」
 その女は考える。


 「もし、あんたがさっき話していた……なんとかっていう恩人の魔王を、リリィ達が傷つけたら」
 そういうとピクリと指先を動かした。










 「きっと、それは誰も幸せにはなれないわよ」




 その声はひどく冷たく、悲しい声だった。



それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.99 )
日時: 2022/08/07 21:41
名前: 猫まんまステーキ (ID: j/F88EhV)



 鬼なんて大嫌い。人間なんて大嫌い。

 でも、何にもなれない私はもっと大嫌いだった。



Episode30『世界でいちばん、愛している』


 地図に載っているのかもわからないような小さな小さな村の、そのまたはずれにあるところ。そこが私の故郷だった。
 そこには代々鬼が住んでいて、鬼だったお父さんと、偶然そこに迷い込んでしまった人間のお母さん。その二人から生まれた。
 二人は違う種族であることを理由に一緒になることを反対されたが、半ば強引に一緒になり、私が生まれてからもそれはひどく続いた。

 違う種族同士が結婚。それだけでなく、本来額に2本ある角が1本しか持っていない子どもとして生まれてきた私は当然のように村から忌み嫌われ、腫物を扱うかのようだった。



――――『やはり人間なんかと一緒になったから罰が当たったんだ』
――――『角の形も何もかもが恐ろしい……見ているこちらまで呪われそうだ』
――――『禍々しい角だ。きっといずれこの村にも災いがもたらされる』


 何度も聞いた。何度も指をさされ、哀れみ、同情すらされないままその言葉だけを、何度も聞いた。


――――『村のためだ。こいつがいるといずれ厄災が降り注ぐ。悪いことは言わないからこの子供を殺しなさい』


 ある鬼が言った。私を殺すようにと。片方しかないこの角が、生えているこの禍々しいものが、鬼でも人間でもないこの私が、いるとこの村では厄介らしい。



――――『千代、』


 ある日、何度も泣いた跡が残る顔でお母さんがぽつりとつぶやいた。

――――『一緒に逃げましょう。ここじゃないどこかに。きっと、千代を受け入れてくれる人がいる』



 だから、



 そういっていたお母さんの顔はひどく悲しそうで。
 ああ、私がお母さんを悲しませているんだと子どもながらに思った。



 こうして親子三人で逃げるようにしてたどり着いたところは人間の村だった。
 

 人間の村。人間だけが住んでいる村。
 どうやらそこはお母さんの故郷らしい。けれど半ば勘当同然で家を出たその村に私たちの居場所はなくて。


――――『いきなり帰ってきたと思ったらそんな気持ちの悪い子どもなんて作って』
――――『鬼と人間の子どもですって?なんておぞましい‥』
――――『額から生えているその禍々しい角。嫌でも目に入ってしまう』

 それは前と変わらない生活。
 ああ、結局私たちの居場所なんて、私たちを受け入れてくれる人なんて、どこにもいないんだ。
 
 泣いているのを悟られないよう、明るくふるまうお母さん。
 村の人から後ろ指を指され、暴力を振るわれても、何でもないように笑いかけるお父さん。


 ごめんね、お母さん、お父さん。
 私がいると不幸になるね。


 外に出る時は角が隠れるくらいのローブを纏い、誰にも気づかれないようひっそりと行くのが習慣になってきていた。ある日、山に山草を取りに行っていると草むらから音が聞こえた。

 「……お、やっと誰かに会った!いやぁ珍しく迷った迷った」
 そういって笑いながら私のもとにやってきたその男の子は何の迷いもなく私に近づいてきて。


 「……?」
 「なぁ、お前ここらへんの村の人間か?ちょっと聞きたいことがあるんだが――」

 ずかずかとこちらへ来るのに対し、一歩、また一歩と下がる。下がった拍子にフードが取れてしまい、角が見えてしまった。

 「……!?」 
 「えっ……」


 驚いたのはほぼ同時。慌ててフードを被るも遅く、男の子は私をみて固まっていた。

 「…………お前、その角――」


 全身の血の気が引いた。ああなんだ、みんなして、そんなにこの角がおかしいのか。

 「――何よ。どうせあなたもこの角がおかしいって、禍々しいっていうんでしょう!?みんなみんな、うるさいのよ‥!私が何をしたっていうの!?ただ普通に生まれて、普通に生きているだけなのに――!」

 考えるよりも言葉が先に出ていた。気づいたら突然目の前に現れた男の子にあふれ出る感情を吐き出していて止めることができなかった。

 「この角がそんなにおかしいの?何よ、みんなして。うるさいのよ」

 ああだめ、止まらない。


 「大嫌いよ。鬼も、人も」

 声がどんどん小さくなって、体の力がなくなって、ゆっくりと座り込む。


 「こんな角も、私自身も……みんな大嫌いよ……」


 縋るように、祈るように。もし、生まれ変われるなら、

 「‥私だって、どちらかに生まれたらよかった」


 自分でも驚くほどすんなり出てしまったその言葉はずっと思っていた気持ち。

鬼でも人間でもない半端者の私が、お母さんとお父さんを不幸にしてしまう私が、せめてどちらかの種族になっていたら、未来は変わっていたのだろうか。

 
 「……なぁ、その角、」
 「――っ、さわらないで‥ッ」

 私の様子をしばらくみていた彼が突然手を伸ばそうとして慌てて後ろへ下がる。


 「ごめんな。怖がらせるつもりはなかったんだ」
 困ったように笑う。

 「お前のその角が、すごくきれいだと思って」


 “綺麗”


 それはもしかして、この角に対しての言葉なのか。


 「……は?」
 「初めて見た。驚いた。とても綺麗だと、俺は思った」
 「……なにを、いっているの‥?」
 
 わからなかった。この人の言っていることが。


 「そうだ。俺がおまじないを掛けてやろう」

 何を思ったのか突然彼はそう言いだし、グイっと私に近づいた。

 「―――なぁ、触ってもいいか?」
 「……、少しだけなら」

 あれ、なんで私、こんな見ず知らずの人に角を触らせることを許しているの?
そう考えるより前に彼は私の角をゆっくりと触った。

 時間にするときっと数分にも満たないだろう。だけどそれがとても長く感じて。どうしよう、私、男の人とこんなに近くにいたことがない。
 ……でも、不思議と嫌ではない。


 「……よし、これでいいだろう。鏡を見てくれ」
 
 少しの角の違和感を残し、彼は満足気に微笑んだ。そしてどこからともなく鏡を取り出した。

 鏡なんて大嫌いだった私の気持ちなんてよそににっこりと笑う彼を見て思わずゆっくりと覗き込んだ。


 「――――‥」

 鏡を見るとその禍々しい角には赤色のリボンが結ばれていて。



 「お前が、お前のその綺麗な角が、少しでも好きになれるようなおまじない」





 それが彼―――龍司くんとの出会いだった。






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