コメディ・ライト小説(新)

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それでも彼らは「愛」を知る。
日時: 2022/01/23 18:08
名前: 猫まんまステーキ (ID: tBS4CIHc)

こんにちは。猫まんまステーキです。

昔、主に社会系小説の方で「おかゆ」という名前でほそぼそと活動してました。

見たことあるなって方も初めましてな方もどうぞ楽しんでくれたら嬉しいなーと思っております。

それではごゆっくりどうぞ。


分かり合えないながらも、歩み寄ろうとする「愛」の物語です。


 登場人物 >>1
 Episode1『勇者と魔物とそれから、』 >>2 >>4 >>5 >>7
 Episode2『勇者と弟』 >>9
 Episode3『勇者と侍女とあの花と、』 >>11 >>12
 Episode4『絆されて、解されて』 >>13 >>14
 Episode5『忘れられた神』 >>15 >>16
 Episode6『かつての泣き虫だった君へ』◇ルカside◇  >>19 >>20 >>21
 Episode7『その病、予測不能につき』 >>22 >>23 >>24
 Episode8『臆病者の防衛線』◇ミラside◇ >>25 >>26 >>27
 Episode9『その感情に名前をつけるなら』◇宮司side◇ >>28 >>29 >>32 >>33
 Episode10『雇われ勇者の一日(前編)』◇宮司side◇ >>39 >>41 >>42 >>44
 Episode11『雇われ勇者の一日(後編)』 >>47
 Episode12『いちばんきれいなひと』 >>48
 Episode13『ギフトの日』 >>49 >>52
 Episode14『とある男と友のうた』 >>53 >>54 >>55 >>56
 Episode15『本音と建前と照れ隠しと』 >>57
 Episode16『彼らなりのコミュニケーション』 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63
 Episode17『勝負の行方と宵の秘め事』 >>64 >>65 >>66
 Episode18『物体クッキー』 >>67
 Episode19『星降る夜に』 >>69
 Episode20『焦がれて、溺れて、すくわれて、』>>70 >>71
 Episode21『そしてその恋心は届かない』>>72
 Episode22『私たちの世界を変えたのは』>>73
 Episode23『  再会  』>>75 >>76
 Episode24『すべて気づいたその先に』>>77
 Episode25『空と灰と、』>>78 >>81

 <新キャラ紹介>>>87

 Episode26『パーティ』>>88
 Episode27『勇者、シュナ』>>91 >>92
 Episode28『まっすぐで、不器用で、全力な 愛すべき馬鹿』 >>94

 ◇◇おしらせ◇ >>74

 ◆2021年夏 小説大会 金賞受賞しました。ありがとうございます!>>84 ◆
 ◇2021年冬 小説大会 銀賞受賞しました。ありがとうございます!>>93 ◇

 ◆番外編◆
 -ある日の勇者と宮司- 『ケーキ×ケーキ』 >>34
 -ある夜のルカとミラ- 『真夜中最前線』 >>58

 ◇コメントありがとうございます。執筆の励みになります♪◇
 友桃さん 雪林檎さん りゅさん

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.91 )
日時: 2021/11/22 01:00
名前: 猫まんまステーキ (ID: HyhGJdk5)



 今更どちらかを選ぶなんて、できない。




 Episode27 『勇者、シュナ』

―――「魔王なんてさ、あたし達の力ですぐに倒せるよ」
―――「そうね。だから早く倒して村の皆を安心させなくちゃ」
―――「この4人でいれば最強だ」
―――「そうやってあなたたちはすぐ油断をする‥まぁでも、確かに負ける気はないですね」

 ふとよぎったのは、少し遠い過去のこと。
 まだ何も知らない、無知だったころの自分。

 パーティを組んで、自分たちは最強だと豪語して、酒を飲んでは夢を語り、笑い合っていたあの頃。



―――「……いま、なんていったの?」
―――「‥だからこれ以上進むのなら俺たちは一緒に行けないって言ったんだ」
―――「待ってよ!?意味が分かんない!魔王は?あと少しで拠点に着くっていうのに‥!」
―――「強い魔力を感じるのよ。シュナ、今のリリィ達じゃ無理‥行っても全員死ぬだけなの……」
―――「だからなんだっていうんだよ!?村の皆は?それだけじゃない。魔王に支配されているといわれているこの街の人たちは?それらをすべておいて逃げ出すっていうの!?」
―――「確実に救うにはもう少し力を付けてからじゃないといくらなんでも‥」
―――「シュナ、挑戦と無謀は違うんだよ」
―――「……それでも、今引き返すことはできない」
―――「シュナ!」
―――「嫌なら来なくて大丈夫だ。ここから先はあたし1人でいく」




 これも少し前のこと。
 仲間と喧嘩して、衝突して、1人で倒しに行くと覚悟を決めた頃。


―――「ああして笑顔で俺の名前を呼んでくれる今がとても愛おしいと思う」
―――「俺はな、どこかで生きていてほしいと願うことが、俺の、俺自身の愛のかたちだと思う」
―――「勇者、信じて」
―――「ありがとう、勇者。ここにきてくれて。宮司様だけじゃない‥きっとここにいる皆の心を動かしてくれた。また笑顔があふれた。かけがえのない生活にしてくれた。すべてのことに感謝します」
―――「私はこの生活が大好き。ここの皆が大好き。もちろん、今では勇者ちゃんも大好きよ。だからそんな大好きな場所で大好きな人たちと大好きなことをやったら、それはきっと、本当に幸せなことじゃないかしら?」


―――「あなたのような人がいるのなら、人間も、人間がする営みも、悪くはないのかもと思えるようにはなりました」





……そしてこれは、もっと近い記憶。

 気づいたら頭の中は、今のあたしの生活はこいつらでできていた。
 大切で、かけがえのない、この生活がたまらなく愛おしかった。
 
 どうしたらいいのか答えはまだ出せないけど
今あたしがこのままここに居続けたらいけないことくらいは、わかる。

 それでも――――




 「よう勇者。ざまあねえなぁ」
 扉が勢いよく開いたかと思うと龍司がからかうような声色で入ってきた。

 「穂積から聞いた。お前、かつてのパーティに会ったそうじゃないか」
 「……」
 「――なんだ、随分と部屋の物が1つにまとめられているじゃないか。まるでこの城から出ていくような素振りだな」
 「……あたし、分かんなくなっちゃったんだ。始めは魔族なんて、って思っていたけど‥今はどっちも大切で……両方手放したくない。あいつらも根はいいやつなんだ。いい奴で……優しくて……今は勘違いしているだけなんだよ。でもどうしたらいいのかわからなくなって、つい穂積の手を取って逃げちゃった‥なぁ龍司、あたしどうしたら、」



 
 「勘違いするなよ」
 とたんに龍司の声が一気に低くなる。

 「“それ”を、俺に委ねるのか?委ねて、逃げて、投げ出して。ずいぶんと弱くなったもんだなァ。それでお前は満足か?」
 「‥っそんなんじゃ、」


 「いいか勇者。これは忠告だ」

 ゆっくりと、瞳がこちらを捉える。


 「お前は最初、俺たちを倒しに来た。今更“どちらか”なんて選べないんだよ。だからお前が選ぶしかないんだ。“俺たち”か、“あちら側”か」
 「……わかんない、やだ、いやだよ、龍司。あたしどっちも大切で――」
 「甘えんな」

 全てを見透かしたように、遮るように龍司は話す。

 「俺はお前の事、嫌いじゃあない。だがお前の言う『勘違い』で俺たちの日常が崩されることはあってはならない。俺はここのやつらが、生活が、千代が、何よりも大切だ。それを脅かすようならたとえ勇者でも、俺は排除しなければならない」

 

 『排除』


 その言葉を龍司から聞くとこんなに胸が苦しくなるとは思っていなくて。思わず視線を下ろしそうになる。


 「お前は勇者なんだろう」

 ゆっくりと、鉛のように心の中に落ちていく。

 「だからどちらかを選べ」

 言葉が、視線が、すべてがあたしの中に入っていく。


 「もしお前が“あちら側”を選ぶのなら俺は全力で敵対する」


 龍司の声に迷いはない。

 「その時は覚悟をしろ。――勇者、シュナよ」

 このとき、初めて龍司の目があたしを“敵”と認識した。


それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.92 )
日時: 2021/12/27 00:29
名前: 猫まんまステーキ (ID: tBS4CIHc)




 ◆◆◆

 「……随分物騒な言い方じゃあないか。久しぶりに役職を全うしたな、魔王殿」
 「――今そんな呼び方をするのは嫌味か」
 「はは、だいぶいら立っているようだ」
 「喧嘩なら受けて立つが」
 「まぁそう言うなよ」
 「……荷物が1つにまとめてあった」
 「……そうか」
 「迷いはあったがたった数カ月俺らと過ごした時間より、数年共に過ごした“同じ種族”の仲間とのほうが絆は強固たるものだろうな。時期にここを出ていく」
 「……」


 「ああ、あいつが“こちら側”を選んでくれたら、どれほど良いか」


 「――それで?お前はなぜここにいる?宮司よ」
 「……たまたまそばを通りかかったら偶然聞こえて」
 「盗み聞きとはお前も趣味が悪い」
 「まったくだ宮司。俺が勇者と話している時にお前は穂積と扉の後ろで聞いていたのか」
 「何とでも言ってください」
 「それで?お前はどうする?」
 「どう、とは?」
 「もしあいつが人間側についたとして、お前は戦えるのか」
 「……」
 「お前も覚悟をしろよ。宮司」



 ◇◇◇






 「寒いままの部屋でしゃがみ込んで‥そんなところにずっといては風邪をひきますよ」
 
 静かに入ってくる声。顔を見なくても誰なのかわかった。


 「まったく。いつもの威勢のよさはどうしたんですか」
 「……うるさい」
 「ハハ、言い返せる元気はまだあるみたいですね」
 そういって同じように宮司もしゃがみこんでくれる。
 いつだって、ダメになっている時宮司が傍にいてくれた。


 気づいたら宮司が傍にいるのが当たり前になった。


 なんでもお見通しなくせに、何もわからないといった顔をする。
 何も知らないととぼけたように話す。


 「――ねえ、勇者。こんな世界、一緒に逃げませんか?俺たちも、勇者も、何もわかってくれない世界なんていりませんよ。ね、逃げて、何もかも無かったことにして、兄さんや千代さん、ルカやミラ……穂積も入れてあげましょう。7人で、ずっと。騒がしいと思いますがきっと毎日新鮮で、楽しくて、飽きることなんてありませんよ」

 優しい声で、まるで何でもないように話す。ああ、そうだ。すべて放り出して逃げてしまえば、きっと、


 (でも――、)


 でも、と口を開こうとしてはまた閉じで。魚のようで滑稽だ。そんなあたしの姿をみて困ったように宮司は笑う。


 「……冗談ですよ、勇者。あなたはどこまでいっても、どのような未来になっても、勇者なのですね。だから、そんな顔しないでください」

 本当はきっと分かっていた。あたしも宮司も。
 お互いそんな選択は選ばないと。きっとわかっていて、それでもなおその言葉を紡いでいくのだ。

 その優しさがわかってしまうから、余計につらくて、心臓がゆるゆると締め付けられるように痛く、思わずうつむいてしまう。

 
 「……あたし、どっちも大切だ」
 「‥はい」
 「あいつらを……昔のパーティの奴らを裏切って、お前たちのところにはいけない」
 「……はい」
 「龍司にはどちらを選ぶかは自分で考えろって言われた。そうだよな、当たり前だよな」
 「……」
 「だからあたしは、最後まで自分で考えるよ。たとえそれがどんな結末になっても」
 


――「勇者よ、いずれお前は選択を迫られる時がくる。それも大きな選択を、だ。これからもたくさんの別れがあり、沢山の物を諦めなければならない。
 そうなったときでも、お前は、お前のなかにある正しさや正義を貫かなければならん。


 それがどのような結末になっても」


 ふと、以前穂積に言われた言葉を思い出す。


 (ああそうか。それが“今”なんだ)

 ゆっくりと、穂積の言葉を頭の中で咀嚼して、呑み込んで、理解する。


 そして決めなければならない。


 “どちら”を選ぶか。




 何を選ぶのか。




Re: それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.93 )
日時: 2022/01/18 23:17
名前: 猫まんまステーキ (ID: tBS4CIHc)


 遅れながらあけましておめでとうございます。本年も「それ愛」をよろしくお願いいたします。
そしていつの間にか小説大会が始まって終わって気づいたら銀賞をいただいていました。本当にありがたい限りです‥!
 今回は行進が亀のように遅い中、こうして変わらず読んでくださっている皆さんにお礼を言いたいと思います。ありがとうございました。そして投票してくれて、彼女たちを好きでいてくれて、本当にありがとう。

 書きたい話がたくさんあり、なかなか思うようにまとまらずこちらが今もどかしいですが(笑)もう少し一緒にお付き合いいただけると幸いです。
 今後ともよろしくお願いします(^^)
 

それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.94 )
日時: 2022/01/23 18:00
名前: 猫まんまステーキ (ID: tBS4CIHc)


 

 
 次の日の朝。


 勇者の部屋には 何もなかった。


 Episode28『まっすぐで、不器用で、全力な 愛すべき馬鹿』


 「……どこを探しても勇者は見つかりませんでした」
 「そうか」
 「勇者、本当に人間たちの方にいっちゃったんだ‥」
 「……」
 「嫌だな、私勇者と戦いたくない」
 「そんなの、私だって――」
 「ルカ、ミラ」
 「っ、」
 「すみません、龍司様‥」


 誰もいない部屋で静かに二人を制止する。だが何をしたって今の状況は変わらなかった。


 「……『最悪』の事を考えて周りの防御を固めるぞ。宮司、どれくらいでできる」
 「えっ‥と、この城全体、となると少し時間が……」
 「わかった。それまでにルカとミラ、俺でそれぞれの門で待機する。いつでも戦闘態勢に入れるようにしておいてくれ」
「……はい」
「わかりました」


 兄の一声で全ての空気が引き締まっていく。戦闘態勢に入っていく。

「私も一緒に行く」
「……千代にはなるべく戦ってほしくないんだ」
「そんな、私だけ見ていろと言うの?」
「……」
「龍司くん達よりは劣るかもしれないけど、私もちゃんと戦えるわ。足手まといにはならない」

 兄貴は少し考えた後「わかった」とだけつぶやいた。それほど事態は良くないというのは誰が見ても明らかだった。
「……ただ、無理はしないでくれ」
「何かあれば千代様は私達がお守りします」
「ああ……だがルカ、ミラ。お前たちもだ。無理はするな。何かあればすぐ逃げろ」

二人がそれぞれに返事をする。

「‥穂積は?」
 「ここにいる」
 
 先ほどまで姿が見えなかった穂積がゆっくりと俺たちの前に現れる。

 「―――が、少し遅かったやもしれん」
 「……?」
 顎で窓の外を見るよう促される。


 
 「もう来ている、ということだ」
 
 

 
 

 ◇◇◇


 「3人‥あれが勇者の元パーティ……」
 窓からのぞくとそこにはすでに元勇者の仲間らしき人間が忌々しそうに城を見上げていた。

 そして一人の剣士が力を溜め剣をこちらに向かって振り下ろそうとした時だった。


 「まっっっってぇぇぇええええ!!!!」

 どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。というかこの声は、



 「シュナ?」
 「勇者!?」
 
 驚いた人間側と上から見ていたこちら側が声をあげるのはほぼ同時だった。


 「シュナ!!!」
 魔法使いと思しき女がいたわるように背中に手をやる。


 「あの城から無事に逃げ出せたのね。もう大丈夫よ。一緒に―――」
 「いや、違うんだ」

 それどころではないと勇者が一歩、後ろへ下がる。その顔はどこか妙に吹っ切れた顔をしていた。


 「今日は話をしにきたんだ」
 「話……?」
 
 「あたし、考えたんだ。考えて、考えて……やっぱり、あいつらとは戦いたくない」
「それはつまり‥‥」
仲間の一人が言葉を選ぼうとしているのをみて勇者が首を振った。


「かといって、お前たちとも戦いたくはない。大切で、大事な仲間だから」
 「だったら、」


 「だから、あたしは、話し合ってお互いの誤解を解きにきたんだ」


 静かに深呼吸をする。その目に迷いはなかった。
 
 「誤解だぁ?」
 一人の男が怪訝そうな顔で話す。

 「ここに住んでいるのは街の人たちや俺たちの住んでいる村の人間の不安を煽る魔物だろ?事実今街で起きている流行り病はすべて魔王どもがもたらした厄災だと聞く。他にもそういった類のものはたたけばいくらでも出てくるだろ」
 「だからそれが全部誤解なんだ。あいつらは何もしていない……本当にただ、静かに過ごしているだけなんだよ」
 「じゃあこの城から駄々洩れの殺気はどう説明するんです?今にもこちらに向かってきそうだ」
 「それは……」
 「向こう側も俺たちと同じ気持ちだ……同じ気持ちで、俺たちを殺しに来る」
 「……っ、」
 「なあ、あの時の勇ましさはどうしたんだよ、なんでそんなに絆されちまったんだよ」
 

 口々に周りの仲間が声をそろえる中、勇者が意を決したように話した。


 「……じゃあ、あたしがあいつらとも話をしてくる。あいつらは、お前たちが思っているようなやつらじゃないって、あたしが証明する。もし話をして、それでも龍司達‥あちら側とお前たちの誤解が解けないままだったら、そのときは―――
 




 あたしは、お前らと、あいつらを相手に戦いを挑むよ」






 「「「「「「はあ!?!?」」」」」」




 突飛な発言に思わず声がそろった。

 「魔物側、お前たち側、どちらの邪魔もする。すべて。あたしの手で」

 半ばやけに見えるその姿に迷いはなかった。

 「勇者……」
 「アッハッハッハッハ!!!!」
 一部始終をみて不安げに見つめるルカ達とは対照的に穂積は豪快に笑った。


 「ああ、なんと強引な!最終的には力で何とかしようとしているぞ!あいつは馬鹿だ!!!愛すべき馬鹿だな!!」
 この場にそぐわないほどの大声でひとしきり笑った後、目を細めて勇者を見つめる。



 「だがそれ故に、愛おしい」


 それは穂積の口から思わず出た、まぎれもない本心。
 「まさか“両方を選”んで、“両方捨てる”とは思わなかった。予知していない未来だ」
 そういって穂積は人差し指で軽く円を描くように回す。

 「来るべき時のために、この城にはまじない程度だが俺の加護を与えよう。時間稼ぎ程度には役に立つだろう」
 一瞬優しい光が穂積の指先でくるくると回ったかと思うと瞬く間に消えてなくなった。

 「さあ、あとは勇者と、お前たち次第だ」
 そんなのは言われなくても、分かっていた。

 そしてルカとミラ、千代さんたちがそれぞれの場所に向かおうとした直後、




ドォォォオオオン――――


 大きな音ともに建物が崩れる音。

 「―――まぁ、あちらは血気盛んなやつらが多いようだが」
 やれやれというように穂積は呆れた顔で音のする方を見た。



 「まどろっこしいわ。それなら、直接聞きにいくわよ」




 どうやら音の出どころは思った通りのところで起こっているようで。


 一瞬、下にいる魔法使いと目が合ったような気がした。


それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.95 )
日時: 2022/04/15 20:40
名前: 猫まんまステーキ (ID: j/F88EhV)





 「時間稼ぎとは何だったんですか!?」 
 「何も『城が全く壊れない』とは言ってない。あくまでもまじない程度の加護だあまり期待するな。それに本来ならあの攻撃を受けてこれだけしか壊れていないというだけありがたいと思え」
 「物は言いようだな……」
 「予想以上に厄介だがまぁ――



 あちらさまには少々“城内を見て回って”頂こうではないか」


 含みを込めたような物言いに少しは信用してもいいかと安堵する。相変わらず抽象的な言い方をするものだ。
 外を見るともう人間たちは城の中に入っていったようで一人勇者がそこに取り残されていた。

 「いつまでも愛しき勇者を見ていたところで状況は変わらんぞ?」
 こんな時でも減らず口をたたく穂積にイラつきを覚えながら振り返るとたしかに兄貴たちはいなかった。

 「……いつまでもうるさいな」
 「このような状況になっても勇者の心配をするのは同じだ」
 「……」
 「そうしてこのままじっとしてるのか?」
 「まさか」
 ゆっくりと息を吸ってはいて。最後にもう一度勇者の姿を見た。




 「あの人があそこまでしていたのに俺が何もしないなんて選択肢はありませんよ」


 ◇◇◇


 「――こねぇな。誰も。何も」

 数分前に爆発のような音がしてからどれくらい時間が経ったか。あちら側が素直に門からきてくれるとは思ってはいないが…こうしている間に少しは防御を固められそうだ。
 あの音があってから確かにあの人間たちが入ってきたような気配は感じたがそれだけだ。誰かが、千代が、戦っていたりやられたりといったこともなさそうだ。

 「……少し調子狂うな」
 きっとそれもこれも穂積が先ほどした『まじない』が効いているのだろう。



 「――このまま諦めて帰ってくんねぇかな」
 誰に対して話したわけではなく漏れた言葉はそのまま誰にも聞かれずに終わっていく。
 このまま諦めて、なかったことにして、すべてが終わったら、誰も傷つかなくて済むのにな。
 「(まぁそんな簡単にはいかねぇか)」



 「―――げ、」


 ここの奴らの声ではないものに違和感を感じ振り返る。
 「お。お前はさっき勇者のパーティーにいた眼鏡の奴だな」
 「なんだよやっぱり見ていたのか……というかあんたもしかして……、あーいつもこういう“はずれくじ”ばかり引く」
 眼鏡が深くため息をついた。

 「……あんた、おそらくこの城の中で一番強いですよね‥多分リリィが言ってた魔王とかなんとか」
 「んーまぁそうだな。世間一般でいうこの世界で魔王というのをやっている者だ!」
 あれ?こんなような会話前もどこかでしたような気がすると思い出して思わず笑いそうになる。

 「はぁやっぱり……こういうのは普通ラオみたいな筋肉馬鹿が相手でしょう……」 
 眼鏡がブツブツと何かを言いながらまたため息をつく。どことなく宮司に似てるなこいつ。

 「なぁ眼鏡。お前はやっぱり俺たちを倒しに来たのか?」
 「……ええ、まぁ。あと眼鏡じゃなくてノアです」
 「ノア――ノアか。俺は龍司だ。ノアは何を使うんだ?あいつは‥勇者は剣を使うことが多かったな」
 「弓です。なのでパーティー内では中距離や遠距離から皆をサポートするのが主だったので今回のような作戦は不向きだと自分でも思っています」
 「ハハ、それを俺にいうのか」
 「まぁ、そうですよね。でも事実なので」
 
 そういいながらも戦闘態勢に入ろうとしているノアを見ながら少しだけ防御を施す。
 

 「ですが最近はこのような事態になった時のために近距離戦の練習もしていたんですよ。不本意ですがそれをここで試せそうで良い」
 手に持つのは矢を少し短くしたようなものだった。

 「……お前、面白そうなもの持つんだな」
 「お気に召したようで何より」
 
 そして光が出るのと攻撃が出されたのはほぼ同時だった。
 
 「……少しは話が通じる奴だと思ったんだが」
 「ええ、話しますよ。あなたの身動きを封じてから」
 「人間は臆病なくせに野蛮なやつらばかりだ」
 「‥臆病で結構。そうやって自分の身を守ってきたんですから」
 「……そうかよ」
 

 ふと、勇者の顔が頭をよぎった。
 今この状況をみたら、あいつはどんな顔をするのか。


 「―――なあ、アンタは賢い奴だと、俺は思うんだが」


 そんなの


 「それを見込んで、話をしたいんだ」



 誰も望んじゃいねーと思うんだ。



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