二次創作小説(紙ほか)

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ポケットモンスター 七つの星と罪
日時: 2013/07/21 23:48
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
 旧二次小説板を覗いた事のある人なら、知ってる人がいるかもしれませんね。以前もポケモンの二次小説を執筆していました。
 前作はゲームのストーリーをモデルにしていましたが、今回はほぼ完全なオリジナルです。前作との繋がりは……ないとは言いませんが、一作目と二作目ほどの繋がりはありません。

 ちなみに白黒は前作、この時期ぐらいに更新が止まっていました。何分この時期は忙しい身でして、しばらく更新は遅いと思いますが、ご了承ください。

 それと、本作品では非公式のポケモンも登場します。>>0にURLを貼っていますので、参考にしてください。
 なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。それは物語を進めていくうちに作中で追々説明しますが、まあ超次元サッカーとか異能力麻雀とか、そんな感じのものだと思ってください。

 それでは、白黒の新しい物語が始まります——

登場人物紹介
>>31



プロローグ
>>1
序章
>>7 >>10 >>11

シコタン島編
ハルビタウン
>>12 >>13 >>14
シュンセイシティ
>>17 >>18 >>23 >>24 >>29 >>30 >>35
ハルサメタウン
>>37 >>40 >>41 >>42 >>43

クナシル島編
サミダレタウン
>>63 >>73 >>74 >>77 >>80 >>84 >>87 >>88
ライカシティ
>>91 >>92 >>95 >>98 >>99 >>100 >>106
オボロシティ
>>108 >>109 >>110 >>111 >>112 >>115 >>119 >>120 >>123
カゲロウシティ
>>126 >>127 >>128 >>129 >>130 >>131 >>133 >>134 >>135 >>136 >>137 >>140 >>143 >>149 >>150
ライウタウン
>>151 >>154 >>155 >>156 >>159 >>162 >>166 >>171 >>172 >>175 >>176 >>177 >>178 >>179 >>180

第71話 パニック ( No.179 )
日時: 2013/07/21 00:12
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: 港町に襲い掛かる異変——

 唐突にフィアとイオンのバトルに乱入してきたそれは、どうやらポケモンのようだった。
 強固そうな鋼鉄の鎧を身に纏い、鉄球のような尻尾と剣のような角を持っている。


『Information
 メタゲラス 鎧角ポケモン
 非常に硬い鎧に身を包んでおり、
 ダイナマイトどころか最新鋭の
 兵器でも無力化してしまうほど強固。』


「メタゲラス……なんで、こんなポケモンがここに……? っていうか、どこから入って来たの?」
 まだ動きを見せないメタゲラスを図鑑で調べつつ、疑問符を浮かべるフィア。どう見てもこのメタゲラスは鈍重だ。それがまさか、誰にも気づかれずにここまで来たということはあるまい。
 その時、イオンの荒げた声が聞こえた。
「フィア君! あれ!」
「え?」
 この場にいる全員——観客も含めた全員がそれの存在に気付いたのは同時だった。

 空から大量のポケモンが降ってきている。

「な……っ!?」
「なに、あれ……」
 驚愕するフィア。流石のイオンも絶句している。
 空、正確にはこの円形闘技場の頂上部分付近から、夥しい数のポケモンが落下し、闘技場や観客席に降り立つ。それだけで観客は疑念の眼差しを向け、不安そうにしているが、その不安が悲鳴という形で現れるのは早かった。
 地に降り立ったポケモンたちは、攻撃を始めた。人に対して、物に対して、無差別に攻撃する。観客席の一部は砕け散り、人々はパニックに陥り逃げ惑う。混沌とした混乱が、フィアの目の前には広がっていた。
「こ、これって、かなりまずいことになってるんじゃ……」
「フィア君! 後ろ!」
 イオンが叫ぶ。フィアが振り返ると、そこには今まさに飛びかかろうとしているポケモン——デルビルの姿があった。
「サンダース、マッハボルト!」
 咄嗟に指示を出すイオン。サンダースも刹那の内に電撃を発射し、デルビルを吹っ飛ばした。デルビルはその一撃で戦闘不能となる。
「ぼーっとしないでねー。なんか、まじでやばいっぽいからさ」
「ご、ごめん……ありがとう」
「ま、いいよ。それより、このポケモンたちをなんとかしないと」
 見れば、フィアとイオンもかなりの数のポケモンに囲まれている。小型のポケモンがほとんどだが、そのすべては獰猛な眼差しをこちらに向けている。
「何が何だかわからないけど、わかってることは、このポケモンたちは危険だってことだよ。だったら、助けが来るまでオレたちでなんとかしないと、ね」
「う、うん……そうだね」
 そう言って、二人は互いに近寄って背中合わせとなり、足元のポケモンに目線を落とす。
 ブースターもサンダースもバトルの疲れが残っている。だが、数が多いとはいえ相手は野生のポケモンのようなものだ。疲労していても戦えるだろう。
「さーて、行こうか?」
「うん……!」
 そして二人は、それぞれのポケモンに指示を出す。避難を促す放送をバックに、火炎と電撃が、周りのポケモンを次々と蹴散らしていく。
 そんな中、フィアはふと思った。
(なんかこのポケモンたちの様子、どこかで見たことあるような……?)



「——繰り返します! 突如、大量のポケモンたちがライウタウンに出現しました! ポケモンたちは非常に興奮しており、攻撃してくるので速やかに避難して下さい!」
 放送室では、試合の実況をしていた係員がアナウンスで避難を促していた。そんなこと言わずとも多くの人物は逃げ出しているだろうし、どっちみちパニック状態の人々にこんな放送をしても無意味だろうが、アナウンサー魂とでも言うべきものから、せずにはいられなかった。
 まだパニック状態の人は多いが、この大会に参加しているトレーナーたちが率先して暴れているポケモンを鎮圧しているようなので、被害はある程度抑えられるかもしれない。
 そう思いながら、アナウンサーは叫ぶ。
「ユズリさん! 緊急事態です! 寝てないで起きてください、ユズリさん!」
「んにゅ?」
 本来なら解説役としてバトルの内容を解説するはずだったユズリは、よだれを垂らしながら寝ていた。チャンピオンの威厳もなにもあったものではない。
「なーにー? お昼ならいっぱい食べたよ?」
「何の話してるんですか! 違いますよ、ポケモンが大量発生して暴れてるんです! 私たちも急いで避難しないと——」
 と、その時だった。
 ドォン! と大砲のような勢いの拳が放たれ、放送室のドアが吹き飛ぶ。そして廊下から一匹のポケモンがのっしのっしと侵入してきた。
「ベ、ベロリンガ……!」
 現れたのはベロリンガ。しかし普通のベロリンガのように呑気な表情はしておらず、非常に獰猛で鋭い目をこちらに向けている。
 ベロリンガは拳を振り上げると、一直線にこちらへと飛びかかった。
「う、うわ……!」
 反射的に両手で顔を覆うが、そんなことをしても無意味なのは分かっている。ベロリンガは意外と力が強く、人間なんて簡単に吹き飛ばしてしまう。
 だがベロリンガの拳がアナウンサーに届く直前、双方の間に一つの影が割り込んだ。
「ユ、ユズリさん……」
 一瞬だけ捉えた視界に映っているのは、小柄なユズリの体躯。まさか自分を庇うつもりなのかと思い、すぐに手を伸ばそうとするが、違った。
 ユズリは彼を庇ったのではなく——
「うんしょ——っと!」

 ダァン!

 ——彼を救ったのだ。
「……!」
 絶句するアナウンサー。今彼の目の前で何が起こったかというと、ベロリンガの正面まで移動したユズリが、ベロリンガの腕を掴み、自分の体を支柱にして背負うように地面に叩きつけたのである。要するに柔道などにおける投げ技だ。
 その一撃でベロリンガは完全にのびてしまい、しばらく動くことはできなさそうだ。
 チャンピオン・ユズリ。小柄で能天気な彼女だが、意外と腕っぷしは強いようだった。
「うーん、なーんか大変なことになってるみたいだね……ルカリオ、いる?」
 グッと体を伸ばしながら、ユズリはどこかへと声をかける。
 すると次の瞬間、部屋の陰から、人型の影が出て来た。
 細身だが引き締まった青い肉体、犬のような頭部に、両手の甲と胸に一本ずつ突き出た棘。全体的に獣人のようなポケモンだ。


『Information
 ルカリオ 波導ポケモン
 あらゆるものの波導をキャッチ
 する。熟練されたルカリオは、
 どんな生命とも意思疎通が可能。』


「ルカリオ……これが、ホッポウ地方チャンピオン、ユズリのポケモンか……!」
 ホッポウ地方のポケモンリーグシステムは、他の地方とはやや異なる。いや、システム自体に大きな差はないが、そもそもホッポウ地方は、四つの島から成り立つという特異な形態の地方なので、ポケモンリーグという場所が特殊なのだ。その特殊性から、ホッポウ地方の四天王とチャンピオンのポケモンは、基本的に公開されない。強い、ということは分かるのだが、その強さがどういうものなのか、ホッポウ地方の人々は直に見ることがほとんどないのだ。
 そのためホッポウ地方の四天王は、各街のジムリーダーから選ばれることが多く、今は四人中三人の四天王がそうだ。
 そんなシステムの中、他の地方からのし上がってきたユズリが注目されるのも、無理からぬ話である。
「——ねーねー、聞いてるの?」
「あ、はい。なんでしょう……」
 と、ユズリの声に気付くアナウンサー。ユズリは闘技場と放送室を遮る強化ガラスを指差し、
「あのさ、もしこの事件を私が解決したとして、その解決のために仕方なく出てしまった損害は、やっぱり私の責任になっちゃうの?」
「え、いや……」
 そんなことはないと思う。
 ふざけたような態度のユズリだが、それでもチャンピオンだ。事件解決に乗り出してくれるのはありがたいし、もう闘技場のいたるところがポケモンによって破壊されているので、ユズリがバトルかなにかでさらに被害を出したとしても、よっぽどのことでない限り賠償を請求されるようなことはないだろう。
「そっか、ならいいや。よーし、そんじゃルカリオ、一発かましちゃって!」
「へ? あ、あの、ユズリさん……?」
 ぶんぶんと腕を回すユズリ。その背後からルカリオが音もなく歩み、強化ガラスの前に立つ。
 そして、

「ルカリオ、バレットパンチ!」

 次の瞬間、強化ガラスが大破した。
「……!」
 本日二度目の絶句。アナウンサーは相手口が塞がらない。
 ユズリはそんなアナウンサーに見向きもせず、綺麗に粉砕されたガラス(というかもはやただの穴)から顔を出し、外を見遣る。
「うーん……あれかな? ルカリオ、私はあっちに向かうから、ルカリオはその人を安全なとこまで連れてって」
 と言うと、ルカリオはすぐにアナウンサーを担いで消えた。あまりに速すぎて、アナウンサーは何も言えないまま連れて行かれた。
 ルカリオがいなくなったことを確認すると、ユズリは廊下に出る。
「そんじゃ、ちょっくら仕事しちゃいますか」



というわけで、突如街にポケモンが大量発生、という形でフィア対イオンのバトルは中止です。そしてユズリのポケモンも一体判明。誰かが予想していたと思うのですが、ルカリオです。さて、もう書くことも特にないので、次回、遂にあの人が登場です。お楽しみに。

第72話 she ( No.180 )
日時: 2013/07/22 11:10
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: 混乱の渦中、そこに現れた彼女——

 突如ライウタウンに大量発生した、凶暴なポケモンたち。そのポケモンたちの発生源は準決勝の試合が行われていた円形闘技場だが、ポケモンによる被害は闘技場の外にまで広がっていた。
 逃げ惑う人々。多くのポケモンは近くのものを手当たり次第に破壊しているだけだが、中には外に出て来るものもいる。多くのポケモンが外に出れば、街中に凶暴なポケモンが跋扈し、被害は尋常なものではなくなるだろう。下手をすれば死傷者も出かねない。
 人間は本能として危機感を持っており、現状の危険を、現状を理解していないにもかかわらず危険という事実のみを理解している。ゆえにその本能に従って、周りを見ずに逃げているのだ。
 そんな人々の激流を逆走し、ゆったりと歩く者が一人だけいた。
 まるで学校の制服のようなセーラー服を着た、背の高い少女だ。しかし少女というには大人びた雰囲気があり、現に大人も子供もパニック状態の中、ただ一人だけ非常に落ち着いている。
 彼女も、周りと違う意味で周りを見ず、一つの建物——円形闘技場をまっすぐに見据え、歩を進める。その歩みに迷いは一切見られない。
 闘技場の入口付近でひときわ大きな悲鳴が上がった。その悲鳴を合図に、蜘蛛の子を散らすが如く入口周辺の空間が空いた。
 その理由は単純明快。凶暴化したポケモンのうち一匹が、外に飛び出して来たのだ。両手に鋭利な刃を装備し、背中には二対の翅と、どことなく昆虫のような意匠を感じられるポケモンだ。


『Information
 ストライク 蟷螂ポケモン
 目視不能なほどの速度で両腕の鎌を
 振るう。その切れ味は斬れば斬る
 ほど増していき、鉄すらも両断する。』


 彼女は足を止め、周りを見渡した。もうほとんどの観客は闘技場から出ており、辺りに人はいないようだ。
 その時、鋭い声が空気を震わせた。ストライクが両腕を上げ、威嚇している。凶暴化しているいない以前に、元々気性の荒いストライクのように見受けられた。
 少女はそんなストライクに対し、片腕を伸ばし上げる。そして、まるで手招きをするように掌を空に向け、

 くいっ、くいっ

 人差し指を小気味良いリズムで縦に振った。
 そんなあからさまな挑発に、ストライクは気勢を発する。どう見ても怒っており、挑発に乗っている。
 彼女はそんなストライクを見て不敵に微笑むと、スカートのポケットからボールを一つ取り出し、開く。
 中から出て来たのは、えらや鰭のある、半魚の哺乳類のようなポケモンだった。青い身体は潤いに満ちており、尻尾は人魚のように長く流線型を描いている。


『Information
 シャワーズ 泡吐きポケモン
 水の分子によく似た細胞を持つ
 ポケモンで、水とほぼ同化する。
 その性質で敵から身を守ってきた。』


 シャワーズとストライク、片や落ち着いた佇まいで様子を窺い、片や極度の興奮状態で力を溜めている。
 先に動いたのは言うまでもなくストライク。両腕の鎌を振り上げて飛びかかってきたが、
「シャワーズ、熱湯よ」
 シャワーズも絶妙なタイミングで熱湯を噴射し、ストライクを押し飛ばす。直撃だったのでダメージはそれなりにあるだろうが、ストライクはすぐに起き上がり、また特攻してくる。
「熱湯」
 再び熱湯を放つシャワーズ。しかし今度はストライクもただ喰らったりはせず、片方の鎌で熱湯を切り裂き、もう片方の鎌を振るって真空波を飛ばす。が、
「溶ける」
 次の瞬間、シャワーズの姿はなくなっていた。真空波は何もない地面を抉るのみ。
 シャワーズがどこへ行ったのかとキョロキョロと辺りを見回すストライク。次の瞬間には熱湯を背中から喰らって吹っ飛ばされていた。
「凍える風よ」
 続けてシャワーズは、凍てつく風を吹きつける。熱湯で熱くなった体を急激に冷やされ、ストライクは苦しそうな呻き声を上げた。
 だが、体は冷えてもストライクの興奮は冷めない。両腕の鎌を交差させ、懲りずに突っ込んで来る。
「凍える風」
 対するシャワーズは、再び凍てつく風を吹きつける。しかしストライクは、減速はしたものの止まらない。
「熱湯よ」
 だがそこに、シャワーズは間髪入れずに熱湯を噴射。今度は冷やされた後に熱され、ストライクも足を止めてしまい、吹っ飛ばされる。
 これでストライクはかなりのダメージを負ったはずだが、しかしまだ闘志は尽きていない。まだ戦い続けるというような目で、彼女とシャワーズを睨み付けている。
 そんなストライクを見て彼女は少し思案し、やがてポケットに手を突っ込む。そしてストライクに向かってゆっくりと歩を進めながら、シャワーズに指示を出す。
「シャワーズ、切り札」
 刹那、シャワーズの周囲に、蒼色に煌めく長方形の光がいくつも浮かび上がる。カードのようなそれらはゆっくりとシャワーズの周りを旋回していたが、やがて停止し、途轍もないスピードで一直線にストライクへと向かった。
 光はストライクの体を切り刻み、衝撃を与え、全身くまなく攻撃する。
 この攻撃を喰らい、ストライクは立ち上がれない。体を震わせてはいるものの、起き上がれるほどの体力はもう残っていない。
 そこに、歩を進めていた彼女が辿り着く。彼女はポケットから手を出し——その手に握っていたモンスターボールを、ストライクに触れさせる。
 ストライクはボールの中へと納まり、彼女は捕獲が成功したかどうかも確認せずに、そのボールをすぐにポケットへと仕舞ってしまった。だがいつまで経っても出て来ないところを見ると、どうやら捕獲は成功したようだ。
 シャワーズもボールへと戻し、彼女は再び闘技場に向かって進む。無数の傷が走ったその門を潜り抜け、闘技場の中へと、入っていく——



頭痛い……白黒はたまに、原因不明の頭痛に見舞われることがあるのですが、そんなことはどうでもよいです。文字数がいつもより短いのはおそらく頭痛とは無関係です。今回は遂に彼女の登場、まだほとんど出てないどころか、名前すら明らかになっていないのに、なんだかんだで手持ちのポケモンが既に三体ほど判明してしまいました。次回はフィアやイオンの方にスポットを当てるつもりです。凶暴化したポケモンたちを鎮圧する彼らの、一番の難敵が動き出します。次回もお楽しみに。

第73話 begins to move ( No.181 )
日時: 2013/07/22 11:09
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: 動き出す鋼鉄の鎧竜、そして動き始める北方最強のトレーナー——

「フィア!」
「フィア君! イオン君!」
 フィアとイオンが周りのポケモンたちを蹴散らしていると、闘技場のフィールドの入口から、緑と黒の風が飛び出し、それに続いて二人の少女がやって来る。
 フロルとルゥナだ。
「フロル、ルゥ先輩……」
「もしかして、助けに来てくれた感じ?」
「うん、そんなところかな……でも、ほとんど終わっちゃってるね」
 言いながら周囲に視線を巡らせるルゥナ。確かに闘技場のあちこちには大量のポケモンが伏しており、立っているものはいない。
 ただし、ブースターとサンダースはもう戦えないくらいに疲労困憊しているが。
「私たちが来る必要、なかったかな」
「そんなことないですよ。まだ闘技場の中にはポケモンがいるんでしょう? だったら、そっちもなんとかしないと——」
 フィアがブースターをボールに戻しながら言った、その時だった。
 地面が震撼する。
「っ、な、なに……!?」
「なにごとなにごと? なんかすっげーヤバそう……」
 震える地面。立っているのも難しい状態で、その震源を探る。幸か不幸か、源はすぐに発見できた。
「あの、メタゲラスだ……」
 それは、今まで全く動きを見せていなかった、鉄塊の如く不動だったポケモン、メタゲラス。
「そういえば、最初にあのメタゲラスがオレたちのとこに来たんだよね……なんなの、あれ?」
 どこか焦りを感じるイオンの声。彼ほどの手練れでも、目の前のメタゲラスがどれほど強大な存在なのか、分かるのだろう。
 フィアにもメタゲラスの威圧感が、ビリビリと肌で伝わってくる。そんじょそこらの野生のポケモンとはわけが違う。圧倒的な存在感。
「……私たちがここまで来た意味、あったみたいだよ、フロルちゃん」
「う、うん、そうみたい……でも、あのポケモン、怖い……」
 確かに、メタゲラスは他のポケモンと同様に、ギラギラとした獰猛な眼差しをこちらに向けている。フィアだって怖い。
 だが、このメタゲラスがそれだけ強いということは、野放しにしておけばそれだけ被害が大きくなるということだ。
「ここで止めないと……ヌマクロー!」
「そうだねー……そんじゃ行こうか、ジュプトル!」
 フィアはヌマクローを、イオンはジュプトルをそれぞれ繰り出し、メタゲラスと相対する。
「フロルちゃん、私たちも」
「う、うん」
 後方にはブラッキーとリーフィアが構えている。後ろから援護してくれるのだろう。
「よし、ヌマクロー、スプラッシュ!」
「ジュプトル、リーフブレード!」
 ヌマクローは飛沫を散らす水流を纏い、ジュプトルは両腕の葉っぱを刃のように構え、メタゲラスに特攻する。
 しかし、次の瞬間。
 メタゲラスの咆哮と共に発せられた鋼の衝撃波で、二体のポケモンは吹き飛ばされた。



「よっこらしょ、っと!」
 今ユズリが立っているのは、円形闘技場の屋上に当たる場所だ。屋上と言っても、立ち入るような場所ではなく、階段も扉もないため、ユズリは闘技場の外壁をロッククライミングして登ってきた。
 そしてその屋上にも、凶暴化したポケモンがいた。それらのポケモンをユズリは、拳や蹴り、投げ技で薙ぎ払いつつ進んでいる。
 そして、何体目となるのか、人型の格闘ポケモンを叩き落とした時、彼女の背後に一つの影が現れた。
「あ、遅いよルカリオ。こっちがどんだけ大変だったと思ってるの?」
 その影の姿——ユズリの相棒であるルカリオであると確認すると、彼女はすぐに苦言を呈した。
 ルカリオはそれを無視し、ユズリに襲い掛かろうとしていた鳥型のポケモンを球状の波導で撃ち落とす。
「ターゲットはあれ。見えるよね、あの黒いぐるぐるしてる奴。あそこからポケモンが飛び出してるみたいなんだ。理屈とか原理とかは分かんないけど、とりあえずあれをなんとかすれば騒ぎも収まると思う」
 酷く不確かな情報で、曖昧であったが、しかし彼女の言うことは正しい。現に今もなお、その黒い渦からはポケモンが飛び出している。
 そしてその飛び出したポケモンは、街へと出て暴れるか、ユズリへと向かって返り討ちにされるかのどちらかだ。
「つーわけで、こっからはガンガンスピード上げて突っ走るよ! ルカリオ、波導弾!」
 ルカリオは手中で波導を凝縮させ、一つの球体を形作る。そして勢いよく腕を突き出し、波導の球を放ち、襲い掛かってくる小型のポケモンたちを一掃する。
「バレットパンチ!」
 続けて目にも止まらぬ速度のフットワークで、中型のポケモンを打ち倒し、昏倒させる。精神の強いものは、引っ掴んで屋上から叩き落とす。
「っと!」
 その隙を突いて飛びかかってきた獣型のポケモンも、ユズリの掌底を喰らい、逆方向に吹っ飛ばされ、転がっていく過程で屋上から落ちた。
「危ない危ない、ちゃんと周りも見てよねー。じゃないと私の負担が増えるじゃん」
 そんなユズリの言葉に対し、ルカリオは軽く声を上げるだけだった。
 やがてユズリとルカリオは止めていた足を動かし、前進する。その進行を止められるものは、この場にはいなかった。



最近の更新は文字数が少なめになります。というか、視点や場面がころころ変わるので小分けにしやすいです。さて、特に書くこともなくなってしまったので、次回はメタゲラスの問題を解決、その次のはなしでフィアの問題と、凶暴化したポケモンたちの問題を解決、という感じで進みたいですね。なんか一度に予告してしまいましたが、次回もお楽しみに。

第74話 メタゲラス ( No.182 )
日時: 2013/07/25 20:41
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: メタゲラス、大暴走——!

 フィアたちのいる闘技場のフィールド。
 そこでは、また一体のポケモンが吹き飛ばされた。
「マグマラシ!」
 ルゥナのマグマラシがメタゲラスの角の一突きによって吹っ飛ばされ、戦闘不能となる。
「も、もう私のポケモンいないよ……どうしよう」
「どうしようもこうしようも、こいつヤバすぎだって。信じらんないくらい強すぎ……」
 イオンが言うように、メタゲラスは強かった。理由は二つ。一つは攻撃力が高いこと、もう一つは防御力が高いこと。この単純極まりない、たった二つのことだけだ。
 それだけで、フィアたち四人は全滅寸前まで追い込まれていた。
「ヌマクロー、マッドショットだ!」
「ジュプトル、アクロバット!」
 ヌマクローが後方から泥を噴射し、メタゲラスの隙を見つけてジュプトルが刃を一閃する。しかしどちらの攻撃も大したダメージにはならない。
 しばらくして、メタゲラスの動きがピタッと止まる。そして低く唸り声を上げている。
「やばっ……来るよ、フィア君!」
「分かってる……ヌマクロー、飛んで!」
 ヌマクローは重い体で精一杯の跳躍を見せる。隣のジュプトルも同じように飛び上がった。
 次の瞬間、地面が激しく揺さぶられる。
「地震……やっぱこれが厄介だね……」
 メタゲラスの使う技の一つ、地震。威力が高く、攻撃範囲も広い強力な技だ。この技で、ルゥナもフロルもやられている。
 幸いなのは、メタゲラスが地震を繰り出す時、その前に予備動作が入ることくらいか。その動作で、避けるタイミングがつかめる。とはいえ、たったそれだけなのも確かだし、そもそもメタゲラスの技は地震だけではない。
 やがてメタゲラスは、鋭く尖った岩石を無数に射出する。
「ストーンエッジ……! ジュプトル、かわしてリーフブレード!」
 興奮しているせいか、ストーンエッジの精度はそれほど高くない。ジュプトルは岩を隙間を縫うように躱し、葉っぱによる斬撃を繰り出す。
「ヌマクロー、マッドショット!」
 そこにヌマクローが間髪入れずに泥を噴射。効果は抜群のはずだが、正直メタゲラスにまともなダメージが通っているとは思えない。
 現にメタゲラスは攻勢を保ったまま鋼の衝撃を放ち、ジュプトルを引き剥がす。
「全然効いてない、攻撃が通じない……強すぎる、僕らじゃ敵わないよ……」
 明らかにこのメタゲラスだけは別格、強さの次元が違っていた。それを改めて認識し、フィアが弱腰になったその時だった。
「フィア君! 来るよ!」
「え……あ!」
 メタゲラスが地震を放つ。フィアはその反応に一瞬だけ遅れてしまった。しかしあのメタゲラスが繰り出すモーションから衝撃を放つまでの間なら、まだ間に合うはず。そして実際に、間一髪のところでヌマクローもジュプトルも地震は回避できた。
 そう、地震だけは。

 次の瞬間、地面から鋭く尖った岩が無数に射出され、ヌマクローとジュプトルに突き刺さった。

「な……ジュプトル!」
「ヌマクロー!」
 ジュプトルはこの攻撃で完全に戦闘不能。効果いまひとつだったヌマクローも、傷が浅いのにダメージは非常に大きい。もうまともに戦えるとは到底思えない状態だ。
 二人とも、ポケモンをボールに戻す。
「やっば、オレもうポケモンいないよ……?」
「流石にもう、逃げるしかないかもね」
 ポケモンがいなくては、メタゲラスを足止めすることもできない。ルゥナの一声で、四人が出口の方を向いた時、またメタゲラスが咆哮する。
「こ、こっちに来るよ……!」
「メガホーンだ。あのポケモンの重量で喰らったら洒落にならないって!」
「み、皆! とにかく避けてっ!」
 フィアも直感で危機を感じていた。剣のような角を構えて突進するメタゲラス。力いっぱい地面を蹴りつけ、出来うる限り遠くへ、大きく横に跳んだ。
 その甲斐あってか、確かにフィアはメタゲラスの突撃を躱せたのだが、しかし誤算が一つだけあった。

 メタゲラスが途中で止まったのだ。

「え、嘘……」
 あれだけのスピードで突っ込んで来るのだから、途中では止まれないと直感的に思い込んでいた。だがメタゲラスは、四人が避けると分かっていて、フルスピードで突っ込んだが、無理やりブレーキをかけて無理やり止まった。
 その止まった位置が、フィアのすぐ横だ。
「……!」
 再び聞こえる咆哮。もう何を言っても、何をやっても無意味だ。それらが届く前に、メタゲラスの破壊が訪れる。
 だがそれでも、反射的にだろう。フィアは横に転がろうとする。メタゲラスは角を振り下ろす。鋭利な刃のような角を。
 グサリ、と。
 フィアの胴の腕の間の地面に、剣が深々と突き刺さっていた。
 フィアの行動は、正直に言って遅かった。しかしその遅さのお陰で助かったようだ。下手に早かったら、今頃彼の片腕はなくなっていただろう。
 そういうわけで、フィアは今、メタゲラスの角に腕を引っかけた形になっている。体重をかけるように、横向きにぶら下がっているように。
 それはつまり、接触。メタゲラスに触れているということだ。
 その接触を自覚した瞬間、フィアの頭の中に、何かが流れ込んで来る。一瞬でフィアの脳内は黒く浸食されていく。
 目の前が、真っ暗になる——



 古ぼけたビデオカメラのようだった。映像は、視界不良で画面には幾重もの線が走り、ノイズが酷い。それが本当にただのビデオカメラなら酷評するだけに終わるのだが、残念なことにこの映像は自分の眼球であり、音は自分の耳が受け取っているものであるため、非常に奇妙な気分だ。
 真っ暗な視界に、テレビの砂嵐のような線が走る。その線もだんだんと消えていき、ある程度の視界が開けてくる。それでもまだ、明瞭とは言えないが。
 真っ暗な暗闇の中に映るのは、三つの影。人の形をしている影と、先ほど自分たちに襲い掛かってきた鎧竜とよく似たシルエット。
 そしてもう一つは、影。そうとしか表現できないものだ。暗闇の中でも浮き上がるくらい黒い、渦巻く影。そこだけがぼんやりとし過ぎており、それ以上の情報は得られない。
 またしばらくして、視界が少しずつ良くなっていく。同時に雑音だらけの音も、少しずつ聞き取れるようになってくる。
(あれ……そういえば、こんなこと、前にもあったっけ……?)
 思い出す。確かあれは、ライカシティの停電騒ぎの時だった。自分を救ってくれたトレーナーのポケモン、デンチュラに触れた時にも、同じような感覚に囚われた。
 その時と違うのは、あの時は一瞬しか感じなかったものが、今回は長い時間をかけて、ゆっくりと伝わってくるということ。そして聴覚による情報があるということ。
(あの時は、本当に一瞬だったなぁ……あれ? あのポケモン、メタゲラス……?)
 明瞭になっていく視界は、ある一定のところまで行くとストップし、それ以上は良くならなかった。しかしそれでも、不明瞭な影が、一体のポケモンであると認識するまでには至っている。
 その一つは、メタゲラスだった。さっきまで、自分たちを襲っていたポケモン。
 そして、
(あ、あの人……!)
 もう一つ、人型の影の正体もつかめた。それは、自分を助けてくれたトレーナー。ということは、このメタゲラスはあのトレーナーのポケモンなのか。
 ぼんやりと思考していると、耳に声が届く。若干のノイズが混じってはいるが、辛うじて聞き取れる声だ。

 ——もう……くらいここに……な。メタゲラス、君で……半分か。ダイ……チュラ、……、……ローゼ……なんにしても、どれくらいもつか。あれから……通しだ。よく……狂わないな、自分の精神が……られないよ。

 全ては聞き取れない。あの青年の状況すら理解できない。しかし彼が、なんらかの窮地に立たされているようなことだけは、なんとなく分かった。
 フィアは無意識に手を伸ばす。彼を助けようとしたのか、それとも何かを伝えたかったのか、理由は分からない。しかし伸ばした手は、闇を掴むだけだ。
 こちらからは、彼に接触できない。どころか、だんだんとフィアの意識は薄れていく。
(あ、あれ……? 意識が、遠のく……う、うぅ……)
 視界がまた不明瞭になる。良くなる時は時間がかかっていたが、悪くなる時は早い。すぐに視界が黒に塗りつぶされ、何も聞き取れなくなる。

 そしてフィアの意識が、現実に引き戻された。



というわけで、薄々分かっていたかもしれませんが、暴れていたメタゲラスは彼のポケモンでした、という話です。関係ないですが、なんだか後半部分の暗い空間を書いていると、どうしてもFFを思い出します。いや、かの作品にこんなシーンがあったかどうか知りませんが、なんとなく雰囲気に既視感を感じてしまうんですよね。勝手な思い込み、みたいなものだと思うんですけど。さて、というわけでそろそろこの騒動も終わりにしたいですね。あと三話、できれば二話で終わらせたいところです。ではでは、次回もお楽しみに。

Re: ポケットモンスター 七つの星と罪 ( No.183 )
日時: 2013/07/25 22:22
名前: タク ◆XaammrlXPk (ID: 0.DI8Vns)

どうも、ご無沙汰です。スタジアムが突如、大量のポケモンに襲われたと言うところから、これは実際のゲームで起こったらヤバイなと直感しました。自分はポケモン大量ゲットチャンスだと向かっていきそうですが、冷静になってみればそんなこと言ってられる状況じゃありませんね。そして、青年に襲い掛かった窮地とは?そしてフィアは何故、そのことを感じ取れたのか?今後が楽しみです。それでは。


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