二次創作小説(紙ほか)

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ポケットモンスター 七つの星と罪
日時: 2013/07/21 23:48
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
 旧二次小説板を覗いた事のある人なら、知ってる人がいるかもしれませんね。以前もポケモンの二次小説を執筆していました。
 前作はゲームのストーリーをモデルにしていましたが、今回はほぼ完全なオリジナルです。前作との繋がりは……ないとは言いませんが、一作目と二作目ほどの繋がりはありません。

 ちなみに白黒は前作、この時期ぐらいに更新が止まっていました。何分この時期は忙しい身でして、しばらく更新は遅いと思いますが、ご了承ください。

 それと、本作品では非公式のポケモンも登場します。>>0にURLを貼っていますので、参考にしてください。
 なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。それは物語を進めていくうちに作中で追々説明しますが、まあ超次元サッカーとか異能力麻雀とか、そんな感じのものだと思ってください。

 それでは、白黒の新しい物語が始まります——

登場人物紹介
>>31



プロローグ
>>1
序章
>>7 >>10 >>11

シコタン島編
ハルビタウン
>>12 >>13 >>14
シュンセイシティ
>>17 >>18 >>23 >>24 >>29 >>30 >>35
ハルサメタウン
>>37 >>40 >>41 >>42 >>43

クナシル島編
サミダレタウン
>>63 >>73 >>74 >>77 >>80 >>84 >>87 >>88
ライカシティ
>>91 >>92 >>95 >>98 >>99 >>100 >>106
オボロシティ
>>108 >>109 >>110 >>111 >>112 >>115 >>119 >>120 >>123
カゲロウシティ
>>126 >>127 >>128 >>129 >>130 >>131 >>133 >>134 >>135 >>136 >>137 >>140 >>143 >>149 >>150
ライウタウン
>>151 >>154 >>155 >>156 >>159 >>162 >>166 >>171 >>172 >>175 >>176 >>177 >>178 >>179 >>180

Re: ポケットモンスター 七つの星と罪 ( No.9 )
日時: 2013/04/15 02:14
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 今作のサブタイトルの法則『日本語以外』

タクさん


 ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。と言っても、世界観はゲームとほぼまんまですけどね、脚色は加えてますが。
 まあ、世の中にはダイナマイトで加速したりタンクローリーを落としたりするような奴がいるので、灯油缶に引火させるくらいならまだ可愛いものでしょう。ただ目覚めるパワーのタイプを言わなかったのは、策略っぽいところがありますが。
 今後どうなるのかは、次回以降のお楽しみですね。
 白黒もブースターは好きです。順位を付けるなら、一位ブラッキー、二位ブースター、三位リーフィアって感じですかね。
 ブースターはイーブイから唯一もふもふを受け継いでますからね。唯一王なんて呼ばれて蔑まれてますけど。
 実は、ブースターは遅い上にHPが少ないからフレアドライブを覚えてもあまり活用できないそうです。ただまあ、物理炎技最強が炎の牙よりは遥かにマシでしょうが。

第2話 darkness sanctuary ( No.10 )
日時: 2013/04/15 20:06
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 辿り着いたのは、薄暗い遺跡の中……

「……ここは?」
 目覚めた時、我が目を疑った。そこはさっきまでポケモンがはびこっていた街ではなく、薄暗い石造りの建物だった。
 所々ボロボロで、地面は抉れ、壁は崩れ、柱は折れている。相当老朽化しているが、どこか神秘的な雰囲気がある。
「僕はさっきまで街にいたはずじゃ……いや、それよりも。部長! どこにいるんですか!?」
 叫んでみるが、虚しくこだまするだけだった。彼女の声はどこからも聞こえてこない。
「まさかあの爆発で……いや、そんなことは……。……っ!?」
 その時、何かを踏んだ。慌てて足をどけると、そこには茶色くて毛むくじゃらの生き物が——
「って、イーブイか」
 爆発に巻き込まれ、一緒にここまで来たようだ。イーブイは尻尾を踏まれて怒ったような顔をしている。
「ご、ごめん。暗くて、よく見えなかったんだ」
 慌てて弁明するが、イーブイはそっぽを向いてしまう。
「ほ、本当にごめんさい……」
 平謝りしつつ、イーブイを抱きかかえる。薄暗い神殿は肌寒く、イーブイの温もりがあるだけで体温だけでなく心も安らぐ。
「とにかく、部長を探さないと」
 きょろきょろと辺りを見回すが、前も後ろも闇がひしめいており、先が見えない。不安が押し寄せてくるが、イーブイを抱きしめつつ、歩んでいく。



 どれくらい歩いただろうか。ずっと一本道の通路を歩き続けていると、不安感も増してくる。もしかしたらこのまま、ここから出られないのではないか。彼女も見つけられないのではないか。そう思えてしまう。
 しかしその時、少し先の通路の脇に入口らしき穴が見えた。そこからは、微かだが光が漏れている。
「……もしかしたら、部長かも。行ってみよう、イーブイ」
 そうして小走りに通路を抜け、穴を通過する。
 穴の先は広間のようだった。何十メートルもありそうな高い天井の、円形の広間。その中央には誰か人がいるようで、パチパチと火を焚いている。
「あれは……部長じゃない、かな……?」
 煙で顔はよく見えないが、見たところ男性のようだ。
 彼女でないのは残念だが、それでも人と出会えたのは幸運だ。とりあえず話を聞いてみようと足を踏み出すが、崩れた石の破片を踏みつけ、滑って転んでしまった。
 ドテッ、と間抜けた音が部屋の中に響く。
「! 誰だ!」
「わっ! い、いや、別に怪しい者じゃ……」
 転んだ音に反応して男性は立ち上がり、こちらへと駆け寄って来る。
 近付いて分かったが、かなり若い。男性というより青年といった方がしっくりくる。年齢は二十歳そこそこというくらいだろう。顔にはまだ幼さが残っているが、同時に逞しさも感じる。
 青年はこちらの存在に気付くと、警戒心を緩めたように表情を緩める。利発そうな顔立ちで、人が良さそうだった。そして今度は、不思議そうな顔で疑問符を浮かべる。
「君は……どうしてここに? 普通のトレーナーじゃあ、ここには来れないはずだけど」
「と、とれーなー?」
 聞かない言葉だった。いや、聞いた事はあるが、こんな状況で使う言葉だったかと疑問に思う。
 それを察してか、青年は手招きして焚火の側へと誘導した。落ち着けということだろうか。
 とりあえず誘導されるままに焚火の側に腰を下ろし、青年と向かい合った。
「まず、名前を聞こうか。君、名前は?」
「あ、えっと……フィア、です」
 あまり自己紹介はしたくなかったが、こんな状況では仕方ないことだ。
 青年は名前を聞くや否や、考え込むように顎に手を当てた。
「フィア? うーん……?」
「あ、あの、変な名前ですよね! これは母親が外国人で、その関係でこうなったものでして……」
「いや、この世界じゃ普通だよ。それより君——いや、フィア君か。君は、トレーナーを知らないのかい?」
 フィアの言い訳を流して、青年はそんな問いかけをする。なのでフィアは、自分が知るトレーナーの知識を語ったのだが、青年の反応は芳しくなかった。
「うーん、なんだろう。僕らと違う文化なのかな? じゃあ、流石にポケモンは知ってるよね。イーブイ連れてるし」
「あ、はい。いやでも、まだ分からないとこだらけですけど……」
 とりあえず、フィアは今までの経緯を説明した。突然自分たちの街にポケモンという生き物が現れたこと。黒い影のようなものに飲み込まれたこと。フィアが部長と呼ぶ彼女を探していること。
 フィアはお世辞にも説明が上手とは言えなかったが、それでも青年は黙って聞き、相槌を打ちながら、最後まで聞いてくれた。そして、
「そうか。やっぱり君が……ってことは、君はあのポケモンに連れてこられたのか。なら、その部長って人は……」
 また青年はぶつぶつ呟き始めた。独り言が癖なのだろうか。
「あ、あの……」
 たまりかねてフィアは声をかけると、青年はすぐに顔を上げた。
「ん、ああごめん。そうだね、僕はその部長って人がどこにいるのかは知らないけど、この神で……遺跡の出口なら知ってるから、よければ案内しようか」
「え? 本当ですか?」
「うん。なんにせよ、ここはあまり安全な場所とは言えないからね。今はまだ大丈夫だと思うけど、そのうち奴が来る」
 青年はスクッと立ち上がった。それに合わせてフィアも立ち上がるが 、
「っ? うわっ!」
 なにかがフィアの足にぶつかってきた。なのでフィアはバランスを崩し、その場にしりもちをついてしまう。
「大丈夫かい? って、ダンバルか。珍しいポケモンだね」
「ダ、ダンバル……?」
 引き起こしてもらいながら足元を見ると、確かにそこには、ポケモンと思しき生き物がいた。
 青い鋼鉄の体。三本の爪に、頭部は球状で赤い眼玉が一つある。
「フィア君は、イーブイ以外にポケモン持ってるの?」
「あ、いえ。持ってないです」
「ならちょうどいいし、捕まえておきなよ。野生のダンバルなんて滅多に見れるものじゃないよ。それにこのポケモンは、育てるとかなり強いしね。僕も苦戦したことがあるよ」
「はぁ……」
 だが捕まえろと言われても、どう捕まえればいいのか分からない。確かイーブイは、モンスターボールという球体に入っていたが。
「ん? ああ、そうか。ボールがないんだね。はいこれ」
「あ、ありがとうございます……」
 フィアは青年から球状の機械、モンスターボールを受け取る。一度に五つも貰ってしまったが、そんなに必要なのだろうか。
「白いボタンの部分をポケモンに当てればいいんだよ。そうすれば捕まる……かもしれない」
「かもしれないって……えっと、こうですか?」
「あ、ちょっと——」
 言われた通りフィアはボールのボタンをダンバルに押し付けた。するとボールが開き、ダンバルがその中に吸い込まれていく。
 ボールはフィアの手の中から抜け出して地面に落ちる。するとカチカチと何度か揺れ、カチッと最後に音が鳴ったきり動かなくなった。
「…………」
「えっと、これでいいんですか?」
「……あ、うん」
 どうにもリアクションが微妙だった。
「凄いね……ダンバルはかなり捕まえにくいポケモンなのに、ダメージも与えず一発捕獲なんて」
「ダメージ?」
 聞いてみると、ポケモンは捕獲の際、ダメージを与えたり、状態異状にすると捕まえやすくなるらしい。なのでポケモン捕獲の際は、一度戦って、ダメージを与えてからボールを投げるのがセオリーなんだとか。
「というより、普通のポケモンならダメージを与えて弱らせないと、ボールから出て来るよ。誰だって好き好んで捕まりたくないしね。まあ、例外はあるけど」
「そうなんですか」
 それ以外にも、青年は色々なことを教えてくれた。彼女は断片的かつ端的な説明しかしなかったが、青年は丁寧で分かりやすく教えてくれたので、フィアでも概ね理解できた。
「よく知ってるんですね」
「まあ、ね。幼馴染がトレーナーズスクールっていう、トレーナーの学校で先生をしてて、その繋がりで。そんなことより、変なところで寄り道しちゃったね。早くここから出よう——」
 と、青年が一歩踏み出したところで、ぞわりと、嫌な感覚が全身を襲った。
「っ!」
「……!」
 二人は自然と同じ方向を向く。すると、そこにはフィアが吸い込まれたものと同じ、黒い渦があった。あの時よりもよりはっきりと見える。その背後にある、禍々しい影も。
「な、ま、また……!?」
 黒い影は、黒い翼をもつ龍のようであった。しかし翼は朽ちたようにボロボロ……影だけだが、そんな風に見える。

第3話 black vortex ( No.11 )
日時: 2013/04/16 03:17
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 謎の黒い渦、再発。

「なんでこんなに早く……!」
 青年はギリッと歯軋りする。
 渦はどんどん大きくなっていき、その中心からなにか黒い物体を無数に射出した。
 物体はフィア達を取り囲むようにして放たれ、着弾。そこから長方形に広がっていき、その先は真っ暗な空間が延々と続いている。
「な、なに、これ……!」
 街で味わった時以上の恐怖を感じる。四方八方は黒い扉のような空間が広がるばかりで、フィアたちの逃げ道はほとんどない。
 それだけでなく、空間からはなにかが飛び出してくる。恐らく、ポケモンだ。しかし街で見たような小型のポケモンは少なく、大型のポケモンや、凶悪な形相、奇怪な形状のポケモンなど、見るからに恐ろしいものばかりだ。
「バンギラス、ミカルゲ、ネクロシア……! くそ、よりによってなんて奴らを呼ぶんだよ」
 青年は毒づき、素早くボールを取り出した。そして、
「出て来いダイケンキ! 吹雪で薙ぎ払え!」
 出て来たのは、頭部に一本の立派な角を持つ、海獣のようなポケモン。ダイケンキというようだ。
 ダイケンキは口から猛吹雪を放ち、扉から現れたポケモンたちを攻撃していく。大抵のポケモンはそれだけで吹っ飛ばされていった。
「す、凄い……ダンバル、僕らもやろう」
 黙って見てるだけでは悪いと思い、フィアはダンバルを敵に向かわせる。が、
「! 待って!」
 青年が制止するが、遅かった。
 ダンバルは巨大な怪獣のようなポケモンに、地面を抉るほど殴り飛ばされた。
「ダンバル!」
 怪獣はダンバルに近づいていき、さらに攻撃を叩き込む。もう戦えないはずなのに、痛めつけるよう、何度も、何度も。
「ダ、ダンバル……!」
「フィア君! 早くダンバルを戻すんだ! このままだと取り返しにつかないことになるぞ!」
 青年の言葉でフィアは我に変える。さっきダンバルを捕まえたボールを不慣れな手つきで手に取って、ダンバルをボールに戻そうとする、が
「あ、あれ、戻らない……!?」
 いくらボタンを押しても、ダンバルがボールに入らない。光はダンバルに当たっているのだが、そこで雲散霧消してしまう。
「な、なんで……!? このままじゃダンバルが……!」
「……あれか」
 青年は怪獣がいる方向とは別の方向を向いた。そこには、一羽の小さな烏のようなポケモンが飛んでおり、ダンバルをジッと見つめている。
「ヤミカラスの黒い眼差し……面倒なことするな。ダイケンキ、まずはダンバルを助けるよ! バンギラスにシェルブレード!」
 ダイケンキは両前脚から一振りの刀のようなものを抜き、バンギラスというらしいポケモンを切り裂いた。
「メガホーンだ! ヤミカラスにぶつけてやれ!」
 そしてそのまま大きな角でバンギラスを突き上げ、あろうことか空を飛んでいたヤミカラスのとこまで吹っ飛ばし、ヤミカラスを押し潰す。
「さあ早く! ダンバルを戻すんだ!」
「は、はい……っ!」
 さっきと同じようにボールを操作し、今度こそダンバルをボールに戻す。戻す前の傷は、酷過ぎて見ていられなかった。
「早く手当てしないと、ボールの中とはいえダンバルもやばいかもな……でもそれにはまず、こいつらをなんとかしないと……」
 気が付けば、周囲は完全にポケモンに包囲されていた。もう逃げることはできなさそうだ。
「ヘルガー、マニューラ……ズルズキンまでいるのか。これは厄介だな。フィア君、イーブイもボールに戻して」
「わ、分かりました。戻って、イーブイ」
 言われた通りに、フィアはイーブイをボールに戻す。ダンバルの二の舞になってはいけない。
「さて、こいつらをどう処理するか……」
 青年が厳しい面持ちで包囲網を眺めていると、突然、ポケモンたちは飛びかかってきた。
「う、うわあぁっ!」
「くそっ! ダイケンキ、フィア君を守るんだ! そして、頼んだ、ディザソル!」
 ダイケンキはフィアの側に寄り添い、襲い掛かって来るポケモンを薙ぎ払う。
 そして青年は、次のボールからポケモンを繰り出す。白い体毛に覆われ、頭には鎌のような漆黒の刃が二つある。禍々しくも神聖な雰囲気を醸し出す、不思議なポケモンだ。
 毛並みはかなり美しく、見惚れてしまいそうだが、フィアも青年も今はそんな場合ではなかった。特にフィアは恐怖と焦りで、青年が新しいポケモンを繰り出した、としか認識できていない。
「ディザソル、神速!」
 ディザソルは目にも止まらぬスピードで動き回り、周囲にポケモンたちを薙ぎ倒していく。
 ダイケンキも刀や角を使ってフィアを守り、ポケモンを倒していく。そんな時間が続くが、すぐに終わりを告げた。
「っ! 遂に来たか……!」
 扉を出現させた黒い渦。それがかなり大きくなっており、その裏側の影も、比例して大きくなっている。

キルキルキュルル ギュルギルギルギィギュルル ギュグググググ ギガガルルル……!

 刹那、影からおぞましい呻き声が聞こえる。発音が奇怪すぎて何と言っているのかは全く分からないが、呻き声も少しずつ大きくなっていき、それはやがて、叫び声へと変貌する——

 ギギュ ギギギギガガガギガ ギルルルギュルギグルルギ ギギャルギグギギュルルル ギルルルルルルルッ! 

 次の瞬間、黒い渦はさらに大きくなり——フィアたちを吸い込む。

「え、う、うわぁ!?」
 見えない力に引っ張られ、フィアは態勢を崩す。咄嗟にダイケンキに掴まったが、渦はダイケンキもろとも吸い込むつもりのようで、さらに吸引力を増していく。
「フィア君! ダイケンキ! くっ……!」
 青年の方にも、フィアを吸い込もうとするものとは違う渦が存在していた。あちらも吸い込まれないように体を支えている。
 しかし、それもすぐに限界が来た。渦はさらに吸い込む力を増大させ、フィアも、ダイケンキも、青年も、すべてを吸い寄せる。

 ギギャラギルララ ギルルルルルグ ギラララ ギギギギガガガギルルル ギガルラララギガララ ギガルルルルルルルル———————ッ!

「う、う、うわ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 そしてフィアは、巨大な闇の渦に、飲み込まれていった——

第4話 another world ( No.12 )
日時: 2013/04/16 19:28
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 再び見知らぬ地に飛ばされたフィア。そこには……

 音が聞こえてくる。なにかが匂ってくる。
 水のせせらぐ音、草の匂い。今までこのような感覚はあまり感じたことはなかったが、いざこうして感じてみると、意外と分かるものだった。
「……ね……て……ぇ……っ……ば……」
 せせらぎの他に、違う音……いや、声が聞こえてくる。
「だい……ぶ……ね……きて……ってば……」
 重い体を転がし、仰向けになった。光りが眩しい。うっすらとしか目を開けられない。
「あ、生きて……かった……。……じょうぶ?」
 聞こえてくるのは少女の声だ。そして、目に映るのも、少女だった。
「ぶ、ちょう……?」
「え? なに?」
 やっと光に目が慣れてきた。普通に目を開くと、まだ目ヤニで霞んでいるが、少女の姿をはっきりと捉えた。
 小柄な少女だ。かなり幼い顔立ちで、少々癖のある黄緑色の髪をポニーテールにしている。
「黄緑……?」
 フィアは驚きを隠せない。自分の髪の色も大概だが、まさかリアルでこんな色の髪を見るとは。
「きみ、だいじょうぶ? ケガとかない?」
 少女は覗き込むようにしてフィアに問いかけてくる。フィアはゆっくりと起き上がった。
「怪我は……ない、と思う……」
「よかったぁ……こんなところに倒れてるから、どうしたのかと思ったよ」
 少女はほっと胸を撫で下ろす。そして気付いたが、この少女、髪色だけでなく格好も奇妙だった。
 藍色のプリーツスカートに白いキャミソールのような上衣と、かなり薄着だ。しかもその上にやたら年季の入ったボロボロのダッフルコートを着ているものだから、ますます奇妙である。コートはトグルが全て外れていて、前は全開だ。その様子は、まるで浮浪者である。
「……浮浪者?」
 そしてフィアは思ったことをそのまま口に出してしまった。すると少女は当然ながら、怒ったように頬を膨らませる。
「あ、ひどい! ちがうよ、これはこういうファッションなの! かっこよくない?」
「いや、別に……」
 少女の若干ずれたファッションセンスに同意することなく、フィアは軽く返した。
「そんなことよりも、ここは……?」
 周りを見渡すが、そこはさっきまでいた遺跡ではない。小さな原っぱで、少し先には建物が見える。
「ここ? ここはハルビタウンだよ?」
「春日……?」
 少女はさも当然というようにそう言うが、フィアの感覚からすれば当然でもなんでもない。そんな町の名前は寡聞して知らない。
 そんなフィアの態度に、少女は疑問符を浮かべる。
「知らないの? シコタン島の南にある町だよ。ポケモン研究所があるから、結構有名だと思ったんだけど……正式な研究所じゃないからかな?」
「えっと……」
 よく分からないが、フィアの常識と少女の常識がずれていることは理解できた。そして少女がポケモンと言ったということは、この場所も、彼女やあの青年となにか関係があるのかもしれない。
「それよりも、このポケモンはきみの?」
「え?」
 少女が視線を向けた先には、フィアを守り、傷だらけになったダイケンキの姿があった。どうやら一緒に飛ばされて来たらしい
「ダイケンキ……!」
「さっきイーくん——博士を呼んだから、だいじょうぶだよ。たぶんそろそろ来ると……あ、来た!」
 少女が声をあげ、フィアはまた視線を移動させる。そこには、一人の少女の姿。
「よーぅ、フロル。倒れている男ってのは、こいつか?」
 粗雑で荒っぽい口調とは裏腹に、可憐な容姿。長いこげ茶の髪をポニーテールにし、白衣を羽織っている。さっき博士と呼ばれていたのは、この白衣があるからだろうか。
 博士はしゃがみ込んでフィアと目線を合わせ、ペチペチと頬を叩いてくる。そしてスクッと立ち上がると、
「ま、大丈夫だわな。見たところ怪我はなさそうだし、唾でもつけときゃ治るぜ」
「えー……」
 かなり適当な発言だったが、確かにフィアはどこかを怪我しているわけでも痛めているわけでもないので、不服ながらもその診断は正しい。
「それと……こっちがダイケンキか。懐かしいぜ。俺の息子の相棒もダイケンキだったなぁ……いつかぜってーリベンジしてやる」
 などと言いながらダイケンキに歩み寄る博士。息子などとよく分からない単語が飛び出た気がするが、フィアは聞こえないことにした。
「どう、博士? そのダイケンキ」
「大丈夫だと思うぜ。このダイケンキ、よく鍛えられてる。並みのトレーナーじゃここまで鍛え抜くのは難しいくらいだ……つーかこのダイケンキ、どっかで見たことあるような……」
 博士はしばらくぐったりしているダイケンキの診察を続けた。その表情は、時間が経つごとに険しくなっていく。
「は、博士? どうしたの、顔が怖いよ……?」
 少女の言葉を無視し、博士はフィアの方を向いた。
「こいつぁ……おい、お前」
「えっ、はい……」
「このダイケンキ、どこで見つけた。いや、このダイケンキのトレーナーを、どこで見た?」
「えっと、その……」
 フィアにもまだ状況がよく分かっていないので、説明が難しい。なにより今のフィアは、落ち着いて説明ができるような状態ではない。
 博士はそんなフィアの心情を察したのか、
「……とりあえず、このダイケンキを運ぶか。話は研究所で聞かせてもらうぜ。俺の予想が正しければ、お前、この地方の——いんや、この世界の人間じゃないんだろ?」
「えっと……はい」
「え? な、なに? どういうこと?」
 慌てふためく少女をまたも無視し、博士は長方形の機械を取り出して操作する。そして、
「じゃ、行くぜ。ハルビタウンのポケモン研究所にな」



あっぶねぇ……僕としたことが、初っ端からあとがきを書くの忘れてました。前作を知っている人ならお馴染みのあとがきです。ちなみに近々目次を作りますが、第3話までは序章で、今話から本格的なストーリーに入ってきます。今作での主人公は気弱な少年、フィア。ポケモンに関する知識がほぼ皆無という、超初心者トレーナーです。前作の主人公は結構知識面でも優れていましたが、今回は当たり前のことでも彼にとっては知らない事なので、その辺を上手く書ければいいなと思っています。それでは次回、ハルビタウン研究所です。何が起こるかは、ご想像にお任せします。では、次回もお楽しみに。

第5話 ホッポウ ( No.13 )
日時: 2013/04/16 22:53
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: ホッポウ地方のモデルは北方領土。シンオウと被ってるとか気にしない

「……成程な。つまりお前は、その部長とかいう女に連れられて、この世界に来たってわけか」
「えっと……はい、たぶん……」
 ダイケンキを運び、フィアは博士と少女——少女はフロルという名前らしい——と共に研究所を訪れていた。
 博士はフィアの話を聞き、妙に納得していた。フロルも少し困惑していたが、最終的には飲み込んだようだった。
「ま、この世界は超常現象の塊みてぇなもんだしな。異世界から野郎が来たところで、そこまで驚きはしねぇ」
 超常現象の塊というのがどんな世界なのか、フィアには想像しがたいものだったが、ついさっき自分が経験したことが頻発する世界だとしたら、おぞましいの一言に尽きる。
「さて、さっきも説明したが、まだ飲み込み切れてねぇだろうしもう一度説明してやる。ここはホウエン、ジョウト、カントーのずっと先、シンオウ地方のすぐ北にある、三つの島と一つの諸島からなる地方。ホッポウ地方だ。そんでここは三つの島で最小の島、シコタン島の南に位置する町、ハルビタウン」
 なんとか地方についてはまだ気にしなくていいと付け足し、博士は続ける。
「この地方の特徴は、島ばかりでありながら多種多様なポケモン生息していること。この地方のポケモンは他の地方では覚えられない技を覚えること。そして、この地方で発祥したポケモンが存在しないことだ」
「発祥したポケモンがいない……?」
「ああ。ホッポウには、この地方にはを原点とするポケモンが存在しない。ま、そんなことはどうでもいい」
 少なくともお前にとってはな、と博士は言った。
「重要なのは、お前がこの世界に飛ばされたことだ。恐らく伝説のポケモンが絡んでるんだろうな。可能性としてありそうなのは、シンオウ地方の神話で伝えられている、パルキアが怪しいか。なにせ空間を司るポケモンだ、次元の壁を超えることくらい造作もないだろう」
「え、ポケモンってそんなことまでできるんですか……?」
「まぁな。つっても伝説のポケモンだからこその力だが」
 となると、フィアや彼女、あの青年を飲み込んだ渦の裏側にいた影も、伝説のポケモンなのだろうか。
「……ま、こんなとこでそんなこと言い合っててもしょうがねぇ。今は行動あるのみだ。なぁ、お前……フィアとか言ったか?」
「はい」
「お前、元の世界の戻りたいか?」
 勿論、と即答したかったが、フィアの性格上、それは無理だった。しかし。
「と、当然です。一刻も早く戻りたいですよ」
 元の世界に戻りたい、という気持ちは、今のフィアの大部分を占めている。なので、彼にしてははっきりと、そう言った。
「おし。なら決まりだ。フィア、お前にはホッポウ地方を旅してもらう」
「え……?」
 あまりにも唐突だったので、フィアは呆然とする。しかし博士は構わず続けた。
「正式に資格を持ってるわけじゃぁねぇが、俺も研究者の端くれだ、お前がなんでこの世界に飛ばされたのか興味がある。だがそれにはあまりにも情報が少なすぎるんでな。お前には俺の研究の手伝いをしてもらいつつ、元の世界に戻るための手掛かりを探す。どうだ、一石二鳥だろ?」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。旅なんて無理ですよ、僕には」
 フィアの常識では、未成年の一人旅なんてありえない。危険だし、なによりフィアはその手の技術や知識がない。
 だが博士は、そんなフィアの主張を否定する。
「んなこたねぇ。この世界じゃ、10歳になればトレーナーになって旅に出られるんだ。逆に言えば、それくらいこの世界は旅人に対して親切になってるってこった。俺の息子も13ぐらいの時に旅立ったしな」
 博士はそう言うものの、フィアからすれば不安ばかりだった。フィアの感覚では、旅とは生死を賭けるような所業。生半可な覚悟では到底不可能なことである。
「覚悟がいんのはなにするにしても同じだ。それに安心しろ、付き人も用意してやる。なぁフロル」
「えっ? わたし!?」
 急に話を振られて慌てるフロル。
「たりめーだ。お前もそろそろ旅立ってもいい歳だろ。俺が前に渡したポケモンだって、きっちり進化させたじゃねぇか」
「で、でも……」
「大丈夫だ、自信を持て。お前よりフィアの方が、この世界では初心者なんだぜ? お前がサポートしてやれ」
「う、うん。イーくんがそう言うなら……」
「うっし! じゃあ決定だ!」
 博士はポニーテールを跳ね上げるように勢いよく立ち上がった。
「とりあえず今日はもう休め。そんでもって明日また研究所に来い。その時が、お前らの旅の始まりだ」



 ……こうして、半ば強引にフィアとフロルの旅は始まった。フィアは元の世界に帰る手掛かりを探すため、フロルはフィアのサポートと、ポケモントレーナーとして己を鍛えるために——



あとがき二回目。今回はいつもより短いですね、2000文字程度しかありません。URLにもありますが、今作の舞台であるホッポウ地方のモデルは北方領土です。島の名前からして分かりますかね? 確かシンオウ地方のポケモンリーグだかなんだったかが、北方領土の一部だった気がしますが、気にしません。いや、気にはしますが、そのうち説明します。さてそれでは、次回はフィアとフロルの旅立ちです。研究所では通例のイベントが行われる……予定です。次回もお楽しみに。


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