二次創作小説(紙ほか)

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ポケットモンスター 七つの星と罪
日時: 2013/07/21 23:48
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
 旧二次小説板を覗いた事のある人なら、知ってる人がいるかもしれませんね。以前もポケモンの二次小説を執筆していました。
 前作はゲームのストーリーをモデルにしていましたが、今回はほぼ完全なオリジナルです。前作との繋がりは……ないとは言いませんが、一作目と二作目ほどの繋がりはありません。

 ちなみに白黒は前作、この時期ぐらいに更新が止まっていました。何分この時期は忙しい身でして、しばらく更新は遅いと思いますが、ご了承ください。

 それと、本作品では非公式のポケモンも登場します。>>0にURLを貼っていますので、参考にしてください。
 なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。それは物語を進めていくうちに作中で追々説明しますが、まあ超次元サッカーとか異能力麻雀とか、そんな感じのものだと思ってください。

 それでは、白黒の新しい物語が始まります——

登場人物紹介
>>31



プロローグ
>>1
序章
>>7 >>10 >>11

シコタン島編
ハルビタウン
>>12 >>13 >>14
シュンセイシティ
>>17 >>18 >>23 >>24 >>29 >>30 >>35
ハルサメタウン
>>37 >>40 >>41 >>42 >>43

クナシル島編
サミダレタウン
>>63 >>73 >>74 >>77 >>80 >>84 >>87 >>88
ライカシティ
>>91 >>92 >>95 >>98 >>99 >>100 >>106
オボロシティ
>>108 >>109 >>110 >>111 >>112 >>115 >>119 >>120 >>123
カゲロウシティ
>>126 >>127 >>128 >>129 >>130 >>131 >>133 >>134 >>135 >>136 >>137 >>140 >>143 >>149 >>150
ライウタウン
>>151 >>154 >>155 >>156 >>159 >>162 >>166 >>171 >>172 >>175 >>176 >>177 >>178 >>179 >>180

第59話 clue ( No.154 )
日時: 2013/06/01 20:04
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: 始まるライウタウン大会。フィアの探し人、現る——!

「ブースター、ニトロチャージ!」
 ブースターは全身に炎を纏い、手足の生えたテントウムシのようなポケモンを吹っ飛ばす。

『Information
 レディアン 五つ星ポケモン
 体は貧弱だが、非常に知能の
 高いポケモン。進化によっては
 人間を従えることもできるらしい。』

 吹っ飛ばされたレディアンは身を焦がしながら壁に激突し、戦闘不能となった。
 ライウタウン大会の予選は、一対一のポケモンバトルによる総当たり戦。A〜Dのブロックから上位八名を選出し、その選ばれた者が本戦へと進むことができる。
 そしてフィアは今まさに、予選の最後の試合を勝ち星で通過したところだ。
 予選が終わり、控室に戻る。予選の結果はターミナルに送られてくるらしいので、その時を不安と期待を抱きながら待つ。そして、
「……っ、やった、残ってる……!」
 予選通過者の一覧には、フィアの名前があった。順位などは明かされていないようだが、恐らくギリギリの通過だったのだろう。
「お? フィア君も予選突破したんだ。よかったじゃん」
 不意に、いつの間にか近くにいたイオンに声をかけられた。
「イオン君……君も予選は抜けたの?」
「勿論。らくしょーらくしょー。全試合勝ってきたよ」
「全試合……!? 凄いね」
 参加者が多いこともあって、試合回数もそれなりに多かった。それを全試合勝ち星に収めたのだから、やはりイオンはかなりの強者だ。
「それと、ルゥさんとフロルも抜けたっぽいねー。なんだ、全員揃って本戦進出じゃん」
「そうだね、良かったよ」
 カゲロウシティの祭りの頃に思ったが、フィアとフロル、そしてイオンにルゥナ、この四人はどういうわけか縁があるように感じる。良い意味で何かの思惑が働いているようだった。
「あ、そうだフィア君。本戦は明日からだよね?」
「え? うん、そうだったと思うよ」
「さっきルゥさんが提案してきたんだけど、明日、皆で一緒に朝ご飯食べようってさ。フィア君はどうする? オレは行くつもりだし、フロルも行くみたいだけど」
「皆で朝食か……」
 食事とは、人とコミュニケーションを取るにあたって、その距離を一気に縮める手段でもある。異文化であれ異種族であれ、主事を通せば人類は友好的になれる、らしい。
(食事なんて、家族くらいとしか一緒にしなかったな……学校でも、特に親しい友達とかいなかったし)
 と寂しいことを思っていると、ふとあることを思い出し、胸中で訂正した。
(いや、そういえば部長とも一緒に食べたな……あの人、わざわざ下級生のクラスまで来て、僕を部室に引っ張り込んでたっけ)
 それでも共に食事をする相手が少ない事実は変わらない。それを思えば、今こうして親しい人間が増えたことは、フィアにとっては大きな成長かもしれなかった。
 それを踏まえて、フィアは、
「うん、じゃあご一緒させてもらおうかな」



 翌日。
 ライウタウンの闘技場周辺は、それだけで一つの建物になっており、中に多種多様な店舗が並ぶ造りになっている。仕組みはデパートなどに似ているが、形式は商店街に近い。
 ともあれそんなライウタウン闘技場近くの食堂で、フィアとイオン、そしてルゥナが席に着いていたのだが、
「……フロルちゃん、遅いね」
「そうですね……何かあったんでしょうか……?」
「普通に道に迷ってるだけだと思うけど、誰か一緒にいればよかったね」
 フロルがまだ来ていない。彼女は彼女でどこか抜けているところがあるので、道に迷うくらいなら驚かないが、下手すれば朝食抜きで本戦に駆り出されることになってしまう。それは流石に酷というものだろう。身体的に。
「ターミナルで連絡しようにも、繋がらないし……部屋に忘れてきたのかな?」
「探しに行けばこっちが迷子になるかもだしねー、下手には動けないかな。かなり混んでるし」
「うーん……もう少し待って、それでも来なかったら私が探しに行くよ。大丈夫、こう見えても人混みは得意なんだっ」
「そうですか……それじゃあ、その時はルゥ先輩に任せます」
「その前にフロルが来るのが理想だけどねー」
 などと雑談しながら、三人はフロルの到着を待っている。



 その頃、フロルはライウタウンを走っていた。理由は単純明快、フィアたちのいる食堂へ行くためだ。今はまだ待ち合わせた時間にはなっていないが、到着するにしてもギリギリだろう。原因は分かりきっている、ただの寝坊だ。昨日の予選の疲れが溜まっていたからか、起きるのが少し遅くなってしまった。かなり急いで部屋を飛び出たので、ターミナルは置いて来てしまい、髪も下ろしたままだ。寝癖がないのが不幸中の幸いと言えるだろう。
「急がないと……確か、あそこの角を曲がれば近道だったはず……っ」
 おぼろげな記憶を頼りに、フロルは近道を選んで人通りの少ない通路を進もうとするが、その時、目の前に何かが立ち塞がった。
 というか、単純に人とぶつかってしまった。
「あぅ」
「おっと」
 尻餅をつくフロル。見上げれば、その人物は女性だった。年齢はかなり若く、少女と言っても差し支えないだろうが、彼女のどこか大人びた空気がそれを躊躇わせた。
「大丈夫? ダメよ、ちゃんと周りを見ないと」
「ご、ごめんなさい……」
 彼女に引き上げられ、フロルは立ち上がる。フロルの背が低いことを考慮しても、彼女の背は高かった。恐らく、フィアよりも高いだろう。
「急いでたみたいだけど、せめて道くらいはちゃんとした通路を通ることをお勧めするわ」
 と言って、彼女はポケットからカードの束を取り出し、適当にシャッフルする。やがてその手を止めると、彼女は一番上のカードを捲った。
「『№XVⅢ・月』正位置……不安定な裏道なんて通らないで、素直に安定した大通りを進んだ方がいいわ。たとえ待ち合わせに遅れそうになってもね」
「……?」
 フロルには、彼女の言っている意味がよく分からなかった。しきりに首を傾げ、その意味を考えるが、そうしているうちに彼女はフロルの脇を通り過ぎてしまう。
「あなたも大会に参加しているんでしょう? 応援しているわ、頑張って」
 それだけ言い残し、彼女はフロルの視界から消えた。
「えっと、あの……」
 慌ててフロルは振り返るが、その先に彼女はいない。フロルの視界に映るのは、喧騒の元となる人混みだけだ。
「なんだったんだろう、あの人……?」
 妙に意味深な言葉だったが、フロルでも理解できることが一つだけあった。
「裏道じゃなくて、大通りを通る、だよね」



 フィアたちが待つこと十分ほど、そろそろ探しに行こうかとルゥナが立ちあがったところで、目的の人物であるフロルが現れた。
「ご、ごめん、みんな……遅れちゃった」
「いや、大丈夫だよフロルちゃん。まだ本戦までは時間あるし、今からならまだ食べる時間残ってるよ」
 ちなみに三人は既に朝食を半分以上たいらげている。フロルは待ったが、空腹は待てなかったのだ。
 フロルは席に着き、とりあえず髪を括っていつものポニーテールにする。それから事前にルゥナが運んだ朝食に手をつけた。
「それにしても、けっこー遅かったね。いや、責めるつもりはないけどさ、何かあったの?」
「うん、寝坊しちゃったんだ。それと」
「それと?」
 パンを頬張るフロルの言葉を、フィアが復唱する。咀嚼を終えフロルがすぐに繋げた。
「女の人と会ったんだ」
「女の人? なに、どういうこと? どんな人?」
「うーんとね、わたしが慌ててここに来る途中、ぶつかった人なんだけど……変わった人だったよ」
「どんな風に?」
 イオンの問いに対し、フロルは思い出すように考え込み、やがて口を開く。
「なんかね、変わったカード持ってて、なんばーえいてぃーん、とか、せーいち、とか言ってた」

 ガタンッ!

 とその時、椅子を蹴飛ばすようにしてフィアが立ち上がった。
「……ど、どうしたのフィア君? なんか、凄い顔してるけど……?」
 若干引き気味にルゥナが言う。だがフィアは、自分の顔など気にしていられる状況ではなかった。捲し立てるようにフロルに問う。
「フロル、その人、どんな人だった?」
「え? えっと、背が高くて、服は……せーらー服? だっけ? っていうのを着てて……あと、ちょっと赤っぽい髪だった、かな? それと、髪も二つにくくってたよ」
 フロルの言葉を聞き、さらにフィアの表情が真剣なものとなっていく。黙っているだけでも物凄い剣幕だ。
 ふと、フィアが呟く。
「……だ」
「え? なに?」
「……部長だ」
「ぶちょー? それって——」
 フィアがこの世界に来る直前に出会った人物。フィアがこの世界に来る切っ掛けを与えた人物。
 その彼女が、この街にいる。
「やっぱり、部長もこの世界に来てたんだ……!」
 フィアが元の世界に戻る手掛かり。その一つが、彼女。
 フィアは遂にその手掛かりの手掛かりを、見つけ出したのだった。



急展開、というか本格化ですね、話の。というわけで遂にフィアがトリップする契機となった部長についてです。どのタイミングでどう出るのかは、今後のお楽しみですがね。ちなみにレディアンの図鑑説明はポケウッドのアレです。アレは正直、軽くトラウマになりまし。では次回、ライウタウン大会本戦の開始です。お楽しみに。

第60話 ライウタウン ( No.155 )
日時: 2013/06/01 20:02
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: ライウタウン大会一回戦、開戦!

「部長? 世界? なになに? どーいうこと?」
「フィア君、私には何を言っているのかさっぱりなんだけど……」
 フィアの事情を知らないイオンとルゥナは、フィアの剣幕にやや押されながらも、疑問符を浮かべている。
 それを理解したフィアはやや逡巡し、
「……イオン君もルゥ先輩も、もう赤の他人ってわけじゃないし、話してもいいかな……実は——」
 それからフィアは語る。自分の出自を。自分が元々どのような世界にいて、どのような事態に巻き込まれて、どのような経緯でホッポウ地方に来たのかを。
 正直、フィアは説明が得意ではないし、フィアが持つ情報も酷く断片的で欠落している部分が多い。それでも彼の必死さは伝わったのか、イオンとルゥナは黙って聞き入っていた。
 そして、
「——へー、そーなんだ」
「フィア君、たまに違う世界の人っぽい感じがすると思ったら、そういうことだったんだね。納得したよっ」
「……驚かないんですか?」
 あまりにも二人の反応が軽かったので、フィアの方が面食らってしまう。
「いやいや、かなり驚いてるって。でもまあ、別の地方だと大災害だとか時空の神だとかがあるみたいだし、そーいうこともあるかなって」
「私が働いてる機関の所長さんも、英雄の戦い? とかなんとかを経験したって言ってたし、伝説のポケモンが絡んでくるんだったら、別の世界から人が来てもおかしくないと思うよ」
「…………」
 たびたび思うことだが、この世界の人の感覚には絶句する。超常現象が実際に起こり得る世界、その前提があるからこその感覚だろうが、それは人格にもよるのかもしれなかった。
 もしかしたら自分は今自分の身に起こっていることを大事にとらえ過ぎているのではないのか、とフィアはふと思ってしまった。
「で、その、部長さん? をフィア君は探すんだよね?」
「はい。僕がこの世界に飛ばされたこととあの人の存在は無関係じゃないはず。とりあえず、一刻も早くあの人を見つけ出して、元の世界に帰る方法を——」
「待って」
 フィアが立ち上がったまま食堂から出ようとするのを、ルゥナが制する。
「こんな人混みの中、闇雲に探しても見つかるわけないよっ。その人はフィア君と同じようにこの世界に来たんでしょ? だったら向こうもフィア君のことをさがしてるはずだよ」
「それは……」
 普通に考えればその通りなのだが、彼女の考えは普通でないことをフィアは知っている。とはいえ確かに、無闇に人混みを掻き分けて探しても見つかる可能性は限りなく低い。特に今は、チャンピオンのバトルが見れるということで、見物人も多いのだ。
「だったらこっちから目立って、向こうに見つけてもらうのがいいよ。もしかしたらその人も、大会に参加してるかもしれないし」
 ルゥナの言うことは正論だ、返す言葉もない。
(やっぱり先輩なんだよなぁ、この人は……)
 どこか釈然としないフィアだったが、反論することもできず、ルゥナの案を採用することとなった。
 そして、これから——ライウタウン大会、本戦が開始される。



 本戦に出場する三十二名のトレーナーの名簿をチェックしたが、それらしい名前はなかった。つまり彼女は、少なくとも本戦出場はしていない。となると今度はこちらからアプローチをかける必要がある。
 アプローチ、即ち大会で活躍して目立つこと。どの道、大会で勝ち進むことが目的なのだから特に意識する必要はない。普通にバトルをすればいいだけだ。
 そしてそんなフィアの第一回戦の相手は、見知った顔のトレーナーだった。
「……っ、テイル君……!」
「よっ、またバトル出来て嬉しいぜ。今度は俺が勝つからな!」
 フィアと同年代の少年、テイル。かつてサミダレタウンのバトル大会でフィアと戦い、なんとかフィアが勝利を収めた相手だ。
 ちなみにフィアは彼を何と呼ぶか迷っていたが、年上ではあるがフィアと同年代であることと、テイルにさん付けは似合わないだろうということを考え、君付けに落ち着いた。
「サミダレタウンでフィアに負けてから、ずっと修行を積んだんだ。ジムバッジも三つゲットして、今は五個だぜ。今度こそ勝つ!」
 見るからにやる気と自信に満ち溢れたテイル。ジムバッジ五つということは、フィアよりも多くジムリーダーを倒していることになる。
 二人はそれぞれボールを構え、試合開始の合図を待つ。そして、

『試合、スタートッ!』

 戦いのゴングが、鳴り響いた。
「先鋒は任せたよ、ブースター!」
「最初はお前だ! 行け、シビビール!」
 フィアの一番手はブースター。そしてテイルが初手で繰り出したのは、円形の口を持つ鰻のようなポケモン。

『Information
 シビビール 電気魚ポケモン
 丸い模様が発電器官になっている。
 獲物に巻きつき、電流を流して痺れ
 させてから大口で齧り付いて捕食する。』

「サミダレタウンの時はシビシラスだったが、やっと進化したんだぜ!」
 自信満々なテイル。しかしすぐに警戒するような目つきに変わった。
「しっかしブースターかぁ……前のバトルでは、根性で逆転されちまったからな。電磁波は使えないか」
 少し表情を暗くするテイルだが、すぐさまいつもの明るい表情を取り戻し、
「だが、補助技がなくても俺のシビビールは十分強い! 一気に攻めて押し切るぞ! ワイルドボルト!」
 先に動き出したのはシビビールだ。シビビールは全身に弾ける電撃を纏うと、うねるように地面を這ってブースターへと突っ込んでいく。
「っ、ブースター、火炎放射だ!」
 対するブースターは口から炎を噴射しシビビールを止めようとするが、電撃を削ぎ落しただけでシビビールの動き自体は止められず、シビビールの体当たりがブースターに直撃する。
 さらに、

「怒りの前歯!」

 続けてシビビールは大口を開け、ブースターに噛みついた。
 それだけで、ブースターは絶叫を上げる。
「ブースター!? ぐっ……アイアンテール!」
 ブースターは反撃にと鋼鉄のように硬化させた尻尾を振るうが、シビビールも素早く後退しており、攻撃は回避された。
「逃げられた……それより、今の攻撃は……?」
 攻撃の勢い自体はそこまでではなかったが、ブースターの受けたダメージがかなり大きい。体力の半分は持って行かれただろう。
 フィアが怪訝に思っていると、テイルが口を開いた。
「怒りの前歯は、ある意味で相手に固定ダメージを与える技だ。正確には、相手ポケモンの体力を半分に削る攻撃だけどな」
「体力を、半分に……?」
 つまり実際にブースターは体力を半分削られたようだ。
「一撃で体力の半分のダメージを受けるのは痛いな……一撃ごとに受けるダメージは減るけど、他の技もあるし……」
 なんにせよ、たった一回の攻撃でテイルに体力のアドバンテージを与えてしまった。
「どんどん行くぞ! 噛み砕く!」
「うぅ、躱してニトロチャージ!」
 シビビールが大口を開けて飛びかかるが、ブースターはそれを横に跳んで回避。そして炎を纏って突撃する。
「アイアンテールだ!」
 続けて鋼鉄の尻尾を叩きつけ、シビビールを吹っ飛ばす。だが効果いまひとつなため、ダメージはさほど大きくない。
「火炎放射!」
「ワイルドボルトで突っ切れ!」
 ブースターはさらに火炎放射で追撃をかけるが、シビビールも電撃を纏って突撃し、炎を突き破ってブースターを吹っ飛ばす。
「今度はこっちが追撃だ! シビビール、噛み砕く!」
 シビビールの勢いは止まることなく、大口を開けてブースターに飛びかかるが、
「ブースター、前に出て! アイアンテール!」
 ブースターはあえて前進し、シビビールの懐に潜り込んで鋼鉄の尻尾を振り上げて攻撃を中断させる。
「ニトロチャージだ!」
 さらに炎を纏って突っ込み、シビビールを押し返す。
「反撃するぞシビビール、噛み砕く!」
「躱してアイアンテール!」
 シビビールは鋭い歯を剥いてブースターに襲い掛かるが、その攻撃はジャンプで躱され、シビビールの脳天に鋼鉄の尻尾が叩き込まれる。
「やっぱニトロチャージはきついなー……でも電磁波も使いにくいし」
 シビビールは攻撃力は高いが、スピードはそれほどでもない。素早さを上げればブースターでも対抗できなくもない。
 だが逆に言えば、その素早さを奪われればブースターに残るのは火力のみ。動きの鈍ったブースターにシビビールの攻撃が直撃すればひとたまりもないだろう。
「ま、根性にビビッてばっかでもしゃーないしな。覚悟を決めるぞシビビール、電磁波だ!」
 遂にテイルとシビビールは決心した。
 シビビールがブースターに接近し、口から微弱な電磁波を発する。それだけでブースターの体は痙攣し、麻痺状態となってしまった。
 これでブースターは機動力を失ってしまったが、代わりに特性、根性が発動し絶大な火力を手に入れた。だが先に述べたように、火力が上がっても機動力がなければ先制して攻撃され、やられるだけ。しかし、
「……よし」
 フィアは思惑通りと言わんばかりの、不敵な笑みを浮かべていた。



というわけで部長探しが始まりました。捜索と言うには受動的ですが。そしてフィアの一回戦の相手は再登場のテイルです。それでは文字数もギリギリなのでこの辺で。次回、テイル戦の続きです。お楽しみに。

第61話 electric rat ( No.156 )
日時: 2013/06/01 17:45
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: 電気ネズミの良さが分かりかけてきた今日この頃。

「シビビール、噛み砕く!」
 シビビールは円形の口を広げ、麻痺したブースターに飛びかかるが、
「ブースター、アイアンテールだ!」
 ブースターは鋼鉄のように鋼鉄のように硬化させた尻尾を振るい、シビビールを弾き返してしまう。効果いまひとつだが、根性で火力が上がっているので威力は高い。
「っ、なんだよ、まだ動けるじゃん」
 少し驚いたような顔をするテイル。電磁波で動きが鈍ったブースターを仕留めようとしたのだから、当然と言えば当然だが、しかしブースターが麻痺の影響を強く受けていないことも必然であった。
 ブースターは事前に素早さを二段階上げている。その状態で麻痺を受けても、上がった素早さ自体は変わらない。加えてシビビール自身もそこまで素早くはない。小回りは利くようだが、それまでだ。
 テイルが短期決戦に持ち込もうとするように、フィアもまた、根性による高火力で一気に勝負を決めるつもりなのだが、
「麻痺で動けなくなる場合もあるし、分の悪い賭けだったかな……?」
 などと今更ながら後悔しかけている。
 その点、テイルは考えにブレがなかった。
「根性が発動していようと、素早さが上がっていようと、麻痺は麻痺だ。一気に決めるぞシビビール! ワイルドボルト!」
 シビビールは全身に電撃を纏うと、凄まじい勢いでブースターに突っ込んでいく。
「来るよブースター、迎撃だ。ニトロチャージ!」
 ブースターも燃え盛る炎を纏い、その炎を推進力にするかのように地面を蹴り、勢いよく飛び出す。
 しかし、

 飛び出した直後、ブースターの動きが止まってしまった。

「っ、麻痺が……!」
 これはフィアの不運だろう。単純に純然に、賭けに負けた結果だ。
 もしブースターがシビビールと正面からぶつかり合えば、勝つのは十中八九ブースターだっただろうが、ここに来て麻痺が発動してしまい、ブースターの動きは完全に停止している。炎も消えてしまった。
 そんな無防備を晒すブースターに、シビビールの容赦ないワイルドボルトが炸裂する。
「ブースター!」
 飛び散った電撃による砂煙が舞い上がり、二体のポケモンの姿を隠す。二人はしばらく静止の状態が続いたが、やがてフィアの口から声が漏れる。
「っ、ブースター……」
 倒れていたのはブースター。当然だ、体力が限界ギリギリまで削られていたところにワイルドボルトの直撃を喰らったのだから、戦闘不能にならない方がおかしい。

 だが、倒れていたのはシビビールも同様だった。

「あー……反動に耐え切れなかったかぁ」
 失敗した、と言うようにテイルは後ろ髪を掻いた。
 ワイルドボルトは確かに強力な技だが、代わりに反動があるのだ。シビビールの一撃はブースターにとどめを刺す威力はあったが、同時にシビビール自身の体力をすべて削いでしまう威力もあったようだ。
 なにはともあれ、先鋒同士のバトルは相打ちという形で終結した。
「戻って、ブースター。ありがとう」
「お疲れシビビール、よくやってくれた」
 それぞれ倒れたポケモンをボールに戻し、テイルはすぐに次のボールを手に取ったが、フィアは少し思考する。
(テイル君のポケモンは、電気タイプが中心……でも前に見た映像と、さっきのシビビールから鑑みるに、特性とかタイプとかで地面技を無効化する。だったらヌマクローは保留かな)
 テイルの所持しているポケモンがすべてフィアの考えと合致しているとは言い切れない以上、今はまだヌマクローを温存しておく。なのでフィアは、ヌマクローとは違う電気タイプに強いポケモンが入ったボールを手に取る。
「この折り返しは勝っておきたい。頼んだよ、パチリス!」
「第二ラウンドだ。行くぞ、エモンガ!」
 フィアの二番手はパチリス。そしてテイルが繰り出したのは、どことなくパチリスと似た、モモンガのようなポケモン。

『Information
 エモンガ モモンガポケモン
 高速で滑空しながら電撃を放って
 相手を痺れさせる。電気の力を速度
 に変換し、高速で飛び回る事も可能。』

「俺の相棒だ。ちょっと早いけど、この折り返しのポイントは取っておきたいからな」
 出て来たエモンガはターンし、テイルの肩に乗った。テイルの表情はシビビールの時よりも自信に満ちており、言動も含めてエモンガの実力が伺える。
「さ、バトルを始めるぞ。エモンガ、エアスラッシュ!」
 先に動いたのはエモンガだ。エモンガは素早くテイルの肩から飛び立って滑空すると、空気の刃を飛ばしてパチリスを切り裂いた。
「速い……! パチリス、種爆弾!」
 パチリスは反撃にいくつもの種子を投げつけるが、エモンガは軽快な動きでそれらを全て回避してしまう。
「だったらこれ、必殺前歯!」
 鋭い前歯を剥き、パチリスはエモンガへと飛びかかるが、
「フラッシュだ!」
 エモンガはその場で眩い閃光を発し、パチリスの視界を塞いで動きを止めてしまう。そして、
「エアスラッシュ!」
 その隙に空気の刃を飛ばしてパチリスを切り裂く。効果はいまひとつなので、ダメージが少ないのが幸いか。
「うぅ、こっちも決定打があるわけじゃないし……せめて一撃の威力を上げるしかないかな。パチリス、帯電!」
 本来フィアのパチリスは手数で攻めるのが基本戦術だが、スピードではエモンガに及ばないと見て方針を転換。帯電で攻撃能力を上げ、一撃の威力を高める。
「もう一度!」
「させるか! エモンガ、エアスラッシュ!」
 二度目の帯電は、エモンガの放つ空気の刃で阻害されてしまった。
「よっし、行くぞエモンガ。エレキボール!」
「パチリス、反撃するよ。エレキボールだ!」
 エモンガとパチリスはどちらも尻尾に電気を凝縮させ、電撃の球体を作り出す。その球体が最大まで圧縮されると、互いに標的を見定め、同時に尻尾を振るった。
 どちらも同じタイミングで雷球が放たれる。
 一見すれば帯電で特攻も上がっているパチリスの方が威力が高いように思えるが、エレキボールは素早さが高いほど威力も高くなる技。この場合、パチリスよりもエモンガの方が素早いため、実際の威力はどちらも同じくらいになるだろう。
 けれども双方の雷球はぶつかり合うことなく紙一重ですれ違い、互いに狙った標的へと吸い込まれるように向かっていく。
 そして——

 ——どちらの雷球も、両方のポケモンに吸収された。

『え?』
 フィアとテイル、二人の声がはもる。どちらも何が起こったのか分からない、と言ったような顔をしている。
 フィアはすぐにターミナルを開き、テイルは少し考え込む。そして互いの疑問が氷解するのもまた、同時だった。
「電気エンジン……電気技を吸収して、素早さを上げる特性……!」
「そのパチリス、蓄電なのか……珍しいな」
 パチリスの特性は蓄電、エモンガの特性は電気エンジン。どちらも電気技を吸収してしまう特性だ。要するにどちらにも電気技は効かず、パチリスは体力を回復し、エモンガは素早さを上げたのだ。
「そうか蓄電か。俺にはちょっとやりにくい特性だけど、種さえ割れればあとはどうにでもなる。エモンガ、エアスラッシュだ!」
 エモンガはすぐに滑空し、空中から空気の刃を飛ばしてパチリスを切り裂いた。
「うっ……やっぱり速い、電気エンジンもあるからなおさらだよ。となるとやっぱり、僕らは火力で勝負するしかない。パチリス、帯電!」
 パチリスは自身の体に電気を帯び、攻撃能力を高める。だが、テイルはそれを狙っていた。
「そこだエモンガ! アンコール!」
 突如、帯電するパチリスにスポットライトのような光が差す。エモンガも拍手をするようにパチパチと手を叩いており、フィアには何が何だか分からず困惑してしまう。
「エモンガ、接近だ!」
 そうこうしているうちに、エモンガは速度を上げてパチリスへと一直線に突っ込んで来る。
「何が起こったのか分からないけど、迎え撃つよパチリス。必殺前歯!」
 しかし、パチリスは動かなかった。フィアの指示通りに必殺前歯を繰り出さない——否、繰り出せない。
「パチリス……!?」
 またフィアは戸惑う。ここですぐに回避を指示すれば良かったものの、気付いた時にはもう遅かった。
「エモンガ、エアスラッシュ!」
 パチリスはエモンガにかなりの接近を許してしまい、至近距離から空気の刃をぶつけられる。効果いまひとつと言えど、この距離ではダメージはそれなりに大きい。
 いまだ困惑から脱せていないフィアに対し、テイルが口を開く。
「説明するとだ、アンコールは相手が事前に使用した技を続けて使わせる技なんだよ。つまりそのパチリスはしばらくの間、帯電しか使えないのさ」
「そ、そんな……」
 これではエモンガが隙を見せたとしても、そこに付け入ることが出来ない。ただでさえ素早いエモンガを捉えるだけでも骨が折れるのに、そこに技の制限間までかけられてはたまったものではない。
「どうしよう……!」
 エモンガにはいまだ一撃も入れられず、動きは縛られるばかり。フィアの胸中には、焦燥感が募っていく——



フィア対テイル、ライウタウン大会その二です。最近あまりキーが乗らなくてやばいです。何がやばいのかは分かりませんが。さてさて、遂に実現しました、電気ネズミ同士のバトル。現状ではパチリスが不利、ここからどう転ぶのかは、次回をお楽しみに。

Re: ポケットモンスター 七つの星と罪 ( No.157 )
日時: 2013/06/01 19:45
名前: タク ◆XaammrlXPk (ID: 39RfU1Y2)

こんばんは、久しぶりですね。フィアVSテイルのバトル。シビビール戦では引き分けに持ち込んだフィアですけど、エモンガ戦では、かなりやばそうですね。にしても、本当に電気ネズミVS電気ネズミが実現するなんて・・・・・・本当にありがとうございます。この戦況を考えると、泥沼試合と化しそうですが結果を楽しみにしております。ちなみに、デュエル・マスターズの小説を書き始めたので、見に来ていただければ幸いです。それでは。

Re: ポケットモンスター 七つの星と罪 ( No.158 )
日時: 2013/06/02 01:03
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: 今後の設定を考えていたら、どうしてもラブコメ系のラノベっぽくなる。

タクさん


 どうもお久しぶりです。
 はっきり言って、ブースターは防御低いですから物理型に弱いんですよね。作中では言及されていませんが。
 エモンガ戦ではパチリスが劣勢ですね。ただ回復しただけのパチリスと違って、エモンガの電気エンジンが効いているからです。電気ネズミ同士のバトルは、白黒的にもちょっと書きたくなったので書きましたが……決定打がなく、意外と骨が折れました。
 泥仕合になりそうなのは覚悟の上ですが、そこまで酷くならないようにするつもりです。
 デュエマですか……高校入ってからはご無沙汰ですねぇ。最近の戦術とかカードとか効果とか、もう全然分かんないです。まあ時間があれば覗いてみますね。


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