二次創作小説(紙ほか)

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ポケットモンスター アルカディアス・デストピア
日時: 2014/01/02 00:09
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 はじめましての方ははじめまして、そうでない方は……お久しぶり? ともあれこんにちは、白黒です。
 遂にやってしまいました、白黒のポケットモンスター四作目、一作目と二作目は繋がっているので、個人的には三作目ですけどね。まだ完結していない作品もあるという中、とんだ暴挙に出てしまいました。
 一応言い訳をしておくと、XYが発売されてポケモン熱が戻ってくれば執筆に励むだろうと思ったのですが案外そうでもなく、そうだったとしてもXYのポケモンを動かしたくなってしまったのです。その上、もう大丈夫ですが、少し前にパソコンがウイルスに感染するという大失敗を犯してしまい、今までちまちま書き溜めていたデータがすべて吹き飛び、意気消沈。今もなんとか少しずつ書いていますが、ショックが大きすぎて『七つの星と罪』は少しお休みな感じです。ちょっと話を大きくしすぎて進めにくくなった、というのもありますけど。

 さて、白黒を知っている方は何度も聞いている言葉ですが、前置きが長くなってしまいました。要するに新作を書き始めました、ってことです。
 今作は初めての片仮名タイトルですね。『アルカディアス・デストピア』、略してA・D、でしょうか。意味は、アルカディアが理想郷、ユートピアという意味で、デストピアがその逆、理性で統制された社会、ですね。内容に触れますと、地方やキャラクターもオリジナルですが、生息ポケモンなどのベースはXYです。なのでメガシンカもありますよ。
 ストーリーの進行はゲームのように地方を旅していく形ですね。ただゲームに準じた一作目、オリジナル要素の強い二作目、トリップっぽくなった三作目と来て、今回はアニメ要素がちょっと強いですかね。白黒にしては、ですけど。

 さてさて、前置きが長いと言ってからも長くなってしまったので、ここいらでやめておきましょう。
 それでは白黒の新しい物語です。どうぞ、お楽しみください——



登場人物一覧
>>68

目次

プロローグ
>>1
テイフタウン編
>>2 >>5 >>8 >>11
カンウシティ編
>>24 >>27 >>40 >>59 >>60 >>66 >>67
ソンサクシティ編
>>72 >>73 >>74 >>80 >>86 >>87 >>88 >>91 >>107 >>110 >>113
バタイシティ編
>>115 >>116 >>117 >>118 >>119 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126 >>127 >>128 >>129 >>130 >>131

29話 バタイジム終戦・敗北 ( No.123 )
日時: 2013/12/21 09:51
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「くそっ、もう残り一体か……頼んだ、テールナー!」
 レストはテールナーを繰り出す。これが最後のポケモンなので、後はない。
「テールナー、ニトロチャージだ!」
「ヒポポタス、穴を掘る!」
 テールナーは炎を纏い、その炎を推進力として特攻。しかしヒポポタスは素早く穴に潜ってしまい、攻撃は当たらない。
 その直後、テールナーの真下の地面が揺れる。
「来るぞテールナー! 下だ! サイケ光線!」
 テールナーは尻尾から木の枝を抜くと、真下に突きつけ、念力の光線を発射。今まさに地面から這い出て来たヒポポタスに直撃する。
「いいぞ、そのままグロウパンチだ!」
 さらに細腕から繰り出される拳でヒポポタスの胴体を殴りつける。比較的防御の高いヒポポタスには、大きなダメージは与えられないが、
「もう一発! グロウパンチ!」
 続けてもう片方の腕からも拳を繰り出し、殴りつけた。今度はヒポポタスの体勢もぐらつき、
「もう一発!」
 三発目が飛ぶ。一撃当てるたびに攻撃力の上がるのがグロウパンチ、その三度目の攻撃の威力は初撃の二倍以上だ。その一撃で、ヒポポタスは横転してしまう。
「ちっ、ヒポポタス、起きやがれ!」
 しかし体重の重く短足なヒポポタスは、四本の足をばたつかせるだけでなかなか起き上がることができない。
「今だ! テールナー、炎の渦!」
 その隙に、テールナーは枝の先端に灯された炎を増幅させ、渦状にして放つ。
「グロウパンチ!」
 炎の渦に閉じ込められたヒポポタスは、ますます身動きが取れない。そんなヒポポタスに、テールナーは四度目の拳を突き出す。
「このまま攻撃力を最大まで上げるぞ! テールナー、連続でグロウパンチ!」
 レストのポケモンは残りテールナー一体。対するネロは、ヒポポタスも合わせて三体いる。
 普通に考えればここから逆転するのは絶望的。だが、ここでテールナーの能力を上げるだけ上げておけば、次のポケモンとのバトルで有利になれる。これはレストが意図したのではなく結果論だが、テールナーを最後に出したためヒポポタスの吠えるにも妨害されない。
 テールナーの成長する拳によるラッシュを喰らい、遂にヒポポタスは吹っ飛ばされた。大量に砂を巻き上げて地面に落下したヒポポタスは完全目を回しており、戦闘不能だ。
「よっしゃ、よくやったぞテールナー!」
 まだ一体しか倒せていないが、テールナーの攻撃力は最大。立ち回りを工夫すれば、相性が悪くとも、残り二体のポケモンとも渡り合えるはずだ。
「……ふん、戻れヒポポタス」
 ネロはヒポポタスをボールに戻す。負けたヒポポタスに怒っているように見えるが、元から目つきが悪いためそう見えるのかもしれない。
「思ったより時間がかかったが、まだ砂嵐は継続中。加えて奴は、攻撃力最大のテールナー一体。あれだけ打ち込まれりゃぁ、今更ちっとばかし攻撃力を下げても無駄か」
 思案するように呟いて、ネロは次のボールを手に取る。
「こいつでてめぇは終わりだ。行って来い、サンドパン!」
 ネロの二番手は、砂色の体、背中には岩のようなごつごつしている棘がびっしりと並んでいる。
 ネズミポケモン、サンドパン。
「サンドパン……こいつも地面タイプだけか。だったら炎は通るな。テールナー、炎の渦!」
 テールナーは枝を振るい、渦状の炎を放つ。ヒポポタスよりも身軽そうなので、動きを止めてから攻撃するつもりだったが、
「サンドパン、穴を掘る!」
 サンドパンは一瞬のうちに地中へと潜ってしまった。
 そして、
「!? テールナー!」
 次の瞬間にはテールナーの背後から飛び出し、鋭い爪の一撃を叩き込む。
「速い……!」
 穴を掘る時間がヒポポタスより短いのは分かる。しかしそれにしたって、地中に潜ってから飛び出すまでの時間が短すぎる。感覚的には、一秒あるかないかというレベルだ。
「休んでる暇はねぇぞ! サンドパン、岩雪崩!」
「っ、くぅ、躱してサイケ光線!」
 サンドパンは虚空から雪崩の如き勢いで次々と岩石を降らせる。テールナーはバックステップで襲い掛かる岩石を躱していき、すべての岩を避けきると、枝をサンドパンへと向ける。
 ただし、サンドパンはテールナーの目と鼻の先にいた。
「辻斬り!」
 直後、テールナーの毛が宙を舞う。サンドパンはテールナーの背後におり、どうやら通り間際に切り裂かれたようだ。
「ぐっ、グロウパンチ!」
「遅ぇっての! 辻斬りだ!」
 テールナーは振り返って拳を振りかざすが、その時には既に、サンドパンの爪がテールナーを切り裂いていた。
「くっそ、何だよ、何なんだよ……いくらなんでも速すぎる……!」
 こちらが攻撃しようとした時には、既に相手の攻撃が終わっている。こちらの攻撃がまるで届かない。
「テールナー、ニトロチャージ!」
「サンドパン、穴を掘る!」
 炎を纏って突っ込むテールナー。しかし一瞬で地中へと逃げたサンドパンは、次の一瞬で地上へと飛び出し、テールナーを切り裂く。
 いくら攻撃力を上げても、当たらなければ意味がない。そしてサンドパンのスピードについて行けないテールナーでは、サンドパンに攻撃を当てることはできない。
「とりあえず動きを止めろ! テールナー、炎の渦!」
「んなもん当たるか! サンドパン、辻斬り!」
 テールナーが木の枝を構えた瞬間、サンドパンの一閃がテールナーを切り裂く。
「いつまでもドンパチやってるつもりはねぇ、このまま決めろ! サンドパン、辻斬り!」
 さらに次の瞬間、方向転換したサンドパンがまたテールナーを切り裂き、そのまた次の瞬間にもテールナーは切り裂かれた。
「っ、これは……!」
 もはやサンドパンの動きを目で追うことすら難しい。サンドパンは超高速でテールナーの周囲を動き回り、通り間際に何度もテールナーを切り裂いている。
 これではテールナーは、攻撃するどころか身動きすらできない。動こうとしても、その瞬間にはサンドパンの一閃が放たれ、その動きを封じられてしまう。
 体感では、かなり長い時間だった。しばらくしてサンドパンの動きが止まる。同時に、テールナーは砂地のフィールドへと倒れ込んだ。
「テールナー……!」
 テールナーはぐったりとしており、誰がどう見ても、戦闘不能だった。
「……ちっ、つまんねぇ。その程度で挑まれるなんざ、俺も随分と舐められたもんだ」
 サンドパンをボールに戻すネロ。それと同時に、砂嵐も吹き止んだ。
「おら、いつまでそこで突っ立てるつもりだ」
「え……?」
「ロクに自分のポケモンの力も引き出せないような雑魚なんざお呼びじゃねぇんだよ。負けんたならとっとと出てけ、三下」
 レストに深々と突き刺さる辛辣な言葉の数々。普段のレストなら反抗したであろうが、目の前で倒れているテールナーを見れば、そんな気も起らない。
 レストは顔を伏せ、テールナーをボールに戻す。
「……ありがとう、ございました」
 そして小さくそう言うと、逃げるようにしてジムから出て行ってしまった。

 この日この時。レスト初めて、本当の敗北というものを知ったのかもしれない。



「……相変わらずきっついなー、ネロさん」
「うるせぇ。つーかてめぇ、いつまでそこにいるつもりだ。さっさと出てけよ、野次馬」
 観客席から降りてきたリコリスに対しても、ネロは厳しい語調で言う。それに少し怯えながらも、リコリスは口を開いた。
「何で、あんなに挑戦者に厳しくするんですか……?」
「あぁ?」
 そんなリコリスに問いに、凄むネロ。しかしリコリスは退かない、真摯な瞳で、ジッとネロを見据えている。
「……その方が、面白ぇだろ」
「面白い?」
 その眼差しを受けてなのか、ネロはゆっくりと語り始めた。
「俺は軟弱な奴が嫌いだ。それは技術の上でも、精神の上でもだ。このジムに挑戦する奴の多くは、俺にビビッてガタガタ震えながら、何度もミスを犯しやがる。そのくせ弱い。んな奴、相手にするだけ無駄だ、引っこんでろ」
 だがな、とネロは続ける。
「そんな奴らでも、またここに戻ってくる根性があるのなら、そしてその上で、俺を上回る力をつけたのなら、その時はそいつの力を認めざるを得ねぇ。なにも時の流れに身を任せるのが成長や進化じゃねぇ。俺が見てぇのは、そういう強さだ」
「…………」
「分かったらてめぇもとっとと行けよ。俺だって暇じゃねぇんだ、まだ整理の終わってねぇ資料もあるしな」
 と言い残すと、ネロはリコリスに背を向けてジムの奥へと行ってしまった。
「……あの人も、あの人なりに考えてるんだ」
 新たな発見をした。リコリスはくすりと笑うと、レストの後を追い、ジムから出て行く。



久更新、そしてバタイジム終結です。レストは敗北、ネロに言うだけ言われてジムから出て行ってしまいます。とはいえ、ネロもネロでいろいろ考えてるんですけどね。どこぞの現代っ子と違って、性格が悪いだけじゃないんですよ。この辺は前々作のザキに通じるところがありますね。では次回、特訓回、かな? まあ似たような感じだと思います。お楽しみに。

30話 特訓・レストvsリコリス ( No.124 )
日時: 2013/12/22 17:49
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

 バタイシティは山脈にある街なのだが、その山のほぼすべては岩山だ。
 リコリスはごつごつした岩肌が剥き出しになっている山を、ひょこひこと登っていき、崖のようになった頂上へと辿り着く。
 そこには、レストがいた。危なっかしく崖の縁に立っている。
「こんなとこにいたんだ。探すの大変だったよ、っていうか危ないよ」
 背中を向けているレストに、半ば注意するようなことを言うリコリス。
「……ホーラ地方に来る前」
 レストはリコリスの注意を受けず、そのまま語り始めた。
「俺がまだガキの頃だ。その頃は、ラルカとしょっちゅう喧嘩してたんだが、大体ラルカが馬鹿なことしてたから、悪いのはラルカってことになる方が多かった」
 レストの語りに、リコリスは黙っていた。
「でも、あいつはそんな物分かりのいい奴じゃないから、そういう時はよく山に登って拗ねてたな」
「……それで?」
「少しだけ、あいつの気持ちが分かった気がする」
 そこで初めて、レストはリコリスの方を向いた。その顔は、いつものレストのそれだ。
「……落ち込んでると思ったけど、そうでもないみたいだね。よかった、安心したよ。で、どうする?」
「何がだ?」
「ジム戦だよ。別にホーラ地方には八つしかジムがないわけじゃないし、ネロさんに勝たなくてもジムバッジは揃えられる。だから別のジムを探す方法もあるってことだよ」
 要するに、ネロを避けてリーグ制覇を目指すかどうか、ということだ。気遣うようにリコリスは言うが、答えなんて決まっている。
「ありえない。こんなことで尻尾巻いて逃げてたら、誰にも勝てねえよ。それに、あんだけ言われて引き下がれるか。リベンジするに決まってる」
 強い語調で、そして確固たる意志を持って、そう返した。
「……だよね。レスト君ならそう言うと思ったよ。じゃあ、早くやろうか」
「は? 何をだよ」
「決まってんじゃん」
 何を言ってるの? とでも言いたげに微笑み、リコリスはボールを一つ取り出す。

「特訓だよ。あたしが直々に、レスト君のウィークポイントをチェックしてあげる」



 レストはこの山に来る前に、一度ポケモンセンターで回復を済ませていたため、この場でバトルは始まる。
「使用ポケモンは一体。どんなポケモンを出してもいいよ」
 言いながらリコリスは、手にしたボールを宙へと放る。
「そんでもって、あたしのポケモンはこの子ね、ププリン!」
 リコリスが繰り出すのは、ピンク色をした球状のポケモン、ププリンだ。
「リコリスとバトル、か」
 今までレストは、野生のポケモンを含めてリコリスがバトルしているところをほとんど見たことがない。あるにしても、カンウ森林でカオスの下っ端の奇襲を防いだ時くらいだ。
(あいつの実力は未知数。でも、バトルの経験は俺の方が長いはずだし、俺より強いことはない……はずだ。あのププリンとかいうポケモンも、そんなに強そうには見えないしな)
 リコリスがレストとほぼ同時期に旅立っているという前提で考えるレストだったが、それでも油断はできないと気を引き締める。
 そして、ボールを構えた。
「よし、じゃあ俺はこいつだ。出て来い、ラクライ!」
「あれ? テールナーじゃないの? ネロさんに勝つための特訓なんだから、テールナーの方がよくない?」
「違うな。あのバトル、ラクライを連れてきたのは俺のミスかもしれない。だがそれでも、ラクライにもっと上手い立ち回りをさせてやれば、善戦できたかもしれないんだ。だからこのバトルは、俺自身の腕を磨くためのバトルだ」
 真っ直ぐにリコリスを見据えて、レストは強く言い放つ。
「へぇ……」
 なんだ、ちゃんと分かってんじゃん。とリコリスは小さく呟いた。
「……ま、いいや。そんじゃー行くよ! ププリン、エコーボイス!」
 ププリンは大きく息を吸い込むと、周りの岩肌に反響するような声を発する。
「音の攻撃か、避けづらくて厄介だな……だが、威力は大したことないな」
「どうかな。続けてエコーボイス!」
 ププリンは発声を止めず、そのままエコーボイスを放ち続ける。
「躱すのは難しいが、だったら突っ切るまでだ! ラクライ、電光石火!」
 ラクライは反響する音波を受けながらも、高速で駆けププリンへと突っ込み、吹っ飛ばす。
「よしっ、続けて噛み——って、あぁ!?」
 吹っ飛ばす。その現象は今まで何度も発生しており、レストも幾度となく目撃しているし、受けている。だがしかし、今回怒ったその現象は、今までのそれとはスケールが違った。
 ジャンプして避けようとしたのか、しかし避けきれなかったププリンは、空高く吹っ飛んで行ったのだ。
「っておい! 吹っ飛びすぎだろ!」
「しょーがないじゃん、ププリンは軽いんだから。風船ポケモンっていうだけあって、体重は1kgしかないんだよ?」
 噛みつくで追撃しようと思っていたレストだが、ラクライとププリンの距離は軽く5mは超える。しかも空中でとなれば、追撃できない。
「さらに、エコーボイス!」
 ププリンは空中でエコーボイスを放つ。反響する音波が、ラクライへと襲い掛かる。
「くそっ、さっさと降りて来やがれ!」
「いやだから、体重が軽いからすぐには落ちないんだって」
 リコリスの言う通り、ププリンは非常に軽い。そのため、落下速度も普通のポケモンより遅いのだ。
「まだまだ行くよ、エコーボイス!」
 何度目となるのか、ププリンは反響する音を発し、ラクライを攻撃。
 そしてさっきのププリンではないが、後方へと吹っ飛ばされた。
「っ!? ラクライ!」
 そう、吹っ飛ばされたのだ。エコーボイスは威力が低いと思っていたレスト。しかし今のエコーボイスの威力は、ラクライを吹っ飛ばすほどの威力があった。
「エコーボイス!」
「! 来るぞラクライ! 電光石火で突っ切れ!」
 やっとラクライの攻撃射程圏内まで落下してきたププリンは、またしてもエコーボイスを発する。対するラクライは、それを突き破ってププリンへと特攻するが、
「っ、ラクライ!」
 反響する音波を突っ切ることができず、ラクライは押し返されてしまう。
「やっぱり分かってないんだね。エコーボイスは攻撃を続ける限り、威力が上がっていく技なの。今までほとんど攻撃を中断されなかったから、かなり威力が上がってるはずだよ」
 ププリンは今までエコーボイスを四回ほど使用している。そろそろ威力も最大になるはずだ。
「ちっ、だったら無理やりにでもとめてやる! ラクライ、電撃波!」
 ラクライは波状の電撃を放つ。決して避けることのできないこの電撃なら、ププリンを止められるはずだが、
「打ち消せば問題ないね! エコーボイス!」
 もはやハイパーボイスを超える威力となったエコーボイスが、電撃波を相殺してしまう。必中技の電撃波だが、打ち消されてしまってはどうしようもない。
 ププリンはただエコーボイスを連発しているだけ。にもかかわらずかなり追い詰められているレスト。その胸中には、焦燥感が渦巻き始める。
(やばい、早くなんとかしないと……くっ、まさかリコリスがここまで強いとは……!)
 完全に予想外だ。レストは、リコリスを甘く見すぎていた。
「ププリン、エコーボイスだよ!」
 何度もエコーボイスを放つププリン。反響する音波は多角的にラクライへと襲い掛かるため、避けるのが難しい。
 反響によって音波は分散されるが、しかし総合的ダメージは確実に増えているため、威力の上昇に気づくのが遅れたのも、劣勢の原因だろう。
「連続切りなんかと違って、エコーボイスは攻撃が当たらなくても、使っていれば威力は上がる。この子のボイスはこれでマックス、そのラクライで止められるかな? エコーボイス!」
「くそっ、回り込んで電光石火!」
 またもエコーボイスを発するププリン。ラクライは大きく迂回してププリンに突っ込むが、音が反響するため躱し切れず、軌道をずらされてしまう。
「まだまだ! エコーボイス!」
「電撃波だ!」
 ププリンのエコーボイスとラクライの電撃波がぶつかり合うが、電撃波は消滅し、残る音波がラクライに襲い掛かる。
「これでフィニッシュ! ププリン、エコーボイス!」
 最後にププリンは大きく息を吸い込み、一際強いエコーボイスを放つ。
「ラクライ!」
 真正面からエコーボイスの直撃を喰らって吹っ飛ばされたラクライは、岩肌に叩きつけられる。
 ラクライの目は完全に回っており、戦闘不能となっていた。



予告通りの特訓回です。レスト対リコリス、リコリスのまともなバトルはこれが初めてですね。エコーボイス連発でラクライを圧倒します。というかこのププリン、エコーボイスしか使ってませんね……ゴリ押しもいいところですよ。さて次回ですが、特訓回はまだ続きます。と言っても、次回からはちょっと変化をつけていきますがね。対ネロ対策の秘密兵器、とでも言ったところですか。では、次回もお楽しみに。

31話 北部山脈・チュリネ ( No.125 )
日時: 2013/12/23 14:18
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「ネロさんのサンドパンの特性はね、砂かきだと思うよ」
 リコリスとの特訓、一日目を終えたレストは、ポケモンセンター宿舎にてリコリスからそう言われた。
「砂かき? 何だそれ」
「んーとねー、砂かきっていうのは、天候が砂嵐状態の時、そのポケモンの素早さが跳ね上がる特性だよ」
 成程、それでネロのサンドパンは、あれだけのスピードを出せたのか、とレストは納得する。
「ってことは、あの砂嵐さえなんとかすれば、サンドパンのスピードは一気に落ちるってわけだな」
「そうだね。それでもあのサンドパンは結構速いと思うけど、砂嵐がなければ一方的に攻撃を受け続けるってことはなくなるはずだよ」
 ネロ対策の一つ目は、砂嵐をなんとかするところにありそうだ。バトルを長引かせて砂嵐の時間切れを狙うのもいいが、長引けば長引くほどダメージを受けてしまうので、もう少し考えたいところだ。
「シナ姉みたいに、天候を変える技を覚えているかもしれないしね」
「だよなぁ……」
「それと」
 リコリスはテールナーの身体をブラッシングしながら、テールナーとその横にいるラクライを見遣った。
「ポケモンの方もなんとかしないとね。はっきり言って、トレーナーの腕はレスト君よりネロさんの方がずっと上だよ。トレーナーの強さってっていうのは一朝一夕に身につくものじゃない。付け焼刃でちょっとやっと特訓したくらいじゃ、この差は埋まらないよ」
「う……分かってるっての」
「ならいいけどね。だからこそ、ポケモンの相性でアドバンテージを取らないと」
 トレーナーとしての実力が劣るのなら、せめてタイプの相性だけでも有利にならなければ、勝つことは困難だ。リコリスが言いたいのはそう言うことだろう。
「つっても、俺が今まで捕まえたポケモンで、あの人の地面タイプに通用しそうなのはウデッポウぐらいだ。流石にレベルが低すぎるポケモンじゃ、相性がよくても勝てないだろ」
「そうだね。だから明日、行こうか」
「どこに?」
 ブラシをかけ終えると、リコリスはくるくるとブラシを手の中で回し、まるでマイクを向けるかのようにそのブラシをビシッ、とレストに突き付けた。
「バタイ山脈。ポケモンを捕まえに行くんだよ」



 バタイ山脈というのは、バタイシティを取り囲む山々の総称である。そのためバタイ山脈というと、一般的にはかなり広い範囲を指す言葉となり、普通は東部山脈、西部山脈といった風に、ある地域を指していう場合が多い。
 そして今、レストとリコリスはバタイ山脈の北部へと足を踏み入れていた。
「へぇ、この辺は岩山じゃないんだな」
「そだよ。って言っても、かなり狭い範囲だけどね。ここら辺はわりと土壌がいいから、畑とかも結構あるんだよ」
 言われて辺りを見回すと、確かにそれっぽいものが遠くの方で見えた。
「ここなら草タイプのポケモンとかもいるはず……お? 言ってる傍から」
 リコリスはレストの腕を引っ張り、近くに茂みに身を潜める。その視線の先には、二匹のポケモンがいた。
 一匹は、綿の塊のようなポケモン。綿の隙間からは黄色い目が覗き、体の両端には葉っぱが生えている。
 綿玉ポケモン、モンメン。
 もう一匹は、緑色の球根のようなポケモン。頭には三枚の葉っぱが生え、小さな体幹もある。
 根っこポケモン、チュリネ。
「うわー……モンメンとチュリネだよ。この辺じゃレアなポケモンだよ」
「そうなのか? つっても、あんま俺好みじゃないんだが……」
 なんというか、どちらもメスっぽいので、レストの琴線には触れない。どちらかと言えば、レストは格好良いポケモンを好む。
「そんなこと言わないの。どっちもすごいポケモンなんだよ。あー……それにしても、いいなぁ、モンメン……」
 リコリスはキラキラした眼差しでモンメンを凝視していた。レストからすれば、あんな綿の塊みたいなポケモンのどこがいいのだろうか、と疑問を覚える。
「お前はあっちの、チュリネだったか? の方が似合ってんじゃねえの?」
「チュリネも可愛いけど、進化した後のことを考えればモンメンがいいの。決めた、あたしあのモンメン捕まえる。だからレスト君はチュリネをゲットね!」
「はあ!? 勝手に決めるなよ!」
 と言うレストを無視して、リコリスは飛び出してしまった。
「出て来てププリン! エコーボイスだよ!」
 ボールから飛び出したププリンは、反響する音波でモンメンとチュリネを攻撃。驚いて逃げようとする二体の動きを止めた。
「ったく、しゃーねえなあ! ラクライ、出て来い!」
 あまり乗り気ではないが、ポケモンを捕まえること自体は悪くない。そう思いながらレストはラクライを繰り出す。
「俺たちの相手はあのチュリネだ。ラクライ、電光石火!」
 ラクライは超高速で地面を駆け、チュリネに突っ込み、そして吹っ飛ばす。
「レスト君、ガンバ!」
「そっちもな」
 互いに邪魔にならないよう離れ、それぞれの相手となるポケモンと向かい合う。
 レストの相手、チュリネはむくりと起き上がると、体に力を込めるように溜めている。
「あれは、成長か……そっちがパワーなら、こっちはスピード勝負だ。ラクライ、電光石火!」
 ラクライの超高速の突撃に、チュリネは対応できず吹っ飛ぶ。しかし空中で体勢を崩しながらも、頭部から無数の葉っぱを発射する。
「葉っぱカッターか? 来るぞラクライ、躱して噛みつく!」
 ラクライは襲い来る葉っぱを跳躍して躱すと、牙を剥いてチュリネへと飛び掛かる。しかしその攻撃は躱される。
「ちっ、だったらもう一度! 噛み——」
 その直後だ。

 ラクライの背後から、さっき躱したはずの葉っぱが襲い掛かる。

「なっ、ラクライ!」
 成長で威力が上がっているためか、ダメージは意外と大きい。
 だがそれ以上に、レストの驚きは大きかった。
「躱したはずの葉っぱカッターが戻ってきた……? いや、そもそも葉っぱカッターじゃないのか?」
 気になって図鑑を開くと、そこにはマジカルリーフと表示されていた。
「マジカルリーフ……電撃波と同じような必中技か。厄介だな」
 躱せない上に、チュリネは成長で攻撃と特攻上げてくる。威力の高い必中技は厄介だ。
「なら、こっちも必中技だ! ラクライ、電撃波!」
 ラクライは波状の電撃を放ち、チュリネを攻撃。しかし効果いまひとつなので、思ったほどのダメージはない。
 そうこうしているうちに、チュリネは再び成長で攻撃能力を高め、続けてマジカルリーフを放つ。
「来るぞ、電撃波だ!」
 ラクライは再び電撃波を放ち、マジカルリーフを相殺しようとするが、成長で威力が上がったマジカルリーフは波状の電撃を突き破り、ラクライを切り刻む。
「ぐっ、やっぱ無理か……電光石火!」
 やはりスピード勝負に出るしかないようだ。ラクライを地面を蹴り、高速でチュリネへと突っ込む。
 対するチュリネは、今度はただではやられない。頭部の葉っぱを振るい、ラクライを切り裂こうとする。
「居合切り! 物理技もあるのかよ」
 成長は攻撃力も上げるので、またラクライが押し負けた。小柄なわりに、意外とパワーのあるチュリネだった。
「まだだ。真正面からが通じないなら——ラクライ、電光石火! チュリネを攪乱しろ!」
 ラクライはまたしても高速で駆けるが、今度は直線では進まない。右へ左へと動き回りながら、チュリネの判断を惑わし、側面から一撃を叩き込む。
「いいぞ! 続けて噛みつくだ!」
 ラクライは続けて牙を剥き、チュリネに突き立てる。
 しかしチュリネも黙ってはいない。頭の葉っぱを振り回してラクライを切り付け、引き剥がした。
「電撃波!」
 後退したラクライは波状の電撃をチュリネへとぶつける。しかしチュリネもカウンターでマジカルリーフを放ち、ラクライを切り刻んだ。
 さらにチュリネは、続けてマジカルリーフを放つ。
「まずい……! 電光石火で振り切れ!」
 ラクライは襲いかかる葉っぱを超高速で振り切ろうとするが、必中技のマジカルリーフは止まらず、やがてスタミナの切れたラクライに襲い掛かった。
「くそっ、ラクライ!」
 チュリネの体力もそう多くないだろうが、ラクライの体力も残り僅か。もう一撃も喰らえないだろう。
「……こうなったら、まだ未完成だが、あの技を試すか」
 あの技。それはラクライが、テールナーのバトルを見て習得しかけている技だ。不発も多く、まだ未完成だが、もし当たればチュリネには絶大な効果が期待できる。
「行くぞラクライ、集中しろ。狙いを定めるんだ」
 ラクライは大きく息を吸い、チュリネをジッと見つめる。
 チュリネはそんなラクライに、マジカルリーフを放つ。一直線にラクライへと襲い掛かる葉っぱの群れ。これを喰らえば、戦闘不能は免れない。
 だが、しかし、

「ラクライ、弾ける炎!」

 刹那、ラクライは口腔から火炎弾を放つ。
 火の粉を散らすの炎は、マジカルリーフを焼き払い、そのままチュリネへと直撃。チュリネを炎上させる。
「成功……! まだフルパワーじゃないが、かなりいい感じだ」
 小さくガッツポーズを取りながら、レストはボールを構え、炎に包まれるチュリネへと投げつける。
「行け、モンスターボール!」
 ボールはチュリネにヒット。チュリネはボールの中へと吸い込まれていく。
 カチッ、カチッ、とボールの揺れる音が鳴り響き、同時にレストの心拍数も上がっていく。ポケモンは何度も捕まえているが、捕獲が成功するかどうかの瞬間は、いつも緊張する。それがギリギリのバトルだったのなら、なおさらだ。
 モンスターボールがしばらく揺れると、ふとカチンッ、という一際大きな音が鳴った。それっきり、ボールは動かない。
「……よっしゃ!」
 またしてもガッツポーズを取り、ボールを拾い上げるレスト。このチュリネはかなり強かった。このポケモンなら、ネロにも通用するかもしれない。
「よかった、そっちも捕まえられたんだ」
 背後から声がする。
「リコリス……そっちは?」
「もち、捕まえたよ」
 ボールを見せつけるように掲げ、リコリスは笑う。思わずレストの表情も緩んでしまった。
「最初は舐めてたが、こいつはかなり強かった。草タイプだし、こいつがバタイジムでの秘密兵器になるはずだ」
「そっか。じゃ、次はその子の調整と、コンディションチェックだね。チュリネは特に体調とかを気遣わなきゃいけないポケモンなんだから、しっかりしてよね、レスト君」
「げ、マジか……俺、そういうの苦手なんだが……」
 なにはともあれ、レストはチュリネの捕獲に成功した。バタイジムに、そしてネロにリベンジをする日も、そう遠くはないだろう。



はい、というわけで今回はレストがチュリネをゲットです。ちなみに、白黒としてはモンメン、そしてその進化形の方が好きなんですけどね。そちらはリコリスに譲りました。しかしチュリネとその進化形って、覚える技が極端に少ないんですよね。俗に言うザブウェポンが少ないと、小説としては描写がし難いので、なかなか苦労しそうです。まあ、その辺の対策もいろいろ考えていますけどね。それでは次回、遂にバタイジム再戦に移りたいと思います。お楽しみに。

32話 リベンジバトル・バタイジム再戦 ( No.126 )
日時: 2013/12/24 00:17
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「……またここに来たってことは、それなりに腕を磨いて来たってことで、いいのか?」
「はい」
 レストは、フィールドを挟んだ向かい側にいるネロに向かって、真正面から答える。
 ネロに負けてから一週間、リコリスの力も借りて特訓してきた。それでもリコリスは五分五分だと言うが、レストは負ける気が全くなかった。
 いや、負ける気がしなかった。
「……まぁ、てめぇがどれほど強くなったのかはすぐに分かることだ。頼むから、俺がブチ切れる程度であってくれるなよ」
「当然です。今回は、秘密兵器も連れて来てますからね」
「秘密兵器だぁ?」
 引っかかる言葉を言い放つレスト。訝しげにネロは復唱するが、レストはそれ以上は言わない。
「ふん、まぁいい。その秘密兵器とやらも、期待外れでないことを祈るぜ。ルールは前回と同じ三対三だ、交代はお前のみ可能だ」
 とっとと始めっぞ、と言って、ネロは素早くボールを投げる。
「まずはてめぇからだ! ヒポポタス!」
 やはりネロの一番手はヒポポタス。特性、砂起こしで天候が砂嵐状態となる。
「やっぱこう来るよなぁ……」
 レストに課せられた問題、それは砂嵐によるスリップダメージと、サンドパンの超高速機動をなんとかすることだ。
 前者はバトルが長引くほどこちらが不利になり、後者は一気に攻め切られてしまう。しかも砂嵐のダメージを無視して速攻で決めにかかろうとすれば、砂かきで超高速となったサンドパンが襲い掛かり、逆に砂かきを発動させまいと砂嵐が切れるまでバトルを長引かせれば、その頃にはもうこちらのポケモンはボロボロ。
 このように、砂嵐とサンドパンはそれぞれの長所を生かし、短所を補う関係となってリンクしている。これは非常に厄介だ。
 しかしそれは、砂嵐が発動し続ける前提で成り立つ戦術。つまり、砂嵐の発生を止めることができれば、スリップダメージと砂かき、両方の戦術を一気に突き崩すことができるのだ。
「つーわけで、頼んだ、ハネッコ!」
 レストが繰り出すのは、ピンク色の体、頭部に一対のギザギザした葉っぱの生えたポケモンだ。
 綿草ポケモン、ハネッコ。
「草と飛行タイプのハネッコ、か。確かに地面タイプには有利だが……」
 それだけではないだろうと、ネロは考える。そして実際、その通りだった。
「ハネッコ、日本晴れ!」
 ハネッコは眩い光の球を上空へと打ち上げる。球体は砂嵐を押し退け、光を放ち続ける疑似太陽となった。
「天候技か……それで俺の砂嵐戦法を崩そうってわけだな」
「その通りです。俺のポケモンで天候を変えられる技を覚えてたのはこのハネッコだけだったんで、こいつを選出したんですけど、上手くはまりました」
 砂嵐さえなくなれば、ネロの力は半減するはず。それだけで勝てる相手とも思っていないが、これだけでも戦いやすさはかなり違ってくるはずだ。
「行くぞハネッコ、タネマシンガン!」
「ヒポポタス、岩石封じ!」
 ハネッコは連続で種子を飛ばすが、ヒポポタスは地面を隆起させ、岩石の壁を作り出してその攻撃を防御する。
「妖精の風だ!」
 だが、そんな単発の防御ではハネッコの攻撃を防いだとは言えない。ハネッコは妖精の力を込めた風を巻き起こし、ヒポポタスを攻撃。さらに、
「毒の粉!」
 その風に、毒素を含む粉末を乗せる。粉末は妖精の風と共にヒポポタスへと降りかかり、ヒポポタスを毒状態にした。
「毒か……」
 ヒポポタスは比較的耐久の高いポケモンだ。攻撃を通すのも一苦労するだろうが、このように毒状態にしてしまえばダメージが継続し、蓄積する。耐久力が高くとも、間接的にその耐久を落とすことができる。
「しかも普通に撃たず、妖精の風に乗せて射程範囲を伸ばした……なんだよ、しっかし成長してやがるじゃねぇか」
 舌打ちしながらも、どこか嬉しそうなネロの表情。バトルに集中しているレストは気付かなかったが、リコリスはその表情を見逃さない。
(ネロさんが笑ってる……? あの人、あんな顔もできるんだ……)
 また新しい発見をし、小さく驚くリコリス。
「ヒポポタス、突進!」
「ハネッコ、タネマシンガン!」
 ヒポポタスは全身に力を込めて突進するも、風に乗ってつかみどころなく動くハネッコには当たらず、種子による連続攻撃を喰らってしまう。
「妖精の風だ!」
「岩石封じ!」
 続けてハネッコは妖精の風を放つ。ヒポポタスも岩石封じで全身を覆いつくし、襲い掛かる風をシャットアウト。
「……吠えるは、使わないんですね」
「はんっ、たりめーだ。ポケモンを三体に絞るなりなんだり、どうせそっちの対策もしてんだろ。だったらわざわざその対策にはまるのも、披露させるのも癪だ。いちいち言わせんな」
 勿論、レストは吠えるの対策もしてきている。しかしネロは吠えるをするつもりはないようだ。
(まあ、ポケモンを絞るっていっても、レスト君はポケモン四体連れて来てるんだよね……)
 しかしその四体目は、どうやら出番がなさそうだ。
「んなことはどうでもいい。さっさと続きだ! ヒポポタス、岩石封じ!」
「ハネッコ、躱してタネマシンガン!」
 隆起する岩石を躱し、種子による連続攻撃を打ち込むハネッコ。火力の低いハネッコだが、その分毒のダメージでヒポポタスの体力は削れている。
「ちっ、ちょかまと鬱陶しい……葉緑素か」
 ネロの言う通り、ハネッコの特性は葉緑素。砂かきの晴天バージョンとでも言うべき特性だ。その効果は、晴天時に素早さが跳ね上がるというもの。
 元から身軽なハネッコだが、葉緑素の特性も合わさり、鈍足なヒポポタスでは捉えられない素早さとなっている。
「面倒くせぇ……なら、ヒポポタス、岩石封じ!」
「当たりませんよ! ハネッコ、回避だ!」
 ヒポポタスは地面を隆起させるが、ハネッコも上昇してその攻撃を躱す。しかし、ネロの狙いは攻撃を当てることではなかった。
「っ!?」
 岩石はその隆起を止めず、どんどん盛り上がっていく。しかも一か所だけでなく、何ヶ所からも隆起するため、ハネッコの逃げ道がどんどん塞がれていく。
「まずい……ハネッコ、早く抜け出せ!」
「させねぇよ」
 ハネッコは抜け道を探そうと、一度下降する。だが次の瞬間、ハネッコの真下の地面から、ヒポポタスが飛び出す。
「突進!」
 飛び出したヒポポタスの突進を真正面から喰らい、ハネッコは隆起を続ける岩石に激突。これだけでもかなりのダメージだろうが、ヒポポタスの攻撃は止まらない。
「岩石封じだ!」
 隆起した岩石に他の岩石を重ね、ハネッコは無数の岩石の下敷きとなってしまった。耐久力が低いハネッコに効果抜群の一撃。もはやハネッコは戦闘不能寸前だろう。
「くっ、まだだ! ハネッコ、妖精の風!」
「んな攻撃が通用すると思ってんなよ! ヒポポタス、突進!」
 最後の力を振り絞って、ハネッコは妖精の風を吹き付けるが、火力がなさすぎる。ヒポポタスの突進に軽く突っ切られてしまい、ハネッコはヒポポタスに撥ね飛ばされた。
「ハネッコ!」
 思い切り吹っ飛び、ジムの壁に激突したハネッコは完全に目を回しており、戦闘不能だった。
「っ……よくやった。お前の頑張りは無駄にはしねえ」
 ハネッコを労いながら、レストはボールに戻す。
 実際、ハネッコはかなりの仕事をこなしている。天候を上書きし、その上ヒポポタスを毒状態にしている。ハネッコの攻撃と突進の反動ダメージもあり、ヒポポタスの体力もそう多くないだろう。
 レストは次のボールを構える。
「次、行くぞ! 出て来いテールナー!」
 レストの二番手はテールナーだ。晴天状態で炎技の威力が上がっているので、通常よりも火力が高くなっている。
「テールナー、ニトロチャージ!」
「当たるかよ! 穴を掘る!」
 テールナーが炎を纏って突貫するのを、ヒポポタスは地面に潜って回避。そしてその後、地面からヒポポタスが這い出てくる。
「そのパターンは読めてる! テールナー、躱してグロウパンチ!」
 真下の地面が揺れるのを感じ取ったテールナーはすぐさま後退。直後にヒポポタスが地面から飛び出すが、そこにはテールナーはいない。
 テールナーはすぐに前進し、細腕を振るってヒポポタスを殴りつける。
「まだまだ! 炎の渦!」
 続けて尻尾から木の枝を抜き、発火した先端から炎の渦を放つ。
 ハネッコとのバトルでは、飛行タイプゆえに使用しなかったが、ヒポポタスが厄介なのは穴を掘るだ。こちらの攻撃を躱された直後に攻撃を喰らってしまう。
 パターンさえ読めてしまえば避けるのは簡単だが、動きを止めるに越したことはない。
「テールナー、ニトロチャージ!」
 炎の渦に束縛されたヒポポタスに、テールナーは炎の推進力を得て突撃。ヒポポタスを吹っ飛ばした。
「……ちっ」
 舌打ちするネロ。その視線の先には、戦闘不能となったヒポポタスが倒れていた。



というわけで、バタイジム再戦です。日本晴れでネロの砂嵐戦術を潰し、続くテールナーを天候でサポートしつつヒポポタスを下したレストですが、ネロもやられっぱなしではありません。次回、ネロの二番手登場です。お楽しみに。

33話 砂嵐・砂漠鰐 ( No.127 )
日時: 2013/12/24 21:08
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)

「戻れヒポポタス」
 ネロはヒポポタスをボールに戻すと、少し思案してから次のボールを構える。
「前回は出さなかったが、今回は状況が違う。こいつを出させてもらうぜ。行って来い、ワルビル!」
 ネロの二番手は、砂色の体に黒いライン。直立した鰐のようなポケモンだ。
 砂漠鰐ポケモン、ワルビル。
 ワルビルはボールから出て来るなり、鋭い目つきと唸るような声でテールナーを威嚇する。
「メグロコの進化形か……つーか、厳ついな……」
「これは特性威嚇だっての。厳ついのは元からだ」
 特性、威嚇。効果自体は単純で、ボールから出ると相手の攻撃力を一段階下げるのだ。
「地面タイプなのは当然として、特性は威嚇か……」
 実は、レストとリコリスはネロのもう一体のポケモンの特性を予想していた。砂嵐状態の時に発動する特性は、回避率をあげる砂隠れや、特定タイプの技の威力を上げる砂の力などがあるため、レストはそういった特性を持つポケモンが出て来ると予想していたのだ。
 しかし、実際は違った。
「俺が砂嵐をメイン戦術に組み込んでることなんざ、有名な話だ。察しのいい奴なら地面タイプ使いってだけで警戒しやがる。そんでもって、そんな俺の対策として、天候を変えるのはかなりメジャーだ。なにも対策するのはてめぇらだけじゃねぇ、俺だって挑戦してくる奴の対策の傾向を分析し、その対策の対策を練るくらいはする。このワルビルは砂嵐が突破された時のためにいる。砂嵐がなくても戦えるようなポケモンを用意するなんざ、当然だろ」
「成程な……」
 つまり砂嵐戦術がメインと言っても、ネロの手持ちで砂嵐を生かせるのはサンドパンだけということになる。
「しっかし、アテが外れたな。リコリスの言う通りだったか……」
 リコリスはレストの予想に対して、ネロさんはそんな単純じゃない、と言い返したのだ。結果、リコリスの言う通りだった。
「まあ、それはそれだ。どの道、日本晴れでテールナーの方が高火力で有利。一気に攻めるぞ、炎の渦!」
 テールナーは木の枝をぐるぐると回し、渦状の炎を放つ。
「当たるかよ! 穴を掘る!」
 しかしワルビルは地中に身を潜めて炎の渦を回避。すぐさまテールナーの背後から飛び出し、飛び掛かる。
「来るぞ、後ろだ! グロウパンチ!」
「こっちもグロウパンチだ!」
 振り向き様に、テールナーは裏拳のように拳を繰り出す。対するワルビルも同様に拳を構え、突き出す。
 双方の拳が真正面から激突するが、攻撃力ならワルビルの方に分があり、テールナーが押し負けてしまう。
「くっ、怯むなテールナー! 炎の渦!」
 だがテールナーもただではやられない。素早く枝を構えて炎の渦を放ち、ワルビルを渦の中に閉じ込めてしまう。日本晴れで火力も上がっているため、抜け出すのは困難だろう。
「そこだ! ニトロチャージ!」
 そして炎を全身に纏い、さらには推進力としても利用し、ワルビルに突貫。ワルビルを吹っ飛ばす。
「まだまだ! 炎の渦!」
 空中に投げ出されたワルビルに標準を合わせ、テールナーは炎の渦で追撃をかけようとするが、
「ちっ、こんくらいでへばってんじゃねぇぞ! ワルビル、バークアウト!」
 それより早く、ワルビルがけたたましい叫び声を発する。耳をつんざくようなその声に、思わずテールナーは怯んでしまった。
「この隙を逃すな! グロウパンチ!」
 着地したワルビルは、一気に地面を駆けてテールナーに接近。硬くなった拳を突き出してテールナーを殴り飛ばす。
「ぐぅ、とりあえずワルビルの動きを止めねえと。テールナー、炎の渦!」
 テールナーはまたしても渦状の炎を放ち、ワルビルを束縛しようとするが、
「ワルビル、バークアウト!」
 再びワルビルが咆哮し、テールナーを攻撃すると同時に炎の渦を消し飛ばしてしまう。
「……?」
 その現象に疑問を覚えるレスト。たかが炎の渦とは言え、日本晴れの影響で火力は確かに上がっているはず。それなのに、ワルビルの咆哮一つで簡単に消し飛ばされてしまった。
(今の技は特殊技っぽいが、ワルビルは特攻が高いようには見えない……どうなってんだ?)
 募る疑念を払拭したいレストだが、ネロはそれを待ってくれない。
「ワルビル、グロウパンチ!」
「っ、考えても始まらねえか。テールナー、炎の渦!」
 肉弾戦になると、攻撃力の高いワルビルがどうしたって有利だ。なのでテールナーは、ひとまず炎の渦でワルビルの動きを止めようとするが、
「なに!?」
 なんと、ワルビルは炎の渦を強引に突っ切ってテールナーに接近し、殴り飛ばしたのだ。
「テールナー! 大丈夫か?」
 なんとか起き上がるテールナー。しかし、ワルビルの攻撃力はもう二倍以上に膨れ上がっている。
 それより不可解なのは、さっきのワルビルだ。炎の渦を強引に突き破ったが、しかしあれは、ワルビルがどうこうというより、炎の渦自体の火力が落ちていたように見えた。いや、実際に落ちている。
 疑似太陽はまだ出ている。なら、何が原因でそうなってしまったのか。レストは記憶を辿り、一つの技が思いつく。
「! バークアウト……!」
「やっと気づいたか。遅ぇっての」
 慌てて図鑑で検索すると、バークアウトなる技の解説が表示された。
「攻撃と同時に特攻を下げる技か……厄介だな」
 もはやテールナーの特攻は半分以下に落ちている。特殊技は使い物にならないだろう。
 かといって物理技で接近戦をしかければ、グロウパンチで攻撃力の上がっているワルビルが圧倒的に有利。もともとテールナーは特殊攻撃の方が得意なので、かなり苦戦するだろう。
「真正面からのぶつかり合いじゃ勝ち目はない……なら、スピード勝負だ! テールナー、ニトロチャージ!」
 テールナーは全身に炎を纏い、ワルビルへと突っ込む。
「ワルビル、穴を掘る!」
 しかしその攻撃も、地中に潜ったワルビルには届かない。
「来るぞテールナー!」
 直後、テールナーの足元の地面が揺れ、ワルビルが這い出て来る。
 穴を掘るのパターンはほぼ完全に読み切っている。テールナーはバックステップでワルビルの一撃を躱すと、すぐさま前進し、
「グロウパンチだ!」
 拳を繰り出す。テールナーの拳はワルビルに直撃し、ワルビルを殴り飛ばした。効果抜群なので、ダメージはそれなりに通っているはず。
「もう一発グロウパンチ!」
「させるかよ! ワルビル、炎の牙!」
 テールナーが突き出す拳を屈むように躱し、ワルビルは炎の灯った牙をテールナーに突き立てる。
「なっ……炎の牙!?」
 炎の牙、名前からも分かるように、炎タイプの技だ。テールナーには効果いまひとつだが、グロウパンチで攻撃力の上げているワルビルなら、半減されてもお釣りが来る。さらに今の天候は晴天。炎技の威力が上がるのはテールナーだけではない。
「ぐっ、振り払えテールナー!」
 しかし胴体に噛みつかれているので、それも難しい。ワルビルとの距離が近すぎるせいで物理技が打ちにくいというのもある。サイケ光線なら至近距離から放てるが、悪タイプと複合するワルビルには効果がない。
「ぶん投げろ!」
 そうこうしているうちに、ワルビルは顎の力だけでテールナーを持ち上げ、そのまま空中に放り投げてしまう。
「バークアウト!」
 そこにワルビルは、けたたましい咆哮で追撃。さらに、
「グロウパンチだ!」
 跳躍して拳を振り下ろし、テールナーを地面に叩きつける。
 幾度と攻撃の上がったワルビルの拳の威力は相当なものだ。まだ辛うじて立っているが、テールナーの体力ももう限界だろう。
「だが、ピンチの時こそチャンスだ! テールナー、ニトロチャージ!」
 テールナーは全身に炎を纏ってワルビルに突貫。しかも纏う炎は、晴天だけでなくテールナーの特性、猛火でも強化されている。その火力は尋常ではないだろう。
「いくら威力を上げようが、当たらなきゃ意味はねぇだろ! ワルビル、穴を掘る!」
 テールナーの突撃を、ワルビルは地中に身を潜めて回避。
「来るぞ!」
 その直後、テールナーの背後からワルビルが飛び掛かる。それを予期していたテールナーはサッと横に逸れてワルビルの攻撃を躱し、
「ニトロチャージ!」
 炎を纏い体当たり。ワルビルを吹っ飛ばした。
 直撃なので、ダメージは大きいだろう。
「まだだ! 炎の渦!」
 さらにテールナーは、渦状の炎を放って追撃をかける。だが、バークアウトで特攻を下げられすぎた。その火力は、猛火が発動しても微々たるものだ。
「穴を掘る!」
 しかしワルビルは、この炎を地中に潜って躱す。
「後ろか……いや、下だな。テールナー、後ろに躱せ!」
 下から襲い掛かってくると予想したテールナーは、バックステップでワルビルの攻撃を躱そうとする。実際、ワルビルはテールナーの足元から這い出て来た。
 しかし、

「させるかよ! 炎の牙!」

 突如、テールナーの背後に火柱が立つ。
「なにっ……!?」
 一瞬だったとはいえ、その火柱に自ら突っ込んでいったテールナーは、体勢を崩してしまった。
 そして、その隙はこの局面で大きな弱点となる。
「ワルビル、炎の牙!」
 完全に地面から出て来たワルビルは、炎の灯った牙をテールナーに突き立てる。深々とその牙を突き刺し、炎で身体の表面を焼くと、そのままレストの足元へと投げ捨てた。
「テールナー!」
 満身創痍だったテールナーは、効果いまひとつとはいえその攻撃で完全に戦闘不能となってしまう。
「……よくやったテールナー。戻って休んでろ」
 テールナーをボールに戻すレスト。これで残るポケモンは、あと一匹。
「何だかんだ言って、思ったより大したことなかったな。結局、日本晴れの恩恵を受けてもてめぇのテールナーは俺のポケモンに勝てなかった。はんっ、つまんねぇ結果だ」
 吐き捨てるように言うネロ。しかしワルビルだって、テールナーとのバトルでかなり消耗しているはずだ。そんな一方的に言えることではないだろう。
 勿論、ネロのこの言葉は半分くらいは挑発だ。ネロの強い語調で、口の悪いことを言えば、小心者のトレーナーなら怯えてしまう。そうでないトレーナーも、迷いが生じる。
 だがネロが求めているのは、そんな弱いトレーナーではない。何と言われても堪えることのない、強いトレーナーだ。
 そしてレストは、今度はそんなネロの言葉にも動じなかった。むしろ強気に出て、一つのボールを突き出す。
「つまらない結果? だったらその結果、面白くしてやりますよ。この、俺が最後まで取っておいた秘密兵器で」
「あ?」
 そう言えば、ジム戦が始まる前に、秘密兵器がどうこうと言っていた気がする。そんなことを思い出すネロは、また舌打ちする。
 しかし内心では、その秘密兵器に対する興味で、これでもかというほど鼓動が高鳴っていた。
「……いいぜ。だったら、てめぇの秘密兵器とやら、見せてみやがれ!」
「言われなくても!」
 レストは最後のボールを構える。
 そして渾身の力を込めて、そのボールを投げ放った。



バタイジム再戦、その二です。ネロの二番手はワルビル、厳ついネロにはぴったりですね。ともかく、作中でも言及していますが、ネロは砂嵐を対策された時のために、砂嵐に関係のない特性を持つワルビルをメンバーに入れています。なので砂嵐の恩恵をまともに受けられるのはサンドパンだけですね。ちなみに、白黒は結構サンドパン好きです。あの、格好良いとも可愛いとも言える絶妙な感じがいいです。とはいえ、そこまで好きでもありませんが。では次回、たぶんバタイジム再戦、決着です。そしてレストの秘密兵器が登場。お楽しみに。


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