二次創作小説(紙ほか)
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- ポケットモンスター アルカディアス・デストピア
- 日時: 2014/01/02 00:09
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
はじめましての方ははじめまして、そうでない方は……お久しぶり? ともあれこんにちは、白黒です。
遂にやってしまいました、白黒のポケットモンスター四作目、一作目と二作目は繋がっているので、個人的には三作目ですけどね。まだ完結していない作品もあるという中、とんだ暴挙に出てしまいました。
一応言い訳をしておくと、XYが発売されてポケモン熱が戻ってくれば執筆に励むだろうと思ったのですが案外そうでもなく、そうだったとしてもXYのポケモンを動かしたくなってしまったのです。その上、もう大丈夫ですが、少し前にパソコンがウイルスに感染するという大失敗を犯してしまい、今までちまちま書き溜めていたデータがすべて吹き飛び、意気消沈。今もなんとか少しずつ書いていますが、ショックが大きすぎて『七つの星と罪』は少しお休みな感じです。ちょっと話を大きくしすぎて進めにくくなった、というのもありますけど。
さて、白黒を知っている方は何度も聞いている言葉ですが、前置きが長くなってしまいました。要するに新作を書き始めました、ってことです。
今作は初めての片仮名タイトルですね。『アルカディアス・デストピア』、略してA・D、でしょうか。意味は、アルカディアが理想郷、ユートピアという意味で、デストピアがその逆、理性で統制された社会、ですね。内容に触れますと、地方やキャラクターもオリジナルですが、生息ポケモンなどのベースはXYです。なのでメガシンカもありますよ。
ストーリーの進行はゲームのように地方を旅していく形ですね。ただゲームに準じた一作目、オリジナル要素の強い二作目、トリップっぽくなった三作目と来て、今回はアニメ要素がちょっと強いですかね。白黒にしては、ですけど。
さてさて、前置きが長いと言ってからも長くなってしまったので、ここいらでやめておきましょう。
それでは白黒の新しい物語です。どうぞ、お楽しみください——
登場人物一覧
>>68
目次
プロローグ
>>1
テイフタウン編
>>2 >>5 >>8 >>11
カンウシティ編
>>24 >>27 >>40 >>59 >>60 >>66 >>67
ソンサクシティ編
>>72 >>73 >>74 >>80 >>86 >>87 >>88 >>91 >>107 >>110 >>113
バタイシティ編
>>115 >>116 >>117 >>118 >>119 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126 >>127 >>128 >>129 >>130 >>131
- 22話 別れ・一緒 ( No.113 )
- 日時: 2013/12/10 18:41
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
満身創痍のハリボーグに、テールナーは木の枝を突き付けているので、いつでも攻撃できる——即ち、いつでもとどめを刺せる状態を意味していた。
「もうお前に勝ち目はない、諦めろ」
「っ、く、ぅ……!」
悔しそうに歯噛みするラルカ。だが彼女は、とにかく声を張り上げる。
「まだ、まだよ! まだ私のハリボーグは戦闘不能じゃない!」
「つってもあと一撃で終わりだろ。見てみろよ、今すぐにでもテールナーはハリボーグを攻撃できるんだぜ」
「でも! まだハリボーグはとどめを刺されてない! だったらまだ負けじゃない!」
明らかに負けが確定している状況でも、ラルカはそれを認めなかった。レストは深く溜息をつくと、
「お前、いい加減にしろよ。強情にもほどがある。公式戦じゃないんだから、どの道戦闘不能になるポケモンをわざわざ倒す必要もない。だからとどめを刺していないだけで、実質的なお前の負けは決まってんだよ」
「なによ! だったら早くとどめを刺せばいいじゃない!」
「……ちっ。分かった、そこまで言うなら望み通りとどめを刺してやる。そうすればお前も認めざるを得ないだろ。テールナー、炎の——」
枝の先端に灯った炎が一際強くなる。揺らめく炎は、今まさにハリボーグへと襲い掛かろうとする——その時だ。
「待って!」
レストトラルカの間に、一人の少女が割って入る。
「? なに、この子……?」
「リコリス……お前、何でここに……!?」
その少女は、リコリスだった。
「シナ姉から連絡があったんだよ。レスト君の様子が変だって。だから急いで駆け付けたんだ……で、話は聞かせてもらったよ」
リコリスはいつもとどこか違う、静かで落ち着きのある声で、諭すように語りかける。
「あたしは二人に何があったかとか、昔がどうとかは知らない。レスト君のことだってまだ知らないことは多いし、ラルカちゃん、だっけ? のことなんて、全然知らないよ。でも、それでも、君らに言えることはある」
どこか呆れたように息をつくリコリスは、続ける。
「二人とも、もっと落ち着こうよ。レスト君は言葉きつすぎだし、ラルカちゃんは言ってることが滅茶苦茶。お互い主張があるんだろうけど、もっと落ち着いて。それと、レスト君」
「……なんだよ」
リコリスの口調は、まるで悪戯をした子供を叱るようなものだった。
「あたしなりにいろいろと考えたけど、その考えだとこの一件は君が悪いと思うよ。だって、ラルカちゃんは君が何も言わずに故郷を去った理由を聞きたいだけ、なんだよね?」
「う、うん。そうだけど……」
「だったら、それに向かって帰れは酷い。君とラルカちゃんは、幼馴染、なのかな? いつから一緒かは知らないけど、たぶん長い間一緒にいたんじゃないのかな。それなのに別れの言葉もないなんて、酷すぎる」
「そ、そうよ! 何で生まれてからずっと一緒だった私に一言もなくこんなところに来てるのよ!」
「……どうだっていいだろ、んなこと」
リコリスとラルカ、二人の言葉にも、レストは頑なに答えない。
「なによ、あんただって強情じゃない。人の気持ちも知らないで、勝手なことばっか言って、私よりも身勝手よ……」
今までずっと強気だったラルカの表情は沈んでいき、言葉も弱くなっていく。
「あの町で私と同い年の子供はあんたしかいないのに、そのあんたがいなくなったら、寂しいじゃない……私はまだ、あんたと一緒にいたいのに」
「……やっぱ、それが本音か」
実を言うと、レストにはラルカの本当の気持ちというものが薄々分かっていた。元より訳を話せば大人しく帰る相手とも思っていない。なんだかんだと理由をつけてついてくるだろうと思っていた。
「いいか、ラルカ。俺たちももういい歳なんだ、いつまでも一緒ってわけにはいかねえんだよ」
「だからって! なんで何も言わずに行っちゃうのよ……!」
「っ……」
しかし、やはりレストは答えない。言葉に詰まり、視線を逸らすばかりだ。
「何とか言ってみなさいよ、レスト!」
「レスト君!」
「……あぁ——」
語調の強くなる二人に対し、遂に堪えきれなくなったのか、レストは口を開く。
そして、
「——うるせえよお前ら! 二人になった途端言いたい放題言いやがって! ちったぁ俺のことも考えろ!」
爆発した。
「俺だってなぁ、好きでこんなとこにいるわけじゃねえんだ! 急に親の離婚が決まったと思ったらすぐにこんなとこに連れて来られてんだぞ! こんなどこかも分からねえ場所なんかより、生まれた時からずっといる町の方がいいに決まってんだろ!」
「レスト君……」
「それになぁ! お前は俺がいないから寂しいとか言ってたが、俺だって寂しいっての! お前の言う通り、あの町で俺とつるんでたのはお前だけだ! 俺だって別れたくはなかったよ!」
「レスト……」
肺の中の酸素をすべて吐き出し、叫ぶだけ叫んだレストは、肩で息をしながらも続ける。しかしその口調は、一気に沈んだ。
「……俺だって寂しいんだ。お前と別れたくはなかった。だが、この先ずっと一緒ってわけにはいかねえ、分かれってのはいつかやって来るものだ。納得できようができまいが、そういうもんなんだ。そうやって自分を納得しなきゃ、前には進めねえんだよ……」
ラルカの本音は、レストと一緒にいたい、別れたくないということ。しかしそれは、レストも同じだった。
「あの町で俺と一緒にいたのはお前だけ、だから俺も、お前がいない生活は考えられなかった。だから、少しでもそんな気を紛らわせるために、こっちに着いてからすぐ旅に出た。博士に誘われなくても、自分から申し出るつもりだったんだ」
小さな町でずっと一緒に、たった二人で育ってきたため、互いが互いにかけがえのない存在となった。それが、レストとラルカの関係だった。
「お前と同じだ、俺もお前と別れるのは嫌だった。別れを告げなかったのも、その言葉を口にしたら、お前と別れるということを自覚しねえといけないからで……つまりは、お前との別れを認められなかったからだ」
ひたすら静かに、レストはそう締め括った。
それからしばらく沈黙の時間が流れたが、やがていたたまれなくなったのか、レストが焦ったように口を開き。
「と、ま、まあそういうことだっ! さっきも言ったように、俺たちはもうずっと一緒にはいられねえ。流石にもう帰れなんて言わねえが、そういうことだっ! 分かったか? 分かったな! 分かったらもうこの話は終わりだ!」
強引に話を終わらせようとするレスト。自分で言ったことが恥ずかしかったのが、必死で照れを隠そうとする。しかし赤面している顔では、それも無意味で、どころか滑稽にすら見える。
「……あはっ! なーんだ、レスト君って不良っぽい人だと思ったら、意外と可愛いとこあるじゃん」
「う、うるせえよ! お前には関係ねえだろ! 黙ってろ!」
「そういうのも強がってるみたいで可愛いよ、レスト君?」
レストをからかいながら笑うリコリスに、何も言い返せない。というより、今の二人の力関係ではレストが何を言ってもリコリスには敵わない。
「っ……俺はもう宿に戻るっ!」
それを悟ったレストは、踵を返し、全速力で走り去ってしまった。あっという間に二人の視界から消えてしまう。
「あーあ、行っちゃった。まいっか、それよりも……ラルカちゃん」
「……あっ、な、なに?」
リコリスは、レストがいないことを確認すると、ラルカに歩み寄る。その声や動作、そして雰囲気は、いつもの明るい彼女のそれとは、少し違っていた。
リコリスはラルカの目の前まで来ると、静かに、そして優しく、口を開く。
「ちょっと、話があるんだけど——」
翌日。
この日でレストたちも『雪見館』を出なくてはならないのでその準備をしていると、ラルカが訪ねてきた。
「私、旅に出る」
開口一番、ラルカはそう言い放った。
「私もあの後考えたけど、あんたの言う通り、これから先もずっと一緒っていうのは無理かもしれない。それは受け入れるわ」
でも、と続け、
「それでも私は、あんたと離れたくない。ずっと一緒は無理でも、離れるのだけは嫌」
それは、まったくレストの言うことを受け入れていないのでは、とレストは反論しそうになるが、それより早くラルカは言った。
「だから、私も旅に出る。この地方を巡って、ジムバッジ集めて、ポケモンリーグに出場する! あんたと同じように!」
は? と思ったレストだったが、ラルカ曰く、
「一緒にいるのは無理、だったらせめて、一緒のことをして昔の感覚を思い出すの。それならいいでしょ?」
ということらしかった。
レストにはまったくもって理解不能かつ意味不明な理屈だったが、ラルカらしいとは思った。それに彼女が納得しているのなら、それを否定する理由もない。
というわけで、それだけ言ってラルカは一足先に旅立った。ハリボーグ一体ではこの街のジムはきついので、新しいポケモンを探しながら次の街を目指すそうだ。
「……はぁ、結局あいつも、旅に出るんだな」
嘆息するレスト。しかしその声は、どこか嬉しそうだ。
こうして、また一人、新しいトレーナーが、旅立ったのであった。
というわけで、ラルカ問題はこれにて解決。あ、先に言っておきますが、レストとラルカは恋愛フラグ的なあれではないです。単に二人とも、仲のよい遊び相手を求めている感じです。作中では雰囲気を壊さないために言いませんでしたが。しかし、こうして見るとレストはなかなかにツンデ——もといぶっきらぼうですね。こういうキャラは嫌いじゃないです、自分で作っておいてあれですけど。では次回、次の街に行く、途中のダンジョン的なあれですダンジョンと言うか、フィールドですけど。それでは次回もお楽しみに。
- Re: ポケットモンスター アルカディアス・デストピア ( No.114 )
- 日時: 2013/12/10 22:31
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
シナモン 女 29歳
容姿:色素の薄いセミロングの栗毛に、白を基調とした『雪見館』衣装である着物を纏い、外出時(ジム含む)にはくすんだピンク色のカーディガンを羽織る。グラマーで着物の上からでも分かるほどスタイルが良い。背は少しだけ高め。
性格:非常におっとりしており、声も艶っぽいが、どこか抜けており若干舌足らず。どこか幼さも感じるため、大人っぽい印象は薄い。仕草が小動物っぽく、寒がりで仕事の時以外はジムの中であろうとこたつで温まっている。ピンチになるとジム戦であろうとあたふたするため、レストからも心配されているが、すぐに立ち直れるほどのメンタルはある。
備考:ソンサクシティ最大にして最古の旅館『雪見館』の仲居でもある。リコリスからはシナ姉と呼ばれ、仲が良い。
肩書:コールド&マイルド・メイド
戦術:霰を主軸とした戦術で、相手には間接的なダメージを与えつつ、自分は特性を生かして戦う。
バッジ:フロストバッジ
手持ちポケモン
バニプッチ:♀
技:霰、凍える風、水の波動、ミラーショット
特性:アイスボディ
性格:大人しい、我慢強い
ユキメノコ:♀
技:ウェザーボール、目覚ましビンタ、怪しい風、霰
特性:雪隠れ
性格:おっとり、抜け目がない
- 23話 バタイ砂丘・大群 ( No.115 )
- 日時: 2013/12/11 17:42
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
バタイ砂丘は、ソンサクシティとバタイシティを繋ぐ砂丘だ。砂丘と呼ばれているものの、その広さは砂漠と言っても過言ではない。灼熱の太陽が降り注ぎ、砂嵐が吹き荒れる様子は、ホーラ地方でも指折りの厳しい環境だ。
そんな中を、レストとリコリスは歩んでいた。
「うぅ、あうぅ……うーうー」
「いつまで唸ってんだよお前。流石にそろそろうっせえぞ」
「こんな砂嵐がびゅーびゅー吹いてる上に、こんなに暑いんだよ……唸りたくもなるよ」
「そりゃあ、そんな恰好してたら暑いだろうよ」
リコリスの服装は、黄色い長袖のカットソーTシャツに水色のジーンズ、ベージュのキャスケットを被り、足は茶色いロングブーツ、首には青いストールを巻いた上にサングラスまでかけている。
異常なまでに肌を見せないリコリスの服装には、れっきとした意味があった。
「だってぇ、砂漠なんて紫外線の集中豪雨地帯だよ。肌焼けちゃうもん」
「そんなに気にすることか? それ」
「気にするよ! 女の子はそういうもんなの!」
「ラルカはまったくそんなこと気にしなかったけどな……」
「あぁ……ラルカちゃんはそんな感じするね」
しかしリコリスは違う。いくらレストでもそれは分かるが、しかし気にしすぎだとは思った。
「はぁ、何でこんなところを横断する羽目に……」
「しゃーねえだろ、カンネイシティに向かう道は通れないって、シナモンさん言ってたんだしよ」
「そうだけどさぁ……」
そうだ。紫外線が嫌ならそもそもこんなところに来なければいい。しかし、それでもこの二人がこの場所にいる理由はというと、話は昨日の夜に遡る。
ラルカとの仲違いを終えた日の夜。レストとリコリスの元に、シナモンがやって来た。
やって来たと言っても、それは食事を運んだり布団を敷いたりと、仲居としての仕事をするためであり、特別二人に用事があったというわけでもないのだが、そのついでのように彼女は言ったのだ。
「そういえば、ふたりはこのままどうするの?」
要するに、次はどの街に向かうのかと言うことだろう。レストは特に考えてなかったが、リコリスはそうではないようで、
「次はカンネイシティに行こうかなって思ってるよ。ホーラ地方の三大都市の一つだし、ジムもあるしね」
カンネイシティというと、カンウシティの教会にある庭園を造り出したジムリーダーがいる街だったか、とレストは思い返す。その人物には少なからず興味もあり、ホーラ地方でも大きな街らしいので、レストもそこへ行きたいと思ったが、
「そう、じゃあ気をつけてね……あっ」
「どうしたんすか?」
思い出したように、シナモンは声をあげる。レストが尋ねると、
「いけない……ごめんね、今カンネイシティにいくための道は閉鎖されてるの」
「えぇ!? 閉鎖!? 何で!?」
「なんだか、ポケモンが大量発生してて、とおれないみたい。今、警察の人とかがいろいろしらべてるんだって。それが終わるまでは閉鎖するって」
「はあん。まあ気になるけど、だったら別のルートで行けばいいだけじゃないんすか?」
何気なくそういったレスト。しかし、リコリスはその発言にビクッと身を震わせた。
「そうだけど、そうなるとバタイシティを経由しないといけないんだよ……」
「バタイシティ? そこに、ジムはあるのか?」
「あるよ、バタイシティのジムリーダーはネロくんっていうの。ちょっとこわいけど、いい人だよ」
ほんわかと答えるシナモンに対し、リコリスはどこか遠い目をしている。この温度差は何なのだろうか。
「ならまずはそのバタイシティからでいいか。えーっと、タウンマップを見るからに……うわ、随分遠回りだな」
ソンサクシティからカンネイシティまでは、南下すればすぐに着くが、バタイシティを経由するとなると、西にぐるっと回らなくてはいけない。その上、その道中には砂漠、山脈など、険しい土地が広がっている。
「ま、別にいいか。そういうところの方が、強いポケモンも多そうだしな。つーわけで、バタイシティを目指すぞ。いいな、リコリス」
「えぇー……」
リコリスははっきりと嫌だとは言わなかったが、かなり嫌そうな顔をしていた。それはレストにも分かったが、近くにジムのある街は他になさそうなので、無視してバタイシティを目指すという方針で固めた。
ということがあり、現在に至る。
「うぅ、焼ける、焼けるよぅ……あたしの肌が紫外線に侵食されて——」
「ちょっと黙れお前。とはいえ、暑いのは確かだな。しかも長い、どこまで続くんだこの砂漠は」
小一時間ほど歩き続けているが、まだ砂丘を抜けられそうにない。どころか、周りに目印となるものが何もないため、まっすぐ歩いているのかすらも不安になる。
「まさか、こんなとこで道に迷った、とかじゃねえだろうな……」
「えぇ!? そんなの嫌だよ! あたしはまだ死にたくない!」
「飛躍しすぎだ、お前どんだけパニくってんだよ」
暑さで頭がやられたのだろうか、などと思いながらも歩を進めるレストだが、その足が不意に止まった。
「どうしたの?」
「いや、なんか変な匂いがする……何だこれ、仄かに甘い匂いが……」
鼻孔をひくつかせながら言うレスト。リコリスには甘い匂いなどまったく感じられないが、鼻が利くレストには分かるらしい。
「……これ、匂ったことあるぞ。カンウシティの甘い蜜だ。あれに近い」
「甘い蜜? 確かあの蜜って、ポケモンを引き寄せる効果があるから、誰かがその蜜でポケモンを誘ってるってこと?」
甘い蜜の香りは遠くまで拡散するのだが、その遠くまで飛んだ匂いは普通、人間には嗅ぎ分けられない。それを嗅げるレストの嗅覚は、ポケモンレベルのようだ。
「あと……なんか聞こえるな」
「聞こえるって、何が?」
「なんか、大群の何かがすげえ勢いで突っ込んで来る時の地響きみたいな音だ」
「……それって」
リコリスは振り返る。今まで歩んで来た彼方後方から、砂煙が上がっているのが見えた。砂色の鰐のようなポケモンで、目の周りや縞模様のようになっているラインが黒い。
砂漠鰐ポケモン、メグロコ。
それが群れをなして、こちらへと向かって来ている。
「メ、メグロコの群れ!? なんかこっち来てるよ!」
「やべえなこりゃ……と、とりあえず逃げるぞ!」
と言って、二人は一目散に逃げ出すが、メグロコの数が多すぎる。多少横に逸れた程度では逃げ切れず、しかも意外に速い。
「ど、どうしよう……このままじゃ、追いつかれる……」
「あんなのに巻き込まれたらひとたまりもねえし、ポケモンで応戦しようにも数が多すぎる……!」
絶体絶命のレストとリコリス。このままではメグロコの群れに押し潰されてしまう。
そんな時だ、どこからか叫ぶような声が響く。
「そこのお二方! 伏せてください!」
その声を聞き、レストは反射的にリコリスを引き寄せて地面に伏せた、というより橋っている時の勢いそのままにダイブした。
レストに下敷きにされたリコリスが何か呻いているが、そんなことを気にしている場合でもない。今度は雄叫びのような声が耳に届く。
「カエンジシ、爆音波!」
直後、メグロコの群れの一部が吹っ飛んだ。同時に凄まじい突風が吹き荒れ、砂塵が舞う。
メグロコの群れは中央付近が吹き飛ばされたようで、被害に遭わなかったメグロコたちはそのまま直進。吹っ飛ばされたメグロコも、起き上がったものはまた前に進む。
「二人とも、こちらへ!」
「っ」
そしてレストとリコリスは、何者かに腕を掴まれ、そのまま引きずられるようにして引っ張られる。
どれくらい引っ張られていただろうか。しばらくして、掴まれていた腕は解放され、巻き上がる砂塵も消えていた。そこで初めて、レストはその人物を視認する。
レストよりも年上だろう女だ。癖のある赤い長髪に、黒いブラウスと赤黒チェックのスカート。黒いロングブーツと、首には貴族的なスカーフのようなもの、クラバットが巻かれている。
「ここまで来れば安全ですね……大丈夫でしたか?」
「え、ああ、はい……大丈夫、です」
急な展開にレストが頭の整理をしていると、ぱんぱんと力なく腕が叩かれる。そこでレストは、今までずっとリコリスの顔面を胸で圧迫していたことを思い出し、解放する。
「っ、ぷはっ、本当に死ぬかと思った……レスト君! いつまであたしにサブミッション極めてるつもりだったの!?」
「別に関節は極めてねえよ。そんなことより、えぇっと、あんたは……?」
レストが尋ねると、女は思い出したように名乗る。
「あぁ、失礼、まだ名乗っていませんでしたね。私はリリエルといいます。あなた方は……?」
「俺はレストです。で、こっちが」
「リコリスです、助けてくれて、どうもありがとうございました!」
こうして、レストとリコリスは、絶体絶命の危機をリリエルに助けられたのだった。
今回からバタイシティ編スタート、まずはバタイ砂丘です。そして大光さんのオリキャラ、リリエルが登場しました。キャラ崩壊などの不備がありましたら、お申し付けください。では文字数もやばめなので次回予告。次回はまた奴らが登場する予定です。お楽しみに。
- 24話 大量発生・捕獲 ( No.116 )
- 日時: 2013/12/12 15:51
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「しっかし酷い目に遭ったな。まさか偶然、メグロコの行進に遭遇するなんてよ」
まさか突然、メグロコの大群が押し寄せて来るとは思わなかった。偶然とは恐ろしいものである。
だが、リリエルはその偶然を否定した。
「いえ、偶然ではありません。というより、メグロコは普通、あんた大群で生活するポケモンではありません」
「そうなんすか? ってことは、さっきのは……?」
「……この砂丘に限った話ではありませんが」
と前置きして、リリエルは語り始めた。
「どうも最近、いたるところでポケモンが異常な大量発生を見せているようです。まだ大量発生が起こってから数日しか経っていないので、報道などはされていませんが」
「大量発生……」
そう言われて思い出す。確かシナモンも、ソンサクシティとカンネイシティを繋ぐ道路でポケモンが大量発生していると言っていた。そもそもそのせいで、レストとリコリスはこの砂丘を横断しているのだが。
「私はその大量発生には何か裏があるのではないかと思い、独自で調べています。この砂丘にいたのは、それこそ偶然ですが」
しかしその偶然のお陰でレストたちは助かったのだ、偶然様々である。
「ポケモンの大量発生なぁ……この甘い蜜の匂いが関係してんのか?」
「甘い蜜?」
レストが何気なく発した言葉に反応したリリエル。どうやら彼女は(普通は嗅げないので当然だが)この砂丘に甘い蜜の香りが漂っていることを知らないようで、レストは簡単に説明した。
「成程、カンウシティ特産の甘い蜜ですか。私も頂いたことがあります」
「あの甘い蜜ならポケモンも誘き出せるし、その作用じゃないかなって、今のとこあたしたちは思ってるんですけど」
どうですかね? とリコリスが尋ねると、リリエルはまたそれを否定する。
「確かにあの甘い蜜はポケモンを呼ぶ効果がありますし、レストさんがその匂いを感じたというのならそうなのでしょう。しかしそれにしては規模が大きすぎます。あの甘い蜜を一瓶すべて使ったとしても、あそこまでの大群を誘導することなんて不可能、さらに視点を広げれば、大量発生は各地で起こっています。それがすべて、トレーナーが甘い蜜でポケモンを捕まえようとして起こった事故と言うのは、些か強引です」
「うーん、そうですか。まあそうですよね」
「まあ、よほど大量の甘い蜜を使用すればありえなくもない話ですが、甘い蜜は個人として買うことのできる個数が規制されていますから、やはりありえな——」
「待った」
とそこで、レストが制止する。
「今、大量の甘い蜜があればありえる、って言いましたか?」
「? まあ、はい。ありえてもおかしくないとは思います。絶対にありうる、とまでは断言できませんが」
しかし可能性があるのなら、レストには思い当たる節がある。
「リコリス」
「うん。それだったら、カオスの仕業かもしれないね」
「カオス? それは、どのようなものなのでしょうか?」
リリエルはカオスを知らないようだ。報道もされておらず、インターネットでも情報がないので、実は意外と影を潜めている組織なのかもしれない。
それはさておき、レストはざっくりとカオスについて説明する。同時に、カンウシティで起こった甘い蜜の窃盗についても。
「……成程。そのカオスという組織が大量の甘い蜜を盗んだのなら、それを使ってポケモンを得ようとするのは道理、筋は通っていますね」
それに、とリリエルは続ける。
「その手の組織は、理由こそ様々ですが、とにかく多くのポケモンを得ようとする傾向があります。野生のポケモンを大量に捕獲したり、トレーナーのポケモンを強奪することだってザラにあります。例をあげるなら、カントー、ジョウトのポケモンマフィア、ロケット団。ホウエンの大災害を引き起こしたマグマ団、アクア団。シンオウのギンガ団や、イッシュのプラズマ団もそうですね。後はカロスの——」
と言ったところで、リリエルの言葉が止まった。次に紡ぐ言葉が出て来ず、口を開いたり閉じたりしている。
「——とまあ、このようにポケモンの略奪を行う集団は数多くいます。カオスもその一つであるのなら、見逃すわけにはいきません」
どこかぼかしたように言うの彼女だったが、レストは特に気にしなかった。
「そうっすね。とりあえずは、カオスの連中がどこにいるのか見つけねえと」
「でも、この広い砂漠で闇雲に探しても見つからないよ。これと言った目印があるわけでもないし……」
「いえ、そうでもないですよ」
リリエルは言う。どうやら探すアテがあるようだ。
「先ほどのメグロコは、ここから西の方角へと直進していましたよね」
「ん、まあ確かにそうでしたけど、だからなんすか? 今から追うってわけにも行かないですし、もう見失ってるっすよ」
「そうですね、ですが方角さえ分かれば十分です。この砂丘は広大で、障害物となるようなものもほとんどないため、迷いやすいです。しかし障害物がないということは、逆に言えば目的地があるのならそこへ直進できるということです」
「?」
少々回りくどいリリエルの説明に首を傾げるレスト。リコリスも深く考え込んでいる。
「具体的に言いますと、レストさんの仮説が正しいのなら、先ほどのメグロコは甘い蜜の香りの発生源へと向かっているはずですよね。ならばその発生源に向かう途中、メグロコたちは何か障害物に阻まれるでしょうか?」
「あっ、そうか! つまり、何もない砂漠だからこそメグロコたちは一直線に香りの発生源に向かえるから」
「方角さえ分かれば、後はその方角に向かってまっすぐ進んでいけばいい、というわけだな」
やっと理解した二人。多少道中で軌道を修正する必要はありそうだが、それならまず間違いなく目的地に辿り着ける。
そうして、三人はひたすら西へと歩き続けたのだった。
リリエルの言った通り、一時間ほど西へと進むと目的地に着いた。
そしてその目的地には、レストの推理通り、カオスの構成員たちがいた。
簡易テントを建て、そこを取り囲むようにしてかなり広い範囲に巨大なネットを張っている。
さらにネットの両端には、一つ目に球形の体、その左右にはU字型の磁石がついているポケモンがいた。
磁石ポケモン、コイル。
どうやらあのネットにポケモンの群れ場引っかかると、コイルの磁力でネットを縛り、逃げられないようにして捕縛しているようだ。
さらにその近くには巨大なコンテナがいくつもある。恐らく、捕えたポケモンを入れておくための檻だろう。
「本当にカオスだったな……どうする?」
「決まってます、ポケモンたちを救出しますよ」
見たところ、数はそこまで多くない。少なくとも、いつかのソンサク洞にいた下っ端ったちよりも少人数だ。
「まず私が奇襲をかけ、囚われたポケモンたちを救出します。その時に彼らと戦うことになるでしょうが、逃走も考えられますので、お二人はその阻止と、私のサポートに回ってもらえますか」
「分かりました」
とりあえずの作戦が立ち、まずはリリエルが先行する。
「頼みますよ、カエンジシ」
そしてリリエルは、一体のポケモンを出す。雄々しくなびく赤い鬣を持った、獅子のようなポケモンだ。
王者ポケモン、カエンジシ。
リリエルとカエンジシはゆっくりとカオスの拠点に接近し、見つからないギリギリの距離をキープ。そして、
「行きますよ、カエンジシ……爆音波!」
直後、何かが爆ぜるような爆音とともに凄まじい衝撃波が放たれる。
「うぉ……!」
その余波はレストたちのところまで飛んでくるが、衝撃波が放たれた先に比べればどうってことない。
その惨状はというと、衝撃波が放たれた先にはほとんど何も残っていないほど。ネットどころか、仮説テントすら吹き飛び、その中にいただろう下っ端たちもまとめて宙に投げ出され、砂漠の向こうへと消えて行く。流石にコンテナは残ったが、生存しているのは直撃を受けなかった下っ端たちだけだ。
「なっ、何事だ!?」
「奇襲か!?」
「にしては派手すぎねえか!?」
などと慌てふためく下っ端たちに、リリエルはカエンジシと共に特攻していく。
そんな様子を見て、レストとリコリスは、
「……なんか、俺たちのサポートなんて、必要なさそうだな」
「うん……そだね」
モンスターボールを握る手が、少し寂しく感じられた。
というわけで恒例の悪の組織イベントです。それと、地味にカンウシティでの伏線を回収しています。覚えていますか、あの時の甘い蜜ですよ、皆さん。最後はなんだかギャグっぽい終わりになってしまいましたが、これで終わりではありません。次回、三人目が登場です。何の三人目かって? それは次回をお楽しみに。
- 25話 『四凶』・ビャッコ ( No.117 )
- 日時: 2013/12/13 20:36
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
「くそっ、出て来いヤンチャム!」
「行け、アサナン!」
「まとめて吹き飛ばしてください。カエンジシ、爆音波」
下っ端たちはそれぞれポケモンを繰り出すが、カエンジシの凄まじい爆音で瞬く間に吹っ飛ぶ。先ほどよりも威力が落ちているようだが、奇襲をかけた時の攻撃がいつも以上の力を発揮していたのか、それとも吹き飛ばしすぎるのも問題だと思い力をセーブしたのかは分からない。
「さて、ポケモンたちも解放しなくてはいけませんね。クレッフィ、お願します」
リリエルが繰り出したのは、鉄色の輪っかにじゃらじゃらといくつもの鍵が付けられているポケモン。
鍵束ポケモン、クレッフィ。
「クレッフィ、あのコンテナの鍵を開けてください」
クレッフィはリリエルの指示に頷くと、スーッとコンテナまで移動し、鍵束につけられている鍵のうち、ピッキング用と思しき鍵をコンテナの南京錠に差し込み、回した。
すると南京錠は簡単に開き、クレッフィがそれを弾くと、中から大量のポケモンが怒涛の勢いで飛び出し、どこかへ逃げ去ってしまう。
「ああ! 折角捕えたポケモンが!」
などと叫ぶ下っ端をよそに、クレッフィは次のコンテナを開錠する。するとまた大量のポケモンが逃げ出した。
「ますます俺たちの出番がねえな」
「だね。下っ端も逃げるどころか吹っ飛ばされちゃったし」
などと呟きながらレストたちもリリエルの元へやって来るが、その頃にはもうほとんど終わっていた。
下っ端たちのポケモンはすべて戦闘不能、コンテナもすべて開け放たれ、彼らはもう何もできない。
「なんか終わったみたいっすけど、こいつらどうするんすか?」
「とりあえず、警察に引き渡しましょうか。そうすれば同時に、カオスについての情報も得られるかもしれませんし」
呻く下っ端たちに、一歩、また一歩と三人は近づいていく。下っ端はじりじりと後ずさるが、その背後ではカエンジシが睨みを利かせていた。
だが、
「そこまでだ!」
どこからか、鋭い声が聞こえる。その声の方向に目を向けると、そこには一人の男が立っていた。
上下共に白いカンフー服を纏い、髪も白いショートヘアの男だ。
「お前達だな? 我々のテントを吹き飛ばしたのは。テントで休んでいたらいきなり空に放り出され、こっちは危うく死ぬところだったんだぞ! どうしてくれる!」
男は酷く憤慨していた。確かに、テントの中にいただけで急に吹き飛ばされれば怒りもするだろう。
「それに捕えたポケモンも逃がしやがって……覚悟はできているんだろうな?」
怒りの形相で男はこちらに近づいてくるが、ある程度歩くと足を止めた。
「俺はカオス『凶団』、『四凶一罪』の一人、ビャッコ! カオスに対しこんな舐めた真似をして、ただで済まされると、思うなよ?」
「……レストさん、リコリスさん、下がってください。ここは私が」
殺気立っているビャッコに、リリエルは一歩踏み出る。
「リリエルさん……」
「私は、あなた方よりもカオスという組織については詳しくありませんが、彼が他の下っ端たちとは違う、強者であることは見ればわかります。今でこそ嗜む程度にしかしていませんが、かつては私もトレーナーを極めようとした者。ここは、私に任せてください」
そこまで言われたのであれば、レストも引き下がるしかない。レストとリコリスは、邪魔にならないよう後ろに下がった。
「フー……俺の相手はお前か」
「その通りです」
「いいだろう。見たところ、お前による被害が一番大きいみたいだしな。下っ端の仇なんぞを取るつもりはないが、ここで貴様を討ち取らせてもらうぞ!」
というより、レストとリコリスは一切手を出していないため、カオスの被害の十割はリリエルの手によるものなのだが。
それはともかく。
「手っ取り早く終わらせるぞ。勝負は一対一だ」
「いいでしょう。では、早く始めましょう」
リリエルの言葉を皮切りに、二人はそれぞれボールを構える。
「頼みます、ファイアロー!」
「破ッ! コジョンド!」
リリエルが繰り出したのは、赤く猛禽類のような屈強な体つきの鳥型のポケモン。
烈火ポケモン、ファイアロー。
対するビャッコのポケモンは、しなやかな肢体を白い体毛で包んだオコジョのようなポケモン。
武術ポケモン、コジョンド。
「ファイアローは炎と飛行タイプ、コジョンドは格闘タイプだから、相性ではファイアローに分があるよ」
「だな。それに飛んでる相手じゃ攻撃も当てづらい。圧倒的にこっちが有利だな。」
外野でそんなことを言っていると、ビャッコは鼻で笑い飛ばすように言った。
「それはどうかな? 苦手なタイプの対策をするのはトレーナーの常識、俺のコジョンドが飛行タイプの対策をしていないとでも思ったか?」
と言うビャッコは、早速その対策を披露する。
「コジョンド、ストーンエッジ!」
コジョンドは周囲に鋭く尖った岩を浮かべると、それらを一斉に射出する。
格闘タイプに、飛行タイプ対策として岩技を覚えさせるのはメジャーだが、炎とも複合しているファイアローにはダメージが四倍となり、一撃でも致命傷になってしまう。
しかし、
「ファイアロー、アクロバットです」
ファイアローは目にも止まらぬ俊敏な動きで襲い掛かる岩を躱すと、コジョンドに急接近し、翼で打ち据えた。
「鬼火!」
さらに、今度は怪しく燃える火の玉を浮かべ、コジョンドに火傷を負わせる。
「何っ!?」
「これであなたのコジョンドは火傷状態、攻撃力は半減ですよ」
物理技を主体とする格闘タイプに、攻撃力が下がってしまう火傷状態は辛い。ビャッコも苦しそうな表情をしているが、
「だ、だが俺のコジョンドは物理技だけではないっ! コジョンド、波動弾!」
コジョンドは手中に波動のエネルギーを凝縮させた球体を生成すると、それを高速で射出する。
「ファイアロー、旋回してください!」
ファイアローは飛び上がり、空中を旋回して波動弾を躱すが、波動弾はファイアローを追いかける。
「無駄だ! 波動弾は必中技、躱すことはできん! コジョンド、跳び膝蹴り!」
波動弾を振りきれないでいるファイアローに、コジョンドは素早く接近しようとする。だが、
「ならば……ファイアロー、フリーフォール!」
ファイアローは急激に加速すると、すぐさまコジョンドを捕え、上空へと連れ去ってしまう。それでも波動弾は追ってくるが、しかしリリエルの狙いはこれだった。
「コジョンドを波動弾にぶつけてください!」
ファイアローは捕えたコジョンドを、ファイアローを狙って地面と垂直に飛来する波動弾に向けて思い切りぶん投げた。
「なっ……コ、コジョンド!」
当然コジョンドは波動弾の直撃を喰らい、さらにそのまま地面に投げ落とされる始末。度重なる攻撃で、ダメージも大きいだろう。
「ぐぬぬ……コジョンド、アクロバット!」
「ファイアロー、アクロバットです!」
コジョンドとファイアローは、互いに超高速で動き回りながら相手の隙を突いての攻撃を仕掛ける。
だが、コジョンドの攻撃はファイアローに届かず、コジョンドが攻撃を仕掛ける前にファイアローの翼がコジョンドを打ち据えていた。
「な、何なんだこの速さは……コジョンドのスピードが、まるで追いつかない……!」
ビャッコがファイアローのスピードに戦慄していると、リリエルは静かに口を開く。
「……私のファイアローの特性は、疾風の翼」
「疾風の翼? ……!」
疾風の翼とは、飛行技を繰り出すとき、通常よりも素早く繰り出せる特性だ。電光石火などの、俗に言う先制技の効果を飛行タイプの技すべてに付加させると言えば分かりやすいか。
「つまり、あなたのコジョンドは私のファイアローにスピードでは絶対に勝てない。この対戦カードが決まった時から、ファイアローの勝ちは確定していたのです」
激しいが一方的な打ち合いで、遂にコジョンドが吹っ飛ばされる。まだなんとか持ちこたえているが、もう体力はほとんど残っていないだろう。
「ファイアロー、フレアドライブです!」
ファイアローは全身に激しい爆炎を纏うと、コジョンドの周囲を高速旋回する。尾を引いていく炎は、やがて地面に落ち、そのまま燃え続け、コジョンドを包囲する。
「ま、まずい! コジョンド、とりあえず跳べ!」
コジョンドは炎の包囲から抜け出すべく跳躍したが、それが間違いだった。
「ファイアロー、アクロバット!」
空中に身を投げ出してしまえば、もう逃げることはできない。迎え撃つにしても、ファイアローの攻撃は速すぎる。
「っ、しまった——」
直後、ファイアローの攻撃が一閃する。
ファイアローがリリエルの元へと帰った時、コジョンドは地面に落ち、戦闘不能となっていた。
今回は新しい『四凶一罪』ビャッコの登場です。また中国っぽい奴を出せましたが、こいつはポケモンもチャイナ風です。まあ、作中ではボロ負けしてますけどね。結局ファイアローには一撃たりとも入れられませんでした。では次回、とりあえず今回の騒動の収集をつけて、次の街に行きたいと思います。ジムリーダーも出せるかな? というわけで次回もお楽しみに。
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