二次創作小説(紙ほか)
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- ハニカム(テニプリ夢)
- 日時: 2021/06/07 02:22
- 名前: ぺ (ID: EabzOxcq)
かわいいかわいい女の子
葉山仁奈…立海大附属高校1年。医者の家系に生まれたひとり娘。容姿端麗だが少し抜けている。
麻里…仁奈のクラスメイトで親友。一般家庭。
沙由香…仁奈の中学時代の親友。某出版社の令嬢。宍戸先輩の彼女。いまでも仁奈と親交あり。
未央…同じく中学時代の仁奈、沙由香の親友。某銀行頭取の孫。
- Re: ハニカム ( No.33 )
- 日時: 2021/06/03 05:43
- 名前: ぺ (ID: 5xmy6iiG)
「神奈川県警本部より感謝状を贈呈致します。」
かれこれ2時間、警察のお偉いさんの長い長いありがたいお話のあとにやっと感謝状の授与が行われた。姿勢よく頷いたり、微笑んだり、どんな愛想をしたのか忘れるくらいどうでも良かった。最後はいくつかの報道関係のカメラに向かって感謝状を見せつけるようにして立っていた。
「被害者を助けた際には、どのようなおもいでしたか?」
「特に思うことや考えたことはありません。自分がいちばん犯人と被害者の近くにいたので犯人の止めに入った、それだけです。」
「素晴らしい行動力ですね。その後、被害者の方とはどのようなやり取りをされましたか?」
「被害者のプライバシーに関わるので、申し上げられません。」
「そうですか…ご回答ありがとうございます。」
蓮二は一刻も早く終わらせたかったのか、記者の質問を片っ端から否定していた。蓮二の母はずっと携帯を構えて満足そうである。それが言いようのなない腹立たしさになっている。警察での一連の儀式を終えた蓮二は、母親と共に警察署を出た。
「もっと愛想よくしたらよかったのに。」
一言目がそれである。蓮二は答える気もなかった。母親がタクシーを拾ったので、二人で乗り込んで家に帰った。家に帰ると玄関に女物の靴が脱ぎ捨ててあった。そのまま自分の部屋に上がると、姉の部屋のドアが開いていた。
「姉さん、」
「蓮二!あの女いる?私、夏用のパジャマとおばあちゃんに会いに来ただけだから。すぐ帰る。」
あの女、とは当然母親のことである。階段を登る音が聞こえてきた。蓮二も姉も昔から階段を誰かが昇り降りする音に、身震いというか迫ってくる恐怖感を覚えている。母親が迫ってくるように感じている。
「あれ?蓮月じゃない!どうしたの?」
「おばあちゃんとおじいちゃんに会いに来たから、もう帰る。」
「おばあちゃん子って都合のいい言葉で、年寄りから金集るのやめなさいよ。みっともない。」
「は?あんたこそ父さんの金で好き放題してるくせに。あんたじゃなくて、父さんとおじいちゃんがお金出してくれてるのに、自分もでかい顔するのやめてくれない?ほんとに無理。」
「あらそう。いいわね、家族から愛されて。そうやって一生、都合のいいときばっかり人に頼って生きてなさい。早く出て行って。恥よ、柳家の。」
「あんたもあたしと同じレベルだっつーの。あんた一人うちの家系に入ったせいで、蓮二まで大学に落ちたらどうするの?」
「それはないわ。蓮二はちゃんとできる子だから。」
姉はもう何も言い返さなかった。黙って階段を降りて、玄関のドアがひどい音を慣らして閉まった。
「本当にイヤね。蓮二もあんな女の子に捕まったらだめだからね?」
「すまない、勉強の邪魔になるから出て行ってくれないか。」
蓮二は半ば強引に母親を蓮二の部屋から追い出した。姉は長女ということもあり、母親が特に厳しく育てていた。あの子は団地の子だから遊んじゃだめ、あの子のお母さんは若すぎるから教育がなってない、あの子は性格が悪そうだから一緒にいてはいけない。姉は友だちがいたことがなかった。更に英将来の役に立たない、と言われ祖父母が通わせてくれていた英会話教室を辞めさせられた。受けたくもない中学受験のために、小3から塾に缶詰。姉はわざと落ちた。それ以降、姉は勉強ができなくなった。おしゃれをすると色気づいてると言われて前髪も切られていた。思春期に太ると醜いと笑われていた。他にも沢山恨み言がある。それでも姉は結局、偏差値が低い大学の外国語学を専攻した。弟ながら姉の祖父母への思いと母親への反抗心に涙が出そうになる。姉はとても容姿が整っている。父親に似たから、それが許せないと母親はよく言っていた。
「あなたはうちの孫を、娘じゃなくて、女として見ているのね。だから嫉妬もするし嫌がらせもしたくなる。私にはそれがわからないね。」
祖母はそう言って、猫と共にリビングを後にした。母親は机の上の花瓶を両手に持って、思い切り床に叩きつけた。
「死ね、ババア。」
母親はぽつりと言った。蓮二は何かが割れる音がして、猫が何かやらかしたのかと急いでリビングに言った。花瓶が割れて粉々になり、母親がへたり込んでいる。
「あずきがやったのよ。お母さん、片付けなきゃ。」
母親は散らばった花を集めながら、蓮二に背を向けて言った。蓮二はそうか、と言ってまた2回へ上がった。
- Re: ハニカム ( No.34 )
- 日時: 2021/06/05 00:05
- 名前: ぺ (ID: z5NfRYAW)
次の日、仁奈は早起きして髪の毛を巻いていた。今日は中学時代の友人たちと女子会なのだ。母親も起きたようで、洗面台にやってきた。
「おはよう。」
「おはよう、あれ?髪の毛なんか巻いてるの?」
「今日、沙由香たちと遊ぶの放課後。」
「校則違反に気をつけなさいよ。」
「大丈夫だって!」
仁奈は自分の毛束を巻き上げたが、見事にカールがついておらず、ただ寝癖のように毛先が跳ねただけだった。
「全然、巻けないんだけど!」
隣で風呂に入る準備をしていた母親は、仁奈のコテを取り上げた。
「毛束取りすぎ。外巻きしたいのか内巻きしたいの、どっち?」
「えー、どっちのほうがかわいい?」
「どっちでもいいわ。」
そう言いながら、仁奈の母親はやすやすと仁奈の髪の毛を巻いている。毛束を挟み、下から上へ巻き上げたあと、くるくるとコテを回転させてコテを外した。
「え?これだとなんかヨーロッパのお姫様みたいだよ?」
「後で全部ほぐすから、いいの。」
母親と久々に二人で話したような気がする。生活リズムが家の中にいてまるで違うのだ。なんだか仁奈は小恥ずかしかった。思春期特有のものだが、黙って母親の姿を見てようと思った。その間に母親は仁奈の髪の毛をワックスでほぐし、揉みあげてスタイリングしている。
「はい、できた。」
「ママ、ありがとう!」
仁奈はくるくる回って自分の髪の毛の動きを見たり、鏡に近づいて前髪の巻かれ具合に関心したりしている。
「子どもみたいね。」
仁奈の母親は自分のショートカットをクシで梳かしながら言った。
「えー、仁奈は子どもでしょまだまだ。」
仁奈は笑って返した。母親はすぐ風呂に入ってしまった。その間に仁奈は朝ご飯を食べて、学校に行くために家を出た。
「仁奈に何かしたのか?」
「何もしてないわよ。」
「今更執拗に仁奈に近づくのは辞めてくれ。親権だって、本人が決めるんだから悩ませるようなことはしないでほしい。」
「そうですね。」
「あと荷物、運ぶんだろ。あの男には用が済んだら早く出ていくように言ってくれ。」
「わかりました。」
父親と母親は顔すら合わせていなかった。そう言って、父親はまた寝室に戻っていった。母親は風呂から上がったあと、自分の荷物が入ったダンボール10個分をリビングに運び出している。やがて男が一人、母親の元へやって来た。男は仁奈の母親より少し若く、黒いスーツに身を包んでいた。
「外に荷台も持ってきたから、ダンボールだけ廊下に運んじゃおうか。」
「そうね。」
仁奈の父親はひたすら狸寝入りをしていた。
「あれ?仁奈ちゃんは?」
男が仁奈の名前を口にすると、父親がドアを開けてリビングに殴り込んできた。パジャマ姿の父親はスーツ姿の男に掴みかかった。
「うちの娘を気安く呼ぶなぁ!」
腹の辺りを勢いよくどつかれ、男は床に倒れた。幸いソファーの壁面にぶつかり頭を打つことはなかったが、その場で土下座の体制を取った。
「すみません!ほんとに、娘さんとは関わる気ないですし、関わることもないです…申し訳ありません。」
「俺はな、お前の恋人(仁奈の母親)とは他人だけど、娘とは血が繋がってんだ!仁奈がこの女と生きていきたいって言っても、お前にだけは絶対渡さないからな…。」
父親は息を切らしながら言った。母親はその場に立ち尽くしている。
「俺はもう、浮気だって不倫だってされたっていいけど、お前らは仁奈には一生消えない傷を残したんだ。自分の母親が不倫するなんて、思ってもないんだ、あの娘は。あんな幸せな顔して学校に行った仁奈になんて説明すればいいんだ…ショックで学校にいけなくなって、うつにでもなったらどうする…。」
その言葉を聞いて、母親は座り込んで泣きだしてしまった。咄嗟に男は顔を上げ、仁奈の母親に寄り添うように隣に座り直した。
「泣きたいのはこっちだ…。もうこんな人生懲り懲りだよ。」
父親は片手で顔を覆った。
「もう出ていってくれ、夜また話し合おう。」
父親は寝室に戻った。
「うぅ…。」
「とりあえず、出よう。」
二人は荷台にダンボールを積み上げ、マンションを跡にした。
- Re: ハニカム ( No.35 )
- 日時: 2021/06/05 02:21
- 名前: ぺ (ID: z5NfRYAW)
朝、学校に来た仁奈の姿を見てクラスメイトは次々に仁奈をかわいいと褒めた。朝練が終わって教室に入ってくるなり、赤也は仁奈の髪の毛を指差した。
「葉山!その髪の毛!」
「え、赤也が女子の変化に気づくなんて…。」
「麻里が感動で泣きそうになってる…!」
「俺リスペクト?」
クラスメイトたちは赤也を褒めようとしていたが、一斉にコケたも同然である。全然違う!仁奈に失礼!など声が飛び交っていた。
「今日、デートでもすんの?」
「ううん。中学の友だちと遊ぶの、女子会。」
麻里が想像するお嬢様の女子会は、ホテルのアフタヌーンティーである。優雅におしゃべりとお紅茶なんか飲んで、うふふおほほって笑うのかな。実際は長太郎の家に沙由香と二人の友人・未央が集まり、長太郎を含め4人で恋話をするのだ。長太郎の母親が出してくれるお茶とお菓子はとても美味しい。古い洋館のような鳳家の自宅では、いつも写真撮影会が行われている。
「私も仁王先輩と遊ぶ約束だけしたんだけどさ、日程が決まらないんだよね。このまま流れたらどうしよう…。」
「今は忙しいだけだよ!あの赤也だって、自分で寝る暇ないくらい試合と予選で詰まってるって言ってたよ。大丈夫だって。」
仁奈と麻里は体育のために、グラウンドに移動している。日焼け止めを塗りながら階段を二人で下っていると、麻里は階段を登ってくる仁王先輩を見つけたようだ。
「やばい!下から来てる!」
「あ、挨拶しよ!」
麻里は日焼け止めを慌てて塗り終えて、ゆっくりと階段を下っている。
「お、麻里ちゃんじゃん。」
「に、仁王先輩、こんにちは…。」
「こんちは。体育頑張ってな。」
「はい!先輩も部活頑張ってください!」
「じゃっ。」
仁王先輩はとてつもなくキレイな顔をしている。少し彫りが深めで切れ長な目と横顔が整いすぎていて、アジア俳優の頂点に立っているようだ。さり際に仁王は麻里に向かって、親指と小指だけ伸ばして電話をするような仕草を送った。
「電話…?麻里、電話ってことじゃない?」
「掛けていいのかな?」
「掛けなきゃだよ。」
麻里と仁奈は静かに跳ねたり手を合わせたりして喜んでいた。
「髪の毛巻いてる子かわいいんだけど。」
「まじで、モデルかなんかじゃなね?仁王乗り換えたら?」
「いやあー、隣の子はガキ臭いの。麻里ちゃんぐらいが丁度ええ。」
「つか、彼女にキレられるよー。」
「まあそれは勝手にやってりゃええよ。」
仁王に、仁王を巡る女同士の争いは関係ないのだ。グラウンドでは体育をしている。今日はサッカーだろうか。誰かの叫び声が聞こえる。赤也だろうか。
- Re: ハニカム ( No.36 )
- 日時: 2021/06/05 03:53
- 名前: ぺ (ID: z5NfRYAW)
「お邪魔します。」
仁奈、沙由香、未央は長太郎の最寄り駅で待ち合わせをして、3人で鳳家に向かった。長太郎の母親が笑顔で迎えてくれたあと、三人はそれぞれ手土産を渡した。
「ありがとう。毎回、気を使わなくていいのよ。」
「いえ。毎回お邪魔しているので、せめてものお礼です。」
長太郎に彼女ができると、その彼女にとてつもなく怖いという長太郎の母親に気に入られている三人。その三人には絶大な信頼があるとともに、決して裏切ってはならないのだ。さらに恋愛話が苦手な長太郎が、三人には進んで自分の恋愛事情を打ち明けるということもあり、「長太郎の親友」というポジションから間違っても外れてはいけない。
「今日は男の子のお友達もいるのよ。先に来てくれた子。名前は若くんだったかしらね。」
それを聞いて三人は吹き出しそうになった。あの女嫌いで金持ちが大嫌いな若が、なぜ鳳家で仁奈たちの女子会に参加するのか、考えただけでも笑い死んでしまう。長太郎の母親に部屋まで案内されると、既に長太郎も若がいた。
「あとで、お菓子持ってくるわね。」
「ありがとうございます。」
そういって長太郎の母親は部屋から出て行った。三人はまず、白を基調としたゴシック調の部屋に若が座っているところに大爆笑した。
「ねぇ、ほんとに似合わなさすぎ。」
「お腹痛い!」
若は心底、腹が立って
「だから金持ちは嫌いなんだよ。」
と吐き捨てた。
「ちょた、なんで若連れてきたの?」
「えっとねー、実は!若くんがラブレターを貰いました!それを開示して、みんなでお返事考えたいなって思って!」
「いえーい!」
「は?手書き?」
若はさらに怪訝そうな顔をしている。仁奈たちは手紙を読み上げた。
日吉若先輩へ
中等部3年の萱川エレナと申します。率直に申し上げますと、日吉先輩のことが大好きです。付き合ってください。
日吉先輩の姿をひと目見たときから、目が離せないほどその姿に惚れています。一目惚れですが、今度デートしていただけないでしょうか?ご検討の程よろしくお願いします。
エレナ
名前の横に電話番号が書いてあった。
「中学生とは思えないほど、しっかりした文章ね。」
「萱川ってもしかして、あの政治家の娘じゃない?」
「あ、ホントだ!」
若は頭を抱えた。本当に困る、と。
「一回デートしたら?」
「ぜってぇやだ。今、お前らでも一緒の空間にいたくないのに。」
よく言うよ、と長太郎は思ったが、今は部活のほうが忙しくて時間がないのだ。オフ日は毎週この日だが、土日はすべてオールで入っている。放課後デートする選択しかないけど、今付き合っても正直ここ2ヶ月は時間が取れないと思った。真剣に悩んでいる長太郎をよそに、三人は早速手紙の内容を考えている。若がエレナと遊びたくない、という理由は部活が主なんだろうなと長太郎はわかった。なので今日、長太郎はとことん楽しむことにした。
「拝啓…。」
「愛しのエレナ様…。」
「え!それで行こう!」
未央がかわいい文字とペンで書き始めている。三人はさらに楽しそうに文章を書き進めては、大笑いしている。長太郎もそれに加わり、絵も描き始めた。仁奈が肩にかかった髪を耳から背中に掛けたときに、甘く爽やかな香りがした。
「え、仁奈すごいいいにおいする。」
「わかった?これつけたんだ。」
カバンから取り出したのは30mlの小瓶に入った香水である。見ただけではどこのらブランドかはわからない。仁奈は海外で最近流行っている香水を小分けにする、アトマイザーだと言った。ハイブランドの中でアルピレーショナルと言われる、いわゆる女子が憧れるようなブランドが詰まったランクのものである。
「春のやつだ!めっちゃいいにおい!」
「いいなぁ。メンズでもつけれるやつないの?」
「全然あるよ。今度展示会行こ!」
未央が5人に提案して、若以外はそれに頷いた。ふわっと香ってくるその匂いは、高校生男子には十分に効果のあるものである。若は浅くため息をついた。
「そういえば、こないだの彼はどうなったの?」
「え、何?仁奈ちゃん、彼氏?」
沙由香は仁奈とメールしたときに、少し蓮二の話をしたのだ。直接蓮二の名前は出してないが、一緒に寿司を食べに行った先輩のことを好きになった。という話である。
「彼氏じゃないよ!ただ私が片思いしてるだけっていうか…。」
「どんな人?!」
「えっと…テニス部の…。」
「柳さん、だろ。」
「なんでわかるの?!」
この間、あれだけ侑士ばかり映っているビデオで蓮二に釘付けだったのだ。すぐわかるに決まっている。
「イケメン?」
「たぶん?」
「いや、すごいかっこいいよ?!もうね、顔豆粒サイズなのに手足がすごく長くて、鼻もね口元もねスラーっとしてるんだよ。」
「男から見てもかっこいいってことはだいぶイケメンなのね…。」
「俺は、仁王さんの方がきれいな顔してると思うけど。」
「だめ!仁王先輩は私の友だちが狙ってるんだから!」
仁奈は若に怒った。男といえども友だちの(未来の)彼氏を取るような奴は許せないのである。沙由香が声を潜めて
「その人ってさ、今までに付き合った彼女とどこまでいってるんだろうね?」
「たしかに!そんなにイケメンならさ、もう百戦錬磨よ。」
「俺、柳さんに弟子入りしようかな。そしたらモテるかも。」
仁奈は考えたことがなかった。手を繋いだらもうコウノトリが二人の愛を運んできてくれる、そう思っていた。
「考えたことない…。なんか硬派な感じで、女絡み絶対なさそうな感じだもん。」
「ムッツリだな。なぁ、長太郎。」
「だよね!わかる、下ネタ言わない男はムッツリです。」
「ええ…いや、そんなことない!」
「沙由香はさ、宍戸先輩とどこまでいってるの?」
未央の質問に沙由香は頬を赤らめた。
「うわ、先輩の情事とかまじ聞きたくねぇ。」
若が呟いたが、皆興味津々である。
「うちね、私のお父さんが厳しくて…お家デートもだめなんだ。だから手繋いだだけ。」
「は、半年付き合って?」
「宍戸先輩のお家は?」
「お義母さんが専業主婦だから、ずっと家にいるみたい。」
カラオケという4文字は庶民にしか浮かばないようだ。
「宍戸さん、確かに沙由香ちゃんと一緒にいられるだけで満足そうだもん。でも沙由香ちゃんはもっと宍戸さんと近づきたいんだもんね?」
「うん。でもいきなり色気づいたら亮に引かれそうで怖いの!」
沙由香はかなり真剣に悩んでいるようだった。仁奈は彼氏がいたことないので、どうすればいいかわからなかったが、未央と長太郎は優しくアドバイスを送っている。一方、日吉は長太郎のベッドに寝そべっている。ホテルに来たような寝心地である。
「じゃあさ、沙由香がどっか二人きりになれるところ借りたら?ホテルじゃなくても、コテージとかキャンプ場とか。」
「外泊も許してくれないの!」
「日帰りでも大丈夫だって。」
「じゃあそうしようかな。よし、日帰りで自然を楽しむことするぞ!」
三人が綿密に計画を立てている間、仁奈も長太郎のベッドのハムストリングスが気になり手で押してみた。柔らかい表面のマットながら、沈みこまないほどの低反発素材。仁奈は感動している。どこのメーカーか知りたくて、シーツとマットの角をめくってみた。あ、ここのメーカーならお取り寄せしてもらおうかな。
「ねぇ、若は好きな人とかいないの?」
「いない。」
若は一言だけそう答えて、目を瞑った。この寝心地と甘い匂いなら、どれだけ外野が盛り上がっていてもすぐに眠りにつけた。
- Re: ハニカム ( No.37 )
- 日時: 2021/06/06 02:43
- 名前: ぺ (ID: 4sTlP87u)
「すみません、夜ご飯までご馳走になって…。」
「全然いいのよ。ちょたくん、門までお見送りしてあげてね。」
「はーい。」
そういうところが彼女ができても、すぐ別れるんだよ。と沙由香は突っ込もうとしたが流石にやめた。
「またねー!」
「また日程決めよ!」
「じゃあね~!」
4人は長太郎の家を出て、それぞれ帰路に向かった。
「私たち、駅まで歩かなきゃー!」
「あ、車呼ぼうかな?」
未央は車の迎えを呼んでいる。仁奈は自分の携帯が鳴ったので、メールを見た。
今日、話があるから帰っておいで。
父親からのメールである。なんだろう?仁奈はわからなかったが、滅多にそのようなことはないので急いで帰ることにした。未央の迎えが来るまで、15分かかるとのことだったので仁奈は家まで歩くことにした。徒歩20分で自宅のマンションに着くからだ。
「なんか今日、パパが早く帰ってきてって言うからお先に失礼するね。」
「気をつけて!あ、若。仁奈のこと送ってってあげなよ!」
「…いいけど。」
日吉は駅まで歩くつもりだったのだ。明らかに嫌そうである。
「申し訳ないよ!」
それでもレディーファーストの世界で生きている二人には到底ありえないことである。二人の眼圧に負けて、日吉は進行方向に歩き出した。
「えー、じゃあごめん!帰る!またね!」
三人は手を振りあい、仁奈は日吉を追いかけた。
「なんで早く帰ってこいって言われたの?」
「わかんない。でもほんとに帰ってこいってだけ。」
日吉に文面を見せた。確かにそれだけである。
「心当たりないんだけど…。なんだと思う?」
「知らねーよ。なんかやらかしたんじゃないの、葉山が。」
「そんなことないし!私、学校で優等生してるから。」
「それはなさそうだけど。」
日吉が揚げ足ばかり取ってくるので、仁奈はむくれた。本当に何も心当たりがないのだ。引っ越すとか?兄弟ができたとか?わからない。
「両親は、仲良いの?」
「うーん。お互い同じ職業だから、忙しそうであんまり話してるところ見てないかも。」
まぁそんなもんだろ、知らないけど。と日吉は言った。それよりも、仁奈の歩幅に合わせると歩くのが遅くて億劫になる。
「若はさ、親から大事な話されたことある?」
「ねーな。」
「そっかぁ。なんか怖いなぁ。」
「なんかあったら忍足さんか柳さんにでも言えよ。てかさ、柳さんと付き合ったら、忍足さん部屋にも呼べないんじゃね?」
「あ…そうかも。」
幼少期、大阪から越してきた仁奈の後を追うように忍足家も東京に来た。幼稚舎の頃、いつも放課後は都内の祖父母の家にいた仁奈にとって、東京に来た侑士は身内が近くに来てくれたものである。だから侑士は男性というより、忍足家も含め家族のようなものである。それが蓮二と一緒になることによって無くなるのは、寂しい気がした。
「でも、侑士はそんなんじゃないんだよね。上手く言葉で表せないけど。」
「なんだよそれ。二股でもすんのか。」
「違うよ!蓮二とお付き合いできたら、一途に蓮二だけ!ってなるよ、私は。若はどうなの?人のことばっかりバカにして、自分は奥手なんじゃない?」
「さあな。」
「ふーん。」
若は前方から歩いてくる女子大生らしき集団を目にすると、仁奈の腕を引っ張って近くのマンションのエントラス前に隠れた。
「ど、どうしたの?」
若は事態が掴めない仁奈は日吉の横で身を潜めている。うわ、忘れてた。こっちにキャンパスあるんだった…。日吉は後ろ姿が見えなくなったのを見計らうとゆっくりと歩道に戻った。
「ごめん。そのうち話すわ。」
「わかった…。」
若の切羽詰まった表情に、仁奈は深追いしないほうがいいと思った。二人はあと10分ほど歩き続け、仁奈のマンションの前で若は帰って行った。
「じゃあね。わざわざありがとう。」
「ホントだよ、じゃあな。」
若はブツブツいいながら、また駅に戻っていった。仁奈はこれから何を父親から話されるのか、今すぐにも聞きたくてたまらなかった。インターホンに出た父親の声はいつもと変わらなかった。仁奈は足早に家に入ると、そこには両親の姿があった。母親はソファーに座っていて、父親はダイニングテーブルに座っている。
「ただいま…。」
「おかえり。」
父親が言った。仁奈は二人の雰囲気がただならぬものだと感じた。
「どうしたの?」
「実はな、パパとママ、離婚することになった。」
父親があまりにもあっさりと言うので、仁奈はなんのことかわからなかった。ただ聞き返すことしかできない。
「ど、どういうこと?」
「ママはな、他の男の人と結婚したいらしい。そうなると、もうパパは引き留められないんだ。」
「え?」
仁奈は母親の方を見た。母親はただ俯いている。
「嘘でしょ。パパは、パパはどうなるの?」
「ごめんなさい。…仁奈はパパと一緒にいてあげて。」
「え?三人でもう暮らさないってこと?」
両親を交互に見つめる仁奈の手からカバンが落ちた。
「嫌だよ!仁奈は絶対にいや!」
「…ごめんなさい。」
母親はひたすらに頭を下げている。父親は見ていられない、と言った表情で頭を抱えた。泣き出す仁奈に、母親はハンカチを当てている。
「私が、ママが内部進学のほうが良いっていったのに、立海に行ったから?私が嫌いになったの?」
「ち、違うの。本当に、ママがいけないの。パパと上手くいかないからって、ママがいけなかったの。」
小学生のように泣いている仁奈を、母親は慰める権利はないと思った。
「…なんでそんなことしたの?パパじゃ駄目だったの?」
「そうよ。育児も仕事も、全部…あなたにとっては最高の父親かもしれないけど。」
父親に聞こえないように、母親は呟いた。母親はゆっくりと立ち上がると、
「どこいくの?」
「さようなら。」
と言って靴を履いて玄関を出た。
「ねぇ、帰ってくるよね?」
仁奈は父親に聞いた。父親はさぁ、と一言だけ、ため息もついた。仁奈はあわてて玄関を出てたが、すでにエレベーターは1階近くまで降りていた。
「仁奈、この家も住んでる学校も変わらないから大丈夫だよ。」
しばらくして、部屋に閉じこもっていた仁奈は父親からドア越しに言われた。何も食べる気になれない。ただただ薄暗い部屋で、夜景を見ている。「離婚」という2文字が仁奈の頭の中をぐるぐるしていた。こんなにあっさりいなくなっちゃうものなんだ、ママって。これからどうやって生きていけばいいんだろう。死別したわけじゃない、失踪したわけじゃない。探せばどこかにいるのに、もう会えないってこんなに辛いことはない。仁奈はずっと泣いていた。
「ママには、好きなときに会えるようにするからさ。」
「じゃあ、今連れてきてよ。」
仁奈にはまだ両親の不倫がどれくらい悪いものなのかわかっていなかった。ただ愛する母親がいなくなって寂しい。それだけである。次の日、泣きすぎて頭が痛くなった仁奈は学校を休んだ。麻里、赤也からの心配のメールも蓮二の表彰式の報告のメールも、全部無視した。
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