二次創作小説(紙ほか)
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- ハニカム(テニプリ夢)
- 日時: 2021/06/07 02:22
- 名前: ぺ (ID: EabzOxcq)
かわいいかわいい女の子
葉山仁奈…立海大附属高校1年。医者の家系に生まれたひとり娘。容姿端麗だが少し抜けている。
麻里…仁奈のクラスメイトで親友。一般家庭。
沙由香…仁奈の中学時代の親友。某出版社の令嬢。宍戸先輩の彼女。いまでも仁奈と親交あり。
未央…同じく中学時代の仁奈、沙由香の親友。某銀行頭取の孫。
- Re: ハニカム ( No.23 )
- 日時: 2021/05/14 03:52
- 名前: ぺ (ID: 9uo1fVuE)
蓮二は学校への足取りが重くて仕方がなかった。朝練がないのが救いだったものの、あと一本乗り遅れれば遅刻だった。蓮二が電車に乗ると目の前に見覚えのある頭部があった。また寝ていて電車に揺られている。隣の知り合いではなさそうなOLにもたれかかりそうになったり、角に座っていたので反対方向の壁にもたれかかったりしている。無防備に寝顔を晒しているので、熟睡なのがわかった。
程なくして、学校の最寄り駅に着いた。まだ眠っているので、蓮二は起こそうか迷った。仕方なく肩を揺すると、ゆっくりと目を開けた。
「え…?」
また目があった。
「早く降りるぞ。」
仁奈は足早に蓮二あとについて、電車を降りた。
「おはよう。起こしてくれてありがとうね。」
「…あぁ。」
蓮二は正直仁奈の顔を見ることができなかった。
「早く行かないと遅刻するよ。」
なんで蓮二に起こされたんだろう。仁奈は不思議に思いつつも、目やにがついていないかとかよだれが垂れてないかとかあわてて顔を擦った。恥ずかしかった。
「葉山に言われる筋合いはないな。」
「えー?一緒にギリギリの電車乗ってたのに?」
「今日は朝練がないからだ。それに俺は電車を寝ぼけて乗り過ごしたりはしない。」
「だよねー。」
仁奈は階段を使わずエレベーターに並んだ。蓮二はそこから動けなくなってしまった。足がくすんだのだ。
「あ、私はエレベーター使うから、蓮二は階段上がりなよ。」
仁奈は少々気まずそうに、蓮二に笑いかけている。
「いや、俺も乗る。」
「え?」
仁奈は蓮二につられエレベーターに乗り込んだ。エレベーターはそこまで混んでおらず、まばらに人がいる。すぐ地上へ出ると、改札を抜けた。
「まだ恐怖を感じるのは、当然のことだ。」
「…ありがとう。」
この誰にも話したくない、でも話さないでいて閉まっておくにはできない気持ちを吐き出そうと思った。気がついたときには仁奈は口を開いていた。
「あのね、盗撮にあったのって、私がいけないんじゃないかなって思って。」
「なぜ?」
「私がスカート捲ってたから。みんなと同じような丈で身なりだったけど、やっぱり私が下着を見せてるっていうか…見せようとしてるっていうふうに…。」
「なんだ、性犯罪者に同情する気でもあるのか?」
「え?な、ないよ。」
「じゃあそういう考え方はやめるんだな。盗撮というのは、日本の迷惑防止条例に違反していて、公共の場者とか公共の乗り物で行った場合には100%摘発される。要は、加害者にしか非がないということだ。」
なんかわからないけど、蓮二が私のことを慰めてくれているようだ。
「お前はもう萎縮したり、変に気にかける必要はない。こんどは、助けを呼べばいい。」
「…うん。ありがとう。」
「礼を言われるようなことは言ってないが。」
そうか、性犯罪者にビビり散らす必要はないんだ。仁奈は少し微笑んで、少し前を歩いていた蓮二に並んだ。蓮二はすぐにそっぽを向いてしまった。彼の顔色は言うまでもない。
- Re: ハニカム ( No.24 )
- 日時: 2021/05/15 01:58
- 名前: ぺ (ID: 7hzPD9qX)
仁奈は寝不足にも関わらず、体が軽くて明るくなっていた。肌艶の調子も良くて、何でもできそうな気がしている。しかしそのようなことは仁奈によって、ただ機嫌がいいという括りになってしまう。なぜかわからずずっと笑顔なのだ。昼休みに麻里と二人でお弁当を食べていた。
「仁奈、今日機嫌いいね。」
「そんなことないよ?」
麻里が仁奈を怪しそうに見ている。
「好きな男でも…いるわね。」
「え?いないよ!」
「あの、やばいイケメンの幼なじみでしょ。」
「えー?あ、侑士?侑士は違うって。」
麻里と仁奈が侑士の話をしていると、赤也とテニス部二人が入ってきた。
「あ、あいつだろ!きのこ頭の!」
「日吉?絶対やだ!むり!」
「えー、じゃあダブルスの片方!」
「ちょたはねー、女子会のメンツだから。」
赤也がふざけて当てようとしてくるが、正直氷帝テニス部はただの友人なのだ。
「あ、そうだ。仁王先輩写ってるからビデオ見ようよ。」
学校に行く前にダビングしたビデオとビデオカメラを開いた。麻里は食いついてみている。
「仁王先輩!やばい!神々しすぎる!」
「仁王先輩、彼女い…」
赤也は今までの人生から16歳にして空気を読むことを覚えた。麻里の前ですぐに言葉を飲み込んだのだ。
「赤也すごい邪魔、なんでこんなに映ってるの?」
「知らん!」
「だよね?絶対動画の隅にいるの。」
恐らく動きがうるさいのでどこかしらに見切れている。
「あ、柳さんだぁ!」
赤也が教室の前にいる蓮二に抱きついている。仁奈はびっくりして、ビデオカメラから顔を上げた。
「渉外として頼みなんだが、これ、氷帝側の忘れ物だから今日中に氷帝に連絡取って輸送してくれ。」
赤也は蓮二から氷帝の文字が入ったボトルを渡された。今日はオフの日なので、蓮二がわざわざ届けに来たのである。赤也は部活で渉外の仕事見習いをしている。
「あ、葉山に渡してもらえば良くないですか?葉山ー、忍足さんにこれ渡してくんねー?」
「私?」
「部活のことなんだから、お前がやるんだ赤也。」
「そっちのほうがいいじゃないですかー。」
「私は、別にいいよ?」
仁奈が教室から出てきた。蓮二は「忍足」の2文字を聞いて赤也に仕事をなんとしても押し付けることに決めた。
「葉山もそう言ってるし!」
「どうやって氷帝学園に説明するんだ?個人の所有物なのに共通の友人を介して送ったなんて、立海として…」
「うぇー、わかりました!俺がやりますぅ。」
赤也は難しい言葉と長い文章が嫌いなのだ。仁奈は周囲に蓮二ばかり見ていると思われたくなくて、目を逸らしている。
「よろしく。」
「…部活頑張って、ね。」
仁奈は消え入りそうな声で言ったが、蓮二は聞こえているのだろうか。
「今日はオフだ。」
蓮二は一言だけで、すぐに背中を向けて戻ってしまった。麻里はすぐに察知して、仁奈のもとに駆け寄った。
「あんた…」
「な、何よ。」
「柳先輩なら、仁奈を幸せにできるわ。」
麻里は蓮二を期待の眼差しで見つめていた。仁奈は訳がわからず、麻里に対して困惑していた。一方、赤也は自分の席で仕事が、面倒だと喚いている。
「柳、ボトルの件ありがとうな。」
教室に戻った蓮二は真田に声をかけられた。
「用事の序だ。」
「何の?」
「ちょっとな。」
蓮二は窓の外を見た。もう夏が来ている。
- Re: ハニカム ( No.25 )
- 日時: 2021/05/16 01:32
- 名前: ぺ (ID: PCEaloq6)
放課後、仁奈と麻里は学校近くのファストフード店に入った。
「仁奈って彼氏いたことあるっけ?」
「ないよー。そもそも私モテないから出会いがないの。」
麻里は考えた。自分が仁奈のことをかわいいと思っていても、果たして気安く話しかけられるだろうか…。何せ金持ちであり、あの容姿を持ってして生まれているのだ。こうして仁奈をファストフード店に連れてきた麻里も、我ながら仁奈にはファストフードが似合わないなと思っている。
「仁奈に気安く話しかけられる男なんかそうそういないんだからさ、もう柳先輩ゲッット!しちゃいなよー。」
「できるかなぁ。優しいけど、普段はそっけないし。」
「…え?そんな仲いいわけ?」
麻里には蓮二に助けてもらったこと、二人でケーキを食べたことを話していなかった。何せ話しにくいことだったので、誰にも言えなかったのである。
「うーん、会えば話すくらいだけど…電車で寝てたら、うちの高校の最寄りで親切に起こしてもらったの。」
「…なにそれ!めっちゃ少女漫画なんですけど!運命感じたほうがいいよ!」
運命を自然と体感するのではなく、自ら体現しにいくのが麻里である。
「彼女いそうじゃない?」
「なに、不安になってんの?」
「…まぁまぁ。」
「赤也から聞いたんだけど、柳先輩って女の子から告白されて、オッケーしたことないんだって。」
「え、男が好きなの…?」
私たちのかわいい赤也が…!と仁奈はショックに明け暮れていると、麻里が
「ってことは、好きになったら柳先輩から告白してくるってことよ。」
「あ、そっちか。そうなの…?」
「あんないい男がさ、彼女いたことないわけなくない?」
「…たしかに。」
蓮二のような堅物が誰かのことを好きになったら、その子だけにか見せない顔とか優しい部分とかがあるんだ…全部その子のためだけに笑ったり思いやったりするんだ。でも私じゃ絶対叶わない気がする。そのことを考えたときに、仁奈はどう思ったのか。
「私、蓮二のこともっと知りたい。蓮二のこと全部知ってからじゃないと、ちゃんと好きって言えない気がする。」
「よし、がんばろー!」
麻里と仁奈はシェイクで乾杯した。その後はプリクラを撮った。その頃、蓮二は病院にいた。524号室と書かれた札には幸村精市様と名前があった。蓮二はそのドアをあけた。
「おつかれ。蓮二、来てくれてありがとう。」
「あぁ。」
蓮二は自分のスクールバッグからノートを取り出した。
「今週分の部誌と、数Ⅱと数B、化学と生物のノートだ。」
「ありがとう、助かるよ。別々に持ってきてくれるところが、君たちらしいよね。」
入院中の精市のために、コースが一緒の真田とそれぞれ板書したノートを渡している。蓮二にとっては、勉強の復習にもなっていて特に苦にはなっていなかった。
「氷帝戦どうだった?負けてないよね?」
「スコアも取らせてある。概ね跡部以外には快勝といったところだろう。」
精市にスコア表を渡す。精市は何枚か捲って、微笑んだ。
「よかった、よかった。負けてたらどうしようかと思ったよ。俺、氷帝の輩に負けたら跡部にまたデカい顔されちゃうから。」
「あいつはもうプロに行くだろうから、部活云々じゃなさそうだな。真面目にインターハイに出てるような頭等じゃない。」
「そうだね。」
精市は遺伝性の大動脈解離で、高校1年の冬から入退院を繰り返している。早くからレギュラーとして出た選手権の試合中に背中の痛みを訴えて倒れたのだ。そのまま搬送されて、手術後、経過観察のために入院している今に至る。精市はアスリートとして食事や睡眠もしっかりしていたのは蓮二も知っているので、まさか大動脈解離だとは思っていなかったのだ。
「俺は主将っていうよりうるさいOBだろうけど、秋には部活に参加できるかもしれない。そのときはお手柔らかに頼むよ。」
「弦一郎はああ見えてリーダーシップが取れないからな。精市がいないと今でも大変そうだぞ。」
真田を下げての精市への激励である。
「精市、来たよー。あ、柳くんこんにちは。」
「どうも。」
「早かったね。」
「うん、今日部活休んじゃったぁ。」
精市の彼女である梨々がやってきた。現在高校3年生の彼女は、髪をコテで巻いていて爪先が尖っている。スカートは短いが、まつげは長かった。蓮二は正直、嫌いなタイプである。何故、精市の交際相手なのか…。
「今日もかっこいいねー!」
「人前でくっつくなよ。ねぇ、蓮二はさ、好きな女の子とかいないの?」
「え、梨々知りたいんだけどー。」
梨々は精市の腕に絡まっている。
「さぁな。俺にもわからない。」
蓮二が否定しないときには、「そう」である。そのことを精市は知っているのだ。
「どんな子?」
精市の質問の仕方はいつも核心をついてくる。蓮二は結果や要件から話してくれる人が(人として)好きだが、これには困った。
「好きとは言ってないだろう。そういう話なら、俺は帰るぞ。」
「はは、ごめんね。わざわざありがとう…俺が言いたいこと、わかるよね?」
「…もちろんだ。じゃあな。」
「うん、また。」
あのこと、である。精市はわらっていた。
「また二人で看護婦に怒られるようなことがあったら、テニス部から破門するからな。」
「やだー!柳くん、えっちー!」
蓮二は一言、吐き捨てて出てきた。病院の広いロビーに差し掛かると、見覚えのある顔とすれ違った。大きな目、小さな唇と小さく通った鼻で、華奢な看護婦だった。明らかに大人の女性だったが、若いというか童顔で小柄であった。蓮二は少し立ち止まって考えた。だれかに似ていたからだ。すぐに蓮二は誰に似ていたか思い出した。彼女は患者と話していた。その声は、ほとんど彼女であった。
- Re: ハニカム ( No.26 )
- 日時: 2021/05/27 01:49
- 名前: ぺ (ID: .OVIgGEm)
蓮二は病院から出たあと、病院近くの図書館で勉強していた。家に帰りたくないので閉館時間の19時まで、無心に課題とワークや参考書を解いていた。図書館司書に声をかけられ、やむなく外へ出た。駅に併設してある図書館の前は家へ帰る人や学生が見受けられる。ごった返してるわけではないが、そこそこ人はいるようだ。蓮二は足取りが重く、気持ちゆっくりと歩いている。遠くから立海生が見えた。颯爽と歩く華奢で髪をなびかせている女子生徒ーーー
「あ、蓮二だ。」
仁奈は蓮二を前方から見つけるなり、小走りに駆け寄ってきた。蓮二の顔を見て微笑む彼女は男子高校生には女神に見えるかもしれない。赤也は何故、仁奈を女として見れないのか?蓮二は不思議でたまらなかった。
「帰りか?」
「うん、ここで乗り換えだから改札出たの。」
JRと私鉄が混在しているので、仁奈は毎朝ここで乗り換えて学校に向かっていた。どうしてここにいるんだろう…その疑問より、たまたま会えたことに信じられないでいる。嘘でしょ。オフだからもしかしたら、とか思ってたら、まさか自分の通学路で会えるなんて。仁奈は平静を装ってただにこやかにいるしかなかった。
「そうか。」
「蓮二は?帰りなの?」
「あぁ。」
蓮二は仁奈なから目を逸らしてしまった。仁奈はから返事をされてしまったように感じて、慌てて会話を続けようとした。
「テニス部の子たちと遊んでたの?」
「いや、部員の見舞いのあと図書館で3時間ほど勉強していただけだ。」
「そうなんだ…じゃあお腹ぺこぺこだね。」
「葉山は?夕食は済ませたのか?」
「まだだよ。友だちとハンバーガー食べて、プリ取ってただけ。」
仁奈と蓮二の間に絶え間ない沈黙が押し寄せている。仁奈には周りの道行く人たちの足音とか電車の地響きとか、改札の電子音もすべてが聞こえなくなっていた。誘っていいのかな、わからない。蓮二に迷惑なことはなるたけしたくない。と仁奈は自分が話したあと気まずそうに下を向いていた。
「夕飯、食べに行かないか?」
仁奈はぱっと顔を上げた。
「え、いいの?」
「葉山が嫌でないならば。」
「うれしいよ。」
正直、家に帰りたくなかったのもあった。なるべく家は寝る場所として過ごそうと思っていたから。でも、他の女子なら絶対に誘いはしないだろうに。蓮二は仁奈の返事を聞いて胸をなでおろした。何せ女性を食事に誘ったことがないのだ。
「どこ行こうか?」
「そうだな…」
蓮二は私鉄の2駅先が飲食店が沢山あるからそこで選ぼうと言った。仁奈は賛成して、2人で電車に乗り込んだ。蓮二はいつもより数倍歩くスピードを落とした。
- Re: ハニカム ( No.27 )
- 日時: 2021/05/28 02:54
- 名前: ぺ (ID: nGb.G1Wf)
「結構人いるね。」
「すぐに食べられるところはありそうだな。」
二人はショッピングモールとデパートが連なる駅前から、少し離れたところにある飲食街に来た。高級そうな料理屋から飲み屋まである。
「蓮二はどんなのが好きなの?」
「俺は特に苦手なものはないが…寿司か鰻を好んで食べる。」
「じゃあどっちかにしよう!」
葉山の好みは?と聞く前に、仁奈はすでに2択で悩んでいる。
「私、鰻はあんまり食べられないんだよね。昔喉に骨が刺さったことがあって…。」
「じゃあ寿司にするか。」
蓮二と仁奈は歩いて寿司屋を探した。また道を曲がったところに、暖簾がかかっている寿司屋があった。もちろん回らない寿司屋である。
「すみません、二人で。」
二人で暖簾をくぐった。そして蓮二がカウンターの大将に向かって声をかけた。
「あのね、うちは予約制だから。学生さんがちょろっと来たって、入れないよ今日は。」
無愛想に寿司を握っていて、眉間にシワを寄せていた60代くらいの男性はそう言って、二人に背を向けてしまった。
「ごめんなさいね。今日はいっぱいなの…」
たしかに、サラリーマンや高齢の夫婦など金銭に余裕がありそうな面構えばかりが店内にいた。しかし、大将と同じくらいの背丈で優しそうな笑いジワのある女将は仁奈の顔を見て、何か言いたげである。
「あなた…葉山先生のお嬢様?」
「え?」
「葉山充先生のお嬢様よね?」
「そうですけど…」
突然知らない女性に父親のフルネームを言い当てられて、仁奈は困惑している。大将はゆっくりと仁奈の方に目線を向けた。仁奈は強ばって、蓮二の後ろに隠れてしまった。
「2名、個室に。」
「はい、さぁどうぞ。」
大将が言い捨てると、女将は仁奈と蓮二を奥の個室に案内した。
「あの、父とどのようなご関係で?」
「葉山先生、外科医でいらっしゃいますでしょ?うちの大将が、脳梗塞で倒れたときに手術してくださったの。葉山先生のおかげで後遺症もなくて、またお店に戻れたのよ。」
「そうなんですね…何も知らずに来てしまって、すみません。」
女将は続けて口を開いた。
「実はね、退院した後も何度かお店に来てくださってて…そのときに娘の写真だってあなたの写真見せてくれたのよ。すごく美人さんだから覚えてたの。仁奈ちゃん、よね?」
「そうです。」
「娘なんていくつになってもかわいいんだから、葉山先生はずっと仁奈ちゃんの話してるのよ。いつも一人でお留守番してるから心配とか、通学時間が長いから心配とか。」
「そうなんですね、知らなかったです。」
両親と年末年始でさえ過ごしたことがあまりなかった仁奈にはとても驚きだった。父親ではなく父親の両親は仁奈をとても可愛がって、長期休みや誕生日に一緒にいてくれる。高校生にもなると、それに慣れてしまってなんだか妙に恥ずかしい気分である。
「横の方はボーイフレンド?」
「…え、違います!友人です…父には内緒でお願いします。」
「もちろんよ。いつでも食べに来ていいからね。」
そう言って女将はお品書きを取りに戻った。仁奈は突然のことに驚きを隠せないでいる。
「ほんとに知らなかった…。ここ、初めて来たし。」
「葉山家に感謝だな。ありがたい。」
「たまたまだよ。てか、感謝するならパパにしなよ。」
仁奈は冗談ぽく微笑んだ。
「蓮二のお父さんは何してる人なの?」
「弁護士をしている。」
「すごいね!弁護士って頭いい人しかなれないんでしょ?」
医者も大概である。おそらく葉山はあまり世間知らずなのかもしれない。お嬢様というか、その育ち特有の朗らかさがある。
「私ね、よくパパとママが医者だから私もそうなるんでしょって言われるの。すごく嫌だ。」
蓮二は、今日病院で見た仁奈そっくりの看護師の姿を思い出した。しかし、ただ似ているだけかもしれない、よくあることだと特に気にしてはいなかった。蓮二はそれよりも、蓮二自身も弁護士か国家公務員の2択を迫られることが多いので、大いに仁奈に共感していた。
「私、ママみたいに頭良くないし。」
「勉強は頭が良くなくてもできる。俺だって、葉山と同じような状況だからな。」
「絶対違うって!蓮二、特進でしょ?私は医者になんかなりたくない。」
「じゃあどうするんだ?」
「決まってない。蓮二は?」
「俺は、法学部に進学するだろう。」
「ほらー!お父さんの遺伝子受け継いでるじゃん。私なんかパパはなんとなく親子って感じだけど…ママとは全然似てないの。」
仁奈が携帯のフォルダから、高校の入学式の写真を見せてきた。たしかに、似ていない。父親の面影はある。蓮二はやはり違和感を覚えたが、お品書きがやってきて二人は寿司を選ぶことにした。
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