二次創作小説(紙ほか)
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- ハニカム(テニプリ夢)
- 日時: 2021/06/07 02:22
- 名前: ぺ (ID: EabzOxcq)
かわいいかわいい女の子
葉山仁奈…立海大附属高校1年。医者の家系に生まれたひとり娘。容姿端麗だが少し抜けている。
麻里…仁奈のクラスメイトで親友。一般家庭。
沙由香…仁奈の中学時代の親友。某出版社の令嬢。宍戸先輩の彼女。いまでも仁奈と親交あり。
未央…同じく中学時代の仁奈、沙由香の親友。某銀行頭取の孫。
- Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.48 )
- 日時: 2021/06/16 18:42
- 名前: ぺ (ID: KP9MPHtc)
「パパ当直でおばあちゃん家行くから先帰るね!」
仁奈は麻里とクラスメイトに別れを告げ、颯爽と教室を出た。赤也はそんな仁奈の姿を見て、
「は、葉山。実はさ…。」
恐る恐る口を開いた。仁奈は不思議そうに赤也の方を向いた。
「なんでもねー!…けど、気をつけてな。」
「ありがと!ばいばーい!」
赤也は今にも泣きそうになっている。あのパンツを見せつけて歩く、ギャル集団に仁奈が立ち向かえるわけないのだ。でも自分の噂が一度回れば、自分は学校で生きていけなくなる。自分と葉山の間で揺れ動く赤也は重い足取りで、部活に向かった。
「あの、葉山さんだよね?」
仁奈が校門を抜けたとき、目の前に4人の女子生徒が進行を妨げるように立ちはだかった。仁奈はびっくりしたが、はい。とだけ答えた。かなりの派手な制服の着こなしである。茶髪で瞬きをするたびにつけまつげが大きく動いている。
「ちょっと来てくんない?」
「え?」
いいから、いいから、と言われ強引に制服の袖を引かれた。校門にいたはずの仁奈は引っ張られ、総合学科の校舎の影に来ていた。草木がまあまあ生い茂っているし、外の部活が使っている部室の隣と言えどほぼ日陰である。仁奈は必死に振り払ったが、後ろにいた女子生徒に背中を押された。
「…何なんですか?」
「あんたさ、1年なのに調子乗ってない?」
「…そのつもりはないです。」
恐る恐る言い返した。
「1年のくせに、化粧してるよね?」
仁奈はまゆげとリップ、ビューラーをしていた。それは事実なので一言謝った。
「あとさ、何でこんなブランド物ばっか身につけてるわけ?」
「援交?」
「地味なのに、やるよねー。」
身につけているスクールバッグとローファーは入学式に祖父母から貰ったものである。時計も父親からのプレゼントだ。援助交際と聞いて仁奈は自分のことを言われているはずなのに、目を丸くしてしまった。
「援助交際なんか、現実にあるわけないじゃないですか!」
思わず言い返すと、仁奈は思い切り一人に肩を押された。
「こいつまじムカつく!」
仁奈が地面に倒れると、バッグを思い切り踏んづけられた。あっ、と仁奈は目を丸くし、バッグを引っ張った。
「や、やめて!」
「ウザいんだよ!お前、援交してるって裏サイで言ってやるからな!」
背中をローファーの裏で蹴られた仁奈は今度はうつ伏せに倒れた。起き上がれないでいると、もう二人が仁奈のローファーを取り上げて近くのゴミ捨て場に投げ入れた。
「ひどい…なんでこんなことするの…。」
「は?理由とかないから、うざいだけ。」
「最近、やることなくてつまんなかったから。」
「うちらも一年のとき同じようなことされてるし?でも、あんたと違ってめそめそしてないけどね!」
「センコウに言ったらどうなるかわかるよね?」
「…私から、先生にちゃんと言います。」
仁奈は起き上がろうとしたが、今度は肩を蹴られた。そして手のひらが覆い被さってきたので、咄嗟に目をつむった。
「ちょっと!」
ほかの女の声がした。女子たちが目線を向けた先には、麻里と赤也がいた。
「あんたたち。何してんの?仁奈から離れてよ。」
「そ、そうだぞ!汚え手でさわんな!気持ちわりー!」
麻里の手には落ち葉を掻き集める竹製の箒、赤也の手にはテニスラケットが握られている。
「は?何?こいつの友だちなわけ?」
「そう。仁奈の親友とその犬。」
「犬じゃねーし。」
仁奈は二人が来た安堵から、必死に起き上がって赤也と麻里の元へ駆け寄った。
「へぇー。あんたも援交してんだ。」
「私はしてない。仁奈もしてない。」
「いや、ブランド物ばっか持ってるくせに清楚狙うとかマジモンだから。」
赤也は咳払いをした。
「こいつの両親医者で、じいちゃんはチバのでっけー総合病院の院長だぞ。ばーちゃんは医大の学長だし、先祖が教科書に名前乗ってんだぞ。」
「そう、仁奈は生粋のお嬢なの。あんたたち、自分が何したかわかる?」
「う、嘘でしょ…。」
4人は怯んだように見えたが、笑って
「でもうちらがやった証拠とかなくない?」
「口で言っても無理だから。」
「いや、目撃者はいるぞ。」
赤也の背後に険しい顔の大男が現れた。
「真田さーん!」
赤也が突然現れた真田に飛びついている。
「赤也が部活に来ないから、どうしたものか追っていたらここに来た。練習試合を取っているビデオにお前らが赤也の同級生を連れている部分が写っているはずだ。」
「て、適当なこと言わないでくれる?」
「いや、拝借してきた。」
赤也が真田の手に持っていたビデオカメラを再生すると、テニスコートが映る向こうに、手を引かれてベンチの前を歩く仁奈が写っている。もちろん女子生徒たちも写っている。
「もちろん、遠くからの撮影だからこの映像では否定しても良さそうだな。しかし映像の解析というものができる。もっと鮮明に映るぞ。」
「…」
真田の威圧感に女子たちはふてくされて黙りこくっている。
「なんとか言わんか!」
真田が声を張り上げた。赤也と麻里は耳をふさいだし、女子生徒たちはその声に驚きそそくさとどこかに言ってしまった。
「はぁ…。」
仁奈は座り込んだ。
「遅くなってごめんね。」
麻里が仁奈より早く泣きそうな顔で、仁奈に頭を下げた。
「…ありがとう。」
仁奈は麻里の腕の中で泣いた。赤也は土埃と泥に塗れたスクールバッグを持ち上げた。、
「うわ、ひどいな…ほんとに。」
「赤也。」
真田が赤也に声をかけた。部活サボったの怒られる!と赤也は姿勢を正して、真田の方を向き直った。
「よくやった。友を助けるとは、お前も漢だな。」
「あ、ありがとうございますぅ!」
「だが、部活への連絡を怠ったために今日は球拾いだ。」
「そんなぁ…。」
「一言、遅れますとだけでよかった。理由は後で聞けばいいからな。」
「真田さん…。」
赤也は改めてキラキラした目で真田を見ている。気持ち悪い、と言わんばかりに真田は怪訝な顔をしてその場をさろうとした。
「立てる?」
「ちょっと肩が痛いけど、大丈夫。」
「あれ?葉山、靴は?」
「捨てられちゃった…。」
「なんだそりゃ!どうやって帰ったらいいんだよ!」
「赤也、おぶってきなさいよあんた。」
「葉山と俺そんな身長変わんないから無理だよ!あ、真田さん!お願いします!」
泣いていた仁奈はすかさず
「あの、いいですから。保健室まで行けます。」
と言った。
「足捻ってるし、危ないよ?あの、仁奈のことお願いしてもいいですか?私も付き添うんで。」
「わ、わかった。」
申し訳無さすぎる。仁奈は肩と背中に鈍痛を覚え、体を前かがみにするのも痛かった。打撲かもしれない。麻里に支えてもらって真田に後ろから覆い被さると、真田は普通に歩くように前進し始めた。
「靴、探しとくわ。」
赤也はゴミ捨て場と格闘しながら、ゴミ袋を投げ捨てて靴を探している。
「ほんとに、すみません。重いですよね。」
「いや、そのようなことは…。むしろ、軽すぎて、重力すら危うい。」
真田は緊張のせいか口早になっている。バレエをしていて痩せ型かつ筋肉質な仁奈は、162cmに対して44kgである。少女漫画を思わせる体重だが、両親の離婚もあり以前より5kg以上減っていた。保健室についた仁奈は一連のことを話し、患部を冷却してもらった。真田はすぐに帰ってしまった。女子を背負うなど、けしからん。背中が熱いのは気のせいだ。と言い聞かせて、コートに戻っていった。
「おー真田。赤也はどうなったんだよ?」
「赤也がな…。」
真田が近くにいた部員に、赤也がなぜ部活に来なかったかを説明していた。
「結局、被害にあった女の子はどうなったんか?」
「たしか…赤也が葉山と呼んでいたような。今は保健室にいる。」
それを聞いていた蓮二はいても立ってもいられなくなった。しかし部活中なので抜け出すことはできない。やり切れなさを感じながら、部活をするしかなかった。そのうち赤也が戻ってきて、普通に部活は続行した。部活を終えて、皆と帰っているともう保健室の明かりが付いていなかった。
「お嬢無事かなー。俺、ファンなんだよね。」
「葉山は背中打撲したのと、軽く足捻ったからお迎え来て病院行きました。怪我したけど、無事っすよ。」
「その方をリンチしたのはどこの輩なんですかね?」
「さぁー。でも総合学科の二年ぽいです。なんか俺が真田さんの教室行こうとして、総合学科の校舎に間違って行ったら、そこにいたんで。」
仁王、丸井とジャッカルは心当たりがありそうな人間が何人かいると思った。蓮二はその話を黙って聞いていたが、犯人探しをしてまた警察に突き出したいくらいである。
「やっぱ女の子はかわいいと妬みの対象になるんかのう。」
仁王はつぶやいた。皆と別れてまた帰路に着く頃、蓮二はすぐに仁奈に電話をかけた。電話に仁奈は出なかった。いきなり電話をかけてしまったことに、蓮二は我にかえって何事もなかったように足速に帰った。
- Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.49 )
- 日時: 2021/06/17 02:58
- 名前: ぺ (ID: KP9MPHtc)
仁奈は病院に行ったあと、祖父母に迎えに来てもらった。父親は気が気でない様子だが、背中の打撲と左足の軽い捻挫で済んだので胸をなでおろしていた。
「とりあえず今日はおばあちゃん家に泊まって、安静にしよう。ちゃんと学校にこのことは話さないとな。」
丁度休憩時間に仁奈の学校から電話がかかってきた父親は、仁奈が怪我をしているから迎えに来てほしいと言われた。軽い捻挫だが長期間の移動はまだ心配だから、とのことだった。「生徒間のトラブルで怪我を負わされた」と一言だけで終わりである。父親は、自分が務める病院までタクシーを手配した。仁奈はそれに乗って父親の病院までやって来たのだ。
「母さん、父さんにもよろしく頼む。すまん、あともう少しで手術だから準備に行かなくちゃならない。」
「うん、ありがとうね。」
「明日学校休んでもいいからな。じゃあまた。」
父親はすぐに診察室からいなくなってしまった。仁奈は祖母に連れられ、病院を出た。祖母はすれ違う医者や看護師に挨拶をされていたので、その都度適当に返していた。松葉杖とともに歩く仁奈は少し恥ずかしかった。
「仁奈ちゃん、よく堪えたわね。お友だちにひどいことされたの?」
祖母と仁奈は車に乗り込んだ。運転手がいたので仁奈は挨拶をした。
「うん。おばあちゃんとおじいちゃんが買ってくれたローファーと靴、ぐちゃぐちゃになっちゃった。大事にしてたのに、ごめんね。」
「…そんなこといいのよ。仁奈ちゃんに暴力奮った人たち、どんな奴らだったか覚えてる?」
あんな息子と元嫁からどうしてこんなに心優しい子が育つのかしら、祖母は思った。
「なんか、身なりが派手だったかも。ギャルみたいな感じで、たぶん年上。」
「そう…。今日は勉強なんかしないで。ゆっくり休みなさいね。」
「うん。」
仁奈はぼーっと窓の外を見ていた。30分以上車を走らせて、千葉にある祖父母の家についた。一軒家である祖父母の家は、自分の家じゃないのにとても過ごしやすい。広い並木道とかこのあたり全体的にサンフランシスコの郊外なんかを思わせる景観が大好きなのだ。部屋に入り、もう部屋着に着替えた仁奈はリビングのソファーに横になった。右肩が痛いので左肩を下にして寝ている。
「メロン食べる?」
「食べたい。」
祖母はどでかいメロンを冷蔵庫から取り出した。豪快に捌いていく。
「バッグとお靴はまた新しいの買うから、気にしたらだめよ。」
「ありがとう。」
テーブルにメロンが置かれ、仁奈は寝ながらそのメロンに手を出した。祖母はその姿を見て、旦那みたいと笑っている。
- Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.50 )
- 日時: 2021/07/12 02:14
- 名前: ぺ (ID: gYh1ADSg)
夜中に目が覚めた。祖母の家について、すぐソファーに寝転んでからずっと眠っていたのである。携帯のライトが小刻みに光っているのが際立った。布団に包まれていた仁奈は起き上がり、携帯を開いた。赤也、麻里、父親それと蓮二からは着信が入っていた。慌てて折り返し電話を入れようとしたが、現在午前0時をとっくに過ぎている。一刻も速く蓮二に返事がしたかった仁奈は、この時間に連絡するか迷った挙句、メールを送ることにした。
夜分にごめんね。電話ありがとう、出られなくてごめん。
文末には可愛らしいくまが泣いている顔の絵文字をつけた。メール一人一人返していると、蓮二からメールが来たと表示された。
そんなことは気にしなくていい。体調は?
大丈夫だよ!捻挫も軽いからすぐ歩けそう。
それならよかった。無理はしないほうがいい。
蓮二、眠くないのかな。仁奈は単純にそのことを思った。返信するときに一緒に打ち込んで送信すると、今は風呂から上がったと返ってきた。お風呂あがりと聞いて、まるで目の前に半裸の蓮二がいるように意識してしまった。何か返さないといけないのはわかっているが、途端にどうしたらいいかわからなくなってしまった。
蓮二は長風呂するの?
え、これでいいかな?お風呂の話題ってこれくらいかないし、どこから洗う?とか聞いたら絶対変な人だと思われるし。仁奈はとりあえず送信したが、返信が来るまでの約数分ですら長く感じて落ち着かないでいる。
しないな。温泉は別だが。
温泉だったらずっと入ってられるよね!どこか温泉行ったことある?
鬼怒川、箱根や伊香保など、関東の有名所なら行ったことがある。
私もおじいちゃんおばあちゃんと行ったな~!秋に行くのが好きなんだよね、露天風呂も好き。
意外だな。
蓮二は仁奈が高級なホテルや会員制のリゾートホテルを好き好んでいると思っている。確かに祖父母に連れられて長期休暇によく行っていたが、仁奈にはいまいちどこも違いがわかっていない。次々進む会話に、仁奈は寝起きにもかかわらず完全に目が覚めていた。そのうち、蓮二とテニス部の話になった。順調に勝ち進んで、もう県大会はベスト8まで来たらしい。蓮二の姿を見たいと思ったが、興味本位で行くのは、本人のモチベーションや真剣な場面を邪魔してしまうと思った。
いつか試合見に行ってみたいな!
「いつか」で言葉を濁した。
蓮二は「いつか」「たまに」「気が向いたら」など、頻度や度合いが具体的にわからない言葉ではあまり物事が理解できない。
それなら、次の試合を見に来たらいい
え?いいの?
別に無理にとは言わないが。見てみたいと言うのなら15日に試合がある。
仁奈は先程からソファーの上で飛び跳ねたり、寝転がったりしている。喜びすぎているため、その挙動はかなり怪しくなっているが誰も見ていないので問題はなさそうだ。
私が見に行っても、邪魔にならない?
なぜそうなる?
蓮二は仁奈からのメールがどういう意味か分からなかった。邪魔に?葉山がいたら、試合に集中できなくなる、そういうことか?蓮二は勉強かテニス以外で深く考え込んだことはなかった。そうなれば集中できないというのが、どういう意味なのか…ただ気が紛れるのかそれとも…蓮二が思考を巡らせていたが、やがて眠気が襲ってきた。いい夢が見れそうだ。蓮二は仁奈への返信が途中のまま、眠りについてしまった。
- Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.51 )
- 日時: 2021/08/11 03:15
- 名前: ぺ (ID: 86FuzJA.)
なんだか仁奈は眠れなくなってしまった。時間は午前3時、寝室に移動し窓を開けて外を眺めている。小高い丘の地区にある仁奈の祖父母宅からは、住宅街とビル群が遠くにうっすら見える。遠くに赤い空がうっすら広がるが、天上はまだ深い青である。視界の隅で携帯が鳴ってるのが見えた。
無理せんとき。明日学校休みや。
侑士からだった。変な時間に返信してくるなぁ、と仁奈は思いつつ
明日は休むつもり~
と送った。なんでこんな時間に起きとんねん!と侑士はツッコミを心の中で入れたが、ぐっとこらえた。もう漫才やただの友だちのようなやり取りは止めたい。
寝なくてええんか?
寝れなくてちょっと起きてる
泣き顔のかわいらしいくまの絵文字。若干頬が緩んだ。侑士はすかさず電話をかけた。人が少ない2階のソファー席に移動し、隅に腰掛けた。
「もしもし?いつまで起きてはるんですか?」
「うーん、寝れなくって…」
電話の向こうで仁奈は窓を占めて、布団に入った。
「でも、侑士も変な時間まで起きてるよね?なんかあったの?」
「ああ…今日台風で試合が延期になってな。公欠のまんまで今日学校休むし、ちょっと遊んでんねん。」
「そうなんだ、テニス部と遊んでるの?」
侑士の隣に女子大生が座ってきた。キャミソールのミニワンピに、ブーツサンダルを履いている。カクテルを侑士の口元に持ってきて、早速侑士の肩にもたれている。
「せやで。」
「ねぇ!誰と電話してるのぉ?」
侑士は咄嗟に女子大生の隣を離れた。仁奈は一瞬、女性の声が聞こえた気がしたが特に気にはしていなかった。
「ねぇー、ひどいよぉ。」
さり気なく手で女子大生を払ったが、胴体に手を回してくる。彼女のごとく侑士の背中に顔を埋めている。
「どこにいるの?」
EDMが聞こえてきて、若干騒々しさを感じている。どこにいるんだろう?仁奈には想像もつかない場所である。まさかあの品行方正な金持ち坊やが、クラブで夜遊びなど考える術もない。
「…カラオケ、!カラオケおんねん。」
「夜遊びはダメだよ。」
疑いもなく侑士に注意する仁奈に、注意喚起された本人は心が痛んでいる。
「神奈川の大会も試合なくなったのかなぁ?」
「…知らんけど、関東全部雨やって。」
なんや!誰のこと心配しとんねん!女子大生を再度除けて、侑士はどすんっとソファーに座った。女子大生に押し付けられて、テーブルに置いたカクテルを飲み干した。遠くでは日吉がバーの近くのテーブルで、女子に囲まれている。それにも腹が立った。
「怖い顔してるぅ。」
侑士は頬を人差し指で軽く突かれた。やめろ!と言わんばかりに顔を女子大生と反対方向へ向けた。
「そっかぁ。残念だね、早く帰るんだよ。」
「若ん家に泊まり言うてるから大丈夫や。」
「お母さんにバレないの?」
「仁奈が言わんかったら、バレへんで。」
「言っちゃおうかなぁ。」
「ほんまあかんて!頼むわ!ケーキ奢ったるから!」
「う、嘘だよ。」
侑士の予想以上の焦りぶりに仁奈は念を押されてしまった。お願いしますほんまに…と侑士のかすかな声が、本気度を物語っている。仁奈はなんだか可笑しくて笑ってしまった。
「さすがやわ、仁奈は。」
知らない男に自分の体擦り付けるような女とは大違いである。うふふと品良く微笑んでいる仁奈は、ついにあくびが出てきたので寝られそうだと思った。
「眠れそうだから、もう切ってもいい?」
「ええよ。ちゃんと寝えや。おやすみ。」
「うん、おやすみ。」
プツッとキレた。一気に辺りが低重音と人々の騒ぐ声に包まれた。侑士が通じていた世界とは全くの別物である。
「彼女?」
「…せやで。だから、」
侑士は得意気に口を開いたが、女子大生によってその唇は塞がれてしまった。
「彼女いるのにこんなところ来ちゃうの。」
「付き合いで来ただけや。」
そんなことはない。若と二人で興味本位で入ったのである。父親のシャツと時計とやらで身を固め、研修医をイメージして来た。若は一瞬怪しまれたが、彼もまた研修医になっていた。跡部に頼んで年齢確認とID認証はせずに入ったし、跡部頼みということでお店待遇も良い。
「彼女さんもぉ、他の男といるんじゃないの?」
侑士はその言葉を聞こえないふりをした。女子大生の髪を耳にかけた。
「外行こか。」
女子大生は侑士の眼差しにもはや断るという選択肢はなかった。こんなきれいな顔の男、見たことない…美男子を前にした女子大生の息は瞬く間に上がってきている。あいつが誰か他のやつとおるわけあらへん。他のやつのことなんか考えてるはずもないやろ。侑士は女子大生に反論をぶつける思いで、クラブの外の脇道に連れ込んだ。
「あれー?お兄さん、一人?」
「そうだけど。」
声をかけられてばかりでうんざりだ。若は適当なところへまた移動した。誰でもいいというわけではない。若は侑士を見つけようと辺りを見渡したが、一向にいる気配はなかった。葉山や長太郎はこんなところ死んでも来ないだろうな、とつくづく思いつつ好みのロングヘアの女性を見つけた。目が合うと、彼女は寄ってきた。全く本物には叶わないが、色の白さと細さはまあまあである。
- Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.52 )
- 日時: 2021/09/01 12:08
- 名前: ぺ (ID: UQpTapvN)
仁奈が目覚めると、窓の外は暗く目に見えるほどの大粒の雨が打ち付けている。大木も葉が折れそうになるほど揺さぶられているし、祖父母の愛車の車体もかなり激しく上下左右に動かされている。今何時?!たまらず携帯を開いた。
12時32分
可愛らしい花が待ち受けにされている。お昼かぁ、と仁奈はお腹の空き具合を実感した。1階へ降りると、見知らぬ女性が掃除機をかけている。
「おはようございます、お嬢様。」
「おはようございます。祖父母は?」
「本日、雨がひどくなる前の早朝から出勤なさっています。」
使用人の新木という女性はまだ若く20代前半だった。1つに束ねただけのすっきりした黒髪に、ポロシャツと黒のスキニーを履いている。エプロンには雑巾や洗濯バサミがぶら下がっており、なんとも真面目でよく働きそうな雇い人である。彼女から仁奈は今日は高校が休校になったと聞いた。蹴られた肩のあたりには跡が残っている。そのうち治るのはわかっているが、打撲の治りかけなのでまだ青紫である。洗面台でため息をついた。髪の毛、伸びてきたなぁ。湿気で広がる髪の毛が鬱陶しく、束ねた。
「巻いてあげる。」
誰かの声が聞こえた気がした。もう、不器用なんだから。仁奈は、声の主に気がついてハッとした。母親である。洗面台に一人で立っていたときに、不意に思い出したのだ。映る鏡には母親の姿はもちろんない。最悪だ、子どもを捨てるような母親のことを思い出して悲しくなるなんて、私もひどい人間だ。仁奈は急いで顔を洗い、リビングに戻ってきた。家政婦がいることに気が付き、涙の顔を隠しながら寝室に上って行った。家政婦は気にも止めず、机の上の花新しく生けていた。
おかけになった電話番号は電波の届かないところにあります。
ずっと繰り返されている。出て行かれてから、初めて電話をかけたのに。
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