二次創作小説(紙ほか)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ハニカム(テニプリ夢)
- 日時: 2021/06/07 02:22
- 名前: ぺ (ID: EabzOxcq)
かわいいかわいい女の子
葉山仁奈…立海大附属高校1年。医者の家系に生まれたひとり娘。容姿端麗だが少し抜けている。
麻里…仁奈のクラスメイトで親友。一般家庭。
沙由香…仁奈の中学時代の親友。某出版社の令嬢。宍戸先輩の彼女。いまでも仁奈と親交あり。
未央…同じく中学時代の仁奈、沙由香の親友。某銀行頭取の孫。
- Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.74 )
- 日時: 2021/11/13 00:05
- 名前: ぺ (ID: jk2b1pV2)
今日の放課後、跡部御用達の写真スタジオでの撮影が待っている。普段から跡部が頻繁に自身の写真撮影をしていることに、妙に納得した。彼とは直接的な面識はないものの、侑士と長太郎がよく彼の話をしている。日吉はあまり彼のことが好きそうではなかった。
「仁奈ちゃーん。お久しぶり。」
学校が終わると校門の前には、高級外車が停まっている。車の横に運転手と長太郎、沙由香と未央が待ってくれていた。白を基調とした制服を着こなしているのはやはり彼らの気品であろうか。校門から出てくる立海生は、みんな歩きながら彼らのことを凝視している。
「体調は大丈夫なの?」
「うん。なんかすごく辛いわけじゃないんだけど、生活しづらいっていうか…とにかく何故かはわからないんだけど、ずっと息苦しかったりお腹の調子が悪かったり。」
「生理前にしては不調の期間が長いよね。」
「女の子は大変だなぁ。お祖母様に相談してみたら?」
「嫌よ、パパに連絡が行くかも。」
4人は30分ほど車に乗り、都内のビルに入る。ビルの中では有名モデルや芸能人とすれ違い、その度に4人はきゃあきゃあとしていた。ここはどうやら雑誌の撮影やアーティストの宣材写真などに使われる有名な撮影スタジオらしく、跡部はそこで毎回生徒手帳の写真を撮っているらしい。
「こんにちは。」
スカーフを巻き、シャツにテンガロンハットを被ったおしゃれなおじさんが、仁奈たちを見つけやってきた。
「ごきげんよう。今日はよろしくお願い致します。」
未央は咄嗟に挨拶を返す。仁奈たちも慌てて頭を下げるが、おじさんは跡部によると敏腕の売れっ子カメラマンらしい。仁奈はメイクルームに通され、3人はスタジオでそれを待つことになった。
「よう、鳳。」
「あ、跡部さん!こんにちは。」
「俺様名義で借りてやったが、撮影は好きにしろ。」
「ありがとうございます。跡部さん。さすがですね!惚れちゃいます!」
「何気持ち悪いこと言ってんだ。野郎共も撮影の手伝いに来させているから、使ってくれ。」
長身のイケメンがやって来た。それは紛れもなく跡部景吾である。高校生離れした華やかさと容姿の輝きは、彼を見る人を男女問わずいつでも惚れさせている。彼はそれだけ言うと、スタジオの外へ消えてしまった。
「跡部様、今日も神々しいね。」
「ほんと!かっこ良すぎる…。」
沙由香と未央は久々に生で跡部を見て、感激している。しばらくして仁奈がやってきた。立海の制服を正装で着こなしている。てっきり3人は仁奈が豪勢な装いをしてくると思いわくわくしていたが、なんとも地味な格好でびっくりしている。どうせなら何十万する氷帝学園の制服を着たほうが良かったのではないか?と思う。
「僕が素人の容姿を褒めるなんてしたくないんだけど、仁奈ちゃんは素材を活かすべきだよ。」
そう言うと、白い背景をセットし光の調節を始めた。
「はい!そこの君、レフ板持って!」
「は、はい。」
長太郎は大きなレフ板を持ち、角度を細かく指示されている。仁奈は手を後ろに回し、足をクロスさせた。いつもより桃色に潤う唇をきゅっと結んで、口角を上げている。
「下手くそ!違う!順光だからね、これは。この角度で!」
「す、すみません!」
長太郎はもはやカメラマンの舎弟である。未央と沙由香は上から撮影の様子を見ている。格闘ゲームの効果音が後ろから絶えないので、二人は気になって後ろを向いた。
「あれ?若もいたの?」
「…悪いか。」
「長太郎の付き添い?」
「ゲーセンって言われたから来た。何だここ、AVでも撮んのかよ。」
クラスメイトとゲームセンターにいるから、日吉も来なよ。と帰り道の途中で長太郎からメールが来た。テスト期間で部活もなかったので、そのまま着の身着のままやってきたのである。そしたら、いつの間にか洒落たオフィスビルの中にいたのだ。氷帝学園の制服を着ていると、すんなりここへ案内された。意味もわからないまま、2階のスタジオの隅に立っていた。退屈になったのでゲームを始めた。以上が日吉の一連の行動である。
「仁奈、中等部のときもあったけど変な意地悪されてないよね?」
「全然その話しないよね。前は忍足さんとか長太郎が守ってくれたけどなぁ。」
中等部に通っていた際に、仁奈は上靴を隠されたり私物が盗まれたりしたことがあった。本人は自分の行動で何か思い当たることはないかと自責に喘いでいたが、実際はただの嫉妬心から来る幼稚な嫌がらせである。高校に入り、ヤンキーの先輩たちに一度だけ暴行されたことがあったが、彼女たちはもう退学処分になった。さらに仁奈の祖母が学長の大学とは指定校推薦の締結が取り消されたのである。これだけ相手が制裁を受けたのだから、もう許そうと思い、特には気に留めないようにしていた。
「一旦休憩入れよう。着替えておいで。」
「はい。」
仁奈はそそくさとメイク室に戻り、着替える。メイクが終わり、髪の毛をコテで巻かれている。鏡の前の自分をぼんやり見ていると、誰か知らない人間になったようだ。そして手元にある雑誌をパラパラと捲っている。
「本当にモデルさんみたいね。」
「あ、ありがとうございます。なんか恥ずかしいです。」
仁奈のヘアメイクを担当していた女性は言った。彼女は40代の少しふくよかな、ベテランといった部類だった。
「こういうの初めて?」
「はい。」
「本当に?なんだか慣れてる感じだけど。」
「そうですかね。」
緊張感がないという意味だろうか。仁奈は愛想笑いで誤魔化した。でもたしかに鏡の中にいる自分は、大して違和感はないのだ。素人らしくその場に浮いているわけでもなく、ただ化粧を塗りたくられているわけでもない。一言で表せば、着飾っている自分がしっくり来た。黒いマーメイドドレスに身を包み、レースの手袋をはめた。
「ヨシコちゃーん、アレもつけて!」
「はーい。」
カメラマンが、先程のヘアメイクの女性に何か声をかけると、ティアラが仁奈の頭に乗せられた。
「綺麗すぎる…。」
二人は仁奈にうっとりしている。用意されたカウチに座り、縁に肘を置いた。
「カウチに足伸ばして!そうそう!」
これってずっと自分がにこにこしてたら、ティアラの邪魔になるんじゃないかな。仁奈は
、気持ち目尻を下げてカメラから目線を逸らした。
「素晴らしい!そうそう!もっとティアラキラキラさせて!」
「すごい、ほんとにモデルじゃん。」
「早めにサインもらっておこう。」
撮影は3時間に伸び、すっかり夜になっていた。
「今日は長時間付き合わせちゃってごめんね。」
「全然大丈夫!みんなでミスコン見に行くからね!」
「ありがとう。」
「若も彼女見つけに行こうね。」
「わざわざ他県にいらねぇだろ、めんどくさ。」
「そんなこと言ってー。」
5人は夜飯を食べに街へ歩き出した。
- Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.75 )
- 日時: 2021/11/14 09:57
- 名前: ぺ (ID: nGb.G1Wf)
休日は電池が切れたように部屋の外へ出れなかった。いい加減、父親に謝らなければいけないことはわかっている。しかし自分の意地とか意思とかには関係なく、それが難しい。ベッドの上から体が動かないのだ。カーテンを開けるのもやっと。来ていたメールには少しずつ返信をしていたが、それすら億劫で内容もわからないままだった。
しかし、月曜日が来ると急にスイッチが入ったように動き出すことができる。その変化に仁奈自身はついていけない。それでも今日はポスターを生徒会室に届けなければならない。
「仁王先輩がさ、関東大会おいでって言われたんだけど一緒に行かない?」
「今週末だよね。行こうかな。」
決まり!と麻里の声は弾んだ。あれから仁王先輩は頻繁に連絡を取ってくれたり、オフ日に会ってくれるようになったらしい。結果オーライかもしれない。放課後になり、二人は生徒会室に行く。
「失礼します。」
とドアを開くと、忙しく役員たちは仕事をしている。目線の先には蓮二もいた。目配せして、こっそり笑いかけた。彼もさり気なく口元を緩めてくれて、それが嬉しくてたまらなかった。しかし仁奈たちを待ち受けていたのは、蓮二と親しげに話をしていた賢木だった。
「確認しますね。」
落ち着いた声と雰囲気。きっと仕事が出来る人なんだろうな、と仁奈は思う。名前、クラスの記載や写真の規定を守っているかなどを細かくチェックされている。しばし麻里と仁奈には緊張が走った。
「オッケーです。こちらで複製して貼りだしておきます。文化祭終了後は、原本のみ返却となりますので、よろしくお願いします。」
「はい。ありがとうございます。」
畏まっている仁奈の心情を容易に察することができた。
「すごい力の入れようですね。ただの学祭なのに。」
ポスターをまじまじと見て、賢木が言う。嫌味を言われているとわかるまで、一瞬時間がかかった。急に言われるとも思っていなかったので、言い返せずに狼狽えている。
「あ、独り言です。気にしないで。」
「…はい。」
「柳くん、これお願い。」
何も気に留めないかのように、賢木は蓮二にポスターの保管を促す。
「あー!もう何なのあの女!サバサバしてる風にみせかけて、飛んだネチネチした野郎じゃん!」
「蓮二と目があってたから、それで勘づかれたのかも。」
「おっぱいデカイからって、調子に乗ってるわね。」
「しかも頭も良さそうだし。」
「でもうちの仁奈も負けてないから!性格と容姿、育ち、ほとんど負けてない!おっぱいだけ!」
「う…でもありがとう。」
麻里とぎゃあぎゃあ言いながら教室に戻る。文化祭の準備が進んでいる。教室に内装を施すだけなので、もう特段することはない。むしろ準備が早すぎたくらいだ。仁奈は麻里に連れられ、他のクラスの様子を見に行っていた。
- Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.76 )
- 日時: 2021/11/24 17:57
- 名前: ぺ (ID: jmxtpCAp)
いよいよ文化祭の日がやって来た。1日目、学内での開催にはテニス部は公欠でいなかった。特に麻里はテンションが下がりきっており、1日クラスで出店している休憩所でだらだら時間を潰していた。
「テニス部、明日は午後からしか来れないのかぁ。」
「まあでも順調に勝ち進んでるのはいいことだよ。」
「だよねー。仁王先輩が負けるなんてありえないもん!」
麻里は脳裏に仁王が浮かんだのが、机にだらりと倒れていた身を起こした。
「だね。試合結果の速報、見てみる。」
仁奈が携帯で、関東大会の結果を調べる。神奈川県の体育連盟テニス部のサイトにアクセスした。速報にカーソルを持ってくる。
3回戦 立海大附属 (神奈川県1位) 対 青春学園 (東京都2位) 2−3
とある。見間違えただけだ。仁奈はそう思った。気が動転したが、とりあえず麻里にも画面を見せた。
「え…嘘でしょ?」
よりによって準優勝か3位ではない。敗退である。一方の氷帝学園は勝ち上がっていた。文武両道を掲げる真田は、試合が終わり次第文化祭に参加させると意気込んでいた。まさかこんなに早く参戦することになるとは…しかし、今日は流石に向かわせることはない。
「はぁ、俺の復帰戦だったんだけどなぁ。」
「ゆ、幸村さん。すみません、俺が…。」
炎天下の試合なのに悪寒が酷い。部員は悩ましげに目尻を下げる幸村の姿に体を震わせている。幸村が圧倒的に勝ったというのに、赤也は同学年の対戦相手に負けてしまった。
「まぁ手塚は高校入って弱くなったかな。でも、越前に負けるのは酷くない?リベンジしてほしかったなぁ。」
「も、申し訳ないっす!ごめんなさい!ごめんなさい!」
赤也が必死に頭を下げる後ろで、ベンチ外の1年生たちは冷ややかに笑っている。幸村は1年生たちに目線を投げた。
「だけど同学年に練習相手がいないのも辛いよな。」
幸村はそう言うと赤也の肩に手を置いた。赤也は後ろを振り向くと、チームメイトであるはずの彼らは赤也から顔を背け、そそくさとどこかに行ってしまった。
「…あー!くそくそくそ!やってらんねー!」
ベンチを蹴る。足がじんじんと痛かった。俺はもう高校生、泣いたら負けだ。
- Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.77 )
- 日時: 2021/11/24 22:55
- 名前: ぺ (ID: 3hf5E.5D)
赤也は一応1年生なので、部室に試合で使った道具を戻す仕事がある。同じ当番の1年生たちは、軽い荷物だけを持って部室に走っていった。大戦犯と後ろ指を刺される彼は、アイスケースと部旗を引きずりながら部室に向かった。珍しくものの扱いが優しかった彼は落ち込んでいる。荷物を下ろし、部室を出ると学校は文化祭で格段に騒がしかった。
「赤也じゃん!」
「なぁ、テニス部どうだった?」
バスケ部とサッカー部の連中が話しかけてきた。いつも一緒にいる彼らだったが、テンションが全く上がらなかった。負けた、とだけ伝えるとその場を離れた。
「おうおう。この坊主め。」
後ろから肩を小突かれると、気弱くよろけた。
「あ、どーも…。」
振り向くと仁王、柳生、ジャッカルと丸井が立っている。赤也は口がへの字に曲がって今にも泣き出しそうである。安堵感からか、次第に目が潤んでいく。
「今日明日は遊びまくって、女作んぞ。」
「紳士的ではないですが…今日は良とします。」
赤也はジャッカルの制服の袖で涙を拭いていた。
- Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.78 )
- 日時: 2021/11/28 05:00
- 名前: ぺ (ID: .tpzY.mD)
文化祭の1日目が終わり、仁奈たちは放課後まで学校で盛り上がっていた。赤也が教室にジャッカル、仁王、丸井と柳生を連れてきたり、仁奈がミスコンのPRのために体育館のステージに立ったりと、内容の濃い1日だった。蓮二、どこにもいなかったなぁ。仁奈はずっと辺りをキョロキョロしながら過ごしていたが、彼の姿はなかった。
「ねぇ、葉山さん。柳くんのこと好きでしょ?」
「え?急になんで、」
「生徒会室で葉山さんの顔見てたらすぐわかったもん。」
「そ、そうでしたか…。」
「柳くん、試合に負けて落ち込んでるからあんり突っかかんないであげてね。」
ミスコン出場者が体育館のステージに上がる前、袖で賢木に言われたことを思い出した。とっさのことで何も返事ができなかった。蓮二の賢木さんと何もないって言ってたのは本当なのかな。仁奈はステージ上で自分がうまく笑えているか心配だった。しかしそんな辛い感情は次第に薄れ、放課後まで来たのである。
女子数名で校門に向かうために、テニス部のコート脇を通る。ボールが打つ音が聞こえ、仁奈は不意に視線を向けた。身を覚えのある大きな後ろ姿。上下黒いジャージ姿で、サーブを打ち込む男性がいた。
「あ、」
麻里も気づき、仁奈の肩を叩く。すでにコートに釘付けになっていた仁奈は、その姿が蓮二だと確信できた。
「今、柳先輩一人だよ。」
「でも、賢木さんに蓮二が試合で落ち込んでるからって言われて…」
「はぁー?あんな女のことなんか考えなくていい!行ってきな!」
麻里に背中を押される。わぁ、っと声が出た仁奈の方を蓮二は向いた。麻里は仁奈にグーサインを出し、みんなでそそくさと帰っていった。
「葉山、」
蓮二の声がする。フェンス越しにでも、直視されると視線を落としてしまった。
「お疲れさま。今日、いなかったからどこにいたのかなって思ってたけど、テニスコートにいたんだね。」
「試合に負けたからな。現を抜かしている場合ではなかったんだ。」
蓮二がフェンスの扉を開ける。仁奈は吸い込まれるようにして、足を踏み入れた。そのまま脇にあるベンチに座ると、蓮二もペットボトルの水を開けて隣に座った。
「練習の邪魔だったかな、ごめんね。」
賢木に言われたことがずっと引っ掛かっている。
「こんな日に自主練をしているのは、俺ともう一人の面倒な野郎くらいだからな。別に来てもらっても構わない。」
「そっか。良かった。」
「何か申し訳ないと思う理由があるのか?」
「あ、あのね、賢木さんに蓮二が落ち込んでるからあんまり突っかかるなって言われて、声かけようか迷ったの。」
「ああ、あいつか。」
お互いを知っているような素振りだけで、仁奈は自分の心に悪寒がした。
「また浮かない表情になったな。」
「そんなことないよ!」
「そうか。俺の見当違いだったか。」
うん、と仁奈があまりにも素直に頷くので笑ってしまった。そんなことはないはずなのに。
「明日は、来るの?」
「ああ。生徒会の仕事があるから、1日校内で規則違反のクラスや生徒がいないか回って見張らないといけない。」
「そうなんだ!じゃあ、遊ぶ時間ないの?」
「一応、休憩時間もあるが…クラスの手伝いかテニス部の輩で潰れる可能性が高い。」
「そしたらもう楽しんでる暇ないね。」
こういうとき、葉山の顔色は格段にわかりやすい。
「私はね、中学の友だちが来てくれるの。氷帝も試合1日目で終わったから、適当な時間に遊びに来るって。」
「あの眼鏡の野郎も来るのか?」
「侑士はリハビリだから来れないって。いつも仲いい子たちは来る。」
自分が胸を撫で下ろしても、仁奈には気づかれまい。同時に氷帝の輩が、こんな庶民的な高校生のやることを楽しめるのだろうかと思った。仁奈はカバンから飲み物を取り出そうとしたが、その200ミリペットボトルの水は空だと気がついた。その様子を蓮二は横で見ていた。
「少し待っていてくれ。」
蓮二は颯爽とたち上がり、コートから出ていった。彼のタオル、ラケットバッグ、ラケットが横たわっている。どれも新品のようにきれいで、女の自分より何倍も几帳面だと感じさせられ、胸が痛い。隣にはノートもあり、手を伸ばしたくなったが我慢した。後ろのドアが開く、どうしたの?と言いながら後ろを振り向いた。
「え?葉山さん?」
「…さ、賢木さ、」
「柳くんに会いに来たの?」
明らかに怪訝そうな顔をされた。同性にここまで嫌という感情を表に出されることはないので、狼狽えてしまった。彼女は手に2本の500ミリのペットボトルに入ったジュースを抱えている。
「今日は、柳くんに突っかかるなって言ったよね?」
「ごめんなさい。そんなつもりじゃ…。」
「清楚で大人しそうなのに、結構やること汚いんだぁ。」
また何も言い返せない。麻里がいたら殴り合いでもしてくれるだろうけれど、そうもいかない。
「帰ってよ。生徒会室のときから柳くんのこと見て一人でニヤニヤしてて、不快だったんだよね。ファンの子って勝手に勘違いしちゃうこともあるから、柳くんは迷惑しちゃうだけだよ。」
「…わかりました。私も、賢木さんがそんなひどいこと言う方だなんて知らなかったです。」
自分のバッグを取り上げ、走ってコートを出た。途中でジュースを持ってきた蓮二とすれ違った。
「葉山!」
珍しく彼が声を上げたことに、一瞬足が止まったが聞こえないふりをした。とても喉が乾いている。
「賢木、いい加減にしろ。」
コートに入るなり、蓮二は仁奈が座っていた席に居座る賢木に低い声で言った。
「なんで?柳くんが葉山さんに優しくするから、葉山さんが勘違いしちゃうんだよ。」
「勘違いじゃない。」
「…どういうこと?」
「俺は同じことを何度も言わせる人間が嫌いなんだ。帰ってくれ。」
「柳くんが葉山さんのこと、好きなわけないよね?私のほうが…」
「俺の気持ちがお前にわかるわけないだろ。こうして俺の本心知らないまま、図々しくやって来るのはお前だ。」
蓮二は足早にコートを去った。残された賢木は目に涙を貯めている。
「あの女、許せない。」
私のほうが隣にいたのに。ずっと頑張ってきたのに。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19