二次創作小説(紙ほか)

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ハニカム(テニプリ夢)
日時: 2021/06/07 02:22
名前: ぺ (ID: EabzOxcq)

かわいいかわいい女の子

葉山仁奈…立海大附属高校1年。医者の家系に生まれたひとり娘。容姿端麗だが少し抜けている。
麻里…仁奈のクラスメイトで親友。一般家庭。



沙由香…仁奈の中学時代の親友。某出版社の令嬢。宍戸先輩の彼女。いまでも仁奈と親交あり。

未央…同じく中学時代の仁奈、沙由香の親友。某銀行頭取の孫。


Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.63 )
日時: 2021/10/23 01:58
名前: ぺ (ID: /g38w/zu)

仁奈は今日も朝寝坊した。いつもは父親と朝食をともにするのだが、今日は着替えてすぐ家を出ていってしまった。朝ご飯なんか食べている暇はない、6時58分の快速に乗らないと学校に間に合わないのだ。徒歩5分もかからない駅に向かい、電車に乗り込むとすぐ発車した。また眠りに入ったが、しばらくすると乗り換え、さらに高校の最寄り駅に停まる電車に乗り換えた。これでしばらく眠れる、と目を閉じた。

「次はー…。」

と言ったアナウンスがゆっくりと頭に響いてくる。あぁ、もう起きなきゃ。と仁奈は体を起こした。エスカレーターに乗り、改札を目指す。朝から水すら飲んでいないので、暑さと喉の乾きでなんだか胃がやられそうである。改札を出たところの自動販売機で水を買った。

「葉山。」

仁奈は飲んでいた水を口から吹き出しそうになった。咄嗟に口元を抑え、背後から声が聞こえたので後ろを振り向いた。やはり蓮二が立っている。朝から暑いのに、それを全く感じさせない佇まいである。

「お、おはよう。」
「なんだ、朝から嫌だったか。」
「違うよ。びっくりしたの。」

急いでペットボトルの蓋を閉め、蓮二の隣を歩く。蓮二は仁奈より歩くのが速いので、仁奈は少し歩幅を狭く、足の回転を速くしながら並んでいる。

「ねぇ、一緒に学校行ってもいい?」
「…わざわざ聞くな。」
「どっち?」
「…。」

蓮二は仁奈の後ろ姿を見つけて、自ら近寄ったのである。仁奈は天然なのか、蓮二から話しかけたのに自分が勝手について行ってると勘違いしている。全く逆なのに。蓮二は答えることなく仁奈の隣をただ歩いている。

「蓮二、今日は朝練ないの?」
「今日からテスト期間だからな。2週間は部活も停止になる。」
「そうなんだ!でも蓮二はテスト勉強なんかしなくても、いい点取れちゃうよね。」

そもそも蓮二にはテスト勉強という概念がなかった。授業中に単元の内容はわかるし、復習しようと思えば日々の課題ですればいい。それを人に言うと何かしら良くない反応をされると最近気づいたので、言わないようにしている。

「葉山は、勉強しないのか?」
「するよ!するけど…私、あんまり頭良くないから。」
「勉強の仕方が悪いだけじゃないか?」

蓮二に言われても説得力がない。中学生の頃は頭が格段に良かった。何せ東京で名門を張る氷帝学園のいちばん偏差値の高いクラスにいたのである。

「氷帝学園なら俺より頭が良いはずなのにな。」
「…特進落ちたの。」
「それはすまない。」

蓮二、真田はスポーツ推薦なのに入試の結果が良すぎて特進クラスに入ることになったのである。将来が有望な二人は、教師からの信頼も厚い。二人は約15分の道のりを歩いている。歩くたびに学校がどこかに遠のいてほしいような、ずっと歩いていたい気持ちである。

「何の科目が難しい?」
「数学!あとはね、物理基礎。」
「俺の得意科目だな…。」
「ええ、じゃあ教えてよ。ほんとに赤点取っちゃいそうなの。お願い。」

懇願されて断れるわけがなかった。目を潤ませるように、眉毛もハの字にして困ったような顔をしている。仁奈は藁にもすがる思いで必死に頼んでいるが、蓮二は策士な部分があるのではと一瞬仁奈がわからなくなった。

「いつ?」
「私はいつでもいいよ。蓮二のほうが忙しいだろうし。」
「今日の放課後。葉山は?」
「いいよ。場所はどこにする?」

家はもちろん駄目である。仁王たちが好むようなファミレスやファストフードも明らかに勉強する環境ではない。図書館も声が出せないし。市民センターや公民館の自習室も同様である。仁奈もまず最初に家が候補に浮かんだが、耐えきれず顔を赤らめて首を降った。蓮二はその様子を不思議そうに見ていたが、何をしているかイマイチわからなかった。

「あ、うちのマンションのフリースペースは?」
「そんなところで、できるか?」
「うん。25階にね、ソファー席とカウンターの席があってたまに自習したり、おしゃべりしてる人たちいるよ。結構。」
「…想像がつかない。」
「パーティーするときに使ってる人もいるかなぁ。」

かの有名なコーヒーのチェーン店のように、窓際にカウンター席が並んでいる。外から景色を眺めながら並んで勉強ができるのだ。丸々ワンフロアにジムやシアタールームが詰まってるので、静か過ぎずうるさくもない。最適な場所だと思った。

「じゃあ、そこで。だが俺が勝手にマンションに入ってもいいのか?」
「私がいれば全然大丈夫!」

仁奈は朝ご飯を抜いてきたことを忘れてテンションが上がりきっている。

「楽しみだな。」

蓮二は呟いたが、仁奈には聞こえなかった。校舎が近づいてきて門を潜る。蓮二は仁奈と並んでいることで妙な視線を注がれているのうな気がした。仁奈は高学年にもその容姿で知られていると聞いたことがある。もし付き合えたらこれが優越感に変わるのか、と不意に思った。悪くないな、と脳裏に浮かんできた。

「私お菓子とかいっぱい用意するね!」
「遊ぶのか?」
「ちゃんと勉強するけど、お腹空いたときのためにね。」

仁奈はいたずらっぽく笑った。


Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.64 )
日時: 2021/10/28 01:48
名前: ぺ (ID: bGiPag13)

25階ともなると眺めが想像できずにいたが、やはり目の当たりにするとほぼ全ての建物を見下ろしている。屋上がそのまま見えるし、建設中のスカイツリーも遠くに見える。今日よりもっと晴れれば、富士山が見えるという。そんな窓側のカウンター席に座っている。

「おまたせ。」

仁奈はジュースとグラス、お菓子を持ってやって来た。仁奈はマキシ丈のワンピースを着ている。白をベースにした小花柄は彼女にとても似合っていると思った。髪は下ろしていて、少し寝間着を意識する格好だったので蓮二はどう反応したらいいのか困った。こういうときは服装や髪型といった、容姿の変化に触れたほうがいいのだろうか。まだ高校2年生だった彼にはわからなかった。

「冷えてたほう、持ってきちゃった。」

そう言いながらテーブルでオレンジジュースを注ぎ始めた。蓮二は仁奈から目線を逸らそうと、鞄を漁って自分の勉強道具を取り出した。

「乾杯しよ。」
「何に?」
「うーん、勉強会の始まりに?かな。」

そう言って隣に座り蓮二がもったグラスに、自分のグラスを近づけてくる。蓮二は特に抵抗する予定もなく、自分と仁奈のグラスが当たるのを見ていた。

「私ね、両親理系なのに数学も物理も全然だめなの。」
「俺は家族の中で唯一理系だが。」

蓮二は法学部に進学するのに高校2年の時点で理系クラスにいる。こうなると最難関の国立大学では法学を学ぶことができない。しかし彼はそれをやってのけようと言うのだ。

「真逆だ。」
「じゃあ英語は葉山が教えてくれ。」
「うん。あとね、フランス語も教えられるよ。」
「凡庸性のある言語を2つも話せるということは、意外だ。」

蓮二はそこそこ感心している。そんな仁奈がわからないというのは関数の単元だった。立海の普通科は自称進学校にしては勉強を頑張っているため、結構授業の進みが速かった。蓮二は問題を見て、あぁこれか。と一度で大体見当がついた。赤子の手を捻るようなものだったが、仁奈のためには一つ一つ噛みくだいて話していく必要がある。

「なんで+p進むって意味わからないや…数書いてよー。」
「pも数と考えればいい。中学生みたいなことを言ってたら進まないぞ。」
「バカにしてる?」

そう言いながらも進んでいく。仁奈は教えられたことは一回ですぐ熟してしまうので、本当はわかっているんじゃないかと勘ぐってしまう。それで本当に蓮二の考えが当たっていれば、仁奈は相当なやり口で蓮二を自宅に連れ込んでいることになる。そんなことをされたら仁奈への可憐なイメージと、純粋無垢な振る舞いが偽りのものとなる。何てあざといことを仕出かすのか。と勝手に一本取られた気になっていた。

「こうであってる?」
「そうだな。」

一文字の狂いのない解答。式とその言葉まで、蓮二が一回説明したままである。赤也はどうだっただろう。一文字書くだけで携帯を開くわ、ゲームを始めるわ、とにかく油を売ることしかできなかったのに。生まれ持った家柄と容姿、気品で勉学など必要としない女子が、ここまで解けることなどありえるのか。蓮二はいつもの考察と分析に耽っている。集中できていないのは彼の方である。

「あとはもう、ここだけ!」
「ここは少し難易度が上がるが、葉山ならすぐ解けるだろう。」
「そうかな?私、本当に数学だめなの。」

仁奈が蓮二に、泣きつくような目を潤めた顔をした。蓮二はより自然に目線を逸し、シャープペンシルをノートに走らせて説明を始めた。その様子を少し身を寄せて、よく見ている。

「これ、最小値求まる?」
「解けるんじゃないのか?自力で。」

思わずそんな言葉を口走ってしまった。完全に会話が噛み合わなかった。仁奈は、やってみるね。と言いながら一人で考え始めた。

「少し休憩がほしい。」

蓮二は心の中で頭を抱えていた。部員に数学を教えているときは、理解度が低すぎてこうなるとぎがある。しかし今回は今までにないケースである。

「蓮二、どうしたの?」
「いや、なんでもない。」

心配そうに見られると、自分が情けなくて仕方がなかった。

Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.65 )
日時: 2021/10/31 01:28
名前: ぺ (ID: fGppk.V/)

蓮二はソファーに深く腰をかけて縁に肘を乗せている。それも中々様になっていて、仁奈の目線は釘付けになっている。彼は退屈しているんじゃないかと思う。だからソファーに移動して、気を紛らわせているのではないか。仁奈は申し訳ない気持ちになって、蓮二の横に座って謝ろうとした。

「ごめんね、疲れたよね。」
「時給が発生してもいいくらいだな。」

自分が仁奈の何か思惑に嵌っていたら、と考えるとそれに抗いたい。蓮二は何か取ってつけたように、仁奈の謝罪を少しきつく跳ね返した。それでも本気で申し訳なさそうにしている仁奈を見たら、すぐに罪悪感が沸いてきた。泣かせてしまったらどうしよう。蓮二は挽回しようとして口を開いた。

「わかった。お礼させて。」

お金を直接渡すのはちょっとアレだから…といいながら、その場を離れてどこかに行こうとした。

「部屋に戻るのか?」
「パパが昨日旅館の招待券くれたから、それ取ってくる。蓮二にあげるよ。」
「いや、真に受けなくていい。」

流石に学校帰りに高級旅館の招待券を手にして帰ってきたら、母親は放っておかないに決まっている。それが面倒なのですぐに断った。

「ほんとに?」

蓮二は軽く頷いた。もう時計は19時半を回っている。学校から葉山邸までが長いので、1時間も勉強をすればこの時間である。夕食の時間とわかった途端、腹の減り具合が急にひどくなった。それを紛らわせようと、チョコレートに手を伸ばしたが甘いものの気分ではない。

「お腹空いたね。」

仁奈が座り直して、蓮二に笑いかけた。どうしよう。うちで食べる?って聞いたら家に誘うことになっちゃうよね。男を付き合う前から家に誘い込むような女って思われたらどうしよう。でもお腹空いてるのに、このまま長時間電車に乗って帰るのも辛いだろうし。

「葉山は今日は何を食べるか決まっているのか?」
「今日はそうめんと棒棒鶏かなぁ。」
「夏らしくて、美味そうだな。」
「家政婦さんがね、作ってくれるの。プロが作るからお店の味がする。」
「それは羨ましい。」
「蓮二も食べてみる?」
「…いいのか?」
「あ、」

仁奈は自分で禁忌にしたことを速攻口にしてしまった。蓮二もなんだか悩ましげな様子である。

「親がいたら、勘違いされるだろう。」
「パパ、夜9時過ぎないと帰ってこないの。ママはいないし…。」
「そうか。」

逆にそれを知って上がり込むのも下心があるようで引ける。蓮二も男子なので下心がないことはないのだが、何せ相手が仁奈なのだ。今の距離感をぶち壊したら、一生後悔することになる。さらに仁奈は自分に母親がいないということを、ぽろっと溢した。

「だから週の半分くらい幼馴染の家でご飯食べてる。その子のお母さんが、代わりに良くしてくれてるんだ。」

幼馴染は恐らく、あの氷帝学園のメガネだろう。高校生のくせにやたら顔つきが仕上がっている野郎だ。そう思ったら蓮二は焦燥感に駆られてきた。野郎も男なのだ。仁奈のことを好いていて、それを本人が受け入れたらどうだろう。ここまで来て俺は終わるのか。

「じゃあ今日は、俺が一緒に夕食を取る。」
「え?」
「嫌か。」

断れる前に、宣言してしまった蓮二は自分の発言を恥じた。

「嫌じゃないよ。」

仁奈がそう返してくれたので、ほっと胸を撫で下ろした。仁奈の自宅に案内されると、たしかに人が暮らしている部屋の割にはきれいすぎると思った。雑誌や植物はあるものの、きっちり定位置に片付けられているし、コンポの隣あるクラシック音楽のCDもただのインテリアである。楽にしてて、と仁奈は蓮二を大きなL字型のソファーに座らせた。クリップで長髪をまとめた仁奈は、キッチンでせかせかと夕食の用意をしている。その様子を見ているだけで、ここに来た甲斐があったと思う。

「できた!って言っても私は盛り付けただけなんだけどね。」
「ありがとう。」

蓮二は仁奈に礼を言って、ダイニングテーブルに腰掛けた。二人で手を合わすと、仁奈はそうめんをすすり始めた。美味しい、と満足そうである。蓮二は棒棒鶏に箸を伸ばす。毎日こんな美味いものを食べていたら、舌が肥えすぎてしまうのではないかと思う。それでも箸が止まらず、男子高校生の食べっぷりを仁奈に見せつけている。

「なんか蓮二の食べてる姿見てると元気でる。」
「褒めてるのか。」
「うん。食欲あるのはいいことだもん。」

蓮二は腹八分目で収めて、夜はお腹が空いたら家で夜食にすることにした。そうめんもいつもの倍美味しく感じて、あったはずの2人前はすっかりなくなっている。仁奈は一人で1人前と棒棒鶏を少し摘んだ。それだけで足りるのか不思議だった。

「ごちそうさま。」

二人は食事を終えた。すぐに仁奈は食器をシンクで水に濡らし、食洗機の中に入れた。蓮二も同じように、食器をキッチンに持っていった。蓮二はいつも食事を終えると、母親が食器を下げにすぐやってくる。

「ありがとう。」

仁奈は家政婦がいるものの、最低限のことは自分でやっているんだなと感心すると家での自分を情けなく思った。生まれてこの方、お手伝いというものをほとんどしたことがないのだ。

「葉山はえらいな。」
「そんなことないよ。蓮二はお家でお母さんのお手伝いしてる?」
「全くしない。だが今日の葉山見たら、せざるを得ない。」

仁奈はデザートにゼリーを持ってきた。二人でソファーに並んで座っている。テレビをつけると、ドラマがやっていた。ラブストーリーでまさかの主人公に片思いをする男性が、主人公にいきなりキスをしたのだ。主人公が時が止まったように目を見開いて驚いている。それと共に感動的なバラードが流れてきて、ここはかなり急展開な場面であろう。

「この二人、付き合ってるのかなぁ。」
「男の方が一方的なだけじゃないのか?」
「たしかに。キスされても女の子喜んでないし。」

初めてだったのに!主人公は男を突き飛ばし、その場から泣いて走り去って行った。男性は追いかける様子もなく、ただ呆然と立ち尽くしている。

「…なんだこのドラマは。」
「女の子がファーストキス奪われちゃったんだよ。それでショックで泣いちゃったのかも。」

そんなことあるわけ無いだろう。と蓮二は終始怪訝な顔で恋愛ドラマを見ている。気持ちわかるなぁ、と仁奈は思いつつもそれを吐露できるわけない。侑士とはあれから連絡も取っていないし、マンションで顔を合わせることもない。侑士の母親から今日食事の誘いが合ったが、蓮二といたので次回にしてもらった。侑士とのことは気にしていないというか、もう時は戻らないので好きな人とのキスをファーストキスとすることにした。そう考えると、仁奈はたまらず蓮二に視線を向けた。横顔がきれいである。よく見ると唇も艶っぽいし、顎のラインも全女子が憧れるくらいにすっきりしている。

「どうした?」
「う、ううん。なんでもないよ。」
「そうか。葉山は、恋人はいたことあるのか?」
「え、えっと…。」
「言いにくいなら、言わなくてもいい。」

急な質問である。なんだかドラマはよくわからない方向へ進み、主人公は別の男性と手を繋ぎ仲睦まじく歩いている。それを見て思ったのか、蓮二は仁奈質問をした。

「実は、まだなくて…。これ言うとみんなに馬鹿にされるから言いたくないの。」
「馬鹿にされるとは。」
「高校生にもなって、恋愛したことないのがありえないってよく言われるんだ。」
「別に遅いとも思わないが、周りが早いんじゃないのか?」
「どうなんだろう…蓮二は?」
「ある。」

ある、その一言が仁奈に今日一番のダメージを与えている。急にゼリーのオレンジの味がしなくなった。恋愛経験ないことを肯定してくれたのに、自分はばっちりあるなんて。

「…そうなんだ。蓮二モテるよね。」
「そんなことはない。人並みだ。」

麻里がこないだ言っていた。「人並み、普通」これらを恋愛話で使う男は大概モテていると。

「蓮二みたいにしっかりしてて大人っぽい人って、高校生で中々いないもん。みんなかっこいいって思うはずだよ。」

上手く笑えてるかな。

「葉山こそ、引く手数多だろう。よくテニス部でも葉山の話をしている部員がいる。」
「あー、赤也でしょ?赤也と女友だちと三人でいると、よく兄弟みたいって言われるの。携帯のフォルダもね、三人で遊んでる写真ばっか。」

仁奈が携帯を開いて、赤也がカラオケで大熱唱している動画を見せた。モンスターと共に冒険をするゲーム、アニメの主題歌を歌っている。カラオケのトップバッターいつも彼らしい。蓮二はあほなことをしていると思いながらも、微笑ましさを感じた。

「赤也は意外と達観してるし、素直で良い子だよ。」
「5歳児にしては、な。」

二人は笑っている。葉山と一緒に遊んでいるのに、赤也はどうして異性として意識することがないのか。蓮二はそれをずっと考えている。思春期は女子から微笑まれただけで、その人が好きになってしまうお年頃である。

「赤也のこと可愛がってるんだ。案外世話好きなの?」
「どうだろうな。でも甲斐甲斐しくなってしまうところはあるかもしれない。あいつはもう顧問から次期部長と言われているからな。色々教えなければ。」

赤也が羨ましい。明日、赤也に会ったらパンチしちゃおう。仁奈は心に誓った。

「蓮二も大変だね。それで恋愛もしてるなんて、要領いいんだ。」
「今はそんなことない。」

今は彼女がいないってこと?仁奈は少し先程のショックが和らいだ。よかった。よかった。心なしか足先がぱたぱたと浮ついている。

「葉山も氷帝学園の野郎と中々親密そうにしていたんじゃないか?」
「みんな言うけど、侑士はただの幼馴染だよ。侑士は女の子途切れないし、私のこと妹だと思ってる。私も家族みたいな感じだから。」
「そうか。それは意外だな。てっきり…」

テレビにはベッドに横たわる男女がいる。主人公は先程の男性とはまた別の、3人目の男と熱い抱擁を交わしている。

「このような仲だと思っていた。」
「ち、ちがうよ!何言ってるの!」

仁奈は蓮二の肩を軽く叩いた。蓮二はふざけて笑っている。

「そんなこと、軽々しくしないもん。蓮二と違って。」
「俺がそんな奴に見えるか。」
「うーん、どうだろう。」

そんなことないよ。と言いたかったが、わざとふざけてみせた。精一杯平静を装うために。

「さっきから浮かない表情をしているな、葉山は。」
「してないよ。」
「嘘つくな。」

蓮二が自分に向き直って、目をまっすぐ見てくる。あぁ、たかが元カノの話なのになんでこんなに苦しいんだろう。そんなことを思っても、やっぱり蓮二はかっこいい。こんな人、いつだって近くにいたら好きにならない人のほうがおかしいよ。

「蓮二に付き合ってた子がいたってだけで、私すごいもやもやして悲しい…蓮二は、私のことどうとも思ってないかもしれないけど、私はなんていうか、蓮二とメールしてるだけでもドキドキしてる、いつも。」

ああ、何て伝えたらいいんだろう。好きですって素直に言ったらいいのかな。こんな紡いでばかりの言葉で伝わるわけがない。仁奈は自分自身にも肩を落とした。

「俺は、相手が葉山だからメールも電話も欠かさずするし、こうやって勉強会と称して会いに来てるんだ。」

蓮二は恥ずかしそうに頭を掻いた。

「そ、そうなの?」
「気づいていなかったのか。俺は…」

ドサッとソファーの後ろで何かが落ちた音がする。二人はびっくりして後ろを振り向くと、仁奈の父親が立っている。目を見開いて、顔からして目の前の光景を信じられないといった様子だった。

「だ、誰だ?」
「パ、パパ、おかえり。」

蓮二はすっと立ち上がって、

「はじめまして。葉山さんの友人の、柳蓮二です。立海附属高校の2年で、テニス部に所属しています。よろしくお願いします。」
「友だちなのか…?」
「うん。勉強教えてもらってたお礼に、よるご飯をごちそうしたの。」
「柳くんとやらにも勉強を教えてもらってるのか…?」
「蓮二は神奈川でいちばん賢いんだもん。」
「そうか。それは、素晴らしいことだ。」
「ありがとうございます。」

立海の特進クラスでいちばんの成績ならあながち間違いではない。蓮二は否定しなかった。

「もう遅いので、失礼します。お邪魔していて、申し訳ありませんでした。では。」

蓮二はさっそうと鞄を持って、仁奈の父親に挨拶をすると、玄関を出ていってしまった。父親はまだ事態が把握できていない。娘が自分の知らない男を連れてこんでいたのだ。

「あの男の子は?どういう関係なんだ?」
「友だちだよ!」
「本当か?侑士くんがいいんじゃないのか、仁奈は。」
「侑士は違うよ!」
「仁奈。」

父親が珍しく真剣な表情になったので、仁奈はどうしたものかと思った。

「家族の時間が取れなくて、苦しい思いも寂しい思いもさせて、仁奈には申し訳ないと思ってる。だけど知らない男の子でそれが満たされるわけではないよ。家に連れ込むようなことは止めなさい。」
「…どういうこと?言ってる意味がわからないよ。」
「とにかく派手に異性と遊ぶのは慎みなさい。」
「派手って、私、何もしてない。私は、別に寂しいから異性に縋ってるわけじゃない。」
「それは申し訳ない。パパが謝る。」
「だから、そんなことないって言ってるじゃん。大体、私のことをそんな風に思う原因を作ったのはパパとママでしょ!私は、それでもちゃんと生きてる。学校も行ってる。蓮二みたいな真面目な友だちもいる。そんなに私のこと信用してないの?」

仁奈が珍しく声を荒げたので、父親は呆気にとられている。

「もういい。どうせママと同じだと思ってるんでしょ。こんな家にしたのは、二人きりになったのは私のせいじゃない。ずっと一人でいるから、もう帰ってこないで。」

仁奈は息を荒くして、泣きながら階段を駆け上がり、自室にこもった。

Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.66 )
日時: 2021/11/04 00:40
名前: ぺ (ID: 8GPKKkoN)

仁奈が登校しなくなって3日が経つ。どうしたんだろうね、大丈夫かな、クラスメイトたちはそう言っている。麻里と赤也にも、仁奈からの返信は来ない。旧友の沙由香と未央も彼女と連絡が取れていない。もちろん蓮二の電話にも、出る気配はない。仁奈は玄関のインターホンが鳴った気がして、部屋から顔を出した。平日の昼間で家には誰もいない。今度はしっかりとインターホンの音が鳴ったので、誰かをモニターで確認する。侑士の母親である。仁奈は慌ててドアを開けた。

「仁奈ちゃん。チーズケーキもろてん、おすそわけ。」

相変わらず侑士のお母さんは明るい。

「あ、ありがとう。」
「ええ加減、ゆっくり休みや。こんなに泣き腫らして、ほんまにかわいそうやわ。」

頬を撫でられると、仁奈はまた耐えきれずに泣いてしまった。何か糸が切れたように、涙が止まらない。侑士の母親は、仁奈を抱きしめて優しく背中をさすった。

「お昼オムライス作るねんけど、食べる?」

仁奈は小さい子どものように、首をこくこくと縦に振った。侑士の家に行き、オムライスをかき込んだ。3日間、ほとんど食事が喉を通らなかった。ずっと何か喉につっかえた感じがあり、唾すらうまく飲み込めなかった。それが、侑士の母親に会えたことで少しは良くなった。食後、仁奈の母親が台所で夕飯の支度をしている間、仁奈はいつの間にかソファーで寝てしまった。

「え、なんでおるん?」

通院から帰ってきた侑士は、ソファーで横たわる仁奈を見て固まっている。もうかれこれ3時間も寝ている。時間は16時を回っている。

「今、仁奈ちゃん充電中やわ。起こさんといてな。」
「どういうこと?」
「ちょっと電池が切れたんかな。しばらく休んでなあかんわ、この子は。」

起きたら家に送ってあげてや、と残し買い物に侑士の母親は出かけた。侑士が帰ってくるまで、母親は食品の買い出しに行くのを待っていたらしい。俺も行く、と言いかけたが、荷物持ちにもならんわと人蹴りされてしまった。

「はぁ、」

侑士は気まずさを回避するために自室に避難した。気まずいと思いつつ、その原因を作ったのは自分である。仁奈にとって電池切れという言葉は、ただ機械のバッテリーがなくなったという意味ではない。それくらいわかっている。しばらくして廊下をぱたぱたと歩く音がした。

「起きたんか。」

ドアを開けてひょっこり出てきた侑士に、仁奈はびっくりして肩を震わせた。

「そんなビビらんといて。」
「ご、ごめん。お家誰もいないから、誰か探そうと思って…。」
「オカン買い物言ったで。部屋戻るんやったら送るわ。」
「うん。ありがとう。」

自室に鍵を取りに行く侑士の膝には白い何かが巻かれている。そして短い距離でも引きずる足は、明らかに何か隠しているようだった。

「侑士、足どうしたの?」
「ケガした。」
「え、いつ?」
「決勝の日。」

仁奈に好意を初めて表したあの日である。その次の日に半月板損傷と合併症の骨の変形症になったのだ。

「知らなかった…いつ治るの?」
「半年後。」
「半年って。それまでどうするの?」

そこまで悲しそうな顔をされては、こちらもどうしたら良いかわからない。自分が弱っているときにまで、自分を気遣ってくれる仁奈は健気すぎる。これじゃあ心もやられるだろうな、と侑士は気の毒になった。

「リハビリや。自分は大丈夫なん?」
「私は、ちょっとパパと喧嘩しちゃって…。」
「反抗期か。」
「初めてパパにひどいこと言ったかも。」
「何か言われたん?」
「あのね…、」

仁奈は躊躇った。蓮二と部屋にいて、それを見られて怒られるなんて。怒られたと言っても、内容が内容である。仁奈は父親に男性依存と勘違いされている。家庭環境が悪くなり、そのせいで生活が荒れていると思われているのだ。

「やっぱ何でもない。」
「なんや、13年の中やんけ。」
「そうだよね。実は…。」

侑士の部屋で、仁奈はゆっくりと口を開いた。侑士にとっては怪談話より聞くに耐えなかった。ただ仁奈はいちばんに父親に辛い姿を見せないようにしていたのに、父親の言葉によってその努力が水の泡になってしまった。泣かないように心配をかけないようにしていたのに、そんな風に思われるんだ。と仁奈は言っている。

「もう、パパとも一緒にいたくないな…。」
「おらんかったらええよ。俺ん家とかばあちゃん家におったらええやん。」
「でも侑士の家に行くのも二人でいるのもだめって言われた。」
「なんで?なんもやましいことないやんか。」

自分で言っていて虚しくなった。さらに、仁奈が自宅に招いた男というのは、はやり立海の柳だった。侑士は、蓮二の己の賢さを全面に出した感じが気に入らない。中等部に転校してから何度か対戦しているが、いつでもすました顔だし、試合会場に英単語帳を持ってくるような奴である。それでも偏差値は俺のほうが上なはずや。悶々とした思いは吐き出すことなく、仁奈の話に耳を傾けている。

「侑士はさ、私が遊んでるように見える?」
「見えへんよ。鳳も男ちゃうやろ、乙女やで。」
「ママと私のこと、重ねてるのかな。」
「仁奈と自分のオカンは別人やで。」
「…うん。でも私もその血が入ってるんだよ。」
「そうやとしても、仁奈はそういうことする奴とちゃうで。」

自分がますます嫌になってきた。一段と暗くなっていく。もう誰かと一緒にいるだけで、自分がどんどん何か不幸になっていくような感覚である。どうせ一緒になっても、最後は離れるんだ。そう思ったら、友だちも彼氏もいらない。

「俺も絶望する気持ちはわからんくはないけど、良くなるときまでゆっくり待たなあかんと思うわ。今は辛いけど。」
「…侑士は半年したらよくなる。でも私は半年経っても前のパパもママも仁奈も戻ってこない。」

今の父親も母親も仁奈は大嫌いである。だが、以前の家族としての2人のことは嫌いになれないのだ。楽しかった、幸せだった。悔しいけど、仁奈とっていちばんの場所は家族である。

「せやから今を受け入れられるときまで待たなあかんねん。」
「やだ…。できない。」

鼻水と涙でぐじゅぐじゅの彼女に箱ティッシュを渡した。あっという間に机に丸まったティッシュが溜まる。たまらずゴミ箱に捨てていくが、今度はゴミ箱が満タンになってしまった。仁奈は泣きすぎて少し過呼吸気味になっている。侑士が軽く背中を擦っても収まる気配がない。

「深呼吸しいや。全部息は吐くんやで。」

息にならない息を、全身を使って吐き出す。その姿が痛々しくて、侑士はベッドから降りて仁奈を自分の胸の中に寄せた。

「ほんまに辛いな。」

暫く経ってから落ち着きを取り戻し、涙もいくらか引っ込んだ。侑士はリビングからコップ1杯水を持ってくると、仁奈に飲ませた。

「泣いたあとは乾くから、しっかり水分取りや。」
「…侑士。ありがと。」

泣き腫らした目が小さな子どものようで、思わず微笑んでしまった。仁奈の頭をわしゃわしゃとなでると、不思議そうに侑士に視線が注がれる。

Re: ハニカム(テニプリ夢) ( No.67 )
日時: 2021/11/06 00:49
名前: ぺ (ID: eK41k92p)

「えー!ちょっと!あんたのパパひどすぎ!」

久しぶりに他人と喋ったのでその勢いで麻里に電話をした。一連のことをすべて話す。麻里は予想通りのリアクションだった。

「たしかに部屋に連れ込んだのはパパにとっちゃショックだったかもしれないけど、自分の娘によくそんなひどいこと言えるね!」

仁奈よりキレている。仁奈にとっては心強い存在で、彼女がいれば学校に戻ってもなんとか過ごせそうと思った。あ、そうだ。と麻里は続けて、

「今日ね、文化祭の準備で1回の廃材置き場に行ったら、柳先輩と女が一緒だったの!どういうこと?」
「え、知らない…。」

蓮二は女子とメールアドレスの交換すら嫌がる男である。そんな彼が女子と着やすく話をするだろうか。

「でも文化祭だから一緒に作業はするんじゃない?」
「違うわよ、女ならわかるわ。あの空気感。」

ああ。と言いながら何となく察した。カップルや親しい男女特有のあの二人だけの雰囲気。それを彼が醸し出すことはあるのか?考えるだけで鳩尾のあたりから、全身に冷や汗が広がる。嫌だ。

「とにかくさ、学校に来れるようになったら確認しよ。あと、あんたミスコン出ることになったからクラス代表。」
「ええ、やだよ。絶対むり。」
「何言ってんの。ミスコンなんかホントにかわいい女の子なんか出ないんだから、出来レースで仁奈の勝ち!はい、マンモス校の頂点!」


やはり麻里と離しているとエネルギーがもらえる。自然と笑い声が出てきた。


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