複雑・ファジー小説
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- 妖異伝
- 日時: 2011/12/29 17:35
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: PBJobJTc)
始めまして玲と言います!よろしくね(殴
今回初めて挑戦する妖怪系の小説なので、
そこは、皆様ご了知してください。
また描写が苦手なんで(ここ、テストに出まーす笑
え?題名の読み方が読めない(殴
すいません……
読み名は『妖異伝』
と読んでください、
お願いします!
というわけで注意事項をお読みください!
01/ 作者が中2なので更新が亀さん並
02/ シリアス、ダーク、グロ、死、猟奇的な描写が出ます、ご注意を
03/ 荒らしや宣伝、喧嘩はおやめください
04/ 小説の宣伝は軽ければok。だけど見に行くのは遅いですよ^^;
05/ 短編集で色んな時代、人間が沢山出てきますよ
それでは、妖怪たちの視線で見た『人間』をどうぞ、お楽しみに…。
○ 秋原かざや様の素敵な宣伝をご覧ください。
————————————————————————
「もうすぐ……逢えるよね、おばあちゃん」
半妖の子、ジュンが出会ったのは、体が不自由な少女であった。
泣きながら松林に消える女。
あぐらをかく晒しを巻いた着物の男。
彼らが辿る運命は……。
「今までありがとう。本当にありがとう。また逢えると良いね、きっときっと、逢えるよね?」
「………うん」
「もしも、逢えるのならば、また逢えると良いなあ」
少女は僅かに微笑んで。
「あた……し、いつか、いつか。………ジュンくんと、また巡り逢えると、良いね?」
零れゆく雫は、少女のものかそれとも。
揺らめく蝋燭の上で、彼女の気持ちを聞いた……気がした。
「…………母さん、父さん」
この世にいない両親を想い、夜空を見上げるジュンの視線の先に、何が見えるのか。
半妖の子ジュンの瞳を通して、紡がれるは悲しき物語。
伸ばした手の中に、暖かい光が得られるのは、いつの日か……。
【妖異伝】
現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!
————哀れなる人らに、等しき罰を。
————————————————————————
*
#00 妖紹介伝>>01
#00 第一章>>02 #06 欲望>>12
#01 松林の少女>>05 #07 醜態>>13
#02 雨宿り>>07 #08 後悔先に立たず>>14
#03 村の風景>>09 #09 断罪>>15
#04 慕情>>10 #10 余罪>>16
#05 別れ>>11
#00 第二章>>17
#01 風の晩>>20
#02 悪夢>>23
#03 覚めた夢>>24
#04 忘れた記憶>>25
#05 真実>>30
#06 曙光の空>>31
#00 第三章>>34 #06 始終>>44
#01 奇怪な縁>>37 #07 虐殺の発端>>45
#02 無力>>38 #00 丑三つ時の女>>46
#03 敗北>>39
#04 仕事>>42
#05 共存>>43
#00 第四章>>47
#01 鈴蘭畑>>52
#02 出会い>>53
#03 変わらない事実>>54
#04 高慢>>57
#00 第五章>>58 #06 食料不足>>68
#01 暗い終戦>>59 #07 嵐の晩の再会>>69
#02 一時の雨宿り>>60 #08 黒く染まる>>70
#03 狐二人と珍道中>>61 #09 お泊まり>>73
#04 今宵の談話>>64 #10 冷たい眠り>>79
#05 親無し子>>65 #11 真夜中の登山>>80
#12 殺意>>86 #16 壊れた玩具>>90
#13 孤独>>87 #17 忘れた過ち>>91
#14 墓場>>88 #18 死をもっての償い>>92
#15 いつもの日常>>89
#00 第六章>>93 #06 戯れ>>103
#01 さあ、お逝き>>98 #07 看板娘>>105
#02 初めての地獄>>99 #08 自暴自棄と殺意>>106
#03 再会>>100 #09 妖の怒りと炎上する神社>>107
#04 嘘つき>>101
#05 天敵>>102
- Re: 妖異伝 ( No.8 )
- 日時: 2011/06/05 21:13
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: mM51WarG)
*リコリスさま
嗚呼!山男は山姥とは違い
優しい性格が多いですよね。
静岡も妖怪が沢山いるんですか!
羨ましい限りです(笑
- Re: 妖異伝 ( No.9 )
- 日時: 2011/07/18 10:31
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: yLLAlAoY)
#03 ( 村の風景 )
優子はある程度ジュンが作った山菜汁のお陰で気力を取り戻し今は睡眠中。
その間に出て行こうかと思ったが、雨はまだ止みそうにない。
仕方なく村のことと優子のことが気になり始めたので調べようとそっと小屋を後にした。
松林を抜け、優子と出会う前、歩いた浜辺を歩く。
途中で地元の住人と思しき老婆に会った。
老婆は見かけぬ少年に首を傾げる。
不思議そうな表情の老婆にジュンは近づく。
「……おや、見かけない子だねぇ」
多分80代くらいの老婆がジュンに穏やかな口調で言った。
「今。旅行に来てるんです」
見た目とは裏腹に、大人びた口調のジュン。
老婆は内心、しっかりした子だと苦笑いしつつ。
「おやおや、珍しい服装じゃあないか」
今時、小紋柄の着物に袴を着てる子などいなかった。
下駄なら、まだ理解は出来るが、時代錯誤の服装の少年に老婆は違和感を覚えた。
歳の所為で曲がった腰を真っ直ぐに伸ばし、少年のほうを見た。
「田舎に居ましたので。偶然この町に用があってここに来たんです」
「そうかい、この村に旅館といえば、あの山奥の小さなとこだけだからね。知れ渡るのも遅いんだなあ」
老婆が納得したようにうんうん、と頷いた。
「あの……知り合いに宮本優子さんって知りませんか?」
「宮本優子…って宮本さん家の娘さんかえ?」
「はい」
老婆の顔色が変わった。
酷く驚いた様子に酷く違和感を感じる。
「………可哀相に優子ちゃんは生まれつき病弱でしかも身体が不自由という障害を持ってたんだよ。それでも手芸が得意で心優しい子でねぇ、そしてあんなに愛らしかったのに……持病の喘息の所為で死んじまうだなんて。宮本家の人たちは大いに嘆いて今も優子ちゃんの母親の奥様は思い出深いあの松林にフラフラ、と時々行ってるんだとさ」
これで大抵の事情は分かった。
優子は何らかの理由で死亡されたことになっていること。
そして優子の母親が何故あの松林で泣きながら、詫びながら、隠れたように真夜中にしか来なかったこと。
これである程度は分かったが、まだ分からないことはある。
何故その大切な娘を干物しか与えないのか、そして死亡扱いにされているのか。
事情を詳しく話してくれた老婆に礼を告げ、ジュンはその場をあとにした。
○
浜辺を離れ、村の中央あたりに来た。
民家がそれぞれ立ち並び、真ん中にある井戸で井戸端会議をしている主婦にでくわした。
見かけない少年に明らかに彼女等、しいては村人たちが好奇の目を向けてくる。
見かけないうえに時代と場に似合わない格好。
近所の子供たちすら、少年を見て後退りするのだった。
ふうん、と少年は短く発した。
そして村人含む村全体を見回すその目は酷く冷めた眼差し。
見た目とは裏腹の大人びた態度、雰囲気。
村人たちの大人ですら、戸惑う素振りを見せた。
だが、ジュンは態度を変えず、ただ冷め切った眼差しを見せて。
「———— そういう、ことか」
ジュンの言葉に村人の頭に疑問が思い浮かんだろう。
そして気付けば、その不思議な少年は村人たちのまえから消えていた。
村人たちは、いつまでも、首を傾げたのだった。
○
急いでジュンは浜辺を駆けていた。
カラコロ、カラコロ、という下駄特有の音が出ず、ただ砂浜の砂が下駄のなかに入り、サッサという音が出る。
別に帰らなくても良かったのだが、約束でも、義理もないのに。
何故か優子が気になり始めた。
——— サッサ…サッサ……
砂浜の音とともに松林の入り口が見えた。
もうすぐ優子に会える。
駆ける足は更に強く早くなった。あと少しで松林の奥に優子が寝ているだろう。
あるいは突然いなくなった自分に、どうしてと嘆いているだろう。
あともう少し、もうすぐ……。
.
- Re: 妖異伝 ( No.10 )
- 日時: 2011/07/18 10:46
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: ICvI0sBK)
#04 ( 慕情 )
小屋に着いたころ、辺りは日が暮れていた。
初夏近くなので明るいが、夕方の夕日が沈みかけていた。
もうすぐ夜だ。
松林が夕闇に包まれる時間帯。
村を出る途中、何処かの民家で置かれていた大根などの野菜、と袋に包まれてた塩と砂糖。
そして鮮度抜群の鰯を両腕に抱えて障子を開けた。
土間の上がり框に腰掛けていた優子と視線が合った。
「…………何処に、行ってたの? なあに、それ?」
優子の視線はジュンの両腕に抱えられている食料に向けられた。
「……………貰ってきたもの」
「嘘。盗んじゃ、ダメじゃないっ!」
「…………ゴメン」
とりあえず謝るしかなかった。
優子はなにか思いつめた様子だったが、深く溜息を零したあと。
いつになく出会ったころとは違う、真剣な表情を見せた。
そして、泣きそうな顔になる。
次第にポロポロ、涙が溢れて冷たい畳の床に落ちた。
洟をすすりながら、その涙を拭い払い。
優子はようやく自身の身の上話をした。
「あの……ね、あたしね、本当は死んだことになってるのよ……だから、例え事情を話し貰ったとしても、貰えるはずが、ないじゃないっ……。まあ、——— 知るわけ、ないか。………あたし、この家の恥晒しなんだって。…………お父様に言われたの。そして本当はあたし、ここで飢え死にさせられる運命だった………の、だけど。お母様が……あたしのために、……干物を毎日届けに、来るんだあ。一食分だけだけど、それでも……あたしには嬉しいんだよ。本当にありがとう………ゴメンね?」
涙で引きつった笑みを浮かべる優子。
妖怪のジュンは人間の心情は余り理解できないが、それほど酷い父親だったのか。
実の娘に恥晒しと良く平気で言える父親。しかも、飢え死にさせようとする悪辣さ、同情すら微塵も感じない極悪非道な男。
美しき母は娘を守るため、怪しまれないために干物だけしか持ってこれなかったのか。
では何故その母親はともかく父親は娘を恥晒しと言い放ち飢え死にさせる理由は、その真意は何なのか。
さっぱり分からない人間の心情というものだった。
未だかつて経験しなかった出来事に頭のなかで繰り返し繰り返し考えるものの、分からない。
自分は妖怪の母と人間の父の半妖の子で妖怪の母は妖怪のなかでも高い妖力を持つ妖怪だ。
ジュンも、その母の力を受け継がれており、難なく今まで暮らしてこれたが、父が己が生まれた直後、病死したため、その後は母と静かに暮らしたがその母も病死。
その為、ジュンは人間の父さえ生きておれば人間の心情くらいは理解できた、と思っている。
そして人間の父はもはや死んでいる為、ある程度の人間の心情しか分からなかった。
だが———………
「もう良い、寝てなよ。身体に悪いよ」
「そ……うだねっ!」
何故か優子に対し、かつて母が自分に注いだ〝優しさ〟の感情を覚えた。
涙で顔をグチャグチャに歪ませても、その明るい笑みを浮かべながら、布団に静かに眠った。
安らかな寝息を立てて。
その様子を見てかまどの置ける場所に、食材を置いた。
上がり框に腰掛け、一人静かに考え事をしていた。
もう少し詳しく調べる必要があることは明白だった。
人間とは何たるか、もしも、母が生きてたなら、なんと答えただろう。
急に母を恋しくなったジュン。
いくら人間と外見は除けば、圧倒的に歳を取っても、子供のころ、死んだ母が恋しいのだ。
「…………母さん、父さん」
この世に居もしない両親の名をぽつり、と呟いて静寂な空間でその言葉は……消えた。
.
- Re: 妖異伝 ( No.11 )
- 日時: 2011/07/18 10:55
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: ICvI0sBK)
#05 ( 別れ )
久しぶりに体調が快復した優子は、突然『あたしね、外に出たい』と、言い出した。
死んだことになっている優子が外に出れば想像できる。
絶対に大騒ぎになり、優子は最悪父親の手で殺害されかねない。
それでも、と強請る優子。
困惑するジュンを他所に村の思い出をいろいろ、独り言で呟く。
何処か冷めた客観的に見れないジュンは深い溜息を零す。
そうと知らず優子は恍惚な表情を浮かべて思い出話に心身、浸っていた。
長い事、外に出てないのだろう。
脳裏に思いついた案を優子に話した。
「それなら、夜に出よう。そうすれば幽霊に間違われてばれる心配も無い」
「幽霊、ねぇ……」
大変失礼極まりない言葉であったが、優子は外に出られる嬉しさゆえ、大して気にせず喜んだ。
無邪気に笑う顔は母の笑顔を連想させた。
思わぬ過去を思い出したので驚いたジュンは首を横に振った。
「……もう、お泊り三日目だね」
何気なく呟いた優子。それに気付くジュン。
「そうだね。………もうそろそろ、お別れかな」
「………そんな、寂しいよ」
悲しげな眼差しを向け、下を俯いた優子はギュッと掛け布団を握った。
長い間、誰にも話し相手がなく暇潰しといえば母親が時々持ってくる折り紙くらいだけだった。
いろんな種類の折り紙を作っては庭と呼べる、小さな庭の土の下に埋める。
埋める。埋め続けた。理由はもしも、この小屋に父親が来た場合に備えて。
「また、来てくれる?」
「うん」
それは決して守られることもない約束。
「今度はジュンくんのお母さんたちを連れて来なよ———」
こんなに一緒にすごしてるのに一晩も両親のことを話題にするどころか、逆に心配しないのか。
それを全く気にしない、男の子。
名前だけ告げ、身の回りの話はしない不思議な男の子。
謎に満ちた雰囲気の男の子。
冷たいように見えるけど本当は優しい。
そんなジュンに優子はいつの間にか惹かれていた。
だからこそ。
(君とはもう逢うことはないよ、これからも僕の思い出と母親の愛情の干物と共にお大事に)
今晩の内、静かに出て行こう。
そう決心したジュンはいつになく豪勢な山菜料理と民家から頂いた食料を使い料理を作った。
また長く日持ちする料理も作り、優子にひとつひとつ、丁寧に説明する。
何日分に分けて白い布を被せ、食事の時間以外は食べないよう注意した。
そして三時のおやつも作った。
○
夕闇の刻になった。
優子は最後かも知れないジュンとの会話をひとつひとつ、大切に楽しんで小屋に静養されてから初めて外に出た。
松林のくねくねと曲がる松にクスクス、可笑しげに笑う。
ジュンに手をひかれ、浜辺まで二人。
仲良く浜辺に通じる小道を歩いた。
浜辺に着いた途端、優子の歓喜溢れる声が浜辺中に響いた。
「わああっ……! 懐かしいわ……お母様たちと良く遊んできたわ、あの松林でお母様たちと一緒にかくれんぼしていたのよ。そうしたらね、突然の如く迷子になっちゃったんだあ。泣いてるあたしに声に気付いたお父様が……そっと、抱き上げてくれた、のよ」
涙ぐむ声。思い出す優しげな父の姿。
今や遠い過去の小さな思い出だ。
あのころの父は何処へ消え失せた。
もう、あのころの父には、戻らない。
戻ることはない。嗚呼、無情。
もうすぐ、別れの時間になるジュンのほうを振り向いた。
ジュンも優子に視線を合わせる。
「今までありがとう。本当にありがとう。また逢えると良いね、きっときっと、逢えるよね?」
「………うん」
「もしも、逢えるのならば、また逢えると良いなあ」
——— 嗚呼、そうか。と今更ながら気付いた。
とっくに優子は見通していたのだ。
自分がもうすぐ別れることになること。
そしてもう二度と逢うことはないことを。
大体こんな夜遅くしかも出会ったころは真夜中。
そして独りだったのだ。
普通なら妖怪や化け物だとすぐさま勘づき、恐れるのに。
——— 優子は違った。
優子はもう自分が死んだら、助かる立場にいる。
とっくに気付いているのだろう。
夜空を存分に楽しんだあと、ジュンと優子は静かに茅葺小屋に戻った。
小屋のなかに入ることはせず障子をただ……閉めた。
ピシャン。と音を立ててそれきり、中の音は一切しなかった。
三日間世話になった小屋と松林を後にしたジュン。
最後にこの地を離れるまえに父親をどうにかすることだ。
せめて父親にばれないように細工しよう。
ジュンは宮本家をめざし、村の道を進む。
途中で暗い夜道に、人影を見かけた、嗚呼。あれは———優子の母親。
優子の食料である干物を届けにいく途中か。
とっさに木々に身を隠す。
良く見れば隣に男の声が。
そして優子の母親の手には抱えられているはずの干物の入った包みがない。
(ばれた……んだなっ!)
別れを告げたはずなのに。
身体が、足が勝手に動いていた。
二人の後を追いあの浜辺、あの松林を潜り抜け入った場所は。
あの子がいる茅葺小屋。
ドクンッと心臓が嫌な感じに高鳴った。
小屋に近づき、あの親子の会話に。
そっと気付かれないよう、耳を傾ける————。
.
- Re: 妖異伝 ( No.12 )
- 日時: 2011/07/18 11:01
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: ICvI0sBK)
#06 ( 欲望 )
「そんなに俺に言う事が聞けないのか? 優子にそれに、母さんもだ」
ジロリと睨みを利かせた言葉を発し二人を睨んだ。
母親は着物の裾を握り締め、ガタガタ震えていた。
優子は別れた時とは違う、生気が全く感じられない、ボンヤリ、とした目だった。顔も呆然としている。
裸胸に晒を一枚巻き、着物を羽織り、少々時代錯誤なこしらえかた。
威厳と貫禄漂わせる風貌な大柄の男。
あぐらをかいて、いかにも偉そうな男だった。
「優子、姉さんは明後日、結納する」
不機嫌のなかに結納という言葉だけ、どこか上機嫌のように聞こえた。
優子の父親は腕を着物の袖にいれ組んだ。
そしてキリリと目を吊り上げる。——— 恐ろしい大の男の雰囲気。
「お前の所為で姉さんはあいつら……町の町長の出来損ない息子に嫁がせるため、血反吐を吐く思いで姉さんに、しいて言えば、この村のために厳しい稽古や嫁入り修行やら、いろんな教育を受けさせてきたんだっ! なのに。障害児であるお前を見て出来損ない親子どもが婚約を破棄すると聞いた時にはどんなに危なかったか、たださえ、この村は漁でしか生計を立てられん。町と手を結べば、万が一のとき、生存できる。だから、お前さえ死ねば……死んだことにしたら、すぐあの出来損ない共は復縁を持ちかけてきた。なのに………!」
優子の母親を睨んだ。
ひっ、と母親は声にならない叫び声を上げた。
父親はすぐ優子のほうに顔を向けてその両腕を優子の両肩につかむ。
ギリギリ…と強くつかんだため、優子の肩が痛んだ。
痛がる優子を他所にその男は、叫んだ。
「………頼むから死んでくれっ!!」
両腕をひ弱な少女の身体から離した男は荒い息を鼻から吐き出す。
実の父親に言われた決して言われて欲しくなかった言葉に、優子の澄んだ黒目はみるみる、涙が溜まった。
母親も何も出来ず、ただその場にいる己が憎たらしくそして優子が哀れ救えぬことに、涙を頬に零す。
その様子を見る障子のすぐ傍に盗み聞きするジュンは顔色が変わることはなかった。
………ただ、明らかに冷然な眼差しがそこに、あった。
父親は小屋の出口である土間のほうにその欲にまみれた目を向けた。
僅かな煮炊きの跡。
そしてジュンが作った日持ちする食料や、おやつ。
父親は更に障子の僅かにずれたとこにも目を向ける。
「そこに居るんだろ、優子の世話をした奴め」
父親の言葉に、ゴトンと障子を開ける音がする。
なかに入ってきたジュンに父親と母親は言葉を失った。
藍色の小紋柄の着物、黒色の袴に、漆黒の下駄。
左目は美しい黒髪に隠され白い紐が丁重に髪を束ねてた。
そして最大の魅力は紅色の右目。
肌は色白く雪が劣るくらいの白さ。
その眼差しは——— 酷く冷えていた。
「ああ、——— そうだ」
その声は何の温もりもなくただ冷えた感情のない声だった。
「————ジュン、くん………逃げてっ!」
よろめきながら立ち上がった優子に父親はあろうことか——蹴飛ばす。
冷たいボロボロになった畳に叩きつけられた優子に脇にいた母親は、悲痛な声をあげ、傍に寄るものの……父親のひと睨みに母親は娘に『ゴメンね』と涙ぐむ声で男の脇に戻った。
娘はただ、ひたすらにジュンのほうに顔を、視線を向ける。
大柄な男を見ても屈することがないジュンに男は『大した坊主だな』と鼻で笑った。
———が、内心は感心した。
ジュンは顔色ひとつ変えず、優子のまえでは見せなかった、冷然な雰囲気と声を男に見せた。
———— 馬鹿な人間だ、とジュンは鼻で笑う。
そんな素振りを見せたジュンに父親は心底から苛立っていた。
一族の名誉と繁栄を約束された婚約なのに。
あろうことか、娘は障害児のため、破棄されかかり、ようやく闇に葬った……はずなのに生きており。
しかも、母親と、何処ぞの素性の知らぬ馬の骨が、世話していたとは。
自身の自尊心が怒りの炎を燃え上がらせる。
太く荒々しく鼻から息を吐いた。
まるで雌馬に発情して興奮する雄馬だな、と皮肉くたっぷりに、ジュンは嘲笑う。
挑発行為をくりかえすジュンに目を狐のように、あるいは鬼の如く吊り上げる男———。
「き………貴様ああああっ!! ワシを舐めてるのか!? えぇ! なにか、答えろ———ッ!」
遂に我慢しきれなくなった男の怒鳴り声が小屋中に響き渡った。
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