複雑・ファジー小説
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- 妖異伝
- 日時: 2011/12/29 17:35
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: PBJobJTc)
始めまして玲と言います!よろしくね(殴
今回初めて挑戦する妖怪系の小説なので、
そこは、皆様ご了知してください。
また描写が苦手なんで(ここ、テストに出まーす笑
え?題名の読み方が読めない(殴
すいません……
読み名は『妖異伝』
と読んでください、
お願いします!
というわけで注意事項をお読みください!
01/ 作者が中2なので更新が亀さん並
02/ シリアス、ダーク、グロ、死、猟奇的な描写が出ます、ご注意を
03/ 荒らしや宣伝、喧嘩はおやめください
04/ 小説の宣伝は軽ければok。だけど見に行くのは遅いですよ^^;
05/ 短編集で色んな時代、人間が沢山出てきますよ
それでは、妖怪たちの視線で見た『人間』をどうぞ、お楽しみに…。
○ 秋原かざや様の素敵な宣伝をご覧ください。
————————————————————————
「もうすぐ……逢えるよね、おばあちゃん」
半妖の子、ジュンが出会ったのは、体が不自由な少女であった。
泣きながら松林に消える女。
あぐらをかく晒しを巻いた着物の男。
彼らが辿る運命は……。
「今までありがとう。本当にありがとう。また逢えると良いね、きっときっと、逢えるよね?」
「………うん」
「もしも、逢えるのならば、また逢えると良いなあ」
少女は僅かに微笑んで。
「あた……し、いつか、いつか。………ジュンくんと、また巡り逢えると、良いね?」
零れゆく雫は、少女のものかそれとも。
揺らめく蝋燭の上で、彼女の気持ちを聞いた……気がした。
「…………母さん、父さん」
この世にいない両親を想い、夜空を見上げるジュンの視線の先に、何が見えるのか。
半妖の子ジュンの瞳を通して、紡がれるは悲しき物語。
伸ばした手の中に、暖かい光が得られるのは、いつの日か……。
【妖異伝】
現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!
————哀れなる人らに、等しき罰を。
————————————————————————
*
#00 妖紹介伝>>01
#00 第一章>>02 #06 欲望>>12
#01 松林の少女>>05 #07 醜態>>13
#02 雨宿り>>07 #08 後悔先に立たず>>14
#03 村の風景>>09 #09 断罪>>15
#04 慕情>>10 #10 余罪>>16
#05 別れ>>11
#00 第二章>>17
#01 風の晩>>20
#02 悪夢>>23
#03 覚めた夢>>24
#04 忘れた記憶>>25
#05 真実>>30
#06 曙光の空>>31
#00 第三章>>34 #06 始終>>44
#01 奇怪な縁>>37 #07 虐殺の発端>>45
#02 無力>>38 #00 丑三つ時の女>>46
#03 敗北>>39
#04 仕事>>42
#05 共存>>43
#00 第四章>>47
#01 鈴蘭畑>>52
#02 出会い>>53
#03 変わらない事実>>54
#04 高慢>>57
#00 第五章>>58 #06 食料不足>>68
#01 暗い終戦>>59 #07 嵐の晩の再会>>69
#02 一時の雨宿り>>60 #08 黒く染まる>>70
#03 狐二人と珍道中>>61 #09 お泊まり>>73
#04 今宵の談話>>64 #10 冷たい眠り>>79
#05 親無し子>>65 #11 真夜中の登山>>80
#12 殺意>>86 #16 壊れた玩具>>90
#13 孤独>>87 #17 忘れた過ち>>91
#14 墓場>>88 #18 死をもっての償い>>92
#15 いつもの日常>>89
#00 第六章>>93 #06 戯れ>>103
#01 さあ、お逝き>>98 #07 看板娘>>105
#02 初めての地獄>>99 #08 自暴自棄と殺意>>106
#03 再会>>100 #09 妖の怒りと炎上する神社>>107
#04 嘘つき>>101
#05 天敵>>102
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.98 )
- 日時: 2011/07/22 18:59
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#01 ( さあ、お逝き )
さあ、お逝き。と少年が指差した方向に人影たちが、集まり向かった。人影は闇のように黒い。
だが……指差した方向にある、仄白く薄暗い小道に近寄る度、だんだんと仄白くなった。
わらわら、と人影たちが集団となり、集まり、……小道に消えてゆく。
ある者は小道の入り口に入る前、少年に『ありがとう』と呟き、消えていく者もいた。
人影たちは——— やがて、小道と共に消え去った。
「やれやれ」
と肩を竦め、少年は言った。小道があった場所を見る。ただ神社の階段と、その隣にある祠の狭い間。
人影たちは人間の死後の姿。即ち、幽霊というものだ。
冥界へと旅をする小道を開いて来た人影たちの大半が、この地域に未練がましく執着していた自縛霊だった。
「———……ふん」
と短く鼻を鳴らし、ぷいっと顔を横に反らす。未練がましく執着していた癖に、あっさりと冥界へ旅立った。
ずうずうしい奴等と少年は、もう居ない人影たちを貶す。
本来は普通に死んだ人を出迎える為の小道。それが、生に未練を抱く自縛霊だったからだ。
好きでこんな役目を背負ったんじゃない。気まぐれだ、ただの気まぐれ。
しかし、今回は違った。鳥居事件で少年—— ジュンは仕方なくしたのだ。
少しでも機嫌を直そうと。冥界を支配者の閻魔大王に………
「さてと、逝くかな」
実際は早く逝くべきなのだが、どうも気が進まなく今まで自縛霊たちを相手にしていた。
余計、少年の気分を一気に不快にさせたが。
それでも、死を受け入れた、ある自縛霊に感謝され、少しばかり気分が良い。
からん、ころん。下駄を鳴らし、神社の階段と祠の間に右足を入れる。
すると、深いようで浅い水たまりに、はまった感覚になった。
そのまま、身を任せる。
次の視界が映すのは、………先程の自縛霊たちと同じ雰囲気の小道。
でも—— 自縛霊たちと、もう会うことはないだろう。
彼等は罪を犯していないからだ。
少年は、罪を犯した死者たちが堕ちる場所—— 地獄に逝くのだから。
○
「えーと……此処だな。全く我ながら面倒なことをしたもんだ」
別に彼らを助ける義理はない。というか、元々縁すらなかった。
それでも、冥界の支配者で地獄に住まう閻魔大王の機嫌を取るのも、全て自分にあった。
それも、相まって少年のうんざりした態度や口調、雰囲気は変わらなかった。
目に映るのは、鉄と木で出来たと思しき大きな門だった。
初めにきた亡者たちは、恐怖と威厳を漂わせる、この門を恐れるだとか。
まあ、無理もないが。少年は驚きもしやしない。
そして門の左右の脇にいる、護衛たちも、亡者たちは恐れ戦くらしいが。
牛の頭と馬の頭をし、体は人間という鬼。——— 牛頭と馬頭だ。
「理由は知ってるだろう、通せ」
「命令するな、妖如きが」
門の左脇にいた馬頭が言う。少年はちらっと牛頭を見遣って。
「やれやれ、君たちもだろ」
「黙れ。少なくとも下界にいる、お前らとは違う!」
右脇にいた牛頭が誇らしげに言い放った。
「ああ、そう。それは良かったね」
とりあえず、適当に聞き流し、お世辞でも言った。面倒事になりたくないので淡白に反応した。
彼等を敵に回すとある意味、色々と面倒なことになる。
出来れば、放浪し、自由気侭な永遠に終わらない旅をする少年は、上手く丸め込んで利用したい相手。
それは………大抵の妖が思うこと。
少年は敵に回しても、どうでも良いとしか、考えてなかった。
「無駄話は此処までだ。早く入れ」
鈍い、錆びついた音を立てて、門が開かれた。少年は門を潜る。
出迎えたのは、熱風だった。
乱雑に門の扉が音を立て、閉まる。
中は燃え広がる炎の世界。少年は唯一燃えていない小道を歩み始めた。
亡者たちが悶え苦しみながら、少年に救済を求める手を次々と差し伸べてくる。
その影は——— 暗闇と良く似た黒さ。
少年は、交わしながら、炎の向こう側に———…………消えていった。
苦しみつつも、その様子を見ていた、ある女の罪人が唇を笑みに歪ませて。
「さあ、お逝き。………帰ってこられるかねぇ」
と呟き、また炎の世界に戻っていった。
.
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.99 )
- 日時: 2011/07/23 21:19
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#02 ( 初めての地獄 )
焼け焦げた匂いが鼻をついた。強烈な熱風が頬を、体を熱くさせ、汗を止め処なく流れる。……暑い。
此処は灼熱地獄なので、当たり前だが、暑くて敵わなず、歩む足が遅くなる。
小気味に、からんと鳴っていた下駄も鳴り響かない有様。
額に汗が伝い落ち、生ぬるい滴となって、地面に落ちて、黒い染みを作った。
「ふぅ……」
吐き辛かった息を吐いた。体全体が暑くて意識が朦朧とし始めたころ。炎の向こう側から、人影を見た気がした。
亡者だろう。と最初は気にも留めなかったが、だんだんとこちらに近づいてくる。
さっとジュンは元来た道に戻ろうと背向けた。
「待ちなさい」
穏やかな声だった。誰だ、と振り向けば——……自分に良く似た雰囲気の美しい青年が死に装束を着て、微笑んでいる。
左目は、紅色。透明感のある白い肌が無残にも、細長い切り傷があった。
何となく懐かしい、何かが、懐かしい。
「分からないのも、無理はない。………ジュン、お前の父だ。僕は涼太。母さんは……百合だろう」
「…………!」
目が見開く。目の前に居る青年が……父親だと告げられ、ジュンは思わず、抱きついた。力強く腰に手を回し、抱きつく。
やはり、青年であれども、硬くしっかりとした感覚。大人の男性の体格だった。………それにしては、細いが。
「ジュン、お前に逢えて良かったよ」
「………何で地獄に?」
父親が大罪を犯したとは母から聞いていない、そもそも性格は難あるが良かったと言う父。
村の仇を取るため、村人の子供を見殺しにしたと聞いたが、—— まさか。
「僕は村人の子供を母さんに食べさせた罪で堕ちたんだ、正直に言うとさすがは地獄。いくら母さんに助けられてても、やっぱり……狂ってもおかしくないくらい、辛い。だけど、ジュンに逢ったら、辛くなくなったよ。さあ、地獄は危ない輩がいるからね、僕も一緒に閻魔大王様の元へ行こうか。………話に聞いたが、生まれ変わりの鳥居を無断で現世に現したんだって?」
硬く口を閉ざし、無言になった。父はすらすら、と喋り続ける。
「父さんね、それを聞いた時ね………なんて、馬鹿なガキなんだろうと思ったよ。本当にお前は馬鹿だな。噂に聞いてたが、家族を恋しがる、小生意気でませた妖だとは思っていたが、やはり、そうであったな。最初から可笑しいと……思わなかったのか?」
と口調を変えた父はいきなり繋いでいた手を振り払った。ぐにゃぐゃと容姿を滲ませながら、変えていく。
美しい青年姿が、醜悪な——— 馬の頭をした、鬼に変わった。
ぎょろり、と見る者を竦ませる目玉の大きな鬼だった。
ふん。と鼻を鳴らし、不敵に笑って、ジュンを見下ろした。実際、人との何十倍のある身長。
閻魔大王たちは、それの何百倍の身長がある。地獄の住人は全て異常な身長を持っているのだ。
今はともかく、父親に化けた馬頭を睨みつけた。
侮辱。綺麗な形で薄桃色の若々しい、爪が尖って細長く伸びた。
長さは……たぶん、30センチくらいだろう。
「全く騙されるとは笑般若族の名が堕ちたもんだな」
「退け」
良く考えれば、父が地獄で自分を出迎えるはずがなかった。そこに気付けない自分の不注意に愕然とする。
地獄に堕ちたなら、当然……亡者と同じく悶え苦しんでいるはずだ。父は妖と違い、人間なのだから。
悔しくて、何も言い返せず、やっと出た言葉が……退けという言葉。
唇を噛み締め、じろっと睨み返すしか出来なかった。
「ふん、閻魔様が迎えに来いとのご命令で来た、付いて来い」
相変わらず偉そうな獄卒鬼だ。そもそも、彼等は地獄の最下位であり、せいぜい妖よりかは上なだけ。
扱き使われるのを、妖に晴らすしか出来ない。むしろ、そちらの方が、無様であると言わなかった。
言えば、……必ず、面倒なことに巻き込まれるからだ。
「忙しいだろうね、夏で」
何気なく呟いた。
「そうだ。全く近頃はお盆なのに先祖を家に出迎えようとする、日本古来の伝統を守らぬ、愚かな人間が増えたものだ。その代わり、こちらはぐんと暇になる。逆に忙しくしようとし、忙しくなるのだ。全く迷惑な話なもんだ」
それなら、最初から休めば良いと思うが、これもあえて言わなかった。
言えば、………何となく嫌な予感がするから。
灼熱地獄は通り過ぎたようで、ぐんと冷え込みだした。奥に進むにつれて肌寒くなって、遂に寒くなった。……寒い。
嗚呼、此処は—— 紅蓮地獄か。
寒さで人々を凍らせ、皮膚を引き裂き、血が華のように雪の地面に散らせる。
そんな、寒さの地獄。北極や南極など、比べ物にならないだとか。さすが、地獄だと思った。
「寒いね」
「もうすぐ、着く」
閻魔大王はこんなところに住んでるとは聞いてないが。
.
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.100 )
- 日時: 2011/07/25 17:37
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#03 ( 再会 )
視界。辺り一面は猛吹雪で何も見えない。冷たい銀世界が広がっていた。
身を冷たすぎて逆に熱くさせるような、痛いような、極寒の地獄をただ二人で、黙々と歩き続けた。
まだ、目的地に着かなかった。
こうなれば、ある意味、嫌な予想が容易に思い浮かんだ。人間なら、絶望と極限の事態に絶望する出来事。
そう、遭難したのだろう。
彼等は人間ではない、死にはしないが、地獄なので当然、妖も苦しい刑罰に苦痛を訴える。
紅蓮地獄が苦手なジュンは苦心しながら、雪と格闘していた。
まだ、着かない。
「見えたぞ、あそこだ」
馬頭が見た視線の先に、宮殿。しかも、古代中国の王宮を思わせる造り。
絢爛豪華、それども、そこから響き渡っているのは………悲鳴だ。
気付くと、牛頭は彼を置いて自分勝手に宮殿を目指し、歩き始めた。
慌てて牛頭の後を追う。雪白な雪が、足に絡まり、埋もれて動き辛かった。
やっと牛頭のほうに辿り着いた時。
「遅いぞ、何をたるんでいるんだ。まあ…良い、入れ」
相変わらず、上から目線な口調で裏口と思しき、地味な鉄の扉を潜った。宮殿の中は廊下が先に続いて、和ろうそくが灯っている。
廊下は色んな部屋が戸を閉まられず、開いており、中から談話や飲み物をすする音、笑い声が絶えず、耳に届いた。
まるで、仕事を終えた人間の飲み会を見ているようだ。
廊下ですれ違う度、色んな種類の頭を持つ獄卒鬼の視線を感じた。相当、この事件は問題になっているらしい。
彼は密かに、苦笑いした。
しかし、長い廊下だな。とジュンは思う。先程から数十分も歩いているのだ。
いや、それは自分の勝手な解釈か、分からないけども。
○
馬頭が立ち止まった場所は、あるひとつの部屋だった。今まで地味な外見とは裏腹に、何処か威厳さを纏う雰囲気。
死者を裁く王を見て、震え上がる死者たちの心境が何となく分かった。
現時点、自分も緊張している。
胸が、鋭い刃を刺されたと同じ—— 痛みを感じた。
馬鹿馬鹿しい、と鼻で無理やり笑った。
馬頭はそれを見咎める。
「何が面白い」
「さあね」
「おいっ……!」
馬頭が怒りに燃えたとき、扉が開く音がした。前を振り返ったら、目の前に馬頭と比べようがないと思うに相応しい高身長な男だった。
その衣服は威厳さあり、質素な—— 唐の官人。冠みたいな帽子の四つ隅に垂れ下がる紐で通した珠。
それらが、互いにぶつかり合い………じゃらん、と鳴った。
「閻魔大王様……」
馬頭は跪く。主人と奴隷、人間界の主従関係に似ているな、と思った。実際、見たことないが。
お前もしろ、と怒鳴られ、無理やり跪かれた。頭を強く地面に押され、息苦しい、と感じた。
「面を上げよ」
馬頭とまた違った偉そうな口調。顔は冠の影で良く分からないが、見た目からして男性だろう。声から多分、青年。
目が合った……気がした。
体が動けない、動かない。指ひとつさえ、動かせない。
「…………………ッ!?」
「君が—— ジュンか」
遥かに高すぎる身長の青年が、あっという間に自分より高いが普通の大人の身長になった。
その顔は予想通り青年。—— この世とは思えず、見惚れるくらいの美貌、美青年だ。
そして、何かが似ている。……そう、自分に。
目や鼻、唇、肌の白さ——— 全てジュンと似ていた。
柔らかく微笑んだ閻魔大王。その笑顔は……小さいころ、母に笑った同じ顔。
「………閻魔様………」
思わず、呟いた。自分と似てるが似ていない青年。
何処か、懐かしい。聞いた声がある、声。
(嗚呼………自分の声と似ているんだ)
心情、例えると水底に沈んだとき、薄れゆく意識の中で思い浮かんだ言葉と同じ、口に出さなかった声。
何故か、冥界の支配者である彼が自分と良く似ているのだろう。
傍にいる、馬頭も驚くで空気をあまり理解していないようだ。自分もそうだが。
「ジュン——— 涼太」
「……涼太」
自分の父の名前。死んだ父を裁いた閻魔大王だから、覚えたのだろうか。
彼がいちいち、裁いた人間を覚えているのか、疑問が浮かんだ同時、彼が口を開く。
「息子よ、良くこんな処に来てくれた」
抱きしめられた。頬を白い手で撫でられる。ふわっと少し短めの髪が、自分の頬に当たった。気持ちいい。
ふと、馬頭を見れば—— 正に開いた口が塞がらないとはこういうことなのだろう。口を開け、驚愕している。
自分も顔には出してないが、驚いている。
まさか、冗談だと信じたい。先程のこの馬頭がした—— 悪趣味な冗談だね、と呟いた。
.
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.101 )
- 日時: 2011/07/26 20:54
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#04 ( 嘘つき )
「本当だ、僕は涼太だよ。……本名は閻魔だけどね」
目の前が暗く見えた。何だか体がふらついて、上手く立つことさえ、出来ない。
足が竦んで、覚束ない足取りになる。酷く体が熱い、身を焦がすような熱さだ。
息も息苦しくなった。——— 意識も薄れてぼやけてくる。睡魔が彼を襲った。目を閉じた。
そのまま、身体を閻魔大王に委ねる。冷えた体温ということは意識を閉じる前に感じた。
「ジュンっ!」
誰かが、自分の名前を呼んだ……気がした。
○
熱く息遣いも荒い。時折、咳き込む声も混じった。これは誰がどう見ても風邪の症状。
少年にしては広すぎる寝台に白い毛布一面に埋まったように寝かされていた。
熱くて意識もぼやけているが、ジュンの意識が戻る。
ゆっくり、と辺りを見回したら、脇に心配した様子の閻魔大王がいる。
自分の父親だと名乗った冥界の支配者。
すっ…と額に手を乗せる。
やはり、冷えた体温で体を冷やすには丁度良かった。
閻魔大王の隣に誰かいる……あれは、12歳のときに死んだ母だった。
「………!」
「起き上がらないで、寝てなさい。ジュン!」
起き上がろうとしたジュンを寝かしつけた——— 百合。
頭を撫でられたとき、思い出した。
「……………父さんは、………閻魔大王、なの?」
精一杯、振り絞って言った。百合はしどろもどろした様子で。
「………えぇ」
と言った。瞬間的に体が熱くなった。
風邪の所為でない。この熱さは何度も体験している熱さだ。
体も同時に震え出す。百合は何事だろうとジュンに手を差し伸べた。
パンっと軽い音がした。
ジュンが手を払いのけたのだ、忌まわしいという眼差しで。
「…………嘘つき」
低く冷たい声に百合はびくっと怯んだ。冷たい眼差しはずっと脇にいる二人に注がれていた。
目に、溢れださんばかりの涙。眉間に皺が数本、寄っている。
熱の所為か、怒りの所為か、体全体を震わせ、毛布をしっかりと握り締めている。
「嘘つき!嘘つきだよ!何で何で僕に今まで黙ってたの!?僕、一人でどんなに苦労して、嫌な思いをしてきたと思ってるのっ!何で父さんが、生きているなら、何で僕に早くその事を知らせなかったのッ………!ねぇ、どうして。どうして……騙されてたんだ、ずっと一人だと思ってたのに、父さんや母さんは地獄にいるんだと思ってたのに、仕方ないと、諦めてたのに」
思いっきり今までの寂しさや辛さをぶつけた。二人はじっと真剣な表情で無言だった。
「父さんと母さん………二度と僕の目の前に現れるなっ!この……嘘つきっ!」
怒り任せに熱で気だるさと辛さを抱えた体を無理やり起こして、部屋を出て行った。
背後から自分を呼ぶ、両親の声を聞こえない振りをし、ただ馬鹿広い廊下を駆け抜けていく。
足が覚束ないが、妖なので子供といえども、軽やかに宮殿を出た。
そのまま、銀世界の地獄へ、姿を消した。
○
数時間後にやっと地獄から現世に出られた。その時には辛さと熱で限界に近く、意識も余りない。
何とか、今日の宿を神社の中に入ることにした。神主はどうやら昼間を見る限り、留守のようだ。
巫女たちも離れにいるようで、早朝まで、お暇が出来た。
神社の中は質素でただ広く、夏のお陰で少し涼しい。
真冬なら、凍りつくような寒さの中、身を縮こまり、寒さを凌いでいただろう。
どちらにせよ、その間、両親は恵まれた環境で過ごしていたのだ。
自分は寒さや暑さはともかく、日本各地を旅しなけらばならなかった。
良く笑般若という理由で妖に襲われかけたりした。
また子供だからといって、人間に不審がられたり、警察に保護されかけたり。
意識が朦朧とする。目が重くて閉じられていく。
(嗚呼………)
最後に少年が何を言おうとしたのか。
それは意識を手放してしまい、分からなかった——
.
- Re: 妖異伝 ( No.102 )
- 日時: 2011/08/08 16:51
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#05 ( 天敵 )
薄く白い和紙の障子の向こうを隔てて、何かの荒い息遣いが聞こえる。偶然その廊下を通りかかった巫女は顔を顰めた。
「…………もう、全く誰なのよ?」
ここは地元の人間以外は滅多に他の地域の人が来ない、寂れた神社。時々ふざけた若者が境内や中に入り、悪さをすることもあった。
どうせ、その類の者だろう—— と思ったが息遣いからして大雨の日だ、誰か倒れている。
何故この神社の中に入っているのか、知らない。それより今は倒れている人物を助けなければ。
巫女は大慌てで、その障子を開けた。……中にいたのは、少年だった。
その少年は左目を前髪で隠し、髪を白い紐で束ねて、長さは肩ぐらい。
恰好も奇妙だった。藍色の小紋柄の着物に黒色の袴、靴は漆黒の下駄。
見事なまで和風の雰囲気を持っていた。
体は小柄で背を縮こまらせ、更に小さく見えた。肌は色白くしかし、顔は赤かった。
「…………うぅ…………」
「僕、僕。大丈夫っ!」
巫女が少年に近づく———
「おやめなさい。その子は妖魔ですよ」
「あ、神主様っ!」
神主、と呼ばれた男が障子の入り口に立っていた。
「今は風邪で弱まっていますが、治れば危険です、お離れなさい」
「……しかし、神主様が」
「大丈夫。古い知り合いの陰陽師が居ます、さあ、お行きなさい」
まるで子供のような感じの悪戯っぽく笑った白髪頭の銀縁眼鏡をかけた、——— まだ初老の男。
若ければ、端正な顔立ちだと思うような顔。上品な笑みを浮かべた。巫女は言われたとおり、出て行った。
さて、と神主は呟くと、部屋に入り自分に妖魔と呼ばれた少年の方を見下ろす。
「何でまたこんな神聖な神社に来たんだ。余計に具合が悪くなるだけだぞ?うん、………事情ありなのか。仕方ない、この神社や周囲の人間に害を成さないならば、私がお前を助けてやろうじゃあないか。ただし?—— 陰陽師の」
男が言いかけたところに別の男の声が遮った。神主の名を〝大石〟という名らしい。
庸明と呼ばれた黒の紋付と袴を着た和服のこれはまた初老の男が入ってくる。
「ふうむ、妖の子は—— 笑般若だな、希少な種族。風邪が治ったならば、しばらく借りるぞ。雪宮家の巻物に新たな研究課題として書かれていた妖だ」
「まだ、合意されてないよ」
ふと、少年のほうを見遣る。意識はないようだ。
「やれやれ、ひとまずは私の部屋で寝かせておこう、運んでくれ」
「自分でやれ」
「私は忙しいんだ、お前は暇だろう?」
「……………ああ」
「じゃあ、話は決まりだな」
手をひらひらと振って、神主は部屋を出て行ってしまった。
陰陽師、庸明は深い溜息を零す。
ぼやけた意識の中、少年は天敵に捕まってしまった、と思い返した。
.
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