複雑・ファジー小説
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- 妖異伝
- 日時: 2011/12/29 17:35
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: PBJobJTc)
始めまして玲と言います!よろしくね(殴
今回初めて挑戦する妖怪系の小説なので、
そこは、皆様ご了知してください。
また描写が苦手なんで(ここ、テストに出まーす笑
え?題名の読み方が読めない(殴
すいません……
読み名は『妖異伝』
と読んでください、
お願いします!
というわけで注意事項をお読みください!
01/ 作者が中2なので更新が亀さん並
02/ シリアス、ダーク、グロ、死、猟奇的な描写が出ます、ご注意を
03/ 荒らしや宣伝、喧嘩はおやめください
04/ 小説の宣伝は軽ければok。だけど見に行くのは遅いですよ^^;
05/ 短編集で色んな時代、人間が沢山出てきますよ
それでは、妖怪たちの視線で見た『人間』をどうぞ、お楽しみに…。
○ 秋原かざや様の素敵な宣伝をご覧ください。
————————————————————————
「もうすぐ……逢えるよね、おばあちゃん」
半妖の子、ジュンが出会ったのは、体が不自由な少女であった。
泣きながら松林に消える女。
あぐらをかく晒しを巻いた着物の男。
彼らが辿る運命は……。
「今までありがとう。本当にありがとう。また逢えると良いね、きっときっと、逢えるよね?」
「………うん」
「もしも、逢えるのならば、また逢えると良いなあ」
少女は僅かに微笑んで。
「あた……し、いつか、いつか。………ジュンくんと、また巡り逢えると、良いね?」
零れゆく雫は、少女のものかそれとも。
揺らめく蝋燭の上で、彼女の気持ちを聞いた……気がした。
「…………母さん、父さん」
この世にいない両親を想い、夜空を見上げるジュンの視線の先に、何が見えるのか。
半妖の子ジュンの瞳を通して、紡がれるは悲しき物語。
伸ばした手の中に、暖かい光が得られるのは、いつの日か……。
【妖異伝】
現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!
————哀れなる人らに、等しき罰を。
————————————————————————
*
#00 妖紹介伝>>01
#00 第一章>>02 #06 欲望>>12
#01 松林の少女>>05 #07 醜態>>13
#02 雨宿り>>07 #08 後悔先に立たず>>14
#03 村の風景>>09 #09 断罪>>15
#04 慕情>>10 #10 余罪>>16
#05 別れ>>11
#00 第二章>>17
#01 風の晩>>20
#02 悪夢>>23
#03 覚めた夢>>24
#04 忘れた記憶>>25
#05 真実>>30
#06 曙光の空>>31
#00 第三章>>34 #06 始終>>44
#01 奇怪な縁>>37 #07 虐殺の発端>>45
#02 無力>>38 #00 丑三つ時の女>>46
#03 敗北>>39
#04 仕事>>42
#05 共存>>43
#00 第四章>>47
#01 鈴蘭畑>>52
#02 出会い>>53
#03 変わらない事実>>54
#04 高慢>>57
#00 第五章>>58 #06 食料不足>>68
#01 暗い終戦>>59 #07 嵐の晩の再会>>69
#02 一時の雨宿り>>60 #08 黒く染まる>>70
#03 狐二人と珍道中>>61 #09 お泊まり>>73
#04 今宵の談話>>64 #10 冷たい眠り>>79
#05 親無し子>>65 #11 真夜中の登山>>80
#12 殺意>>86 #16 壊れた玩具>>90
#13 孤独>>87 #17 忘れた過ち>>91
#14 墓場>>88 #18 死をもっての償い>>92
#15 いつもの日常>>89
#00 第六章>>93 #06 戯れ>>103
#01 さあ、お逝き>>98 #07 看板娘>>105
#02 初めての地獄>>99 #08 自暴自棄と殺意>>106
#03 再会>>100 #09 妖の怒りと炎上する神社>>107
#04 嘘つき>>101
#05 天敵>>102
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.88 )
- 日時: 2011/07/19 23:00
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#14 ( 墓場 )
しばらくして優子はふらりと覚束なくぷるぷると震えて立ち上がった。
とにかく探しに行かなくては、と居間を出て行こうとした時。
ふと、……匂いが鼻をついた。それはどうやら縁側のほうからだった。
何事だろうと、縁側のほうを振り向いたら。
絶叫。小さくこじんまりとしていても四季折々の花々を色鮮やかに咲かしていた庭が——— 墓場に変わっていた。
匂いの元は、何処かの墓に供えられていた線香。
「ひっ……いやあああっ!」
ぺたんと床に座り込んだ。ずるずる、と床を這いずって後退りする。
余りの奇怪な出来事に、言葉を失った。声を振り絞っても出せなかった。
恐怖で身を砕く思いを抱いて優子は半狂乱で居間の外へと出ようとしたが、すぐ、真後ろに誰かが居た。
「あ……あああんた」
黒紫色の目をした耳に淡く輝いている耳と二本の尻尾。—— 狐を連想させた。
男性用の着物を着流し、その表情は厳しく凛々しい顔付きだった。
見た目は完全に人だが、その耳と尻尾で全てを覆してしまっていた。
隣にいる女も巫女のような袴に、女性用の着物を優雅に着流しており、長い金髪で頭に耳があるが、一本の尻尾。
こちらも、狐を連想させた。—— 淡く輝く金色で目が眩んだ。
そしてその男女の真ん中にいるのが、いつの日か雨宿りした美少年。
片目の紅い目が、不気味に冴えていた。
かこん、と下駄が小気味良く鳴る。家に下駄を脱がずに上がってきたのだと今更、分かった。
「ば、ばば……」
「化け物だよ」
かろん、と小気味に鳴り、優子に少年が近付いた。後退りしようとするも、その腕をつかんだ。
かなり冷えており、体温の低い子供だと思った。
優子は恐怖心で身が凍る思いで、身体が鉄のように硬直した。
逃げようと思い、逃げたくとても、しっかりと力強くその腕がつかまれていた。
優子を身をよじって振り払おうとするが、—— 振りきれない。
しぶとく抵抗する優子に業を煮やしたのか、ジュンは優子を蹴飛ばす。
勢い良く障子のところまで吹き飛び、けたたましい音と共にぶつかる。
痛みにむせる優子を見下ろすように、立ち下ろすジュンと狐の男女。
「あんた……自分のした罪をぉ……後悔しないのかぁ?」
男の言った言葉に、優子は威勢良く何を言ってるのよ、と叫んだ。少年に妖天と呼ばれた男は呆れた表情を見せる。
そして妖天の隣にいた女、琶狐と呼ばれた女が張り裂けんばかりに言った。
「お前なあ、まだ分からないのかい!?……お前は麻紗子と絵里子を殺したんだろっ!自分が姉と違って民間人と結婚して戦争で貧しくなって、それでも姉が金持ちだったからって!お前は姉妹を殺したんだろぉっ!なあ—— お前は身勝手に罪を犯したんだよなぁ」
思い出したくない記憶が蘇る。あの二人を殺した時、甲高い泣き叫ぶ声と最期に息絶える掠れた息。
苦しげに眉間に皺を寄せた麻紗子が絵里子に手を差し伸ばそうとして、瞬時に振り払ったときのこと。
全て全て脳裏に思い浮かんできて、混乱させた。
あああああッ、と絶叫に近い声で頭を押さえつけた優子は転げ回った。
冷たい畳の床が、ひんやりとして、不気味さを更に煽った。
そんな〝人間〟を冷めきった眼差しで見下ろす〝化け物〟一人と〝狐〟二人。
再度の絶叫が部屋中に響き渡った。
.
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.89 )
- 日時: 2011/07/20 18:01
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#15 ( いつもの日常 )
「あああああああっ…!」
頭をがりがり、と掻き毟る女が、逆に、憐れに思う有様。
けども、殺された〝子供〟のことを思えば—— 赦せるはずがない。
身勝手に殺したのだ。手を血で染めて笑う女を誰が、同情するものか。
大罪を犯して、自分が幸せになれるのは、たった一時だけ。
短い、人の生命は短い。だからこそ、長く生きる〝彼等〟からすれば、一時。
目の前に悶える女が、猿芝居めいている。
「……とにかく」
妖天は小さく言った。優子は掻き毟る手を止め、後の二人も見つめた。
彼は二人を目もくれず、優子を見て。
「あんたは……もう、罪を犯さないことだなぁ」
とだけ言うと、くるりと優子から背を向けた。途端、優子は目眩を覚えた。
ぐにゃぐにゃ、と歪んで溶けているようにも見える視界で意識もだんだんとぼやけていく。
床に這いずってた優子は、頭を押さえ、胸から吐き気が込み上げてきた。
意識が手放す寸前、あの二人は——— 視界から消えていた。
○
目が眩しく感じる。うっすらと目を開けたら……窓から日光が差し、部屋全体が明るくなっていた。
軽くなった身体で起き上がる。雀の愛らしい鳴き声が聞こえてもきた。
布団を払いのけ、立ち上がった。——— 爽快感がぐっと押し寄せた。
身体全体が、健康そのもの。……あの三人は夢だったか。
なんとも悪夢を見たもんだ、と今思い出すだけで、身の毛もよだつ。ぞっとした。
罪を犯さないこと。
そんなの知るか、弱肉強食の世界で罪など存在するものか。——………ふと、ある違和感を覚えた。
なにか、大事なことを忘れている気がしてならない。そう〝何か〟を。
記憶力は良い方である、自分も、もう年の衰えが…と諦めついた思いで布団をたたんで、押入れにしまい込む。
「………変ねぇ、何にもないのに」
頭を片手で突いた。何の変哲もない身体、至って普通の健康体。
何処も、可笑しいところはない。
ただの気の所為だ、と可笑しさで小声で笑いながら、寝室を出た。
廊下も至って普通の廊下。
ただ、少し肌寒く感じるのは、日蔭の所為だからか。
廊下を渡り切り、居間へ入った。居間も至って普通の居間だった。
縁側の雨戸から、淡い朝日の日光が隙間から差し込んでて、明るい。
「さてと、朝食を作らなきゃ」
台所に行って、保存の効く食材で質素な朝食を作り終えた。
卓袱台で置き並べる。
いつもの日常だ、いつも通りと痛感する。
先程の悪夢がどうやら、まだ抜き切れていないようで顔を顰めた。
思い出すだけで、おぞましい。
鳥肌が立ち、優子は整えてなかった髪を結い直した。
「………やだ、お米を炊いてなかったわ!」
大慌てで台所の水に浸してある米を鍋に入れ、火を燈した。
ふぅふぅ、と竹筒で火を燃え上がらせる。
自分としたことが、典型的な過ちを犯してしまうところだった。
「…………過ち?」
過ちという言葉に反応した。何か、忘れている。確実に—— 何かを。
何を忘れているというのだ、自分は何もしていない。
あの二人を殺したことは過ちでもなんでもない。
ただ生き延びる為だ。
老夫婦の家に、深夜の時間帯に忍び込んで金品を奪ったことも。
何が、過ちだ。そんなの知らない。
気の所為だと考え込む前、……静太たちのことを思い出した。
「……起こさなきゃっ!」
ばたばたと廊下を駆けだした、が不意に立ち止まる。
何かの過ち。
そして今頃は起きているはずの静太と千代子がまだ寝ていること。
ひっかかる点は幾らでもあった。
だが。——………それを考えている暇はない。
今は学校に遅刻してしまう、二人の為に部屋へと向かうのだ。
部屋に着いた優子が、部屋の襖に手を触れた瞬間。
大きく目が開くは開く。見開いた。
そして体が異常に、わなわなと震えだした。
「い………いい、いやああああああああっ!」
女は絶叫を上げた。
.
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.90 )
- 日時: 2011/07/20 22:44
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#16 ( 壊れた玩具 )
広くも狭くもない、普通の部屋に横たわる……静太と千代子。
畳の上にだらん、としていた。ぴくりとも微塵も何一つ動かなかった。
それどころか、畳は紅く生臭く—— 鉄に似た海が一面に広がってる。
千代子の目が見開いたまま、動かない、それは………人形めいていた。
実際、この二人は既に死人だった。
胸や腹など色んな箇所を切られて、血が止め処なく流れ切ってた。
傍らに……優子が最初に買い与えた、小さなお手玉と木馬。
それらも、赤く変色して、染まった。
「ひぃぃ……っ……うぅっ!」
込み上げた吐き気を抑えながら、優子はぺたんと床に崩れ込んだ。
人形に良く似た二人をただただ、怯えながら見つめる。
震えて言うことを利かない、自分の両手を目前に上げて、見つめだす。
何も汚れてない、水仕事に慣れた、カサカサの手。
姉のように、白く陶器のようでサラサラな手ではない、主婦の手だ。
ガシャン。
何かが、壊れた音。良く見れば静太の傍らにあった木馬の右足が壊れていて、途端に支えを失った木馬は倒れ込む。
自分が、ろくに玩具を買ってられなかった詫びとしてご褒美としてあげた、静太が喜んで大事にしていた……木馬。
その木馬があっけなく壊れた。
「い…いやああ!……静太ぁあ!千代子!」
両手を床につけ、這いずりながら、優子は二人の兄妹が死んだ部屋に入ろうとする。
四つん這いになって、這い上がる。手を差し伸ばした先に—— 二人を触れられることはなかった。
○
「お前のした罪を……思い出したかぁ?」
聞き覚えある声だった。後ろを振り向くもいない。横を振り向いたら、いた。
狐の耳と尻尾を持った—— 人なざるものが。
その手に抱えられているのは、自分が買い与えた、お手玉と木馬の玩具。
脇に金髪の女と雨宿りした美少年もいる。
「…………夢?」
「夢じゃあないね」
女の疑問に少年がすぐさま否定した。女の目が見開く。虚ろな目は、液体が溜まり始めた。
溢れんばかりに溜まって溢れだした。……止め処なく流れ落ちてゆく。
二人が死んだとき、流れた血のように。
それから、両手を振り上げ、女は何度目かの絶叫を上げる。
床を叩く。狂って何度も何度も、床を強く叩きだした。
握り締められた拳に、血が滲む。
「嘘よ!嘘、嘘、嘘、嘘、嘘…!」
「嘘じゃないって言ってるだろ!—— こんの、馬鹿女っ!」
琶狐の罵声を浴びた。優子は振り乱れた前髪が顔に纏わりつくのを構わず、目が狐に似て吊り上がる。
振り解かれた前髪で顔の表情が分かり辛いが—— 鬼の形相で琶狐たちを睨んだ。
妖天はこめかみを当てながら、女を見る。
酷く冷たい眼差しだった。
目から零れる涙が、その血走った目で台無しだ。
その乾いた唇から、溢れだす、言葉。
「お前ら……が、静太たちを殺したのね?」
「違う……」
妖天は冷めた眼差しで否定した。—— が女は食らいつく。
「お前らしか、いないわ!こんな残忍な真似をするのは!見るからに化け物でしょう!あんたたちは化け物で人の心をしらない、えげつない化け物よ!良くも良くも……あたしの可愛い子供たちを殺したわねぇっ!!」
狂わんばかりの——— 恨みの声。怒りに狂った女が、禍々しくさせた。
それでも、三人は冷めた表情を変えない。
妖天の腕から、ぽろっと木馬とお手玉が落ちた。
「ああっ!」
優子の悲痛な声は無情に、木馬は完全に四足を奪われ、崩れ落ちた。
尻尾の部分も欠けてガラクタとなり、お手玉は中身の粒が零れ落ちて、ガラクタへと変わった。
優子は半狂乱になりながら、床に落ちた玩具をかき集めて両腕に巣を守る親鳥みたいに、抱き込んだ。
ぎらぎら、と獣のようで鋭角的な目。吊り上がった目と似合う目。
恐ろしい程の鬼女めいており、見る者を狂気で震え上がらせる目だった。
「………ざけないで」
「ふざけてるのはぁ……お前さんだ」
妖天に言われ、疑問が浮かんだとき——— 少年と目が合った。
その目は、二人と同じ冷たい、心を突き刺す眼差し。
.
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.91 )
- 日時: 2011/07/21 16:27
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#17 ( 忘れた過ち )
「いやあああ!人殺し!私を殺す気ね!近寄らないでぇっ!」
追い払う所作をして後退りし、壁にごつん、とぶつかった。
叫ぶ気力があるなら、とっくに逃げられるのに、と三人は呆れ果てた。
何処までも、馬鹿な人間。
真実を分かろうともしない、自分が被害者だと—— 勘違いしている。
「今こそ、真実を知る時……」
すっとジュンは部屋のほうを指差した。死んだはずの二人が—— 立ち上がった。
その姿は白くぼやけて、目からは溢れださんばかりの血の涙。苦悶に満ち足りた表情。
人を恐怖させるに、十分な怖さだった。ゆらゆら、と揺らめくようで、二人は鈍い歩き出した。
「ひいいっ!?」
両手を口に覆い被さって、吊り上がった目をまんまると見開いた。
ゆらゆら、と揺らめいて、ふらふら、とふらめきながら、距離がだんだんと縮まる。
母である優子に甘えて駆け寄る子供みたい—— 二人は優子に近寄った。
「きゃああああ…!」
優子の腕をつかんだ。細くて痩せた腕。肉があまりないような腕だ。
それをつかんだのは—— 千代子と呼ばれた、娘。
ぼたぼた、と血が伝い落ちて、着物の袖を血で染め上げた。
「お前さんが、愛している……子供だぁ」
「お前は好きなんだろう?だったら、本望じゃないかっ!」
狐の男女が交互に言った。たしかに——……静太と千代子の姿をしている、〝それ〟はきつく握り締めた。
「痛いっ!」
振り払おうとするが、すぐさまもう片方の腕で、今度は右足をつかまれた—— 子供と思えない、猛烈な握り締める力だった。
静太の形をした、〝それ〟も、優子の左腕をつかんで、喉をつかんだ。
そして、びりびりと裂く音。……それは優子の骨だった。二人のつかんだ骨が、体から無理やり突き出して、出る。
「ぎゃあああああああああああっ!!……いだぁあっ!あががあ……!」
非常識な痛みが全身を電光のように、走った。白いというか青白い骨は床にがらんと落ちた。
飛び散ったのは、紅い血と……肉の欠片が、辺りに飛び散って散らかした。
「やめて、と言いなよ。………まだ、生きたいんだろう?」
少年の的ついた言葉で、痛みに涙目となりながら、こくんと頷いた。——— 戦争でなった、初老の未亡人。
上品な容姿、高価そうな着物が、今や、血で薄汚い、切り裂かれて、髪も結ったのが、分からなくなった。
………みすぼらしい女へと変わってしまった。
「まだ生きたいんだなぁ………だけどねぇ」
凛々しい表情になった。妖天に血眼となった目を差し向けた。優子は激痛に耐えながら、助けを求めた。
震えて、骨が取り出されて、半分しかなくなった腕を、差し伸ばした。その手を、何の迷いなく、妖天は払いのけた。
助けず、腕を組んで見下ろす。
侮辱だ、と何処か冷静になった優子は思った瞬間、ぐしゃっと音がした。自分の腕が遂に取れたのだ。
片手だけになった。もう片方の手も指先すら見えず、腕も半分だった。
骨はどんどんと、床に散らばる。
優子は、ただ絶叫をあげて泣き叫んだ。—— 二人も泣き叫びながら、優子の骨を奪い取る。
「…………がっ……が…………」
「どうだい、痛いだろうね。お前が全部したんじゃあないか?」
からん、と小気味に鳴った下駄の音。二人の脇にいたジュンは、優子の前に出た。
白目となりつつある、優子の目がジュンに、……ねっとりと注がれた。
不気味だな、とジュンが思うほどに。
まだ、残っていた青白い優子の喉を静太から奪い取って、持ち上げる。
「お前が、みーんな好きでやったんだ。お前がした過ちを忘れようとしたから、僕たちは思い出させたんだよ。さっきなら、まだ……遣り直せただろうに。まあ、死から免れないだろうけどね、当然……死刑だろう」
ぐっと指に力を込める。ぐあああ、と嫌な喘ぐ声を出した。
.
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.92 )
- 日時: 2011/07/21 22:21
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#18 ( 死をもっての償い )
「あんたは自分勝手な嫉妬心や浅ましい欲望の所為でまずは姪の姉妹が死んだ。次に金が欲しくなって金がかかるという、実の子供も、二人を、あんたが殺したんだ。それに、あんたが売り払った、あの金色の懐中時計も、あの夫婦が結婚したときに、両家の親がお祝いとして贈った物だ」
口籠った。何にも言いだせない優子の目がだんだんと白目となって剥く。
自分と比べれば、明らかに小柄で、子供のはずの少年は、持ち上げた。背を伸ばし、爪先で立って。
優子が蹴飛ばそうとするも、琶狐が阻止し、逆に——……もぎ取られた。
再び、絶叫が廊下で響き渡ることはなかった。
「あんたは……殺したんだよ、自分の子供も、姪も、……そしてあの老夫婦も」
絶句する。だらだら、と少年の腕は、優子の血が伝ってジュンの腕を濡らした。
それを構わないで、ぐっと握り締めた。声も掠れて出ないようだ。
「それでは——— 死ね」
少年が言った同時に、周りから立ち込めるもの……それは、炎だった。それは紅くなく青白い炎。
その炎は、やがて少年でなく——— 優子に包み込んだ。
渦に取りこまれた女は、二人の子供と同じく悶え苦しんで、身を屈んで小柄となる、優子。
その炎の中心に立つ優子の前に立っているのは……妖天だったという。
彼の神々しい尻尾を同時に振って、揺らす。
その瞬間。炎が激しく燃え広がった。
「………地獄に通じる………炎だぁ………自分の犯した罪を、死をもって償うんだねぇ…………」
黒い影は何も言わず、炎と共に消え去った。残ったのは、未だ泣き叫んで半狂乱に暴れる、二人……四人の子供たち。
廊下の壁を、かりかりと掻き毟り、叩く、髪を振り乱して、泣いて、叫んで、絶叫と悲痛に満ちた悲鳴を上げ続ける。
麻紗子が妖天の脇にいた、ジュンの頬を平手打ちした。
それどころか、麻紗子の細い、腕を掴み取る。
「落ち着きなよ、お母さんを殺めてはいけない。僕たちが代わりにしてあげたのに。何でそんなに怒ってるんだい、ここにいてはいけないんだよ。ほら、早くお逝きなさい」
玄関の戸へと指差した。けれども、泣き喚いて言うことを聞かない四人。
痺れを切らした妖天が、乱暴だが、静太と千代子の首元を両手でつかんで、持ち上げる。
琶狐は絵里子を抱きあげた。
—— 離して!
麻紗子が言うものの、三人は無言で玄関から家を出る。四人の視界に映ったのは—— 曙光。
曙光が四人の姿を照らしだし、四人の魂から湧き出ていた黒い影—— 瘴気を取り除く。
だんだん、と生前の愛らしい、または平凡な姿にへと変わってゆく。
そして、生前の姿に戻った。
「可愛くなったじゃないか!」
琶狐に褒められた四人は、表情を悲しげのままで変えない。
何にも、話したがらない四人の頭をそっと、穏やかで優しく撫でた。
妖天に罵声を浴びせる、普段の琶狐と違った。優しい女性だ。
「君たちはぁ………何にも悪くなかったんだ、だから……お逝き」
と諭されても、四人はじっとその場に居座ったまま。
琶狐に隠れるように、後ろで様子を窺ってたジュンは、四人の前に出る。
かこん、と下駄がひとつ、鳴った。
「自縛霊になりたいの?」
ううん、と四人は一斉に首を振った。それなら…と言いかけたところ。
麻紗子が、小さく呟いた。
「私たち……叔母さんに殺されたのが、悔しいのっ……!絵里子を、妹を守ると誓ったのにっ…!」
唇を噛み締め、涙目になりつつある麻紗子。対して千代子が言った。
「わたしたちも……玩具やお菓子に惑わされてっ!」
「二人のことを……忘れかかってたんだ、母さんが殺したんじゃないと信じてたかった……」
静太が言うなり、泣き崩れた。続いて全員が泣き崩れて、床に濡れない涙を零す。
儚げに薄く消えていくそうな、四人。三人は無言になる。
何にも言えないのだ。
悲しすぎて。
慰めることも、諭すことも、全て四人では、ただの耳障りな言葉だろう。
それでも——
「来世を生きたいなら、ほら……あるじゃないか」
指差された方向に四人は目を遣る。—— たしかに朱色の鳥居が見えた。
あれは、人間界へとまた生まれ変われる鳥居だった。
狐の二人は顔を険しくさせて。
「………お前さん」
「ジュン。……まさか」
「冥界に無断で現世に現せた。文句は言わせないよ、……彼らに罪がないから、審判をせずに人間界に生まれ変わらせる。お互いに好都合じゃあないか。閻魔大王様なんか、怖くはないね、僕は」
不敵な発言をしたジュンに、妖天はよさんか、とだけ言った。琶狐は何も言わず、無言を貫く。
そうしているうちに、四人は泣きながらも、朱色の鳥居へと向かって歩み始めた。
最後に泣き声は聞こえず、代わりに最後で消えかかる鳥居に入った。
「ありがとう、狐さんたちと……ジュンくん」
と麻紗子の沈みながら、泣いて赤く腫らせた目を微笑みに変えた。
とても、泣きそうで悲しい表情で。
冥界の朱色の鳥居は朝日とともに消え去って、跡形もなくなった。
三人は家に目を遣る。
禍々しい気は妖天の狐火により、祓われ、ただの平凡な家だったという。
○
「お別れだね」
「……そうだな」
琶狐はそっけなく言った。自分のした行為に怒っているのだろう。
当然だ、冥界の審判をさせずに生まれ変わらせる鳥居を現したのだから。
どんな厳しい咎められるか知らないが、—— 別に恐怖は感じなかった。
普通の妖怪なら、震え上がるだろうに。
妖天は、ジュンをじっと見据えたあと、言った。
「冥界にぃ………行くんだぞぉ………」
と凛々しい表情で。ジュンは、ふっと静かに笑って。
「分かってるよ」
とだけ言った。狐の二人がジュンに背を向けて歩み始めた。—— 森を。
最後に琶狐は大声で。
「またなあ—!」
と言って姿を消してしまった。ジュンもまた森に背を向けて歩み始めた。
麻紗子たちの家を通り過ぎる前に。
ふと、立ち止まって見つめる。
中から、匂う——— 優子の禍々しい気。
「人を殺してまで幸せになりたい……地獄に落ちるのは当たり前だろう。あんたの望んだ結末じゃあないか」
そう、呟いて風が舞う。同時にジュンの姿が—— 跡形もなく消え去った。
○
森の獣道を軽やかに突き進む、狐の男女。
妖天と呼ばれた男はある妖の少年と出会った街の方角を見て。
男の隣に居る、琶狐と呼ばれた女ももじっと、ただ無言で見つめる。
そして、妖天は小声で呟いたという。
「閻魔大王様を…………怒らすなよ、ジュン」
完結
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