複雑・ファジー小説
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- 紅玉の魔女と召え魔の翼
- 日時: 2013/09/05 18:57
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: qQO5uDpp)
はじめまして、もしくはこんにちわ。アルビと申しますっ(#^^#)
「さーて飛ばしていくわよー!」「子供ですかあなたは……」
破天荒な魔女とツッコミ役の召え魔のお話です←
これは私の初作品ですw
楽しんでいただければ幸いに思います(*´▽`*)
現在、オリキャラ絶賛募集中です!
じゃんじゃん送ってくださいっ!
応募用紙 >>40
*主な登場人物*
*ライト(主人公)
金髪に翡翠の瞳。人間の姿のときは十代半ばの少年。
本来の姿は魔獣グリフォン。アリスに召え魔として召える。
本名「ブライアント=レノワール」という大層な名があるが、本人は「長ったらしくて不便だな…」程度にしか思っていない。
*アリス
腰まである銀髪に紅玉の瞳。二十歳くらいの絶世の美女。
本名「アリス=ニーフェ」
ニンフェウム(妖精族)の末裔、ゆえにこの世界では非常に珍しい「赤い瞳」という色素を持つ。
世界をまたにかける天才魔導師だが、なにかと問題を起こす。
ライトの主。
ライト&アリスのイラスト >>23
*その他登場人物*
1章
*ハウリー >>8 *ルーガ >>17
2章
☆ゼルフ >>65 ☆フォルス >>70 ☆セラフィタ >>73 *ヴィル >>86 *リリアーナ >>88
3章
☆レイアラ >>160 *ラーク >>161
☆マークのついているキャラクターは募集で応募されたオリキャラです。
-*-*-*-
でわ、本編となりますっ(/・ω・)/
*目次*
*1章 秘薬造りには植物にお気をつけを。
1 >>1 2 >>2 3 >>3 4 >>4 5 >>5 6 >>6 7 >>7 8 >>9 9 >>10 10 >>11
11 >>12 12 >>16 13 >>20 14 >>21 15 >>22 16 >>25 17 >>26 18 >>27
19 >>31 20 >>32 21 >>33 22 >>34 23 >>35 24 >>38
1章あとがき >>39
*2章 革命に人類は必要か否か。
1 >>63 2 >>64 3 >>66 4 >>69 5 >>71 6 >>72 7 >>75 8 >>76 9 >>84
10 >>85 11 >>87 12 >>89 13 >>90-91 14 >>99 15 >>100 16 >>104
17 >>108 18 >>116-117 19 >>120 20 >>122 21 >>126 22 >>127 23 >>130 24 >>131-132 25 >>133
2章あとがき >>134
*3章 海上にて紡がれる物語、その題名は——。
1 >>147
-*-*-*-
それから、お知らせですっ
近々、この作品の兄弟作を造ることにしました!
その名も【「人間」を名乗った怪物の話。】です(=・ω・)/
興味があればこちらも目を通してみてくださいっ(#^^#)
参照100突破記念!*番外編*とある魔女の日記 >>49-50 >>57-58
参照300突破記念!*キャラインタビュー*(カオス注意!) >>82
参照500突破記念!*番外編*とある魔獣の諸事情 >>92-95
参照700突破記念!*キャラトーーーク*(カオス注意!) >>125
参照900突破記念!*番外編*とある獣人の日常 >>171-172
返信100突破記念!(一応w) >>101
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.83 )
- 日時: 2013/08/10 17:23
- 名前: 黄泉さん (ID: AvHGVUY9)
グミさん
HAHAHA! 確かにわたしもフォルスさんのを見て思ってましたwww
この際腹話術とかを←
ホラゲ買ったったwww怖いwww怖いよwww
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.84 )
- 日時: 2013/08/11 18:53
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)
9.
なかなか起きないセラフィタを、今日はもうそこで寝かせてあげましょうと僕は提案し(フォルス自身はものすごく嫌そうにしていたのは言わずもがな)、僕は店を出ることにした。
外に出ると、空はもう藍色を帯びていて、星も煌めいていた。
思ったよりだいぶ時間がたっていたようだ。
先進国とはいえ、やはり万能国ではないし時間帯によってはこの街も治安が悪い。いや、先進国でその中央街だからこそ、ともいえる。
なんせ、世界の中心国の中心街なのだ。様々なヒトが訪れるだけではなく住んでもいる。
まぁ僕の場合は、最悪襲われてもグリフォンの姿で飛んでしまえばいいのだから、相手が人間である限りは全く問題ない。
そう思いながら、アリスのいる宿への帰路を歩いているときだった。
「このボクに歯向かうなんて、貴様らは何様のつもりだ!この薄汚いドブネズミどもがっ!!」
人通りも少なくなった通りに、そんな声が大きく響いた。
まるっきり『傲慢な貴族』の物言いだが、その声は言葉づかいとは裏腹にとても若く——否、幼く聞こえた。
宿とは真逆の方向だったが、ほぼ反射的に僕はそちらへ向かってしまった。なんというか、我ながら苦笑物である。
自分自身でもこういった行動が時折理解できなくなる。単なる好奇心なのか、馬鹿正直な正義感なのか……。
不思議とどちらでもないようで、どちらも当てはまりそうな気がする。
まぁ今はどうでもいい。
気づかれないように足音を消し、声がしたほうに近づいた。
そこには、4人ほどの屈強な男と、その男たちに囲まれるように小さな人影があった。
身長ですぐにわかるが、子供だ。全身をすっぽり包む大きな黒い外套、というより布をまとっている。フードを目深にかぶり、顔は見えない。
しかし、これだけはわかった。おそらくこの子供は、かなり良家の貴族の子供だ。
まとっている布から少しだけ覗く、身に着けた服装や装飾から大変高価な材質を使っているものだとわかる。
男の1人が、ニヤニヤしながら子供に一歩近づいた。
「まぁまぁ、そう憤るなよ。おじさんたちは哀れな貧民だから、ちょーっとお嬢ちゃんからお恵みをもらいたいだけなんだなぁ」
「ボクはお・と・こ・だっ!!!」
「嘘ついちゃいかんね、お嬢ちゃんみたいなかわいらしい子が男なわけないだろ?なぁお前ら!」
すると周りの男たち3人は、そろってゲラゲラと下品な笑い声をあげた。
さてどうしたものか。
僕は数秒考えた。そして数秒で結論を出した。
僕は道の街路樹の根元にあった、適当な小石を拾った。
そしてそれを、なるべく手首から上のみ力を込める投げ方で、一番近い男の頭部に投げつけた。
ヒュンっ、
「いっ!!??………」
小石が頭部に命中した男は、白目をむいて倒れた。
「な!?おい、どうしたんだ!」
「なんだ!?」
男たちが警戒する。こちらを振り向く形になり、それで僕は彼らが何の武器を所持しているかがわかった。
3人のうち、2人は小さなナイフ、もう1人は台所にありそうな出刃包丁を持っていた。おそらく包丁を持っている1人が主犯だろう。
皆、このあたりを縄張りにしている小盗賊か何かだろうが、刃物を持つ手つきからして初心者。敵ではないな。
慌てふためいているところを、僕は素早く近づいて、まずは主犯の男の腹に蹴りを入れた。
「ぐはっ!」
「うわ、なな、なんだよこいつ!!??」
「くそ、このガキっ!!」
残りの2人が、ナイフで同時に切りかかってきた。
「ど素人ですね……。まるでなってない」
僕は誰にともなく呟いて、2つのナイフをかわした。振り返りざまに2発続けて手刀を叩き込む。一つは片方の男の背中、もう一つは片方の男の脇腹を狙った。
背中に手刀を入れたとき、妙な音がして男がくぐもった叫びをあげた。しまった、最近は人間以外を相手にしていたから、力加減を誤ったか……。
まあ、どうせ悪人だから問題ないだろう、たぶん。
ここまでの一連の動作が終わり、僕の目の前には気絶した男4人が倒れる様が出来上がっていた。
もう逃げてしまったかな、と思いながら僕が子供のいたほうを振り返ると、
「じぃー……」
なぜかものすごく近くで凝視されていた。
「じぃー……」
しかもなぜか擬音まで口で言って凝視してきている。
「じぃー……」
「……あの、お怪我は?」
とりあえず僕がそう話しかけると、その子供はブンブンと首を横に振った。
振ったことで、フードがはらりと落ちた。まるで炎のような赤髪と、幼い顔があらわになる。
瞳はとにかく大きく真ん丸で、幼さ特有もあるがそれ以前にその子供の顔立ちの特徴を表していた。まつ毛も長く、他の顔のパーツも線の細いもので、なるほど少女にしか見えない。
と、その少女のような自称男の子供は、その口元の端を上向きにあげてニッコーリと笑い、
「よし!決めたぞ!!」
と言った。唖然としている僕に、ビシッ、と小さな人差し指を突きつけ、彼はこう言った。
「お前をこのボクの護衛にしてやろう!光栄に思え、『エメラルド』!」
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.85 )
- 日時: 2013/08/11 20:06
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)
10.
まず僕は、そのセリフにどう答えればこの子供が機嫌を損ねないかと逡巡し、別の角度から切り込んで尋ねることにした。
「あの、『エメラルド』というのはいったい……?」
「ん?ああ、貴様につけてやった名前だ。このボクが直々に、貴様に新しい名前を与えてやったのだ、光栄に思いたまえ!」
まったく嬉しくないわけですが。
「貴様の目の色は翡翠のようだからな、美しくて気に入った!おまけにそこらの下衆なドブネズミを蹴散らす実力も兼ね備えている。年齢もボクに近そうだ。ここまでボクの採用基準を完璧に満たしているとは、貴様なかなかやるな!」
「どうも……」
つくづく自分の運のなさがうかがえる……。なぜ僕が普通に助けたヒトは、行く先々で変人ばかりなのだろうか?一度でいいから普通にお礼を言って立ち去るヒトと会ってみたい。
とりあえず今は、この状況をなんとかしなければ。
「すみません、非常に申し訳ないのですが、僕はあなたの護衛にはなれません」
すると、その赤髪の少年は、大きな目をさらに大きくして、意外にも怒らずに不思議そうに尋ねた。
「何故だ?このボクの家来の一員になれるという栄誉を受け取らないとは、それなりの理由があるというのか?貴様は」
とりあえず、ものすごく機嫌が悪くなったわけではなさそうだ。僕は答えた。
「はい。僕はすでに、ある魔女のもとで召え魔として仕えている身ですので。申し訳ありませんが、あなたの望む護衛は、もっと他の適任者を当たっていただけないでしょうか」
すると少年は、急に声をあげて笑った。
それは傲慢な貴族口調とは裏腹に、全く嫌みのない純粋にこの状況を面白がっているだけのような笑い方だった。
「……?どういたしましたか。失言でしたでしょうか?」
「おもしろい!ますます気に入ったぞ、貴様!まさかこのボクが、恐れ多くもくれてやった栄光をみすみす逃してまで今の主人につくとは!」
ひとしきり笑った後、少年は口元に手を当てて「ふーむ、そうか……」と何か考え出した。
そして、僕に尋ねてきた。
「エメラルド、何かこのあたりで今夜泊まれる宿を知っているか?」
「エメラルドではないのですが……。宿、ですか?僕とアリス、いえ主人の魔女が使っている宿なら」
「なるほど。ではそこにボクを案内しろ!」
なんだか嫌な予感がするので、僕は先に言っておいた。
「あの、僕の主人の魔女と話し合おうとは考えないほうがいいですよ?身のためですし」
すると少年は、こう言った。
「話し合う?何故ボクがそんなことを考えるのだ。ボクは今晩泊まる、ちょうどいい庶民経営の宿を探しているから貴様に案内を頼むだけだ。ああ、報酬ならはずんでもいいぞ、エメラルドはボクのお気に入りにしてやったからな!」
……。とりあえず、この少年の中では僕の名前は『エメラルド』で確定らしかった。
-*-*-*-
「ほーう、ここなのか?」
「はい」
僕は結局少年を宿に案内した。まぁ、こちらの宿にとっても客が増えるのでたぶん迷惑にはならないだろう。……そうだと願いたい。
「新鮮だなぁ、こんなちっさくて庶民のにおいがプンプンする宿は初めて泊まるぞ!」
なぜかワクワクした風に少年は失言を連発した。
おそらく本人に悪気はないのだろうが、だからこそなおさらたちが悪い。
少年は宿に入って行った。僕もここに泊まっているので、自然とそれに続く形になる。
宿へ入ると、他の宿泊客がちらほらといた。玄関から入ってすぐに酒場になっているのだ。
その酒場の一席に、アリスが一人でチェスをしていた。傍らには夜食らしき小皿の料理がある。
僕が何も言わなくてもアリスはこちらに気づいた。
「あら、お帰りー。フォルス君元気だったー?」
「昨日会ったばかりの人によく言えますね。ただいま帰りました」
「あはは、やっぱ本人から聞いたかしら?あ、それよりちょっと相手しなさいよ」
そういってアリスはチェスの盤上を示した。
「秘薬造りはもう終わったのですか?」
「今寝かせているところよ。あと数時間したらまた手を加えるの」
と、そこで少年が割って入ってきた。
「なんだ、チェスか?おもしろそうだな、ボクが相手をしてやろう」
アリスは少年を見て、目を細めた。
「あーらかわいいじゃない♪いいわよ、ライトだとつまんないし勝負しましょうか、おねーさんと」
「言っておくがボクは強豪だぞ」
少年は自慢げにフフン、と笑った。……どうなることやら。
僕はカウンターに目をやったが、相変わらず主人はいなく、従業員も用事か何かで席を外しているようだった。
それで少年も暇を持て余したのだろう。
「ね、あなた名前は?あたしはアリス」
「ボクは、……ヴィルだ。覚えておくといい」
「へーえ、偽名を覚えてほしいなんて変わった子ねー?」
「エメラルドの話によれば貴様は魔女だそうだからな。うかつにボクの気高く優雅で美しい本名を教えようものなら、呪いでもかけられる危険があると思ってのことだ。ボクは聡明だからそこまでわかるのだよ」
ヴィル、と名乗った少年はアリスの向かいに座った。
僕は、その席がカウンターに近いこともあったので、バーカウンターの席に座って成り行きを見守った。
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.86 )
- 日時: 2013/08/11 20:14
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)
*人物紹介*
*ヴィル
炎のような赤髪に琥珀の瞳。10歳か、あるいはさらに幼い容姿の少年。非常に可愛らしくまるで美少女のようだが、そう言うと激怒する。
アリス曰く、『ヴィル』というのはどうやら偽名らしい。
ライトをいたく気に入って家来に従えようとする。
かなり傲慢な態度で振る舞い、実際にとんでもない資産家貴族の息子のようだが、本性は不明。
- Re: 紅玉の魔女と召え魔の翼 ( No.87 )
- 日時: 2013/08/12 13:59
- 名前: アルビ ◆kCyuLGo0Xs (ID: I/L1aYdT)
11.
それから十数分ほどがたち、アリスとヴィルのチェス勝負の結果が出た。
盤上の状況はというと、
「ふむ。貴様……弱すぎるな」
「うっさ〜〜〜い!!!」
若干笑いをこらえた風に言うヴィルに、アリスは子供のように叫んだ。
「お疲れ様です。アリス、……あとで何かおごりますよ」
「だーまーれー!ビミョーに哀れっぽい感じで言われても全然嬉しくないから!?」
「そうですか」
僕は何とか笑っていなかった、と思う。
「よき召え魔であるなエメラルドは。ますます家来に従えたくなったぞ!」
「どうも。それとエメラルドではなくライトです」
ヴィルの勧誘を適当にあしらい、僕はアリスが叫んだ時に反動で落としたポーンを拾い上げた。
そう、アリスは、チェスがありえないほど弱い。
ルールはしっかり理解しているのに、なぜかとんでもなく雑魚……いや、下手なのだ。
まぁ、アリスの場合、魔術を使って相手の心理を読み取ればそれで勝利は確実のはずなのだが。逆にその方法は、彼女自身のプライドが許さないらしい。
……以前僕が「魔術を使っても負けてしまったらもう後がないくらいに終わってしまいますね」と言ってから意地になってる、という見解もあるが。
「むー。せっかくライト意外の相手だったから、今度こそは勝てるかもって思ったのに……」
「僕が強いのではなくアリスが弱いだけでは」
「だから黙らっしゃい!」
いつの間にか周りにできていたギャラリーの中にも、ひそかに笑っている者がいた。
と、酒場がそんな和気あいあいとした雰囲気になったときだった。
玄関のベルが鳴り、誰かが入ってきた。人間の女性のようだ。
すっかり拗ねていたアリスだったが、彼女を見つけるとパッ、と顔が輝いた。
「あら、リーちゃんお帰りー。遅かったじゃない♪」
アリスが『リーちゃん』と呼んだその女性は、本名をリリアーナ=レイシュルツという。
濃い紫の髪を女性には珍しくも短く切りそろえていて、アクアマリンのような澄み切った水色の瞳をしている女性で、アリスの知り合い——つまり、この宿の女主人その人である。
少したれ目がちなその瞳は、その人の性格も相まって、彼女の表情はまるで常に朗らかに笑っているように見える。
「ただいまぁ、スーちゃん。ライト君も久しぶりねぇ〜、昨日は会わなかったでしょ?」
リリアーナは特徴的な、どこか間延びした声で話しかけてきた。
ちなみに、『スーちゃん』とはアリスのことだ。アリスのことをそう呼ぶような特徴的すぎる人物は、僕の知る限り彼女しかいないし、アリスも彼女以外にそう呼ぶことを許していない。
「はい、お久しぶりですね。レイシュルツさん」
「ちょっと見ない間にまた背ぇ伸びたかしら?育ち盛りって羨ましいわ〜」
よいしょ、とリリアーナは外に置いてあったらしき大きな紙袋に包まれた荷物を運んで、中に入った。
「持ってくわよ、どこに運ぶわけ?」
「助かるわ〜、あっちの従業員室にお願い〜」
アリスは人差し指をクルッ、と荷物に向けただけで、荷物を浮遊させた。浮かんだ荷物は滑らかな動作でスーッ、と目的地へ移動する。
ヴィルは、僕の隣でその出来事を目を丸くして眺めていた。
「信じましたか?アリスがいかさまを扱う人間ではなく、本物の『魔女』であると」
何気なく僕はそう聞いた。ヴィルは、コクッと無言でうなずいた。そうしていると、本当に普通の子供のようにしか見えない。
「まさか本当だったとは……。てっきりあの赤い目も、何かで色を付けただけだと思ったぞ、ボクは」
「アレは元からですよ。ニンフェウムの末裔なので」
すると、ヴィルは思わずといった様子で独り言のように呟いた。
「ニンフェウム……妖精族がまだ生き残っていたとは。長年に渡る魔女狩りによってそのほとんどが抹消されたという、もはや世界にまだいるのか否かと言われていた一族が……」
「おや、お詳しいですね。ヴィルは民族学を学ばせられていたのですか?」
僕がそう尋ねると、ヴィルは我に返った。そして慌てたように、なぜか取り繕った。
「あ、いやなんというかえーと、そうボクの家庭教師がそう話していたのだよ!決して勉強していたとかそういうわけではない!たまたま、雑談の内容としてだな」
「……?そうですか」
家庭教師とその生徒、それも10歳になるかどうかという年齢の子供の雑談……その割には、随分と専門的だ。
やはり彼は何かを隠している……?
しかし、僕にはあまり関係はないし、詮索する趣味もない。誰にでも、何かの事情で隠しておきたいことくらいはある。やましい内容だったらまた別の話だが。
そこで、リリアーナがアリスに言われて、ヴィルに気づいた。
「あぁ、あなたはお客様?宿泊かしら?」
「うむ。そうだな、まずは一泊ここで過ごしてみよう。それなりに気に入れば、滞在を延長してやる予定だから、そのつもりでな」
「はーい、わかったわ〜。精いっぱいサービスするわねぇ〜♪といっても、ほとんどいつも営業は娘か従業員にまかせっきりだけど〜」
リリアーナは結局、誰に対してもその態度が変わることはない。
ある意味、この人もだいぶ変わった人だ。人間だからなおさら珍しかったりする。
まぁ、アリスとお互いにあだ名で呼び合うくらい仲がいい時点で、もう普通の人間ではないのだろうが。
「はい、これが部屋の鍵でーす。ところで、ヴィル君」
鍵を渡しながら、リリアーナはヴィルにこう尋ねた。
「あなた、もしかして家出中かしら〜?」
「まぁそんなところである。追手がきたらかくまうんだぞ、女主人よ。あ奴らよりボクのほうが謝礼金はたっぷりはずむ」
家来のことだろうか……?随分と扱いがひどいな、まるで悪党のように言っている。
「お客さんの個人情報は守るから、そのあたりは大丈夫だけどぉ〜、あんまりご両親に心配かけちゃ駄目よ〜?こんなかわいい盛りの子供が危ない目にあったら、誰だって悲しむもの」
リリアーナは、本気で心配してそう言ったのだろう。
しかし、彼女がその言葉をかけたとたんだった。
「黙れ!!!」
ヴィルが、急に子供とは思えないくらい大きな声で怒鳴った。
酒場が一瞬で水を打ったように静まり返る。
「貴様にボクの事情など何もわからないだろうが!何も知らないくせに好き勝手言うな、このボクに指図するな、身分をわきまえろ!!」
連射のように、言葉の暴力をリリアーナに浴びせかけるヴィル。
リリアーナは、目をパチクリとさせた。
「あら、ごめんなさい。何か気に障っちゃったかしら?」
「障ったどころではない、貴様はこのボクを侮辱したも同然のことを言った!いいか、ボクはこの国の——」
ヴィルがそう言いかけた時。
僕は、本当に咄嗟の反応で、ヴィルの口をふさいだ。
「むぐ、はにほふふえめらふほ!!」(むぐ、何をするエメラルド!!)
「お静かに!お願いですからヴィルさん、一度怒りを治めてください!さもなければ命の保証ができませんよ!」
僕は、珍しくも結構焦った声をあげていたと思う。予想以上に大きな声で、ヴィルに負けじと怒鳴るように言っていたからだ。
そのことにヴィルも驚いたのだろう、なんとか感情をそらして怒りをいったん治めることはできた。
——しかし、僕がおそれていた人物は、そうはいかなかった。
リリアーナの後ろから、荷物を運び終わった、僕の主……アリスが一歩進み出た。
恐ろしいほどに、アリスは無表情で、
しかしその紅玉の瞳は、まるで火山の溶岩のようにユラユラと怒りの陽炎がたっていた。
「『侮辱したも同然』?……ヴィル。あんたは今、まさにリーちゃんを侮辱したわよね?」
……まずい。これは、本格的にまずい。
ヴィルは、状況がいきなりすぎて先ほどの怒りはどこへやら、とにかくあっけにとられて豹変したアリスを眺めていた。
そんなヴィルの腕を僕はひったくるようにつかみ、
全速力で宿を飛び出した。
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