複雑・ファジー小説

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失墜  【完結】
日時: 2021/08/31 01:24
名前: 三森電池 ◆IvIoGk3xD6 (ID: bOxz4n6K)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19157

歪んだ恋愛小説です。苦手な方はご遠慮ください。


>>1 あれそれ

☆この作品の二次創作をやってもらっています。
「慟哭」マツリカ様著 URL先にて
「しつついアンソロ」雑談板にて掲載中 

キャラクター設定集 >>80-81
あとがき >>87


>>99
>>100

Re: 失墜 ( No.86 )
日時: 2017/01/12 19:32
名前: 三森電池 ◆IvIoGk3xD6 (ID: cTS7JEeA)

*epilogue

 夏休みが明けて最初の登校日。級友たちは、夏休みの思い出話に花を咲かせたり、いくらか垢の抜けた男子を茶化したり、久々の再会に賑わっていた。
 私は、梓と一緒に行ったディズニーランドのお土産に、クラス全員に配るチョコクランチを買った。みんな笑顔で受け取ってくれた。梓と話し合いをして、「みんなが食べられるような、万人受けするお菓子」を選んだのは正解だった。ちょうどクラスの人数分、三十四個入りのチョコクランチ。全員に配り終えたはずなのに、箱には三つ残っている。
 担任からは、必要最低限の話しかなかった。登校すると、三つあった空席は綺麗に詰められていて、クラスメイト達も彼らの話はタブーとばかりに、違う話で無理に盛り上がろうとしていた。柏野くんも、紅音も、優奈もみちるも、みんな、なんにもなかった風を装っていた。
 今日は始業式をして、そのまま放課となる。学校にマスコミが詰めかけていた、あの日の事を思い出す。だけど、机に頬杖をついて、眺める夏の空だけは、いつもと変わらなかった。今年は残暑も厳しいらしく、これから暑い日はまだ続く。夏用のワイシャツが、薄い夏のスカートと一緒に、クローゼットの奥に押し込まれる頃になれば、この違和感も消えるだろうか。いや、未来永劫消えないだろう。少なくとも私は、彼らの事を背負い続けたまま、これからも生きていくんだと思う。
 担任が教室に入ってきて、ばらばらに散っていた私たちは、それぞれの席に着きはじめる。起立、着席と号令をかける、日直の声。二学期が始まった。



 「俺、意外と情報通だからね。あいつら、あれだけ有名になったんだし、ちょっと調べればわかるよ」

 渋谷くんと私は、いつか梓と三人で話をした静かな喫茶店にいる。運ばれてきたコーヒーに一口も手を付けずに語る彼は、私と会うようになってから、少しずつ真面目になってきている気がする。耳にも舌にもつけていたピアスは数が減っているし、メッシュを入れていた髪も落ち着いた色になった。私が影響しているというわけではないだろうけれど、人ってこうやって大人になるのかな、なんて事は思ってしまう。
 アイスコーヒーにガムシロップをふたつも入れて、ストローでかき混ぜてしまうような、子供じみた私は、渋谷くんが切り出した話を食い入るように聞かずにはいられなかった。

 「……どうなったの? 瑛太くんも、矢桐くんも、柚寿も、転校したって話しか聞かなかった」

 まあ、あんまり面白い話ではないけど。渋谷くんは、そう前置きをして話し出す。
 矢桐くんは、退学処分を受けた次の週に、母親とこの街を出ている。多分、ここよりも東京に近い場所に引っ越したみたいで、でも明確な消息は掴めていないらしい。瑛太くんの家族への慰謝料はすぐに払い終え、特に刑罰が下されることもなく、どこかで普通に生活している。凄い世界だよねえ、と渋谷くんは笑った。瑛太も瑛太で悪いけど、人殺しを配信しようとした奴が野放しって滅茶苦茶怖いって。その言葉に頷くと同時に、春に公園でソーダを飲んだときの矢桐くんを思い出す。私が奪ったストラップを、自分が悪者になって瑛太くんに返してくれた矢桐くんのことを、完全悪とは言い切れない。笑った顔が、意外と子供っぽくて可愛かったな、なんて、そんな事を思い返しても、もう彼には会えないのに。
 瑛太くんは市内の通信制高校に転校したらしい。親友だったはずの渋谷くんとも連絡が未だにつかないみたいで、当たり前だけど、ツイッターも事件の日からまったく動いていない。しかし、事件があってから、フォロワーが跳ね上がるように増えている。矢桐くんが配信した動画は、表向きは削除されたものの、調べてみれば簡単に見ることができる。モデルをやるくらいの美青年が殺されかけている動画はネットの人々の興味を大いに惹きつけ、今はかなり落ち着いたものの、青山くんが悪い、矢桐くんが悪い、と、名もなき暇人たちが議論を交わし合っているのを何度も見た。加害者がいじめられっ子の立場であったこと、被害者が生活保護を受けるほどの貧窮状態であったことも絡み、今までにあまりない事件だったため、専門家や妙な偏見を持った人たちもその議論に加わり、私のような一般人がとても追えるような内容では無かった。
 そして柚寿は、県内の女子高に編入したらしい。私は柚寿をいちばん心配していた。あのゴミ捨て場で、死んだような目をしていた柚寿は、心を病んでしまったのか、あの事件を境に学校に来なくなった。紅音に誘われるがままだったけれど、私も柚寿にいじめのようなことをした一人である。渋谷くんも私の知らないところで柚寿と交流があったらしく、「俺もあの子には酷い事しちゃったな」とため息をついていた。私は少し迷ったけれど、渋谷くんにゴミ捨て場での顛末を話した。渋谷くんは別に驚きもしなかったし、私や紅音を軽蔑することもしなかった。だからあんなセルフカットみたいな髪型してたんだなあ、と笑っただけだった。

 「あいつらみんな、どんな大人になるのかな。俺にもきょうちゃんにも知る由なんてないけど」

 やっと口を付けたコーヒーを、テーブルに置いて渋谷くんは言った。
 午後三時。喫茶店は、この前とは違って、お菓子を食べに来た若い男女や、噂話で盛り上がる主婦たちで大賑わいだった。カウンターの上の猫は、そんな騒がしい環境の中で気持ちよさそうに眠っている。
 私達もそれに混ざるように、いくつか内容のない世間話をした。何にも最初から無かったかのように。人間って非日常を望むくせに、いざその非日常が訪れると平凡な日常が恋しくなって、結局ないものねだりだよねぇ、とか。そして、日が傾きかけたころ、割り勘でお金を払って、「お互い頑張ろうね」「絶対幸せになってね」なんて、中身が無いのかあるのか微妙な表情で、今生の別れのような台詞を交わして別れた。
 帰り道。駅前にはよく、占いをしているおばさんや、変な宗教を進めてくる団体がいる。今日いたのは、幸せになれるパワーストーンを販売している怪しい業者だった。通行人はそれを、関わりたくないといった表情をしながら避けて歩く。私もそのうちの一人で、そもそも私のような、いかにも金が無さそうな学生には声はかからないのだが、見ないふりをして歩いた。
 矢桐くんだって、瑛太くんだって、柚寿だって、本当は幸せになりたかっただろう。三人が必死で生き抜いて、そして離れていったこの街はなんだかんだ言ってとても綺麗だ。駅の二階から見える街並みは鮮やかで、ここから見渡せる景色の中に彼らはもういなくて。日常から突然消えてしまった存在にいつまでも思いをはせるのも馬鹿らしいけれど、それでも私は、大きなガラス張りの窓から夕焼けを見ている。立ち止まった私を避けていく人間たちは、今度は私をイレギュラーとばかりに扱う。レールを逸れて走る勇気はない。でも、今だけは立ち止まりたい。
 明日も明後日も、きっと人生は続いていく。そのうち今日の事も忘れてしまう日も来るだろう。ふと気が付くと、あと数分で乗る予定の電車が出発する時刻になっていた。慌てて歩き出して、また日常の中に溶けていく。少しだけ寂しくなったこの街で、私はこれからも生きていく。

Re: 失墜 ( No.87 )
日時: 2017/01/12 19:33
名前: 三森電池 ◆IvIoGk3xD6 (ID: cTS7JEeA)

*あとがき

 私は今高校三年生で、これは高校二年生の十月ごろに思いついたお話でした。私は小説を書くとき、あまり先まで決めずに突っ走ってしまうタイプで、書き進めながら展開を決めていくのでぐだぐだしがちなんですけど、この話は私にしては綺麗にまとまった気がします。
 小説カキコで、みもりとか、電池とか、そんな名前で活動を始めてから二年くらい経ちました。物書きと言えるほど文章もうまくないし、趣味と誇れるほど綺麗な物語を書いているわけではないけれど、失墜は、今まで書いた物語の中で一番、いろんな人に面白いと言ってもらえました。前に書いていた話の時から交流があった人はもちろん、新しく友達も出来たりして、出来はどうであれ、書いて良かったという気持ちです。特に、小説にコメントを頂いた三人には感謝してもしきれないです。また、この作品は生まれて初めて二次創作というものをやってもらいました。私の書いている話が、素敵な作者さんの手によって動いていることに物凄く感動しました。本当に、周りの方からの応援が完結までつながったなあ、という感じです。ありがとうございます。

 メインキャラクターの四人は、私の悪いところを分散させたみたいな感じです。つまり全員私にそっくりです。そんなつもりで書いていたのですが、いつしかみんな独り歩きを始めて、最終的に私とは似ても似つかないところまで行ってしまいました。他人みたいになってしまったけれど、それぞれにちゃんと愛着はあります。
 また思い立ったら、キャラクターの短編も書きたいなあ、なんて思っているので、スレッドはこのままにしておきます。半年間という短い間でしたが、読んでいただいたみなさん、本当にありがとうございました。

Re: 失墜  【完結】 ( No.88 )
日時: 2017/01/12 20:03
名前: 佐渡林檎 (ID: zWHuaqmK)

佐渡林檎です。このたびは小説「失墜」完結おめでとうございます。前回短編を書かせていただいた時の感想のお返しにもならないものですが、綴らせていただきます。


三森さんという素晴らしい人の文章を初めて見た時の感触は未だに忘れていません。最初に拝見したのは短編集でした。この人にしか書けない聖域みたいなものを感じて、勿論失墜にもどっぷりはまっていました。唐突に降って湧いた半年くらい前からの新米ファンではありますが、二次創作にも携わらさせていただき、本当に感謝してもしきれません。大切な思い出です。


佐渡はキャラで言うと矢桐くんが好きです。青山くんが好きな方もいるのですが、やはりずっと矢桐くん派でした。殺伐とした終始一貫した青山くんへの想いを、裏切ることなく最後までしてくれたと思っています。瀬戸さんが初恋なのも可愛いです。大抵毒づく矢桐くんなのにあんなにピュアなのがギャップで好きなのかもしれませんね。
組み合わせで言うと矢桐くんと小南さん。勿論梓ちゃんと瀬戸さんの組み合わせでいつも幸せになっているのですが、こちらの二人も好きです。どちらも青山くんのせいで大変な道に飛び出してしまった彼ら二人がとてもいいですね。
小南さんといえば、昔は綺麗な黒髪のロングヘアーだったのに、今ではばっさりと切ったショートカットしか思い浮かびません。時間の流れは早いですね。


失墜の醍醐味はやはりキャラもさることながら、話がとてもしっかりした構成になっていることだと思います。だれることのないレス、ストーリーのゆっくりとしながらも緊張感を持てる文章。かなりネタバレを事前に貰ったりしてもなおまだ伏線というか設定が出てきて、真摯にこの小説を考えていたのが伝わりました。
特にTwitterのトレンドにあがった、夏祭りの日。ゆったりと、確実に「それ」が迫っていて、一気に爆発。あの話を読んだ後の気持ちを皆で共有したい強さは凄かったです。

失墜の話は沢山の人間が絡んでいて、「もしも」の話をすると本当にきりがないのですが考えてしまいますね。どのキャラもいい味を出していて、学園モノである「設定がごちゃごちゃしている」「名前が一気に出ているけれど覚えられない」という事案が私の中では全くなかったです。

読後感もさらっとしていて、この後彼ら達の物語はまだ続くとなるととてもわくわくします。物語は終わった訳では無くて、区切りのいい駅に止まっている。そんな感じです。






今日はゆっくり失墜のタイトルの曲達巡りをしようと思います。少ない感想でしたが、本当に執筆お疲れ様でした。次回作も、純粋に楽しみにしております。

Re: 失墜  【完結】 ( No.89 )
日時: 2017/01/12 20:12
名前: Garnet (ID: FWNZhYRN)

完結、おめでとうございます。
Garnetです。こちらでは初めましてですね。
コメントに行きたい、という思いは以前からあったのだけど、やっぱりここは完結後にしようと、陰から応援し続けてました。とはいえ、ゆずぽんえいちゃん〜なんて騒いでましたが。いやね、ゆずぽんを見てると、必死に努力していた昔のわたしを見ているようで、次元をこえて会いに行きたくなっちゃうのよ……。だから必然的にえいちゃんにビンタ喰らわせたくなるんです(笑)
というのは半分冗談で。
人間の暗いところ、汚い場所をずばっと書いてしまうおむおむ(場違いだけどこう呼びたい(汗))は本当にすごいです。登場人物それぞれの恋愛感情や人間関係の絡み方もリアルで、先輩はすごいなあって。
失墜の完結をお祝いしたい気持ちは、もちろん、溢れるほどあるのですが、最終回レスが途切れてしまって何というか「ああ、終わっちゃったんだ……」という寂しさも、それと同じくらい大きいです。名作は終わってしまうと寂しいんです。ほんとうに。
また何周か失墜を読み返しつつ、別作品で、その後の柚寿ちゃんに微笑みたいと思います。あちらのほうも楽しみにわくてかしていますので、無理なさらない程度に、執筆、頑張ってください。新作も期待しています。
名作といえば、大会に入賞しなかったのには本当に驚いたな……。

人様の作品に感想を残しにいくということがなかなかないので、感想らしい感想を書けているのか不安です。伝えたいことはまだまだあるけれど、ツイッターのほうで言ったことの繰り返しになってしまいそうだし、折角の美しい場所を乱したくないので、ここで失礼させていただきます。

素晴らしい作品を、有難うございました。
 
 
 

Re: 失墜  【完結】 ( No.90 )
日時: 2017/01/12 20:18
名前: マツリカ ◆1zvsspphqY (ID: hd6VT0IS)

 
 こんばんは。失墜が完結したときいて自家用ジェット機で飛んでやってきましたん。本当はTwitterの方で完結おめでとうコメントをしようかと思ったのですが、3回目のコメントをそういやしてなかったな、と思い。笑 二次創作、本編は終了してしまいましたが、続けていく次第です。ギャグ小説にはもうならないと思います。笑

 キャラのツッコミどころはまだまだいっぱいありますが笑、今回はそういうの無しで。思ったこと、今まで感じていたことを書き込ませていただきます。
 初めてこの失墜を読んだとき、文章力高いな、登場人物たちはみんな冷静だな、と思いました。ついたーで繋がってすぐで、まだりちうむちゃんが書いているとはあまり知らなかった気がする。私は1週間くらいで記憶を全リセットしてしまう人なので、その辺はごめんなさいあまり覚えてないです。汗 兎に角素直に読みやすいな、と感じた小説でした、失墜は。
 ところが。
 途中から1レスあたりの文字数が増加してきて迫力も出てきて。読んでいると息を吐いてしまう(?)くらい。おいどこいった語彙力。
 結局キャラの話をしてしまうのですが、皆さん個性的ですよね。誰が欠けても失墜は完成しない。そんな感じがします。私は瀬戸キョンが嫌いでした!笑

 前にコメントを残してからしばらく経ってからも失墜はずっと読み続けていました。他の人に比べて私が失墜について語ったのは少なかった気がするのですが、それは多くを語らないびしょうじ((黙ります! 人形のイエエェエェェイについてもあまり呟かないかもしれないけれど、ある日突然感想とか置いているかもしれませんよー。覚悟しておきたまえ!

 前々から思っていたのですけどね。りちうむちゃんの書く作品、というか文は鬱々としていて、どこか淡々としている感じがします。淡々、というのは感情が籠っていない、ということでは決してありません。なんというか……自分の状況を冷静に語っているような。思えば、失墜の登場人物たちが激昂する様子があまり見られなかったような気がする。はて。矢桐が青山を殺すシーンでさえ静かなる殺意に満ちていて、息が止まりました。死ぬ。
 そういうところがとても羨ましくて、見習いたいです。ほら、私困ったら殺しちゃうから。笑 失墜の登場人物たちはいつでも冷静で(優柔不断だけど!)、柚寿もいじめられてボロボロになっても発狂とかしなくて、ただひたすら静かに死のうとしてましたね。
 
 良い作品だった。何だか終わってみると、それしか言えません……前にりちうむちゃんが私の作品を読んで1本の映画見てたみたい、と言ってくれたことがありましたが、それは失墜にこそ相応しい言葉だと思います。
 どんだけお金集めたら映画作れるんでしょう。いつか作って欲しい。笑
 まだまだ語りたいのですが、なんだかつっかえるなぁ。またこの淋しさが薄れてきた頃に、訥々と「あのとき……」と話し出すと思います。
 素敵な作品を、ありがとう。それから正反対って、素敵なことだと思います!笑



語彙力ううううう!
 


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