Veronica(ウェロニカ)

作者/ 朔 ◆sZ.PMZVBhw

◇Oz.Biography1: OtherEyes-とある竜のとある日常- Part1


私は竜である。名は―――まだ名乗れない。作者がネタバレになるから名乗るなと五月蝿いのだ。え?誰だと?それはな……

「あ、何してんのポチ」

私の主(とは認めていないが)フリッグが私の名を呼んだ。勿論、私の名は"ポチ"では無い!ちゃんとした名前(もの)があるのだ!!勝手に"ポチ"と呼んでいるだけである。

喋り方が予想と違った?黙れ!私は普段喋らないだけなのだ!!誇り高き竜族の私の喋り方はこれだ。不自然でも気にしないで欲しい。―――全く……。
先日、"ジェームズ・ノットマン"という男に敗北―――ではなく、そいつとの戦闘で負傷した我々………あ、私は負傷など殆どしていないのだが、その他の者が負傷した為、付近の村の人間に助けられた。取り合えず、一番怪我の酷かったフリッグはかなりの時間昏睡状態に陥っていたのだが(まあ、私は普段の行動に対する罰だと思っている)メリッサというこそ泥擬(もど)きのアンバー種と、用心棒?のレイスという名のこれまたアンバー種の男はそれほど怪我の加減が酷くなかったようでぴんぴんしている。私?私は少し右翼に怪我を―――いや、何ともない。全く怪我など無いぞ。


今回、リクエストということで、私からみた日常を語るとしよう。うむ、いい加減飼い主―――じゃなくて主を変えたいと思ったのだから人間観察をし直すいい機会だろう。




地球の皆様おはこんばんちは!じゃなくて、そうそう人間観察だ、人間観察。今、私はマックールという村に居る。その辺りは本編を読んでいる方々は既知だろうから割愛しよう。今回は、"私視点"="主人公"なのだから、無駄な説明で内容を削るわけにはいかないのだからな。
それでは、行ってみようか。Here we go!

* * *
今、世話になっているマックールの民家―――リュミエール・オプスキュリテの家だそうなのだ―――のリビングルームでソファーに寝転がっていた私の躰を誰かがつついている。

「シャルル六世っ、キャスリーン?あれ、なんだっけお前の名前―――………吉岡君?」
ポチだ!!!
自称賞金稼ぎのアンバー種、メリッサ=ラヴァードゥーレ。作者曰く"自称賞金稼ぎ事実盗人"の十七歳の女だ。性格は絶対私と合わないに決まっている!
 なので私は起き上がり、飛んで行こうとしたが右翼がけがをしていて飛べなかった。不覚、忘れていたとは。飛べない私の尻尾を掴んだメリッサは卑しい笑みを浮かべて私を見て居た。

「捕まえたぞー」
この女に関わると碌(ろく)なことがない!必死に四肢をもがいて逃げようとするのだが、ううむ……奴の方が力が強い。

「あ、竜さんだ!」
見えないところから聞こえた声に嫌な感じがした。子供の声である。―――いや、まさか。

「お、リュミ。これはね、ポチって名前の竜なんだよ」
ぶらぶらと私の体を宙にぶら下げながらメリッサがリュミエールという小娘に答えた。私の名前は、××××―――嗚呼、作者の規制が入ってしまったではないか!ううむ、だがポチという名前を思い出した事は称美してやる。
「―――何か上から目線ぽいな、お前」
「きゅ……?」
――――――ぎくっ……!声も何も発していないのに、この女は何故分かったのだ!まさか貴様霊能力者!?見えました、見えましたなのかっ!!??取り敢えず可愛らしい声を発して誤魔化しておこう。

「ポチって言うんだ~。可愛いね」
メリッサが、そう言ったリュミのもとに私の躰を渡した。エンジェルオーラ族の小娘の腕の中に私は埋められる。―――う、しょ……正直息苦しい、のだが。

「キュ―――っ!!!」
漸く私のもがき苦しむ様子に気付いたリュミエールはハッとして私を解放した。OH!FREEDOM!!ベルリンの壁、崩壊!違うっ、私のキャラが崩壊しているではないかっ!!!おい、作者!
 そっと優しく抱きかかえるように変わり、小娘の腕の中も居心地が良くなってきた。ついついウトウトしてしまい、嗚呼―――なんだか視界がかすんでく――――――。
 欠伸して開いた口が、何故か何かを挟んだ。ウィンナーか?何かだ。細い肉。細い肉―――。
 少し意識が戻ったようで視界に明るみが射してきた。ん……何だか私を包み込む腕が震えているような―――。
 私を抱えてる、リュミエールの髪の毛が漆黒に染まっている。瞳が光の様に白く―――はて。この小娘は雪の様な白髪と黒曜石の様な漆黒の瞳を持っていなかったか?種族はエンジェルオーラ族。確か―――

「貴様!!!いい度胸だな!このまま肉片(ミンチ)にして、ハンバーグとして夕食にだしてやろうか!!!??」
穏やかでおどおどした子供は、殺意むき出しの羅刹へと変貌していた。メタモルフォーゼか。変貌したリュミエールは、私を宙に放り投げた直後、黒白のリボンを服から抜き出し、先ず白のリボンを振った。すると振ったリボンから凍てつくような波動が吹き出て床を凍らした。幸いにも避けれた私だったのだが続けて振われた黒のリボンからでた黒炎は避けれず直撃。体中焼けるような感覚に襲われた!メリッサは知らんふりをして何故か出て行ったようだ。オイ!!

「雑魚が!逃げるな!!!」
地に這いつくばって逃げる私を追うように、二本のリボンが振われる。

 エンジェルオーラ族は、戦闘を好む者と平穏を好む者の両極端が存在する。だが、齢十歳まではそのどちらも兼ね備えており、環境によってどちらかに属すか決まるという。
 正直、一瞬新しい主はリュミエール・オプスキュリテでも良いかと思ったが―――あと三年ほど待ってから決めることにしよう。

◇Oz.Biography1: OtherEyes-とある竜のとある日常- Part2


* * *
「キャッ……キュキュキッキュ―――!!!」
「はいはい、染みるね痛いね我慢しろ」
火傷した私の躰にメリッサが消毒液を塗る。消毒液の過酸化水素水(オキシドール)の臭いが眼、鼻、肉体に染みわたる。鼻の良い私には強烈だ。火傷だらけの小さな体躯を見つめるのは、白髪の状態に戻ったリュミエールだった。

「ポチ、どうしたの?」
―――この餓鬼は変貌した時の記憶が戻らないみたいである。呆れたものだ。私は軽くリュミエールを睨みつけてやっていた。
「うぅうっ……!」泣きじゃくりそうな顔をして、メリッサにしがみ付いた。泣きたいのは、こっちの方である。
「ハイ、消毒終わり。暫くじっとしてろー。あと、リュミお茶でも飲むか」
長らく続いた消毒が終わり、メリッサは私をそっと寝ているフリッグの枕元へ置いた。この少年、昼寝中なのだ。

「リュミ、お茶入れるね」
「おっ。それは助かるわ」
ニコニコと笑みを浮かべているリュミエールと共に、メリッサは部屋から出て行った。能天気な奴ら、である。


 暫くして、硬いブーツの足音が聞こえ始めてきた。レイス・レイヴェントが近づいてきたようだ。ポーカーフェイスで、この男はクールな印象が強いそうなのだが意外にも天然でお茶目な性格の様だ。私個人の意見だが。―――この男なら、私の主に向いているかもしれない!

「きゅ―――……」
私は首をあげ、レイスに向けた。レイスはそっと私の体を持ち上げ、抱えた。
「丁度、俺も一人で寂しかったんだ。少し、一緒に居ないか?」
「きゅ!」
私の体を抱えたこの青年は、外へ向かった。フリッグは完全に眠っていて気付いてすら居ない。よし、これならば!

 かくして、私とレイスは外に行くことになったのだが―――。


* * *
 外に出て、暫く村周辺の森の散策を始めた我々はそのまま二時間ほどずっと森の中に居た。魔物が襲ってくることは、今のところなかった正直、ホッとしている。

「―――俺、寂しがり屋なんだ」
唐突にレイスはそんな告白をした。竜だから言えるのか、そんなこと!ああ、竜で良かった!!人間だったら、こんなこと聞けないものな!

「俺の、相棒になってくれ―――何ていうのは、失礼だな。忘れてくれ」
残念そうな顔をし、謝罪したレイスだったが……。
 オッケー!私は大歓迎だ!!いや、むしろ待っていました、その言葉!!!甲高い鳴き声をあげながらレイスにすり寄った私だったのだが、次の瞬間!


 レイスが背中に背負っている大剣クレイモヤを突然振り上げた。そんなもの予測していなかった私は、衝撃で吹き飛ばされる。そして近くの樹に辺り、体中に衝撃が走った。全く、とんだ厄日だ!

「竜族、か―――!」
レイスの眼前には涎(よだれ)を垂らし、何処にも焦点の合っていない眼をした巨大な紅い竜が居た。どうも様子が変である。誇り高き我ら竜族には(以下、略)という誇りがあるのだから、よほどのイカレタ奴でなければ無作為に人を襲うことなどない。自分の圏内に入られた場合は確かに襲うこともあるのだが、私の鼻が臭いを察知する限りこの辺りには竜の住む巣や集落など無いはずだ。
 竜が、紅蓮の咆哮をレイスに向けて放った!すれすれでレイスは避ける。私も勿論逃げ―――じゃなくて、避けたが。
 どうやら、何者かに操られているらしい。私の右翼を撃ちぬいた竜では無いことは確かだ。彼奴(あやつ)はトランプによってジェームズ・ノットマンの傀儡(くぐつ)になっていたのだから。この竜にはトランプなど刺さっていない。恐らく、他のものが操っているのだろう。何故なら、此奴は標的を定めずにただただ暴れるように攻撃をしているのだから。仕方ない。

 私も、メタモルフォーゼしてやろうではないか!(レイス・レイヴェントへのアピールだ)

 だが、巨大化しようとした結果傷口が開き、出来なくなってしまった。糞が……。

 走ってきたレイスがそっと私の体を拾い上げた。そして竜の方を向き、何故か竜の方へと向かったのだ!

 大剣を振りあげ―――!!!猛スピードで突き進む。風を切り、颯爽と走り!そして竜の眼の前までやってきた瞬間、彼は跳んだ!その瞬間、私の躰がレイスから離れ、私は地へと―――……。

 アンバー種の振りあげた剣に光が宿り、輝く!そのまま、彼は真一文字に竜を斬った。光の一直線が残像として残る。

「グギャァア"ア"アァア"アアアアアアアア!!!!!!!」
傷口に痛み、苦しみ、もがき―――。竜は叫び声を上げながら、ドスンドスンという音を立てながら去って行った。様子からして、恐らく正気に戻ったのだろう。痛みで正気に戻る、か。

 突然、私の尻尾に衝撃が走った。

 着地したレイスの足が、なんと私の尻尾を踏んでいたのだ。奴は気付いていない―――ってオイ!尻尾にも痛覚があるのだぞ、多分……。

「危険な森なんだな、やっぱり。さて、帰るかポチ」
踏んだことにすら気付いていないようである。私を持ち上げ、彼は森の出口に向かった。先程竜を撃退した様子からも、やはり前言撤回。

 この人、恐いです。


* * *

 家に着いた私は、レイスの手でフリッグの枕元へとおかれた。うむ、女性にもてるタイプであるな。ん?私の性別、だと?想像に任せよう。

「―――ん?」
どうやら主の起床の様だ。もう夕刻、随分遅いお目覚めである。

「何だ、ポチか」
私の尻尾(←踏まれたとこ!)が頬に当たっていたようで起きたらしい。ふん、そんなこと絶対謝らないからな。
「キュ」
取り敢えず、一日ドタバタしていてどっと疲れた。体も、心も。―――心神喪失に陥って犯行に及んだ場合って罰されないんだっけなあ……。よし、犯行に及んでも恨むな、よ。

 フリッグが、急に私の体を撫でた。
「怪我して、お前どうした?」
これから天変地異でも起きるのではないのか?此奴が私のことなど心配するとは―――物凄く感激である。
「キュー……!」
私はフリッグのもとに体を摺り寄せた。うむ、やはり主はフリッグが一番なのかもしれない。こんなに恵まれているのに、我儘を言った自分にきっとばちがあたったからこんな一日になったのだろう。きっとそうである。

 求めているものよりも、きっとそこにある物の方が自分にとって大切なものかも知れないのだろう。
 大切な物は、失ってから気付くものだ。何が大切かなど、失って初めて気づくのだ。

 愚かな自分を恥じた。私はなんて愚か者なのだろうか。これからも、私はこの少年に忠誠を尽くして生きていくべきなのだな―――それが、誇りだ。


「何、ひっついてんだよ、馬鹿」

 何、ひっついてんだよ、馬鹿―――


   何、ひっついてんだよ、馬鹿―――



     何 、 ひ っ つ い て ん だ よ 、 馬 鹿 


 私の躰が、つまみあげられ床へと投げられた。べしゃり、という音がし、激痛が走る。先程まで温かい感触の布団の上という状況から一気に冷たく硬い床の上という最悪の状態に―――。

「寝難(ねにく)い。どっか行ってろよ、全く」
そう言ってフリッグは再び眠りについた。私に背中を向けて!オイ、オイ!!!



 やはり、主人は変えるべきなのかもしれない。

 この物語の裏では、私が新たな主を探しているというコトで―――駄目か?