Veronica(ウェロニカ)

作者/ 朔 ◆sZ.PMZVBhw

 男の浪漫(ロマン)というのがある。

 帝国某所、"リクエスト"ということなのだろうか、男共はよく分からない議論を展開していた。

「俺は、あれだ。上からボンッで、キュッ、ボンのタイプ」

そう語るは、作品中稀有な存在である混血児のウェスウィウス・フェーリア・アリアスクロス。

「私はやっぱり女性なら十六から三十くらいまでかな」
「え、それ身長?うわ、低ッ」
顎に手を当て、にやけるフレイを見下すように言ったフリッグに対し、フレイは反射的にに突っ込みを入れた。
「年齢だよ、年齢!!」


 さて、何故こんな話になっているのかというと―――………



◇Oz.Biography3:Talking-座談会-





 ことの始まりは、十分程前。

 拠点として置いている、帝国中心部にあるフレイの自室には様々な年齢と種族が居た。

―――恐らくジェイド種とされる、フリッグ。
その義兄でカーネリア種とラズリ種のハーフ、ウェスウィウス・フェーリア・アリアスクロス。
アンバー種の自称賞金稼ぎメリッサ=ラヴァードゥーレ。
アメジスト種の禁書図書館見習い司書フォルセティ。

アンバー種の傭兵レイス・レイヴェント、スピネル種のお嬢リーゼロッテ=ルーデンドルフ、彼女の従者・人狼ビスマルク、エンジェルオーラの童女リュミエール・オプスキュリテ、アメジスト種のフォルセティの母(仮)イルーシヴ。

彼らは世界を滅ぼそうと企む男の計画を阻止すべく、アゲート種の評議員フレイ=ヴァン=ヴァナヘイムによって組織された者なのだ。多分。


 そんな彼らは取り合えず、フレイの部屋で色々としていた訳である。何故好みの女性について話をしているのかというと、メリッサのある発言が原因……と説明するのが妥当だろう。

「フリッグはねぇ~、ボンッ、キュッ、ボンがタイプなんだってさぁ~」


フレイに誘われたあの日、十六歳という少年が女性―――フレイヤを見つめていたのを、メリッサが勘違いしたのだ。

 そしてなんという無責任なのか。その様な発言をしたメリッサは、さっさと女組を連れて買い物に行ってしまったのだ。

残された男共の中心には、何故か"好みのタイプ"という話題の花が咲かされていた。


「やっぱりフリッグ君のタイプはあれかぁ。フレイヤかぁ~」
まず喋ったのは、勿論フレイだった訳だ。


 それから冒頭の会話に戻るのだ。


* * *


 直立したウェスウィウスが、腰の辺りに両手をやり、くびれのラインを手で表現した。
「やっぱ女はアレだよな、腰のライン」
それにすかさずフリッグが言い放つ。
「顔は見ないんだ」
「いや顔もあるけどさ……」ウェスウィウスは頭を掻いた。「体のラインも大事じゃね?電気消したら顔見えないし」

「レイス君、君はどうだい?」
その会話に無理矢理レイスを引き込んだ。ぼんやりとしていたレイスはフレイの声に吃驚し、持っていた紅茶を溢しかける。

「お、俺……!?」
「君以外、何処に"レイス君"がいるんだい」
フレイはハッハッと笑い声を上げた。隣のビスマルクが豪快に笑い飛ばす。その所為でレイスの存在が一瞬で消し去られた。

「己れはあれだ。清純派!」
「居なくねぇか?清純派って」
人狼の言葉にウェスウィウスが静かに言った。確かにフレイが集めた面子の女性の中に"清純派"といえる女性は殆ど居ない―――というか皆無である。

 その事実に呆れるやら、なんやら。


* * *

 フォルセティは一人浮いていた。今まで恋愛経験など皆無である。―――人格の変貌したリュミエールの尻に敷かれ気味であるが。

「セティの将来の嫁さんはリュミか?」

突然ウェスウィウスから会話を振られたフォルセティは目を見開いた。
「―――ッハァ!?」
「だってホラよ。明らかに"年下同士"っていうフラグ来てるしよ」
ビスマルクがウェスウィウスのテンションに悪乗りした。

 顔を真っ赤にした十歳の少年は必死に手を顔の前で振る。
「ちっ、違うよ、違うってばぁ!!そ、んな関係なんかじ……ゃ」
「あっ、でも読んでると妙にレイスとリュミのフラグも!」
そう言うフリッグに、流石のレイスも声に力を入れて反論した。

「俺はロリコンじゃない!!」

それに悪乗りし、男たちは好き勝手言い始める。
「レイス君、七歳は犯罪だよ。せめてあと十年は待たないと」
「俺もそう思う。あと、二重人格の嫁は大変だと思うし。
あ、俺の妹美人だぞ」

レイスの肩をポンポンと叩き、フレイはにやにやと笑う。隣でウェスウィウスが、何処から出したか妹ウェロニカの写真を見せつけている。彼は微妙にシスコンなのだ。

「ちょっ、ウェルは駄目だよ、ダメダメっ!!」
焦ったフリッグが必死にウェスウィウスから写真を取り上げようとする。背丈が高いウェスウィウスは写真を真上に上げ、取らせないようにしていた。嫌な奴である。


「お嬢はまぁ、キレるとヤバイのだがなぁ。
普通に入れば才色兼備の美女(笑)」
目を輝かせるビスマルクに深くフレイは頷く。
「うんうん……。良いよね。だから嫁にくれ」悪ふざけしたフレイの脇腹にどこからか飛んできた銃弾が掠められた。「………悪ふざけしました」

「体型としては、イルーシヴ。男の理想はあれだな」
「異論無し。僕もそう思う。戦うときに、胸が邪魔にならないのか気になる」
ウェスウィウスの意見にフリッグが乗る。直後、二人同時に呟いた。

「「性格を除けば」」


* * *


 呆れた表情で居るフォルセティの肩をそっとレイスが叩いた。この場の空気に居心地の悪さをお互いに感じていたのだ。仲間を見つけ、二人は安心し合う―――のだが。


「セティはイルーシヴ大好きっ子だよね。何となく」
という発言をフリッグがしたのだ。翡翠の目を悪戯に輝かせ、彼は年下の少年を軽く苛める。

「いや、違うな!」ビスマルクが声を張り上げた。「イルーシヴはフォルセティの母親だ。ウェスウィウスとイルーシヴの隠し子がフォルセティで……」
「俺いくつだよ!!」
すかさず突っ込みをかますウェスウィウス。彼は二十歳なのだから、十歳の子など有り得ない。―――イルーシヴの年齢は不明であるが。

 ふとフリッグの脳裏にフレイヤの姿が思い出される。彼女も、男の理想のタイプだと思われる。あの豊満な胸、抉られた様な腰の括れ、そして何よりあの妖艶なる雰囲気―――。少年はそれを出してみる。

「フレイヤさん、とかは?あれも良いんじゃないの」

それに何故かフレイが眼鏡を押し上げながら答えた。
「アイツは男タラシだよ」
「お前は女タラシ。良く似た双子だなぁ、オイ」
皮肉をぎっしりと詰め込んだ発言をウェスウィウスはしてやった。だがフレイはうんともすんとも言わない。

「ラインは、確かにな……。性格が非常に奔放らしいが」
一筋の汗を頬に流し、呆れた顔のレイスはフレイを見た。

「まぁ確かに、ね。見た目はグッド。躰も良い―――だけど奔放過ぎだからね。今まで何人の男を捨てたんだか」

レイスの言葉に答えたフレイに、フォルセティと喋っていた本人を除いた男たちは一歩フレイから引き下がって居た。彼らは全員そこで声を合わせる。

「「おま、ちょッ………!」」
「何がだい?」
フレイは平然とし、眼鏡を押し上げていた。

「発言自重!!ここ全年齢向けだから!」
顔を真っ赤にしたフリッグが叫んだ。
「え、あの?どゆことですか……?」
まだ子供のフォルセティは何も分かっていない。勝手にヒートアップしていく周囲から除外された彼は説明を求めたが無視されてしまう。

「フレイお前もう駄目だわ。消されたらどう責任取ってくれんだよ」
「責任は書き手じゃないのかい?」
訪ねるフレイにウェスウィウスは呆れ顔で答える。言い訳がましいが。
「ホラ、よく有るだろ……。キャラが勝手に動くパターン」
「動く?じゃあ、何。アニメーションでもやるのかい?」
惚けたアゲートの男の脳天一直線にハリセンが振り下ろされた。乾いた音が気持ちの良いくらい周囲に響き渡った。ハリセンの主はレイスであった。

 フレイは一同を改めて見た。いつの間にかフォルセティがビスマルクに連れられて部屋から出ていこうとしていたのだ。耳を塞がれ、「さて、アイスでも買いに」など如何にも物で釣ったかのようにビスマルクが手を引いて連れていく。

「ちょ、君たち何してるんだい!?」
焦るフレイに白々しい顔のフリッグがふざけて答えた。棒読み、何の抑揚も無い言い方で。
「息してるんだい(笑)」
「い、いやそんな回答は求めていないよ……?てか、何。"かっこわらい"って」


答えたと同時に足早に去って行ったフリッグを含む数名の男たちをフレイは止めようとしたが、誰かさんの華麗な銃の腕前の前に撃沈したのであった……。


* * *

「あー、で、何。結局、好みのタイプの話は如何なった訳よ」
ベテルギウスに逃げ帰って来た男たちに、買いだしを終えて帰ってきたメリッサが仁王立ちをしながら訊いた。

「結論からいうと、皆"ボン・キュ・ボン"の三拍子が好きって話です」
妙にかしこまった良い様のフリッグに、後ろに立っている男性陣は大きく頷いた。

その答えを聞きながら、まるでそれを確認するかの様に何か紙を見ながら、ボールペンで印を付けていっている。

少しして、ふっと彼女は顔をあげ、フリッグらを見て訊ねた。


「あり?アタシを仄めかすようなモンが一つもないのは、気のせい?」


その言葉を聞いて、一同硬直。


「気のせい……では、ないと思います先生!!!」

そう叫んで、彼らは一斉に駆けだした!


         明日の夕日を目指して(笑)









「ちょ、ちょい待てや作者あああっ!!!オチついてないぞ!おい、聞いてんのか作者ッッッ」

メリッサの悲痛な叫びなど空しく―――





終劇!(強制)