コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 日々の小さな幸せの見つけ方【完結】
- 日時: 2013/05/04 20:21
- 名前: ゴマ猫 (ID: S9l7KOjJ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=33090
はじめましてゴマ猫です。
読んでくださった皆様のおかげで、この作品を完結させる事ができました。
本当にありがとうございます!!
完結はしましたが、もし少しでも興味あるな〜って思ったら読んでもらえると嬉しいです!!
【目次】
作品内容>>26
登場人物紹介>>25
日常の風景>>3 >>4 >>5
真夜中の図書室>>6 >>7 >>10 >>11 >>12
黄昏の出来事>>15
幼少の思い出>>20
病室にて>>28
再開>>29
すれ違い(かおり編)>>31
遭遇>>33 遭遇(かおり編)>>37
幼なじみ>>40 幼なじみ(かおり編)>>41
相談>>42
とある日の妹との休日旅行【番外編】>>47 >>50 >>53 >>54 >>58 >>62 >>66【完】
それぞれの1日(かおり編)>>69
それぞれの1日(三波編)>>70
お見舞い>>73 お見舞い(その後の自宅)>>76
紳士協定(かおり編)>>79
意外な訪問者>>82
暗雲>>85 >>88 >>91 >>92 >>96
ある日の昼飯>>97
ダブルデート>>103 >>104 >>109 >>112 >>113
日常と変わりゆく日常>>116 >>119 >>122 >>123 >>124 >>126
決意の夜>>131
日々の小さな幸せの見つけ方>>134 >>135【完】
あとがき>>136
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- 決意の夜 ( No.131 )
- 日時: 2013/04/12 23:32
- 名前: ゴマ猫 (ID: 7ZYwzC8K)
三波の家から自宅へ帰る途中、なぜだか視線を感じて振り返る。
「………」
しかし、誰も居ない。
俺の気のせいだろうか?さっきから、誰かに見られてるような感じがする。
「……っと、それどころじゃない。また遅くなると優子に怒られちまう」
何となく気にはなったが、そのまま自宅へと帰るのだった。
家に着くと、優子がリビングの椅子に座って待っていた。
「……ただいま」
「お帰り、お兄ちゃん」
あれ?怒ってない?
いつもなら、夕飯前に連絡してって必ず言うのに。
自分の腕時計を見ると、20時を示していた。
「あの〜……優子さん?」
「ん?何?」
「今日は、何も言わないのか?」
「何もって?」
「いやホラ、遅いとか、早く連絡しろとか」
「えっ?だって、お兄ちゃん遅くなるって連絡あったよ?」
えっ?
そんな連絡した覚えがないんだが……。
「いや、そんな連絡してないぞ?」
「えーっとね、時田さん?って人から家に連絡あって、今日はお兄ちゃんが遅くなるからって」
あぁ……あの三波の家の執事さんか。
何て手回しがいい人なんだ。
「そうだったのか。えっと、じゃあ俺の晩飯は?」
「えっ?お兄ちゃん食べてきたんじゃないの?」
驚く優子。
「いや、食べてないんだ」
何か色々あって、それどころじゃなかったし。
もしかしたら時田さんは三波の家で、夕飯をご馳走してくれる予定だったんだろうか?
「困ったな〜……。今日はお兄ちゃん夕飯いらないって聞いたから、私も簡単な物で済ませちゃったんだ」
無いと分かると、余計に腹が減る。
「何かないのか?」
俺がそう言うと、優子は困ったような顔をする。
「ん〜、タイミング悪くちょうど何も無いんだよね。私がコンビニで何か買ってこようか?」
「いや、なら俺が行くよ」
わざわざ優子に買いに行かせるのは悪いし、夜は危ないしな。
俺は再び外に出ると、近所のコンビニに向かって歩き出した。
しばらく歩いていると、公園近くでまた視線を感じる。
「……またか」
三波の家から帰る途中にも感じた視線。
かなり気になるので、カマをかけるつもりで後ろに勢いよく振り返り、当てずっぽうに公園近くにある街路樹を指さして叫んでみた。
「隠れても無駄だっ!!そこに居るのは分かってる!!」
しかし反応はなかった。
もしかしてこれ、端から見たら俺ってすげー恥ずかしい奴なのでは……?
そんな事を考えていると、指さした街路樹の裏から人が出てきた。
「ど、どうして分かったの?……完璧な尾行だったのに」
街路樹の裏から出てきた人は、黒髪ロングの人見知り少女、木原日向だった。
「な、何でお前が?」
ツッコミポイントがありすぎるのと、驚きのあまりそれ以上の言葉が出てこない。
当の本人は、しれっとした表情で会話を続ける。
「さすがね。初めて会った時からただ者じゃないと思ってたわ」
「いやいや木原、もうツッコミどころが多すぎてどこからツッコミ入れたら良いのか分からねーよ!!とりあえず、ストーカーチックな事はやめてもらえるか?」
木原の場合はシャレにならん気がする。
「ずいぶんなご挨拶ね。せっかく良い情報を持ってきてあげたのに」
相変わらずの無表情で、表情の変化は乏しいが、俺の言葉に少し不満な様子だ。
「……良い情報?」
「えぇ、あなたが最近気になってる、進藤かおりの情報なんだけど……」
そのワードを聞いた途端、俺の心臓が跳ね上がり、木原に詰め寄っていた。
「かおりの情報って何だ?何かあったのか?」
俺の迫力におされたのか、木原が後ずさる。
「ち、ちょっと、落ち着きなさいな」
「あ、あぁ。悪い」
そう言って若干距離を取る。
一呼吸つくと、木原が話し始める。
「……進藤さん、どうやら明日授業が終わったらそのまま引っ越してしまうらしいわよ」
「えっ……?」
引っ越しまでは、まだ後何日かあるはずだ。
落ち着け……。
木原の情報が間違ってる可能性もある。
「その情報に信憑性はあるのか?」
「間違いないわね。職員室で話してるのを聞いたし、学校のパソコンをハッキングして確認もしたわ」
………。
この際、ハッキングの事にかんしては目をつぶっておこう。
そのおかげで、分かった事があるのだから。
「木原……1つ質問があるんだが?」
「何かしら?」
「お前とかおりって、接点ないよな?どうやって俺がかおりの事気になってるって知ったんだ?」
これは疑問に思っていた。
俺の知るかぎり、かおりと木原は接点がない。
また俺も木原にかおりの事が気になってるなんて事は言った事がない。
「ふん、だから鈍いって言われるのよ。そんなのあなたを見てれば、誰でも分かるわ」
木原は少しつまらなそうにそう言った。
「えっ?そんなに顔に出てるのか?」
「まぁ、私が最近あなたを見てたってのもあるのだけれど」
「見てたって?」
「そんなの色々よ。4人で遊園地に行く事とか、進藤さんと一緒に登校してるとことか」
待て、待て待て!!
登校してるとこは見られたとしても、遊園地に行った時は木原は居なかっただろ!!
なぜ知ってる?!
「……木原。何で遊園地に行った事知ってるんだ?」
「それは……その、屋上で4人で話してるのをたまたま聞いて……」
「………」
「か、勘違いしないで!!別に盗み聞きしてた訳じゃなくて……あなたが最近図書室……来ないから……気になって……その」
なるほど。
つまり木原は寂しかったのか。
人を避けてるくせに、変なとこで寂しがり屋だな。
「別に話しかけてくれれば良かったのに。今日だって変に尾行しなくても、話しかけてくれりゃさ」
「……嫌われてるかもって思ったら、話しかけづらかったのよ……」
いつも無表情で淡々と話す木原が、俯いて自信がなさそうに話す。
「はははっ」
「な、何がおかしいのよ?」
「いや、木原でもそんな事考えるんだなーって思ってさ。いつも人なんて関係ないって感じなのに」
「……それは……だからよ」
木原が何か呟くように言っていたが、声が小さくてよく聞こえなかった。
「ん?」
「とにかく、ちゃんと情報は伝えたから後は自分で何とかなさい」
「あぁ、ありがとう木原」
それだけ言い残すと、木原は帰っていった。
決戦は明日。
たとえ、かおりが遠くに離れてしまう事になっても、その前にちゃんと自分の気持ちを伝えよう。
そう、決意した夜だった。
- Re: 日々の小さな幸せの見つけ方 ( No.132 )
- 日時: 2013/04/14 01:27
- 名前: 春歌 (ID: HtS8ZtHP)
木原さんまで!?
もしかしてのもしかして…
遅くなって、すみません!
高校生になったばかりで、勉強の要領がつかめず、平日は自由時間が作れませんでした(´;ω;`)
でもゴマ猫さんのおかげで、テストもうまくいきました!
ありがとうございました!
かおりさんが引越してしまうなんて…
でも、ラスト、楽しみにしています!!
更新、頑張ってください!!
- Re: 日々の小さな幸せの見つけ方 ( No.133 )
- 日時: 2013/04/14 13:16
- 名前: ゴマ猫 (ID: tHinR.B0)
春歌さん
コメントありがとうございます!!
木原は、まさか……。
後、2回くらいでラストの予定です。
告知してから、かなり延びてしまったのですがf^_^;
おぉ!!おめでとうございます!!
新しい環境に馴染むまでは色々大変ですよね。
無理せず、ゆっくりペースで良いと思いますよ〜。
いえいえ、特に何もしてませんよ〜(°□°;)
春歌さんの実力です!!
春歌さんの方の更新も楽しみにしていますね。
こちらもラスト頑張ります!!
- 日々の小さな幸せの見つけ方 ( No.134 )
- 日時: 2013/04/15 21:40
- 名前: ゴマ猫 (ID: 9cJ6xZl9)
かおりの転校当日の朝。
今日の授業が終わったら、かおりはそのまま引っ越してしまう。
俺はいつもより早起きをしていた。
「……よしっ」
制服に袖を通し、自分に気合いを入れる。
着替え終わってリビングにいくと、優子が朝食の準備をしていた。
「おはよう」
「あれ?お兄ちゃん今日はやけに早いね」
優子は、驚いた顔で俺を見つめてきた。
「あぁ、今日はちょっとな」
「ふ〜ん。お兄ちゃんが早く起きてくるなんて、今日は雪でも降るのかな?」
そう言って、優子は悪戯っぽく笑う。
「何だよそれ?俺はそんな寝坊助キャラじゃないぞ?」
いつも普通に間に合うように起きてるんだけどなぁ。
「私としては、早く起きてくれるのは嬉しいけどね〜。明日もその調子でね」
うっ……明日はこんな早く起きれる自信がない。
「努力するよ……」
そんなやり取りをしながら、なごやかな朝食の時間が過ぎていった。
その後、教室に着くなり、赤坂に話しかけられる。
「水島!!隣りのクラスの奴から聞いたんだけど、進藤さん今日で転校しちまうらしいぞ!!」
「あぁ、知ってるよ」
昨日の夜に木原から聞いていたしな。
実は今日、早く起きてかおりと話せたらと思い、かおりの家まで行ったんだが、すれ違いになったらしく会えなかった。
「知ってるって……そのわりに冷静だな」
そう言って赤坂は不思議そうな顔をする。
「冷静でもないよ」
心の中は不安でいっぱいだったりするからな。
「お、おい、もう授業始まるぞ?」
「すぐ戻ってくる」
かおりの様子が気になった俺は、授業が始まる寸前に教室を抜け出した。
かおりのクラス前に着くと、すでに担任が来ていて何かを話していた。
俺はこっそりと扉越しに聞き耳をたてる。
「よーし、授業始める前にちょっと報告があるぞ」
担任が、ざわつく教室の中に声をかける。
「今日で進藤が転校する事になった。急な話しではあるし、みんなも突然で驚いてるだろうが、明るく送り出してやってくれ」
簡潔な言葉で締めくくると、クラスのみんなが思い思いにかおりに話しかけているようだ。
中からは「転校しても仲良くしてね」とか様々な声が聞こえてきた。
中の音に集中していると、後頭部に衝撃が走った。
ボカッ!!
「あいたっ!!」
「なーにやっとるんだ?よそのクラス前で」
自分のクラスの担任、小山田先生にどつかれた。
「す、すいません……教室戻ります」
ペコッと頭を下げて、教室へ戻る。
教室へ戻り席につくと、赤坂が小声で話しかけてきた。
「進藤さんの様子どうだったんだ?」
さすが赤坂。
何も言わずとも俺の事を理解している。
「あぁ、なんかクラスの連中にいっぱい話しかけられてたみたいだ」
「うーん、進藤さんは男女問わず人気があるからな……下手したら帰りも話しかけられるかどうか……」
赤坂はやや神妙な面持ちでそんな事を言う。
ちなみに授業は進行中だが、赤坂とは席が近いため小声で話しができる。
「いや、さすがにそんな事はないだろ?」
「お前は分かってないな……進藤さんの人気を」
「いやいや、昼休みだってあるし」
しかし、そんな俺の考えは甘かった。
かおりの人気は凄いもので、昼休みは他のクラスからも人が押し寄せ、とてもじゃないが話す暇はなさそうだ。
あいつ周りに好かれてたんだなぁ。
嬉しいような、寂しいような。
「だから言ったろ?お前だけだよ。進藤さんの人気に気付いてないの」
赤坂は呆れ顔で言う。
「ぐ……」
このまま何も言えずにお別れなんてゴメンだ。
引っ越しを止めるのは無理だけど、せめて最後にちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
「水島さん」
急に後ろから声がかかる。
「おわっ!!」
振り返るとそこには、校内人気No1美少女、三波風香が居た。
「えっ……と、この間はすいませんでした!!」
ペコッと頭を下げる三波。
「な、何で?謝る事じゃないよ。むしろ俺の方こそ」
そう言いかけたところで、三波の人差し指が俺の口を塞ぐ。
「水島さん、それは言わないで下さい。それを言われると、私が悲しくなっちゃいますから」
「あ、あぁ」
きっと三波なりに気持ちの整理があったのだろう。
胸がチクチクと痛む。
「そんな顔しないで下さい。えっと……できればこれからも良いお友達でいさせて下さい」
三波は少しはにかんだ笑顔で言う。
「もちろんだよ」
断る理由はなかった。
三波とは大切な友人の1人として、これからも一緒に居たい。
「何?何があったんだ?」
赤坂は状況が理解できず、仲間外れ状態だった。
後で説明しとくとしよう。
「それにしても、凄い人だかりですね」
「三波もかおりに会いに来たのか?」
「えぇ。私も転校の話しは今日聞いたものですから……その前にお話ししたいと思いまして」
人だかりを見て少し俯く三波。
「でも、これではちょっと無理そうですね……」
「あぁ……」
「せっかくなので、3人でお昼にしませんか?」
「えっ、俺も?」
驚く赤坂。
「えぇ。大勢の方が楽しいですからね」
三波は、ニコッと周りに花が咲くような笑顔で頷いた。
食堂へ着くと、普段は学食ではなく弁当の三波が来たため、食堂がざわつきはじめる。
三波人気恐るべし……。
「おい、なんか俺達の周りだけ人が多くないか?」
赤坂が小声で話しかけてくる。
周りを見ると、男子達が憎しみと羨望の眼差しで、俺達を見つめていた。
「そりゃ、三波と昼飯なんてレアだもんな」
「ちょっと、侮ってたな」
目をパチパチさせて驚く赤坂。
さすがの赤坂もこれは予想外だったみたいだ。
周りの視線は痛かったが、気にしないフリをして食券を買い、各々の昼飯を持って席に着く。
「それで、水島さんどうするんですか?」
三波は席に着くなり、そう訊ねてきた。
「どうするって、そりゃ最後に話したいけど」
「そうではなくてですね、進藤さんに告白するんですか?」
「ゴホッ……!!ゴホ……!!」
唐突にそんな事を聞かれてむせてしまう。
「うん、それは俺も思ってた。見てて、いつになったら付き合うんだってヤキモキしてたからな」
大盛りのカレーを食べながら頷く赤坂。
「そりゃ……その」
今日はちゃんと自分の気持ちを伝えようって思ってるんだけど。
こう上手くいかないと、焦ってくるよな。
「なんだか妬けちゃうなぁ……」
三波はフッと寂しそうに呟く。
「えっ?」
「何でもありませんよ」
次の瞬間にはいつも通りの三波に戻っていた。
不思議な組み合わせの昼食が終わり、別れの時間は刻々と近付いていた。
- 日々の小さな幸せの見つけ方【完】 ( No.135 )
- 日時: 2013/04/29 20:10
- 名前: ゴマ猫 (ID: Mx34GQYU)
放課後。
チャイムが鳴ると同時に、教室を飛び出した。
かおりのクラス前に着くと、最後の別れとばかりに人波が凄かった。
それをかきわけるようにして中に入っていく。
「かおり」
「……真一」
目を丸くして驚くかおり。
かおりの近くまで近づき、かおりの手を掴む。
「ちょっと来い」
そのまま教室を出て、あまり人が居ない空き教室まで歩いた。
少し強引かと思ったが、こうでもしなければ、かおりと話すチャンスはなさそうだった。
「ち、ちょっと、そんなに引っ張らないでよ」
空き教室の入り口でかおりがそんな事を言った。
「わ、悪い」
俺は、かおりを掴んでいた手を慌てて離す。
「……どうしたの?」
「どうしたのって、今日でかおりは最後じゃないか。話しがしたいって思ったんだけど、中々チャンスがなくて……」
「………」
2人の間に、長い沈黙が流れる。
それはほんの数秒の事だったが、まるで何時間もたっているようだった。
「私も真一とずっと話したかった。……でも今日で最後かもしれないって思ったら、話すのが怖くなってきちゃって……」
沈黙を破り、ポツリ、ポツリと話しだすかおり。
「そういえば、ちゃんとした場所言ってなかったよね?……私の引っ越し先はね、ここから港まで行って、そこから船で2時間くらい行った小さな島なんだ」
「えっ?」
そういえばそうだ。
遠くとは聞いていたけど、転校の事で頭がいっぱいで詳しい場所は聞いてなかった。
「もちろん会いに行こうと思えば行ける距離だよ?でも、今までみたいに気軽に毎日は会えない……そう考えたらなんだか怖くなったんだ」
確かにそうだ。
けして行けない距離ではない。
だが、今までのように毎日会える訳ではないのだ。
今さらながら、その事実が俺の胸に突き刺さる。
次の言葉が出てこない。
こんな時、何て言ったら良いのだろう?
ドラマの中なら、かっこいいセリフを言って、ハッピーエンドだろう……でも、現実は次の言葉が出てこない。
そんな空気を察したのか、かおりが言葉を続ける。
「……でも、仕方ないのかな?こうやって離ればなれになる事も……」
「そんな事……!!」
「ごめん。私、そろそろ行かなきゃ……」
そんな事ない。
そう言おうとしたところで、かおりと言葉が重なって俺の言葉が途切れた。
「ちょっと待て!!」
「……バイバイ。ずっと……ずっと好きだったよ真一……」
そう、一言だけ言うとかおりは俺から離れていく。
もしかして……俺、フラれたのか?
昨日の夜までは意気揚々と気持ちを伝えるんだっと意気込んでたが、こんなあっけなく終わるものだったのか?
夕暮れの教室から消えていく、かおりの後ろ姿を見ていた。
言葉も、身体もまるで石化したかのように動く事も、叫ぶ事もできなかった。
「………っ!!」
唇を強く噛みしめる。
情けない。
今日ほど自分をそう思った事はなかった。
本当は伝えたい事がもっとあったのに!!もっと……!!
不意に、後ろから聞き慣れた声がかかった。
「お、おい水島!!進藤さん行っちまうぞ!!」
「赤坂……か」
「何ボーっとしてんだ?!ちゃんと告白したのか?」
「いや、その前にフラれた……」
「フラれたぁ?」
俺は赤坂に、事の一部始終を話した。
「バ、バカヤロー!!それはそういう意味じゃなくて……あぁ!!もうとにかく早く追いかけろ!!もし、本当にフラれてたら愚痴聞いてやっから!!」
「だけど……」
「良いから!!自分の口で伝えてこい!!その後の事なんてそれから考えりゃ良いんだよ!!」
「赤坂……」
そうだ。
まだ俺は自分の言葉で、想いを伝えてない。
結果なんて、その後の事はそれから考えればいい。
「……ありがとな、赤坂」
小さくお礼を呟き、俺は教室を飛び出した。
全力で校舎を走り抜ける。
息はきれ、横っ腹が痛くなっていたがかまわず走る。
校庭に出た所でかおりの姿を見つける。
ちょうど校門の所に、かおりのお父さんが車で迎えにきていた。
多分、そのまま車で港まで行くつもりなのだろう。
「かおりっ!!」
息がきれて、あまり大きな声が出なかったが、全力で叫んだ。
しかし、かおりは俺の声に気付かなかったのか、そのまま車に乗りこむと車は無情にも発進してしまった。
「くそっ……」
いくらダッシュしても、人の足では車に追いつけない。
ここまでか?そう思った時、校門の方から聞き覚えのある声がかかった。
「水島さん!!」
声の主は三波だった。
「……三波?」
「こっちです!!早く乗って下さい!!」
目をやると、黒色の高級車が停まっていた。
俺は急いで三波のところへ行く。
「……これは一体?」
「説明は後です。今は早く乗って下さい」
三波に言われるまま乗りこむと、車は勢いよく発進した。
「三波、これは?」
「進藤さんを追いかけるんですよね?車じゃ追いつかないって思ったので」
「タイミング良すぎないか?」
「赤坂さんから電話もらいまして、時田さんに無理言って来てもらっちゃいました」
こんな何分かの間に来るなんて……どうやったんだろう?
でも凄いありがたい。
バックミラー越しに時田さんと目が合う。
「ハッハッハ。伊達に執事はしておりませんよ?水島様」
時田さんは快活に笑う。
俺は小さく頭を下げた。
やがて車は港に着いた。
「水島さん、早く行って下さい」
三波の声に背中を押され、車のドアを開けて、かおりの所へと走る。
「かおりっ!!」
「……真一?!」
かおりは驚きの表情で俺を見てきた。
「俺、どうしてもお前に伝えたい事があって……」
「伝えたい……事?」
「あぁ、……俺は、俺はかおりの事が好きだ!!……いつも一緒に居て、隣りでくだらない話しをしていたい。ずっと俺のそばに居てほしいんだ!!」
周りに乗船するための結構なギャラリーは居たが、気にせず俺の素直な気持ちをぶつけた。
「……真一の事、好きじゃないよ……」
「えっ……?」
その言葉を聞いた瞬間、絶望のどん底に落とされる。
「真一の事、好きじゃないよ!!……大好きだよ!!」
「……それって……」
「だから大好きだよ。言うの遅いぞ……ずっと待ってたんだから」
かおりは涙を流しながら、はにかんだ笑顔でそう言った。
「う、嘘じゃないよな?」
地獄の一丁目から生還したせいか、頭が混乱している。
「嘘言ってどうするの?本当に本当だよ」
その瞬間、俺は駆け出してかおりを抱きしめていた。
「わっ……!!し、真一……」
「……別に良いだろ……好きなんだから」
「……わ、私は良いんだけど……」
かおりが指差した方向を見ると、かおりのお父さんが般若の形相で睨んでいた。
「確か、水島君とか言ったね?君とはいずれゆっくり話さないといけないようだ」
「あ、あのこれは……その」
慌ててかおりから離れる。
しかし、怒りの炎は収まらず、お叱り受ける事になった。
俺が、かおりのお父さんに怒られている間に、かおりと三波は隣りで何かを話していたようだ。
なんとか解放されたところで出航時間がきてしまった。
「真一、ちゃんと会いに来てよね?」
「当たり前だろ。絶対行くから待ってろ」
そう言うと、かおりは嬉しそうに微笑んだ。
「そろそろ、行くね?」
「あぁ、気をつけてな」
せっかく恋人になれたのに、離れるのは正直寂しい。
でも必ず会いに行くからここはグッと我慢だ。
目を閉じてそんな事を考えていると、唇に柔らかな感覚が走った。
とっさに目を開けると、かおりの顔が間近にあった。
潮風にのって、かおりの髪の甘い匂いが鼻をくすぐる。
やがてお互いの距離が離れる。
「なっ……!!」
「えへへ……またね、真一」
そう言うと、かおりは笑顔で船へ乗りこんだ。
俺はポーッとしつつ、しばらくデッキから手を振るかおりを眺めていた。
「進藤さん、行っちゃいましたね?」
「うわっ!!」
ポーッとしていたため、三波が後ろに来ていた事に気付かなかった。
「顔、真っ赤ですよ?」
クスクスと、楽しそうに笑う三波。
「えっ?マジで?」
「冗談です。さっ、私達も帰りましょう」
「お、おう。そういやさっき、かおりと何話してたの?」
「水島さんがこっちで浮気しないように、見張っててくれって」
「そ、そんな事を?!」
初めからそんな心配されてるなんて、軽くショックなんだが。
「冗談で〜す。本当は秘密です」
「み、三波さん……人が悪いよ」
まだちょっぴり俺の騒がしい日々は続きそうだ。
幸せや平和は、日々の小さな日常の積み重ねで出来ている。
ちょっとした事でそのバランスが崩れると、失ってしまうかもしれない。
人は、失って初めてその大切さに気付くものだ。
だから俺はこの日々を大切にしよう。
みんなが居るこの日々を大切にしよう。
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