コメディ・ライト小説(新)

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マーメイドウィッチ
日時: 2016/07/30 19:31
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)

世界が止まった。



手が震える。



数拍のちに気付く。









私は大切な人に裏切られたのだと。

Re: マーメイドウィッチ ( No.1 )
日時: 2016/07/30 19:38
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)

あるところに、人魚のお姫様がいました。

そのお姫様は、十五歳の誕生日に、人間の王子様に恋をしてしまいました。

人魚のお姫様は、人間になるために、自分の美しい声と引き換えに、

人魚の魔女から、人間の足を手に入れました。

しかし、それは、王子様がほかの女性と結婚すると、

人魚のお姫様は泡となって消えてしまう、という契約付きのものでした。

しかし、王子さまは、人魚のお姫様のことを妹のようにしか思っておらず、

かわりに別の女性と結婚しようとしました。

人魚のお姫様のお姉さんたちが、人魚のお姫様にナイフを渡し、

このナイフで王子様の心臓を刺せば、元の人魚に戻れる、と言いました。

しかし、人間の王子様を愛してしまった人魚のお姫様は、どうしても彼を刺すことができませんでした。

やがて、結婚式の日の朝、人魚のお姫様は泡となって消えてしまいました。

しかし、この話には続きがあったのです。

人魚のお姫様の美しい声はどうなったのでしょうか。

それは、人魚の魔女の孫娘のものとなっていました。

孫娘が、十五歳になったときのこと、彼女は浜辺で、別の国の人間の王子と出会いました。

王子は、その美しい魔性の声に魅入られて、孫娘は王子の凛々しさに魅入られて、二人は恋に落ちました。

孫娘は、祖母から人間になる薬をこっそりと盗み、人間となって、王子と結婚しました。








これは、その何百年もあとの、人魚の末裔となった者の物語。

Re: マーメイドウィッチ ( No.2 )
日時: 2016/07/30 19:39
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)

フレヤは、氷の彫像のごとく冷たい表情を崩さず、椅子に座ったまま

玉座から離れた床で膝をつかされている男を見下ろした。

王である父が狩りの帰りに連れて帰ったという男だ。

氷姫、という呼び名が隣国にまで広がるほど、フレヤは感情をあまり表に出さない。

今もそうだ。

そのかんばせにはつゆほどの感情も宿っていない。

隣の椅子に座る妹姫であるヘレナはまぁっと手で口を覆った。


「お父様!!

 あれはなんですの?」


フレヤは表情を崩さなかったが、少しだけ眉根を寄せた。

今は、妹が何を話しても癇に障る。

それには、理由がある。

それは、一ヶ月前のことだった。

フレヤには、婚約者がいた。

隣国の王子、ステファンだ。

初めてであったのは十五歳の誕生日パーティーのこと。

どこまでも真摯に彼はダンスに誘ってくれた。

最初は、緊張していたフレヤだったが、ステファンはどこまでも優しかった。

まるで夢のようなひと時だった。

フレヤは初めての恋をした。

初めて父王にわがままを言って、

婚約者はあの人でなければならないからどうにかしてくれ、と頼み込んだ。

そして、ステファンは、フレヤのものになった。

彼は美しいだけでなく聡明だった。

父を早くに亡くした彼は、若くして一国の王となった。

その仕事ぶりは素晴らしいもので、彼の国には幸せと笑顔が満ち溢れていた。

フレヤとステファンはその後も何度か逢瀬をかさねた。

彼はどこまでも紳士で、本当に優しくて、まさに理想の男性だった。

めったにフレヤに触れることもなく、紳士と淑女の適正な距離を保っていた。

しかし、夢のような日々は、一か月前につぶれてしまった。

久しぶりのステファンとの逢瀬を終えて、自室に帰ったときのことだ。

何気なく窓の外を見てみた。

ステファンと、誰かが庭でひっそりと寄り添っていた。

暗くてよく見えない。

フレヤは急いで自室を出て、城の階段をかけおり、庭の隅に隠れた。


「もう、こんなことはいけませんわ、ステファン様……!!」


妹姫のヘレナだった。

フレヤは地面にへたり込んだ。

しかし、二人はお互いのことに夢中でフレヤがそこにいることに気付かない。


「何を言っているんだ、ヘレナ!!

 俺は、君を、君だけを愛しているんだ」


重いもので頭を殴られたような衝撃。

彼はいま何と言った。

こんな彼の砕けた口調は聞いたことがない。

一人称も、いつもは、俺、ではなく、私、だ。

それに、愛の言葉なんて、こんなに簡単に吐いてくれるような人ではなかった。

何度も何度もねだってようやく言ってくれる程度だったのに。


「貴女には、お姉さまがいるわ!!

 もう、こんな関係、終わりにしなくては!!」

「あの人は、ただの人形のようだ。

 美しいけれどそれだけだ。

 それ以上、何でもない。

 同じ王族として尊敬はするけど、それ以上の感情は抱いたことはないよ」


心の中で何かが次々と壊れていく音がする。

宝石のような輝く思い出たちが壊れていく。

消えていく。


「ステファン様!!」

「少し、いいかしら」


フレヤが何とか声をしぼりだすと、二人ははじかれたようにこちらを見た。

月明かりに照らされたその顔は滑稽なほど青ざめている。

いや、滑稽だ。

自然と口元に笑みが浮かぶ。

何よりも滑稽なのは、だまされ続けて、裏切られ続けてきた、己自身だ。

フレヤはゆっくりと立ち上がると、二人のほうへと歩を進めた。


「話は少し聞かせていただきました。

 それで確認をしたいのです」

「フレヤ様、これは」

「ステファン様、妹に話があるので少し黙っていていただいてもいいですか」


今までにない強い口調でステファンの言葉を遮る。

彼は頬を張られたかのように目を見開いた。

本当に滑稽だ。

妹のことは、呼び捨てで呼ぶのに、

こちらには敬称をつけてよそよそしく呼ぶのだ。

四年も逢瀬を重ねたのにどうして気付かなかったのだろう。

続いておびえたようにこちらを見る妹姫に向きなおる。


「正直に答えなさい。

 彼を愛しているのですか?」

「……はい、お姉さま」


ヘレナは、震えながらもはっきりと答えた。

目を見たらわかる。

本気だ。
















その日のうちにフレヤとステファンの婚約は解消された。

代わりにヘレナとステファンの結婚が二ヶ月後に執り行われることとなったのだ。

涙なんて出なかった。

心のどこかが壊れてしまったのだから。

だが、腹が立たなかったわけではなかった。

今も、妹の発言一つでも今このようにひどく癇にさわる。

人間に向かって、あれ、とは何だ。

しかし父王は妹姫の言葉に満足げにうなづいた。


「あれは、狩りの途中にとらえたものだ。

 森の民である、さすらいの一族の者らしいぞ」


ちらりと視線を向ける。

膝をつき、両手を後ろ手に縛られている男を見やる。

短い濃い茶色の髪はぼさぼさに乱れている。

引き締まった体つきをしている身体は紅茶色の肌でおおわれている。

身に着けている衣もこの国とは違うものだ。

動きやすさと丈夫さを追求したようなデザイン。

一目で異国の民の者だとわかった。

なによりもあの目。

あの緑色の目は、この海の王国ではまずめったにみかけない。

この国の民は、基本的に青い瞳を持つ。

あんなに深くて……美しい瞳は見たことがない。

その目に宿っているのは、深い知性だった。

まるで美しくて賢い、獰猛な獣のような男だとフレヤは思った。


「さて、このケダモノをどうしてくれようか」


父が獰猛な笑みを浮かべる。

フレヤはさらに眉間のしわを深くした。

フレヤの母が、フレヤが幼い頃に亡くなってから、

父王はどこか物事に対して攻撃的になった。

あの笑顔は今までも見てきた。

口ではどうしてくれよう、などと言っているが、

どうせ、民衆の前で見世物にするつもりなのだ。

ひどければ、痛めつけたりもするだろう。

この国は、今、貧困にあえいでいた。

数年前に起きた巨大な津波による被害がいまだに国をむしばんでいる。

土にしみ込んだ海の塩気はなかなかとれず、作物の不作も続いている。

貧しい生活に民の不満もたまっている。

あの男を、すべての不満と鬱憤のはけ口へと仕立て上げるつもりなのだろう。


「おとうさま」


気付けば口が勝手に開いていた。

不満と鬱憤がたまっているのは、なにも民だけではない。


「わたくし、ちょうど、おもちゃがほしかったところですの」


なるべく艶やかに見えるように父王に笑ってみせる。

父王は意外そうにこちらを見た。


「フレヤがお願いをするのは久しぶりだな」

「ええ。

 最初のお願いが……なかったことに、されましたので」


隣にいる妹姫の発する空気がはっきりと硬くなった。

ステファンとの婚約解消のことを言っているのを察したのだろう。


「ですからわたくし、心を癒すおもちゃが、ほしいのです」


にっこりと笑ってみせる。

自分でもどうしてこのような気まぐれを起こしたのかはわからない。

このむしゃくしゃした気持ちがこんな突飛な行動に走らせたのかもしれない。

父王は探るようにこちらを見ていたが、やがてふん、と鼻で笑った。


「よいだろう。

 好きにするとよい」


フレヤは笑みを深めた。


「ええ、ありがとうございます」


こうして異国の民はフレヤのものになった。

Re: マーメイドウィッチ ( No.3 )
日時: 2016/07/31 12:31
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)

父王の狩りからの帰還の宴を終えると、フレヤは男を連れて自室に戻った。


「さがっていいわ」


侍女たちにそう声をかけると、彼女たちは真っ青になった。


「いけませぬ!!

 そのような得体のしれぬ男と一つの部屋で二人きりになるなど……!!」

「大丈夫よ。

 もしもの時は、声、使うわ」


その言葉を聞くと、どこか安心したように表情をゆるめると

彼女たちは静かに部屋を出ていった。

あらためていまだに両手を縛られている男のほうに向きなおる。


「いいのか?

 得体のしれぬ男を部屋に入れて」


静かに男が問う。

低く穏やかな声。

何故かはわからないが、この男は襲い掛かりなどしないとわかる。

それに。


「私には、特別な力がある。

 屈強な兵士たちが束になって襲い掛かっても、傷一つ負わない自信があるわ」


人魚の末裔たる王族は、代々その声に魔力を秘めている。

特に先祖返りだと言われているほど人魚の血を色濃く受け継いでいるのがフレヤだ。

その声に魔力を込めて歌えば、どんな人間でも必ずフレヤの虜となり、

従順な僕となる。

ゆえに、何も恐れることなどないのだ。


「手を出して」


不思議そうな顔をしながらも、男は言われるがままに両手を差し出した。

フレヤはすっとドレスに仕込んである護身用の小さなナイフを取り出した。

それを握りしめて、力任せに男の両手を縛る麻縄を切りにかかった。

眉をしかめる。

硬い。

しかも乱雑に結んであって、男の手首には跡が残っている。


「あなた、名前はなに?」


されるがままであった男は、静かに口を開いた。


「……チノだ」


異国の響き。

しかしこの国の言語をよどみなく話せている。


「はじめまして、チノ」


ぷつり、とようやく麻紐が切れて、ゆかに落ちた。

手首をさすりながら、男、チノがこちらを見る。

背が高いのでフレヤを見下ろす形となる。


「私の名は、フレヤ。

 この国の第一王女です」


そして、つい最近恋人を妹姫にとられた間抜けな姫だ。

内心自嘲気味に皮肉をつぶやく。


「この国の王女たるものが、なぜ、おれを助けた」


フレヤは、少し驚いた。

どうやら先ほどのおもちゃがほしい、などと言ったのは

チノを救うためだと気付いていたらしい。

さとい男だ。


「別に、ただのきまぐれよ」


そらした視線を再び彼に戻す。


「チノ、あなたに質問があるの」

「質問……?」


まっすぐに、チノの瞳を見上げる。

翡翠のように美しい緑の瞳。

見ていると、吸い込まれてしまいそうになる。


「私付きの、従者にならない?」


チノがゆっくりと瞬きをする。

こちらの様子を伺っているようにも見えた。


「武器は使える?」

「……ああ。

 人並みには」

「半年、でいいわ。

 半年もすれば、おとうさまはあなたの存在自体、忘れているでしょう。

 そうすれば、あなたを逃がしてやれる。

 でもそれまでは、なにか役職が必要だと思う。

 どうかしら」


長いまつげを伏せてこちらを静かに見つめるチノを見てふと気づく。

彼の容貌がひどく整ったものだということに。

そして思っていたよりも若いことに気付く。

フレヤよりも少し年上なようにも見える。

まだ青年と言ってもいいほどの年齢だろう。


「……従おう、おまえの意志に」


きっと言いたいことが色々あったのであろうが、

チノはただそれだけを言った。

こちらの意志を汲んでくれたことにほっとして、わずかに息を吐く。


「ではこちらについてきて。

 まずは、お風呂に入って、身を清めましょう。

 着替えの服も用意させるわ」

















風呂に入って、身を清めさせてからわかったのだが、

チノは恐ろしく美しい男だった。

引き締まった体つきといい、精悍な顔立ちといい、

我が国の王族にもひけをとらない美貌だった。

そのせいか、侍女頭もチノをフレヤ付きの護衛にするといったら

あっさりと承諾してくれた。

護衛用の服をとてもに合っていて、

黒いズボンが彼の長い足をこれでもかというほどに強調していた。


「おれは、おまえをどうよべばいい」

「フレヤで構わないわ」


けれども、この美貌を見ても、フレヤは全く心を動かされなかった。

どちらかというと美しい芸術品を見ているような気分だ。

おそらくはステファンとの失恋がトラウマとなって、

男性不信のようなものが心のどこかに生まれてしまったのだろう。

妹の挙式は、なんと来月だという。

こちらは何年も交際したというのに、妹姫であればすぐにでも結婚とは笑わせる。

思考を過去の恋愛にとばしていると、ふと視線を向けられていることに気付いた。

チノだ。

緑の瞳は深すぎて、何を考えているのかわからない。

寡黙な男だ。

表情もあまり豊かなほうではないし、こういう男のほうが護衛には向いている。


「これから一年、よろしくね、チノ」


不思議な期限付きの主従関係が始まった。















~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~








*「私と踊っていただけませんか?」



今度はどこぞの貴族の嫡男だろう。

うんざりした表情を隠そうともせず、不機嫌な顔で私は後ろを振り返った。

しかし、声をかけてきた人物を見て、私は言葉を失った。

太陽の光を紡いだかのような美しい金の髪。

空よりも澄み切った宝石のような水色の瞳。

肌はミルクに赤いインクを一滴たらしたかのような、

抜けるような白さだ。

うやうやしく差し出されている手は上質な白手袋に包まれていて、

気付けば私はその手を取ってしまっていた。

ワルツなんて乗り気じゃなかったはずなのに。

ふわりとドレスの裾が翻る。

美しい音楽に合わせて、体が滑るように動き出す。

ああ、なんて楽しい。

気付けば私は声をあげて笑っていた。

身体が羽のように軽い。

私のステップと彼のステップはぴたりと合っていて

まるで何年も何年も練習してきたかのよう。

私はまた笑った。

そして、なんて素敵な人なのだろうと彼を見つめた。

そんな私を彼はどこまでも優しく見つめていてくれていて

私は、ただ彼と、広間の中央で踊り続けた。

くるくるくる

くるくるくる

回って回って

周りの景色が見えなくなる

貴方のことしか見えなくなる

あなたの瞳に映っているのも私だけ

私の瞳に映るのも貴方だけ

幻のような

うたかたのような

そんな夢のひと時

夢の欠片









~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~















するりと冷たいものが目じりを伝って耳のほうに落ちていくのを感じて

フレヤは目をゆっくりと開けた。

見慣れた豪奢な紋様の描かれた天井が目に入る。

不思議と気分は悪くなかった。

ただ、胸が鈍く痛むだけだった。

過去の夢を見るだなんてどうかしているとしか思えない。

それもステファンの、元恋人の夢を見るなんて。

フレヤは乱暴なしぐさで目じりの涙をぬぐった。

手の甲が濡れて気持ち悪い。

ちらりと窓の外を見やると、カーテンの隙間からわずかに光が漏れているだけだった。

まだ夜が明けていない時間帯だろう。


「……残酷な方ね、ステファン様」


夢の中まで現れて、こうも胸をかき乱すだなんて。

今もこうして、名を自分で言っておいて、

その名が己に跳ね返ってきて震える。


「……ひどい人」


漏れ出た声は胸がきしむような音だった。

心にある傷はまだ生傷のままで、かさぶたができる気配もない。

あの頃の、自分はまだ若くて、恋に恋をしているようなありさまだった。

夢見るように恋をしていた。

ただ、彼だけを慕い続けた。

あの穏やかな瞳が好きだった。

あの優しい手が好きだった。

包み込むような声も、その仕草も、何もかもが愛しかった。

愛しかったのに。

沢山を望んだわけではない。

ささやかな望みを抱いただけだ。

それすら叶わないだなんて。

フレヤはごしごしと涙をぬぐい続けた。

一月あまり考えないようにしていたことが、

思いがけない形でよみがえり、涙が止まらない。

忘れてしまいたいのに。

なかったことにしてしまいたいのに。

彼のすべてが自分の中から消えてくれない。

ひゅっと自分の喉が鋭く鳴った。

苦しい。

この報われない想いを、忘れることもできず、捨て去ることもできなくて苦しい。

何がいけなかったのだろう。

この気味の悪い髪色と瞳の色のせいだろうか。

それとも、感情を表に出すのが苦手だったからだろうか。

妹よりも美しくなかったからろうか。

妹のほうが女らしくて、たおやかで、まさに真相の姫君らしい美しさで。

何もかもが自分にはないものだ。

それをすべて妹なら持っている。


「こんな力……なければよかったのに」


願わくば。

もう一度。

もう一度だけ、抱きしめてほしかった。


「何を泣く」


静かな声に、びくりとフレヤの肩が揺れた。

闇に溶けるようにして立っているチノの声だった。

この男の存在を完全に忘れていた。

まばたきすると、涙がばしゃりと落ちて、慌てて手の甲でごしごしとぬぐった。

なんたる不覚。

もの思いにふけりすぎて、その存在を完全に忘れてしまうとは。

いや。

この男が気配を消すのが恐ろしくうまいだけだ。

泣き顔を人に見られるのは嫌いだ。

弱さや脆さを他人に見せるのは昔から嫌いだった。


「そういえば、あなた、護衛として今日からいたんだったわ……」


フレヤの部屋で仮眠をとりつつ、つきっきりで護衛をするということになったのだった。

おそらく、フレヤの様子がおかしかったことを察知して起きたのだろう。


「……ステファン。

 隣国の第一王子だったか」

「……元婚約者で、妹の現婚約者よ。

 ……惨めでしょう、笑いたければ笑えばいいわ」


投げやりな気持ちでそう吐き捨てるように言ったが、

チノは何も言わない。

ただ、無言でこちらに近づいてきたので、

フレヤは慌ててベッドの上で身を起こした。

しかし、それでも何も言わない。

怪訝に思ってチノの顔を見つめるが、その顔には不可解そうな表情が浮かんでいるだけだった。


「どうして、面白くも楽しくもないのに、笑わねばならない?」


フレヤはそのあまりにくそ真面目すぎる返答にしばしぽかんとしていた。

しばらくして、その口元を緩めた。


「真面目ね」


気付けば涙はいつの間にか止まってしまっていた。

まだ不可解そうな表情のチノを見て、自然に笑みがこぼれた。

Re: マーメイドウィッチ ( No.4 )
日時: 2016/08/01 09:53
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)

フレヤ……人魚の魔女の末裔の王女。
     先祖返りだと言われるほどに色濃く人魚の血を受け継いでいる。
     そのおかげで、王族の誰よりも、声に魔力を込めることができる。
     それゆえ、人を思いのままに操れる力を様々な人間に狙われることが多々ある。
     最近、恋人だったステファンが実は妹と恋仲であることが発覚し、失恋。
     そのせいで軽い男性不信のようなものにおちいっている。
     深い青の髪に、紅い瞳をもつ。
     氷姫という呼び名がつくほど、あまり感情を表に出さない。




チノ……異国のさすらいの一族、アルハフ族の若き族長。
    森にいたところをイルグ王に遭遇し、仲間を逃がすために
    わざと囚われの身となった。
    紅茶色の肌に、茶色の髪、緑の瞳を持つ美しい寡黙な青年。
    フレヤの護衛となる。
    おそろしいほどの身体能力の持ち主であり、
    特に剣の扱いにたけている。
    元々は孤児だったがアルハフ族に拾われ、
    族長にまで上り詰めた。




ヘレナ……フレヤの妹姫。
     非常に美しい少女で、姉姫とは違って、人魚の声をほとんど受け継いでいないため、
     人魚のような容姿の姉姫とは違い、
     金髪碧眼の人間らしい美しい美貌をもつ。
     数年前からひそかに姉の婚約者ステファンと恋仲であり、
     ことが露見してからは、ステファンと正式に婚約することとなった。




イルグ王……フレヤとヘレナの父王。
      妃をなくしてからは、その性格はあらゆる物事に攻撃的になり、
      現在は良き王とは言えない。
      国には貧しいものが増え始めているが、一向に直そうとせず、
      狩りなどの荒々しい娯楽に明け暮れている。



ステファン……隣国の第一王子。
       物腰が柔らかく、穏やかな美青年。
       フレヤの婚約者だったが、実は彼女の妹姫である
       ヘレナとひそかに恋仲であった。


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