ダーク・ファンタジー小説
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- 人魚 終焉無き白夜
- 日時: 2012/11/16 02:18
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: ???)
序章
今からお話しするのは遥か、遥か昔……
この国が、まだ中世と呼ばれる時代に始まり。
今でも続いている数多の……
そんな、物語の内の一つで御座います。
ーー その若者は決して、
交錯する事の無い流れを
ただ、ただ、見て来ました。
幾つかの戦で倒れた戦友。
度々あった流行り病や飢饉で…世の中の不条理で、
酷く痩せて、米の一粒も無く息絶えた子供達……
みんなの最後を、彼は見届けてきたのです。
彼はその度に涙をこぼしました。
その終着点が見えない……
孤独と苦痛の地獄を噛み締めて…………
- Re: 人魚 終焉無き白夜 ( No.58 )
- 日時: 2013/06/07 04:22
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: 643MqHaL)
番外編 転がらない石2
長く生きていればいるほど、徐々に時間の感覚が曖昧になってくるもの。
それは、様々な呼ばれ方をする異形の彼らや
この宇宙とは別世界の存在「魔族」とて同じ事である。
ただ……
それが、人間の子供と老人という程度ではなく。
生きるながさが違う彼らの時間の尺度は、体感は……
概念と定義も人間のそれとは、
かけ離れている感覚や捉え方という点では。
その曖昧さは、人間とは別物である。
その為、カジキは遠い昔の出来事をほんのこの間と捉え
自分の横を通り過ぎて往った命を風のひと吹きか、瞬く光のように感じていた。
けれども、彼の目の前にいる熊のような風貌の僧兵と…
その主君であるやつれた武士にしてみれば。
彼らが子供の頃と何一つ変わらないカジキは、
決して流れも、朽ちも、磨耗すらしない河の中の石のようなものだった。
パチッ、パチパチッ!
薪の中の樹脂が爆ぜ(はぜ)て火の粉が宙を舞い。
その赤い炎は、途方もない時間が作り上げたであろう
太古の森の中で微かに揺らめいている。
「某は、もう三十路だというのに…
お主は……
某が天狗のもとにいた時と何一つ変わっていないな…… 」
「フン……!
百年もしない内に死ぬるてめぇら人間と俺達は根本的に違う……
そんな、当たり前の事もわかんねぇのか? 」
カジキは呆れた表情を浮かべながら、
焼けたばかりの兎肉をクチャクチャと音をたてながら二人を睨みつける
「いや…わかってはおったさ。
だが、この目で見るまでは…
よもや、それがまことであったとは思わんかったのでな…… 」
「クククっ……驚いたか? 」
「まあ、そこそこはな……。
それで…一体いつから、お主は……
いや、あなたは生きておられるのだ? 」
「…………はっきりした数は知らねぇよ。
ただ、妖妲妃やタマモの前と名乗ったアイツよりも古い…
酒をかっ食らって寝てる間に、
スサノオにぶっ殺された蛇の祟り神よりも古いな…… 」
「それって……
金色白面九尾の狐と八又ノ大蛇ですかい?! 」
意外な名前が出てきた事に驚いた僧兵は、思わず声をあげる。
それは、九郎と呼ばれた武士も同じ事であった。
「天災と呼ばれる妖魔よりも…… 」
「そして、あの天狗のジジイよりもな…… 」
続く
後書き
産土神とは…
いわゆる日本神話以前の土着神の意です。
- Re: 人魚 終焉無き白夜 ( No.59 )
- 日時: 2013/06/07 14:10
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: 643MqHaL)
「恐ろしい……。
幾千年の時を生きているとでも言うのか……!? 」
番外編 転がらない石3
その人間の定規を逸脱した時間は、あまりに長く気の滅入る話しであった。
自分達が仮におち伸びて、天命である五十年生きたとしても
それは、目の前のカジキという名の者にしてみれば一割もない時間であろう。
そんな考えを知ってか、知らずか。
カジキは、言葉を続ける。
「だから、言っただろう?
俺らとてめぇら人間とは違うって 」
「つまらない事をきくな、とでも? 」
「あぁ、つまんねぇな……。
ついでに言えば源氏と平氏の争いも、
てめぇが兄貴に追われている事もどうでもいい事だ 」
「そうか……。
では、我々がしてきた事は何だったのだろうな…… 」
物心つく前に父親を暗殺され、
ついたあとは、寺に預けられて母親とも別れた。
その後、くら馬の天狗に弟子入りして武芸をならい。
そして、平氏と戦い続けた事も。
ついに平氏を滅ぼした事も全てが時やカジキにしてみれば何の価値も無いのだろうか、と九郎は訊ねる。
「さあな……
俺はすぐに忘れるかもしれねぇが。
人間自身の価値観……
今回の戦については、後の世の中が決める事だ 」
続く?
後書き
すみません。
ここで一旦、切ります!!
- Re: 人魚 終焉無き白夜 ( No.60 )
- 日時: 2013/06/09 19:30
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: 643MqHaL)
<小出し用語集>
悪魔 「宗教・生物 」
この世界とは別の世界や地獄に住むといわれる闇のけん属。
イスラームやキリスト教等の伝承通りの者はいるが、魔女狩り当時の完全悪では無く。
容姿も醜悪な姿の者いれば、相反する美麗な姿の者もいて。
狡猾、悪辣、残虐、堕落的な部分はあるが慈悲も、哀愁も、平等さも、勤勉さも有る異世界の種族。
人間に近い姿の種族が「人魔 」、ベルゼブブのように異形の種族が「魔物or魔獣 」というのが本作の定義。
政治に関しても、力や知恵がある者が上に立ち。
金銭やコネや等の他力本願ではなく、
地位は武力で勝ち取るか、実力で認められるのが普通であり世襲は滅多に無い。
また、契約をした人間の欲望を叶えるとされ
叶えられる内容は欲望と願いに応じて、その対価を支払えば良い。
中には、契約後も面倒をみる者も……
人魚 「生物・妖怪・? 」
腰から上が人間、腰から下は魚の姿をした水のけん属。
西洋においては、非の打ち所が無い美声で歌い。
古来より船乗り達を惑わして、船を転覆や沈没させる怪物であり
セイレーン、ローレライ、マーマンorマーメイドと呼ばれている。
日本においては、人魚の鱗を煎じて飲めば十年若返り。 一目見るだけでも、三年は長生き出来ると言われるが。
最も有名なのは「八百比丘尼伝説 」である。
そのお話しについては、地域伝承の誤差はあるけれど大体の伝承では。
平安時代に一人の17歳前後の女性が何も知らずに「人魚の肉 」を食べてしまう事から始まり。
望まず偶然に不老と不死の命を得たけれど、
同時にそれは、永遠に続く地獄の始まりでもあったのだ。
親兄弟姉妹や親しい人間は勿論のこと…
彼女が愛した何人もの夫や子供、孫、曾孫…
沢山の子孫のその最期を彼女は看取り続け。
時代は怒涛の如くどんどん変わっていった。
そのあらゆるものから取り残されるというとてつもない悲しみのあまりに、
彼女は120歳の時に髪を剃って出家して尼僧となったという。
しかし、それでも孤独感と寂蓼感から解放されず
さらに途方もない時間に苛み続けられた。
その後、彼女は全国行脚の旅に出て善を説き
その足跡には、椿を植えていったという。
一説には、江戸時代に故郷の若狭に戻ったと伝えられ。
彼女は洞窟に籠ったきり、二度と姿を現す事はなかったという。
また、中世から近代まで猿と魚を精巧につなぎ合わせた偽人魚の剥製が欧州に輸出されたとか。
本作品における人魚は、形態と能力的には西洋。
体質に関しては日本のもので、不老ではあるが。
不死性の有るものと、ないものの2つに別れている。
人魚の肉 「物品 」
生で食せば、永遠の若さと不死の生をもたらすという伝説の妙薬。
最も有名なのは「八百比丘尼伝説 」で、彼女の故郷である若狭は観光名所となっている。
本作においては秋田書店の某少女漫画の影響で。
体質が肉の持ち主である人魚と合わない限りは、
人魚の肉は猛毒にしかならない代物で、しかも痕跡を残さないという設定。
カジキ曰わく「毒で死ねた大半の者はとてつもなく幸運で、
体質が合って不老不死になった者は、とてつもなく不幸でしかない 」とのこと。
- Re: 人魚 終焉無き白夜 ( No.61 )
- 日時: 2013/06/14 19:27
- 名前: 珈琲猿 (ID: jF5f2bDU)
こんちくわwww
カンソウですwww
今度の主人公は、化け物以上の化け物編?
悪魔兄弟と関係ありそうっぽい感じでふ(魔界つながりで
番外編
適当なのか、めんどくさいのか、おおらかなのか
こだわらないカジキ。剛胆www
にしても、いったいいくつなの???カジキは。
- Re: 人魚 終焉無き白夜 ( No.62 )
- 日時: 2013/06/15 22:08
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: A6nvNWRl)
番外編 転がらない石4
あの深い、深い太古の森で出会った九郎という男が衣川で散ってより八百年。
カジキの目の前を途方もない時間がすり抜けてゆき、
多くのものを飲み込んでいった。
あれからまもなく開いた鎌倉幕府に元軍襲来。
のちに北条氏が立てた室町幕府を滅ぼした織田信長に
その家来であった禿げネズミもとい、豊臣秀吉が天下を取った事。
関ヶ原の戦いで伊達軍が遅刻した事や天草の一件も。
戦国乱世が遠ざかり町人文化が花開き、
新選組がその名を轟かせた江戸の世の中も、
まるで万華鏡のように様変わりしていった明治や大正…
そして、昭和は途方もない命が不条理で消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昭和二十年 八月十五日 午後
「……耐えに、耐え難き…… 」
ラジオ越しに聞こえる昭和天皇の重々しく厳粛な声は、
真珠湾攻撃で始まった陰惨な戦いが、
ラバウルやグァム等の戦地で多大なる兵士の犠牲に度重なる空襲。
そして、ラーマヤーナの再現とも言える炎は一瞬にして。
建物を。 人間を。 命を。
溶かし、破壊し、慘たらしく命を焼き殺した原爆の投下によって終わりを迎えた。
「結局、大日本帝国は負けたぜ……。
てめぇらは空襲の時。
逃げ出したら危ないからって、理由で殺されたのにさ。
人間は勝手すぎるよな……?
お前達は一体、何の為に死んだんだろう…… 」
玉音放送を聴いたカジキは。
やっと、無条件降伏という形で戦争が終わった事を
どこまでも青い空を眺めながら、静かに虚空に向けて語る。
「てめぇらは、なんにも悪くねぇのにな…… 」
短期の雇われではあるが、
多くの動物が殺されるところを見なかった訳ではなかった。
熊やライオンの断末魔や
餓死していくサイと象の様子は見てられず。
何千年いや、一万年ほど昔に死んだ最初の友と重ねてしまい……
出来れば、救いたかったが……
それをすれば、人間と同じになってしまう事から出来なかった。
その後悔の念を吐き出すかのように、呟き空を眺める。
ツクツクボーシ ツクツクボーシ
ミーン ミーン ミーン ミミーン
ジワワワっ……
「……っ!
うるせぇ、蝉だ 」
続く
後書き
珈琲猿さんへ。
カジキの年齢は、まだ考えていませんが
多分、一万年前後生きているでしょう。
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