ダーク・ファンタジー小説
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- 人魚 終焉無き白夜
- 日時: 2012/11/16 02:18
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: ???)
序章
今からお話しするのは遥か、遥か昔……
この国が、まだ中世と呼ばれる時代に始まり。
今でも続いている数多の……
そんな、物語の内の一つで御座います。
ーー その若者は決して、
交錯する事の無い流れを
ただ、ただ、見て来ました。
幾つかの戦で倒れた戦友。
度々あった流行り病や飢饉で…世の中の不条理で、
酷く痩せて、米の一粒も無く息絶えた子供達……
みんなの最後を、彼は見届けてきたのです。
彼はその度に涙をこぼしました。
その終着点が見えない……
孤独と苦痛の地獄を噛み締めて…………
- Re: 人魚 終焉無き白夜 ( No.63 )
- 日時: 2013/06/16 16:49
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: A6nvNWRl)
<小出し用語集 2>
杖 「道具」
魔法使いや魔女が持つ定番の道具。
魔法とは、本人の知識や技能そして魔力による行使のもの故。
杖とは、蛇口につけたホースのような役割をはたし、
場合によっては効力や威力を高めたり、逆に下げたりして調整をするものとしても扱われる。
また、昨今のエンターテイメントでは、本やカードor札等を使う者が出てくるけれど。
この作品では、それらは使い手の魔力や技能とわず威力や効力は一定でしかなく。
念じれば誰でも使える使い捨ての物で、ジ紙コップのような物。
つまり、紙コップ=一定の効果と威力。 ホース=魔力や知識・技能に依存するが、その分威力や効力が強くなる。
魔法使いor魔女 「職業 」
読んで字のごとし、魔法・魔術等を使う者の意。
通常、男の使い手は魔法使い。 女の使い手は魔女と区分されるが魔力等には大差は無い。
文化圏や民族によっては、「魔術師 」「呪い師 」「妖術師 」「陰陽師 」等と呼ばれる。
乗り物も一般的な箒から絨毯、巨大釡、召喚獣等様々。
彼ら(もしくは彼女ら)は魔法は勿論のこと。
医療や占い、薬草等の薬学や錬金術等に精通した。
自然や物体等、あらゆる物に力や魂や精霊あるいは神等が宿るという思想や原理「アニミズム」が常識の。
その力を借りたり、行使する優れた技術者でもある。
しかしながら、キリスト教の拡大と16世紀から18世紀においての「魔女狩り」
即ち「魔女への鉄槌」による弾圧より魔法を使う者は悪魔の下僕あるいは、そのものとされて。
「爪や皮膚を剥がれる」「致死量ギリギリまで水を飲まされる」等の拷問の末に死ぬか。
助かりたいあまりに自らを魔女と嘘の自供をしても
民衆の前で火あぶりにされたという陰惨極まりない時代があった。 その犠牲者は殆どが普通の女性。
この物語においても同じで、魔法を行使する彼ら(彼女ら)ではなく普通の人々が犠牲になり。
彼ら(彼女ら)も、根も葉も無い出たらめな噂での差別や迫害で迷惑こうむった事が史実として残っている。
なお、彼ら(彼女ら)にも魔力の強弱、知識量と技能等の差で階級・称号があり。
その頂点を極め、失われた古代魔法や大魔法、技術の数々に膨大なる知識等。
普通の魔法使いや魔女には無い絶大で強大な力を持つ伝説上の特別階級も存在する。
魔法・魔術 「技能・技術 」
人間とそれ以外の種族が使用出来る魔力を行使した技術・技能。
一口に魔法といっても多種多様で。
属性魔法、呪術・占い、召喚魔法等があり。
魔法使いや魔女の中には、それを専門にする家系や人物もいる。
- Re: 人魚 終焉無き白夜 ( No.64 )
- 日時: 2013/06/17 04:42
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: A6nvNWRl)
番外編 転がらない石5
第二次世界大戦と呼ばれる戦争が終わって凡そ七十年。
戦後の復興を果たした日本は、高度成長期を経て経済大国のトップ3となった。
しかしながら、戦争が無く平和と言えども必ずしも幸せとは言い難い。
多くの思惑や不幸は何一つ変わらないままで。
世界もまた、過去と何一つ変わり映えしていない。
食べる為に盗みをはたらいて、殺された戦災孤児もいた。
北と南で争い別れ別れになった一家もいた。
密林で超大国の兵士に、果敢に立ち向かい相討ちになった若者もいた。
航空機事故で悲惨な最後を遂げた人々もいた。
そして、二つの大地震と津波で消えていった膨大な命があった。
沢山の命が、人間が、泣いているのに。
それを一瞥もせず利己的に生きる人々の思惑に、
どうしようもない自然の脅威に、巻き込まれて。
あっけなく崩れさっていく事。 奪われる事。
その全てが、あの武士や清盛がいた時代とも。
原始時代とも、何一つ変わらない。 変われていない。
そして、カジキ自身も……
「これが、昨日まで活気があったなんて信じられねぇよ…… 」
カジキは溜め息まじりに言葉を吐き出しながら下に傾く。
その視線の先には。
つい、昨日までは自分が立つ丘の下にあった
活気ある港町のなれ果てた姿があった……。
「生者必滅に所業無常……
実にあっけないものだぜ 」
生きていれば、いずれ死ぬ。
何をなそうとも、あっけなく崩れさっていく。
それが、世界。
あるいは、秩序。 あるいは、理。 あるいは、定め。
そして、時間そのものだと理解しているけれども。
こうも、慘たらしいものは…
途方もない時間を生きていても、慣れる事はカジキには出来ない。
それが、例え人間の死でもだ。
(普通の生き物は、簡単生まれ簡単に死ぬ。
そう前に意識したのは、いつだったっけな…… )
カジキやそのけんは属価値観も、定義も人間とはかけ離れてはいる。
だが、心のある程度の部分は一緒で。
今、カジキの心中は複雑な思いとやりきれない気持ちでないまぜになっていた。
(……あぁ、思い出した
あれは、大東亜戦争が終わった時だったけな……。
あの日も、空は青かった )
そう心の中で呟きながら見上げた空は、自分が生まれた時と同じ。
何も変わらない青い、青い色で染まっている。
「いつか、てめぇら消えいった奴の事を人間が忘れるだろう。
だが、俺は忘れねぇ……約束する 」
ーー それが、てめぇら死者へのたむけだ ーー
続く
後書き
美しくも残酷で、破壊と慈悲の混沌で知らるる八百万の神……。
それが、私の日本や世界の神話の捉え方です。
カジキは不器用なだけで。
決して、ツンデレではありません。
- Re: 人魚 終焉無き白夜 ( No.65 )
- 日時: 2013/06/17 15:21
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: A6nvNWRl)
番外編 転がらない石6
一人の老いた僧侶は今回の津波で消えていった命の為に、
ひたすら海に向けて、その霊魂が心休まり救わるるようにとお経を唱えていた時だった。
「おや……? 」
それは、歌だった。
歌詞は全く。 どの様に発音しているかさえ、わからないけれども。
どこか、寂りょう感を感じずにいられず。
どこか、もの悲しい海のように透き通る男性の声である事はわかった。
「産土神の鎮魂歌か……。
一体、どんな産土神が歌っておるのだろう? 」
知り合いの宮司によれば、土着の神である彼らは。
西洋や中東等で祀らるる唯一神とは異なり。
アマテラス大神やスサノオ尊のように日本書記に載る人神もあらば。
つくも神のように、あらゆるものに宿るもの。
大神やヤタ烏のように鳥獣の姿をしたもの。
そして、別々の生き物が混合した神秘性がある…
あるいは、異形と様々な姿をしていて。
深い知恵に自分ら人間とは、逸脱した物事の捉え方精神性を有し。
与えもすれば、奪いもする美しくも残酷な神々と聴いた。
それ故に異教徒である己を「彼」はどう見るのやら、と。
もし、荒神であれば殺さるるかもしれないと不安になりながらも。
僧侶はゆっくりと歌声がするほうへと足を運ぶ。
そして、暫く歩いた先の岬にいたのは……。
整った顔立ちはしているが、まるで切っ先のような目つきの青年がいた。
「あ? 誰だてめぇは? 」
その産土神は非友好的な態度で、その辺にいる不良のような口調で言う。
「坊主が何のようだってんだ?
まさか、妖怪だっていって退治するつもりか? 」
「いや…そうではなくて。
ただ、遠くから明らかに人間ものではない歌聞こえまして。
不思議に思うてきてみたのでして…… 」
青年もとい、カジキは人間が来た事が気に入らないらしく。
強い音の舌打ちをする。
「で? 」
「一説によれば、妖怪とも呼ばれるにーー「だまれ、ジジイ 」ーーは? 」
続く
後書き
あと、一話?で今回の番外編は終了する予定です。
- Re: 人魚 終焉無き白夜 ( No.66 )
- 日時: 2013/06/21 00:50
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: ???)
番外編 転がらない石7
老いた僧侶が何かを言いかけた途端に、目をつり上げて激しい怒りをあらわにしたカジキ。
彼は無意識に殺気混じりに妖気を発しながら、僧侶の襟元を掴み言う。
「命を侮るんじゃねぇ…人間……。
何が可哀想だ。 何が悲しいだ。
そんなの単なる生きている奴の思い込みで、
そういう上から目線で見ているだけじゃねぇか! 」
「!? 」
「そんな偽善では、死んだ連中の霊魂は浮かばれるどころか、
生者を羨望し、妬み、憎んだ末に闇に堕ち。
そして、土田坊みてぇにホンモノの妖怪になっちまう 」
死者は惑う。
病や寿命など、死ぬ事を受け入れる暇があるのならまだしも。
いつもと同じはずであった何気ない日常が、津波であっけなく崩れ落ちて。
そして、自分は死んでしまった。
なのに、生きている人間がいる。
何故、自分は死んでしまったのに他人は生きている?
何故、自分は天寿を全うする前に死ななければならない?
羨ましい。 憎い。 辛い。
羨望が嫉妬へ。 嫉妬が憎悪へすり変わり。
霊魂はその憎悪で陰の気を吸い寄せ、そして堕ちる。
それが、本当の妖怪なのだとカジキは語る。
「……クライストチャージも。 今回の津波も。
途方もない沢山の命が、いきなり死ななきゃいけなかったんだ。
その途方もない死者を、てめぇら坊主は救いきれるのか? 」
「…………っ!
(無理だ。そんなに沢山の死者は……。
例え高位の僧が百人集っても……
その一部は救えるが、全てを救うには途方も無い時間がいる。
それこそ、何十年も…… ) 」
「ーー だから、“俺ら”は救ってやるんじゃなくて…
歌等を道順に、そいつらを黄泉へと出発させているのさ。
次の命こそ、天命を全うするようにと…な……
それが、魂へのいたわりであり。
そして、たむけだ。
だから、てめぇの上から目線で決めつけるんじゃねぇ!! 」
続く
後書き
台風がくる?
- Re: 人魚 終焉無き白夜 ( No.67 )
- 日時: 2013/06/21 15:25
- 名前: カササギ ◆QNO.naEbTg (ID: ???)
今回の津波でも途方もない命が消えて行った。
それでも、彼らは止まってはいられない。
生きて、生きて、死ぬまで生きなければたらない。
消えていった命へ報いる為に……
番外編 転がらない石 「終」
「それは、あの元王子も望んでいるはずだ…… 」
「それは、ブッダ様の事では……? 」
カジキがどれだけの時間を、この世界で過ごしてきたのかは知らない。
しかし、直接会ってきたかのような口ぶりからして
少なくとも、三千年以上は生きているのだろう。
それに、異教徒に関しても特に関心がないのか。
あるいは、大した問題にしていないのか?
自らブッダの話しを平気でしている事から、カジキは相当剛の者のようだ。
「そういや、そんな名で通っていたな
毒茸で食中毒を起こして、あっけなく死んだアイツ…… 」
カジキは、滅多に人間に関心や関わり合いを持つ事はない。
だが、その少ない関わり合いになった人間は覚えていた。
ブッタを邪魔しに別世界から来た悪魔も、
ブッタに象をけしかけて殺そうとした者も、
絵本にも語り継がる遠くガンダーラを目指した三蔵という男も、
そして、あの千年程前に最期まで忠誠を誓った僧兵「武蔵坊弁慶」もみんな。
「はぁ……? 」
「勿論、天照大神と月読ノ尊もな。
(そういや、スサノオ尊…アイツはどうだろうか…?
あの我が儘な馬鹿は。
一応、祟り神になっ八又ノ大蛇をぶっ殺したがアレは…… ) 」
カジキの脳裏によぎるのは、小学生ばりに悪行三昧をするわ。
母イザナミを恋しがって泣きじゃくっていたわの、
髭がぼうぼうに伸びたむさくるしくイカツイ人神。
今回の東北沖地震による津波も、リヴィアサンがらみでなければ間違い無く。
「あのオッサンが、また何かをしたに違いない」と、カジキは思う。
「わかったのなら、もうするな。
良いな…… 」
ー 平成二十五年 三月十一日 ー
あれから、二年。
津波の傷は未だに癒える事なく膿み続けていて、
あちらこちらに淀んだ海水やとてつもないゴミが嫌な臭いを発していた。
それでも、人は懸命に元の生活へ
いや、前よりも堅牢な街にしようと復興を願い。
ひたすら汗だくになりながら頑張っている。
「よしよし…もう、お往きなさい。
君のお母さんも、おばあちゃんも向こうで待っていますよ 」
{ありがとう…おぼうさん……。
やっと、ごくらくにいけるんだね…… }
小学校跡で幽霊になっていた少女は、ペコリと会釈をすると。
ゆっくりと人間としての形を無くしてゆき、
この世にない青さをもった本来の魂の形になって空へと登っていく。
{こんど、生まれてくるときは。
大人になって、たくさんの人をたすけたいな…… }
他の生徒と共に、津波に流されて短い生涯を終えた少女に。
自分が死んだ事を理解させて、共に悲しんで、あの世にいくよう促した僧侶。
彼は天に登っていく少女の霊魂を見守り。
静かに呟いた。
「おやすみなさい…… 」
おわり
後書き
この番外編を、津波で死んでいった人々に捧げます。
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