二次創作小説(紙ほか)
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- Princess Teens
- 日時: 2018/06/10 22:27
- 名前: まるき (ID: Mm9jHYga)
輝く10代になれる
- Re: Princess Teens ( No.20 )
- 日時: 2018/06/23 23:23
- 名前: まるき (ID: RO./bkAh)
部活を終えて、皆と別れた帰り道。住宅街に入り颯爽とチャリを漕ぎ始めた亮は咲李を追い越した。咲李はあの後ろ姿に敏感であるため、すぐさま亮を呼び止めた。
「亮ちゃんっ!」
亮は自転車をピタリと止め、咲李を見つけた。咲李に何気なく手を振る亮を見て、咲李の足取りは軽く亮へ向かった。
「部活お疲れさま」
「おつ」
なんか暗い中こうして亮ちゃんと歩くと恋人みたい。帰り道が遅くなってよかった。
「あのさ、こないだ文化祭に来てた女の子って本当に彼女じゃないの?」
「なわけ。逢花にLINE聞くの忘れて、文化祭きり」
亮の悲しそうというか寂しそうな横顔。自分には亮をそんな顔にさせることができないと、恐らく今のままでは無理だとわかった。私の方がずっと亮ちゃんのことが好きなのに、いっぱい喋ってるのに、隣にいるのに。あんな地味で愛想も薄くて、ノリも悪そうな女子のどこがいいんだろう。見た目こそ派手でなく清楚であるものの、ただのもさい女子高生でしょ、あんなの。
「あの子のこと好きなの?」
「…いや、好きじゃない」
「じゃあ、なんでその子のこと、考えてるの」
「あいつのこと知らないから、どんな奴か気になるだけだろ」
咲李は立ち止まっていたが、亮は歩き出してしまった。なんだか追いつけない気がした。
「逢花ちゃんって、私にめちゃくちゃ態度悪かったよ?」
俺にも素っ気なかった。俺がお化け屋敷でビビってたにしても、1人で先にいなくなるし。2回目に会ったときだって、俺に貸してたジャージを一方的に押し付けて返して、すぐ帰ろうとしてたし。文化祭のときも俺が呼び止めたみたいな。あー!なよなよして、俺きもいなぁ。
「だな」
亮は一言だけ頷いた。
- Re: Princess Teens ( No.21 )
- 日時: 2018/06/23 23:42
- 名前: まるき (ID: RO./bkAh)
もうすぐテストだ、逢花は黒板に張り出された各教科の試験範囲と課題を見て溜息をついた。美里が肩を震わせて抱きついてきた、そうだ。美里、赤点取ったんだ前のテストで。
「逢花お願い、数学と化学教えて」
「一番いいのは由奈だよ」
「やめてよ!私今回やばいんだから」
由奈は一番頭がいいはずだが、ミーハーなのが残念。美里は美人なのだが、ミーハーなのが残念。
「はい、座れー。あ、森田お前赤点取るなよ」
「先生まじ酷すぎー」
美里を担任であるおじさんがいじると、クラスには笑いが起こった。クラスメイトが席に着くと、おじさんは咳をした。
「うちのクラスに教育実習生が来てます。理系の慶應ボーイ、はい、入ってください」
スーツ姿でスラっとした長身。どっかで見たことある。
「おはようございます、毛利寿三郎といいます」
黒板に自分の名前を書いて、また向き直った。
「理学部なんですが、一応教育実習生です。担当教科は物理で、中高テニス部でちょっとはできます。よろしく」
この不慣れな標準語とちょっと優しい目。多分…コインランドリーであった。寿三郎さんだ。逢花はただボーッとしているだけであったが、早速生徒から質問攻めに合う寿三郎は生徒の顔を見ながら、遂に逢花の姿に気がついた。
「ね、どちゃくそイケメンね」
「なんかもう、神様ありがとう」
美里と由奈は2人で寿三郎を拝んでいる。
「理系選択のヤツらは何回かお世話になる。あと、HRはいるからな。毛利先生もぜひうちの生徒に気兼ねなく怒ってやってください」
「先生に怒っていいっすよー」
「うるさいぞ」
男子がおじさんをいじるのも、耳に入って来なかった。明らかに寿三郎は逢花を見てニヤッと笑ったのだ。
- Re: Princess Teens ( No.22 )
- 日時: 2018/06/24 02:05
- 名前: まるき (ID: RO./bkAh)
「コインランドリーぶりやな」
「学校で話しかけてこないでください」
「先生が生徒と話すんはあたりきやの」
「あたりき…」
「あたりまえっちゅーことやで」
ゴミを捨てに体育館裏に行ったら、寿三郎さんがいた。他クラスの女子生徒とここまで来たのか、女子生徒たちは寿三郎に手を振って校舎に戻っていった。
「あのとき、学校休みやなかったんやろ。なんでわざわざコインランドリーよ」
「寿三郎さんが気にすることじゃないですよ」
久々に会ったらすごいグイグイくる。威圧感があったので、背を向けて話すことにした。
「なんかあるんとちゃう」
「ないですよ」
なにか心配されるとヘラヘラするくせがついたのか、さっきまで交わしていた表情とはちょっと違い明るく笑って見せた。
「自分、家帰れんのや」
「違います」
「飯食う金もなかったろ」
「たまたまです」
この感じ…母親に捲し立てられるのに似ててすごいやだ。頭がパニックになる。やめてよ、声聞きたくない。でも逢花はまだ気丈に笑っている、声だけが震えている。
「ほんだら、あんとき」
「やめてよ!」
逢花は叫んで寿三郎が何を言ったのか分からなかった。逢花が我に返る前に寿三郎は口を開いた。
「言えないこと、あんねんやったら…聞くで」
「…」
「こういうんは同じ者同士話さな。まぁSOSはお前から出したら俺行くわ」
同じ匂いがする。そしてあいつに似ている、神島逢花は。無造作にゴミを投げ捨てて、寿三郎を無視して逢花はその場を去った。寿三郎は大きく背伸びをした。
- Re: Princess Teens ( No.23 )
- 日時: 2018/06/24 02:44
- 名前: まるき (ID: RO./bkAh)
逢花はそれから落ち着きがなく1日過ごしていた、忙しいバイトの時間に心を落ち着けて今度は沈んだような放心状態で帰路に着いていた。私は絶対に外に自分を出さないことを決めてきた。明るく適当に笑っていれば、人は自分を避けない。重大なことは肯定しなければ責任はやってこないし、思ってることは言わなければ誰からも責められない。私自身を卑屈だと思ってるから別にいいんだ。感情が起きてこないことがほとんどだ、今日を除いては。
今日は風が冷たい。橋に差し掛かる、もう寒くなってきたから高架下には誰もいない。本当に誰もいないんだ。自分の周りに人が、逢花は久しぶりに寂しさと孤独と自分が置かれている状況への腹立だしさが入り交じったものに襲われた。
「誰か助けてよ…」
逢花は橋の手すりを伝って、座り込んでしまった。涙が止まらない。ダメだ、本当に自分なんか。いらない。
「逢花!」
塞ぎ込んでた腕を掴まれて、月明かりが顔に当たる。眩しくて顔を顰めると、そこには見覚えのある顔があった。
「どうしたんだよ!」
「亮くん」
「なんかわかんねーけど、俺が助けるから!」
「…」
「泣くなよ」
亮は逢花の手を取り立ち上がらせるのかと思えば、逢花が座り込んでいる目の前にあぐらをかいた。
「泣いたら目ぇ腫れるぞ」
「大丈夫」
「…大丈夫じゃねーだろ」
涙でぐちゃぐちゃの顔を見せたくなくてずっと下を向いている。一生会わないと思ってた、こんな姿を一番見せたら行けない人に。ただの女子高生で終わるはずだったのに。
「上手いもん食いに行くか?…俺、女の慰め方わかんねーや」
1人でどうしたらいいか迷い始めた亮。
「帰る」
「え?おい、ちょっと待てって」
またどっか行っちまう。
「俺が嫌ってんなら、別にいいけど。理由とか聞かねーし」
「…」
「寂しいだろ、何回も会うのにすぐお前消えるの」
「ダメだよ」
「え?」
「私本当は最悪だよ」
「いいだろ。さっき助けるって言ったし」
当たり前のように私を「助ける」と言ってくれた亮くんの目はまたすごく澄んでいた。歯を見せて笑う亮に釣られて、逢花も笑顔になる。
「本当に?」
「男に二言はねーよ」
亮は立ち上がった。逢花もゆっくりと立ち上がる。
「亮くん、ありがとう」
「おうよ」
逢花は亮と同じように、柵に肘を乗せて暗い川の水面に浮かぶ月明かりを眺めた。
「やっぱりなんか食いに行くか、俺腹減ってるし。まだ8時だぜ?」
「いいの?」
「俺のおごりな」
「あ、陽也に夜ご飯作ってかなきゃ」
忘れてた。逢花は申し訳なさそうに亮を見た。
「お前、料理作れんの?」
逢花の表情から夕食を断ったのは読み取れなかったようだ。
「え?うん。まぁ」
「食ってみてえー」
「今日はポトフとスパゲティ」
「美味そう」
「食べに来る?」
「いいのかよ?」
亮は携帯を開いて、母親に夕飯いらねと送った。
- Re: Princess Teens ( No.25 )
- 日時: 2018/06/24 03:18
- 名前: まるき (ID: RO./bkAh)
「狭いけど、適当に座って」
割と新しいアパート。テレビは小さいのがあるがテーブルのみでソファーはなくベッドがある。もう一部屋隣にあるが、特別広い訳では無いだろう。亮はベッドとソファーの間に座った。
「何人家族?」
「弟と2人」
あぁそうなんだ、亮は聞くのをやめた。キッチンでは水が流れる音が聞こえる。逢花はエプロンを付けて、冷蔵庫に手際よく食品を入れたり、リズムよく包丁を使っていた。
亮は小さい台所で動く逢花を見ている。
「あと何作れんの」
「寒くなってきたからね、鍋とかグラタンとか。煮物なんかもする」
「ほぇー。あ、弟って今何歳?」
「中三、15歳」
遅くまで塾に行ってんだろうな、俺なんかエスカレーターだから何もしなかったけど。スポーツ特待生だし。弟の部屋に勝手に侵入する亮、部屋には服が丁寧に掛けられてあるが、マンガや教科書なんかは無残に散らばる。…俺の部屋みたいだ。
「手伝うことあっか」
「ない」
亮は大人しく座っていることにした。逢花はスパゲティを茹で上げている間、圧力鍋に全ての切った野菜を入れている。コンソメや鶏ガラを加え水を適当に入れて、火にかけた。ほんの30分で終わる調理である。
「できた」
盛り付けがされた状態でスパゲティとポトフがやってきた。亮は手を合わせ、すぐさまポトフを口に放り込む。一瞬、動きが止まり額に皺を寄せた。亮の向かい側で、表情と感想を伺っている逢花は、不安である。亮はまた食べ始めた、今度はものすごいスピードで。瞬く間にスパゲティも完食してしまった。
「ごちそうさまでした」
「…どう?」
「めちゃくちゃ上手いぜ!」
「よかった」
めちゃくちゃ無言で口にかき込むから感想がよく分からなかった。逢花の顔も綻んだ。
「店出したら?」
唐突すぎる亮の提案が、逢花には面白かった。
「LINE交換しようぜ」
「いいよ」
やっと連絡先を交換した。
「あ、アイコンポトフにすりゃよかった」
「可愛いかよ」
もう時間になってしまう、10時前には帰らないといけない。
「また飯食いに行っていい?」
「うん」
「俺あんまりケータイさわんねーけど、連絡くれよ」
「わかった」
「じゃあな」
手を振って、亮は自転車を漕ぎ出した。逢花はその姿を確認し、アパートへ戻る。洗い物を済ませ、パジャマに着替える。心做しか笑顔に溢れていた。
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