複雑・ファジー小説

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当たる馬には鹿が足りない【更新停止】
日時: 2019/04/09 23:57
名前: 羅知 (ID: miRX51tZ)

こんにちは、初めまして。羅知と言うものです。
普段はシリアス板に生息していますが、名前を変えてここでは書かせて頂きます。

注意
・過激な描写あり
・定期更新でない
・ちょっと特殊嗜好のキャラがいる(注意とページの一番上に載せます)
・↑以上のことを踏まえた上でどうぞ。

当て馬体質の主人公と、そんな彼の周りの人間達が、主人公の事を語っていく物語。




【報告】
コメディライト板で、『当たる馬には鹿が足りない』のスピンオフ『天から授けられし彩を笑え!!』を掲載しています。
髪の毛と名前が色にまつわる彼らの過去のお話になっております。
こちらと同じく、あちらも不定期更新にはなりますが宜しくお願いします。



一気読み用
>>1-


分割して読む用

>>1-15
>>16-30
>>31-45
>>46-60
>>61-75
>>76-90
>>91-115

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.37 )
日時: 2017/03/08 01:00
名前: 羅知 (ID: .KuBXW.Y)

「はい!!貴氏高校の皆さん、本日は私立彩ノさいのみや高校へようこそ!先生がこの学校の演劇部の顧問、秦野結希(はたの ゆうき)です!!早速だけど自己紹介してもらっていいかな?軽くでいいから」

「…貴氏高校1年B組濃尾日向です。『不思議の国のアリス』の劇で………『赤の女王』役をやるので、演技の指導をして頂けて嬉しく思います」

「……同じく貴氏高校1年B組菜種知です。『不思議の国のアリス』の劇で『チェシャ猫』役をやることになりました、本日は突然の頼み事を了承して頂き本当にありがとうございます」

 そして週末。菜種の知り合い?は”先生”らしく、そのツテを使って今回のこの演劇指導は成立したらしい。確か彩ノ宮高校の演劇部は毎回県大会に行っていたはずだ。その演劇部でこうして指導してもらえる経験はなかなかないだろう。…僕の演技は置いといて、ここでこうして指導を受けることに損はない。

 やるならしっかりやる、それが僕の信条だ。

 顧問の秦野先生は二十代半ばの中性的な顔立ちをした明るそうな先生だった。しかしこの秦野先生が相当な切れ者らしく、彼女はどんな役でも演じることが出来るということでとても有名で、元々演劇強豪校だった彩ノ宮高校も彼女が来てから、益々勢いが増してきているらしい。才能と言うのは本当に凄いと思う。
 

「あはは!!二人ともそんなに堅苦しくしなくても全然いいよ!!…さあさあ奥でうちのエースちゃんが待ってるから!ちょっと個性的な子だけど、凄い努力家で先生なんかやりも二人にうまく教えてくれると思うから」

*****************************************************************

「…さぁ!!この深い深い森に、迷い込んできた旅人達に救いの手を、さぁ!!その赤い赤い果実を私の手に乗せて、そう!!その果実の名は『愛』!!どうか私にその愛を!!」



「ね、凄いでしょ?愛鹿社めじかやしろちゃん」
 
 演劇部のエース、愛鹿社は僕達と同じ1年生らしい。幼い頃から演劇を続けてきた彼女は演劇部の中でも圧倒的な演技力を誇っており、他の一年生からも一目置かれているのだそうだ。

 ショートに短く切りそろえられた髪は、彼女が動く度に小さく揺れ。
 また、額に煌めく汗は森林の中を走り抜ける剣士を想像させた。

 
 なるほど。確かに彼女の姿には、目を惹かれるものがある。きっとこの調子なら彼女はきっと女子にも好意を寄せられているのだろう。一年でエースなんて、周りの人間に虐められないのだろうかなんて考えたのだけれど、杞憂だったようだ。彼女の姿を見たら、納得せざるを得ない。

 彼女が絶対的エースであることを。

 彼女にはそれほどのオーラがあった。……だけど。彼女の姿を見て初めに思ったことは今まで長々と連ねてきた言葉とはまったく違うものだった。

 そう。彼女の持つ雰囲気は。


「ねえ、菜種…。あの人………」

「…そうですね。そっくりです」







 ---------馬場満月の雰囲気に酷く似ていた。

**********************************
「二人とも初めましてだな!!私は愛鹿社めじかやしろ、このゲキブの、しがない一団員だ。私などが、演技を教えるなんておこがましいと思うが、今日はよろしく頼む!!」

 一通りの演技が終わると、愛鹿はそう言って僕達に眩い笑顔を見せた。…同じだ。”馬場満月”の”完璧な笑顔”と何一つ変わらない。心からその笑顔が出ているというのなら心底気味が悪いが、もしも”愛鹿社”も”馬場満月”と”同じ”だとするのなら。

「どうかしたか?」
「……いや、なんでも」
「そうか!!それならいいんだ!!…なんだか考え込んでいる風だったからな。体調でも悪いのかと思ったんだ。同学年なんだ、何か困った事があったら何でも言ってくれ!!」

 そう言って彼女はまたにこりと笑う。その顔を見て僕は先程まで頭に浮かんでいた下らない妄想をかき消した。爽やかな笑顔。裏なんてなさそうな屈託のない表情だ。……よく考えたら、馬場のような人間がそんな二人も三人もいるわけがないのだった。それに愛鹿社と僕は合って間もないのだ。彼女も他校からやってきた訪問者に全力の対応をしているだけなのだろう。なにせ彼女は演劇部のエースだ。僕たちに対して”最高の笑顔”を浮かべる演技なんていとも簡単に出来る。そしてそれは何かを隠してるのではなくて、”わざわざわが校にやって来てくれたお客様”に対する礼儀に過ぎないのだ。

 色々考えすぎて馬鹿を見たような気がする。

(それによく見たら、馬場にも似てないんだよな)

 勿論先程言った通り、笑顔の浮かべ方や喋り方は出会った頃の馬場にそっくりだ。けれど彼と彼女の”笑顔”には完全な違いがあった。


 演劇部のエースとして浮かべる彼女の笑顔。



 僕はそれに、馬場に感じたようなあの凄まじい”嫌悪感”を感じなかったのだ。

 

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.38 )
日時: 2017/05/03 17:09
名前: 羅知 (ID: fPljnYyI)

*************************************
 濃尾日向と菜種知に発声練習のみ教えると、秦野結希と愛鹿社は休憩するといって、彼らのいない体育館裏へ言った。

 ぽつり、と口を開く愛鹿。その表情は暗い。

「……先生、それであの子達は一体何を演じるんですか?先生は初めから知ってたんですよね。それでも敢えて先生は私に何も言わなかった。何の”意図”を持って黙ってたんですか?」
「”意図”だなんて酷い言い方だなー?先生は別に誰かに何かをさせたい訳じゃないよ。社ちゃんが驚く顔が見たかっただけ。ただそれだけだってば」
「…………そうですか。私をただ”苦しめたい”だけですか。良いですよ。心構えは出来ました。どうとでも酷いことを言って下さい」
「……はは。凄く冷たい顔。さっきとは大違いだね。…”自分すら騙す演劇部のエースさん”先生の前では”演技”しなくていいの?」

 ————愛鹿社は知っている。この”演技の天才”の前ではどんな”演技”も無意味なのだと。自分すら気付いていなかった無意識の”演技”を彼女に気付かれた時から、彼女は彼女の前で”気取る”のを止めた。

 やったって無駄なことをする意味なんて、無い。

「……じゃあ言うよ。彼らがやるのは”不思議の国のアリス”だ。まぁ脚本を担当した子のこだわりが強かったのか大分改変されてて原作とはほぼほぼ別物だけどね。たしか改変したタイトルが……【嘆きの国のアリス】だっけ?アリスという名前の少女が迷い込んだ世界は、不思議の国のアリスのキャラが皆鬱みたいになってましたー!!って言う話。よくこんな話思いつくよね。感心しちゃうよ」

 渡された台本を開きページをぱらりとめくる。確かによく出来た話だ、と思う。不思議の国のアリスは昔演じたことがあるが、物凄く難しかったのを覚えている。……あぁ、あの頃一緒に練習してくれた”彼”は元気にしてるだろうか。高校に進学してから会えていないが”彼”のことを忘れた日なんて一度も無い。

 また、会いたい。そう強く願う。

「あは、懐かしい?先生も覚えてるよー。社ちゃんの演技。凄く上手かったもん。……さてあの子達の役名を発表するよ、菜種ちゃん…女の子の方は【希望をなくしたチェシャ猫役】それで濃尾君……あの可愛らしい男の子の方は【元の赤の女王を殺して現赤の女王になった白の女王役】…だよ。どう?驚いた?」

 姉。愛鹿社には姉がいる。同じように演劇をやっていた姉。
 昔やった演劇の配役は、自分が白の女王で姉が赤の女王だった。

「……は。なんですか、ソレ。私が姉を殺したっていいたいんですか。えぇ!!それはもう殺したい程憎かったですけど、姉が”死んだ”のは事故ですよ。私のせいじゃあありません」
「”死んだ”じゃなくて、”意識不明で目覚めない”でしょ?まだ死んでない」
「私に毒を吐かない姉なんて、死んでるも同然です」

 半年間姉は目を覚まさない。なまじ顔のパーツだけはそっくりだったものだから、見に行く度に自分が死んでる姿を見るようで気分が悪い。

 私は”私”だ。

 そう言い聞かせていないと、自分が”姉”であると混同してしまいそうで怖かった。

「…まぁなにはともあれ。その顔は直してからあの子達の前に行ってね。特に濃尾君の前では顔を作っていって」
「…自分でそういう風に仕向けた癖に何を言っているんだか。薄ら寒いですよ。………まぁ心配しないで下さい。どうせもう」

 そういって彼女は言葉を続ける。





「……彼は”私”のこと見抜いてますから。さっきから”そういう”顔してましたからね。あの子」

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.39 )
日時: 2017/03/15 07:44
名前: 羅知 (ID: UmCNvt4e)

*********************************************
「やぁ尾田くん、待ったかい?」
「いえ……つーか、わざわざ休日に出勤させちゃってすんません……」
「ふふ……いいんだよ。悩める生徒を助けるのが教師の役目だからね」

そう言って紅先生はふにゃりと気の抜けた笑顔で笑う。そんな先生の顔を見ていると、最近ささくれだっていた自分の心も和んでいくような気がした。

今日は土曜日。

俺----尾田慶斗が、こうして休日に先生と面会しているのには並々ならぬ訳がある。

昨日のHM、馬場が倒れた。およそ倒れるなんて誰も予期していなかっただろう馬場満月が、まるで漫画のように倒れた。真横に。ばたりと。
しかし、俺は見ていたのだ。馬場が倒れる直前、濃尾日向に何かを呟き----それを聞いた濃尾も、顔を真っ青にして、馬場と共に保健室へ向かった。

これがおかしいと思わない訳がない。

そういえばあの時馬場は、言っていた----濃尾君は、俺に逆らえない。俺が死ねといえば、死ぬだろう。と。そこで俺はある可能性に思い立ったのだ。

もしかして濃尾は馬場に弱味を握られていて、脅されているのではないか----と。
馬場と急に"親友"なんかになったのも、濃尾が何か下手なことを言わないように--見張ってるんじゃないかと。
これはあり得ない可能性なんかじゃない。確かに情報家である濃尾を出し抜くには相当の技量が必要だが、あいつなら----馬場満月なら、出来るかもしれない。

それなら確認しなきゃいけない。保健室に向かった二人の行方を。

俺はそんな志を持ってそっと教室を抜け出し、保健室の扉に手を掛けた----ところで、後ろからがしり、と俺の肩を掴む手があった。

「どうしたの?尾田君?」
「せ、先生--------」

驚いた。気配が感じとれなかった。……いや、そうではなく俺がそれほどまでに集中していたということだろう。
落ち着いて深呼吸をし、予め用意しておいた台詞を先生に言う。

「----心配になったんです。馬場と、濃尾のことが。馬場なんか、今日は朝から青かったし。だから様子を見にきたんです」
「そうかい?でもそれなら今は止めておいたほうがいい------馬場君も、濃尾君もぐっすり眠っているところだから。病人を起こしちゃ悪いだろう?」

でも心配してくれて二人とも喜んでると思うよ、ありがとう--そう言いながら優しい笑顔で先生は俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
紅先生は人気者だ。その理由の一つが、ことあるごとに褒めてくれるこの優しさだ。先生なら----先生ならば俺の抱えているこの悩みを解決してくれるかもしれない。そう思って俺は。

「あ、あの先生----!!」
「うん?」


--------そうして今に至る。目の前の紅先生はぽつりぽつりと話す俺の言葉を嫌な顔一つせず、にこにこしながら聞いていた。全て話を聞き終えると、先生はうんうんと頷きながら俺の目を見た。

「そうか。そんなことがあったんだね----最近尾田君は何か考え込んでいるから、何かあるとは思ってたんだけどそんなことがあったとは」
「俺の話を信じてくれるんですか!?」

自分で話していても、この話はとても荒唐無稽だな、と感じていた。もし同じことを人から言われたら俺は信じることが出来ないだろう。

「信じるよ?生徒の話は誰でも無条件に信じるさ----それに、僕も気になってたからね。馬場君のことは。今の尾田君の話を聞いて、あぁ馬場君も人間だったんだなぁとしみじみ感じてるところだよ」
「……?今の話に馬場の人間らしいエピソードなんてあったっすか?むしろ人間性を疑うようなエピソードしかなかったように思うんすけど……」

俺が不思議そうにそう言うと、紅先生は楽しそうに笑いながら。

「情報を整理してみようか?」

そう言って紙とペンを用意した。
紙にペンでさらさらと何かを書きながら先生は説明を始める。

「まず、馬場君が尾田君にしたことから振り返ってみよう。君から考えたら酷いことをされたとしか思えないだろうけど……結果としてはどう?君は椎名君と仲直りできた。椎名君は殺されなかった。ほら?良いことづくめじゃないか」
「そう……すけど、でもそれはたまたまで!!」
「ふふ……じゃあ視点を変えてみよっか。そうだね…例えばだけど、もしも尾田君が取り返しのつかない大失敗をしたとする。そんな君の目の前にかつての自分と同じ失敗をしようとする君の知り合い……そうだね、椎名君だと仮定しようか。椎名君がいる。さて、君はこの後どうする?」

そこで先生はペンを書く手を止め、もう一度俺の目を見た。どういう意味だろう。

「どうするって……そりゃ止めますよ。大切な人に自分と同じ失敗はしてほしくないっすからね。当然じゃないすか」
「だよね。じゃあ話を戻すよ。これはあくまで僕の下らない妄想だけれど…"馬場君は昔取り返しのつかない大失敗をした。それは尾田君と同じように自分の気持ちを相手に伝えなかったから生じた。そんな時に同じように片思いに甘んじようとする尾田君が目の前にいる。思わず馬場君は感情的になって、尾田君を止めるために荒療治をした。"」
「………………」
「信憑性がない?あくまで妄想だ?…そうかな。だって理由がないじゃない。馬場君がわざわざ尾田君の前で本性を晒した理由がさ?"弱味を握られているならともかく"尾田君の前で本性を晒して、自分のリスクを増やして馬場君の得になることなんて何一つないんだよ。そうなったらそうした理由は一つ、"感情的になってしまったから"だ」

そうして先生は書いていた紙をゴミ箱に捨てて、ペンをもとの場所にしまった。

「ま。あくまで僕の妄想だからね。あとは尾田君の好きにするといいよ。おや?」
「……………なんですか?」
「ゴミ、付いてるよ。後で僕が捨てておくね」
「ありがとう、ございます」

色々と。そう言って俺は教室の扉を静かに閉めた。
これからどうするのか考えながら。

*********************************************
尾田慶斗の足音が遠ざかったのを確認すると、紅灯火は持っていたゴミ------盗聴機に向かって、この盗聴機を仕掛けただろう人物に話し掛けた。

「馬場君だよね?」

盗聴機なので、無論返事は聞こえるはずがない。しかしそんな事を気にすることもなく、紅灯火は話し続けた。
教師が生徒を諭す声とは違う声で。

「残念ながら、君の野望は崩れさったよ。君は尾田君にこれからつきまとわれることになる。心配されることになる。僕のことが憎いかい?」

無論返事はない。

「一人でどうにかなるなんて思わない方がいいよ。"僕達"は君達子供と違って沢山のツールがあるんだから。君がどんなに足掻こうが、いずれ君は現実を知ることになる。どうにもならない、って」

無論返事はない。

「どうしてこんなに構うのか、って?そりゃあ君が"僕達"の愛すべき天使様である"ヒナ君"の親友だからだよ。あの子はあの子が思っている以上に愛されている。あの子がそれを拒否していたとしてもね」

無論返事はない。

「…もしも、あの子を傷付けるようなこと君がしたとき、"僕達"は全力を持って君を"潰す"。生きていることを後悔するような手段を持ってして」

無論返事はない。

「……最後に。これは教師としての忠告だけれども、本当にダメになったときには"彩ノ宮病院"の"濃尾彩斗(のうびあやと)先生"のところへ行くといい。きっと君の力になってくれるよ」

それだけいって、彼はその盗聴機をぐしゃりと踏み潰す。



無論返事はなかった。





Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.40 )
日時: 2017/03/16 09:10
名前: 羅知 (ID: M0NJoEak)

**********************************************
(あの、クソ教師………)

尾田慶斗と紅灯火の会話を聞きながら、馬場満月は一人小さく溜息を吐く。

馬場満月の"計画"はこういうものだ。
尾田慶斗が自分達、特に自分に不信感を抱いている事は分かっていた。今回の"計画"は、その不信感を払拭させるためのものだった。 だからわざわざ"あの時の冷たい自分"と似たような役にしたのに。脚本を担当したのも、わざわざあの役に立候補したのも、全てはその為。

しかし、それもこれもあの教師のせいで全て台無しだ。

"演技"という名目で、あの"冷たい馬場満月"を公衆の目前で演じ切れば、俺達の"嘘"の信憑性がぐんと増す。尾田慶斗との関係も元の形に戻り、俺はまだまだ"馬場満月"をし続けれる。

そうなるはずだったのだ。そうなるはずだったのに。


(最悪だ……この俺が、出し抜かれるなんて)




『馬場君だよね?』

ふと盗聴していたイヤホンから、あの憎たらしい声が自分に語りかれられるのを聞いて背筋が凍る。

気付いていたのか。

気付いていた上で、あんな"出鱈目"をのうのうと口走っていたのか。俺が"大失敗"を犯した、なんて大嘘を。

俺はそんな人間じゃない。

あの時の俺は感情的になんてなってなんかいない。あれは全て"計画通り"のことなのだ。絶対にそうに決まってる。そうじゃなきゃおかしいんだ。だってだってだってだってだってだって俺は"馬場満月"なんだから。"馬場満月"は誰とも結ばれない"当て馬"で、いつだって明るくて、笑顔がとびきり素敵だった"あの人"のように、あれ、あれ、あれあれあれあれあれ"あの人"って誰だったんだっけ?"オレ"は元々"誰"で、いや違う。ちがうんですってば。こんなのは"オレ"じゃない。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!


様々な雑念が頭の中を暴れまわる。もうまともに周りの音なんか聞こえないくらいに荒い呼吸をしながらそれでも、それでも。聞き続ける。もうイヤホンを外す余裕もないほどに、ただただ惰性的に聞く。その"言葉"を。

『------------いずれ君は現実を知ることになる。どうにもならない、って』

何を、言っているんだ。これが"現実"だ。俺の信じていることこそが"真実"で"現実"なんだ。何も知らないくせに勝手なことを言わないでくれ。
どうにかなるんだよ。"こう"していれば。きっと"何か"が"どうにか"なるはず------------

『--「五月蝿い!!!!」

まだあの男は何か言っている。なにがヒナ君だ。何が天使様だ。あれは"濃尾日向"だろ?以上でも以下でもなくそうなんだ。愛してなんかやるなよ。アイツは"今のまま"が一番"幸せ"なんだから。ああああああもう全部全部アイツのせいだ。アイツのせいで全ての計画が狂ったんだ。アイツが"ミズキ"を望むから。"馬場満月"は崩れ始めた!!

初めて見たときから"大嫌い"だよ、あんな奴。

生きていることを後悔するような手段?生きていることを後悔なんて初めからしているさ。ずっと消そうとしてるのに消えないんだ。"俺"の中から"オレ"が!!!!ねぇ早く消してくれ、早く消してくれなきゃ。

「あは、は、は、ははは……」

渇いた笑い声を上げながら、一人でに手が動く。何か切れるモノを。己に"痛み"を与えられるモノを探し求めて。

手に何か当たる--------少し錆びた、カッターナイフ。

「ひひ、ははは…ははははははッ!!あはは、はははッ」

まるで金のない麻薬中毒者が、使いかけの麻薬を見つけた時のように------いや、もう、それそのものなのかもしれない------狂喜に満ちた目で、馬場満月はそのカッターナイフの刃を一気に押し出した。"自分の肌"に向かって。

そしてそのままそれを横に滑らす。何度も。何度も。その度に腕からは真っ赤な血が噴き出す。ざくりざくりと今度は垂直に太腿に刺してみた。途端に、感じる気の遠くなる程の鋭い痛み。

「ははッ………………!!」

痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。頭の中がただその言葉に侵食される。嫌なことも。辛いことも。思い出したくないことも。考えたくないことも。全部全部"痛み"に変わっていく。

あぁなんて素晴らしいんだろう。
この時だけは、俺の中から"オレ"が消えてくれる。






しかし、その時彼は確かに聞いたのだ。


「やし、……ろ……?……んで、…そこに?」


もう意識も飛びかけ、手に持っていたカッターナイフも血溜まりに落ち、夢の中で彼は"繋いでいたもう一つの盗聴機"から、"愛しかった彼女"の懐かしい声を。


**********************************************
第三話【Aliceinwonderland】→【Aristo myself】

何もかもが狂ってしまった世界の中で、とびっきりの自分を演じていた。
笑っていれば何とかなるとか、そんな儚い希望を胸に抱いて。だけど、それただ自分が狂ってしまっていただけなのかもしれない。
今でも自分はこのおかしな世界から出ることが出来ない。


+馬場満月+ばば みずき

貴氏高校一年B組(この時点)に属す。驚異の当て馬。頭は働く。”当て馬”になってる理由があるらしい。身長180で体格はいい。濃尾日向ののとが大嫌い。リストカッター。兄?がいるらしい。


*濃尾日向*のうび ひなた

貴氏高校一年B組(この時点)に属す。学校有数の情報屋。身長自称151だが本当は150切っている。かなり細く、女装が似合う。中学以前の記憶がないらしい。夢の中で二つの人格と語り合っていたが、仲違いした。馬場満月が親友。


*尾田慶斗*おだ けいと

貴氏高校一年B組(この時点)に属す。茶髪で軽い雰囲気。優しいらしい。あだ名はケート。馬場曰く「一般道にある落とし穴」みたいな人。椎名葵が幼馴染。白菜ッ!様投下キャラ。馬場との件を紅灯火に相談した。一体彼はこれからどう動くのか。


+菜種知+なたね とも

貴氏高校一年B組(この時点)に属す。肩くらいまである黒髪。けだるげな雰囲気。ウソと本当をいり交ぜて喋る(直後ばらす)椎名葵と仲が良い。母親の影響でいつも笑顔の人間が苦手らしい。馬場満月と、濃尾日向のことを怪しんでいる。河童様投下キャラ。


*秦野結希*はたの ゆうき

彩ノ宮高校演劇部顧問。演劇の天才。初対面で愛鹿社の地を見抜いたらしい。


+愛鹿社+めぐか やしろ

一年生にして彩ノ宮高校演劇部エース。小さな頃から演劇をやっているらしい。姉がいるが、現在意識不明。姉のことが嫌い。馬場と雰囲気が似ているが、濃尾日向は彼女の笑顔には嫌悪感を感じないらしい。表裏が激しい。


*紅灯火*くれない ともしび

貴氏高校一年B組の担任。担当教科は国語の現代文。ふわふわとした朱っぽい髪が特徴的。何か目的があるような動きが目立つが、その目的は濃尾日向に関係があり、彼以外にも数人が濃尾日向の為に動いているのだという。


+濃尾彩斗+のうび あやと

彩ノ宮病院の精神科医。名字からして彼の関係者ではある模様。色々と不明。


Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.41 )
日時: 2017/03/20 07:06
名前: 羅知 (ID: ysgYTWxo)

第四話【AliceinKingdomofmirror】



夢を見た。


「…いい夢見たか!!×××!!……今日も楽しんで行こうな?」


オレの隣で社が、笑っていた頃の夢。


「…この喋り方、か?……ふふ×××のお兄さんのマネをしてるんだ。学校で王子様役をやることになったから。あの人ってまさにそんな感じだろ?」


君はいつでも微笑んでいてくれて。


「無理なんかしていないよ、×××。…これは私にとって"けじめ"なんだよ。色んな意味でね。……凄い?私が?……ううん、×××の方がよっぽど凄いと私は思う。何で皆×××の演技の旨さ分かってくれないんだろ」


オレはそれにただ頷いて、笑い返すことしか出来なくて。


「ねぇ高校生になっても、また一緒に演劇しよう?違う学校に行っても、お互いにまた力をつけて………今度は私と×××二人主演の、主人公の!!そんな演劇をしようよ!!その時は、×××が脚本を作ってね?」


オレはその問いかけに頷くことができたのだろうか。



そんな思い出すら、蜃気楼のように掻き消してしまうんだ。今のオレは。



今のオレを見ても、君は笑ってくれる?


*************************************

つんとくる薬剤の匂い。此処は病室なのだろうか。

「……ん」
「あは………起きたんだ。さっきまで死にかけてたのに凄い生命力だね。君としてはそのまま死んでしまいたかったくらいなんでしょ?」

目を開くと朱色のふわふわとした髪が映る、あの憎々しい声と共に。

「あんたが……俺の邪魔を…し、たのか?」
「いや?君を助けたのは"匿名の通報"さ。ご丁寧に彩斗先生と僕達にご指名をしてね。どこかの誰かさんだか知らないけど、どうやら君も愛されているようだよ?だけどさ」

そう言ったか否か、紅灯火は俺の胸ぐらを掴み無理矢理上に引き上げる。

「何"勝手に死のうとかしてやがる"のさ。君が死んだら悲しむ人間がいることを忘れるなよ」
「………父も、母も、俺とは、絶縁している」

髪はこれまで以上に朱く輝き、口元は笑いながらも目は見開き爛々としている。
その顔はまさに"化け物"のようで。

全身が、ぞくり、と震える。

「…違ぇよ。それは君の勝手都合だろ。君は本当に考えなしだ、本当に本当に---------「駄目でしょ?ともくん?」

このまま取って喰われるのではないかと、額に汗が一筋浮かんだとき、ふと子供のような可愛らしい声が部屋に響き渡る。

「…………茉莉(まり)」
「自分より、年下で、弱い子を怖がらせちゃ駄目だよ、ともくん。あたし達はお兄さんでお姉さんなんだから」

そうして紅灯火の後ろからひょっこりと顔を出した少女は、紅灯火の前を悠然と通ると俺の方を見てにっこりと微笑んだ。

今、彼女は自分のことを"お姉さん"と言った。

しかし刈安色の髪をツインテールにくくった少女は、とても小さく幼く見えて、中学生、いや小学生にしか見えない。

もしかして紅灯火はロリコ--------

「こんにちは、馬場君。あたしは黄道茉莉(こうどうまり)。ここにいる灯火君の幼馴染で、同い年。こう見えて二十歳越えてるんだよー?」
「……今、僕のことロリコンだと思ったろ。馬場君。分かるからな。そういうの。よくそういう目で見られるから」
「………合法ロリ「だからそういうの止めろってんだろ」

紅灯火の目が死んできたので、これ以上言うのは止めることにする。この男もこのような顔をするのかと思ったら何だか気分が良くなった。

「…ふふ、馬場君さっきより良い顔になったね」
「…………?」

良い顔?良い顔とはなんだろう。俺が不思議そうに首を捻ると黄道は花が咲いたように笑う。

「さっきまで君、死にそうな顔してたから。でも今の君は生き生きしてる。…それがいいと思うよ。生も死も人間はたった一つしか持ってない。貴方達はそれをもっと大切にするべきだよー」
「……………」

こういう人間は苦手だ。とびっきりに明るくて、心の底から他人のことを心配して、おまけにこういうことを言えてしまう人間が。
こちらがどれだけ壁を作ろうが、そんな壁等簡単に飛び越えてしまう。

ふと紅灯火が、思い出したように口を開く。


「あぁそういえば馬場君、三日間だから」
「…は?」
「君の入院期間。これでもかなり短縮したんだよ?君だってあまり休みたくないんだろう?」

三日間。今日が日曜であるはずだから、少なくとも火曜までは休まなくてはいけない、ということ。

冗談じゃない。

今週の日曜日には、もう本番なのだ。それまでにやらなければいけないことも、整えなきゃいけないことも山ほどあるのだ。そんなに休んだら作業が滞ってしまう。

「安心しなよ。馬場君。仮にも僕は君の担任だ。君がいない間のサポートくらいは、僕と僕の仲間がやってあげれるよ」
「……だが」
「今は傷を治すことに集中しな。破傷風とかって怖いんだからね?」

そこまで言うと、さて、と言いながら紅灯火は病室の扉に手を掛ける。それを見て紅灯火についていく黄道茉莉。


「また、見に来るよ。馬場君。……僕の仲間達も此処に来るだろうけど、適当に愛想良くしておいてくれればいいから」
「……お大事に、ね!!」
「……………」

そうして嵐のような二人は、忙しなく病室を去ったのだった。



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