複雑・ファジー小説

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当たる馬には鹿が足りない【更新停止】
日時: 2019/04/09 23:57
名前: 羅知 (ID: miRX51tZ)

こんにちは、初めまして。羅知と言うものです。
普段はシリアス板に生息していますが、名前を変えてここでは書かせて頂きます。

注意
・過激な描写あり
・定期更新でない
・ちょっと特殊嗜好のキャラがいる(注意とページの一番上に載せます)
・↑以上のことを踏まえた上でどうぞ。

当て馬体質の主人公と、そんな彼の周りの人間達が、主人公の事を語っていく物語。




【報告】
コメディライト板で、『当たる馬には鹿が足りない』のスピンオフ『天から授けられし彩を笑え!!』を掲載しています。
髪の毛と名前が色にまつわる彼らの過去のお話になっております。
こちらと同じく、あちらも不定期更新にはなりますが宜しくお願いします。



一気読み用
>>1-


分割して読む用

>>1-15
>>16-30
>>31-45
>>46-60
>>61-75
>>76-90
>>91-115

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.87 )
日時: 2018/02/15 19:59
名前: 羅知 (ID: QNWf2z13)

【愛と勇気】→【愛と言う気】→【×と××】

壊しあって、貶しあって。
挙げ句の果てに辿り着いた、この場所で。
僕は君に別れを告げよう。
あんな卑しい感情を。
こんな悲しい結末を。
愛と言う気は、さらさらない。

さぁ、勇気を出して。
一歩進めば、真っ逆さま。


→next?【×と××】


Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.88 )
日時: 2018/02/15 20:09
名前: 羅知 (ID: QNWf2z13)
参照: https://twitter.com/ataru_horsedeer/status/963522308743643137

今回の話の動画を作ってみました。
かなり簡単な作りですが、見ていただければ幸いです。
余談ですが、この動画を作ったQuikというアプリ、本当に簡単に動画が出来ます。文字いれ画像とイラスト、フリー画像などを使って、今回の動画も作りました。もし良かったら皆さんも作ってみたらいかがでしょうか?動画になると、結構見てて楽しいですよ。自分の好きなように作れますしね(*^^*)

なんて、私のちょっとした願望です。
皆さんの素晴らしい作品で作られた動画が見たいなぁって、これ作りながら思ったのです。

いつも応援ありがとうございます。
引き続き、当たる馬には鹿が足りないを宜しくお願いします。

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.89 )
日時: 2018/11/12 22:17
名前: 羅知 (ID: jIh6lVAe)

七話・another【愛と勇気】




「…あーあ、夜も随分更けちゃった」
 
 
 冬の星は輝かしい。だからこそあまり好きになれない。
 
 人通りのなくなった道のど真ん中で空を見上げながら、秦野結希は一人そう思った。
 こんなに気分が満たされないのは久し振りだった。中途半端に燃え尽きた紙くずみたいな気分だ。不愉快だ。こんな気分なのに星は五月蝿いくらいに光輝く。こういう空気を読まないところが好きになれない。誰か大気圏に突っ込んで流れ星みたいなのになってくれないだろうか。そしたら適当に願い事なんかしたりして、今の気分も少しはマシになるだろう。
 
(いや、ならないかな)
 
 何せ自分には夢がない。一億円宝くじで当てたりして、好き放題使ったりとか確かにちょっと面白いかもしれないけれど、すぐに飽きるだろう。それくらいなら大気圏にもう二、三人ダイブした方が見応えがあるかもしれないけれど、それもやっぱり数回やったら飽きるだろう。よく考えたら完全に満たされたと思ったことなんて、この人生で一度もなかった。振り返ってみれば、何もないつまらない人生だった。何もない、人生だ。少なくとも秦野自身はそう考えている。人の道、それが人生だ。それ以上でも以下でもない。それを喜劇と呼ぶか、悲劇と呼ぶかは見る人次第だ。凝った演出。脚色。何もそれは演劇の世界の話じゃない。誰しもが持っている"価値観"、それこそが何よりの演出効果になりうる。逆に言えばそれさえなければ、人生なんて物語とそう大差ない。
 
 
 
 
 
 そんなものに人は感動する---------それがどうしても理解できない。
 
 
 
 
 
『…先生。私、親が教師で、帰ってくると、いつも一人で、凄く寂しかったんです。……だけど近所のお姉さんがよく遊びにきてくれたから、その時だけは寂しくなくなった』
 
『それが、嘘だったとしても、演技だったとしても、何もこもっていなかったとしても、その時の私を先生は全力で騙してくれた。……私はその恩に報いたいんです』
 
 
 
 
 
 理解できなかった。あの子の言葉が、何一つ。暗くて表情は見えなかったけれど多分笑ってあの子はそう言ったんだろう。なんで笑う。なんでそんなことを言う。なんで。なんで。
 
 
 "私"の見たかった表情は、あれじゃない。
 
 
 

『へぇ……結希、結局あの子は殺さなかったんだ。意外だな』
「まぁね。気付かれてなかったみたいだし。別にいっかなって」
『……変な結希』
「変?」
『変だよ、色々。何というか……結希らしくない感じ』
 
 
 
 
 
 あの後、病院を出てからなんとなく優始に電話した。事の顛末を言うと少し驚いた風に返された。変だと言われて何故だかいつもより過剰に反応してしまって、余計に変に思われた。らしくない、とからしい、とか。なんだそれ。秦野結希は、秦野結希だ。それ以外の何者でもない。何故だか無性にイラついている自分がいたことに、弟に指摘されて初めて気が付いた。
 
 
 
「……はは。なに?弟くんは先生のコト何でも分かってるっていいたいの?」
『そうじゃないけどさ……まぁ、いいよ。なんか柄じゃなく不機嫌みたいだし』
「不機嫌?先生が?」
『気付いてなかったの?』
「…………」
『やっぱり変だよ。……天変地異でも起きるのかなぁ』
 
 
 
 しまいにはそんな風に言われる始末だった。そんなに変だっただろうか、と自分の胸に手をあてて考えてみたけれど、心臓がとくとくと小気味良く拍動を打つだけでいつもと違いは感じられない。じゃあ一体何なのだ、と誰かに問いたくもなったけど生憎こんな真夜中じゃ人っ子一人誰もいなかった。それに、そもそも考えてみれば自分の人生にそんな話が出来る人間なんて誰もいない。いくら頭を捻った所で、こんなのはただ何の益もない無駄な思考でしかないのだ。
 
 
("らしくない"、か)
(じゃあ、"らしい"って何なのかな) 
(…………いやいや、こんな風に考えること自体が"らしくない"んだよねぇ。参ったなぁ)
 
 
 考えれば考える程に沼にハマっていっているには、とうに気付いている。だからと言って忘れようと思って忘れることなんて出来やしないので、うんうんと"らしくない"うなり声をあげながら考える。好きではないけど物事を考えるのには丁度良い静かな夜だった。まだまだ長い夜は続く。秦野には考える時間が山ほどあった。
 
 
 

 彼女の"らしくない"夜は続く。
 "らしくない"と気付きながらも、"らしくない"彼女は考える。
 らしくなく。らしくなく。彼女の夜は続いていく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 続いていく、"はず"だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
  「え」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 音もなく近付いていた暗闇の中の復讐者に"らしくない"彼女は気付けない。
 
 
 闇に溶けた"黒"が、彼女に姿を見せないままに彼女の身体を吹き飛ばした。
 
 ∮
 
 
 
 
 全身が巨大な力によって吹き飛ばされ、その勢いのままどこかの木製の廃屋に突っ込んでいった。まだ住人がいなくなってあまり日数が経ってないのか、酷く酒臭い。部屋の中は元住人の暮らしていた痕跡が強く残っていた。ばきばきと壁を撃ち破ってそのまま家に突っ込む。偶然じゃ、こんな正確に家に突っ込んでいくことなんてない。だから狙って此処に吹き飛ばした。そこから推察できることは相手は相当な手練れだということだ。
 それは自分にとっては、あまりよくない事実だった。
 
 
 
 
 吹き飛ばされた痛みを堪えながら、吹き飛ばした相手を見て------------嗤う。あぁこれこそが自分の求めている"表情"だ。そう実感する。
 
 
 
 
 身体全身を物凄い力で押さえつけられ、動けない。だけど楽しくて、楽しくて口だけは馬鹿みたいに動く。緊迫した状況だというのに、どうしてもそのことに喜びが隠せなかった。
 
 
 
「痛、いなぁ、もう」
「…………」
「……あは、大分目が慣れてきた。怖い顔、してますねぇ……?あ、髪色変えまし、た?イメチェンですか、いいですねぇ…………」
「…………」
「--------------------紅、先生」
 
 
 
 
 自分の事が憎くて憎くて仕方がない、殺したくて殺したくて仕方がない、自分への憎悪で満ちた黒々とした瞳。これこそが、あの時"彼女"がするべき表情だったのだ。あの子にして欲しかった表情だったのに。
 
 なのに、あの子は。
 
 
 
 
『……先生。実は今回の事件のことで私、別に犯人のこと恨んでなんかないんです』
 
 
 
 あの言葉は確実に"私"に対して向けられたもので。
 
 
 
 
 
 
「…………何、ぼぉっとしてやがるんですか」
「あはは、ごめんなさぁい」
「ふざけるな!うちの可愛い生徒傷付けといて、よくそんな顔していられるな!」
「悪気はなかったんですよ?……人は人を傷付けなきゃ生きていけないんです。だから、ねぇ?仕方無いでしょ」
 
 
 
 
 自分の言葉に、紅灯火の表情が暗闇でも分かるくらいに大きく歪む。信じられない、ありえない、口には出さずともそんな感情がはっきりと伝わってきた。
 
 
 
 
「お前、まだ、自分が人間のつもり、なのか。それだけ、それほどの事をしといて、まだ」
「えぇ、人間ですよ。……人殺しだって、どんな罪を犯したって人間は人間なんです。何なんですかねぇ?罪を犯したら、ソイツは人間じゃないみたいな風潮。人間は人間ですよねぇ、人を殺したくらいで人間じゃないなんて人種差別も甚だしい-----------っ!」
 
 
 そこまで喋った所で、勢いよく冷たくて鋭い何かが掌を貫通する。流石に痛かったので声が出た。見れば紅灯火が今刺した冷たくて鋭いものを幾つも持っていた。怒りで息がぜえぜえと荒くなっているのが目に見えて分かった。
 
 
「……これ以上、言ったら、今度は二本、刺す」
「っう………………は、直ぐに、殺さないんですねぇ、良い性格、してるじゃない、ですかぁ」
「…………」
「っ!ぐぅっ……うぅ……………人には、ああいうこと、言う癖に、……貴方、は……人を傷付けて、いいんです、かぁ?……あ、もしかしてぇ…………?貴方、自分のこと、……バケモノとか、考えてる、タイプの、人……です?」
「…………」
「痛っ……!ぅあ……ぃ……あ……む、ごん……は、図星だ、って取りますからねぇ……そっかぁ……そうですかぁ……そうで、すよねぇ……どう、せ……私が、病院、忍び込んでるの、見てたん、ですよねぇ……だから、分かったん、でしょお……?私が、犯人……って……あの、会話、聞いてたんですよねぇ…………?あは、プライバシー、の、……侵害、ですよぉ、流石、バケモノ、ですねぇ……」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ∮
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 何回、刺されたんだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 今、どれだけの血が流れたんだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 もう、考える気力すらない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 意識が、朦朧とする。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 何もなかったはずの、つまらない、つまらない人生が頭の中でくるくるとまわっている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あーあ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 走馬灯なんて、見るはずないと思っていた、のになぁ。
 
 
 

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.90 )
日時: 2018/02/19 16:43
名前: 羅知 (ID: KVMT5Kt8)

 ∮
 
 
 
「おねぇちゃん、ばいばい!」
「うん。ばいばい」
 
 
 
 その日は何の変哲もない夜だった。
 
 
 いつもみたいに気まぐれで近所の鍵っ子の女の子の家に寄って、途中の道で友達に会ったから少し帰りが遅くなった。ただそれだけの何でもない日だった。女の子は今日も楽しそうに笑っていた。何がそんなに楽しいのか分からないけれど、いつも女の子はニコニコ笑っていた。私が来るたびにニコニコ笑っていた。不思議で仕方なかった。どうしてあんなにも楽しそうに生きれるのか。こんなつまらない世界で何をあんなに笑うことがあるのか。
 
 
(担任の娘だから、内申稼ぎで、行ってるだけなのに…………能天気な子) 
 
 
 こんなにつまらないんだから、もっとつまらなそうにすればいいのに。何であんな楽しそうなんだろう。変な子。本当に変な子。
 
 
(ちょっとくらい苦しそうな顔すればいいのにな)
 
 
 どうすれば笑顔以外の顔が見れるのかな。叩いたら、殴ったら、蹴ったら、どんな顔するのかな。担任の娘だから流石に手出しできないけど、そんな妄想をしたら心が弾んだ。いっそあの子の母親である先生を殺したら、あの子はめちゃくちゃに泣いてくれるんじゃないのかな。あぁきっとそれは凄く楽しいことなんだろうな。
 
 
 
 
 そんなことを考えながら、暗い夜道をてくてくと歩く。冬の夜空には星が一面に広がっていて、紺のカーペットに金平糖を散らかしたみたいだなと思った。一つ摘まんで食べたら甘い味がするんだろうか。なんてつまらないことを考えてしまって、心の中でくすりと笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 瞬間、世界が暗転する。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 頭を後ろから強く何か棒状の物で殴られたのだと気付いたのは、目を覚ましてからのことだった。
 

 
 
 
 
 ∮
 
 
 
 
 
 
 
 ぐちゅり。
  ぱちゅん。
 
 
 
 
 
 
 頭が、痛い。
 
 
 
 
  お腹が、熱い。
 
 
 
 
 
 
 一定の感覚で妙なリズムが頭に響く。
 
 
 
 
 
  ぐちゅり。
 
 ぱちゅん。
 
 
 
  ぐちゅり。
  ぱちゅん。
 
 
 
 
 
 
 
 
 身体が自分じゃない"何か"に侵略されていく感覚が気持ち悪い。
 
 
 
 手足は縛られていて、動けない。
 
 
 
 
  「あぁ、起きた?」
 
  はぁはぁと荒い息と共に、そんな声がかけられる。
 
  「へぇ、起きたのに泣き叫ばないんだ。こういうの慣れてるの?」
 
 
  「珍しい子だね」
 
 
 
  「やっぱいいよね、こういうの。人を内側から蹂躙してくってのは、さ」
 
 
 
  「寝ている君も可愛かったけど、起きてると尚更可愛いね」
 
 
 
 
 何だか好き勝手なことを言われてる気がする。
 
 
  だけど、意識はどこか遠くに行っているようで、身体は嘘みたいに動かなかった。
 
 
 
 
 
 次第にリズムが早くなっていく。
 
 
 
 
 
 
 
 自分の中に何かが放たれたのが分かる。
 
 
 
 
 
 
 
 何も出来ないまま、全てが終わった。
 他人に物みたいに扱われた。
 他人に好き勝手にされた。
 何も出来なかったけど。
 何も出来なかったけど。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ただただ"私を好き勝手にした"目の前の奴を殺してやりたいと、強く思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 例の"ひまつぶし"を始める、少し前の出来事だ。
 
 ∮
 
 
 
 
 
 走馬灯から目覚める。
 身体の痛みはいつの間にか麻痺してしまったようで、なくなっていた。
 
 
 
 
 
「…………思いだし、たんです、けどぉ」
 
 
 
 
 
 そうだ。あれだったんだ。"私"の"らしさ"は。もやもやしていた物がすっきりして気分が良い。なんて今までの私は"らしくなかった"んだろう!今までの人生の中で今という時が一番爽快に感じている。これだ、これだったんだ。"私らしさ"は!!
 
 
 
 
 
 
 
 紅灯火の腕は気を抜いているのか、随分と力が弱まっていた。その隙を狙って"私"は自分の胸元を探った。
 
 
 
 
 
 
 
 案の定そこにはあった。
 "弟から頂いていたライター"が。
 
 
 

 
 "火を着けたままのソレをひょいと、そこらじゅうに溢れているビールの辺りへ無造作に投げる"。
 
 
 
 
 
 
 火は勢いよく燃え出して、あっという間に私達の周りを包んだ。燃えやすい木材。そして引火する油はそこらじゅうにあるこの環境。火の勢いはどんどん増していく。
 
 
 
 
 
 もう、逃げようにも逃げられない程、そこは火の海になっていた。
 
 
 
 

 
「……私、"他人に好き勝手されるの"嫌いなんですよぉ」
「!?な、何してるんだ!!お前も燃えるんだぞ!?このままじゃ」
「………はい、だからそのつもりです」
 
 
 
 
 好き勝手にされるのは嫌いだ。
 好き勝手にする方が好きだ。
 だけどここから巻き返すことなんて出来ない。
 だけど"好き勝手"されるのは嫌だ。
 
 
 
 
 
 
 
「私の、道連れになって下さい」
 
 
 
 
 
 
 
 精々巻き込んでやる。
 好き勝手やってやる。
 かき乱してやる。
 残した人がいるんでしょ?
 大切な人がいるんでしょ?
 残念ながら私には何もないから。
 失うものは貴方の方がいっぱいだ。
 罪悪感で苦しめ。
 滑稽だ。
 滑稽で仕方無い。
 
 
 
 
 
 あは。
 
 
 
 
 あはは。
 
 
 
 
 
 
 
 あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 生まれて初めて、心から笑った。
 今の自分は世界一幸せだ、そう思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
『あ。本当に結希も僕と同じ風になってる』
『…………』
『強姦って初めてでしょ?どうだった?』
『…………別に何も』
『そう。…………ああそうだ、コレ』
『……ホットココア?』
『うん。流石に初めての強姦はきつかったかなって』
『…………ありがとう』
『結希に感謝されるなんて。……天変地異でも起こるかな』
『………………甘い』
『そりゃあ甘いよ。ココアだもの』
 
 
 
 
 
 夢の中であの後のことを思い出した。空気の読めない弟が珍しく空気を読んだあの時。あの時飲んだココアはとても甘かった。
 弟はきっとあんな風に地べたに固執したまま、それでも図太く生きてくんだろう。そう確信した。
 
 
 あんな弟、私くらいしか殺せない。
 精々生き延びろ、そう思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『おねえちゃん、ばいばい!』
 
 
 ばいばい。嘘つき少女。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 何もないと思ってたら、意外と色々残ってるものだな。

 記憶も、感傷も、感情も、全部全部炎に包まれて--------------灰になって、消えていった。
 
************************************
【愛と勇気】→【Iと結希】 
 

 これが私。
 相対してようやく分かった。
 観客の皆様。
 私が秦野結希です。
 
 

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.91 )
日時: 2019/02/27 20:05
名前: 羅知 (ID: 3/dSGefI)

第八話【既知の道】


 
 
 夢は儚く、移ろいやすい。
 さっきまですぐ手元にあったはずのものが、いつの間にか消えていく。夢ではいくら楽しくても、現実に戻ればそれはまるでなかったことのように思い出せなくなる。
 
 
 
 覚めない夢は現実ときっと変わらない。
 
 
 ならば、すぐに移ろう儚い現実は夢とどう違うのだろうか。
 
 
 
 
 ∮
 
 
 
 
『おい』
『おいってば』
『おきろよ!馬場!こんな所で寝てたら風邪ひくぞ!』
『……よく階段の、しかも屋上近くの階段なんかで寝れるなぁ』
『……あ、寝てるんだからコレで話し掛けても意味ねーのか(*´・д・)ったく世話が焼ける奴だなぁ』
『(-.-)……なぁ、馬場。お前もう二年生なんだぞ。しっかりしろよ。早く起きねぇと午後の授業始まっちまうぜ?』
『…………全然起きやしねぇ(;´д`)』
『…………?』
『泣いてるのか、馬場』
『笑ってるようにも、みえるな』
『……仕方ねぇ。今日は寝かせてやるから、起きたらちゃんと教室来いよ!(^_^ゞ』
 
 
 
 
 ∮
 
 
 
 肌寒い空気が身体を通り抜けていったのを感じる。硬い階段の冷たさが尻から伝って身体がぶるりと震えた。膝には寝る前にはあった覚えのない誰かの上着。そのおかげなのか膝だけはほんのりと温かく感じていた。
 
 
 
 なんだか長い夢を見ていたような気がする。
 
 
 
 夢の中の俺は"知らないクラスメイトらしき奴ら"と笑いあっていて、とても楽しそうだった。そしていつも傍らには背の低い可愛い男の子がいた。俺はソイツのことを"濃尾君"と呼んでいた。俺が声を掛けると"濃尾君"は笑顔で"馬場!"と俺の名前を呼び返す。本当に楽しい夢だった。現実であればどれほど楽しい日常になっていただろうか。
 
 だけど、俺の"現実"には"知らないクラスメイトらしき奴ら"も"濃尾君"もいない。
 
 だけど、それなりに幸せな日々を送っている。やけにリアルな夢だったけれど、所詮は夢だ。現実じゃない。"濃尾君"も"知らないクラスメイト"も存在しない。ただの夢の中の"妄想"に想いを馳せたところで意味なんてあるのか、ないだろう?
 
 
 
「さて、と!」
 
 
 
 
 この上着を掛けてくれた心優しいクラスメイトの為にも、教室に戻ろうか。多分授業には遅刻してるだろうけど、仕方無い。謝って許してもらおう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 俺は二年B組、馬場満月。
 友達はいないけれど、それなりに幸せな毎日を送っている------------極々普通の男子高校生だ。
 
 
 
 
 
 
 ∮
 
 
 
「先生すまない、授業に遅れてしまった!」 
「……はあ。アタシは担任だから多目にみてあげるけど、今度からは遅れないようにして頂戴。今は六時間目の終わりよ」
「ありがとう!」
 
 
 教室の前の方の扉をがらがらと勢いよく開けると、怪訝な顔をした海原蒼うなばらあお先生が首だけをこちらに向けてそう言った。海原先生は俺のクラスの担任で、担当は数学。腰まで伸びた長髪は紺色で、目付きはキツいけれど、そこがいいと学校でも美人で優秀なことで有名な先生だ。そんな人が担任だなんて俺は相当恵まれていると思う。
 
 ほら、やっぱり謝ったら許して貰えた。感謝と謝罪は人間の基本だよな。
 
 優しい世界に感謝しながら、軽い足取りで自分の席まで歩いていくと後ろの席にいた古賀谷盾こがやじゅん君がにかっと笑いながら、こちらに手を振っていた。豪快にセットされたビビッドカラーの派手な髪型が今日もイカしている。耳にはピアス、髪は明らかに校則違反で、元々の目付きの悪さも相まってなのか一部の人には怖がられているらしい彼だが、歌が大好きで明るい性格なのでそれ以上の多くの人に好かれている。事情があって今は声を出せないらしいが、彼の歌はとても素晴らしいものだったそうだ。いつか機会があったら俺も聞いてみたいものだ。
 寝ている間に上着を掛けてくれたのも、きっと彼だろう。胸元に彼の持っているギターケースについているものと同じアップリケがついている。後でお礼を言わなきゃな。
 
 それにしても皆真面目だなぁ。古賀谷君は手を振ってくれたけど、俺が入ってきたことなんか気にもしないで、黒板をしっかり見て、ノートを真面目に取ってる。俺も遅れて来た分、彼ら以上に真面目に受けなきゃ遅れをとってしまいそうだ。
 
 そう思った俺は早々にノートを開き、皆と同じように黒板の白字を写し始めた。
 
 
 
 ∮
 
 
 授業も終わり、荷物をまとめ帰る支度をしていると古賀谷君が俺の肩をちょいちょいと叩く。何か俺に用事でもあったのだろうか。聞いてみたけれど、そうではないらしい。そのままうんうんと彼は頭を抱えて考えていたようだったが、結局ほとんど何も言わずに
 
『また、今度でいーや』
 
 と、だけ俺に言って何処かへ行ってしまった。変な古賀谷君。頼み事とかなら遠慮せずに全然してくれて構わないのにな。まぁ本人がそう言うなら俺がとやかくいうことでもないか。また帰り支度の作業に戻って、ふと窓の外を見るとさっきまで晴れていたはずなのに、いつの間にか空は灰色に染まりしとしとと弱々しい雨が振りだしてしていた。
 
 
 
 
 春雨、か。
 
 
 
 
 
(今日、傘持ってきてたっけなぁ)
 
 
 
 
 
 忘れたような気がするので早く帰ろう。教室の中は最早まばらになっていた。淑やかな雨の音を聞きながら、俺は教室から出ていった。
 
 
 
 
 ∮
 

 
 
 
『ねぇねぇ知ってる?……"馬場先輩"の噂』
『馬場先輩って去年の文化祭で三月兎の役で劇やってた人だよね。その人がどうかしたの?』
『えっとね……元々"凄い当て馬体質"って事で有名な人みたいだったんだけど……最近は"別のこと"でも有名みたい』
『……?』
『実はね…………』
 
 
 
 
 
 
 
 
 ∮
 
 
 
 
「…哀れ、じゃの」
「……どうかした?雪ちゃん」
 
 
 
 まだ初々しさが隠しきれない一年生の何気ない会話の一部を聞いて、大和田雪おおわだゆきは深く溜め息を吐いた。女神は人の事にあまり干渉してはいけないのだけれども、偶然でもああいうのを聞いてしまうと少し心が痛む。馬場満月。一年生の時のクラスメイト。仮にもクラスメイトだったのだ、そりゃあ女神といえども感傷くらい沸く。
 
 
「別に何でもない」
「そう?……それならいいの。何だか雪ちゃん少し元気がなさそうだったから、さ」
 
 
 隣を歩く妙に勘の良い現クラスメイト--------進藤玲奈しんどうれながそう言って小首を傾げて、笑う。水色ドレスにガラスの靴などという妙な格好をしている癖に、この娘は妙に勘がいい。というかそもそも、いくらこの学校の校則が緩いからといってその格好は校則違反のはずなのだが。以前そう聞くと
 
「私のお姉ちゃんが学園長先生にお願いしたから、今年から制服着用自由になったんだよ。知らなかった?」
 
 と、事も無げに答えられた。生徒の意見を幅広く取り入れる学園長といったら聞こえはいいかもしれないけど、それでいいのか、学園長。それに許可されたからって、こうして異装してるのなんてごく僅かなのだけれど。こんな環境下でそんな目立つ服を着てニコニコしているこの娘。相当に神経が図太い。
 
 まぁ人の事を言えたもんじゃないけれど。
 

 
(女神たるもの、いわゆる事柄に対して悠然に構えなければならぬからな)
(…………しかし、"馬場満月")
(…いや、わらわが手出しすることでもないか。人の子には人の子の道がある)
(………………もし、それで何かあったってわらわには、責任が取れない)
(それに、今の"あの男"に、わらわは)
 
 
 
 
 そこまで考えて、隣から思考を断ち切る気の抜けた声が掛けられた。
 
「そろそろ急ごっか!雪ちゃん。佐倉さくらくんも待ってるだろうし」
「…………別にあいつなんか、幾らでも待たせていいじゃろ」
「ダメだよ〜。佐倉くんだってSC(サイエンスファンタジークラブ)同好会の大事なメンバーなんだからさ!大事にしてあげて!会長さん!雪ちゃんがいなきゃ、あの同好会は成り立たないの!」
「…わらわは別に」
「お願い!今日は雪ちゃんの大好きなおやつ持ってきたんだ。だから、ね?」
 
 
 お菓子。……ま、まぁ両手合わせて頼まれたら断るのも可哀想だし今日の所はやる気をだしてあげよう。普段頭を使わないから、考えるのにも疲れてしまった。色々思うところはあるけれど、考えるのは後にしよう。
 
 
 水色ドレスに手を引かれるままに、大和田雪は部室に向かった。
 
 
 
 ∮
 
 
 
 


 
 
 
『……あのね。あくまで噂、なんだけど』
『うんうん』
『馬場先輩、"一年生の時の記憶がほとんどない"んだって』
『え!?それって記憶喪失ってこと?』
『……うーん、それとはまたちょっと違うみたい』
『……?』
『聞くところによると、"元クラスメイトの人との記憶がなくて"、それに今もその"元クラスメイト"の人の姿は見えてないらしいよ……』
『……ええ?うそ、どうして?』
『……馬場先輩、仲の良い親友がいたんだけどね。その人が目の前で飛び降り自殺しちゃったんだって。それから一気におかしくなっちゃったんだって……』 
『……私、馬場先輩の演技見て格好いい!って思ったから、この学校受験したのにそんな事になっちゃってたなんて……』
『……ショックだよね』
『……うん』
『……元々は明るくて学校の人気者だったんだけど、今じゃ皆から腫れ物にされてるみたい……』
『…………』
『…………』
『…………帰ろっか』
『……うん』
 



春雨の音がしとしとと聞こえている。
まるで誰かの代わりに泣いてるみたいに。
 

 


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