複雑・ファジー小説

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当たる馬には鹿が足りない【更新停止】
日時: 2019/04/09 23:57
名前: 羅知 (ID: miRX51tZ)

こんにちは、初めまして。羅知と言うものです。
普段はシリアス板に生息していますが、名前を変えてここでは書かせて頂きます。

注意
・過激な描写あり
・定期更新でない
・ちょっと特殊嗜好のキャラがいる(注意とページの一番上に載せます)
・↑以上のことを踏まえた上でどうぞ。

当て馬体質の主人公と、そんな彼の周りの人間達が、主人公の事を語っていく物語。




【報告】
コメディライト板で、『当たる馬には鹿が足りない』のスピンオフ『天から授けられし彩を笑え!!』を掲載しています。
髪の毛と名前が色にまつわる彼らの過去のお話になっております。
こちらと同じく、あちらも不定期更新にはなりますが宜しくお願いします。



一気読み用
>>1-


分割して読む用

>>1-15
>>16-30
>>31-45
>>46-60
>>61-75
>>76-90
>>91-115

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.67 )
日時: 2017/10/25 20:15
名前: 羅知 (ID: m.v883sb)

 ∮
 
 気が付けば僕----濃尾日向は、またいつもの空間にいた。"此処"に来るまでの記憶は曖昧で、なおかつ頭はまるで靄がかかったようにそのことを考えることを拒否している。何があったか思い出すことを諦めて周りを見回す。いつものパターンなら、ここらでそろそろ"中学時代の僕"や"ボク"が出てくる頃合いだ。けれども、いまだこの闇の中では静寂が広がるだけ。
 
  
「誰も……いない」
 
 
 そう呟く声すらも、ただ暗闇の中に反響して聞こえるのみだ。自分以外誰もいない暗闇の中では、まるで自分自身が暗闇になってしまったように錯覚させられる。なんだかぽっかりと胸に穴が空いてしまったような感じがする。これが"寂しい"という奴だろうか。それに気付いた瞬間、途端に僕は身体に力が入らなくなってしまって、その地面とも分からない空間に座り込んだ。
 
 
「なんだよ……僕、だけ、かよ……」
 
 
 闇の中でただ一人で過ごすという行いは酷く途方に暮れそうだった。自分の身体がいつ目覚めるかも分からない状況で、終わりの見えない時間を、何もないこの場所で、ただ一人で過ごすのだ。それは拷問のようなものだろう、と僕は一人で悲観した。
 よくよく考えてみると、この場所で一人で過ごすことは初めてじゃないはずなのに。確かにここ最近は"中学時代の僕"や"ボク"が顔を出しに来てたけれど、それはイレギュラーなことだったはずだ。なのに何故だか今はとても不安だった。あの"煩さ"に慣れ親しみすぎてしまったのだろうか。あんな奴らうざったかっただけなはずなのに。一人なんて平気だったはずなのに。
 
 
 よく分からないけれど、今回はあの"喧騒"にすぐに戻れる確証がないと心のどこかで予感していた。きっとそれが僕を余計に不安な気持ちにさせているのだということも心のどこかでは本当は理解していた。
 
 ∮
 
「こんにちは!おにーさん!」
「?…………君は誰」
「ヒナは、ヒナだよぉ?おにーさん!」
 
 暗闇の静寂にどれくらいいただろうか。時間の感覚も曖昧で自信を持って断言は出来ないけど、長いこと此処にいた気がする。待っている間に僕は随分と疲弊してしまっていた。その可愛らしい子供のような声の方を向くと、案の定そこには僕によく似た小さな子供がいた。僕には似ても似つかない快活な表情だけれど、きっとこれも"僕"なのだろう。
 
「…君はどうして、此処にいるの?」
「わからない。きがついたらここにいたの」
 
 子供は不思議そうに首を捻ってそう答えた。本当に何も分からないようだった。子供の扱いになんて慣れていないけれど、とにかく笑顔を心掛けて僕はなるべく優しい口調で彼に言った。
 
「そっか……僕も一緒だよ。気が付いたら此処にいたんだ」
「……そーなの?」
 
 きょとんとした顔でそういう"僕"。覚えはないけれど、きっと僕にもこんな時代があったのだろう。何も知らずに純粋無垢に生きていた時代が。それはどんなに幸せなことだっただろうか、と一人勝手に想像して笑った。
 
「ねーねー、ヒナのおはなししていーい?」
「…………うん、いいよ。どうしたの?」
 
 僕がそう言うと、子供は嬉しそうににっこりと笑って話をし始めた。この前あった面白い出来事のこと、空が綺麗だったこと、今日は外に出て遊んだこと、小さな花が咲いていたこと--------とりとめのない話だった。きっとこれは僕自身が体験した話なのだろう。だけどもどれだけ話を聞いたところで僕の記憶に引っ掛かるものは何もなかった。最後に子供はこんな話をした。
 
「ヒナはね。いいこでいなきゃいけないの。いいこでまってればきっとパパとママがむかえにきてくれるから」
「…………パパとママのことが好き?」
「うん!だいすき!」
「…………君をずっと置いてってちっとも迎えにくる気配のないパパとママでも?もしかしたら迎えに来る気なんて本当はないのかもしれないよ」
「それでもすき!パパとママはうそつかない!ぜったいにむかえにきてくれるよ!」
 
 自分の言っていることに確信を持った、真っ直ぐな言葉だった。そのことを信じて疑わない芯の通った目をしていた。この子は、きっと裏切られるその日までこのまま信じ続けているのだろう。いや、きっと裏切られても信じ続けるのかもしれない。それは幸せなんだろうか。いやこの子の顔を見る限りきっと幸せなことなんだろう。多分。
 
「そっか……そうなんだね。君は、幸せななんだ」
「……しあわせ?うん!しあわせ!ヒナはとーってもしあわ----」
 
 
 
 
 
 
 せ、とその子が言い切る前に、その子の身体が目の前で縦に真っ二つに別れる。
 
 
 
 
 
 
 
「--------------え?」
「……まったくもうなぁんでコイツがまだ生きてんのかなぁッ!!!!!とっくに死んだと思ってたのにさぁ???ふざけるなよ?本当に?お前なんか生きてる価値がないのにさぁ!!!???なぁ!!!!どうして!!どうしてだよ!!!なんでお前は消えないんだよ!!!?早く消えろ早く消えろ早く消えろ早く消えろ!!!消えろよ早く!!!!」
 
 
 
 
 少しずつ、少しずつぐちゃぐちゃになっていく身体。溢れる紅い肉片、さっきまで喋っていた、声が、顔が、身体が、笑顔が、少しずつ、真っ赤に染まって、なくなっていく。ぐちゃぐちゃに、ぐちゃぐちゃに、壊れて。世界は紅く染まって、目の前の"人間"だったモノは、もうただの物言わぬ肉になったっていうのに。
 
 
 
 
 
「---------"ボク"?」
「どうして、どうして消えてくれないんだよ……お前なんかいらないのに、どうして、どうして、どうして……!!」
 
 
 
 
 げほり、と血を吐きながら、真っ赤に充血した目もそのままに血色混じりの涙を流す"ボク"。身体は返り血なのか、自身の血なのか真っ赤に染まっている。もう完全に生きてはいないソレを、ただ"消す"ことに熱心になって、周りは目に入っていない。一刺しごとに彼自身の身体からも血が噴き出している。きっとそれすらも関係ないんだろう。
 
 
 今の"彼"には。
 
 
 
(あぁ、意識が遠退いていく------------)
 
 
 
 
 一際強い血の香りが鼻から頭に抜けていって、僕は目の前の光景から意識を手放した。

 
「……入るぞ」
 
 濃尾日向が寝ているという病室に着くと、そこでは社と海原蒼と濃尾日向によく似た白衣を着た細身の若い男が椅子に座って待っていた。個人病室だというのに随分と広いし、設備が整っている。俺が入ってきたと分かると、すぐさま白衣の男が立ち上がり俺に駆け寄る。
 
「あぁ!久し振りだねぇ、神並くん!……いや、それとも今は"馬場満月"くん、って呼んだ方がいいのかな?」
「…………」
「そんなに怒らないでくれよ?"こんな形でさえ"私は君に会うことが出来て大変嬉しく思っているのだからさ?」
 
 そのまま無視を続けるが、白衣の男にとっては俺がなんと答えようと関係なかったようで男は何もなかったようでにこにこと笑って話を続けた。
 
「改めて自己紹介させて貰うよ。私は濃尾彩斗のうびあやと、この病院の精神科医で、自分で言うのもなんだが能力だけでいえば結構優秀な方の医者だ……まぁ、精神がまったく医者に向いてないと言われるけれど」
「…………」
「そして、そこで寝ているヒナくんの叔父でもある」
 
 ちらりといまだ座っている海原蒼と社の方を見ると、海原蒼がまるで何にも考えていないようにただただ無機質にこちらを見つめていた。この男が何か言うまでは何をする気もないのだろう。以前会った時は猫のような気まぐれさを感じさせたが、今の彼女は一転変わって飼い主に忠実な番犬のような印象を抱かさせた。
 
(……社)
 
 一方社の方は、終始黙っている俺を複雑そうな顔で見ていた。嬉しいのだけれど、悲しいような、そんな色んな感情がまぜこぜになったような表情だった。社のそんな顔を見るのが苦しくなって、俺は社から目を逸らした。
 
 そんな俺の様子を見ていたのか、いないのか濃尾彩斗は急に真面目な顔になって話し始めた。
 
 
「私の見解では、ヒナくんの"コレ"は一時的なものだと判断する。少なくとも"中学の時"や、"あの時"のようにこの状態が数年続くとは考えられない。せいぜいあと二日、三日、もしかしたら明日には元に戻っている可能性だってある。……記憶の齟齬はあるかもしれないけどね」
「……甥っ子が"こんな風"になっているっていうのに随分余裕なんだな」
「君にはそう見えるんだね。……なら良かったよ、私まで冷静さを欠いてしまったら治るものも治らなくなってしまう」
 
 
 そこまで話すと濃尾彩斗はふぅ、とため息を吐いて真面目な表情を崩した。そしてまたニコニコと笑ってこう言った。
 
「私から君に今言えることはこれだけだよ。今の君に何を言っても困らせてしまうだけだからね。…………さて、若い者同士で積もる話もあるだろう。……海原くん、行くよ」
「はい、先生」
 
 がらりと病室の扉が開けられ、二人は出ていき、そして閉められた。病室内には俺と社と寝ている濃尾日向だけが残され、微妙な空気が流れる。
 
「…………」
「………白夜。元気だった?」

 最初に口を開いたのは社だった。いつもそうだった。口下手な俺に社はいつもまっさきに話し掛けにきてくれた。変わらない。ずっと、変わらない。
 
「……って、今日の午前中に会ったばかりだったね。私ってば……うっかり、し、て…………うぅ……」 
 
 無理矢理明るく努めていた声が少しずつ、少しずつ涙混じりになり、言葉にもならない嗚咽になる。俺は上を向くことが出来なかった。上を見れば、彼女の泣き顔が見えてしまう。そうすれば俺は、俺は。
 
 ふと、行き場も分からず濃尾日向の寝ているベッドの上に置かれていた掌に彼女の掌の温もりが重なった。
 
 
 
「……ご、め…………今だけでいいから、今だけでいいから…………このままでいさせて----------」
 
(--------あぁ。"また"俺は彼女にこんな顔をさせてしまうのか)
 
 
 
 俺がもっと強ければ、もっと優秀であれば、もっと、もっと、もっと…………考えれば考える程にそんな後悔ばかりが集まっていく。
 
 
 
(あぁ…………)
 
 
 
 どこから間違っていたのだろうか。オレの人生は。畏れ多くも彼女に恋心を抱いてしまったあの時だろうか。それとも彼女と出会ったあの時から?いやもしかしたらオレが生まれたこと自体何かの間違いだったのかもしれない。"オレ"がいなければ、誰も狂わなかった。兄さんも、セツナさんも、あんな風にならずに、済んだ。
 
 
 
 あぁそれでも問わずにはいられない。
 
 
 
 
 (ねぇ、オレはどうすれば彼女のこの手を握り返すことが出来たんでしょうか…………?)
 
 
 
 
 オレは、失敗だらけの、この人生を、振り返ってみた。
 
 
 
 *********************************
【文化祭後日譚】→【後の祭り】
 
 どれだけ後悔したところで、終わったものはもう戻らない。取り返すことは出来ない。だけども未来あすは変えられるはずだ。それをしないのは君の意思よわさ

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.68 )
日時: 2018/08/31 12:08
名前: 羅知 (ID: WSDTsxV5)

第二馬【Dark Horse】
 
 
 昔々あるところにとても仲の良い双子の兄弟がいました。兄の方は、とても優秀で何をやっても器用にこなしました。父親も母親も彼を誉めました。彼はまさに"天才"というべき人間でした。そして弟は兄のそんな姿を少し離れたところで見つめていました。弟は兄のことを尊敬しています。けれども近くで見ていたら自分が燃え尽きてしまいそうな--------そんな気がしたのです。
 弟は決して出来損ないではありません。しかし弟が十の努力して達成することを一の力も使わずに達成する兄。彼らの差は歴然でした。弟はそれを分かっていました。だから、誰に誉められても、誰に貶されても、「オレが"出来損ない"だから、この人はオレに同情しているんだ」「オレが"出来損ない"だから、何を言われても仕方ないんだ」全て"それ"で済ませてきました。低い自意識は彼の精神を段々と蝕んでいきました。
 
 彼は"出来損ない"ではありません。
 ただ、どうしようもなく"弱かった"のです。
 
 
 彼は焦がれていました。同じ顔をした天才的な兄に。
 
 ∮
 
 弟のそんな感情も、葛藤も、全て兄は知っていました。知った上で彼は弟のその全てを愛していました。何でも出来る兄は、何でも出来る故に"出来ない"ことを知りませんでした。"出来ないこと"が分からない彼は、出来ない人の気持ちが分かりませんでした。人の気持ちが分からないことに彼は苦悩していました。どんな言葉を発しても、どんなことを人に対してやっても、全て上っ面なだけな気がしました。"人の気持ちを理解すること"は"出来ます"。だけどもそれは違うのだと彼は分かっていました。"理解する"ことは決して"思いやる"ことではないんだということに。
 その点、彼の弟は、彼の模範でした。同じ顔をした弟が悩んだり、苦しんだりするとき、彼もまた悩んだり、苦しんだりしてるような気がしました。それは自分ではない自分を見てるようでした。弟がいれば、自分は"自分"になれるような気がしました。その思いが歪んでいるということにさえ、彼は気が付いていました。
 
 彼は"狂って"なんかいません。
 ただ、天才的に"強すぎた"だけなのです。
 
 
 彼は"恋"焦がれていました。同じ顔をした自分とは違う弟に。
 
 ∮
 
 彼らの思いはそっくりで、それでいて反対に向かっていました。その思いは決して交わらないはすでした。けれども運命の神様は残酷だったのです。



「ねぇ、あなたのなまえは?」
「…………ゆ、ゆき」
「そ!!あなたユキっていうんだね!!よろしくね、ユキ"ちゃん"」
 
 確か、最初はそんな感じだった。
 オレこと神並白夜かんなみゆきやは彼女こと愛鹿社めぐかやしろに初めまともに名前を告げることすら出来なかった。四歳の時に急に隣に越してきたたんぽぽみたいな笑顔の可愛い女の子。だけと口がまわらないのも仕方ない。恥ずかしながら父さんと母さんと兄さんとしか話してなかった当時のオレにとって、彼女はあまりに刺激が強すぎた。
 
「……えと、ユキ、"ちゃん"、っていうのは、なんなの……?えっと……」
「わたしはめぐかやしろだよ。ね?よんでみて」
「や、やしろちゃ…………?」
「うん!やしろだよ。ユキちゃん!!」
 
 彼女のペースに乗せられて、ただ言葉をこぼしているだけ。名前を訂正することすら出来やしない。あとから知ったことだけれど、彼女はこのときオレのことを女の子だと思っていたらしい。彼女より身体も小さく、兄との差別化の為に長ったらしく伸ばされた髪。確かにこれで男の子だと分かるほうが凄いだろう。当時は声変わりもしてなくて、性格も大人しかったオレのことを両親はそこらの女の子よりも女の子だとよく笑っていた。だけどもオレにとって、それは決して笑いごとじゃなかった。
 
 
 『おとこおんな』『みずきくんのきんぎょのふん』『おなじかおのくせにつまらないやつ』…………保育園に行くと意地悪そうにオレにそう言ってくる連中。覚えてるだけでも、これだけのことを言われた。顔は覚えてない。ずっと下を向いて黙っていたからだ。何も言えず唇を噛みしめて。
 
(どうして、オレは……)
 
 男としてのプライドがなかったわけではなかった。そういう風に言われることが嫌じゃない訳がなかった。だけどもそれを言い返すことが出来るほどオレは強くない。黙って耐えることだけがオレの最大の抵抗だった。そんな自分が不甲斐なくて不甲斐なくて涙が出そうになることもあったけれど、泣いたらそれこそ女の子のようだから。そう自分に言い聞かせて我慢した。
 
 ∮
 
 ある日のことだった。
 
 いつものように悪口を言われて、耐えていたときのことだ。耳に嫌でも聞こえてくる雑音。いつものことだ。そう思って耐え続ける。耐え続ける…………音が、聞こえない。代わりにどさりという誰かが倒れたような音が聞こえる。驚いて顔を上げるとそこには股関節を押さえて悶えている苛めっ子と、こちらに背を向けて立っている彼女がいた。
 
「……やしろちゃ 」
「ゆきや。きにすることないからね。こんなめめしいやつらゆきやよりもよっぽどかおとこらしくないよ。つぶされてとうぜんなんだから」
「………」
「……ねぇどうしていってくれなかったの?わたしは、ゆきやの、おともだちでしょ?ちが……うのぉ……?……ひっく……」
 
 振り返った彼女は泣いていた。可愛い顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。なんで彼女がオレのためにこんなに泣いてくれるのか分からなかった。けれどもオレが彼女を泣かせてしまった、その事実と後悔の念は痛い程にオレの胸に突き刺さった。
 
「あ、あ…………」
 
 オレは何も言うことが出来ずに、その場から逃げた。悪口を言われてるときよりも、笑われているときよりも、女の子のようだと言われたときよりも、何よりも、何よりも。
 
 
 
 
 今の自分の姿を一番不甲斐なく感じた。
 
 
 
 
「うっ……うう……」
 せめて彼女にあんな顔させないくらいには、強く、男らしくなりたいと。いや、"なる"のだと。これを最後の涙と決めて、まだ薄暗くてちっとも辿り着くことの出来なさそうな未来あすへとオレは最初の一歩を踏み込んだ。

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.69 )
日時: 2017/11/12 20:04
名前: 羅知 (ID: m.v883sb)








「……パパのかいしゃがとうさんした?」
 
 
 帰って来たと思ったら青ざめた(顔でそう言った母の言葉におれ--------中嶋観鈴なかじまかりんは開いた口が塞がらなかった。おれの父は、自分で言うのもなんだが結構大きな会社の社長だった。生まれてから苦労したことなど一つもなく、これからもきっとないだろうと思っていたその時、その一言は告げられた。父さんの会社が倒産した、なんてシャレにもならない経験を齢五歳で体験したのだ。その場で倒れなかっただけ誉めてほしい。何故倒産してしまったのかなんて細かいことは、まだ幼いおれに理解することは出来なかったが、一応は赤ん坊の頃から子役として芸能活動をしていた身だ。倒産の意味は勿論のこと、それによっておれにこれから降りかかってくるだろう災難を想像することは簡単なことだった。
 
 小さな頭を全力で使い、おれはこれからの身の振り方を考える。
 
 
(……かりんは、もう、しごとを続けられない……じゃあ、かりんは、かりんは……)
 
 
 父の会社はどうやら莫大な借金を背負って倒産したらしい。子役とはいっても、まだ全然人気でもなんでもないおれの稼げる給料なんて、たかが知れている。状況から見て、おれが芸能活動をこのまま続けることは不可能に等しかった。
 
 親に無理やり始めさせられた芸能活動だったが、それでも最近は少しだけ、ほんの少しだけやりがいを感じていた。楽しいと思えることが増えてきていた。当たり前になりかけていた"ソレ"がなくなってしまう。その事実はおれの胸に大きな穴をぽっかりと開けさせた。
 
 
 その夜、おれは一人ベッドの中で声を押し殺して泣いた。きっと明日の朝、顔が腫れて大変なことになってしまうだろう。顔は子役にとって大切な商売道具だ。……でももう別にいい。どうせ止めてしまう職業なのだから。
 
 
 ∮
 
 
「観鈴、今日はちょっと気分転換にお出掛けしましょうか」
 
 父の会社の倒産を告げられてから数日が経ったある日、母は急にそう言った。家にあった家具は着々と売り払われていき、元から広かった部屋はもっと広くなった。このままではきっとおれの住んでるこの家も売り払われてしまうだろう。事態は何も好転していない、むしろ悪化していく一方だった。
 だというのに断固としておれをその"お出掛け"とやらに連れてこうとする母。あの日から母はストレスで随分やつれてしまった。いつも化粧をしていて綺麗だった母が、あの日から別人のようになってしまった。化粧もせずに毎日毎日ぼぉっと窓の外を見るばかり。そんな母の姿を見ることは、娘のおれにとっても結構な精神的ダメージだった。そんな母が今日は以前のように綺麗に化粧をして、まだ売り払われていなかった服で着飾って、おれに出掛けようと言っている。
 
(…………)
 
 それで母の気が少しでも晴れるのなら、そう思っておれは母の"お出掛け"についていくことを決めた。
 
 
 
 
 
 
 
 もし、もしもおれが母の"お出掛け"についていってなかったら、"彼女"に出会うことはなかっただろう。
 きっとおれはそのままろくでもない人生を送ることになっていただろうし、こうして芸能活動を続けてアイドルをやることなんて出来なかったはずだ。
 
 
 
 母の気分転換にと向かったその場所で、おれは転機を向かえることになったのだ。
 
 
 ∮
 
 
 母が連れてきた場所はどこかの劇場だった。こんな所に行ける余裕は今の我が家にはないはずだ。そう思って慌てて母にその旨を伝えると母はくすりと笑って、こう答えた。
 
 
「大丈夫。今日ここで劇をしてくれる劇団の団長さんはママの古いお友達だから」
「……つまり?」
「今日ママはその人に"ぜひ見に来てください"ってお呼ばれしたの。だからお金のことは心配しなくていいのよ」
 
 
 それを聞いて安心する。程なくして劇が始まった。劇が演られている間、おれは時間を忘れて劇に見入っていた。目の前で声が響き、物語が進む。ドラマなんかよりもリアルに全てがおれの中に流れ込んでくる。束の間の休息をおれは十二分に楽しんだ。
 
 
「よく来たね、小百合。私達の劇は楽しんでくれたかな?」
「えぇ勿論。とても素晴らしい劇だったわ……」
 
 劇が終わると、おれと母は舞台裏へ向かった。舞台裏では母の友人だという女性がにこやかに出迎えてくれた。凛とした雰囲気を持った美しい女性だった。古い友人だといっていたけれど、時間を感じさせないくらいに仲睦まじい様子で母とその人は喋っていた。彼女と話している母はとても楽しそうだった。母の邪魔をしてはいけない、そう思ったおれはその場を離れた。
 
 
 ∮
 
 だからといって好き勝手動き回る訳にもいかないので、おれは案内された控え室で待っていることになった。置かれたお菓子をぱりぱりと食べていたけれど、どれも味が濃くて、おれ好みじゃなくすぐに飽きてしまった。
 
 
 
(ひま、だなぁ……)
「あなたひまそうだね!!」
「!?」
「ね、ひまならわたしといっしょにあそぼ?」
 
 突然真横から聞こえる元気な声に、驚いて声も出せずにおれはびくりと震えた。声の持ち主はおれと同年代くらいの可愛い女の子だった。よく見るとその子は今日見た劇で子役として出ていた子だった。確か名前は……
 
「やしろだよ!!」
「…………え?」
「だからわたしのなまえ!!ねぇ、あなたのなまえもおしえてよ!!」
 
 ……本当に元気な子だ。その勢いにこちらが飲み込まれてしまいそうになる。にこにこと笑っているその子を見てるとなんだかこちらまで楽しい気分になりそうだった。
 
 友達になれたらいいな、そう思っておれはゆっくりと彼女に名前を告げた。
 
 
「かりん。なかじまかりんだよ」
 
 
 
 
 それが、おれと社の出会いだった。
 
 
 ∮
 
「……へぇ!!じゃあかりんは子役をやってるんだね!ドラマとかにもでるんでしょ?すごーい!!」
「すごくないよ。かりんのやくは友人Aとかのちょいやくだもん。やしろのほうがげきにもあんなめだつやくで、あんなどうどうとやってて、すごいよ」
 
 同年代だったからか、おれと社はすぐに仲良くなった。出会って数分経つ頃には、まるで昔からの友達のようにお互いの名前を呼んで笑い合った。遊びだけじゃなく、一緒に歌ったり、踊ったり……とても楽しい時間を過ごした。さっきまであまり美味しくないと思ったいたあのお菓子も社と食べると美味しく感じた。
 
 
「…………それに、かりんはもう、子役やめちゃうから」
「ど、どうして!?だってかりん子役たのしいんでしょ?どうしてやめちゃうの?」
「…………かりんのパパのね。会社がたいへんなんだって。だからもうかりんが子役をつづけれるよゆうがかりんのおうちにはないの」
「そうなんだ…………」
 
 おれのその言葉を聞いて、社は瞬く間に萎れてしまった。よっぽどショックだったようだ。その様子を見て、おれは急いで話を変えた。彼女の悲しそうな顔なんて見たくなかった。
 
「い、いいんだよ。もともとかりんにこやくなんかむいてなかったんだからさ!……それよりさ!もっとやしろのはなしきかせてよ!この劇団ってやしろのほかにやしろとおなじくらいの子役はいないの?」
 
 焦っておれがそう言うと社は悲しそうなだった顔をぱぁっと輝かせて話し始めた。社がまた笑ってくれたので、おれは喜んでその話を聞いた。
 
「えっとね!えっとね!こんかいの劇にはでてないんだけど……ゆきや、っていうこがいるの!わたしがこの劇団にはいってるっていったらにねんまえにはいってきてくれたんだ!それからずーっといっしょ!わたしのいちばんのなかよしのおともだち!」
「…………おとこの、こ?」
「?……そうだけど、どうかした?」
「……………………ううん、なんでもない」
 
 
 何故だか胸がずきりと痛んだが、理由は分からなかった。ただ漠然とその"ゆきや"という"おとこのこ"に対して負けたくないという対抗心が生まれた。
 おれがその胸の痛みの意味を知るのはこれよりもう少しあとのことである。
 
 
 
 しばらく経って、母が迎えにきた。彼女は寂しそうにしていたが、最後に笑顔でおれにこう言った。
 
 
「えっと、ね……わたし、かりんはアイドルが似合うと思うなぁ……」
「アイ、ドル?」
「子役のかりんもとってもステキだとおもうけど、かりんうたがとってもじょうずだし、とってもかわいいから」
「…………」
「……なんてね!!かりん、またあおうね!!」
 
 
 
 出会った時と同じように彼女は元気にそう別れの言葉を言った。
 
 まさか、その数日後にまた会うことになるなんて思いもしなかった。
 
 ∮
 
 
「こんにちは、中嶋観鈴ちゃん。先日はうちの劇を見に来てくれてありがとう。娘とも遊んでくれたみたいでとっても嬉しいよ」
「……は、はい」
「いやぁ、小百合の娘だけあって本当にべっぴんさんだねぇ!まぁうちの娘の方が可愛いんだけど!こういうのが親バカっていうのかな?」
 
 数日後おれは、またあの劇場の舞台裏の控え室に呼び出された。呼び出された先には母の友達だとかいうあの綺麗な女性が待っていた。父と母は事前に話を聞いていたらしく、部屋の外で待っており、おれ一人で入ることになった。入る時、母も父もやけにニコニコと機嫌がよくて気持ち悪かった。
 
「実は社はうちの娘なんだ」
「は、はい…………って、えぇ!?」
「やっぱり気が付いてなかったんだねぇ。我ながら私とよく似た娘だと思うんだが」
 
 言われてみれば確かに似ている。凛とした顔立ちや、話の勢いが凄いところとか。特に後者が。
 それにしても驚いた。まさか団長さんの娘だったなんて。確かにやけに演技が上手いと思ったけれど。
 
 
 
 
「それでね。観鈴ちゃん、ここで君に提案なんだけど」
「…………な、なんですか?」
「君、私の事務所で子役として働かない?」

 
 
 
 
(…………)
 
 
 
 
 
 
 
 
「ええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!??」
 父の会社が倒産したということ聞いた以上の衝撃がおれに走った。どうして、どうして、そういうことになるわだろう。理解、できない。五歳の、陳腐な脳ミソでは、到底。
 
 
 
 
「……いやぁ小百合も言ってくれれば喜んで手伝ってあげたのにねぇ」
「……え、えっと、どういうことですか」
「ん?分からなかったかい?つまり私の芸能事務所の子役として働かないかい?ということだよ。前より良い仕事を斡旋できる自信はあるし、給料も前いた事務所の倍は渡すつもりだ」
「…………そ、そういうことではなく、どうして、そんなはなしに」
 
 
 おれが聞くと彼女はそういうことかい?と納得したように頷いて、おれに説明した。
 
 
「まずね。あの日社の話を聞いて私は君の家が大変なことになってると知った。私はなんとしてでも協力したいと思ったよ。なにせ旧友の為だ。……だけど、小百合に連絡すると、そんな一方的に援助してもらうのは嫌だといってね」
「…………」 
「私は考えた。そしたら聞くところ君は子役を続けたいと考えているらしいじゃないか。……だから私は彼女にこう言ったんだ。"じゃあ私の会社に君の娘に働いて貰う代わりっていうのはどうかな?"ってね」
「かりんが、はたらく、かわりに……」 
「小百合は迷っていたが、娘がOKを出したなら、という条件で了承した。勿論君が嫌なら全然働かなくてもいいんだ。方法は一つじゃない、結局は何らかの方法で君のお家を助けるつもりで私はいる」
「…………」
「……どうかな?」
「やらせてください」
 
 考える必要はなかった。おれにとってその提案は願ったり叶ったりだった。子役を続けていられる。両親の手助けが出来る。それに……事務所の社長が社の母さんなら、社に会える回数も自然に増える。
 
 
「……決まりだね」
 おれの言葉ににやりと笑って、社のお母さんは……いや、社長はそう言った。そして最後にこんなことをおれに聞いた。だけどもそれはおれにとって考える必要のない質問だった。
 
 
 
 
 
「……さて、最後に。事務所の社長として君に今後の方針を聞かせて貰おうかな。簡単に言えば"将来の夢"だ。君はどのような方面に進みたいと思ってる?」

 

 
 
 おれは笑顔で答えた。
 
 
 

 
「アイドルに、なりたいとおもっています」

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.70 )
日時: 2017/12/03 16:13
名前: 羅知 (ID: tJb4UNLc)

 ∮
 
「ねぇねぇゆきや、あしたはえんそくだって!!たのしみだねぇ!!」
「……で、でもやまのぼりなんだよね?おれのぼれないかも……」
 
 明日は遠足。どうやら近くの山へ山登りに行くらしい。彼女は絶対に頂上へ登ると息巻いていたが、オレは不安だった。
 
 彼女を泣かせてしまったあの日から二年が経った。社が劇団に入ってることを知ったオレは一年前劇団に入団した。社ともっと仲良くなりたいという理由もあったけれど、一番大きな理由はオレ自身が劇で繰り広げられる演技に魅了されたからだ。一度ステージに上がれば、一瞬で役者は別人に変わる。舞台裏では大人しそうそうだった人が舞台の上では堂々とした演技で多くの人々を虜にする。初めて社に誘われて、その劇を見た瞬間から心は決まっていた。オレもこんな風になりたい、そう思った。
 
 父と母に許可を貰って、オレはすぐさま劇団に入団した。兄の満月も誘ったけれど、俺は遠慮しとくよ、と言って兄はオレの誘いを断った。オレよりも優秀で華やかな兄ならきっと素晴らしい演技を見せてくれると思っていたので断られた時少しがっかりしたが、それでもオレの決意は変わらず一人で入団した。兄はそんなオレを見て、寂しげな様子だった。
 
 劇団には社の双子のお姉さんも所属していた。社と顔はそっくりだったけれど、同い年なはずなのに彼女は随分大人っぽくてオレは緊張してしまった。そんなオレにも社のお姉さんはにこやかに話しかけてくれた。品のある年に似合わない妖艶な笑顔だった。
 
「こんにちは、ワタシはセツナ。あなたはお隣さんの白夜くんね。みずきとちがって、こいぬみたいでとってもかわいい……」
「……え、あ、あにをしってるんですか!?」
「えぇ、知ってるわ。あなたが社と仲良くしてる間、ワタシはあなたのお兄さんと仲良くしてたんだもの。ワタシと満月はとっても"なかよし"。あなたと社みたいにね」
 
 後から話を聞くと、セツナさんは兄と同じ私立の幼稚園に通っていたらしい。優秀な兄はその才能をより伸ばすべくオレの通っている普通の保育園ではなく私立の幼稚園に通っていた。父と母は本当はオレもその幼稚園に入れたかったらしいが、不出来なオレはその入園試験に落ちてしまった。つくづく自分のふがいなさに泣きたくなる。しかし社は何故その私立の幼稚園に入らなかったのだろう?社はオレと違い頭の回転が早く優秀だ。社の実力なら、きっと私立幼稚園に入園できたはずだ。オレがそう聞くと、社はあっけらかんとこう答えた。
 
「だって、そこにはゆきやがいないもん!」
 
 真っ直ぐな目でそう言われて、オレは思わず照れてしまった。他意はないと分かっていても面と向かってそう言われるとかなり恥ずかしい。オレはしばらく社の顔を直視することが出来なかった。
 
「………………それに、セツナとおなじようちえんにはいきたくなかったから」
 
 ぼそりと社が何か言ったようだが、オレにはなんといったかまでは聞き取れなかった。しかしなんだか表情が暗い。どうしたの…?と聞くと、社は慌てたようにまた笑顔に戻ってなんでもないと答えた。まだ何か隠してるように思えたが、答えたくないのなら無理に聞かなくてもいいだろう。そう思ったオレはその話をそこで終了した。
 
 
 
 
 
 だけどこうして姉妹二人で揃っている姿を見て、オレは今更あの時社が言った言葉の意味に気が付いた。
 
(…………)
 
 あの明るくて元気で優しい、そしていつも笑顔な社がすごく不機嫌そうに顔を歪ませて黙っている。オレがセツナさんと言葉を一言交わす度に、その機嫌の悪さは段々と増していっているように見える。これは、もしかしてだけど。
 
(やしろはセツナさんのことがきらいなのかな……)
 
 そして話しているセツナさんの表情を見る限り、どうやらそのことにセツナさんは気付いてるようだった。気付いた上で、セツナさんはいっそう楽しそうに、美しく、笑う。
 
(…………)
 
 
 
 この時の経験が怖かったので、オレは社のいる場所ではセツナさんと喋ることは最低限になるようになった。
 それと同時にこんな頭の良さそうな人と対等に話せる兄はやっぱり凄いのだと兄の偉大さを再確認した。
 
 
 ∮
 
 
 遠足当日。山まではバスで行くらしい。バスでゆらゆらと揺らされながらオレはやっぱり不安だった。色んな不安が一つ、また一つと浮かんで息が詰まってしまいそうだった。
 
 そんなオレを見て、社が怪訝な顔で聞く。
 
 
「?……ねぇ、ゆきやきいてる?」
「う、うん。もちろんきいてるよ……」
 
 
 怖かった。今日の山登りがオレはとても怖かった。

 劇団に入って、二年が経ったけれどオレは全く変われた感じがしない。社はこの二年の間で何度も公演に出た。オレはその間、舞台裏のスタッフの仕事ばかり。勿論スタッフの仕事だって良い劇を作り出す為の大事な仕事だ。そのことは理解している。だけど、だけど。
 
(……あぁ)
 
 同じ練習をしているのに。同じくらい演劇が大好きなのに。オレと彼女の立っている位置はこんなにも違う。才能の違いを再認識させられる。きっと出来損ないのオレは人と同じ努力じゃダメなのだ。人の十倍。百倍。千倍は努力しなきゃ。
 
(でもそれでもダメだったら?)
 
 もっと、もっと、もっともっともっともっともっと。……どれだけ頑張ればいいのだろう。どれだけ頑張ればオレは彼女に、兄さんに追い付けるのだろうか。頑張っても追い付けなかったらどうしよう。そんな不安ばかりが頭をもたげる。こんなことばかり考えているから、オレは駄目なのだ。あぁ自分が嫌いだ。こんなオレじゃいつか社から嫌われてしまう。もう嫌いだ、なんて言われて見捨てられてしまったらオレの心はきっとバラバラになってしまうだろう。怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
 
 
 そんな不安が顔に出てたのか、声に出てたのか。ふと心地よい暖かさが身体を包む。社がオレを抱き締めていた。まるで母が幼子を慈しむかのような優しさで、社はオレを抱き締めながら小さな声で呟く。
 
 
「だいじょうぶ。ぜったいにだいじょうぶ。ずっといっしょにいるよ…… 」
 
 
 オレが驚いて社の方を見ると、社はいつも通りの元気な笑顔でオレの顔を見て、笑った。
 
 
 
「--------だから、だいじょーぶだよ!!やまのぼり!!わたしおいてかないから!!」
(……そっちのことか)
 
 考えていたことが深刻だっただけに、社のその何も考えていないような発言に拍子抜けして、オレはなんだか自分の悩みがどうでもよくなってしまって社と同じように笑った。
 
 
 ∮
 
 
「や、やしろちゃ……まって、はやいよ……」
「……えー?けっこうゆっくりあるいてるんだけどなぁ……」
 
 目的地に着くとオレ達以外の子供達まるでお菓子にたかる蟻ん子のようにわらわらとバスから降りた。四方八方に散っていく子供達を捕まえるのに先生方は苦労しているようだった。その様子を見ていたオレと社は事態が落ち着いてから、ゆっくりとバスから降りた。先生からは「あなた達は手が掛からなくていいわぁ」と誉められた。待っていただけで誉められたので、オレは嬉しかった。オレが嬉しそうなのを見て、社も楽しそうにに笑っていた。それを見て、オレはもっと嬉しくなった。
 
「は、はやいよ……やしろちゃん……」
 
 山に着くと社は驚くほど身軽な様子でどんどん山の上へと上っていった。それこそ先生の制止の声が入るほどに。一方の社は気分が高揚して声が聞こえなくなってるのか、先生の声を振り切ってずんずんと上へ登っていく。唯一オレの声は聞こえてるらしく、返事はしてくれるが足を止める気はないらしい。
 
(おいてかない、っていったのはだれだよもう…………)
 
 どんどん先に進んでしまう社を止める為にオレも随分上の方まで進んでしまった。自分の行った道を見返してみると先生達がとても小さくみえてオレは驚いた。どうやらオレ達のスピードに追い付ける人はいなかったらしい。子供の無尽蔵の体力のおかげもあると思うが、劇団で過ごしてきた二年間でオレは随分鍛えられていたらしかった。思いがけず自分の成長を実感して喜んだのも束の間。
 
 
 
(は………いまはそんなばあいじゃなかったんだった!)
 
 
 自分の置かれていた現状を思い出す。
 
 
 そうだ。オレは早く彼女に追い付いて彼女を止めなければならない。そう思って前を確認すると彼女は五メートル程先のところで立ち止まって何かを見つめていた。
 
 
 
 
「やしろちゃん…………?」
「あ!ゆきやもおいついたんだね!ね、わたしとってもいいものみつけちゃった!ゆきやもいっしょにみようよ!」
 
 そう言って社は一点に向かって指を指す。そこには一面に広がる大パノラマ-------------もといオレ達の住んでる町があった。どれもこれもがまるで玩具のように小さくちっぽけに見える。すごい、そう思わず口を溢したオレを見て社は何故か自慢気ににししと笑った。なんでやしろちゃんがいばってるの、と彼女に聞くと
 
「だってゆきやしたとかうえばっかりきにしててぜーんぜんまわりみてないんだもん!わたしがいわなかったらこのけしきゆきやみてなかったでしょ?だからわたしのおかげ!」
 
 とのことだった。彼女のそんな言葉に納得してしまっている自分がいた。こんなにも世界は広く美しいのに、オレは自分の手元しか見れていなかったのだ。考えることは他人と自分を比べるばかり。彼女の言う通り、オレは焦りすぎていて、こうして景色を見ることすら出来ていなかった。
 
 下を見下ろしながら、思う。
 
 オレはこの広い世界のちっぽけな一つで、他人と比べることに大した意味はない。ならば、ならば"意味のあること"とはなんなのだろう。考える。考えて、考えて------------ふと、横ににこにこしながら立っている彼女を見た。彼女の笑顔が、姿が、全てが、きらきらと輝いて見える。
 
 ……あぁ、そうか、そうだったのか。大切なものは、オレにとって何よりも意味を与えてくれる人はここにいたじゃないか。それに気付いた瞬間、オレは隣にいる彼女のことをとてつもなく愛しく感じた。 
 
 
 
 "彼女の笑顔を守れるような男になること"----それがオレの"意味"。オレの、生きる、意味。強くなりたいと、そう自覚して、一層強くそう願ったのは確かにそれが始まりだった。
 
 
 ∮
 
「あ!もっとうえまでのぼったら、きれいなのもっとたくさんみれるのかな?」
「え?」
「じゃあ、ゆきやわたしもっとうえまでのぼるからおいついてきてね!いくよー!!」
 
 そう言い終わるや否や社はまた猛スピードで上へと走っていってしまった。オレとしてはまだここら辺でゆっくり休んでいたいところなのだが、彼女の体力は無尽蔵らしくまだまだ元気そうだ。ここまで追いかけてきたんだ、嫌が応でも着いていってやる。そう思って重たい足を一歩、また一歩と踏み出す。オレがゆっくりと一歩ずつ踏み締めて歩いてる間にも彼女はすたすたと前へ進んでいく。このままじゃ置いてかれてしまう。無理矢理歩くスピードを早くするけれど、まだまだオレと彼女の間は大きい。彼女の表情はまだ余裕そうだった。悔しい。彼女に全然追い付くことすら出来ない不甲斐ない自分に舌打ちする。そんな自分に対する怒りをエネルギーにもっと、より早く、より前に、進もうと走る。足の痛みは関係なかった。もう意地だけでオレは前に進んだ。
 
 その甲斐があったのか、彼女とオレの間は随分小さくなり----------一メートル程になった。
 
 
 
 
(あぁ、やっと追い付けるんだ-------------)
 
 
 
 
 
 
 
 そう思って、彼女の背中に手を伸ばそうとした瞬間。彼女の身体がぐらりと下へと消えた。宙へ浮き、暗い木々の生い茂る暗闇に消えていく彼女。何が起こったのかも分からないまま、落ちていく彼女の目は確かにオレを見つめていた。
 
 
 
 考える暇はなかった。それに、考える必要もなかった。
 
 
 
 
 地を深く踏み締めて高く飛ぶ--------彼女の落ちていく方向へ。そして手を伸ばし、オレはぐっと彼女の身体を引き寄せて抱き締める。服で隠れていなかった肌の部分に鋭い枝が傷を付け、オレに鈍い痛みを与えていく。これでいい。傷付くのはオレでいい。彼女の身体に傷が付かないように、彼女を包み込むようにしてより強く抱き締める。
 共に落ちていく中、彼女の胸の音とオレの胸の音がばくばくと重なりあって聞こえた。
 
 
 
 ∮


 
「……ん」
「ゆ、ゆきやおきた!?よかった!いきてた!しんじゃってたらどうしようかとおもったよぉ……うわぁん!!!!」
 
 落ちた衝撃でオレは気を失っていたらしい。目を開けると目の前に涙や鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている彼女がごめんねごめんねと叫びながら泣いていた。社ちゃんのせいじゃないよそう言って、泣いてる彼女を慰めよう思い頭に手を伸ばす。頭を撫でてあげようと思ったのだ。しかし動こうとすると途端に身体に激痛が走った。
 

「……っ!」
「い、いたい?いたいよね?だってゆきやのからだきずだらけだもん!……ぜんぶぜんぶわたしのせい……わたしがじぶんかってにうごいて、しかもあしをふみはずしちゃったから……!」
「だ、だいじょう、ぶだよ……やしろちゃん……」
 

 本当は大丈夫じゃなかった。動こうとするだけで身体の内側から鋭い痛みが襲ってくる。多分骨が折れてるんだろう。あとこれは落ちていく時に出来た傷なのだろうか。ほとんどが掠り傷なのだけれど、幾つか深く切れている傷があって、そこから血がだらだらと流れている。最早そこは痛みが麻痺してしまって熱く感じるだけでむしろ擦り傷の方が痛く感じるくらいなのだけれど身体の中から血が抜けていったせいで、気を抜くと意識が飛びそうだった。
 全身が、身体の内側が、外側が、泣きそうなくらい痛い。オレはこのまま死んでしまうのかもしれない。そう考えると不安で不安でたまらなかった。だけどオレがそれを出してしまうと、きっと彼女はまた泣いてしまうだろう。だから泣かない。不安も出さない。いつもの彼女のように--------笑い慣れていなくて変な顔になってしまったけれど--------不器用に笑う。
 
「とびこん、だのはオレのいしだよ……やしろちゃん。……オレが、やしろちゃんを、まもりたくて、かってにとびこ、んだんだ……よわいくせに、かっこつけてね」
「ちがうよ!ゆきやはわたしをまもって……わたしをまもったからそんなおおけがに……!」
「……そんな、かおしないで、やしろちゃん。やしろちゃんがかなしいと、オレもかなしいよ……どんどん、さきに、すすんでくれる、やしろちゃんがいるから……オレも、まえにすすめるんだ……やしろちゃんが、いないと、オレはうごくことも、できなかった、から……」
 
 そう声を掛けても、彼女はもう返事も出来ずにただ泣き続けていることしか出来なくなっていた。駄目だな、オレは。大切な女の子一人、笑わせることすらできやしない。あまりの不甲斐なさに笑いたくなったが、とうとう口すらまともに動かすだけの力もなくなってきた。眠い。とても眠い。瞼が重く感じる。オレが目を閉じたのを見たせいなのだろう、彼女はもっと大きな声で泣き始めた。ごめんね、ごめんねという懺悔が泣き声と共にこの暗くて広い森の中に響き渡る。
 
 
 
 
 
 
 
 薄れゆく意識の中で、オレ達を探す大人達の声が微かに聞こえた。
 
 
 
 ∮
 
 
 
 
 
 白い病室で楽しげな子供の声が聞こえる。 ベッドの上でにこにこと笑う子供はまだ幼く穢れを感じさせない。まるでこの白い部屋のように。真っ白な綺麗な魂を持つその子はまるで天使のようだった。子供の座るベッドの傍らで、白髪の十幾ばくかの少年は無表情で立っていた。少年の目はまるでこの世の闇を全て見てきたかのように暗く、悲壮感に満ち満ちていた。少年は己を穢れたものだと思っていた。だから幸せでなくとも、喜びを感じなくとも仕方のないことなのだと考えていた。
 
 
 
 この子供に会うまでは。
 
 
「しらぼしにぃ、あそぼーよ!はやく!」
『そうだね。なにしてあそぶ?』
 
 
 口に付けた黒いマスクを外さないまま少年は、子供の言葉に答えた。正しくは答えてはいない。彼は口を開いてなどいないのだから。子供用の落書き帳に素早く子供が分かるように平仮名で文字を書き、彼はその子供と意志疎通を図っていた。子供に対する時だけではない。彼はいついかなる時も自分の口で話すことはしなかった。話すことが出来ない訳ではなかったけれど、自分が話すことで相手が穢れてしまったら-----------そう思うと話すことは出来なかった。
 
 
 さぁ遊ぼうとしたその時、がらりと扉が開く。入ってきたのは、黒い髪に黒い目を持った自分より幾つか年上の色んな意味での"先輩"-------黒曜こくようだった。自分と同類の筈なのに、今までの苦労や過去の重みを感じさせないその態度に少年は尊敬の念を覚えていた。そしてほんの少しの嫉妬も。
 
 
「…お。ヒナ、白星くんに遊んで貰ってるの?羨ましいね。僕も白星くんと遊びたいなぁ、入れて貰ってもいい?」
「いーよ!こくよーさん!……しらぼしにぃもいーよね?」
『……ぼくは、べつに』
 
 
 少年のそっけない態度に黒曜は苦笑していたが、いつも通りのことなのでそのまま遊びを続行した。どうせこの変にお人好しの先輩のことだろうから、きっと自分が"ヒナ"と遊んでいると聞いてわざわざやって来たのだろう。よく一人でいる自分の為に。
 
 
 
(本当は何も思ってないくせに)
(本当はあの"女の子"のことしか大切じゃないくせに。僕たちと仲良くしてるのだって全てはあの"女の子"の為なんでしょう。嘘つき)
 
 
 
 少年は黒曜のことを尊敬はしている。しかし尊敬しているだけだ。好きなんかじゃない。この男は凄い嘘つきだ。心の中ではいつだってあの黄花とかいう女の子のことを考えている癖に、それでいて僕たちのことを心配している素振りをしている。複雑な心情を持った人間は苦手だ。色んな感情が頭の中にぐるぐると入り込んで、暴れまわって収拾がつかなくなる。
 
 
 
(それに比べて、ヒナの心の純粋で"真っ白"なこと)
 
 
 
 この子供の心はいつだって希望と光で満ちている。闇なんかはね除けるくらい光っていて真っ白だ。少年はこの子供が大好きだった。この子供と一緒にいれば、自分も浄化されるような気がした。
 
 
 
「……?どうしたのしらぼしにぃ」
『なんでもないよ』
 
 
 
 この子供が自分のことだけを"にぃ"と兄の敬称で呼んでくれることが、自分だけが特別のような気がして少年は好きだった。大好きな君がどうかいつまでも"純白"でありますように。心の中でそう願う。
 
 
 
 そんな少年の目は、暗い絶望に満ちた黒の中にほんの少しの光があった。まるで夜空で光る星のように。

Re: 当たる馬には鹿が足りない≪更新再開≫ ( No.71 )
日時: 2017/12/03 17:35
名前: 羅知 (ID: tJb4UNLc)


 ∮
 
「やぁ」
「……あら、ごきげんよう」
 
 病院の待合室の隅の方の席にちょこんと座る少年--------神並白夜の双子の兄、神並満月はそこに悠然とやって来た少女--------愛鹿社の双子の姉、愛鹿雪那セツナを見て、一分の隙もないような笑顔でそう挨拶した。それに劣らず美しい笑顔で優雅に会釈を返す雪那。目線が合ってほんの一瞬だけ二人の顔から笑顔が消える。幼い彼らには似つかわしくない重苦しい空気。けれどもそれはやっぱり一瞬のことで、お互いの目線が外れる頃には彼らの笑顔はもう戻っていた。
 幼くして彼と彼女の間には何とも言えない関係が出来上がっていた。彼と彼女以外は誰も知らない、お互いに対する名前の付けられない感情。それは俗にいう愛とか恋とかいうものではなくて、憎しみや嫌悪といったものと違うものだ。強いていうならそれらの感情全てが入り交じったもので、そしてそれらでは絶対にないもの 。彼らは悟っていた。きっとこの感情に名前を付けることは一生出来ないのだろうと。でも別にそれでいいと思った。名前に大した意味なんてないのだし、つるみたいからつるんでいる。それでいいんだと。
 彼と彼女はそんな風にお互いの結論づけていて、子供にしては達観しすぎたそんな彼らの思考は世間一般と比べてあまりに異質だった。
 
「白夜くんのこと、ごめんなさいね。うちの不肖の愚妹がめいわくかけたみたいで」
 
 満月の横にするりと座った彼女は開口一番に横にいる彼にそう言った。彼女としては一応本当に申し訳ない気持ちも込めて放った言葉だったのだが、それが分かっているのかいないのか、彼は彼女の言葉に先程と変わらない笑顔のまま極めて明るい調子で答えた。
 
「おいおい。仮にも同じ腹から生まれた双子の妹のことをそんなふうに言うのはどうかと思うぞ?……まぁ、白夜のことは気にしなくていいさ。そうすると決めたのは白夜だし、俺がそれに口出しなんか出来るはずがないからな。それに」
「…………それに?」
「正直こんな風になって"嬉しい"って思ってる自分がいるんだ。だって"人の為に自分が犠牲になる"なんて"愚かなこと"、俺には出来ないからな……あぁ、やっぱり俺の弟は最高だな!」
「……相変わらずあなたってとっても気持ち悪いわ。吐き気がしそう」
 
 彼女がそう毒を吐き捨てるかのように言った言葉にも彼は褒め言葉だな!と言って快活そうに笑った。心底からそう思ってるようだった。きっとこの男のことだから弟が入院することについても、大勢の人の目に触れない場所で俺の愛すべき弟を閉じ込めておけるなんて、なんて素晴らしいんだろう。とか考えているのだろう。そしてそれは大変残念なことに事実だった。
 
「そういえば白夜くん、どのくらい入院することになったの?」
「二ヶ月だ。何ヵ所か骨折してたり、深く切り傷があったりとか………まぁ骨はくっつかなかったら、俺がずっと世話するからそれはそれで俺はいいんだがな」
「…………はぁ。もう面倒だからツッコまないわ。うちの妹は一ヶ月。怪我自体は大したことないんだけど精神ケアがどうにかって……」
 
 もっともあの妹に限って精神を病むことはないだろうということは分かりきっていた。自分に対しては態度の悪い妹だけれど、ことさらに前向きなあの子がこんなことくらいで心が折れるはずがない。一ヶ月という長い期間を取ったのはどちらかというと白夜くんの為だ。一人で病院にいるなんて心細いだろうし、あの子なら白夜くんに構いまくってきっと悩ます隙も与えないだろうから。
 
「苦労するわね。……白夜くん」
「ん?何か言ったか?」
「……別に満月には何も言ってないわ。……っていうか満月。あなたいい加減にしないと弟くんに嫌われるわよ。大きくなったらずっと一緒って訳にはいかないんだから、今のうちに弟離れしとかないと」
「どうして俺がそれを望んでいないのにそうなるんだ?」
 
 弟の方が自分から離れていくっていう発想はないらしかった。要するに離れさせるは気はないってことなのだろう。今でさえ無自覚腹黒のこの男が成長したら一体どんな手を使うのか。……考えなくても分かる。どんな手でも使うのだろう。この男なら。多分。
 
(……あぁ)
 
 初めて会った時は普通に優秀な男だと思った。"優秀"というのはiQとかそういうのではなく考え方の話だ。生まれた時から何故か世界がつまらなく思えた。そして気が付いたらこんな妙な達観した性格になってしまっていた。この男も自分と同じように"優秀"ゆえに悩みを抱えているのだろう。そう思って近付いた。
 
 だけど実際は違った。
 
 自分は確かに"異質"ではあったけれど、この男のように"異常"ではなかった。"ちょっと変わってるワタシ"と、"頭のおかしいこの男"。違いは歴然だった。この男の"ソレ"に比べたらワタシのなんてただ少しマセてる程度だろう。そう思い知った。
 
 
 
 それに気付いたのは彼女の"異質"ゆえだったのだけれど、それに彼女は気付かない。理由はなくなった。……けれども理由はないけど側にいたい。だから彼女は彼と一緒にいる。
 
 

 ならば彼は?彼は何故彼女と共にいるのだろう。
 
 
 



 
 
 それは今の彼女には想像もつかないことだった。


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