複雑・ファジー小説

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アカシアな二人
日時: 2022/04/16 22:27
名前: 梶原明生 (ID: UfViuu4R)

理想的な容姿と充実した高校ライフを送っている二人の高校生。ひょんなことから回りに勧められて付き合い出したのだが・・・二人は愛し合えなかった。「何かが違う。」その違和感を拭えないでいた。そんな時互いに別の異性との出会いがあったのだが。それは悲劇の愛の始まりだった。アカシアの花を通じて知り合った、52歳の男女だったのだ。しかし世間はこれを純愛とはせず、あらゆる憶測、いじめ、引裂き、誹謗中傷の嵐に晒す。果たしてこの四人の愛は没落なのか。それとも真実の愛なのか。神々の授ける運命は愛する者達を翻弄する。

Re: アカシアな二人 ( No.58 )
日時: 2023/01/08 14:12
名前: 梶原明生 (ID: qh2qVUY5)

・・・「春香さん。いい名前ね。幸せそうで何よりかしら。きっと、信子叔母さんも、喜ぶと思うな。クラス皆や親友達が幸せになることが私の幸せって言ってたそうですから。」「え、・・・」毅は驚愕した。まさかそんなことを信子が言っていたとは。「まぁ、赤ちゃんの頃に一度抱いてもらってたらしいんですが、その後あんなことに。顔写真見てたら尚更ただの叔母さんと思えなくて。よく時間が空いたらお墓参りに来てたんです。そうだ、これも何かの縁の巡り合わせですね。これを。」ハンドバッグから取り出したのは一通の手紙とカセットテープ。「遺品を再整理してたら出て来たんです。まさか三十数年ぶりに渡せるなんて思いにもよらなかった。中山毅君へ。と書かれてます。これ、あなたのことじゃないですか。」「はい、間違いありません。」「よかった。これでこの遺品にも成仏してもらえる。お婆ちゃん、老人ホームに入るんです。だから今の家を引き払って、お婆ちゃんが手をつけさせてくれなかった叔母の遺品を、整理しようと思って。」「処分するんですか。」「いえ、私の家族の歴史です。残せる物は残して、語って行こう思います。」その言葉に安堵する毅。「人は二度死ぬと言いますし。一度目は本格的な肉体の死。二つ目は忘れ去られる死。それだけはあってはならない。だから信子叔母さんの物語を語っていきたいんです。」毅はそれだけで半ば救われた気になった。やがて墓前に春香と共に手を合わせて冥福を祈った。別れ際に詩信は振り返って声をかける。「中山さん、うちの主人は中学からの親友でした。不良ぽい人を好きになることもありましたが、私は、愛する人よりも愛してくれる彼を選びました。今でもその選択に誤りはないと確信しています。幸せになれなかった信子叔母さんの分まで今、幸せです。」その言葉の言わんとする意味にハッとする毅。深々と誌信夫妻に頭を下げた。春香は今にも泣き出しそうな彼の腕を掴み、霊園を後にする。電気店に寄った後、嵐山公園に足を運ぶ。緑豊かな場所の木陰ベンチで
、先程買ったカセットプレーヤーを取り出して電池を入れた。信子が残してくれたカセットを差し込むと、再生ボタンを押す。懐かしい30年以上前のレターセットの便箋を、封筒から取り出し深呼吸する毅は目を開けて静かに読み始める。それは、狭間先生はじめ、クラスで親しかった旧友達に向けたものだった。志乃に向けた文もあったが、そこは飛ばして最後の頁、毅に向けた文を読み進める。「最後に中山君へ。テニス部中退の時は支えてくれてありがとう。凄く嬉しかったよ。ここで書くべきか迷ったけど、もう最後になるから書くね。本当はね、中山君が私のこと好きだってこと、何となく知ってた。でもね。龍二(立野)は私にとってかけがいのない愛した人だから、どうしても中山君の気持には答えてあげられなかった。今思うと酷い女だよね私って。本当にごめんなさい。それから志乃ちゃんがイジメてきたことは許してあげてね。多分、あの子は罪悪感持っていずれ中山君に言うと思うから。何故ならそのイジメも度を越すことのできない行動で、どこか苦しんでる姿があったから。多分理性はあるけど、私が龍二を奪ったことへの怒りでせめぎ合いになって葛藤してるんだと思う。だから絶対許してあげてね。最後になったけど中山君。唯一私が会いたいって言って会えなかったこと、どうか後悔しないでください。私はあなたに救ってもらいたくて電話したんじゃない。中山君に会って、ただ謝りたくて電話したの。だからどの道私は生きるつもりはなかった。だからどうか気にせず、幸せになってください。天国から・・・いや地獄かな。中山君の幸せを切に願っています。愛する人より愛してくれる人を選んでいたら良かった。  信子より。」彼はいたたまれない気持ちで手紙を持つ手を震わせ、とうとう抑えていた感情が溢れ出てしまう。目に涙し、嗚咽した。「の、信、信ちゃん、ウグゥ、信ちゃーん。」カセットには手紙と同じ文言が朗読されていた。それが余計に嗚咽を誘う。「ごめん、情けないよな。こんなに泣き叫んだり。みっともないよな。情け無いよな。俺。」・・・続く。

Re: アカシアな二人 ( No.59 )
日時: 2023/01/12 19:06
名前: 梶原明生 (ID: quQfBDMh)

・・・春香も涙しながら彼の背中を摩り、もう一方の手で毅の手を握った。「みっともなくてもいい。情けなくてもいい。毅さんは毅さんだから。私、全部受け止めるよ。全部受け止めてずっと側にいたい。愛してます。」「愛してる。」再び二人は口付けを交わした。・・・翌日朝早くに毅と春香は京都駅にあった。信子への思いも乗せていざ九州へ。「さようなら京都。さようなら・・・しばしさようなら信ちゃん。」手紙とカセットを胸に抱き、新幹線は走り出した。「信ちゃん。」一瞬ホームに信子の姿を見た気がした。笑顔で手を振る彼女には、怨みも憎しみもない、安らかな表情しかなかった。やがて大分県に戻り、いち早く隣にいる志乃と優也に報告した。手紙を見て泣き崩れる志乃。優しく支える優也。「君の気持ちはわかったよ。だから許すことにする。それが信ちゃんの望みだから。」毅の言葉に嗚咽する志乃。「ごめんなさい。ごめんなさい。」優也、春香、そして毅も貰い泣きして互いに肩を抱き合った。やがて部屋に戻った毅と春香。彼女は毅の背中から抱きついた。「抱いて。前にも言ったよね。私初めてを捧げる覚悟はできてるって。」「春香。・・・」禁断だったかもしれない。だがそれ以上に今、人肌が恋しかった。「愛してる春香。」貪るようにキスして服を脱ぎ始めた。いきり立つ石塔を春香はどうしていいかわからず、とにかく毅にベッドの上で身を委ねた。その石塔は草むらをより分けているのがわかる。「あ、・・・」声にもならない声が春香から漏れた。痛い。ただひたすら痛い。でもようやく毅と一つになれたことに比べたら些末なことだ。そう春香は自分に言い聞かせていた。やがて石塔は狭き門をくぐり抜け、赤い滝を引き出しながら遂に王宮に辿り着く。今まで発したことのない悲鳴が春香から発せられた。互いに優しさを持ち寄りながら二人は全てにおいて結ばれた。激しく波打つ振動は愛のハーモニーとなる。長い夜は更け、やがて後光が差すかのように朝を迎える。「お早う。」「お早う春香。」二人は目覚めても愛の余韻に浸っていた。朝八時頃。響探偵事務所と森本家は慌ただしくなった。「小田課長。二人の潜伏先がわかりました。場所は大分県別府市マンションロフディ青木です。」「大分県、随分と遠くに。よし、すぐに飛行機のチケット手配してくれ。」「わかりました。」一方森本家では、災害派遣から帰ってきた賢二が、春香がいないことに戦々恐々となった。「おい、菊子。春香がいないじゃないか。どうしたんだ。」彼女は怒りを受けるのを覚悟の上で事の経緯を話した。家庭内暴力はいけないのはわかっている。しかし、今回は勝手が違う。我が娘を母親がどこの馬の骨ともわからない男に差し出すような真似をしたのだ。これを許せようか。しかも一か月以上も騙していたのだ。「このバカが。」平手打ちに菊子は床に倒れ込む。祖母の春子が駆け寄る。「何てことするんだい賢二。殴るんなら私を殴りなさい。」・・・続く。


Re: アカシアな二人 ( No.60 )
日時: 2023/01/21 23:15
名前: 梶原明生 (ID: DXOeJDi3)

庇う春子に罵声を浴びせてしまう。「あんたもあんただ。子供を犯罪者に引き渡すような真似してそれでもババアか。」「何と雑言浴びせようが私は構わない。でもね賢二。一度だって春香の気持ち考えたことあるかい。あの子があそこまで恋焦がれるのにはそれ相応の縁あってのことだよ。」「何が縁だ。そんなもんはこの俺が認めん。あの中山とか言う男、今に見ていろ。」スマホを取り出して佐山署に連絡する賢二。「よろしくお願いします。・・・それから菊子、お前とは離婚だな。俺はしばらく官舎に行く。元々そこが家みたいなもんだったからな。」「賢二。」春子の制止も聞かず、家を出てしまう。佐山署管内でも慌しくなった。一旦取り下げたはずの示談で済んだはずの事件が再び通報されたのだから。「本間さん、それだけじゃないですよ。さっき偶然にもタレコミがあったんすよ。」「タレコミだと。」「ええ。なんでも中山が未成年者と潜伏している場所が大分県別府市ロフディ青木マンションだそうで。」そう話している頃、佐山署近くをほくそ笑みながら立ち去るスーツの若い男がいた。藤堂に殴られて、小田課長に食ってかかっていた響探偵事務所の探偵だった。「ザマー見ろ。吠え面かくぜあいつ。」ほくそ笑む探偵。その頃、別府駅に戻った藤堂は、油屋熊八の像を見上げていた。彼のマントについていく子供達が、娘に見えて仕方なかった。その顔には安らぎすぎる表情すらあった。何故彼が毅達と京都に行かなかったか。それは彼等が京都に行く決意をした日に遡る。無論、藤堂に打診したのだが、タイミングがいいのか悪いのか、彼のスマホに元妻からのメール。娘が会いたがっているから会って欲しいとのことだ。「何があったんですか。」春香が敏感に反応した。「なんでもない。」「嘘、藤堂さんが任務優先になんでもないとか言う時は必ず無理してる時。もしかして娘さんのこと。」図星に尚更意固地になる藤堂。毅が諭す。「たった一度のチャンス。逃さなかったから今の私達がいる。あなたも娘さんのサイン逃さないでください。」「しかし私は・・・」「これは命令です。いつか言いましたよね。雇い主は私で、その私には命令権があると。なら初めて命令します。今すぐ奥さんと娘さんに会いなさい。私達なら大丈夫。京都ですから。」これにはグウの根も出ず、毅達と共にそれぞれ目的地に旅立った。そして数日後。娘と涙の再会を果たし、妻には今の旦那か彼氏さんがいるだろうと気遣ったのだが。「何言ってるの。そんなものこの十年間私が作るわけないでしょ。私には、あなたと娘だけ。ずっと帰りを待っていたのよ。」涙する藤堂。毅や春香に話していたのはまるで逆。三行半を突きつけたのは、空挺団を首になって自衛隊にいられなくなった藤堂の方だった。しかし、そんな藤堂を嫌な予感が過ぎる。サイレン鳴らしたパトカーがロフディ青木マンション方面に向かったことだ。おまけに小田課長までタクシー乗り場で見かけた。「まさか、不味い。」彼は一目散に走った。「中山さん。別府警察署の者です。いますよね、開けてください。」「瀬西さん、いるんでしょ。」午前9時前後。・・・続く。

Re: アカシアな二人 ( No.61 )
日時: 2023/01/25 12:35
名前: 梶原明生 (ID: d1Bequrp)

・・・別府警察署署員によるガサ入れが入った。「どうしよう、毅さん。」春香は彼とソファで昨日の余韻に浸るいわゆる「イチャつき」をしていた矢先である。それは志乃、優也側も同じだった。「奥に隠れてて。」毅、志乃は同時に異口同音の言葉が漏れた。どうか別件であって欲しい。そう祈って玄関ドアを開けた。「中山毅だな。」制服警察官に混じり、私服に「大分県警」のベストを着た刑事らしき署員も含まれていた。「未成年者略取、及び誘拐の疑いで逮捕令状がでている。」「そんな・・・」絶句する毅に志乃。「森本春香さん、いるんだろ。」署員がズカズカと上がり込むのに対し、何を間違えたか思いにもよらない言葉を叫んだ。「逃げるんだ春香。」しかし、彼女は威風堂々とした態度で、まるで逃げも隠れもしないと言った表情で現れた。「誘拐じゃありません。私は中山毅の妻です。何かの間違いじゃないですか。私と彼は結婚します。夫婦が同じ屋根の下で暮らしちゃいけない法律はないはずですよね。」「いや、それはそうだが。」若い署員が怯むのをものともせずに顎の角ばった厳つい中年署員が割り込む。「何を言ってる。君はまだ未成年や。親御さんからも捜索願いが出ちょる。一緒に来てもらわなつまらん。」「いやー、いやー、毅さん。」「春香、春香。」手錠をかけられ、非情にも引き裂かれる二人の仲。通路で小田課長達とバッタリ鉢合わせる。「これは一体どう言うことですか。」「ん、あんたらなんね。」「申し遅れました。私、響探偵事務所東京本部課長をしております小田と申します。」名刺を差し出す。「ほう、探偵さんが何の御用件で。」「そちら奥の二人、瀬西志乃さんと志楽優也君は、優也君のお母さんからの依頼で私達が探していた人物です。こちらに引き渡して貰えませんか。」「できんな。もう逮捕令状が出ちょんからね。東京からの要請で、あんたらに誰一人引き渡しはできんけん。さ、のきない。」その時だった。小田課長の後ろから颯爽と現れた誰かが、毅と春香を助けようとした。「俺に四人を引き渡せ。」殴ろうとした手を止めたのは小田課長だった。彼は目配せで首を横に小さく振った。「誰だこいつは、公務執行妨害で・・・」言う間も与えず小田課長が笑顔で対処する。「すみません、こいつはうちの探偵の一人でして、いい歳してまだ血の気が多くて。私が言い聞かせておきますのでどうぞお進みください。」何とかやり過ごした小田課長達。しかし驚いた。配下達ですら藤堂にかなわなかったのに、小田は藤堂の腕を掴んで抑えこんでいる。「悪いな。俺も昔は中央即応連隊にいたもんでな。」意外だった。まさか彼も元自衛官だったとは。「気持ちは分からんでもないが、もしあそこで警察官10人倒せて逃げ出したとしても、さらに状況は悪化しただけだ。あそこまでバレたらもう手出しはできない。後は司法戦略で立ち向かうしかないんだ。」「クソ。」コンクリートの壁を殴る藤堂。・・・続く。

Re: アカシアな二人 ( No.62 )
日時: 2023/01/27 22:10
名前: 梶原明生 (ID: QXFjKdBF)

・・・紆余曲折を経て、毅、志乃、優也、そして春香の四人は東京に移送された。久々の東京。まだ残暑残る九月三日であった。青川学園では、登校しない春香と仁美の噂で持ちきりだった。クラスで紺野がホームルームを行う。「はい、静かに。一日にも話したと思うけど、金子さんは親御さんの都合で遠方にお引越しされて転校。森本さんはご両親の都合でお休みしてるだけだからね。最近あらぬ噂が立ち込めているみたいだけど事実無根。変な噂は流さないように。」言われて顔を見合わせる樹と智美。しかしそれより大変だったのは志楽の方だ。「これはどう言うこと、貴方達響探偵事務所は信頼と実績のある会社だったのよね。なのに何で警察沙汰になって週刊誌にすっぱ抜かれてるのよ。」小田課長達に雑誌を投げ置く乙女。「申し訳ありません。ですが、こればかりは不可抗力みたいなものでして・・・」「言い訳は沢山よ。おかげでネットではあの子の名前まで出回ったじゃない。あの子の将来はどうなるのよ。」それよりあんたの名声だろと、心で突っ込みを入れる奈央。「とにかく、責任は取ってもらうからね。響探偵事務所社長にそう伝えといてよ。」「あ、はい。わかりました。」小田課長達は一旦退散したものの、奈央がタブレットを投げ置いた。「何なのあなた。どう言うつもり。」「ハハハッ、よく見てご覧よ。」「え、・・・」そのタブレット端末画面には、週刊誌の一面が。何と、優也の一部始終どころか、奈央自身が最近の著作のゴーストライターだったこともこと細かに書かれていた。プルプル震えながらタブレットを持つ乙女。「何よこれ。どうしてこんなこと。」「どうして。は、どうしてでしょうね。私ね、あんたみたいな高飛車な女がどん底に突き落とされる姿が大好きなの。ハハハッ。」「キャーッ。」発狂する乙女を後ろ目に、立ち去る奈央。彼女のスマホに佐山署から電話が入る。「あ、志楽乙女さんの携帯で間違いないですか。実は優也君の件で、身元引き受け人として・・・」「是非お伺いしますわ。」乙女になりすまして警察署に向かう。乙女の代理と言えば半ば承知せざるおえない佐山署署員。意気消沈している優也を助手席に乗せて志楽邸に向かう奈央。「ハハハッ、あんたもバカよ。もう一年辛抱すれば18歳。成人として認められて親の縛りを受けず結婚できたものを。」いきなりな高笑いに思わず頭が真っ白になる優也。「な、何だよあんた。」「何でしょうね。今に分かるわ。あんた達の本当の地獄は今から始まるって事が。」「はぁ、何だそりゃ。」訝しげに奈央を見る優也であった。・・・次回「それでも愛」に続く。


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