複雑・ファジー小説
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- アカシアな二人
- 日時: 2022/04/16 22:27
- 名前: 梶原明生 (ID: UfViuu4R)
理想的な容姿と充実した高校ライフを送っている二人の高校生。ひょんなことから回りに勧められて付き合い出したのだが・・・二人は愛し合えなかった。「何かが違う。」その違和感を拭えないでいた。そんな時互いに別の異性との出会いがあったのだが。それは悲劇の愛の始まりだった。アカシアの花を通じて知り合った、52歳の男女だったのだ。しかし世間はこれを純愛とはせず、あらゆる憶測、いじめ、引裂き、誹謗中傷の嵐に晒す。果たしてこの四人の愛は没落なのか。それとも真実の愛なのか。神々の授ける運命は愛する者達を翻弄する。
- Re: アカシアな二人 ( No.33 )
- 日時: 2022/09/29 21:04
- 名前: 梶原明生 (ID: 344/XKJR)
・・・「一つ聞いていい。」「何。」「私、女として魅力ない。まだ子供にしか見えないの。」「そんなことないよ。もしそうならこんなことは・・」「ならどうして。私覚悟はできてるよ。」その言葉に反応しないわけではなかった。ただ、彼の中にある罪悪感と彼女を大事にしたいと言う気持ち。そして、信子への思いもあった。しかし、志乃と優也側は違っていた。思わず優也は志乃をベッドに押し倒していた。「私でいいの。」「何を今更。志乃さん、俺はあなたを愛しています。」唇を交わす二人。そこに少しも不自然さはなく、また時に見せる若者の力強い激しさが尚更志乃を媚薬の世界に誘った。心置きなく二人の初夜はこのペンションにて貫徹した。・・・・・翌朝、眠れなかった春香は朝早くから朝食の支度で忙しい狭間家の厨房をよそに、待合室の壁を見上げていた。そこには十字架が掲げられていた。思わず手を組み祈りを捧げる春香、「おや、春香ちゃん、だったかしら。祈っているの。」「お早う御座います。はい、この旅が幸せの楽園に辿り着く旅になりますようにって。でも、先生はキリシタンだったんですか。」「フフフッ違うわよ。昔キリシタンの神父さんが泊まっていった時に記念に貰ったものなの。おかげでクリスチャンが泊まる時、重宝してるわ。そう言えば思い出したけど、よく欧米の人は日本人を猿真似しかできない民族だ、なんて散々なこと言うけど、私は違うと思うの。神道ではあらゆる土地神様を祀ることはあっても、特定の神を祀るわけではないの。つまり、猿真似ではなく、あらゆる文化あらゆるイデオロギーをも受け入れる懐の広い民族。それが日本人なんだと。貴方達の愛も、受け入れられる世の中ならいいのにね。」両肩を優しく掴む狭間。「先生。」春香は心安らぐ気持ちになった。やがて七時を回り、毅達も起きてきて朝食を取ったあと、準備してチェックアウトした。今生の別れ間際に家族総出で送り出す狭間家に対し、春香は思わず彼女に抱きついた。「ありがとう。先生。」「いいのよ。幸せになってね。私の教え子よ二人は。きっと貴方達を幸せにしてくれる。だからあなたも誰かを幸せにできる人になってね。」泣きながら別れを惜しむ二人。優也は拓司に歩み寄る。「僕達も拓司さんみたいになれるよう、努力します。」「君なら大丈夫。きっとなれるよ。」「ありがとうございます。」毅達はこうして狭間のペンションを後にした。日産Xトレイルで幸先町の道路をひた走るのだが。グレーのセダンとすれ違う。「ん、あの運転手。」それは男にとって見覚えのある顔。JR幸先駅で停める毅。「すみません。ちょっとこの書類を出してこないと。すぐ戻ります。」郵便局に向かう藤堂。そのタイミングで先程のグレーのセダンがすぐ後ろに停まる。ヌッと身長186センチの男が降りてきた。・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.34 )
- 日時: 2022/10/01 16:59
- 名前: 梶原明生 (ID: Om7nks4C)
・・・「運転手さん、ちょっといいですか。」「はい。」男は毅側の窓を中指の背で突いた。「マフラーに何か引っかかってますよ。危ないので取り除いた方がいいですよ。」男はニコリと作り笑いをして接してきた。「そうですか。すぐ降ります。」毅は車を降り、早速後部マフラーを調べるのだが。「あのー、どこにも何もありませんが。」「俺にはあるんだよ。」いきなり両肩を掴んだ男が、膝蹴りを毅の肋骨に叩き込む。「キャーッ」春香は悲鳴をあげながら車を出た。優也もだ。「何するんだあんた。」「あん、オメーには関係ない。ガキはすっこんでな。」更に暴行を加える男。「やめろっ。」「やめて。」優也と春香は止めに入るが、敵う相手ではない。互いにアスファルトに投げ出されて両手をついた。「ああ、中山毅だよな。一ノ瀬静香の同僚の。」「何故彼女を・・・」「俺はあいつの夫だ。よくも寝盗った上に娘にまで手出しやがって、この変態イカれ野郎が。」「ち、違う。私はそんな事していない。」「はぁ、ああ、そうそう誰でもそう言うんだよ。不良債権出した顧客みたいにな。」更に殴り付ける男。しかし、見知らぬメンズポーチが飛んできた。「いてっ、何だよ。」「何だよじゃねー。今すぐにその人を離せ。」「ああ、オッサン。またどぶネズミが湧いてきたのか。」「一応警告はした。」「はぁ、何だそりゃ。」言っている間にローキックが浩二の右脹脛にはいる。何だこの感触は・・・彼はそう感じていた。大学時代まで茨城の街では喧嘩無敗の名で知られていた浩二。就職活動を機に足を洗っていたのだが、飲み屋街でたまにその片鱗を見せる時があった。その彼が178センチ程度のサラリーマン風情の男のローキックで宙を浮いている。アスファルトへの直撃は免れたものの、言い知れぬ恐怖を感じた。野性動物が感じる「戦ってはいけない相手」とはまさにこの男だ。浩二は喧嘩自慢の勘として藤堂にそれを感じていた。しかしそれでも・・・「何だテメーっ。」殴りかかるも結局かわされて横裏拳を顔面に喰らい、回し蹴りが腹部に叩き込まれる。「中山さん、大丈夫ですか。」「肋骨が・・・」多分ヒビが入っている可能性がある。「すみません、俺が少し手を開けたばっかりに。」「ち、違います。そんなことは。」優也と共に後部座席に毅を乗せる藤堂。「待てこらっ。」意識を吹き返した浩二が藤堂の腕を掴むが、親指を捻り上げられ、引っ張る浩二に合わせてその方向に突き飛ばした。運転席に座る藤堂。「しまった。運転できないんだった。」自身が運転恐怖症なのを忘れていた。春香が懇願する。「藤堂さん、お願い。今あなたしか運転できる人いないの。」「柚子・・・」一瞬春香が一人娘にみえた瞬間、藤堂の恐怖症がなりを潜めた。「シートベルトに捕まって。」全員が目一杯ベルトを引っ張りだして手に絡めた。ゾンビ映画みたいに血だらけの浩二が運転席側のドアにへばりつく。また裏拳で叩き出す藤堂。サイドブレーキをおろし、ギアを入れてアクセルを踏み込んで急発進した。空挺団譲りのドライビングテクニックで浩二を振り切る。「まさかな。体が運転を覚えていたなんて。10年も運転してなかったのに。」・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.35 )
- 日時: 2022/10/10 12:22
- 名前: 梶原明生 (ID: TWcGdVfz)
・・・「ありがとう藤堂さん。おかげで助かった。」「いや、俺のせいかも知れない。」「ううん。あんなの誰も予測できないよ。」少し大人に近づいた春香が、娘の柚子にまた重なって見えた。藤堂が運転しながら毅に聞く「中山さん、さっきのやつは誰かわかりますか。見たところ銀行マンに見えましたが。」「以前話した、病院勤務の同僚の一ノ瀬静香さんの元夫です。私は彼女とは交際なんかしてませんし、まして娘さんを手にかけるなんてしてません。たしかに、彼女が私に好意を抱いていることは知ってました。でも私には・・・そう言えば、確か一ノ瀬さんは暴力を振るう夫から逃げて東京に来たとか言ってた。まさか彼が・・・」一抹の不安が過ぎる毅。「藤堂さん、また東京に戻ってくれませんか。彼女が心配です。」「何を言うんですか中山さん、今舞い戻ったらそれこそ網に自ら引っ掛かりに行くようなもの。いくら雇い主の意向でも、そんな無謀な命令は聞けません。」「命令だなんて。・・・」「とにかく、怪我の治療が先決です。ここから50キロ先の名古屋郊外に知り合いの整形外科医がいます。先ずはそこへ。」藤堂はハンドルを右に切って加速した。それから数時間して、名古屋市内のあいりん地区かと見まごう町にたどり着いた。クリニックの看板もない貸しビルらしき建物の駐車場に入る藤堂。「え、ここがクリニック。」春香が不可思議そうにビルを見る。「ちょいとワケアリでね。」ニヤリとする藤堂だったが、春香はニヤリなんてできない様子。「さぁ、行きましょう。」エレベーターに毅を支えて促すのだが、春香達は、反社会勢力にすら足を踏み込んだかと嘆きたい気分。不気味なエレベーター音が尚更それを演出する。しかし・・・「わーオシャレ。」春香の第一声でもわかるほどに、中は新築の都会派クリニックなのに度胆を抜かれた。「植木、植木いるか。」しばらくするとヒタヒタと雪駄めいた履き物でボサボサ頭にタバコを咥えた中年男が、白衣だけ着ただけと言う出立ちで現れた。「オイ、ここ禁煙だろ。赤バツマーク出してる院長のお前が吸ってどうする。」「おう、藤堂、久しぶりだな。ワリーワリー。客がそんな爺さんばっかでついな。・・・真希ちゃん元気にしてるか。ありゃいい女だったなぁ。」「こら、人の元妻に何考えてんだ。お前にはやらんぞ。」「離婚したんだからワンチャンあってもいいだろ。・・・アレ、家族か。」「違う。」「またワケアリかよ。お前随分前もそんな患者連れてきたろ。」「いつの話だよ。そう言うお前だって三度の離婚の時どれだけ助けたか。この浮気症候群が。」「言ったな、この自衛隊崩れの三品探偵が。」「何だと。」「あの先生、もういいかしら。」カーテン越しから看護師らしからね看護師服の女が現れた。見るからに綺麗だが、ケバいし、化粧臭い。春香から見たらテレビドラマでも見ているかのような光景だ。「うん、いいとも。ミナヨちゃん、また来てね。」鼻下が最大限伸びる植木。「また女か。性懲りもなく。」「藤堂、また蒸し返すか。」「あの・・・治療、お願いしたいんですが。」植木の反撃に春香が痺れを切らした。「おっと、忘れてた。もしかして、その旦那かい。」間違いなく毅をさした。「はい。」「わかった。先ずはレントゲンだな。」いきなり目つきと動きが変わる植木に衝撃を受ける春香。それは自堕落な雰囲気は微塵もないプロの姿だ。「ここ痛いかい。そうか。右腹下の肋骨三本だな。じゃあ両手つけて。顎乗せて。息を吸って。痛いなら吸えるだけでいいからね。はい、息を止めてしばらく。はい、いいよ。」テキパキと進む手際の良さには驚いた。「藤堂、奇跡的にも折れる寸前でヒビが入ってる。危なかったところだ。もし肺に刺さってたら大事だったな。」・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.36 )
- 日時: 2022/10/16 17:27
- 名前: 梶原明生 (ID: wtNNRlal)
・・・全員が安堵の表情になる。春香が萎れたアカシアの花束を持って感極まる。「アカシアのおかげ。私がふざけてシャツの中に花束を入れたらって突っ込んでおいたから。アカシアが守ってくれた。」「かもな。まさに奇跡だよ。」藤堂も感心した。「しかし、骨が再生するまで胸当てバンドと薬剤と安静が必要だ。少なくとも一週間は。このビルワンフロアは俺の住処でもある。オーナーが心優し〜い人だからな、ほぼ無償で貸し付けてくれたんだ。」「本当か。財産ある患者からむしり取れるからじゃないのか。」藤堂が横槍を入れる。「人聞き悪いな藤堂。せめて名古屋のブラックジャックと呼んでくれよ。俺は貧乏人からは治療費はほぼ、ただ同然。ただし、財産溜め込んでる強欲なやつからはたんまり頂く。それだけさ。」笑い合う二人。この日は仕方なく植木クリニックに寝泊まりすることになった。「藤堂さん。植木さんとどういうお知り合いですか。」春香が聞いてくる。「ああ、あいつか。あいつは高校時代の悪友でな。ま、何の因果か奴とはよく会うことが多かった。医者の息子でな。あれでも昔はガリ勉の優等生だったんだが。大学を出て臨床医になった頃に派手な女遊びに目覚めてな。それから三度の結婚離婚。前の奥さんとの間に息子が二人、娘が三人。だが、ある医療ミスがきっかけで医師免許を剥奪された。流れ流れついたのがこの名古屋市内某所のクリニックってわけさ。」「そんなことがあったんですか。」「心配いらないよ。奴の腕は超一流だ、俺が保証する。」「でも、そんな人が医療ミスなんてしますか。」「さぁな。弘法も筆の誤りって言うしな。さぁ、今夜もう遅い。中山さんとこに行ったほうがいい。」「はい。おやすみなさい。」立ち聞きしていたのか、ロビーに現れる植木。「概ね正しいかな。」「何だ植木、立ち聞きしてたのか。」「たまたまだよ。あの医療ミスは。」「わかってる。わかってるよ。別にあの話までする必要はないだろ。」「そうかもな。もう過去の話だしな。」植木は遠い過去を思い出す。「院長、どういうことですか。あの患者は私が執刀するはずでしたよね。それを非番の日にあなたのドラ息子に執刀させるだなん・・・」「君の息子さんの件。棒に振りたくはないだろ植木先生。悪いようにはしない。」それを出されたら彼も黙るしかなかった。かくして、医療ミスの犯人の濡れ衣を背負い、医師免許を剥奪され、二度目の離婚。流れ着いたのが名古屋だった。タバコの火を灰皿に擦り付けて自室に戻ろうとする植木。「植木。ありがとうな。」「珍しいな、お前が礼を言うとは。いつものことだ。ただし、報酬は頂くがな。」笑い合いながら別れる二人。・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.37 )
- 日時: 2022/10/18 19:32
- 名前: 梶原明生 (ID: KIugb2Tf)
・・・それから三日経った八月の暑さが近づいた頃。「思いの外回復が早いね。そろそろ薬を減らそう。鎮痛剤は痛くなったら飲む程度でいいよ。」植木が毅を診察しながら喋る。「ありがとうございます。おかげで助かりました。」「いやいやどういたしまして。ただ、胸バンドは外さないで下さいよ。まだ安静が必要なのは変わりないですからね。」一通り終わると優也が何か頼み込む。「ちょっといいですか。」「いいよ、何。」二人は別室で話し合った。「あの、先生は昔生き別れになった息子さんがいるそうですね。」「そうだけど、それが何。」「いや、その、父親として、息子さんをどう思ってるのかなって。」窓から照りつく太陽を見上げながら語る植木。「可愛いよ。そりゃ自分の分身みたいなもんだもん。可愛いくないなんてありえないよ。そしてできれば会いたい。何の柵もなくね。大概の子供と生き別れた父親はそう思うんじゃないかな。」「やはり、そうですか。」「何、もしかして君の事。聞いたよ藤堂から。君、志楽乙女の息子さんなんだって。お父さんが出版界の大物らしいが。会いたくなったか。」「いえ、そういうわけでは。ただ、話が聞きたくて。」「会いに行けばいいじゃないか。何の遠慮がいるんだよ。さ、瀬西さんとこに行きな。」「はい。」彼は満面の笑みを見せて部屋を後にした。暫くしてコンビニから藤堂が帰ってくるのだが。「中山さん、皆。早く荷物をまとめて。ヤバいことになった。さっき警察の気配がしたんだが、どうやらこのビルを包囲してるらしい。」「ええ、そんな。私達連れ戻されるの。」春香が頭を抱える。「いや、だとしたら君達じゃないな。」「植木、やはりか。」「おう、やはりも何も、俺しかないだろ。モグリの医者もここまでだな。」メガネを拭いてかけ直す。「もとは外科医だが、整形外科は独学だった。この名古屋は東京とは違う街、昭和と新しい令和とが入り混じった団塊世代の終焉地。北は北海道から南は九州まで、まだ年端も行かない15歳が集団就職と言う名の徴兵にかりだされ、薄給でも馬車馬のように働かされた人々が集う街。まるで使い捨てのように老後を過ごす夫婦が多いこの街にこそ、俺の医療は必要だと始めたクリニックだったが。・・・ここまでのようだ。藤堂、それから中山さん達。この奥に俺とオーナーしか知らない地下道に出る非常階段がある。そこから逃げてくれ。なーに、警察の狙いは俺だ。誰も君達を捕らえたりしないさ。さ、早く。」植木は彼等を非常階段に向かわせてカーテンを閉めた。・・・続く。
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