複雑・ファジー小説
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- アカシアな二人
- 日時: 2022/04/16 22:27
- 名前: 梶原明生 (ID: UfViuu4R)
理想的な容姿と充実した高校ライフを送っている二人の高校生。ひょんなことから回りに勧められて付き合い出したのだが・・・二人は愛し合えなかった。「何かが違う。」その違和感を拭えないでいた。そんな時互いに別の異性との出会いがあったのだが。それは悲劇の愛の始まりだった。アカシアの花を通じて知り合った、52歳の男女だったのだ。しかし世間はこれを純愛とはせず、あらゆる憶測、いじめ、引裂き、誹謗中傷の嵐に晒す。果たしてこの四人の愛は没落なのか。それとも真実の愛なのか。神々の授ける運命は愛する者達を翻弄する。
- Re: アカシアな二人 ( No.93 )
- 日時: 2023/07/01 17:49
- 名前: 梶原明生 (ID: N9DlcNaW)
・・・いつもの春香と優也の登校風景が戻ってきた。そんな二人を笑顔で見やりながら校長は藤の手入れをしている。紺野がやってきた。「おはよう御座います校長。あれ、これ藤ですよね。手入れされるんですか。」「うむ、時々ね。」「藤木学級の名前も、もしかしてこれからですか。」「それもあるんだがね、妊娠した生徒と我々教師や親の関係がこの藤の木に似てる気がしてね。・・・藤は一人で咲き誇ることはできない。誰かが手を差し伸べて、添木となってやっと咲く花。決して彼女達を見捨てない、まるで藤の花のように、誰かが添木になり、彼女達をやがて咲き乱れる美しい藤の花のように社会へ輝かせたい。そういう願いをこめて藤木学級と名付けたんですよ。」感心する紺野。「そうだったんですか。それを聞いたら益々気合い入れないと。」「ハハハ。そう肩に力入れなくても、紺野先生なら大丈夫ですよ。」少し照れる紺野。その頃、春香と優也は別々のクラスに入りながらも、清々しい気持ちでホームルームを待ちわびた。瀬西家では白川さんが志乃に遅い朝食を支度していた。「はい、お嬢様。大好きな卵の・・・お嬢様、いかがいたしました。志乃お嬢様。」志乃は過呼吸で倒れている。時を同じくして春香もまた過呼吸で倒れこむ。菱野が驚く。「キャーッ春ちゃん。」「落ち着いて菱野さん、皆。救急車呼ぶから。」優也は噂を聞きつけ、一目散に藤木学級を訪れた。「森本っ。」救急隊員に運ばれるも、意識は朦朧としている春香。一体二人の身に何が起きたのか。すぐ様二人は高畑産婦人科に搬送される。知らせを受けた菊子、春子、賢二に加え、毅、藤堂、優也、そして乙女まで、待合室に一堂愛見えることになった。座っている賢二に向かい、毅は頭を深々と下げる。「こ、この度は娘さん・・・」「いい。」「え、」「突っ立ってないで、座れよ。他の人に迷惑だ。」「は、はい。」促されるまま、一席空いた通路を挟んで隣に座る毅。優也が菊子に聞く。「おばさん。春香は。」「志楽君ね。お久しぶり。そちらはもしかして志楽乙女さんかしら。」「ええ。優也の母です。別に来たかったわけじゃないですが、息子が心配でつい。」「母さん。」そう話しているところへ高畑院長直直に説明に現れた。「瀬西さん、森本さんのご家族ですね。今集中治療室にお二人はいますが、お二人とも同じく周産期心筋症の可能性が高いと見ています。」春子と白川は食い気味に聞く。「孫は、一体それは何ですか。助かりますよね。」「先生、大丈夫でしょうか。」「落ち着いてください皆さん。最善を今尽くしています。先程言いました周産期心筋症ですが、稀に起こり得る妊産婦さんの心筋症です。これは妊娠を機に、それまで心臓の既病歴のなかった患者さんも罹る可能性のある病気です。今はそれだけしか申し上げられません。今しばらくお待ち下さい。」全員うなだれて席についた。・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.94 )
- 日時: 2023/07/03 21:04
- 名前: 梶原明生 (ID: uwN5iK1I)
・・・「どうしてこんなことに。」菊子、春子が祈るように呟いていた。「志乃さん、俺が近くにいるから。頑張って。」優也もまた居ても立ってもいられずに祈った。それは毅もだ。藤堂が賢二に近づく。「森本。」「ああ、気遣いありがとう。俺は大丈夫だ。あの子だって俺の子だ。この程度で死ぬような玉じゃない。」菊子が割り込む。「藤堂さんですよね。お久しぶりです。主人と飲みにうちにいらした以来ですから11年ぶりですか。」「その節は、ご迷惑おかけしました。」「いえいえ。お礼を言わなければいけないのは私達です。うちの娘を守っていただいてたわけですから。」和やかな中、気が気でないのは毅だ。彼女にもしものことがあれば生きていけない。そんな考えすら頭を過る。見かねた賢二は話を始めた。「なぁ、中山さんとやら。何故春香と言う名前にしたか知っているか。」「それは・・・は、春子さんの春から取ったとか。」「ああ。だがまだもう一つある。人々の、春風そよぐ香を届けてくれる。そんな芳しい美しい子に育ってほしい。そう、あんたが持っているそのアカシアの花のように、育つ娘であって欲しい。そんな思いを込めて春香と名付けたんだ。」偶然持っていた黄色いアカシアの花束を見て賢二は語った。「そう、だったんですか。」「そう。だからそんな手塩にかけて育てた娘だ。大事にしなかったら俺が容赦しないからな。覚えておけ。」「はい。勿論私の命に替えても。」真摯な眼差しに賢二ですらたじろいだ。そんな二人を見て微笑む藤堂。やがて時は流れ、いつの間にか夜明け前に達していた。白川は乙女にキャラメルマキアートを持って来ていた。「おはよう御座います志楽様。これ、お好きと聞いてたもので。」「おはよう。あら、知ってたのね。こんなサービスくらいで、私は買収できないわよ。」「それはよく心得ております。ですが、これも何かの縁。私の志乃お嬢様に関する気持ちを聞いていただけないでしょうか。」キャラメルマキアートを啜りながら頷いたような素振りを見せる乙女。「あれはもうかれこれ三十五年以上前になりましょう。私共着の身着のままの夫婦が旅をして転々としていた頃。あろうことか自殺を考えて夫婦でなけなしのお金を叩いて食堂で飯を食おうと言うことになったんです。私は醤油ラーメンセットで主人はカツ丼を頼み、ビールも注文していました。それがいけなかったんですね。所持金の計算違いに気づかず、お勘定の時に気付く有様。せめて死ぬ前ぐらいは清く罪のない姿で死のうとしていたのに、このままでは警察の厄介になる。そんな時、お金を差し伸べてくださったのが志乃お嬢様でした。まだお嬢様のご両親がご健在の頃、瀬西工業社長の地位でありながら、庶民食を忘れなかった社長は、よく志乃お嬢様を連れだって大衆食堂に食事に来ていらっしゃいました。」・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.95 )
- 日時: 2023/07/05 22:45
- 名前: 梶原明生 (ID: jk2b1pV2)
・・・集中治療室を見やりながら哀愁の眼差しで再び語り始める白川。「それで瀬西家の方々とご縁が出来た次第です。志乃お嬢様の手助けと、先代社長のお父様の計らいがなければ、私は家政婦に。主人は運転手として雇われて、命が繋がることは叶わなかったでしょう。瀬西家の方々も、そして志乃お嬢様も、そういうお人柄なんです。」複雑な心境を隠すかのような表情になる乙女。しかしそれでも。「フフフッ。因果なものね。私としたことが何を考えていたのかしら。私もかつては父親ほども年の離れた男性と恋に落ち、優也を孕った。女子大生のシングルマザーとして後ろ指さされながらも、世間に負けないくらい立派な息子に育てよう。そう思ってがむしゃらに走ってきたのに。あの子もカエルの子はカエルだったわけね。だからがむしゃらに彼女を守ろうとした。当然よね。」トイレからとっくに戻っていた優也は、壁越しに隠れて話を聞いていた。「母さん。・・・」拳を握りしめて涙する優也。「白川さんでしたね。お話しはわかりました。どうか優也のこともよろしくお願いします。」「と言うと、その意味は・・・」「ええ。兼ねてより考えていたことがあって。実家のある地元に帰って一からやり直そうと思ってて。あの豪邸は売りに出します。従って優也を預かってもらいたいんです。ダメですか。」「いえ、とんでもない。それは私も志乃お嬢様も願ってもないことでして。・・・でも、本当によろしいので。」「こちらこそ。よろしいどころか、優也の幸せのためならこの上ない事です。」「母さん。」いたたまれなくなった優也は、壁際から飛び出していた。「あら、だめじゃない。あれだけ大見えきって志乃さんと幸せになるって決めたのに涙なんか流しちゃって。別に私辛くないのよ。むしろワクワクしてる。地元のテレビ局や、スポンサーさんがね、是非にって言ってくれてるから。笑顔で見送ってちょうだい。」指で優也の涙を拭う乙女。毅はそんな二人の姿に安堵の表情を浮かべた。そんな時だった。「瀬西さん、森本さんのご家族ですね。志乃さん春香さん両名の意識が戻られました。」「良かった、良かった。」待合室の一同全員が歓喜に湧いた。高畑院長もやって来た。「今晩が山だ。がうちの父の口癖でしたが、まさにその山は越えました。もう面会して大丈夫ですよ。」更に安堵の空気が流れた。真っ先に毅と優也が飛び出していった。本来なら別室なのだが、高畑院長の粋な計らいで同室に二人を入れていた。春香が手を差し伸べる。「志乃さん。手繋ごう。互いに乗り切った仲ですもの。」意識朦朧としていても志乃は春香に笑顔で答えた。「ええ。もっと春香ちゃんと絆が深まったんですもの。」・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.96 )
- 日時: 2023/08/11 11:44
- 名前: 梶原明生 (ID: 4CP.eg2q)
・・・互いに手を取り合った。そこへいの一番に毅、優也が部屋に入ってきた。「春香。」「志乃さん。」今度は二人それぞれと手を取り合う春香と志乃。続いて家族総出で部屋に入ってきた。そんな家族総出の仲睦まじい姿を見て高畑は微笑ましく思うのだった。春香は歓喜な気分になる。「うわー、アカシアの花。持って来てくれてたんだ。」「勿論。探してたんだよ花屋中を回ってね。」互いに手を持ち、アカシアを見つめ合う。それから数日後。既に時は12月を過ぎ、辺りはクリスマスと年末真っ盛りの師走。またもやあの青川学園の緑地にて、寒空の中寝そべりながら、太陽に手を翳す春香の姿があった。しかし今回は彼女だけではない。優也、樹、智美の姿もあった。「ここだと思ってた。何悠長にしてんだよ。今日は金曜日で学校も半ドンで終わるから、一緒に飛行機でまた大分県に行こうって言い出したの森本だぞ。」優也が座りながら話しかけてきた。続いて樹や智美も緑地の坂に座り込む。「いいなぁ、私も行きたいな。」「千葉はさ、大学見学に行くって言ってたくせに。松本もだろ。」「なんだけどね。ハハハッ」不意に笑い出す樹と智美。「赤ちゃん、大丈夫なの。」「うん、大丈夫。あれ以来何事もなくスクスクと成長しております。フフフッ、高畑先生からも大丈夫って太鼓判押されてるから。」「なら心配ないね。」智美がしょんぼりしたのを優也は見逃さなかった。「千葉、いつかさ、性が今のお前と一致したらさ、一緒に連れションしような。」「ヤダなもう、変な目標作らないでよ。」「そうか。ハハハッ。松本だってさ、いつか森本とショッピングできりゃいいじゃん。」「そうだね。・・・春ちゃん。いつか渋谷行こうね。」「うん、必ずね。」そう二、三会話を交わしたところで春香と優也は出発した。かつて秘密の恋である、アカシアのような逃避行と桃源郷を目指して飛んで行った街、大分県別府市。今度は秘密ではなく、全ての家族に、人々に祝福されて行く場所。胸高鳴りつつ飛行機に乗り込む春香、毅、優也、志乃。そして。「藤堂さん、いいんですか。探偵業忙しいんじゃ。」隣席に乗り込む彼に驚く春香。「契約は一年だろ。まだ経ってないぜ。ねぇ中山さん。」「ええ。それに藤堂さん抜きでは今までの私達はいなかったんだから。」優也と志乃は微笑みながら手を繋ぐ。やがて飛行機は飛び立ち、一路大分空港へと旅立った。・・・次回「青い空の真下でアカシアと」に続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.97 )
- 日時: 2023/07/17 23:36
- 名前: 梶原明生 (ID: u3utN8CQ)
「青い空の真下でアカシアと」・・・・先ずは美沙おばちゃんに会わねばと藤堂と中山がレンタカーを借りて訪ねていた。 「あらーっ春香ちゃん会いたかった。」二人は手を取り抱き合った。「私も会いたかった美沙おばちゃん。」「菊子さんから聞いちょんよ。あれから色々大変だったんですってね。」「はい。でも愛があるからこそ乗り越えてきました。」「あらー、これはごちそうさま。でも良かった、丸く収まって。勿論これから大変なのは同じだけど、回りの理解があるか無いかで全く違うけんね。頑張りよ。」「はい。」最後はハグして美沙おばちゃんと別れる春香。他メンバーとも二、三言葉を交わして後にした。そしてひと時の夫婦生活を過ごしたロフディ青木マンション。今は別の人が入っているが、思わずドアに手を差し伸べる春香。「ここで結ばれたんだよ。」お腹をさすりながら語りかける。さすがに藤堂でも声を掛けざるおえない。「そろそろまずいって。住人がいるんだよ。」「そうだった。ごめんなさい。」我に戻る春香。「中には入れないが、同じ別府湾のオーシャンビュー。それなら叶うぜ。」藤堂が親指でエレベーター側を指さす。別際不動産の計らいで特別に屋上を開放してくれた。「さぶっ。空っ風の季節に来るべきじゃないなここ。」優也がコートで身震いするものの、志乃と春香が言う。「そう言うこと言っちゃダメ。」妙にシンクロした二人は互いに見あって笑いあった。「うわー凄い。 冬の海も満更なもんだね毅さん。」「ああ、私達を出迎えてくれたみたいだ。」日が落ちるのが早い12月。赤く染まった空と別府湾の海とのコントラストが余計に魅惑な幻想を掻き立てる。「おっと、こりゃ場違いな男のお邪魔タイムかな。」場の空気を何となく悟った藤堂は、階段建屋の裏に回り、娘とのSNSのやり取りを始める。春香達は互いに抱き合い、キスを交わしていた。「今最高に幸せ。幸せ過ぎて怖いくらい。」「昔どこかで聞いたセリフだな。」「本当。昭和のこと知らないから色々教えてね。」「うん。誰よりも君を愛してる。」「私も。毅さん以外考えられない。愛してます。」更にキスする二人。志乃と優也も同じだ。「本当に人は年なんて関係ないのね。」「ああ、だからこうして志乃さんを愛してるじゃないか。それが真実だよ。愛してる。」優也は彼女を熱く抱擁し、夕日に映えるキスを交わす。そんな四人を真紅の水平線が優しく抱きしめているようだ。・・・翌日、ダイエーロイヤルホテルに泊まっていた春香達は、またもや沈まず立ち上ろうとする真紅の水平線を目にしていた。チェックアウトした5人は、一路田ノ浦ビーチを目指した。ここもまた思い出の地。しばらく公園兼ビーチを散策し、車に乗って大分駅を目指した。金鶏の銅像前で・・・続く。
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