複雑・ファジー小説
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- アカシアな二人
- 日時: 2022/04/16 22:27
- 名前: 梶原明生 (ID: UfViuu4R)
理想的な容姿と充実した高校ライフを送っている二人の高校生。ひょんなことから回りに勧められて付き合い出したのだが・・・二人は愛し合えなかった。「何かが違う。」その違和感を拭えないでいた。そんな時互いに別の異性との出会いがあったのだが。それは悲劇の愛の始まりだった。アカシアの花を通じて知り合った、52歳の男女だったのだ。しかし世間はこれを純愛とはせず、あらゆる憶測、いじめ、引裂き、誹謗中傷の嵐に晒す。果たしてこの四人の愛は没落なのか。それとも真実の愛なのか。神々の授ける運命は愛する者達を翻弄する。
- Re: アカシアな二人 ( No.73 )
- 日時: 2023/04/09 13:50
- 名前: 梶原明生 (ID: 4cNSRyfC)
・・・翌日、練馬駐屯地官舎に智美の姿があった。監視役の城内も女の子の友達とあって油断し、部屋に通した。「あ、智ちゃん。来てくれてありがとう。」「それでどうだった例の件。」「うん、妊娠してるって。」それを聞いた智美は顔を俯けた。「どうかした。」「ううん、何でもない。昨日はごめんね、家の用事がどうしても外せなくって。本当は私も弁護士さんとの会う約束に春ちゃんと付き合うべきだったのに。」「いいよそんなの。話はうまく言ったんだし。私、絶対毅さんと結婚する。そしてこの子も産む。」真剣に見つめてくる春香に、智美の心は揺さぶられた。より愛おしい気持ちを抑えられなくなった。「春・・・」「え、・・・」突然のことで春香もすぐに何が何だかわからなかった。唇を重ねてくる智美。数秒か、数分か、多分春香には時間が分からなくなるくらい衝撃的だ。「ちょ、ちょっと・・・え、どういうこと。」「ごめん。抑えられなかった。僕は君が好きだ。」「それってまさか。」「そのまさか。本当にごめん。」いきなり部屋を飛び出す智美。「待って。」後を追う春香。「待ちなさい。」城内の制止も振り切って追いかける。近くの公園にたどり着くと、木に寄りかかって息を荒げる智美の姿が。春香が追いつく。「ハァハァ、やっぱり足速いね智ちゃん。さすが元陸上部。」「その、さっきしたことは・・・」「わかってる。・・・わかってるから。でも正直驚いた。まさか智ちゃんがって。」「入学式で出会ってからずっと好きだった。でも言えなかった。僕のこの心のこと、理解してもらえないかも知れないことが怖かった。」「ごめんなさい。私・・・」「わかってる。春ちゃんが答えられないのはわかってる。毅さんだっけ。羨ましいなぁ。春ちゃんのハート射止めたんだから。一度は諦めようとした。でも君への思いは増すばかり。・・・でも安心して。フェアじゃないやり方は嫌いだから。もし春ちゃんを泣かしたらその時は・・・僕が許さない。」辛辣な表情に一抹の不安を感じた。そんな時、ようやく城内が二人に追いついた。「二人共、どうしたの。」「いえ、何でもありません。少し、追いかけっこしただけです。・・・じゃあ春ちゃん。また明日。」笑顔で誤魔化して立ち去る智美だった。部屋に戻った時、マナーモードにしていたせいか、メールが来ていたことに気づかなかった。「藤堂さんからだ。」辺りを見回しながら、胸踊る気持ちでメールを開く。「やった、毅さんに会える。」それは藤堂が北川と共に練った極秘逢瀬の案内だった。場所は毅と初めて会ったあの駅のオブジェの所。「土日は賢二、いや君のお父さんの目が厳しいから、月曜日午後4時に。」とある。・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.74 )
- 日時: 2023/04/09 15:20
- 名前: 梶原明生 (ID: 5xmy6iiG)
・・・勿論断る理由などどこにあるだろうか。春香は是非と返信した。翌日、紺野の都合がついたので、菊子、春子の元にきていた。「そう、来週の月曜日に。それはよかった。でもね春香、今度ばかりは・・」「わかってる。前みたいな慎重さのない合い方はしないから。裁判もあるし。」「そう、安心した。」菊子も春子も安堵に包まれたのも束の間。インターホンを鳴らす誰かが訪れてきた。いや、元々の住人か。「はーい。・・・桜、京介、何で。」「え、・・・」春香も強ばった。彼女の実兄実姉だからだ。「桜姉ちゃんは大学寮だし、京介兄ちゃんは空挺団に行ったはず。なのに何で。」ズカズカと上がり込む二人。「久しぶりって言いたいけど、それどころじゃない。春香、お前なんてことしてくれたんだ。」京介が迷彩服のまま、責め立てる。「そうよ。あんたのせいで大学からも退学も視野にとか言われたんだからね。どうしてくれるの私の将来。ネットであんたのこと拡散されてるよ。」だれが情報を流したのか、長女の桜がスマホ画面を翳すと実名まで載っている。菊子が青ざめた。「そんな、こんなのプライバシー侵害よ。」「問題はそこじゃないでしょお母さん。妹のせいで私達まで迷惑被ることでしょ。まさかこんなバカな淫乱娘だとは思わなかった。」「俺もだ。やっと曹長昇進試験受けられるって時に、お前のせいでパァーだろ。」二人の捲し立てにキレる春香。「違う。私と毅さんとはそんな淫らな中じゃない。そんなに私のせいならもういい、出て行く。」「おい、どこ行く気だ。」京介が引き止めようとしたが、菊子が止める。「大丈夫、紺野先生が官舎に送ってくれるから。」春香は玄関を出て紺野の車には向かわなかった。「私のせいで、誰かが傷つく。愛を貫けば誰かを貫く。」そんな言葉を呟きながら呆然と歩く春香。「おい、どうしたんだ。」春香の家に向かって歩いていた藤堂と出会った。「藤堂さん、私、やっぱり間違ってるのかな。17歳と52歳はやっぱり愛しあったらいけないのかな。」「おい、何を言ってる。何があった。」春香はかいつまんで先ほどのことを話してみた。「こんなことが。・・・でも、今更じゃないか。確かにそうかも知れないが、だからって別れたら今までの苦労は何だったんだ。」「でも・・・」「とにかく、月曜日に会おう。中山さんに。」宥めた藤堂はとにかくタクシーを拾って官舎まで送った。その月曜日。ホームルームで紺野が重大発表を行った。「えー、私は来週をもってこのクラスの担任を降りることになりました。」「えーっ」クラス中に響く声。それが春香のせいと悟った。「先生、私のせいで。」「何言ってんの。これは先週決まったことなの。あなたは心配しなくていいのよ。」「でも。」「でもじゃない。安心して。以外と校長が味方になってくれてるから。森本さん、何があってもあなたを守るわ。」「先生・・・」悲しい面持ちになり、思い詰める顔になる春香。「私のせいで、回りが傷ついていく。」毅との約束の時間、午後4時が近づいてきた。某駅のオブジェに近づく春香。毅と藤堂は車でオブジェ付近に向かった。「春香、ようやく君に会える。」胸高鳴らせてオブジェに近づいていく。身長154センチの青川学園制服の女の子。間違いない。「春香ちゃん久し・・・君は。」その子は似ても似つかない女の子。「あ、あなたが毅さんですか。これ、春香先輩から渡してくれって。私たまたまこの駅の近くが家だったから頼まれまして。」それは藤堂が渡していたスマホ。メールには音声メモを聞いてとある。「私は今でもこれからも、毅さんを愛しています。でも、二人が愛を貫けば貫くほど回りの大切な人を傷つけていくことを悟りました。だからこれしか道はないんです。どうか探さないで下さい。お腹の子と二人で生きていきます。それでも愛と信じてるから。春香より。」「春香、春香っ」気が狂いそうに探し回る毅。「とにかく、俺はあっちを探します。」藤堂も必死に探し回る姿を横目に、春香を乗せた路線バスは早々とオブジェのある駅を通り過ぎていった。・・・「それでも愛」終わり。次回「愛の行末は」に続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.75 )
- 日時: 2023/04/15 19:23
- 名前: 梶原明生 (ID: B0dMG1jJ)
「愛の行末は」・・・・・・・・場末のスナック。そんな言葉はこの店のためにあるのか。「春香、あんたもう上がりな。皿洗いぐらいやっとくからさ。赤ちゃんに触るよ。」「いえ、靖子さんこそ大変でしょ。私ならまだ若いんで。」「何だい、ババア扱いかい。」「いえ、そんな。」「嘘だよ。でも若い子来ると客の出入り違うね。たいちゃんとは大違い。」タバコに火を付けた割と美人な中年女性が悪態のフリをする。「何よママ。私と比べる気。私だってまだ負けてないわよ。」「やめときな。こっちは花の18歳。私達は終わりなんだから。ハハハハハっ。」高笑いが響くスナック。靖子と言う名前に聞き覚えがあるが、時を少し戻そう。春香が路線バスを降りたころ、あてもなく街を彷徨った。桜の身分証を借りてビジネスホテルに泊まるものの、金は底をついてきた。夜の街は危険だ。まして17歳の女の子とも有れば、いつ危険が迫ってもおかしくない。そんな中、靖子に出会った。夜はビジネスホテル。昼は渋谷、原宿で時間を潰す。そんな春香を藤堂は見つけていたのだが。「そろそろ連れ戻すか。」春香に近づいて行こうとしたら誰かに腕を掴まれた。白川である。髪を染めない白髪混じりの老婦人の割には力強い。「し、白川さん、あなた何でここに。」「シーっ。ちょっといいかしら。あの子店でしばらくは時間潰すでしょ。だからまだ大丈夫。」「はぁ。」街の外れで話し合う二人。「貴方達の計画は志乃お嬢様から聞いていましたよ。あれからすぐ中山さんから連絡頂き、私なりに動いてたんですよ。ま、昔取った杵柄ってやつで、情報網はまだ生きてるものでね。」「何だか怖い話ですね。」「嘘ばっかり。で、わかったのは、あの子、決意は固いみたいね。それで住み込みで働ける場所を探してる。あなたが連れ戻しても帰って意固地になるだけ。ああ見えても芯の強い子だからね。」そうは言われても、心配が絶えない藤堂。知り合いの女探偵に頼み込み、gpsと盗聴器を仕掛けさせた。「どうしよう。もうビジネスホテル泊まれない。」財布もスマホもマネーから見放された。「ヤバ、警察官だ。」渋谷巡回中の警察官を発見。しれっと回れ右して人混みに紛れる。ここでも藤堂が教えた尾行回避術が裏目に役立った。しかし、知らない裏道は彼女を逆に追い詰める。「へー,伊達メガネなんかかけちゃって。素顔はめちゃくちゃ可愛いじゃん。」「やめてください何するんですか。メガネ返して。」二、三人の若者に囲まれた春香は口を抑えられて連れ去られようとしていた。尾行していた藤堂は即座に走ろうとしたのだが。「藤堂さん、待って。」白川の腕掴みに不思議がる。しかしその意味をすぐに知った。「何やってんだいあんたら。」・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.76 )
- 日時: 2023/04/16 16:26
- 名前: 梶原明生 (ID: IfRkr8gZ)
・・・それは明らかに髪の長い小綺麗な中年女性に見えた。瀬西のことを思い出す春香。「何だよ叔母さん。何か用。」「こんな渋谷のオシャレな街で、か弱い女の子に手出すんじゃないよ。」「は、知らねーし。第一こいつ俺の彼女。痴話喧嘩だから関係ないだろ。」春香は口を塞がれながらも必死に目で訴えかける。「嘘つくんじゃないよ。いいからその子こっちによこしな。」「あーウゼー。痛い目見ないとわかんないらしいなババア。」藤堂は第一撃はやむなしと諦めたが、諦めるのは彼らだった。「ふざけんじゃないよガキが。昔レディースで名を馳せた女喧嘩自慢の靖子姉さんに勝てると思ってんのかい。」第一撃を躱して鼻にハンドバッグを叩き込む。「ぶべっ・・・」青年は鼻骨を折って倒れ、他二名は金的蹴りに膝蹴り、スクリューパンチと、まさに汚い喧嘩技で倒した。「さ、私と来な。」春香の腕を掴んで走り去る靖子。「追わなくていいんですか。」「大丈夫。あの子なら心配ない。」「あの子って・・・誰何ですあの、靖子とか言う人。まさか・・・」無言のまま立ち去る白川。その頃には靖子は知り合いの店に入って春香を匿っていた。「落ち着いたかい。」「は、はい。お茶ありがとうございます。」「気をつけな。あんたみたいな可愛い子は狙われやすいんだから。もしかして、家出かい。」無言になる春香。「図星のようだね。あんた行く宛あんのかい。」「いえ、それが。」「つまり、心許ない状況ってわけね。そう言うワケアリの子、何度も見てきたからわかるよ。良かったらどう、私のスナックで働いてみない。都内一のスナック街。北志奈町でやってんだけど。」「え、いいんですか。私住み込みじゃないと。」「勿論それ込みでの話よ。これも何かの縁だし、あんた聡明そうだし、その上うちで働いてた28の若い子がお客さんと結婚したもんだから辞めちゃったのよ。渡しに船、ここは決めちゃったら。」春香は是非もなく承諾した。こうして昼は買い出しに家事。夜はスナックで小間使いのアルバイトが始まった。「今日からうちにきた桜ちゃん。よろしくね。」「え、・・・」春香と名乗ってはいたが、事情を考慮して身分証の姉の名前で呼んだ。「桜ちゃんか、やっぱり若いピチピチの子が入ると見違えるねぇ。」「あらやだ。私だってまだピチピチの16歳よ。」「ママ、その顔で言ってたら犯罪だよ。」「あら失礼しちゃうわ。ハハハハハッ。」いつもの客とのジョークの掛け合いがスナック中に響く。「桜ちゃん、俺の隣で酒ついでよ。」勿論本来キャバクラではないので、客の隣に座るのはタブーなのだが、そんな野暮は通用しないのが夜の街。しかし、靖子とタイさんとで必死に守る。「やだもう、山ちゃんは私一筋じゃなかったの。焼いちゃうわよ。」こうしたやりとりで夜は更けていく北志奈町。・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.77 )
- 日時: 2023/04/19 11:16
- 名前: 家事明生 (ID: l2ywbLxw)
・・・しかし、回りは慌しく動いていた。父の賢二は娘が門限に帰って来ないとわかるや否や、春香の部屋を物色した。すると置き手紙をがあるではないか。それは言うまでもなく、家出を示唆する内容だ。佐山署に連絡を入れて、うちの娘が帰って来ないと訴えたのだが、手紙があったことや、以前の素行からなかなか本腰を入れようとしない警察。「もう、頼まん。」剣幕振り撒き電話を切ると、今度はあらゆる部下にかけまくった。「おう、お前この後休暇だろ。うちの娘を探し出してくれ。急げ。」もはや手段を選んでる場合ではなくなった。学校は学校で、登校しない春香に教師間で意見が交わされた。教頭ときたら予想通り。「校長、今がチャンスです。この際退学扱いにしましょう。すでにネットの件で他生徒の親御さんからクレームが入ってます。このままでは我が校の名前に傷が・・・」「一遇を照らす。」「は、な、何ですか。」「我が校創設時からの言葉です。確かに、報告に上がってる通り、彼女は夏休み中に家出をし、同棲した男性との間に子供までできました。今まで私達はそうした生徒を何人か見てきましたが、果たして、妊娠したからと言って、ネットの誹謗中傷があったからと言って、そんな生徒を切り捨てるだけでいいんでしょうか。」「いや、しかし校長、現実は・・・」「わかってますよ教頭先生。ですがね、その現実ですが、文部科学省から通達が来ている、妊娠した生徒への対処通知をご存知ですか。」「それは、そうですが。」「その通知にはこうあります。第一、安易に退学処分、退学勧奨をしないこと。母体の保護を最優先とし、教育上の便宜を計らうこと。とあります。そこで、兼ねてより計画していたあの学級を儲けたいと思います。紺野先生。」「あ、はい。」「あなたをそのクラスの専任教師としてついてもらいたい。宜しいですか。」晴天の霹靂とはこのことか。紺野にとって、断る理由はない。「はい、是非とも。」こうして春香を迎える体制は整った。後は彼女が戻るかどうか。バイトを始めて一週間経った頃。痺れを切らした毅が藤堂の様子に、居場所を突き止めていることを悟った。「藤堂さん、焦らさないで教えてください。彼女はどこにいるんですか。」「すみません。白川さんとの約束でして。教えられません。」「白川・・確か、志乃ちゃんの家政婦さん。」「はい。ですが仕方ないですね。根負けしましたよさすがに。ですがこのことは白川さんには。」「わかっています。」藤堂も同行するのを条件に居場所を教えた。その頃、場末のスナック「ククト」では、客とのカラオケデュエットで春香達は盛り上がっていた。「ママ、ちょっとトイレいい。」「あーこの奥がトイレよ。」「サンキュー。」中年男性一人が抜けてトイレに駆け込む。「ちょっといいか。ネットで話題になってた子にそっくりの子がスナックにいるんだが。」・・・続く。
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