複雑・ファジー小説
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- アカシアな二人
- 日時: 2022/04/16 22:27
- 名前: 梶原明生 (ID: UfViuu4R)
理想的な容姿と充実した高校ライフを送っている二人の高校生。ひょんなことから回りに勧められて付き合い出したのだが・・・二人は愛し合えなかった。「何かが違う。」その違和感を拭えないでいた。そんな時互いに別の異性との出会いがあったのだが。それは悲劇の愛の始まりだった。アカシアの花を通じて知り合った、52歳の男女だったのだ。しかし世間はこれを純愛とはせず、あらゆる憶測、いじめ、引裂き、誹謗中傷の嵐に晒す。果たしてこの四人の愛は没落なのか。それとも真実の愛なのか。神々の授ける運命は愛する者達を翻弄する。
- Re: アカシアな二人 ( No.88 )
- 日時: 2023/06/07 02:53
- 名前: 梶原明生 (ID: DIeJh8tY)
・・・「あ、藤堂さんからメールだ。」駅近のファミレスに来れるかと言うことと、優也の件で話したいことがあると言うことだ。先生に隠れてメールを返す。「明日、ようやく優君登校してくるんだけど、知らせた方がいいかな。」「いや、ダメだ。彼以外なら誰でもいいが。」「じゃあ松本君連れてくね。」「彼女か。懐かしいな。」「じゃあファミレスで。」藤堂は春香がレイプされかけた最初の出会いを思い出していた。あれから数ヶ月しかたっていないのに、もう五年も昔のように感じる。かくして放課後、駅近くのファミレスを訪ねた。「よう、二人共元気で。またこうして二人に会うのも因縁かな。」「そうですね。あの時こんな感じでしたよね。」辺りを見回す春香。松本も軽く挨拶する。「ところで優也君のことなんですよね。何か秘策でもあるんですか。」彼は食い気味に聞いてくる。「乾奈央と会ってきた。」春香が驚く。「本当ですか。で、警察には。」「まだだ。今捕まっても知らぬ存ぜぬで逃げられる。実はある取引を彼女から持ちかけられてな。」かいつまんで今までの経緯を説明する藤堂。「・・・別に嫌なら断ってもいいんだぞ。できればその方がいい。」「いえ。その乾奈央って人に会ってみます。」翌日、奈央が潜伏しているビジネスホテルに向かった。いるのは夕方以降なので、時間を合わせて部屋を訪れた。インターホンを鳴らす藤堂。「あら、いらっしゃい。あなたが噂の森本春香ね。」「はい、そうです。」「さ、入って。あなたはダメよ。」春香を通しておいて藤堂は堰き止める奈央。「そうはいかない。」「あ、そう、なら話はなしね。帰って。」春香が振り返る。「大丈夫だから。私を信じて。」春香の言葉に渋柿を食うような表情で納得する藤堂。「やっと二人っきりになれたわね。」「それより、優也君のお母さんの件。本当のことを警察で話して貰えませんか。」「そうね、いいわ。証言してあげる。」「本当ですか。」ぬか喜びに笑顔になる春香。「ただし。・・・」奈央は彼女の首に手を回し、ペンダントを外すとそれを踏みつけた。「何するんですか。」「ふん、ドジッたわね。女子高生に似つかわしくないペンダント掛けるだなんて、意外と詰めが甘いわね藤堂も。これ、盗聴器でしょ。さて、本題に移ろうかしら。」
艶かしげに再び両手を春香の首に回す奈央。「な、何なんですかこれは。・・・」「あなたも甘いわね。ただで証言すると思った。あなたに来てもらったのは説得させるためじゃない。あなた自身が狙いだったから。」「ど、どういう意味ですか。」「わかるじゃない。これが条件。あなた枕営業って知ってる。いい役を取りたい、いい仕事を取りたいために、監督やディレクターと寝る行為。それを枕営業って言うの。体を売るのよ。かつて私も沢山したわ。だからあなたにその甘い蜜を味わわせてあげようじゃないの。」・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.89 )
- 日時: 2023/06/10 22:58
- 名前: 梶原明生 (ID: IoNmRAUo)
・・・「そんな、私にそうしろと。できません。」「いやならいいのよ。その代わりお友達の優也君がどんな目に会うか。一生著作権侵害女の息子として生きていくのよ。それでもいいんだ。随分と薄情なのねあなた。」「そうじゃありません。でも、こんなこと。」「あら、経験がないわけでもないでしょ。スケベな中年ジジイに唆されたんですものね。」後ろから羽交い締めにされ、すぐ横のベッドに押し倒される寸前になったいた。「違います。私達は真剣に愛し合っていたんです。そんな汚らわしい考えで交際したんじゃありません。」「汚らわしいですって。何が愛よ、どうせあなただっていずれは快感に身をやつしてたことを知るくせに。男と女なんてね、いえ、何の性であってもね。所詮は快楽と打算で付き合ってるだけよ。愛だの恋だのただの御伽噺に過ぎないわ。」「違うっ。」奈央を突き放すと、対峙するように仁王立ちになる春香。「あなたがそうだからと言って、十波一絡げにしないで。私と毅さんはそうはならない。あなたと私は価値観が違うだけ。」「惜しいわね。あなたみたいなタイプの子を私の世界に引きずり込みたかったのに。どうしても私に抱かれたくないのね。・・・だったら死んで。」いきなり首を締めてくる奈央。そこへ合鍵でドアを開けた仁美と藤堂が部屋に飛び込んできた。同時に奈央の両親指を掴んで反り返し、両手刀で肘関節を叩き落して右肩側に回り、右肩関節を極めて右手をリストロック。そのままベッドにうつ伏せに体重かけて抑えこんだ。藤堂が驚く。「お前その技覚えてたのか。」「うん、何となく咄嗟に。」無理して笑顔を見せる春香。護身術は優也だけでなく、彼女も別府で学んでいた。優也ほどではないが。「もういい、俺がいる。離してやれ。」藤堂の言われるまま、彼女を離してやる春香。彼女を掴んで自分の後ろにやる藤堂。「あんたな、親友の春香に何した。私が許さないよ。」仁美が胸ぐら掴んで引き起こすも、それすら制する。「やめないか。・・・乾さん。あんた何故彼女にこんなことを」「あら、聞いてたの。私としたことが。あのペンダントはダミーだったのね。」そう、本命は髪留めのほうだった。「その子が眩しいからかしら。」「どういう意味です。」「まんまよ。汚い泥沼にいるとね、たまに光を引き摺り込みたくなるものよ。あーあ、惜しかったなぁ。枕してくれたら著作権侵害の罪認めてあげても良かったのに。」「これ、読みました。」・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.90 )
- 日時: 2023/06/12 12:24
- 名前: 梶原明生 (ID: HUYAFKES)
・・・春香は、ミニリュックから一冊の本を取り出した。タイトルは「少女よ立ち上がれ」とある。原作者は志楽乙女。「それは・・・」「たまたま毅さんと藤堂さんが読者で、私に一冊くれたんです。この小説は、優也君のお母さんが初めて書いた小説にして、初めてヒットした小説。内容は、非業の人生ばかり背負った一人の少女が、大富豪の男性恋に落ち、苦難を乗り越えていくシンデレラストーリー。中にはアクション描写もあり、男女分け隔てなく人気を誇ったノベライズでした。あなたもこの主人公、いえ、同じような境遇の志楽乙女さんに共感し、憧れていたんじゃないですか。」「馬鹿馬鹿しい。何で私が。」「ならあれは何ですか。」春香が指差した先には雑然とパソコン類や、書類が置かれた机に同じ本が置かれていた。「もし馬鹿馬鹿しいならあれは捨ててもいいはずです。なのに何故あそこにあるんですか。」春香の捲し立てにイライラ来た奈央は三人を押し除けて机の本を破こうとしたのだが。「先生・・・」装丁を見るなり、急に泣きそうな顔で本を見つめる奈央。優しく撫でる。春香は落ち着き払って言う。「それが答えだと思います。それでは失礼しました。」部屋を後にする春香。藤堂達も春香に続いた。「春香、やったね。」仁美が声をかけてくる。「うん。でも本当仁ちゃんが飛び込んで来た時はビックリした。学校行事で来れないって聞いてたから。」「親友の危機だよ。駆けつけないわけにはいかないよ。」「ありがとう。でもさっきのはほとんど運任せだったのが正直なところ。一か八かの勘が当たるとは思ってなかった。」「運も実力のうち。春香やっぱり何か持ってるんだよきっと。」「そ、そうかな。」照れる春香。藤堂が追いつく。「さ、帰ろう。旧交を暖めあいたいのは分かるが、君は身重だしな。」「はい、わかりました。じゃあ仁ちゃん、またね。」「うん、気を付けて。」こうして翌日、逃亡生活の乾奈央は警察に逮捕された。あっさり自供して自分が志楽乙女を貶めるためにワザと著作権侵害を行ったと認めた。里村課長は刑事課ではないが、特別に面会と聴取を許された。「どうして、素直に認めたんです。あれだけ否定していたのに。」「何故かしらね。逃げられないと観念したのかも。」「今までの経緯を見ると、とてもそんな風には見えませんがね。もしかして、あの春香と言う少女のせいですか。」その一言で里村が藤堂と繋がっているのではと疑ぐりはじめる奈央。「どうしてそれを。」「ん、何の話です。私はただ春香と言う少女と言っただけですよ。」「ふん、怖い世の中ね。誰が誰と繋がっているんだか。じゃあそのどこぞの春香に伝えてください。あんたのせいじゃないって。」以後、黙秘を貫く奈央だった。そしてその翌日には釈放される乙女。一件落着したように見えたのだが。・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.91 )
- 日時: 2023/06/12 21:09
- 名前: 梶原明生 (ID: OSvmcRAh)
・・・「そう言えばYouTuber全然くいつきませんねぇ。森本って子に優也って少年。それに元瀬西工業社長令嬢。どれも報道系、迷惑系YouTuberが食いつきそうなのに。」事務所に戻った藤堂は疲れ切ってソファに寝ながら水沢に答える。「んー、それか。それな。・・・叩けば埃の出る奴ら。脅しのネタは尽きないだろ。」「え、まさか。藤堂さんが。」「ん、やったとは言ってないぞ。ただ、今既存の報道系迷惑系は抑えられたとしても,新規や、いきなり報道系迷惑系になる輩だ。そんな奴が現れなきゃいいが。」藤堂は深い溜息と共に眠りについた。何時間眠ったろうか。水沢の大声で目を覚ます。「た、大変です。中山、志楽両夫妻がこんな置き手紙を。」「何だって。」そこには藤堂にたいする感謝の気持ちと、ストーカー化したYouTuberに耐えきれない四人の気持ちが綴られている。時はすでに11月中旬。街はもうすぐクリスマスと浮かれ始める時だった。「大変だ。このままだと死出の旅路に行く気だ。」「え、そうなんすか。」「馬鹿、どう考えても四人は死ぬ気だ。ありがたいことに便まで書いてる。お前は成田空港に急げ。北海道にはたしか瀬西家の所有していた別荘があったはず。思い出の地で心中する気だ。10時台の便だ急げ。俺は東京駅の中山さんと春香を。」「り、了解しました。」慌ただしくジャケットを握って出る二人。こんな、こんな馬鹿げたことがあってたまるか。折角助けてきた四人が幸せにならなかったら、全てがみずの泡だ。そう心に刻んで車に乗る藤堂。果たして間に合うのか。・・・「愛の行く末」終わり。次回「愛のはじまり」に続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.92 )
- 日時: 2023/06/19 12:32
- 名前: 梶原明生 (ID: KACJfN4D)
「愛のはじまり」・・・・・・・・・・「この愛はいけない愛ですか。」高校の緑地に上着を脱いで寝そべる春香。片手を太陽に翳しながら空に問いかけた。ストーカーYouTuberを欺くには恰好の緑地だったからだ。授業を抜け出していた。中山毅に会うために。だがまだ決心が今一つだった。それももう関係ない。「ふーん。」深呼吸したあと、目を見開いた。「決めた。もう迷わない。毅さんとこの子と夢の天国に旅立つと。」スックと立ち上がり、生徒しか知らない抜け道を通って練馬駅へと走り出した。優也にもメールを打つ。そして冒頭の如く落ち合い、それぞれの便に乗り込む。瀬西工業備品庫にあった劇薬がまだ残っていたのが災いしたのか。それを飲めば確実に天国へ行ける。毅、春香、優也、志乃の四人は、抱き合いながら一斉同時に服毒する。「間に合わなかったか。」ホームで膝から崩れ落ちた藤堂はアスファルトを何度も叩いた。それぞれ二人は口から鮮血を流し、息絶えていた。抱えたアカシアの花が手から溢れ落ちると、赤く染まる黄色い花。苦咽な表情ながら、どこか四人の死顔は幸せそうだった。・・・終わった。終わってしまった。「アカシアな二人」それが二組散った。気配を感じた藤堂は恐る恐る後ろを振り返る。「どうして助けてくれなかったの。」宙を浮いて見下ろす死顔の春香と毅がそこにいた。「うわーっっ。」汗だくで飛び起きる藤堂。「びっくりしたなもう。何なんすか。」「み、水沢、お前成田空港はどうした。」「は、何の事っすか。」「いや、今日何日だ。」「11月1日ですけど。もう汗だくじゃないですか。シャワー浴びてきたらどうです。疲れてんすよきっと。悪い夢でも見たんじゃないっすか。」言われると確かにそうだった。夜中の10時だし。「まだ間に合う。」藤堂は早速自宅に向かった。翌日からは10年間乗っていなかった愛車を整備工場から引き取った。日産サファリ。武骨なこいつは藤堂にとってお誂え向きな四駆だ。「よろしく頼むぞ。」乗り込むとハンドルに語りかけ、エンジンをかけた。10年前の響き。早速練馬の街に繰り出した。彼は春香、毅、優也、志乃の身辺を交互に見張り、また訪問して異常がないか毎日のように確かめた。早速変化の兆しが現れたのは7日後だ。四人に怪しいストーカーの影。俄か迷惑系報道系YouTuberだ。春香には通学電車にも乗り込んでくる始末。話をつける藤堂。優也には挑発に乗るなと言ってあったが、つい殴ってしまう始末。幸い水沢が対処して事なきを得た。そうしているうちに11月も終わりが近づき辺り一面クリスマスの色一色に染まった。毅と志乃は不起訴となり、本間刑事は煮湯を飲むような思いをしたが、結果的にうやむやに事は収まった。・・・続く。
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