複雑・ファジー小説
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- アカシアな二人
- 日時: 2022/04/16 22:27
- 名前: 梶原明生 (ID: UfViuu4R)
理想的な容姿と充実した高校ライフを送っている二人の高校生。ひょんなことから回りに勧められて付き合い出したのだが・・・二人は愛し合えなかった。「何かが違う。」その違和感を拭えないでいた。そんな時互いに別の異性との出会いがあったのだが。それは悲劇の愛の始まりだった。アカシアの花を通じて知り合った、52歳の男女だったのだ。しかし世間はこれを純愛とはせず、あらゆる憶測、いじめ、引裂き、誹謗中傷の嵐に晒す。果たしてこの四人の愛は没落なのか。それとも真実の愛なのか。神々の授ける運命は愛する者達を翻弄する。
- Re: アカシアな二人 ( No.98 )
- 日時: 2023/07/23 22:57
- 名前: 梶原明生 (ID: InHnLhpT)
・・・「キャーッ、せっちゃん、みぃちゃん、萌ちゃーん。お久しぶり。」「会いたかったよー。春ちゃん。」「幸せそうで何より何より。」四人は抱き合うように旧交を温め合った。他愛ない思い出話に花咲せつつ、三人にお礼を言う春香。「ありがとう。嘆願書にサインしてくれて。私にとって三人は大分の最高の親友だよ。」「私達も。春ちゃんは親友だよ。」再び抱き合い、親交の深さを現していた。「ねぇ、夕方会わん。大分の最高のイルミネーション見せちあげるけん。」「本当、わー楽しみ。」「じゃあ、18:00にまたここで。」「うん、それまでもう一つ行きたいところがあるから。」せっちゃんに言うと春香は毅に目配せする。あの時願い事をした柞原八幡宮だ。5人は車でその神社を目指した。霊験あらたかなその八幡宮は、師走ならではの様相を見せてくれる。宮に入ると皆それぞれ手を合わせて願い事を祈った。そして帰り際、清々しい冬の青空を仰いだ。手を翳し見る春香。遥か天空を見上げる。「どうした。」毅が何気なく聞く。「うん、この青空、大分でも東京でもどこでも、同じ空が繋がってるなって思って。」「本当だね。多くの人がこの青空で繋がるみたいに愛する人と繋がってほしいね。」しばらく二人は空を仰いだ。つられて藤堂も優也志乃も見上げる。5人は再び歩き始めた。時刻は夕方18:00。もう暗くなり始める大分の街。同時にクリスマスのイルミネーションが一斉に街を彩りはじめ、ゲストアーティストが駅前広場のステージでクリスマスソングを歌い始める。せっちゃん達と合流した春香達はしばし聞き入った。自然と手を繋ぐ春香と毅、優也と志乃。曲の中休みに入ると、春香は一通の手紙を取り出した。美しい便箋に封筒。「こ、これは。」「そう、これはお婆ちゃんがとっておいてくれた最初の毅さんからの手紙。ペンネーム、青い空の真下でさんだったよね。」「本当だ。懐かしいな。これがなかったら君とは会えなかった。」「その通りね。」「実は奇遇にも、私も君から貰った手紙を持ってきてた。」「わー、超懐かしい。今見ると恥ずかしいくらい可愛い封筒に便箋だったね。」「まぁでも、春香ちゃんから貰った手紙だからね。私にとっては最高の手紙だよ。これがなければ君と出会えてなかった。」「そう、本当不思議ねー。」春香が彼の腕に縋りついた時、優也もまた、二人を繋いだ本を取り出していた。「僕達もこの本が紡いでくれたね。」「そう。指と指が触れ合わなければ私とあなたは・・・」そう二人して呟いた矢先に、アーティストによる歌が再開された。「きーよし、こーの夜、ほーしは、光り・・・」定番と言えば定番なんだが、そんなこと関係なく四人は愛を確かめ合った。微笑みながら藤堂は皆の行く末を祈っていた。いつまでも幸せでいてほしいと。 ・・・次回最終回「アカシア」に続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.99 )
- 日時: 2023/07/31 22:40
- 名前: 梶原明生 (ID: aOtFj/Nx)
「アカシア」・・・・・・・・・・・「生まれる。もうダメ。」あれから年を超えて翌年の初夏。春香に陣痛が来ていた。志乃はその一ヶ月前に出産していたのだが、予定日通り、春香にもその時が来ていたのだ。たまたま居合わせた靖子が手を握る。「大丈夫だよ。もうすぐ車くるからね。」たまたま中山宅に靖子と訪れていたのが幸いし、手助けしてもらえた。エレベーターホール近くに駐車した毅は、エレベーター前で春香を迎えた。「だ、大丈夫だからね春香。落ち着いて。」靖子が一喝する。「あんたが落ち着きなよ。ドア開けてないし。」「ああ、そうだった。すみません。」慌ててXトレイルの後部ドアを開いて迎え入れる。一路高畑産婦人科を目指した。一方、この吉報を受けた菊子、春子、賢二、志乃、優也、紺野先生、藤堂、といった関係者各位まで同じ医院を目指して走り出していた。「産まれましたかっ」「もう、お父さん気が早い。それだけでわかるわけないでしょ。」菊子が嗜める。「おお、そうだった。わ、私は森本春香の父です。は、初孫が産まれると聞いて。」「分かりました。分娩室へどうぞ。」今まさに彼女は、我が子と格闘中であった。「春香ーっ頑張れ、お父さんがついてるぞ。」「もう、お父さん声がデカい。」またもや菊子が合いの手を入れる。「全く、堕ろそうとしていた張本人が今度は涙の応援かい。」「母さん、それは言わない約束だろ。」そのやり取りを後ろで聞いていた志乃、優也、紺野、藤堂は静かに笑っていた。しかも、よくみたら、小田課長に里村課長の姿まである。皆、やはり気になったのだろう。最後にはテレビ局員まで。「社会は今。」という若手女性キャスターの番組で春香達のドキュメンタリーは特集を組まれていたからだ。妊娠生徒を見捨てない、その青川学園の動向が社会的に注目をあつめていた。春香自身、家族総出でYouTubeチャンネルを開設したほどだ。噂では、既にテレビドラマ化まで決定しているとか。「もう逃げも隠れもしない。世界の歳の差カップルを応援したい。」そんな思いが形になった。「うーん、う、産まれるっ。」無菌室にいるかのような格好になった関係者一同は、新しい命の誕生の見届け人となった。「オギャーッ」処置をした後看護師が春香に手渡す。「元気で可愛い女の子ですよ。おめでとうございます。」「うわー、アソラ。出会えてお母さん嬉しいよ。」毅が不思議そうに聞く。「あ、アソラって。」「うん、産まれるまで決めた名前は秘密って言ってたでしょ。あれ、青空って名前にする予定だったの。呼び名は男の子ならアオゾラ。女の子ならアソラにしようって。だから青空。いい名前でしょ。」汗だくで疲れているにも関わらず、渾身の笑顔で毅に答える春香。「ありがとう、ありがとう春香。」感無量に涙する毅。「よく頑張った。よく頑張ったよ春香。可愛いね。これが私の初孫なんだ。」菊子は春香を抱きしめた後、初孫を抱いた。・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.100 )
- 日時: 2023/08/03 18:26
- 名前: 梶原明生 (ID: nsrMA1ZX)
・・・次に春子が抱く。「おうおう、曾お婆ちゃんだよ。青空、可愛いね。」賢二も抱こうとするのだが。「あんたはいいでしょ。ねぇ、酷いね、こんな可愛い子を堕ろせだなんてね。」少し意地悪気味に渡さない春子。「お婆ちゃん、抱かせてあげて。この子が愛で祝福された子供であることを悟らせてあげて。」春子は渋々賢二に抱かせた。まるで18年前の春香のようだ。「おお青空。すまなかったな。」年甲斐もなく涙で溢れる賢二。そんな家族の姿を見守りながら、藤堂は呟く。「これからが大変だぞ。でもあんたらなら乗り越えられると信じる。」騒ぎの中、静かに立ち去ろうとする。「どこ行くんです。」優也が気づいて止める。「ん、決まってるだろ。もう期限の一年契約は過ぎた。もう俺がいなくてもお前たちは充分強いよ。きっとこれからの荒波も乗り越えていける。所詮俺はあくまで雇われた部外者だからな。」「そんな言い方しないでください。俺はずっと、ずっと、藤堂さんのことを本当の父親のように慕ってたんです。だから・・・」「ありがとよ。君にそう思われてたなんて光栄だ。なんせあの志楽乙女の息子だからな。」「それは言いっこなしで。」ふと笑い合う二人。優也は聞いた。「どうしても行かれるんですか。」「そんな今生の別れみたいな顔するな。契約は切れるが、別に会えなくなるわけでもあるまい。ただ以前よりは忙しくなるだけさ。何せ本業を一年もサボってたんだからな。いつでも事務所に来いよ。」「はい。森本とかと一緒に。」「ああ。じゃあな。」背中を向けながら手を振る藤堂。小田課長や里村課長に目配せするだけで高畑産婦人科を後にした。数日後、いつもの日常が帰ってきた。退院した春香は退院と同時に通学を開始し、青空を抱えての授業となった。菱野がのぞきこむ。「可愛い。青空って言うんだ。」「うん、私の大事な授かりものよ。」クラス中が笑顔になる。「はいはい、ホームルームはじまるよ。」「先生、ほらほら見て。可愛いんだから。」「本当ね。可愛い。森本さん、よく頑張った。」「はい、ありがとうございます。」その頃、優也は我が子をスマホの待ち受けにして眺めているし、志乃は子育てを白川としながら幸せそうに暮らしている。賢二は春香の件で逆に自衛隊イメージアップに繋がり、一等陸尉昇進が決まり、徽章を授与されていた。菊子はケーキを焼き、春子は刺繍に精を出す。乙女は地元テレビ局に出演し、里村課長は犯人を逮捕して小田課長は人探しに心血を注いでいた。そして中山毅はと言うと、以前大分県で面接時好感を持ってもらえた介護グループ社があった。名はツツミ介護福祉会社。その縁で東京本部での面接も通り、晴れて施設専属理学療法士として再就職に成功した。藤堂は依頼人の女性をストーカーから助け出していた。ヘタレな水沢も健在だ。春香は花瓶から古い花を片付けて、新しい花に替えていた。アカシアの花に。「ほら、アカシアだよ。君と同じ青空と黄色い花合うでしょ。」片方に青空を抱き、もう片方の手でアカシアを青空に掲げた。青空とアカシアは太陽に映えて美しく輝いた。 了 次回「エピローグ」に続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.101 )
- 日時: 2023/08/14 07:08
- 名前: 梶原明生 (ID: eetvNq3l)
「エピローグ」・・・・・・・・・「恋愛はアカシアのように、明かすことも証を立てることもできない。何故なら心の中にあるから。」高校生体験学習発表会にてせっちゃんが演壇に上がって熱弁していた言葉だ。とは言え、春香からの受け売りだったのだが。みぃちゃん萌ちゃんも感動して聞いていた。その頃、オンラインでのライブ映像を毅達と見ていた春香は、せっちゃんの発表を生配信で、みぃちゃんのスマホから見ていたのだ。練馬駅のホームから狭間先生の家族御一行が列車から降りてくる。「先生。」「おお、我が愛しの教え子達。可愛いね、この子が聖優ちゃんと青空ちゃん。」毅と志乃が答える。「はい、先生。」「そうです。私達のかけがいのない子供です。」「そうなの、それは良かった。一時はどうなることかと心配したけど。無事で何より。まるで初孫に出会えた気分だよ。」狭間は赤ちゃんを心底愛でた。「山中さん、いや、中山さん。何かご報告わすれてませんか。」優也が毅の肩を肩で突っつく。「ああ、そうだった。優也君ありがとう。狭間先生、この度私の長年書いていた小説が出版されることになりました。彼のお母さんの乙女さんに私のウェブ小説が目に留まりまして。そのコテ入れで出版社からオファーがあったものですから。」実際は優也が乙女に打診したのがきっかけだったが、それは言いっ子なしでと志乃と示し合わせていた。「まぁ、それは良かったわ。いよいよ私の教え子から作家デビューする子が出るのね。」「いやー先生。そんな大層な。ただの一発屋みたいなものですよ。」「それでも本を出すなんて立派よ。発売日に真っ先に買うわね。」照れながらも毅は皆を志乃の屋敷近くの洋食飯屋ルボアに行くよう促した。ルボアではすでに貸し切りでおもてなしが待っている。春香がスマホ片手に狭間に見せてくる。「ほら、見てください。TikTokに挙げた青空とのダンス動画ですよ。可愛いでしょ先生。」「まぁ可愛い。ところでTikTokって何。YouTubeじゃないの。」その質問に慌てる毅。「いや、そのー。何と申しましょうか。」その後に部が悪く、毅のダンス動画がTikTokで始まる。ぎこちないダンス。「いや、これは・・・」「あらあら、すっかり若奥様の尻に敷かれたわね。」冷や汗で苦笑いの毅。青空と一緒に笑い出す春香。「フフフッ。」「羨ましいわね。私の時代はお見合い結婚が多くてね。親が決めた相手と結婚させられた子はザラに多かったわ。」ふと漏れたそんな狭間の話で、かつて春香が母菊子に、何故賢二を取り、先生と駆け落ちまでしたのに、一番愛したその先生を取らなかったのかと訪ねたことがあった。「昔のある人はこう言ったわ。女はね、一番愛した人とは結ばれないものなの。だから二番手の結婚相手で家庭を築きなさい。それが女の幸せだと。でも私は違うと思うのよ。その考えだと、もし自分なら大変失礼じゃないかしら。二番手だとお父さん(賢二)を思ったことはないし、第一そう考えて結婚することは返って一番愛した先生に失礼に当たる・・・いえ、それ以上に一番愛した人への冒涜じゃないかしら。そう思ったからこそ、真摯にお父さんを愛したのよ。」・・・続く
。
- Re: アカシアな二人 ( No.102 )
- 日時: 2023/08/14 13:40
- 名前: 梶原明生 (ID: CWUfn4LZ)
・・・それに春香なりに考えるところがあった。「それでも。・・・私、今までの事で一つわかったことがあるんです。それは、愛する人と結ばれる価値観が全てではないと言う事です。色んな愛の形がある。恋愛が全てじゃないし、一番愛した人と結ばれることばかりが全てじゃないって。そう思えたんです。だからどんな愛も、真摯に向かっているものなら、受け入れるべき価値観なんだと。うまく言えないんですけど、そうわかったんです。」「うんうん、素晴らしいは春香ちゃん。その通りよ。」優しく春香の肩を摩る狭間。「ありがとうございます。」しんみりするところに丁度料理が運ばれてきた。「さ、皆さん、召し上がって。」志乃が皆に声をかける。料理を堪能し始めた時に、店のラジオから懐かしい曲が流れてくる。「リンダリンダリンダ」である。「愛じゃなくても恋じゃなくても君を離しはしない。」その歌詞に少々穿った解釈だが、先の春香の演説に悟るものを感じる。「これ、ブルーハーツ。毅さん。」「わかってるよ春香。この歌詞みたいだね。」見つめ合う二人。「こんにちは。あ、森本さん、志楽君まで。」何と、遅ればせながら紺野先生に樹、智美まで。「よう、お呼ばれになってたから来たぜ。」藤堂も来ていた。「会いたがってたろ。うちの家内と娘の柚子だ。」春香の想像していた通りだ。「キャーッ柚子ちゃん、会いたかったよ。」毅に青空を預けた春香がつい素が出て抱きしめる。「いや、あの、ちょっと。」「あ、ごめんなさい。藤堂さんから話色々聞かされて、初めて会ったきがしなかったから。でも想像通り可愛い。」「いや、まぁ、ありがとう。でも私も春香ちゃんに初めて会った気がしない。」「でしょう。」春香の天真爛漫さが功を奏したのか、柚子に打ち解けるのに数分で十分だった。「いいな春香ちゃん。私恋愛奥手だからまだ一度も彼氏いなくて。」「大丈夫大丈夫、私だって奥手だったんだもん。きっといい人見つかるって。」咳払いする藤堂。「んんっ、お父さんはいつまでも奥手でかまわんが。」妻が割り込む。「あら、そんな事言ってもし行かず後家になったらどうすんの。下の子も恥ずかしいわよ。」「下の子・・・」春香が不思議そうに聞く。「じ、実は。オホン、妻のお腹に男の子が授かりまして。」毅、志乃、優也が賛辞を送る。「それは御懐妊おめでとうございます。」春香はまだ何か分かってない。「へー・・・御懐妊て何。」一気に皆倒れ込む噴飯物。「いや、だから、赤ちゃんができたって。」「えーーーっ何で。」藤堂の武骨さから子作りが想像できない春香は、天然ボケをかます。藤堂は苦笑い。「何ではないだろ。俺はモビルスーツかターミネーターか。」またもや笑いが沸き起こる。その盛り上がり中、またもやルボアのドアを開ける人物がいた。校長である。・・・続く。
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