複雑・ファジー小説
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- アカシアな二人
- 日時: 2022/04/16 22:27
- 名前: 梶原明生 (ID: UfViuu4R)
理想的な容姿と充実した高校ライフを送っている二人の高校生。ひょんなことから回りに勧められて付き合い出したのだが・・・二人は愛し合えなかった。「何かが違う。」その違和感を拭えないでいた。そんな時互いに別の異性との出会いがあったのだが。それは悲劇の愛の始まりだった。アカシアの花を通じて知り合った、52歳の男女だったのだ。しかし世間はこれを純愛とはせず、あらゆる憶測、いじめ、引裂き、誹謗中傷の嵐に晒す。果たしてこの四人の愛は没落なのか。それとも真実の愛なのか。神々の授ける運命は愛する者達を翻弄する。
- Re: アカシアな二人 ( No.3 )
- 日時: 2022/07/02 16:32
- 名前: 梶原明生 (ID: 9pFPYMWe)
「この愛は、いけない愛ですか」・・・・・・「フーン・・・」春香は芝生を吸って思いっきり背伸びした。大の字になって高校の緑地で寛ぎながら。青空の雲は我知らずとして流れていく。「決めた。もう迷わない。」口で言うだけでなくスマホで親友の優也にもメールで伝えた。「俺もだよ。迷わない。」彼女はなり振り構わず走る。駅で九州行きの新幹線を待つ中山。空港で北海道行きを待つ瀬西。新幹線に乗ろうとした時、聞き慣れた声が響いた。「毅さーん。」「春香、何故。」空港では志乃を呼び止める声が。「志乃さん。」「え、優也君。どうして。」それぞれの二人はアカシアの花を持ちながら抱きしめ合った。7ヶ月前の六月に戻る。
ダンスを仁美と踊る春香。「すっかり汗かいちゃったね。春香の新ダンスなかなかよかったよ。」「ありがとう。うわ、暑いー。」下敷きで仰ぐ春香。何でもないことで笑い合えるのが親友の仁美だ。「春香さ、本当に文通始めるの。明日は転校生来るのに。」「え、だから何。」「いや、だからさ、男子でしょ。かっこいいイケメンかもしれないじゃない。なのに文通って・・・」「今時とか言わないよね。それジェネハラだよ。」仁美を指差すように言う春香。しかし何故か笑い合う二人。「でも明日は小テストか。期末テストに向けてまた紺野ちゃん、意地悪な抜き打ちやるんだろうな。」「てことで仁ちゃん帰ろう。テスト勉強テスト勉強。」「そだね。」二人は体育館裏を出て帰路についた。「今日こそアカシアを買うぞ。」帰宅途中にある昨日の花屋に寄る春香。「あの、このアカシアください。」「あら、昨日の。・・・はい、ただいま用意しますね。」手際良く包装する店員。芳しい花の香りを嗅ぎながら店を出る彼女。「うわー、ごめんなさい。」油断したせいか、中年らしき女性とぶつかる。「ああ、いいのよ。青川学園の生徒さん。」「は、はいそうです。」「そう。私も昔通ってたのよ。転校するまでわ。」「ええ、そうだったんですか。大先輩ですね。」「そうでもないわよ。転校したんだし。・・・アレ、アカシア。」「あ、ご存知なんですか。」「うん、私の思い出の花。あら、台無しね。私の不注意だから弁償するわ。」「いえいえ、悪いですよ。大丈夫です。一二本折れたくらいですから。私だって不注意でしたし。すみませんでした。それじゃこれで失礼します。」「ああちょっと・・・行っちゃった。ん、学生証。森本春香。大変。」慌てて追いかけるものの、春香は見つからず。彼女自身も用事があるため、やむなく明日学校に届けることにした。彼女の名は瀬西志乃。この界隈に住む財産家の娘だ。しかし父は早くに他界し、母も介護される体になった。最初はヘルパーや、介護施設を考えたが、結局一部の助力以外は自分で介護することに決めた。翌日、春香は通学電車に揺られながら駅に着くと、Suicaはあるが学生証がないことに今頃気がつく。」「あれ、何で何で。」そこへパンをかじりながら男子高校生がぶつかってくる。「ごめんなさい。」「気をつけなよ。」一言交わしただけだったが、顔が凄いイケメンなのには驚いた。まるでテレビドラマみたいな展開に心高鳴る春香。しかし。「何だろう。普通ならあんなイケメン滅多にいないのに。テンション上がるけど、何でかこう、しっくり来ない。」彼女は不思議な違和感を感じた。やがて教室前まで来ると、また嫌な予感が過った。「まさかさっきぶつかった彼が転校生。またまた、そんな恋愛漫画みたいな展開あるわけ・・・あったよ。」入っていきなりいたのは先程ぶつかってきた長身イケメン。「あ、お前さっきの。」「あなた転校生だったの。」・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.4 )
- 日時: 2022/07/03 00:59
- 名前: 梶原明生 (ID: lvVUcFlt)
・・・驚きだ。まさかこんな偶然が重なるなんて。紺野先生がホームルームのため入ってきた。「はーい、皆こっちに注目。ホームルーム始まるよ。さて、早速だけど先日話してた転校生がうちのクラスに来ました。紹介します、志楽優也君です。志楽君、前に出てくれる。」「はーい。」少し気だるく返事する志楽。「志楽優也です。よろしくお願いします。」挨拶だけでも女子がざわつく。「ねぇねぇ、春香。やっぱりイケメンじゃん。てか、あんたたちもう知り合ってたの。ずーるーい。」「いや、知り合ってたわけじゃないけど。・・・」非常に気まずい春香。仁美との間に割り込む松本。「でもさ、森本なんかが割といいカップルになると思うな。森本可愛いし。」「ちょっと、何キモいこと言ってんのよ。男子は割り込まないで。」言われて少し悲しそうな顔になる松本を春香は見逃さなかった。「松本君、何で。」紺野先生の声でそれも消し飛ぶ。「じゃあ、森本さんの隣が空いてるわね。そこに座って。」「来たー。恋愛ドラマの鉄板ネタ。隣の席。」一人盛り上がる仁美に春香は苦笑い。「よ、そんじゃよろしく。」愛想のない挨拶の志楽。「似合いのカップルじゃん。」男子は冷やかすように二人に声を掛ける。やがて何ごともなく小テストもおわりそれぞれ帰路についた。今日は早くに授業が終わった。その途中、正門近くで昨日の実年女性と出会う。「あれ、昨日の。」「ああよかった。学校に届けようと思ってたんだけど。学生証、花屋の前で落としたでしょ。」「あーあった。わざわざ学校に届けてくれようとしてたんですか。ありがとうございます。助かりました。」仁美が割り込む。「朝言ってた事なの。」「うん、これで怒られずに済む。あの、良ければお名前と住んでる所教えてもらえませんか。後でお礼にお伺いしたいんですが。」仁美が慌てる。「ちょっと。それ個人情報でしょ。」「あ、うっかりだ。」一瞬笑う瀬西。「フフフ、わかったわ。あなたなら危険なんてないでしょうし。私の名前は瀬西志乃。住所は、洋食飯屋ルボアのすぐ隣だからわかるわ。」二、三言葉を交わして立ち去る瀬西。年若い少女とはいえ、ここ数十年関わりを持ったのは彼女が初めてだった。母にはもっと生きていて欲しかった。脳梗塞で倒れてから母は本当に娘に申し訳無さそうにしていた。それが返って志乃には辛かった。一方、自宅に戻った春香は早速自室に入り、スマホを取り出し文通サイトを開いた。それは個人が運営している、文通相手を探すサイトなのだが、お婆ちゃんの理解を得て登録することにした。「よし、送信っと。どんな人がいるのかな。」すると早速返信があった。「青空の真下でさんから文通のお誘いです。」プロフィールを見て一発でこの人に決めた。年齢は52歳とあるので、自分もその年齢に合わせて50歳の未亡人を装った。お婆ちゃんをイメージしての役作りである。しかしそれ以外は本当の自分を出そうと決めていた。「都内に住んでる中山毅さんか。」こうして、中山とも瀬西とも、親しい間柄となっていった。無論中山とは文通のみでのやりとりではあるが、年齢を超えてまるで同い年の親友の如く、いやそれ以上に彼への想いを募らせる春香であった。それと同時に仁美を交え、優也とも仲良くなる。「期末テストも終わったし、夏休み寸前だし、もう二人付き合いなよ。」「えっ・、・」春香はクラスメイト大半から言われ驚く。「志楽はお母さんがあれだろ。大ベストセラー作家だしな。」二の足を踏んでいたはずの優也はキッと睨み返した。まるでそれが導火線になったかのように、春香に詰め寄る。「森本、俺と付き合わないか。」「え、あ、その、はい。」思わず勢いに負けて口ずさんでしまい、両手で口を塞ぐ春香。明らかに仁美の顔色が変わる。「イェーイ、ヒューヒュー公開告白ヤルーッ。」クラスメイトが湧き上がる。・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.5 )
- 日時: 2022/07/03 14:49
- 名前: 梶原明生 (ID: lvVUcFlt)
・・・「はいはい休み時間終わったよ。授業授業。」盛り上がりの最中に紺野が入ってきた。時間は下がり、夕方近く。マネージャーと共に仕事場兼自宅にしてる豪邸に返ってきた志楽乙女。「あー疲れた。このままソファに溶け込んで眠りたいわ。」「先生、そろそろ新作に取り掛からないと。」「あーもう言わないで。記者会見に大型書店でのサイン会。雑誌にテレビの取材。たまには休ませてよ。」押し黙るリクルートスーツの若き女性マネージャーは冷たい視線を、見ていない乙女に向ける。「あら、優也君。お帰りなさい。」マネージャーの声で頭だけ起きる。「あら、優ちゃん。どう、学校の方。もう友達できた。言っとくけどね、もう問題起こさないでよね。これで転校三度目よ。たまたま私の担任が今校長してるからコネで入れたけど。今後はないからね。ねぇ聞いてる。」「ああ。」背中姿で答える優也。「あ、それからお小遣い足りてる。電子マネーもいいけど、現金もちなさい。」「いらねーよ。」札数枚がはらわれて宙を舞う。「なんてことを。優也君。」マネージャーが呼び止めるものの無視して二階に上がる。「いいのよ。あの子のために稼ぐぐらいしか親らしいことできないもの。」札を拾う姿を見て薄笑うマネージャー。薄笑う患者を相手にリハビリを行うのは中山だ。「どうせ私は良くならない。」「神場さん。諦めたらダメですよ。今日は三歩あるけたじゃないですか。完全より進歩ですよ。」老婦人相手に元気付ける中山。「フフフ、あんたに言われるとできる気がするから不思議だよ。」「はい、それでは今日はここまで。また明日頑張りましょう。」全てのリハビリ仕事を終えて一息着く中山。「あ、中山さん、ご苦労様です。やっぱり中山さんマジックですね。あんな頑固な神場さんがリハビリしたがるんですもの。」「いやー、ただ私は長年治りたい人々に寄り添いたい仕事を、こなしてるだけです。」「謙遜ですよ。あの、もし宜しかったら今夜・・・」「一ノ瀬さん、二階の宇和部さんが。」他の看護師の呼びかけにやむなく言いかけて立ち去る。そうしながら振り返る一ノ瀬静香。「手紙・・・」大事そうにポケットから手紙らしきものを出して見る中山に不信感を抱いた。手紙にはこうある。「・・・ブルーハーツ懐かしいわ。私も聞いてたんですよ。青空やトレイントレインが特にいいわね。あなたには是非お会いしたい。」中山は迷っていた。何故か懐かしい胸高鳴る思い。しかし自分には会う資格があるのだろうか。「私は愛した人を見殺しにした。」・・・続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.6 )
- 日時: 2022/07/03 14:48
- 名前: 梶原明生 (ID: lvVUcFlt)
・・・あれは21歳だった大学生の頃。志乃の親友、榮倉信子のことだ。彼女はまさにクラスのマドンナだった。無論中山は恋心を抱いていたが、クラスで不登校がちの不良男子と付き合いだした。次第に真面目なお嬢様から素行不良の女子になりかわり、高校も中退してまで彼につくしたのに。その彼には新しい彼女ができて捨てられた。その後の彼女の転落ぶりは想像に難くないだろう。いつしかリストカットまでするようになり、最後の頼みの綱である、かつて自分を好きだと言ってくれた中山に電話した。当時は大学寮に電話するしかなかった。なのに・・・彼は彼女のSOSを断ち切ってしまう。勉強が忙しいわけでもない。助けに行けたはずなのに。やがて同窓生の連絡で彼女が首吊り自殺で死んだことを聞かされて酷い慟哭の嵐を突きつけられた気持ちになった。「俺が殺したようなものだ。」以来その言葉が心から離れない。無論、自殺を仄めかしてはいないから、厳密に言えば彼の責任ではない。しかしそんな理屈では片付けられない何かがある。それでも彼は決心した。「信ちゃん、会うだけだ。会うだけだからね。」古ぼけた信子の写真を見ながら罪悪感を押し黙らせた。「会いましょう。今度の日曜日。駅前で。」中山からの手紙を手にした春香は舞いあがった。「やった。ようやく彼に会える。あっ・・・」自分が女子高生であることを忘れていた。「いや、大丈夫。偽ってたのは年齢だけだし、会えば理解してもらえる。」部屋でガッツポーズを取る春香。「あら春香、転校生女子のお友達からまたお手紙。随分と嬉しそうね。男の子からもらったみたいに。」母親が部屋に入ってきた。ドキッとする春香。「いや、その、彼女が久々東京に来るって言うから。」「そうなの。でも今時珍しいわね、スマホでメールやりとりする時代に文通なんて。」「そーーーかな。結構文章好きだったから。」何とか誤魔化し、やがて当日を迎えた。駅前の待ち合わせスポットで胸高鳴る春香。定時刻。キョロキョロあちこち見る実年男性が恐る恐るモニュメントに佇む。無論。春香は眼中にない。しかしやたら視線を向ける子供に,違和感を感じざるおえない。「私に何か。」「中山毅さんですよね。」「は、どうして私の名前を。」「森本春香です。」事態がよく飲み込めない中山。「娘・・・さんかな。お母さんは。」「いえ。すみませんでした。実はあの文通相手、私だったんです。」「はぁ、君、君が。き、君いくつだよ。中学生か。」「いえ、高校二年生の17歳です。」「バカな。からかってたのか。」「違います。たしかに成り行きで50歳で書きました。でも、それ以外ではそのままの私です。だから・・・」「気は確かかね君。偽りなら尚更。私と歳が合わないし、まだ18でもないのに付き合えるわけないじゃないか。」「そんな。」「とにかく聞きなさい。私は52歳。しかし君は17歳だ。まだまだ君には将来がある。君に会う相応しい男の子はいくらでもいる。それに君の家族だって。きっと私みたいな実年男性と付き合ったなんて知ったら悲しむだけだ。だからこのことはなかったことにしよう。もう手紙も送らないでくれ。」立ち去ろうとする中山に声を張り上げる春香。「本当に、それでいいんですか。この愛は、いけない愛なんですか。だれが決めたんですか。」人目を気にし始めた中山は春香を背に振り返ることなく歩き去ってしまった。「森本。・・・」偶然居合せた優也が春香の背中を見つめた。「あいつまさか。」・・・次回「障害壁はどこまでも」に続く。
- Re: アカシアな二人 ( No.7 )
- 日時: 2022/07/04 18:12
- 名前: 梶原明生 (ID: 4J23F72m)
「障害壁はどこまでも」・・・・・・「珍しいわね、昨日まではあんなに元気だったのに。何これ、平熱じゃない。」母親の菊子がベッドで寝込む末娘の春香を気遣っていたのだが。「えーそんなはずないよ。確かに風邪なんだってば。」「あのね、仮病まで使ってズル休みなんて我が家では認めないって決まり忘れた。」「もう、理屈じゃないんだってば。今日一日だけ。お願い。」「もしかして、恋煩い。」ドキッとして起きる春香。「やっぱり。中学の初恋だったバスケ部の先輩に振られた時もあなたこんな感じだったでしょ。お父さんが聞いたら大変よ。」「どうせあの人は単身赴任みたいなもんでしょ。駐屯地に行ったからしばらく帰ってこないし。」「そんなこと言うもんじゃないわ。わかった。ただし今日だけよ。明日は必ず学校へ行きなさい。」「はーい。」「もしかして、この前話してた志楽君て子の事。」しばし優也の顔が浮かんだ。そうだ付き合ってたんだと言う程度にしか思えない。「う、うん、ちょっとケンカしちゃって。」つい嘘をついてしまった彼女。一方学校では紺野から皆に春香の欠席が告げられた。ざわめくクラス。仁美が千葉智美に耳打ちする。「珍しいね、入学式以来一日も休んだことないのに。」「SNSにも反応ないし、おかしいよね。まさか新型ウィルス・・・」「ちょっと滅多なこと言わないでよ。春香はかなり気をつけてるよ。」空席を見ながら優也は昨日の春香の姿が浮かぶ。あの中年男性は誰だったのか。そればかりが頭を過ぎった。その渦中の春香は部屋で思い悩んでいる。やむおえなかったとしても、年齢を偽っていたことを申し訳なく思う事。そして、手紙もさることながら、実際に会ってみて知った中山の魅力。その両者に煩っていたのだ。それはリハビリ仕事についている中山自身もそうだった。常識的に考えたらありえない話だ。ところが部の悪いことに彼女の面影にふと信子に似ている姿を見てしまったことだ。「17歳の女子高生だって。冗談じゃない。」うち消そうとすればするほど春香が浮かんで仕方ない。「あ、中山さん。」一ノ瀬が抱えていた患者と共に倒れかかった中山を間一髪支えた。「大丈夫ですか。いつもの中山さんらしくない。こんなミスするなんて。」「あ、ありがとう一ノ瀬さん。ちょっと目眩がしただけだよ。大丈夫。」「そうですか。」その場はやり過ごしたものの、女の勘は侮れない。中山に女の影を感じた。夕方近く、仁美、樹、智美、そして優也の四人は、春香の見舞いに自宅を訪れていた。玄関先で対応するものの、樹が気を効かせる。「こらー皆、長居したらカップル水入らずが台無しでしょ。」「何それ初めて聞くんだけど。」仁美が笑いを取る。やがて優也を残して三人は帰路についた。「森本、ちょっと出られるか。」「え、うん。」二人は近くの公園まで歩く。「話ってなに。」「わかるよな、それ。昨日見てたんだぞ。駅前で叫んでたの。あれが原因か。」「あ、見てたの。」急に赤面する春香。「俺たち付き合ってもうすぐ一ヵ月。まだキスもないよな。なんつーか、お前とは男女と言うより親友かな。お前もそうなんじゃないのか。」「そんなこと、ないよ。」「ほらキョドッてる。ならここでキスするか。」「へ、・・・」火の見櫓の柱にまさに壁ドンする優也。「ええ、今時壁ドンて・・・」「ほらな。」唇を近づけられた春香を見て確信した。「お前は俺に恋してない。勿論俺もお前に恋してない。これが答えだ。お前今まで流されて生きてきたんじゃないか。本当の自分の声を仕舞い込んで、何となく生きてきたお前が、あの人のせいで覚醒したんだろ。違うか。」優也の言う通りだと初めて頷いた。「なら迷うことないさ。俺、親友として応援する。よく男女の友情なんてないとか言うけど、今違うって心底わかった。森本、お前はおれのマブダチだ。」拳を突き出す優也に合わせて春香も拳を合わせた。「ところでマブダチって何。」「ええー知らねーのかよ。」「ハハハハハッ」久しぶりに心底笑い合えた気がする。春香は決心した。再び中山に会い、謝罪と素直な気持ちを伝えようと。・・・続く。
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