複雑・ファジー小説

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アカシアな二人
日時: 2022/04/16 22:27
名前: 梶原明生 (ID: UfViuu4R)

理想的な容姿と充実した高校ライフを送っている二人の高校生。ひょんなことから回りに勧められて付き合い出したのだが・・・二人は愛し合えなかった。「何かが違う。」その違和感を拭えないでいた。そんな時互いに別の異性との出会いがあったのだが。それは悲劇の愛の始まりだった。アカシアの花を通じて知り合った、52歳の男女だったのだ。しかし世間はこれを純愛とはせず、あらゆる憶測、いじめ、引裂き、誹謗中傷の嵐に晒す。果たしてこの四人の愛は没落なのか。それとも真実の愛なのか。神々の授ける運命は愛する者達を翻弄する。

Re: アカシアな二人 ( No.68 )
日時: 2023/04/01 18:16
名前: 梶原明生 (ID: CWUfn4LZ)

・・・言われてぐうの音も出ない白川。翌日、志乃の面会をしたおり、先の内容を聞いてみた。「それはもちろん。加津子さんお願い。北川先生に中山君の弁護もお願いして。」やはりとは思ったが、亡き先代のお嬢様のたっての願いとあらば、聞かないわけにはいかない。「かしこまりましたお嬢様。しかし、ご成長されましたね。以前の私がお守りしなければと言う雰囲気は微塵も感じません。独立した一人の女性と言う感じでしょうか。」「加津子さん。」微笑ましくなる志乃。早速北川弁護士事務所は動いた。本来なら刑法第224条、未成年者略取誘拐罪に問われた者は留置所送致でそのまま起訴から二か月後に裁判となる。しかし、北川は保釈金を積むことと、春香、優也側にある打診を行った。それにより、異例の「在宅起訴」と言う形になり、つまり留置所から出されて、自宅謹慎のような形で裁判を迎えられるようにしたのだ。これには裁判所も佐山署も渋柿を噛むような思いなのだが、北川弁護士の手腕により承諾せざるを得ない。「え、署名してくれそうな人ですか。」春香は某喫茶店で北川と会っていた。「ええ。できれば2人の仲を良く知っている方がいいです。」それを聞いて浮かんだのは、残してきた美沙おばちゃんにせっちゃん、みぃちゃん、萌ちゃん。そしてキャバン。「わかりました。宛ならありますんで、連絡してみます。」喫茶店を出た春香は、早速全員にメールを送った。「勿論だよ。協力させてもらうから。北川弁護士事務所にファックス送ればいいのね。」せっちゃんが早速返信してきた。みぃちゃんも萌ちゃんもそしてキャバンも。協力は惜しみなくするとの通達だ。勿論美沙おばちゃんからも熱いエールが届いた。こうした支援の経緯もあって、先の在宅起訴に繋がった。毅の身元引き受け人に来たのは言うまでもなく藤堂だ。「やぁ、これで2度目ですね義兄さん。」「まさか2度もね。」苦笑いする毅。やがて佐山署を引き払おうとした矢先、初老の課長に呼び止められた。「藤堂探偵事務所の藤堂さんですよね。」不意にビクッとなる藤堂。まさかそこまで掴んでいたとは。「変ですね。彼の妹さんの今の姓は相楽のはずですが。あなたは。」「さぁ、何のことでしょう。人違いじゃないですか。」「もうし遅れました。私、生活安全課課長の里村と申します。その節はうちの本間刑事が先走ったマネをして申し訳ありません。そのお詫びと言っては何ですが、あなたが藤堂であることは不問にしましょう。ですが・・・くれぐれも行動は控えるように。裁判で無罪に近づけるためにも。」その一言で、彼にこの四人の愛に理解があることを悟った。「ですが、何故課長のあなたがこんな話を。」「昔の私の親友の話ですがね。彼には一人娘がいて、大切に育てたんですが、高校生になった時、彼氏ができたんですよ。ただ、彼の父親は犯罪者でしてね。親友は烈火の如く怒って交際を反対した。で、娘は彼と駆け落ちして妊娠。しかし、心労が祟って母子共に死亡。それを苦にした彼氏は後追い自殺を。」どこかで聞いたような「知人や親友に見立てる話」だなと思ったが、静かに聞く藤堂と毅。「もし、もっと娘の気持ちに寄り添っていればと、悔やんでも悔やみきれず、親友は未だに自己憐憫の日々ですよ。以来、親友はこう思ったそうです。少しでも、娘みたいな思いをする人が消えてほしいとね。」・・・続く。

Re: アカシアな二人 ( No.69 )
日時: 2023/03/12 12:11
名前: 梶原明生 (ID: 86FuzJA.)

・・・「ありがとうございます。」深々と頭を下げる毅。「私はあくまで司法の立場であなたを見ていますよ。ただ、もし、 何か困ったことがあれば、ここへ連絡下さい。意味はわかりますね。」里村は名刺を渡してくる。一方その頃松本は、とある場末のアパート街に来ていた。優也にとって、青川学園で唯一親友と呼べるのは樹くらいだ。彼は、いや彼女はそうではないが優也はまだ知らない。「三刻アパートってここだよね。」樹がGoogleマップで調べていたら、少し古ぼけたアパートの2階からカツカツと金属音の響く階段を降りてくる私服姿の優也が現れた。伊達メガネにキャップ帽を深々と被っていては、一瞬彼とはわからなかったろう。それでも樹からしたら数秒で見破る姿だ。「よう、松本。久しぶり。」「久しぶり。テレビやネットで知ったけど、あれから大変だったんだね。でも、いきなり行方くらまさなくても。」「わりぃ。母さん宥めるの大変だったし、あそこにはもう居られなくなったしな。」「だからって何もこんなとこ。」「いや、割と住んでみたら快適だぜ。それにかつてのベストセラー作家がこんなとこいるはずないってことで、案外見つかりにくいもんだぜ。」強がりで言っているのは樹には見え見えだった。「辛いんだね本当は。」「別に。それよか、頼みたいことがあるんだ。」「僕でよければなんでも言って。」彼はかいつまんで説明した。藤堂に頼みたかったが、ロフディ青木マンションのあの出来事以来、彼が小田課長の機転がなかったら無茶していたのではないかと心配になり、頼めなかったのだ。「志乃さんに会いたいんだ。」「わかった。僕に任せて。でも、・・・僕も君に伝えておきたいことがあるんだ。」「何だよかしこまって。」「僕は・・・僕は君のことが好きだ。」「ああ、なるほどな。・・・はーっ。」一瞬なんのことか分からず返事したが、まるでノリツッコミみたいな反応になった。「やっぱりね。そうだよね普通。」「松本、お前まさかそれって、親友としてでなく、つまり・・・」「そのつまりの方。だから辛かった。でももう抑えられなくて。」一呼吸置いてから喋りだす優也。「ごめん、そんなことも知らずに俺は。」「いいの。それでも、結ばれる愛もあれば、影から支える愛もあるから。」「松本、お前まさか。」「そう、見た目は男でも中身は女。でもね、今みたいにLGBTQ自体を問題にしてほしくないの。誤解してる人多いけど、LGBTQ自体を取り上げて欲しくない、ただ静かに認めてほしいだけの人間もいることをわかってない。だから私達は息苦しさを感じる。」妙に切ない面持ちになる優也。「そうだよな。今の世の中おかしいよな。男も女もいるのに、まるでそれには人権ないみたいな喧伝してさ。LGBTQを侵害されたくないなら男女の価値観も侵害したらダメなのにな。・・・それはそうと松本。正直に話してくれてありがとう。でも俺にはお前の気持ちには応えられ・・・」「わかってる。優也には志乃さんと言う心に決めた人がいる。だから。影で支えさせて。」辛辣な面持ちの彼女に何も答えてやることができないのがもどかしい優也だった。・・・続く。

Re: アカシアな二人 ( No.70 )
日時: 2023/03/17 23:00
名前: 梶原明生 (ID: sqo3oGwV)

・・・在宅起訴になったと聞いて春香は心迅る気持ちを抑えられなかった。北川弁護士に加え、藤堂も春香に会いに来ていた。「もうすぐ毅さんに会える。」「そうだ。だが、ここからは前みたいなことは許されない。より緻密さが求められる。」「はい。決して前みたいな轍は踏まないつもりです。」話が弾む中、意外な人物が喫茶店に現れた。「森本、お前。」「藤堂、お前こそ何で春香と。それにあんた誰だ。」賢二だったのだ。「どうしてお父さんがここに。はっ。」もしやと思い、学生鞄の底を調べると、黒い小さな発信機らしき電子機器が入っていた。GPS装置である。「こんなの卑怯よ。」「何が卑怯だ。親なら当然の事だ。また何か良からぬことでも企んでいたか。」「違う。私はただ。」そこへ北川が割って入った。「違いますよ森本さん。何か誤解してらっしゃる。もうし遅れました、私、北川弁護士事務所の北川と申します。実はお嬢さんから当時の被害状況等聞き取り調査しておりまして。中山毅の初公判がもう一か月半を切りました。裁判する上であらゆる関係者から事情を聞くのは弁護士の勤めでして。」機転を効かせた北川の助け舟のおかげで最初の難を逃れた。「ふーん。しかしどうやってうちの娘と会った。」「担任の紺野先生に尋ねたんですよ。」なるほど、筋は通っていると納得する。「で、何で藤堂、お前が。」「俺が探偵になった事は知ってるよな。北川さんからの依頼で証言を集める手助けをしていたまでだ。まさかお前の娘さんだったとはな。」すっとボケる藤堂。「まさかな。お前とは久々うまい酒でも飲みたいが、生憎これから医者の予約があるんでな。ようやく休みが取れた今日しかないんだ。春香、行くぞ。」「え、何。そんなの知らない。」半ば強引に腕を掴む賢二。「産婦人科だ。」「どういうこと。私そんなところ行きたくない。」半ば強引に車に乗せられて行く春香。やがて「高畑産婦人科」と言う看板が見え始める。受付を済ませると、甲高い声で呼ばれる春香。「はい、森本春香さんね。検査の結果出ました。・・・結果から言うと、妊娠してます。」「やはりか。」先生の一言に膝が折れる賢二。それとは対照的に恍惚な表情になる春香。「毅さんの・・・」お腹を摩る彼女は目に入らず賢二は厳然とした言葉で返す。「すぐ中絶手術をお願いします。」「や、な、何言ってるの。この子は私と毅さんの子供。殺させない。」「何バカな事言ってる。いい加減目を覚ませ。降ろすんだ。」遮るように高畑先生が「とにかくっ、・・・これはデリケートな話ですので、一旦お父さんは部屋から出て待合室でお掛けになってもらえませんか。」「先生、この子はまだ高校生なんですよ。中絶・・・」「ですから。それも含めて娘さんにお話ししますので。」有無を言わせず賢二を部屋から出す高畑。「さ、先生と二人っきりになったよ。あなたの本音、包み隠さず話してみて。」春香は思いの丈をぶつけてみた。・・・続く。

Re: アカシアな二人 ( No.71 )
日時: 2023/03/25 19:34
名前: 梶原明生 (ID: 5NmcvsDT)

・・・毅との出会いのこと、志乃や優也のこと、そして愛し合った夜のこと。「うん、わかったわ。あなたの強い意志は充分伝わった。決して後悔も無責任な気持ちもないのね。なら私があなたのサポートをさせてもらう。あなたのその面持ち、昔あなたと同じ子がいてね。その子も、一見弱々しいお嬢さんて感じだったんだけど、芯の強い子でね。お母さんと一緒に子育てに邁進したの。勿論学業にも手を抜かず、遂に看護師の資格を取ったのよ。」言いつつ偶然入ってきた看護師女性を見やる。「だからあなたもその子と同じ、いい面構えしてる。もっと自信持ちなさい。」「はい,ありがとうございます。」その後、賢二には体裁のいい理屈を捏ねて高畑は帰らせた。車中でもめる二人。「お前子供を持つと言うことがどれほど大変かわかってんのか。」「そんなの、愛があれば・・・」「バカ・・・お前バカ。愛なんて幻想だとわからんのか。」「ならお父さんはお母さんに愛なんかなかったの。」「それは・・・」言葉に詰まる賢二。フラッシュバックのように、20年以上前のケーキ屋に勤めていた菊子を思い出した。食えもしない甘いショートケーキを店内の飲食スペースで3個も頼んで通い続けていた。ゴツい自衛隊員にケーキ屋。まるで美女と野獣みたいな取り合わせ。それでも菊子に一目惚れしていた賢二にとって苦ではなかった。「ぼ、僕とつき、付き合ってもらえませんか。」初めての民間人彼女ができるとあって、精一杯の告白。「私でよければ。」この菊子の承諾がなかったら、春香はいなかったろう。不思議な縁の取り合わせ。以後、押し黙る賢二だった。夕方、志乃は加津子さんの車で三刻アパートの近くまで来ていた。松本の案内で。「ここに優也が。」「そうですよ志乃さん。あ、ほら、出てきた。」松本の指差す方向に、階段を降りてくる彼の姿が。居ても立っても居られない志乃は助手席のドアを開け放った。「優也君。」「志乃さん。」走り込む彼を思いっきり抱きしめる志乃。「さ、お二人とも、ここでは目立ちます。」二人を促し、車を発進させた。二人が出会った図書館の駐車場に停める白川。外のベンチに座る優也と志乃。「会えてよかった。もう10年も会ってないみたいな気持ちだった。」「俺も。凄く会いたかったよ。」「優也君、あなたに話しておきたいことがあるの。」辛辣な面持ちに優也は身構えた。「あなたの子供が私のお腹にいるの。」「え・・・志乃さん、俺達の子供だから大切に育てていこう。正直嬉しいよ。そうか、俺もパパか。」しかし、優也は現実の面持ちが帰ってくる。「ごめん、軽はずみだった。俺もできることならあの日のように、志乃さんと家庭を持ちたい。結婚したいって今でも思うよ。けど・・・」・・・続く。

Re: アカシアな二人 ( No.72 )
日時: 2023/04/02 17:17
名前: 梶原明生 (ID: qEZ8hLzF)

・・・そこから先は聞きたくない志乃。しかし現実は待ってはくれない。「けど、あれからあんな事件が起こって。」「ゴーストライターに任せっきりだった作品を世に送り出して、多額の印税を得ていた事実でしょ。」「ああ、そうなんだ。そのせいだけでなく、俺のせいで余計母さん塞ぎ込むようになって。夜逃げ同然にあのアパートに。志乃さんのことは愛してる。けど、母さんを見捨てていくこともできないんだ。だから・・・」苦渋の決断を強いられていることは彼の姿からでも見てとれる。「もう会わないでくれる。」「あ、あ、・・・」急にお腹を押さえて苦しみだす志乃。白川が慌てて駆け込む。「志乃お嬢様、お嬢様、どうなされました。あなた何を言ったんですか。」「俺はただ、ただ、・・・」まさか会わないでくれるかなどと言えず。「高畑産婦人科があります。そこへひとまず。」松本と抱えて車に乗せる。「俺も行きます。」優也も車に乗ってきた。急診と言うこともあり、高畑が直直診察を行った。「もう大丈夫でしょう。母子共に健康です。ただ、精神的な強いストレスが瞬時にかかったみたいですね。」白川に話しながらチラリと優也を見やった。彼の様子から、長年の経験により何となく彼が父親であり、志乃の愛した人だと悟った。以前、男子高校生のシングルマザーが、息子のクラスメイトと愛し合うようになり、妊娠してこの病院で極秘出産した事例もあった。故に志乃や優也のようなカップルも珍しくはなかったのだ。白川が答える。「それは良うございました。では、早速家に。」「ですが、大事を取って今日のところは入院していただき、明日の午前中に退院と言うことでいかがでしょうか。」やむなく納得する白川。立ち去ろうとする三人だったが、優也を引き留める。「ちょっといいかしら。あなたが瀬西さんの赤ちゃんのお父さんよね。」優也は臆することなく答える。「はい。その通りです。」「事情は深くは知らないけどね、あなたも父親になるんだから、それなりの自覚をもちなさい。ただでさえ高齢での初産なんだから。」「はい。」覇気のない返事。これ以上追及しても無駄なので、とりあえず三人には帰ってもらった。院長室に戻った高畑は椅子に座るや、何かを思い立ち、傍にあった週刊誌の束を掴んで読み耽った。「愛か没落か。未成年と中年男女の逃避行・・・か。ん、もしや。」再びパソコンに戻り、患者情報やカルテに目を通した。「まさか。・・・」彼女も大体の察しはついたようである。・・・続く。


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