コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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恋桜 [Cherry Love]  ——完結——
日時: 2013/09/16 17:34
名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)

おはようございます、こんにちは、こんばんは!

華憐というものです。

今回は恋愛ものを書こうと思い、スレを立ち上げさせていただきました!

行き当たりばったりの小説になるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。

ちなみに、3つほど記事を消去したことがあるため、記事番号が多少ズレております。ご了承ください。


【お客様】
・莉緒那様
一番最初にコメントをくださったお客様です♪
・くろねこ様
感動の言葉の数々、ありがとうございます☆
・あるま様
ゴマ猫樣と合作して素晴らしい作品を書き終えた素晴らしいお方です\(^o^)/
・ゴマ猫様
いつも応援して頂いているお客様です!!励みになっております(*^^*)
・修羅様
素晴らしい作品を執筆中のお客様です!!恋桜を見てくださってありがとうございます(ToT)
・夕衣様
久しぶりのお客様です♪徹くんと真奈ちゃんペアがお気に入りなのでしょうか……?

【登場人物】
>>1

【本編】
*プロローグ
視点なし >>2

*第一話...桜並木
真奈side >>3
徹side >>6

*第二話...宣戦布告
真奈side >>12
凜side >>15
徹side >>18

*第三話...思惑が交差する入学式
真奈side >>22 >>27 >>30 >>34 >>36-37
美樹side >>44 >>46-47 >>50-53

*第四話...中間テスト
真奈side >>54-59 >>61-62 >>68-72
徹side  >>73

*第五話...修学旅行
真奈side >>75-76 >>79-88 >>92-94 >>96-97
>>102-103 >>105 >>108 >>110 >>112-113 >>118

*第六話...水辺に咲く花
真奈side >>120 >>122 >>124-127
徹side >>128
凜side >>129
美樹side >>130

*第七話...誰かを想う、その果てに
真奈side >>132 >>134-135
凜side >>136
美樹side >>137
徹side >>138

*第八話...お誘い
真奈side >>139-142 >>145
亮side >>148

*第九話...体育祭
真奈side >>151 >>155-159 >>161-164 >>169-173

*第十話...お月見(最終回)
真奈side >>176-177

*第零話...あとがき
作者side >>178

【番外編】
参照500突破記念
*甘いモノにはご注意を。 >>115

参照1000突破記念
*いい天気になりそうね。 >>181-183

【TALK】
>>63 >>89 >>167

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Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.138 )
日時: 2013/08/01 10:44
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

*徹side*

『そ、そんな無理よ!』

そんな綾川さんの声が電話越しに聞こえたのを最後に、ただ虚しい機械音だけが聞こえてきた。

「怒らせてしまったのか、な……」

俺は手の中のスマホを見つめながら言うと、兄が笑った。

「何?好きな子にでもフラれたの?」
「そんなんじゃないよ。それよりも兄さん、いつからいたのさ?」
「んー、徹が電話掛けるところから、かな?」
「それ、全部じゃん」
「そういうことだね。それよりも徹」
「何?」
「女の子が喜びそうなものって何か分かる?」
「いや、分かんないや。彼女さんの誕生日?」
「そうそう。明々後日が麻那の誕生日なんだ」
「……前々から気になってたんだけど」
「何だい?」
「どうしてマナって人ばっかりと付き合ってるの?」

その質問に兄は驚愕したようだったが、すぐにいつも浮かべている笑顔に戻った。

「そんなのたまたまだよ。僕が好きになる女の子がたまたま”マナ”って名前なんだよ」
「……そっか」
「それがどうかしたのかな?」
「なんでもない」
「そう」

そう言って、兄は自室へと戻って行った。やっぱり、兄さんが……。やめよう。そんなこと考えたって仕方ないじゃないか。今は綾川さんと凜、あと美樹の恋心がどう動くかだよ。まさか、本当に凛と綾川さんが付き合ったりなんてしたらどうしよう?俺、3か月ほど、立ち直れないな。いや、もっと長期間かもしれない。とそんなことを思いながらその日は過ごした。

——翌日

今日の朝はやけに目覚めが良かった。気味が悪いくらいに。

「おはよう」
「おはよう、徹」

とまず兄が。

「おはよう、徹ちゃん」

と次に母が。

「おはよう」

と最後に父が言った。

「今日は何か予定でもあるの?徹ちゃん」

母は朝食を俺に出しながら問う。

「いいや、特にはないと思うけど……どうして?」
「いや、あのね……」

そう言ってもごもごと口籠る母。

「どうしたのさ」
「実は亮ちゃんが今日彼女さんを連れてくるって言うのよ」
「別に大した問題じゃないんじゃ……」
「大きな問題よ!母さん、専業主婦だというのに今日に限って友達とご飯を食べに行く約束をしてしまったのよ!?それに、斗真さんは会社だし」

ちなみに斗真というのは俺の父であり、一家の大黒柱でもある。

「別に兄さんが彼女を家に連れてこようが連れてこまいが俺には関係な……」
「違うの!母さんは、亮ちゃんに童貞でいてほしいの!!」

鼻息を荒くして言う母に一家全員で目を点にした。そして暫くした後、自分が大変な発言をしたことに気付いた母はいそいそと自分の部屋へ行き、着替えて家を発った。

「び、びっくりしたなあ。今の発言は」
「ははは、兄さんのことを心配してるんだよ」
「全く雪菜は進歩がない」

雪菜というのは俺の母であり、我が家族を陰ながら支えてくれる人だ。

「父さん……」

兄は遠い目をしてそう呟いた後、朝食の席を立った。そしてリビングから出て行く際にぽそっと呟いた言葉を俺は聞き逃さなかった。

「もう僕は童貞じゃないんだよ、母さん」


朝食から何時間経っただろうか。そろそろお腹が空いてきた。時計を見ると、13時を回っていた。

「そろそろ昼ご飯を食べないとね」

俺は座っていた席から立ち上がり、自室の扉を開けようとした。その瞬間だった。玄関の扉が開く音がした。兄の声の後に聞いたこともない女の子の声が聞こえてきた。どうやら上手くいっているようだ。

「参ったな。これじゃあ、リビングへ行けない」

俺は再び椅子に座り、考える。そして何気なくスマホの方を見てみると、着信が。

「誰だろう?」

ディスプレイを見ると、なんと”浅井凜”の文字が表示されていた。電話番号を交換はしていたものの、電話したことも電話が掛かってきたことも無かったので、とても驚いた。

「もしもし」
『もしもし徹?』
「そうだけど、どうしたの?珍しいね」
『いや、結果報告をしようと思ってな。一応、お前はライバルだったわけだし』
「ライバルだった、ってことは決着がついたんだね」
『ああ。結論から言うと……玉砕だ』
「……そっか」
『……』
「何?慰めてほしいの?」
『ち、違う!』
「そうか。慰めてほしいのか。いいよ。慰めてあげるよ」
『だからいいって!』
「それじゃあ、違う言葉をプレゼントしよう。……凄いね」

俺は感情をこめて、最後の言葉を言った。心からそう思っている。凜を尊敬している。好きな子に気持ちを伝えるというのは、相当な勇気がいるはずだ。生憎、俺は綾川さん以外好きになったこともないので、告白なんてしたこともないのだが。

『またバカにしてんのか?』
「これは違うよ」
『これはって……今までのを認めたな?』
「かもね」
『本当お前って嫌な奴だな。でも、まあ……そんなお前だから俺も付き合ってられるのかもしれねーけど』
「やっと俺の凄さが分かったの?」
『誰もお前のことを褒めてない』
「え?そうなの?明らか褒めてたくない?」
『褒めてない。褒めた本人が言ってるんだから褒めてない』
「あ!今褒めた本人って自分で言ったよ!?」
『そんなはずはない!とにかく褒めてないんだ!』

こうしていつものやりとりが始まった。最初の頃は本当に蹴落とすつもりで嫌味を言っていた。恐らく凜だって同じだっただろう。でも、いつしかこれが友情のような気がしてきて、凜と言い合うのが楽しくなった。多分今の俺と凜の関係は世間で言う、親友なのだろう。

「まあ、とにかく俺に席を譲ってくれてありがとう」
『誰が譲ると言ったんだ?』
「へ?」
『俺はいつだって真奈を迎えに行く準備は出来てるんだ。お前がもたもたしてるんだったら、真奈を連れ去るからな』
「ええ!?フラれたのに!?」
『痛いところ突くな!そういうわけだから、それじゃあな!』

凜の声が途切れたと思ったらすぐに機械音が聞こえてきた。

「いやー、まだまだ俺も油断できないってことだね」

俺はそう言って小さな笑みを零すと、ベットに突っ伏した。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.139 )
日時: 2013/08/01 13:52
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

第八話 【お誘い】

長かった夏休みが終了し、私たち学生は本業の勉強がまた始まった。

「……ということなのでXを左に移行して答えを導きます。はい、では次の問題に行きます」

流れるように進んでいく数学の授業。この先生の声はまるで子守唄のようで、すぐに眠くなってしまう。そのため、この授業では大半の生徒が眠りの国へ招待されてしまうのだ。全く、罪な先生だ。そしてそんなこんなでようやく授業終了のチャイムが鳴る。

「はい、それでは今日はここまでにします。課題は問題集の52ページまでやっておくことです」

皆、先生の言葉など耳を貸さず、思い思いに伸びをしている。しかし、数学の先生はこの光景に慣れているのか、微笑ましげにクラスの光景を見つめた後、教室を去って行った。

「ねぇ、真奈〜」
「美樹」

美樹が”さっきまで寝てました!”と思い切り顔に書いたような表情で私の所へやってきた。

「次音楽だって〜。行こ〜」

いつもより語調が穏やかで、間延びしているような気がする。

「分かった。ちょっと待ってて。ロッカーから教科書取って来るね」

私はそう言って席を立ち上がると、自分のロッカーへと向かった。すると、偶然にも逢坂くんに遭遇した。

「おはよう、綾川さん」

相も変わらず逢坂くんは、噂の爽やか王子様スマイルを振りまいている。いや、本人が無意識にやってるだけなのだが。

「おはよう」
「さっきの数学の授業、寝てなかったの俺と綾川さんと凜だけだったよ」
「そうだったの。ていうか、何でそんなの観察してるの」

私は笑いながら言うと、逢坂くんは照れ笑いを浮かべながら言う。

「いやー、趣味ですよ趣味」
「嫌な趣味ですねー。悪趣味って言うんだよ?」
「綾川さんに言われると余計に傷つくなあ」
「え!?ご、ごめん」
「冗談」

そう言って、可笑しそうに笑う逢坂くん。この時間が永遠に続けばいいのに……。そんなことを思っていると、私の帰りが遅いためか、心配してロッカーの方まで見に来た美樹が私に声を掛けた。

「真奈〜行くよ〜?」

丁度扉の死角になって逢坂くんの姿が見えないらしい。普段の美樹なら「どうぞお構いなく続けてください」とニヤニヤしながら言いそうなものだ。

「は〜い。今行きます〜」

私は逢坂くんに別れを告げると、歩き出した美樹を追いかけた。

——LHR終了後

「今日も一日お疲れ様!」

そう言って美樹がオロナミンBを私に差し出しながら言った。

「いや、あの私には部活と言うものが……」
「そういえば真奈はバトミントン部だったね!」
「その幽霊部員みたいな言い方やめてください」

私は笑いながら言った。

「え?でも、浅井とのことがあった時ってずっと家に居たんじゃ……」
「あれは体調不良って言って休んでただけだよ。その他は毎日行ってた」
「そうだったの!?このあたしとしたことが……情報不足だった」
「いや、そこの情報要らないでしょ」

そんなことを言っていると、優那が迎えに来た。

「真ー奈!部活行きましょ!」
「はーい。それじゃあ、バイバイ」

私は美樹に手を振って、優那と共に部活に参加した。

「今日はスマッシュの練習しまーす」

先輩の声が体育館に響く。もっと先輩は怖いものかと思っていたけれど、そうでもなかった。

「真奈ちゃん!あたしと練習してくれない?」
「違うわよ!真奈ちゃんは私と練習するのよ」
「だって恵利はこの前一緒にやってたじゃなーい」
「それを言うなら麻衣香もでしょ?あたしなんて一回もやったことないわよ〜」

そう、なぜかいつも私の取り合いが先輩の中で始まるのだ。

「あ、あの先輩……?」
「真奈ちゃんはあたしと組むわよね!?」
「私と組むでしょ?」
「いいえ、あたしと組むでしょ!?」
「じゃ、じゃあ、”どれにしようかな”で決めます」

先輩の視線が一気に集中するのを感じながら、私は始めた。

「どれにしようかな天の神様の言うとおり」

私が指差したのは麻衣香先輩だった。

「やった!」

麻衣香先輩が軽く1メートルくらいジャンプした。

「運に見放されたわ……」

そう言って、恵利先輩は分かりやすい挫折のポーズをとる。それを宥める様に他の先輩方が慰める。

「な、なんかすみません……!」

私がおどおどとしていると、先輩の表情がどんどん緩んでいく。まるで「幸せ」とでも言うが如く。

「あの……」

私がそう言うと、先輩方ははっと我に返る。

「思わず天使の微笑みに見惚れてしまった」
「あたしも。もしかすると真奈ちゃんに出会うためにあたしは生まれてきたのかもしれない」
「女子バトミントン部にいてよかった〜」

なぜかそんなことを口々に言う先輩たち。私は訳が分からず、取り敢えず練習をしましょうと声を掛けた。

——3時間後

「ありがとうございました!」

女子バトミントン部員の声が一斉に体育館中にこだまする。ようやく部活動が終了したのだ。しかし1年生はまだまだ帰れない。後片付けをやるのも下級生の務めだ。

「真奈〜」

優那がふらふらした足取りで私に近づいてきた。

「どうしたの?」

私はネットを畳みながら尋ねる。

「先輩に真奈のメーアド教えて頂戴って言われて、本人の確認なしでは渡せませんって断ったら追いかけまわされて……」

優那って何気に凄い度胸の持ち主なんだなあ。先輩に刃向うだなんて。
そんなことを思っていると、本当にぱたりと倒れて大の字になった。

「だ、大丈夫?」
「うん。ちょっと休憩」

そう言って笑う優那。本当に可愛らしい。そういえば、石島くんとは上手くいってるのだろうか?

「ねえ、優那?」
「んー?」
「石島くんとはどうなの?」
「啓太と、ど、どうなのとは?」

少し挙動不審になり始める優那。何かあったのだろうか。

「上手くいってるのかなーと」
「う、上手くいってるんじゃないかな?えへ、えへへへへ〜」

わざとらしい笑いを浮かべる優那。これは何かありそうだ。

「そっか、よかった〜」

私はそれだけ言うと、折りたたんだネットを体育館倉庫へと運んだ。

——帰宅後

「ただいま〜」
「おかえり」

母が私を出迎えてくれた。

「先にお風呂に入っちゃいなさい。汗、気持ち悪いでしょ?」
「うん」

私は頷くと、自室へと向かった。そしてお風呂の準備をした後にスマホを確認。すると、美樹から連絡が。しかも56件という尋常ではない数だ。

「どうしたんだろう?」

私は不思議に思いながらメールを開けると、本当に大変なことが書いてあった。まさに情報屋にしか仕入れられない情報がそこにはずらりと並んでいた。


Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.140 )
日時: 2013/08/01 13:54
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

私はお風呂の準備を投げ捨てて、急いで美樹に電話を掛ける。

『もしもし?』

昼寝でもしていたのだろうか。眠そうな声が受話器の向こうから聞こえる。

「あ!美樹?真奈だけど……」
「あ〜!メール見たのね!」

急に元気になった様子の美樹。

「そんなお気楽ごとじゃないでしょ!」
「え〜?そうかな?すっごい面白いじゃん」
「性格悪いよ〜」
「元からです」

そんな会話を続けるうちに、いよいよ本題に入った。

「あれ、本当なの?」
「この私(わたくし)がデマを掴むはずがないでしょう?」
「そ、それもだけど……藤崎先生がそんなことするとは思えないよ」
「どうかな?藤崎だよ?あの醜いおっさんだよ?女子高生に目が眩んじゃうことだってあるでしょ」
「……なるほど」

そんな理由で納得してしまう私も私だが、実際にそうなのだ。藤崎先生、本名藤崎信吾は私達高校1年生の古典担当だ。そしてセクハラおやじでもある。入学当初というよりも今もだが、私は常に纏わりつかれている。美樹も同じようだ。……どうやら美少女がお好みならしい。別に私自身は美少女だと思っていないので、なぜ藤崎先生のお好みリストに入っているのか疑問なわけだが。

「とうとう彼氏持ちの女子高生に手を出すとは……汚いねえ」

美樹が表情の読めない声でいう。

「石島くんはそれを知ってるんだよね?」
「恐らく。というか絶対ね。そうじゃなきゃ、優那のこと無視しないでしょ」
「う〜。優那可哀想。被害者なのに……」
「多分石島も心ではわかってるけど、優那が大事すぎて嫉妬してるだけなんだと思うよ?」
「でもこのままじゃ破局なんてことも有り得るわけだし」
「それもそうね。それはちょっと駄目だな」
「あ!」
「何?」
「良いこと思いついたよ!」
「どうしたの?」
「メールに書いてあったような行為をしたのであれば、藤崎先生を牢獄送りにすればいいじゃん」
「……可愛い顔からさらっとそんな言葉が出てくるとは」
「ん?」
「何でもない。そうか、それも1つの案だね。優那に言ってあげればいいか。よし、そうしよう。後はあたしに任せて!」
「うん。じゃあね」
「はいよ〜」

こうして私達の通話は終わった。凜とのことがあってから、私と美樹の仲は引き裂かれてしまうのかな、なんて考えたこともあったけれど、そんなことはなかった。やっぱり本物の友情は何があっても千切れることはないんだね。私は一人微笑んでいると、階下から母の声が。

「真奈〜?お風呂は?」
「はい、今行きます〜!」

私はそう返事してお風呂へと向かった。

——翌々日

朝起きて、何気なくニュースを見ていると特報が入った。

『特報です。昨日、午後9時頃、桜田高校1年の古典を担当していた藤崎信吾容疑者がわいせつ等の罪で逮捕されました。警察によると……』

現場まで取材に行ったりして、かなり大事になっているようだ。

「今日、学校あるのかな〜」

ちょっと学校がないことを期待してみたり期待しなかったり。

「どうだろう?あるんじゃない?」

母が最も現実的なことを言ったその時。固定電話に電話が掛かってきた。たまたま1番近くにいた私が受話器を取る。

「はい?綾川ですが」
『もしもし?桜田高校1年の浅井凜ですが』
「あー、凜」
『真奈か』
「うん。どうしたの?」
『今テレビ見てるか?』
「うん。藤崎先生逮捕だってね」
『そうそう。それなら話が早い。今日、学校は休みだ』
「え!?なんで!?」
『学校側もそれに対応するのに忙しいらしい。それに今日は金曜日だからたまには学生に3連休を、だってさ』
「そっか。それじゃあ、次の名簿の人に電話を掛ければいいの?」
『そうだ。よろしく頼む』
「了解。じゃあね」
『おう』

電話を終了したあと、連絡網を取りだし、次の名簿番号の人に伝言を回した。それを回し終わったあと、母にVサインを出した。

「お母さんに勝っちゃいました〜」
「あらら、私、負けちゃいました〜」

そんな暢気な会話をしていると、今度は私のスマホに連絡が。次は何だろう?とスマホの表示を見ると、”逢坂徹”の文字が。

「な、なんで逢坂くん!?」

私がスマホを持ちながら動揺していると、母からの痛い一言。

「好きな人?」

その目でいうの、止めてください。もうあなた、40代後半のアラフォーですよ?私がそんなことを思っていると電話が切れてしまった。

「あ……」

気付いた時には通話料金0円としか表示されていなかった。

「やっちゃった〜」
「もう!お母さんのせいでもあるじゃない」

私がむっとしながら楽しそうに言う母を睨むと、母は微笑んだ。

「いいじゃない。若人よ青春を謳歌せよってね」
「クラーク博士のパクリじゃん」
「ばれた?」

そう言って無邪気に笑う母。どうやら今日は午後出勤ならしい。時間に余裕がある様子だ。

「それよりもその逢坂くんって男の子にコールバックした方がいいんじゃないの?」
「あ、そっか!」

私は今更気づいたことに恥じながら、自室へ戻って電話を掛けなおした。するとワンコールで逢坂くんは電話に出た。

『もしもし、綾川さん?』
「うん。さっき電話取れなくてごめんね」
『あー、いいよいいよ』
「何か急ぎの用事だった?」
『あ、いや、その……』

口籠る逢坂くん。何かあるのだろうか。

『もうすぐ俺の母さんの誕生日なんだ』
「う、うん」

と、唐突だね、逢坂くん。なんて言えずに心の中に閉まっておく。

『それでさ、綾川さんに一緒に選んでほしいな〜と思って』
「私なんかでいいの?」
『寧ろ綾川さんだから頼んでるんだけど?』

その言葉で赤面しそうになりながらも、何とか抑える。と言っても電話なのだから逢坂くんにはばれないのだが。

「分かった。うん、一緒に行く」
『本当!?ありがと!』

無邪気に笑う逢坂くんの顔が想像できる。

『じゃあ、駅に13時集合で』
「分かった!じゃあ、また後でね」
『じゃあね』

電話が切れる音がした。そしてそれを確認した私は急いで母に報告する。

「お母さん!!」

私が物凄い勢いでリビングの扉を開けたせいか、座っていた母が数センチほど跳び上がった。

「今日!出掛けてくる!お昼はここで食べるけど!」
「あらあら。逢坂くんからのデートのお誘い?」
「デート?私はただ、逢坂くんのお母さんの誕生日プレゼントを一緒に選ぶだけなんだけど……」
「まあ、初々しい理由だこと!真奈、それをデートと言わずしてなんと呼ぶの?」
「え……」

思いもがけぬその響きに私は硬直する。

「ほらね?デートよ、それは」

有り得ないよ、そんなわけない!この私が逢坂くんにデートに誘われるわけがないよ。ただ友達だから一緒に選んでほしいって言われただけだよ。そう。そうだよ!もう、お母さんってば変なこと言わないでよね。

「何1人で頷いてるの?」
「何でもない。とにかく出かけます!」
「はいはい」

母は少し呆れた顔でそう笑った。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.141 )
日時: 2013/08/01 10:46
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

13時の15分前に駅に来たはずだったのに……駅には逢坂くんが居た。しかもたくさんの女の子に囲まれて。

「ねえ。あたしとメーアド交換しない?」
「今から一緒に遊ぼうよ〜」
「どこの学校なの?」

その中心で逢坂くんは苦笑いをしながら丁寧に断っている。

「ごめんね。見ず知らずの人に個人情報は渡せないんだよ」
「ごめん。先客がいるんだ」
「秘密」

私はその様子を呆然と眺める。別に嫉妬してるわけじゃないのよ?元から逢坂くんがモテるのは知ってたし、今更って感じだけど、なんだかむしゃくしゃするの……。私は鞄の肩ひもをきつく握りしめた。いっそ、急用が入ったって言って、ここには居なかったことにしようかな?と思い始めた頃に、ようやく逢坂くんが私に気付いた。

「綾川さん!」

人波を掻き分けてこちらに向かってくる彼は入学式の時のクラス替え発表を見に行って来た時のような、同じ目をしていた。

「ごめん!待たせちゃったね」
「ううん。逢坂くんのほうが先に来てたみたいだし……」

私はそう言い終える前にふいと顔を逸らしてしまった。これじゃあ、本当に嫉妬してるみたいじゃない。逢坂くんの彼女でもないのに。

「ああいうのはよく居るからもう慣れてるよ。それよりも綾川さんが変な男に囲まれなくてよかったよ」
「え?」
「この時間は女性が多いみたいだね。よかったよかった。それじゃあ、行こうか」

そう言って逢坂くんは私に切符を渡す。私はそれを何気なく受け取ったが、代金を払っていないことに気付く。

「だ、駄目だよ逢坂くん!」
「ん?なにが?」
「代金も払ってないのに切符をもらうだなんて出来ないよ」
「そんな固いこと言わないの〜。数百円くらい奢らせてよ」
「で、でも……」
「それじゃあ、わざわざ今日綾川さんに来てもらったお礼。これならいいでしょ?」
「……うん」
「ほら、行こう」

私は逢坂くんに手を引かれて駅のホームの中へ入った。女性の視線が一気に逢坂くんと私に注がれているのがわかる。

「いやー、注目されてるねー。なんか面白い」

彼はこの状況を楽しんでいるようだ。

「面白くないよー」

私は頬を膨らませながら言う。すると逢坂くんは頬を突いてきた。

「わー、ぷにぷにしてるー」
「それ、太ってるってこと?」
「そんなわけないよ。可愛いってこと」
「か、かわ!」

私が思わず頬を染めると、タイミングよく電車がやってきた。

「これに乗ろう」

逢坂くんはすぐに頬を突く手を止めて歩き出した。私は慌ててそれについていく。そして電車に乗り、辺りを見渡した。昼間の所為か、かなり人が少なかった。ぽつぽつ座っているというような感じだ。

「空いてるねー!ラッキーだよ、俺たち」

そう言いながら逢坂くんは私の肩を押して、近くの席に私を座らせた。
そして、隣に逢坂くんが座った。思った以上にドキドキする。

「そういえばこの間凜ってば面白かったんだよ?」
「凜が何かしたの?」
「そうそう。部活終わりに一緒に帰ってたらさあ……」

こうして始まった逢坂くんのトーク。とても話し上手で、電車の中にも関わらず腹を抱えて笑いそうになった。何とか抑えたが。

『次は水雅咲〜、水雅咲です。お降りのお客様は忘れ物にご注意ください』
「お!もう着いたのか〜。楽しい時間はあっという間だね」
「そうだね」

私達が立ち上がるのと同時に電車は停止し、扉が開いた。私達は笑顔で扉を潜った。これから待ち受ける出会いにも気づかずに——。


「分かり易いんだよね」

真奈と徹の後に電車を降りた青年は帽子を目深く被りながら呟いた。

Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.142 )
日時: 2013/08/01 11:39
名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)

「わあ!初めて来た〜!!」
「そうなの?」
「うん!ここ、去年建ったばっかりでしょ?」
「確かそうだったような……」
「去年は受験だったし」
「ああ、そっか」

そう言いながら、私達はショッピングモールの中へと入って行く。そして入った瞬間に、あまりの人の多さに驚く。

「こ、こんなに人が……!」
「もしや綾川さんは人が多いところ苦手?」

逢坂くんが心配そうに私の顔を覗くので、私は右手をぶんぶんと振って否定した。

「う、ううん!そういうわけじゃないの。ただ3駅違うだけでこんなに違うんだなあと」
「そういえばそうだね。桜田駅周辺何て田舎だもんね」

可笑しそうに逢坂くんがクスクス笑う。

「まあ、取り敢えず逢坂くんのお母さんのプレゼント、探そう?」

私がそう言って逢坂くんの方を見ると、一瞬固まった。

「え……?母さんのプレ……あ、ああ。それね!うん、探しに行こう」

どこかぎこちない笑みを浮かべながら歩き始めた彼。んー、忘れてたのかな。と呑気な事を思いながら私も彼の後を追った。

「見て!これなんかどう?」
「本当だね、可愛いね〜」

私がショウウィンドウに張り付くようにしてスカーフを見る。どれもこれも高級そうだ。そもそも逢坂くんのお母さんってどんな感じなんだろう。

「ねえ、逢坂くん」
「ん?どうしたの?」
「逢坂くんのお母さんってどんな人なの?」
「どんな人?んー、天然で後先あまり考えずに行動するって感じかな?あ、写真あるよ」

そう言って逢坂くんはズボンのポケットからスマホを取り出して、私に写真を見せた。

「すっごい綺麗な人だね〜」

私は感動しながらその見せられた写真をまじまじと見る。口元がとても逢坂くんとそっくりだ。

「ありがとう、よく言われるよ。名前は雪菜って言うんだ」
「ぴったりだね!」
「そう?」

そう言いながら逢坂くんも私と並んで写真を見る。ん?並んで?私は思わず右隣に並んでいる逢坂くんの横顔を凝視してしまう。ち、ち、近すぎです!私は一人でそんなことを思いながら慌てていると、彼がスマホを閉じてポケットに仕舞った。

「美人な雪菜お母さんに似合いそうなもの、似合いそうなもの〜」

私はそう呟きながら、あれこれ店を覗く。あんなに美人ならなんでも似合うだろう。でも、やっぱり一番似合うものを逢坂くんからあげてほしい。

「雪菜お母さんは何か趣味とかあるの?」
「趣味か〜。そういえば聞いたことないなあ」
「あんまり話さないの?」
「いや、そういうわけじゃないよ。いっつも面白い事言うから笑って忘れてしまうんだよ」
「へえ。楽しそうな家族ね」

私が逢坂くんの家庭を想像しながら思わず笑みを零すと、逢坂くんも笑顔で返してくれた。

「うん、楽しいよ」
「やっぱり家族は一緒にいて楽しい存在じゃないとね!」
「綾川さんの家族はどんな感じなの?兄弟とかは?」
「兄弟はいないの。一人っ子!まさに現代でしょ〜?駄目だよね〜、お母さん」

私はクスクス笑いながら言った。

「でも私のお母さんはね、雪菜お母さんとは違うけど、面白いんだよ?」
「そうなの?」
「うん。弁護士やってて朝とかしか会えないときもあるけど、面白いの」
「そっか。知的な方での面白さなんだね」
「うん」
「母さんは専業主婦だからなあ」
「あ、そうなんだ」
「うん」

こうして家族について語っていると、良さそげな店が。

「あの店はどうかな?」
「あそこ?行ってみよっか」

私たちが向かった先は手芸屋さんだった。重そうな扉を開けると、

「いらっしゃいませ〜」

と品の良い女性店員の声が店内に響く。内装はとても落ち着いた感じで、ダークブラウンで統一されている。そして家具もアンティークで統一、という風にどこか高級感がある。

「雪菜お母さん、趣味ないなら趣味をあげたらいいんじゃないかな?」

私が逢坂くんに提案する。

「趣味をあげる?」
「そう。刺繍なんかどうだろう?」

私はそう言いながら、近くにいた店員さんに尋ねる。

「あの、40代くらいの女性に人気の刺繍キットとかありますか?」
「ございますよ?どうぞこちらへ」

そう言って、その店員さんは店の奥へと進んでいく。私と逢坂くんは顔を見合わせてその店員に付いて行った。

「こちらです」

店員はキットがずらりと並んでいる棚の中の一部を示すと「ごゆっくり」と言って立ち去った。

「一口に人気と言っても一杯あるんだね〜」

私は感心しながらキットを見る。

「こんな所初めて来た」

逢坂くんは物珍しそうに店内を見る。

「ふふふ、そうだろうね」

私は小さく微笑みながら、気になったキットを棚から抜き取った。

「これはどう?雪菜って名前にぴったりじゃない?」
「本当だね、それにしよう。値段も予算内だし」
「うん」

私は頷きながらその商品を逢坂くんに渡す。

「母さん、喜んでくれるといいな」

逢坂くんは少し表情を綻ばせながら会計へと足を運んで行った。私はそれを嬉しく思いながら、ふと今何時だろう?と気になって時計を見る。すると、なんともう17時になっていた。特に私の家に門限があるというわけではないのだが、あれからもう4時間も立ったということに驚きを感じた。こんなに長い間逢坂くんと一緒に居たんだ。そう思うと自然と顔が火照ってくる。
『ほらね?デートよ、それは』
お母さんの言葉が思い出される。その前の下りを思い出していくうちに、逢坂くんに初め私が声を掛けたときの反応の理由が分かったような気がする。
『まあ、初々しい理由だこと!真奈、それをデートと言わずしてなんと呼ぶの?』
『え……?母さんのプレ……あ、ああ。それね!うん、探しに行こう』
まさか逢坂くんが私と買い物行きたかっただけなんて訳あるまいし、というか私なんかよりももっといい女の子だっていっぱいいるし、逢坂くんなら選り取り見取りだし……。と考えているとお会計を済ませた逢坂くんが戻ってきた。

「よし、もう17時だし帰ろうか」
「そうだね」

こうして私達は店を出た。そして数歩進んだ瞬間、逢坂くんの顔色が悪くなった。

「どうしたの?」
「え、いや、なんでもない」
「そう?顔色悪いけど?」
「大丈夫。もうすぐしたら治るよ。それよりも早くここを……」

逢坂くんがなぜか焦って私の背中を押し始めたとき、背後から男の子の声が掛かった。私にではなく、逢坂くんに。

「徹!なーにしてるの?」

逢坂くんは恐る恐ると言った感じで後ろを振り返る。私もそれにならって振り返った。すると、そこには逢坂くんにそっくりな青年が微笑みながら立っていた。


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