コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 恋桜 [Cherry Love] ——完結——
- 日時: 2013/09/16 17:34
- 名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
華憐というものです。
今回は恋愛ものを書こうと思い、スレを立ち上げさせていただきました!
行き当たりばったりの小説になるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
ちなみに、3つほど記事を消去したことがあるため、記事番号が多少ズレております。ご了承ください。
【お客様】
・莉緒那様
一番最初にコメントをくださったお客様です♪
・くろねこ様
感動の言葉の数々、ありがとうございます☆
・あるま様
ゴマ猫樣と合作して素晴らしい作品を書き終えた素晴らしいお方です\(^o^)/
・ゴマ猫様
いつも応援して頂いているお客様です!!励みになっております(*^^*)
・修羅様
素晴らしい作品を執筆中のお客様です!!恋桜を見てくださってありがとうございます(ToT)
・夕衣様
久しぶりのお客様です♪徹くんと真奈ちゃんペアがお気に入りなのでしょうか……?
【登場人物】
>>1
【本編】
*プロローグ
視点なし >>2
*第一話...桜並木
真奈side >>3
徹side >>6
*第二話...宣戦布告
真奈side >>12
凜side >>15
徹side >>18
*第三話...思惑が交差する入学式
真奈side >>22 >>27 >>30 >>34 >>36-37
美樹side >>44 >>46-47 >>50-53
*第四話...中間テスト
真奈side >>54-59 >>61-62 >>68-72
徹side >>73
*第五話...修学旅行
真奈side >>75-76 >>79-88 >>92-94 >>96-97
>>102-103 >>105 >>108 >>110 >>112-113 >>118
*第六話...水辺に咲く花
真奈side >>120 >>122 >>124-127
徹side >>128
凜side >>129
美樹side >>130
*第七話...誰かを想う、その果てに
真奈side >>132 >>134-135
凜side >>136
美樹side >>137
徹side >>138
*第八話...お誘い
真奈side >>139-142 >>145
亮side >>148
*第九話...体育祭
真奈side >>151 >>155-159 >>161-164 >>169-173
*第十話...お月見(最終回)
真奈side >>176-177
*第零話...あとがき
作者side >>178
【番外編】
参照500突破記念
*甘いモノにはご注意を。 >>115
参照1000突破記念
*いい天気になりそうね。 >>181-183
【TALK】
>>63 >>89 >>167
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- Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.133 )
- 日時: 2013/07/29 09:19
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
あげ
- Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.134 )
- 日時: 2013/07/30 07:43
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
私と凜が出会ったのは幼稚園の入園式だった。
『…終わります。皆さん立ってくださ〜い』
マイク越しに誰かの声が聞こえる。確か園長先生のはずだ。
『これにて入園式を閉式とさせていただきます』
こうして入園式は終わった。当時の私は入園式とは一体何なのかよくわからなかったので、大変つまらないものだった。
「真奈?ちょっとお外で遊んで来て?母さん、ちょっとここの人とお話しなくちゃいけないの」
「うん!分かった!」
私は頷くとすぐに、母の言う通りにグラウンドへと出た。今思えば大変小さなグラウンドだったが、当時はとてつもなく大きく見えた。
「うわ〜!」
私は目をキラキラ輝かせながらたくさんの遊具を見ていると、1つ目に留まったものがあった。それはブランコだった。
「あれ、楽しそう…」
そう呟くとブランコに吸い込まれるようにそこへ向かった。すると、片方は私より前に来ていた女の子が乗っていたので、もう片方に手を伸ばし、鎖をつかんだ途端誰かの手と重なった。振り向くと男の子が私と同じ体制で立っていた。そう、それが——凜だったのだ。
「あ、ごめん!」
私は慌てて手を引っ込めたが、その男の子は無表情のまま
「ん、やるよ。俺、べつにいーし」
と言って、私にブランコの鎖を押し付けて去って行ってしまった。私はお礼を明日言おうと決めて、そのブランコを楽しんだ。
——翌日
昨日私にブランコを譲ってくれた男の子を捜しだし、お礼を言った。そしてそれと同時に名前を聞いた。
「昨日はありがとう」
「別に大したことじゃねーし」
「ううん、ありがとう。あの、あなたの名前は?」
「俺は浅井凜だ。お前は?」
「私は綾川真奈!よろしくね!」
私は笑顔を浮かべて手を差し出した。彼もその手をおずおずと握った。
「ねぇ、凜はどこに住んでるの?」
「俺?あの桜並木の近くだよ」
「嘘!?私も同じ!近いかもね!」
「…実は俺、昨日お前見た。入園式の後」
「そうだったの!?私、全然気づかなかった!」
「そりゃそうだろうな。俺の家とお前の家、5・6軒遠かったし」
「5・6軒?」
「お前そんなのも知らねーのか」
当時から物知りだった凜はそう言ってよく私に自慢したものだ。今ではそんなことは全くない。
「それじゃあ、今日一緒に遊ぼうよ!」
「今日?」
「…駄目?」
「いや、駄目じゃないんだけど…その、俺、女子と遊んだこととか無いから」
「大丈夫!遊ぼう!」
こうして私はその日一緒に凜と遊び、意外と気が合うことが分かった。それからというもの、毎日、日が暮れるまで凜と遊んだ。そしてその遊び場が……あの桜並木だったのだ。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.135 )
- 日時: 2013/07/30 13:44
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
私は凜との出会いを思い出しながら桜並木を目指して走り続けた。そしてようやく辿り着き、息を整えるために一度目を瞑った。そして、スッと息を吸い込んでゆっくりと目を開けた。私がいる場所から数メートル先に見慣れた人影が立っていた。
「凜…」
「やっぱり、お前ここに来たな」
「始めからここに来ること予想してたの?」
「まあな」
「全く敵わないなあ」
私は小さく笑った。
「なあ」
「…何?」
「そんな強張った顔すんなよ」
そう言って笑う凜。私はただ何もせずにそれを見る。
「分かったよ。話すって。…だいたいのことは徹から聞いてるだろうけど、やっぱり俺の性分としてさ自分で言おうと思ってな。本当はもっとずっと先の予定だったんだが…」
凜は一間置いて言った。
「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」
そう言い終えた後、切なげに私を見つめる凜。私はそんな彼の目を見つめられなくなって目を逸らした途端、凜が私に駆け寄り、強く抱きしめた。
「凜、私は…」
「お前の答えなんて分かりきってる。でも…せめて今くらいは俺を見てくれ。俺だけを…見てくれ」
そう切なげに、涙を堪えたようなかすれた声でつぶやく彼。私は抵抗する気も元々無かったのでそのままの状態で言葉を紡いだ。
「凜。私はね…逢坂くんからこの話を聞いた時に、本当に嬉しかったの」
「え…?」
「だっていつも一緒にいたあのモテモテの凜に好かれるんだよ?そんなの嬉しいに決まってるじゃん」
「だったら…」
「でも、私は気付いてしまったの。この気持ちに。逢坂くんへの気持ちに。私の気持ちに嘘を吐くことは出来ない」
「俺は嘘でもお前が隣に居れくれれば…」
「そんなわけない!私が凜の立場なら、嘘だとわかっているのに彼女のふりをしてほしくない。そんなのでまかせだよ」
「でも俺は!」
「だから凜…私は凜とは付き合えない。ごめんなさい」
私は静かにそう言い終えると、凜の腕からするりとすり抜けた。そして凜と距離を少し置いて向かい合って立った。
「でも凜。私は凜のことが大好きだよ!お兄ちゃんみたいだし…こんなことを言うのはおこがましいのかもしれない。でも私は…ずっと今までの関係でいたいの」
私が今日一番の笑顔を浮かべながら言うと、凜はひとつ溜め息を吐いて笑った。
「わかったよ。そんなに言うなら幼馴染のまんまでいてやるよ。だけど…」
そう言ってまた私との距離を詰める凜。
今度こそ腕には捕まらない…。
と思い、避けようとしたが予想外の場所を引き寄せられた。なんと頭を彼の胸板の方へと引き寄せられたのだ。そしてそのまま額にキスが落とされた。
「徹にふられたら俺が迎えに来るからな」
そう言うと、彼はふっと腕の力を弱め、私に背を向けて歩き始めた。そんな彼の背中を私は見つめていた。
そしてふと言わなければならないと思い出した言葉があった。
「ね、ねえ!凜!」
「何だ?」
凜は首だけをこちらへ向ける。私はあの頃と同じように彼の目を見つめながら言う。
「ありがとう」
——ありがとう。こんな私を好きになってくれて。
——ありがとう。それでもなお迎えに来ると言ってくれて。
——ありがとう。私と出会ってくれて。
たくさんの感謝の思いを胸に、新たな一歩を踏み出そう。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.136 )
- 日時: 2013/07/30 13:46
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
*凜side*
あれ以来、俺は枝下によく相談するようになっていた。彼女が俺に好意を抱いていることを知っていながら、こんなことをするのは彼女にとって、酷な事なのかもしれない。でも、それ以上に俺は自分と真奈のことしか考えることが出来なかった。
「もしもし?枝下か?」
『そうだけど…今日は何?』
「明日であれから1週間経つだろう?」
『そういえばそうね。それがどうかしたの?』
「…このままだと気分が晴れねーだろ?だから、明日真奈に会いに行って、けりをつけることにする」
暫くの沈黙の後、枝下は笑いながら言った。
『何そんなシリアスな感じで言ってんのよ。あたしはあんたの友達よ?…このことは徹から真奈に言ってもらうようにするからあんたは気にしないで』
「悪いな」
『ううん、大丈夫よ。それじゃあ、明日の健闘を祈るわ』
「おう、それじゃあな」
「うん」
俺は枝下が電話を切るのを待ってから通話を終了した。そしてその日は一日中真奈に伝える言葉を考えた後、布団に入って眠りについた。
——翌日
「さーてと、けりをつけるか」
俺は自分を慰めるように独り言を言った。この俺の気持ちを伝えたところで、彼女の答えは決まってる。絶対に「NO」だ。だけど、俺は行く。この気持ちを伝えることが出来ないまま、あいつに…徹に取られるのだけは嫌なんだ。
「でも、絶対真奈のことだし俺と会うのを避けようとするよな?てことは家に行っても無駄。となると、こんな時、あいつの行きそうな場所なんてあそこしかない」
俺は真奈の行きそうな場所におおよその見当をつけると、そこへ向かって歩き始めた。
そこに——桜並木に到着してから何分くらい経っただろうか。見慣れた人影が走って来るのが見えた。ちゃんと確認しなくたって分かる。あれは間違いなく真奈のシルエットだ。
「凜…」
「やっぱり、お前ここに来たな」
「始めからここに来ること予想してたの?」
「まあな」
「全く敵わないなあ」
真奈は小さく笑った。
「なあ」
俺は思い切って話しかけてみたが、明らかに緊張を帯びた面を上げる。
「…何?」
「そんな強張った顔すんなよ」
俺は彼女の緊張をほぐすためにおどけて見せたが、彼女には無効かだったようだ。
「分かったよ。話すって。…だいたいのことは徹から聞いてるだろうけど、やっぱり俺の性分としてさ自分で言おうと思ってな。本当はもっとずっと先の予定だったんだが…」
俺は一間置いて言った。
「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」
こんなクサい言葉、俺、よく言えたな。でも、これが真奈には一番よく伝わるんだ。あいつにはストレートに言わないと全く通じない。今までの経験からこれは確実に言える。
そんなことを思いながら彼女の目を見つめる。彼女の答えは「NO」だ。これも確実に言える。だって真奈は明らかに徹に恋をしていると言える。……それを知っているからこそ、尚更切なくなる。胸が締め付けられるような痛みを負う。そしてそれをさらに加速させるようなことが起こった。彼女が俺から目を逸らしたのだ。俺は耐えきれなくなり、数メートルほどあった距離を一気に0にし、彼女を強く抱きしめた。
「凜、私は…」
腕の中で真奈は言葉を繋げようとする。
「お前の答えなんて分かりきってる。でも…せめて今くらいは俺を見てくれ。俺だけを…見てくれ」
なんて俺は格好悪いんだ。こんな悪足掻き、小学生だってしないぞ?
「凜。私はね…逢坂くんからこの話を聞いた時に、本当に嬉しかったの」
「え…?」
「だっていつも一緒にいたあのモテモテの凜に好かれるんだよ?そんなの嬉しいに決まってるじゃん」
驚いた。少し希望が見えてきたんじゃないかって思えた。
「だったら…」
だけどそれはやっぱり夢だった。幻だった。俺に彼女の気持ちが向くことなんて絶対にないのだ。俺は真奈に幼馴染のレッテルを張られた男なのだから。
「でも、私は気付いてしまったの。この気持ちに。逢坂くんへの気持ちに。私の気持ちに嘘を吐くことは出来ない」
「俺は嘘でもお前が隣に居れくれれば…」
切にそう願う。ただ、俺の隣で真奈には笑っていてほしいんだ。他に何もいらないんだ。例えそれが嘘だったとしても…。
「そんなわけない!私が凜の立場なら、嘘だとわかっているのに彼女のふりをしてほしくない。そんなのでまかせだよ」
「でも俺は!」
「だから凜…私は凜とは付き合えない。ごめんなさい」
真奈は静かにそう言い終えると、俺の腕からするりとすり抜けた。まさに、零れ落ちていくような感覚だった。俺はただ、呆然と向かい側に立っている真奈を見た。
「でも凜。私は凜のことが大好きだよ!お兄ちゃんみたいだし…こんなことを言うのはおこがましいのかもしれない。でも私は…ずっと今までの関係でいたいの」
真奈が笑顔を浮かべながら言う。それに対し、俺はひとつ溜め息を吐いて笑った。
「わかったよ。そんなに言うなら幼馴染のまんまでいてやるよ。だけど…」
そう言ってまた俺は真奈との距離を詰めた。彼女の顔には「もう捕まらないよ?」とでも書いてあるようだった。でも、残念だったな。俺はそこまで単純な奴じゃないんだ。俺はそう思いながら、真奈の頭を俺の胸板に引き寄せた。そしてそのまま額にキスが落とした。初めて間近で真奈に触れられたような気がした。
「徹にふられたら俺が迎えに来るからな」
そう言い終えると、俺はふっと腕の力を弱め、真奈に背を向けて歩き始めた。これで、いいんだ。俺は流れそうになる涙をぐっと堪えながら歩く。すると、真奈に声を掛けられた。
「ね、ねえ!凜!」
「何だ?」
俺は首だけを真奈の方へと向ける。真奈はいつかと同じように俺の目を見つめながら言った。
「ありがとう」
俺はその一言ですべてが報われたような気がした。俺こそ、お前に出会えてよかったと思っている。でも、今真奈に「ありがとう」なんて言わない。これはただの意地なのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。でも確かなのは……俺はこれからも真奈の幼馴染であるということだ。これが良い事なのか悪い事なのか、それはよく分からない。でも今は言える。これが一番最高の結末だった、と。
これから俺は、新たな一歩を踏み出す。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] ( No.137 )
- 日時: 2013/07/30 15:12
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
*美樹side*
あれから、頻繁に浅井から電話がかかってくるようになった。これがまた真奈についての相談だった。嬉しいのか悲しいのかよく分からない。そして今日も電話がかかってきた。
だが、今日の内容は今までと少し違った。
明日自分の恋心にけりをつけるとのことだった。心の中でどうして可能性の低い人にわざわざ想いを伝えるのだろう?と思った。でも、それは言わなかった。電話越しではあるが、彼の真っ直ぐな真剣な目を想像することが出来たからだ。あたしはただ頷いて電話を切ることしかできなかった。そんな情けない自分が嫌になり、一日中自分の部屋にこもった。
——翌日
10時頃に目覚めた。どうやら、夏休みで生活リズムが狂っているらしい。部活にも所属していないため、尚更だ。
「今頃、浅井は真奈に想いを伝えて、フラれてるんだろうなあ。本当バカな奴」
あたしはくすくす笑ってみるが、虚しく部屋に響くだけだった。
「あたし……やっぱり浅井のことが好きなんだ」
そう再認識した。でも、この想いは一生伝えない。だって、フラれるのが目に見えているからだ。だけど、さっきからあたしの気持ちはどこかおかしい。今なら伝えてもいいんじゃないかって気がするの。真奈にフラれたダメージで、もしかすると浅井があたしと付き合ってくれるんじゃないか、と期待しているのかもしれない。例えそんなどす黒い感情を抱いていたとしても、可能性があるのならそれに賭けてみたい。あたしはそう思うと同時に立ち上がって、手元にあったワンピースに着替えて、真奈の家へと向かった。しかし真奈の家には真奈も、そして浅井も居なかった。
「どうしてここに居ないの?」
あたしは泣きそうになる気持ちを抑えて、冷静に考える。他にあの2人がいきそうな場所は……。そう考えた途端、かの有名な桜並木の風景が目に浮かんだ。
「あそこか!」
あたしはそう叫ぶようにして言うと、桜並木を目指した。
「はあはあはあ、はあ…」
息切れを起こして、ふらつく足を何とかその場に留め、辺りを見渡す。すると、真奈の姿が目に入った。
「真奈!」
彼女はゆっくりとこちらを振り返った。
「美樹?」
「そうだよ!あたし!」
「ど、どうしてここに!?」
「伝えたいことがあるの!浅井に!あいつ、どこ行ったの?」
そう尋ねると、真奈は一瞬暗い顔をしたが、すぐに笑顔で答えた。
「凜なら家に帰ったと思うよ?」
「…ありがと!」
あたしはそれだけ言って、駆け出した。すると、真奈があたしに言った。
「美樹!頑張って!」
「うん!」
あたしは大きく頷くと、浅井の家を目指して走り出した。
あれから数分走った後、”浅井”の表札を見付け、慌ててインターホンを押す。すると、40代後半くらいの女性の声が聞こえてきた。
『はい?』
「桜田高校1年の枝下美樹ですが」
『あー、美樹ちゃん。久しぶりね!』
「お久しぶりです。あの……」
『凜ね?今呼んでくるから待ってて』
「はい」
こうして会話が途切れてから数秒後、玄関の扉がゆっくりと開いた。
「何だ?笑いに来たのか?」
凜は自嘲気味に言う。
「ふふふ、そんな訳ないじゃない」
「だったら他に何がある?」
「……もう気付いてるでしょ?」
あたしがそう言うと、浅井は目を見開く。
「やっぱり……だったら、早く伝えちゃうね」
胸が高鳴る。自分のものとは思えないほどに。下手すると受験の時よりも緊張してるかもしれない……。あたしはそんな気持ちを落ち着かせるために、大きく深呼吸をした。そして、言った。
「浅井、あたしはあんたのことしか見えないの。ずっと前から今でもそう。だから……あたしと付き合って」
あたしは祈るように顔を伏せる。暫くの沈黙。しかし、それはすぐに打ち破られた。
「俺もお前と同じなんだ」
「……どういうこと?」
「俺も真奈のことしか見えないし、考えられないんだ」
「それってつまり……」
「ごめん。枝下とは付き合えない。こんな気持ちをずるずる引き摺ってお前と付き合うことは出来ない。だから、ごめん」
そう言って、家に戻ろうとする浅井を必死に引き留める。
「待って!」
「何だ?」
「その、嘘でもいいの!ただ付き合うだけも……」
「ははは」
「何で笑うの?」
「いや、それ、さっき俺が真奈に言った言葉とそっくりなんだよ」
「え……?」
「俺も真奈に嘘でもいいから彼女になってくれ、って言ったんだ。そしたら何て返ってきたと思う?」
「分からないわ」
「……そんなのでまかせだ、って。でまかせでもなんでもないのにさ。こっちだって必死なのに、あいつはそう言ったんだぜ?胸に刺さるよなー」
そう言って笑う浅井。でも、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「でも、あいつの言うとおりだと思うんだ。どんどん欲深くなっていくのが普通だ。自分だけを愛してほしくてたまらなくなる。でも、嘘でもいいと言って結んだ契約なら、そんなこと望んだって無駄なことだ。……逆に苦しいだけなんだよ。だからと言って手放すことも出来ない。……まさに生き地獄さ」
あたしは何も言えなかった。確かにそうだと思った。そのうちに自分を好きになってもらえばいいなんて思ったけれど、そんなことになるはずがない。だって、元々が他の子に向いているんだもの。あたしがその子にならない限り、あたしにその気持ちが向くことは無い。でも、あたしは一生その子にはなれない。……つまり、あたしの恋が叶う率は0パーセントだったということだ。
「本当、泣けてくる。今、あたし達、同じ気持ちを抱いてるんだろうね」
「かもな。でも、だからと言って俺は頷けない」
「分かってる。それじゃあ…あたし帰るね」
「おう。気を付けて帰れよ?」
「うん」
あたしは浅井に背を向けて歩き出した。すると、それを確認した浅井は家の中へと戻って行った。
ガチャン
彼の家の扉が閉まる音がした。その音が聞こえた瞬間、弾かれたようにあたしは走り出した。涙が零れる。すれ違う人があたしの顔を見る度にぎょっとするのが分かる。それでも、涙は止まらず、足も止まらなかった。そしてようやく自分の家に辿り着いた時は、涙でほとんど何も見えなかった。
「ただいま」
あたしが玄関の扉を開けると、お姉ちゃんが出迎えてくれた。
「あんた、何その顔!?」
お姉ちゃんは慌てて冷たいおしぼりと温かいおしぼりを持ってきて、交互に顔を拭いてくれた。そして大分顔のむくみがマシになってきたところで、お姉ちゃんが言った。
「失恋したのね」
「……うん」
「そっか。でも、失恋も大事な事なのよ?」
「どうして?」
「だって、世の中成功することばかりじゃないんだもの。成功してばかりじゃ駄目なの。いい大人にはなれない。挫折は一度、味あわなければならない、人間の試練なのよ?」
「そういうお姉ちゃんは失恋したことあるの?」
私はお姉ちゃんを見ながら言う。お姉ちゃんは、はっきり言って美人だ。芸能事務所からスカウトだってされたことがある。でもお姉ちゃんは大学へ行くことを決めた。
「あるわよ、それくらい」
「そんなに美人なのに!?」
「美人かどうかは分からないけれど……人は見た目じゃないのよ」
「そっか。心が大切なんだよね?」
「そうそう、分かってるじゃない!」
そう言って、お姉ちゃんはあたしの頭を撫でた。
「これで、あんたもいい大人への階段を上ったのよ」
お姉ちゃんはそう言い残すと、自分の部屋へと戻って行った。
「いい大人への階段……」
あたしは一人でそう呟いた。……真奈には挫折があるのだろうか?そんなこと、聞いたこともない。いや、あった。中学受験を失敗したと言っていた。それは恋愛じゃないけれど、彼女も挫折をしたのだ。
「ようやく、あたしは真奈と同じスタートラインに立てたんだね」
あたしはそう言って、小さく笑った。
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