コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 恋桜 [Cherry Love] ——完結——
- 日時: 2013/09/16 17:34
- 名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
華憐というものです。
今回は恋愛ものを書こうと思い、スレを立ち上げさせていただきました!
行き当たりばったりの小説になるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
ちなみに、3つほど記事を消去したことがあるため、記事番号が多少ズレております。ご了承ください。
【お客様】
・莉緒那様
一番最初にコメントをくださったお客様です♪
・くろねこ様
感動の言葉の数々、ありがとうございます☆
・あるま様
ゴマ猫樣と合作して素晴らしい作品を書き終えた素晴らしいお方です\(^o^)/
・ゴマ猫様
いつも応援して頂いているお客様です!!励みになっております(*^^*)
・修羅様
素晴らしい作品を執筆中のお客様です!!恋桜を見てくださってありがとうございます(ToT)
・夕衣様
久しぶりのお客様です♪徹くんと真奈ちゃんペアがお気に入りなのでしょうか……?
【登場人物】
>>1
【本編】
*プロローグ
視点なし >>2
*第一話...桜並木
真奈side >>3
徹side >>6
*第二話...宣戦布告
真奈side >>12
凜side >>15
徹side >>18
*第三話...思惑が交差する入学式
真奈side >>22 >>27 >>30 >>34 >>36-37
美樹side >>44 >>46-47 >>50-53
*第四話...中間テスト
真奈side >>54-59 >>61-62 >>68-72
徹side >>73
*第五話...修学旅行
真奈side >>75-76 >>79-88 >>92-94 >>96-97
>>102-103 >>105 >>108 >>110 >>112-113 >>118
*第六話...水辺に咲く花
真奈side >>120 >>122 >>124-127
徹side >>128
凜side >>129
美樹side >>130
*第七話...誰かを想う、その果てに
真奈side >>132 >>134-135
凜side >>136
美樹side >>137
徹side >>138
*第八話...お誘い
真奈side >>139-142 >>145
亮side >>148
*第九話...体育祭
真奈side >>151 >>155-159 >>161-164 >>169-173
*第十話...お月見(最終回)
真奈side >>176-177
*第零話...あとがき
作者side >>178
【番外編】
参照500突破記念
*甘いモノにはご注意を。 >>115
参照1000突破記念
*いい天気になりそうね。 >>181-183
【TALK】
>>63 >>89 >>167
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- Re: 恋桜 [Cherry Love] 迫る約束の時… ( No.158 )
- 日時: 2013/08/14 13:07
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
それからの時間はすごく長く感じた。冷えたご飯を温めるのを忘れて、逢坂くんのことを思い出しながら食べてたり、お風呂に入る時でも逢坂くんのことを思い浮かべてたり……。しまいには、勉強机に向かった時に逢坂くんに告白されたいなあ、なんてことを思ってしまったり。
「あ〜!!私、かなりの重症!」
私は椅子の上で足をバタつかせながら、シャーペンを放り投げた。まだ解きかけの問題が私のことを寂しそうに見上げてる気がした。……どうしてこんな時に亮さんのあの寂しそうな笑顔が浮かんでくるの?いつもそれを思い出す度に胸の奥が締め付けられて、何かを暗示するみたいにあの約束のことが蘇るの。でも、あの男の子の溌剌とした笑顔は、亮さんみたいに……どこか陰のある笑顔じゃなかったし。だけど、私があの子の顔をあまりはっきり覚えてない所為か、亮さんがあの男の子かもしれないと思い始めた。
「こんなの亮さんにとって迷惑なだけじゃない……」
そうは思うのだけれど、なんだか女の勘というのだろうか。そんなものがうずうずするような、胸が騒ぐようなそんな感覚が体中を駆け巡る。も、もし亮さんがあの子だったとしたら……あれから10年だから、亮さんに告白されるかもしれないってことだよね?そうなったら私、どうすればいいの?亮さんのことは1回しか会ったことがないけれど好きだし、逢坂く、徹くんのことはそれ以上に大好きなの。……もしそんなことになったら私はどちらを選ぶのだろう。過去の気持ちか現在の気持ちか。はたまた未来の想像によって創造された私の気持ちなのか。
——今はまだ、決められない。
「って、亮さんがあの男の子って決まったわけじゃないし、根拠もないんだし、今悩む必要はないよ!」
私は自分に言い聞かせるようにそう言うと、先程から解きかけのままで止まっていた問題を解き始めた。
——翌日(水曜日)
「真奈、いい加減起きなさい」
珍しく私は母に起こされた。どうやら昨日問題を解くのがあまりにも楽しくて、12時を過ぎても解き続けていたらしい。いつの間にか問題集が終わってしまっていた。
「うーん、今行く」
私は軽くそう返事を返すと、パジャマを脱ぎ捨て、寝ぼけ眼をこすりながら制服に着替えた。制服を着替えているうちにだんだんと目が覚めてきたのか、ぼんやりしていた視界もだんだんとクリアになって行った。
「よし」
私は今日も一日がんばるぞ、と自分に活を入れて、部屋を出た。
——通学路にて。
「真奈〜!おっはよ〜!」
相変わらずのハイテンションさで私に話しかけてくるのは——美樹だ。
「おはよう、美樹。今日は随分と早いんだね」
「まあね〜。このあたしに不可能の2文字はな……」
「優那おはよう!」
「あ!真奈!おはよう」
「ちょ、ちょっと真奈!?親友のボケをスルーするってどういうことかしら!?」
優那は石島くんと幸せそうに談笑しながら桜並木を歩いていく。すっかり桜は青々と茂っている。そして美樹の頬は怒って真っ赤になっている。
「もう、真奈ったら知らないんだから」
「つ、ツンデレ……」
「ツンデレなんかじゃ、な、な、ないんだからね!?」
「ツンデレ確定だね」
私が最上級の笑顔を浮かべてそう言うと、美樹は悔しそうに顔を歪ませて「負けた……」と呟いている。一体何に対して負けたのかはわからないが。
「あ、そうだ!」
この美樹の切り替えようの速さにはいつも驚かされる。
「今日って朝礼だよね〜」
「あ〜校長先生の長い話ね」
「真奈ってそういう認識してるんだ……」
「え?なに?」
「ううん、何でもない。でもさ、朝礼の時やけに真奈上級生に絡まれるよね〜」
なぜか美樹がニヤニヤしながら言う。別にやましいことでも何でもないと思うのだが。
「確かに。メーアドとかよく聞かれるかな〜」
「そういう時ってどうするの?」
「……」
「なぜ無言!?」
美樹が驚いたような仕草をした後に、鞄の中をごそごそとあさり始めた。
「どうしたの?」
「いや、情報あったかなって」
「どうして親友のことを嗅ぎまわってるのさ」
私が拗ねたように言うと、美樹は「ごめんごめん。情報やだから」と軽い感じで躱された。でもやっぱり…自分の情報を勝手に振り撒かれるのはいい気がしない。
「あった」
そう言って美樹は鞄の中から明らかに怪しげな黒い手帳を取り出した。巷(ちまた)では、”ブラックノート”と呼称されている。
「えーっと、綾川だから結構前に……あった。んーと、メーアドを聞くと全部断る……。そうだったの」
「うん」
本当にブラックノートは気味が悪い。私の知らない私がそのまま映し出されたような、鏡のようだ。鏡はまだ自分の都合の良い所しか見なくて済むが、ブラックノートの鏡は違う。
「あの、美樹……?」
「どうした?」
美樹は鞄の中にブラックノートをしまいながら言う。
「その、美樹が情報屋なのは知ってるけど……私の情報もやっぱり売られてるんだよね?」
「……まあ需要は多いけど、親友の情報を売るのは気分が悪いしね。ここ最近は超好条件じゃない限り、売らないようにしてる」
「好条件なら売るんだ……」
「だいじょーぶ!あたしの設定した超好条件は並大抵の人間では満たせないから!」
「一体どんな条件を設定したの?」
「ふふふ。ここからは企業秘密ですわ、真奈さん」
美樹はそう言って怪しげな笑みを浮かべる。
「本当一体何してるんだか」
私はやれやれとでも言うように、肩を竦めて首を振って見せた。
「あ、ちょっと馬鹿にしたでしょ!?」
「ば、馬鹿にしてなんかないよ!」
「じゃあ、なぜ詰まったんだ!?」
「そ、それはですねえ……」
私達は互いに笑いを堪えながらそんな会話を続けた。そして暫く歩き続けると、桜田高校の校門が見えてきた。初めてこの校門を潜ったのは受験の時が初めてだ。この学校に行くと既に中学1年生の時から決めていたので、わざわざ学校説明会に行く必要もなかった。そして迎えた合格発表日。一度受験して落ちただけにすこしのトラウマがありつつも今回こそはいける——そんな自信があった。そして見事合格した私は有頂天になりながら残りの2週間を有意義に過ごした。
「真奈?足、止まってるよ?」
「え?あ、ごめん」
私は思い出を振り返っているうちに、門前で足を止めていたようだ。
「私の思い出が詰まってる」
「え?何か言った?」
「ううん、何でもない」
「そっか!あ、それでね昨日入ったばかりの情報なんだけど真奈には特別に話すね。実は……」
こんな風に私の日常は始まっていく。入学してから暫く経って、これが当たり前のようになっていた。だけど、本当は当たり前じゃないんだ。私は……今、すごく幸せなんだ。そう実感した8月末のことだった。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] 迫る約束の時… ( No.159 )
- 日時: 2013/08/15 17:12
- 名前: 華憐 (ID: xDap4eTO)
授業が終わり、再び看板の塗装へと移行していた私と逢坂くん。他愛もない会話をつづけながら何気なく夕暮れ色に染まる校門を見ていると、人影が……。
「ねえ、逢坂くん」
「ん?どうしたの?」
逢坂くんは顔をこちらに向ける。私はそんな彼の顔にドキドキしながらも言葉を紡ぐ。
「校門前に人がいるんだけど……」
「こんな時間に訪問者?もう5時半なのにね」
そう言って逢坂くんも振り返って窓の外を見た。すると、どんどん表情が強張っていくのがわかった。
「どう、したの?」
「……」
「逢坂くん?」
「……え!?何か言った?」
逢坂くんはまるでその人影に吸い込まれるように視線が釘付けになっていて、私の声にも応答できないほどに夢中になっていた。
「いや、その、どうしたのかなーって」
私が苦笑しながら言うと、逢坂くんは私を安心させるようにふわっと笑った。
「大丈夫。俺の知り合いみたいだから、ちょっと話してくるよ。その間、作業、綾川さん1人になっちゃうけど……大丈夫かな?」
「う、うん!大丈夫だよ」
「そっか。ありがとう!すぐに戻ってくるから!」
逢坂くんは去り際に手を振りながら、走って校門前まで向かった。私は校門前で何やら話している2人の人影を窓から見ていた。逆光の所為で、真っ暗で何も見えない。でも、初めて見たという感じはしない。どこかで一度あったような……。もしかして亮さん?だって私、逢坂くんの知り合いなんて、お兄さんの亮さんしか会ったことないもの。……でも、もしかしたら人違いかもしれないし。うん、そうだよ。きっと人違いだ。ここで私がしゃしゃり出ても何も変わらないよ。そう言って一人でうなづいていると、いつの間にか廊下を駆ける音が。そして1-Bの教室の前でその音が消えると、一気に扉が開け放たれた。廊下を駆ける音で誰かが近づいてきているのはわかっていたけれど、いきなり扉を開け放たれると、こちらだって驚きくらいはするものだ。しかし、私が驚いたのは扉の所為だけじゃなかった。
「真奈ちゃん!」
「え……?」
私は予想外の人に混乱した。今の足音は逢坂くんのはずじゃ……?いや、亮さんだって逢坂くんか。じゃなくて!どうして徹くんはいないの!?私は必死に考えを巡らせるが、どうも解決の糸口は見つかりそうにない。
「あの、どうしてここに……?」
「うーんと、話すと長くなっちゃうから簡潔に。真奈ちゃんに会いに来たんだけど、徹に邪魔されて、走ってここまで全力疾走してきたって感じかな」
なんて非常識な……。私はそう冷たい目で亮さんを見たが、彼は何食わぬ顔でそこに立っていた。
「では、逢さ……じゃなくて、徹くんは?」
「彼は今、告白されてるよ」
「こ、告白!?」
「そうそう。僕を追ってくる途中に女の子に掴まったみたいでねー。あの子の表情の強張りようったら、告白しかないんじゃないかな?」
さも可笑しそうに薄い笑みを浮かべて先ほどのことを思い浮かべている亮さん。もしかして、性格悪い……?そんなことを思い始めていたとき、廊下から再び足音が。
「わお。案外早く断って来ちゃったのね。女の子が可哀想だなあ」
そんなことを言いつつも顔は笑っている亮さん。素直に恐怖を覚えた。
「それじゃあ、僕はここに長居できないみたいだから、メーアドと携帯番号、置いておくね?連絡宜しく!」
そう言って、私に小さな紙切れを1つ渡した亮さんは風の如く、物凄い速さで私の目の前から姿を消した。私はただこの状況に呆然としてると、遅れてやってきた徹くんが開け放たれた扉から慌てた様子で入ってきた。
「綾川さん!兄さんに何もされてない!?」
そう言いながら私に駆け寄り、なんと……抱き締めた。力強く。私の存在を確かめるかのように。
「あ、逢坂くん……?」
私は驚きのあまり、現状を把握するのにたっぷり時間を要したが、状況をだんだんと理解していくうちにだんだんと頬が紅潮していくのがわかった。
「ごめん」
そう言って、逢坂くんはゆっくりと私を抱きしめる力を緩めた。そして、あまりにも心配そうに私のことを見詰めるので、私は笑って見せた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、逢坂くん。私、何もされてないよ?ちょっと話しただけ」
私はそう言いながら、背後にある右手の中のものをぎゅっと強く握りしめた。この嘘は優しい嘘だよね……?間違って、ないよね?私は自問自答を繰り返して、結局隠し通すことを決めた。
「本当に?俺は綾川さんを信じてもいい?」
「……うん」
私は少し躊躇いながらもそう返した。しかし、よほど心配なのか、また私を抱きしめながら彼は言う。
「もし、メールとか電話とか来ても1通もとっちゃダメだし、真に受けちゃダメだよ?」
「ふふふ、わかった」
私がようやく笑顔をこぼしながら頷いたことに安心したのか、「よかった」と言って、私の元から離れて行った。……その後しばらく作業を続けて、昨日より少し早く帰宅した。勿論、逢坂くんと一緒に。そして、家に到着した私は、逢坂くんい抱きしめられた時の感覚を思い出しながら1人で悶えていた。母に気味が悪いと言われるほどに。
「ほんとう、変な真奈。逢坂くんにでも抱き締められたの?」
「ど、どうしてそれを……!?」
「図星なのね。ふふふ、私の学生時代にそっくりね」
「母さんと同じ……?」
「そうそう。まあ、これから先真奈がどういう恋愛道を通るのかはわからないけれど、母さんの選んだ道は茨の道だったわ。すっごく辛かったわねー」
「そんな恋をしてたの?」
「そう。本当につらかった。まあ、ここで話す気はないけどね」
母は語尾にハートマークをつけそうな勢いで話し、しまいにはウィンクまでつけてくる始末だった。
「はいはい」
「まあ、私の恋愛道を知ってしまったら、真奈が自分の通りたい道を塞いでしまうかもしれないからね。何もかもが片付いたら話してあげる」
「分かった。……それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
私はそう告げると、自室がある2階へと階段を上って行った。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] 迫る約束の時… ( No.160 )
- 日時: 2013/08/16 09:35
- 名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)
今日は塾があるので、帰宅後、更新いたします。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] 迫る約束の時… ( No.161 )
- 日時: 2013/08/18 18:21
- 名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)
——木曜日の放課後
ようやく形になってきた看板はあと数時間手を加えれば終わりというところまで来た。物凄い速さだ。金曜日には完成するだろう。
「よし、今日はこれで終わろう」
逢坂くんのその掛け声とともに立ち上がり、片付けの作業に入る。もう手慣れたものだ。ペンキを使っているせいで、常に喚起をしてなくてはならず、2人ともバケツの水を被ったように汗で濡れていたがそれも最早お馴染みの光景となっていた。まあ、透けて見える逢坂くんの上半身にドキドキしないわけじゃないんだけど。
「こんなもの、かな?」
2人で協力して看板を教室の後ろに立てかけた後、鞄を持ち上げ昇降口へと向かった。
「いやー、もう終わっちゃうね」
逢坂くんのその言葉に戸惑う。8月が終わると言っているのか、それとも看板製作が終了してしまうと言っているのか……。
「ああ、勿論看板の方ね?」
急に黙り込んだ私を不思議に思ってか、私の心情を読み取った逢坂くん。その読み取りの正確さに少々驚きつつも私は言葉を紡いでいった。そしてそうこうしているうちにあっという間に私の家の前に到着。
「もう、お別れだね」
私はそう呟いた後に慌てた。私、逢坂くんの彼女でも何でもないのに!なんてこと言っちゃったんだろう?図々しいにも程があるでしょ!と心の中で突っ込んでいると、逢坂くんは優しく微笑んでくれた。
「本当だね。俺も寂しいよ。その……」
そう言って、逢坂くんは口元を右手で覆い隠してなぜか俯いた。既に日が沈んでいるため、彼の表情を読み取ることはできない。
「俺は看板製作の時間がもっと長く続けばなって思ってるよ。そ、それじゃあ!」
それだけの言葉を残して走り去っていった逢坂くん。私は彼の言っている意味を理解できないでいた。まさか、冗談よね?絶対誰かに言えと示唆されてたんだよ。うん、そうよ。自惚れちゃだめよ?私。と震える足をなんとか動かしながら家の中へと入って行った。
——カチャ
扉の開く音共にリビングからスリッパの音がバタバタと聞こえる。どうやら今日は母のほうが早く帰っていたらしい。初日以外はすべて母に連絡してあるので、さほど心配した様子はなかった。
「おかえり!もうご飯出来てるわよ?一緒に食べましょ」
母は上機嫌な様子でそう言う。きっと何かあったのだと私は思いながらも今は口に出さなかった。素直に靴を脱いで、自室へ行き、ルームウェアに着替えて食卓に着いた。
「ほら、今日は天ぷらよ〜?じゃんじゃか食べて」
母はこれもまた上機嫌な様子で私に揚げたての天ぷらを勧める。私は苦笑いしながら、一通り食べた後、母への質問へと移行した。
「ねえ、母さん?」
「ん?どうしたの?」
「今日、機嫌良いね?」
「嘘!?ばれちゃった?」
「うん。ばればれ」
「そっか。話しちゃうね。実はね……明日お父さんが帰ってくるんだって!」
母は胸の前で手を合わせながらうっとりしながらそう言う。そういえば私も、凜との事件から1週間後の朝に、父が丁寧に洗ったであろう皿しか見ていない。とうとう2週間ほどの実務を終えて帰ってくるのか。
「どうやらね、クロアチアとの外交だったみたいなんだけど、予定より円滑に事が進んだみたいでね?早く帰ってこれるようになたんだって」
実は私の父は外務省に勤める外交官なのだ。所謂エリートという位置づけになるわけだが、貴族のような生活を母は好まなかった。普通の生活がしたいとのことで、一般家庭と同じくらいの大きさの家に住むことになったのだ。外務省のほうは、何かあれば危険だからと言って、何かと執事やら家政婦やらをつけたがったが、家に居られるのだけは勘弁と言って、隣の家に住んでもらうことになった。こうして今の私の生活があるのである。つまり、こう見えても私は真奈お嬢様だったりするわけだ。学校の皆も教職員も誰一人として気が付いていないが。
「そうなんだ!よかったね〜」
「ほんとよ〜!明日は豪華にしなくちゃね」
そう言って台所の奥へと消えて行った母。そんな母をいつまでたっても可愛いらしい人だと思いながら微笑ましく見る私だった。
- Re: 恋桜 [Cherry Love] 迫る約束の時… ( No.162 )
- 日時: 2013/08/19 07:51
- 名前: 華憐 (ID: SUkZz.Kh)
——金曜日
昨日より一層ご機嫌の母に見送られ、学校へ登校。いつも通り授業を受けて、美樹や優那、涼香と他愛もない話をする。放課後になると、逢坂くんと一緒に看板制作を行った。
「……で、出来た!!」
私が立ち上がりながらそう叫ぶと、逢坂くんも嬉しそうに微笑みながら
「完成だね」
と言った。
「ここまでたどり着くのに4日かあ〜。逢坂くん、ここまで一緒に作業してくれてありがとう!」
私は4日分のお礼をするために、深くお辞儀する。すると、逢坂くんは慌てて私と同じようにお辞儀した。
「そんなことないよ。俺だって楽しかったし、お礼を言うのはこっちだよ」
そしてしばらくそのままの状態を保っていると、その沈黙が何だか可笑しく感じて、互いに笑い合った。そして、十分に笑いあった後は、看板が出来たことをえーちゃんに報告し、看板の出来栄えを見てもらった。
「おお〜〜!!凄い凄い!こんなに派手なの初めて見たよ!」
「あ、派手なの駄目でしたか?」
私は少し肩を落としながら言うと、えーちゃんはにこにこしながら言った。
「違うわよ!あたしが言ってるのはそういうことじゃなくて!桜田高校にも新しい風が吹いたってこと!」
私はその言葉を聞いて、えーちゃんの顔をまじまじと見つめた。そして、えーちゃんが真剣に見つめ返してくるのを見て、改めてその言葉が嘘ではないことを知った。
「本当ですか!?嬉しいです!!」
私は飛び跳ねながら喜びを露わにすると、えーちゃんも逢坂くんも微笑んだ。その笑みが、可笑しくて笑ったのか、微笑ましくて笑ったのか、それとも他意があったのかは分からないが、取り敢えずプラスのイメージと言うことで捉えておこう。
「それじゃあ、この看板は月曜日のLHRでお披露目ね。はい、それじゃあご苦労さん。暗くなる前に帰りなさい」
「はーい」
「はい」
こうして校舎を後にした私達。今日はそこまで暗くはないが、逢坂くんに送ってもらい、胸いっぱいの気持ちで玄関の扉を開けた。すると、久しぶりの男物の靴がきちんと揃えて並べてあるのが目に飛び込んできた。間違いなく……父だ!!私はそうとわかれば、ローファーを脱ぎ捨て、スリッパに履き替えると、急いでリビングに直行した。そして扉を開け放った瞬間に、まだスーツ姿の父がソファで横になっているのが見えた。
「父さん!お帰り!」
私はそう言いながら、父の首に抱きつく。しかし父は寝ころんでいる身。私に首に抱きつかれると、酷い目に合うわけで……。
「うぐっ」
エリートらしからなる、低い呻き声の後に下から私を睨みあげる父。しかし私はそんなのお構いなしで話を続ける。
「クロアチアはどうだった?この間、EUに入った国でしょ?すっごいリゾート地なんだってね。私も行きたかったな〜」
私がうっとりしながらそう言うと、父からの一声が。
「真奈、どけ」
「はい」
私はそう強く命令口調で言われると逆らえない。なぜかは分からないが、昔からの性質なのだ。性質と言えばなんだか変なのだが。
「賢司くん」
「ああ、菜々」
台所から豪勢な食事を運んでくる母。本当に幸せそうだ。聞いたところによると、某有名海外大学のサークルで2人は出会ったとか。現在、母は43歳。父は45歳である。
「今日は賢司くんが好きなものを用意したのよ〜」
「おお、本当だな。上手そうだ。……真奈、いつまで制服でいるつもりだ」
「父さんだって同じじゃない」
「何言ってるんだ、俺は……」
そう言って、自分の服装に目を落とした父。目に飛び込んできたスーツ姿の自分に何度も自分の目を擦っている父の姿があまりにも滑稽で母と2人で笑い転げた。そしてそんなこんなで、私と父はルームウェアに着替え、食卓に着いた。久しぶりに家族全員揃って囲む食事はとても美味しかったし、楽しかった。母の腕が良いというのもあるけれど、やはり一番は場の雰囲気だ。いつだって母の料理をまずいと思ったことはないが、これほどまでに美味しいと思うことはあまりない。何かが欠けている感じがするのだ。それがまさに父であるわけだが。
「真奈、学校の方はどうだ?」
「すっごく楽しいよ?親友も出来たし、あと3週間もすれば体育祭が始まるの!父さんはいつまで日本に?」
「そうだなあ。俺は、2週間後には北京へ行かなくちゃいけないんだ。あの煩い奴らに呼び出されてな。まったく、昔のよき中国に戻ってほしいものだ。なぜあんなに利己的になったのか……。理解できん」
「まあまあ、賢司くん。落ち着いて」
母が宥める。
「そっかあ。父さん、私の学校には来れないんだね……」
「すまんな、真奈。毎回行ってやれなくて」
父が眉尻を下げて申し訳なさそうに言う。私はこの時決まって微笑むことにしている。父に余計な心配を掛けて、仕事に支障が出ないようにと。
「大丈夫よ、父さん。あと2年は桜田高校にいるんだから」
「そうか、それならよかった。文化祭、行けたら出席するよ」
「うん!」
私はその言葉に胸を膨らませながら、その後の食事を楽しんだ。そして、風呂に入り、自室に戻った後、ふと亮さんの顔が思い浮かんだ。そして、水曜日からずっと触れていない、あのメモ書きをカバンの中から探り当てた。丁寧な綺麗な字で書かれたそのメモには”逢坂亮”の文字と、彼の電話番号とメールアドレス、そしてご丁寧に、LINEのIDまで書かれていた。これは連絡しないとダメな気がしてきた。もう既に約3日経っているわけだけど……まあ、いいよね。私はそう思い、スマホに手を伸ばした。するとその瞬間に、徹くんの言葉を思い出して、取り敢えずLINEだけということにした。LINEでID検索をすると、すぐに見つかった。そして友達登録をして、トークルームで話しかける。
”こんばんは”
”お久しぶりです”
”綾川真奈です”
”3日程、音沙汰なしですみません(・・;)”
私はこれだけ打ち、暫くしても既読のメッセージが付かなかったので、これ以上待っても無駄だと判断し、その日は眠りについた。
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