ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 【完結】音符的スタッカート!【しました】
- 日時: 2012/02/02 19:27
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
- 参照: http://sasachiki.blog.fc2.com/
そして「わたし」と「私」と「僕」は。
望んだハッピーエンドへと、飛び込む。
*
>>188■完結しましたのでお話でも。
原点回帰っていうより、原点退化っていうか
というわけで久しいささめです
■お客様でせう
*メモ帳(95)様 *かしお様 *真飛様 *朱音様 *今日様 *ハナビ様 *遮犬様 *蟻様
*nanashi様 *とろわ様 *匿名の流星様 *ソルト様
■本編
・起・
>>01>>02>>4>>10>>12>>17 — 小説家(仮)なわたし
>>21>>31 — 陸上部な私
>>33>>39>>40>>49 — 小説家な僕
・承・
>>54>>59>>60>>61 — 思想中(微)なわたし
>>63-64>>66>>68 — 試走中(殆)な私
>>70>>80>>81 — 死相中(終)な僕
・転・
>>85>>88-90 — KENKA☆なわたし
>>92-93>>98-100>>102-104— KANKA*な私
>>105-106>>110-114 — KEIKA★な僕
・結・
>>116-121>>124-126>>129-131— 最後まで夢見がちなわたし 終了
>>134-136>>139-140>>144-147 — 最後まで手を伸ばす私 終了
>>151-160>>162>>165-168 — 最後まで大好きな僕 終了
・エピローグ・
>>172-173 — そして、歩き始めた僕 終了
>>174-176 — きっと、駆け出し始めた私 終了
>>180-184 — だけど、書き始めたわたし 終了
■おまけ?
登場人物の名前の読み仮名 >>11
キャラに贈りたい曲
☆主人公その一、私へ >>107
☆主人公その二、衣食りりるへ >>108
☆主人公その三、笹宮因幡へ >>109
転の前に少しお礼をば。 >>115
謝礼 >>150
*2010/09/08 21:40に執筆始めました。
やっぱこのスレタイすっきりして落ち着きます。
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- Re: 音符的スタッカート!【わたし編、了】 ( No.133 )
- 日時: 2011/08/26 18:37
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
>>132
■ハナビ様
どーも、ささめでーすイエッハァ。疲れた……(´・ω・`)
書いてる間は時間とか気にせずにずんずん書いちゃうんですけどね……寝不足ひどい。
ちーちゃんはある意味素直になりました。でもまだつんけんしてるとこ8割ぐらい残しておきたいなぁー、なんてミサカはミサカはドM心を満載にしてみます。
感情移入……その言葉に限りない嬉しさを感じますwうおぉ、書いてて良かった!w
会うたびに「好き」……? 一番の友達……? 大好き……? 女性同士のくんずほぐれつですねわかりま————ちょ、通報は……通報だけは……!
ささめはつるぺた幼女なかわい子ちゃんでもボン・キュ・ボンなイヤラシー!かわい子ちゃんでもどっちでも大歓迎なので素敵な大人になってくださいっす。どきどき。わくわく。
コメント有難う御座いました(`・ω・´)
- 最後まで手を伸ばす私1 ( No.134 )
- 日時: 2011/08/27 22:25
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: 短いですが、とりあえずきりの良いところで。
——愛って何なんだろうか。友情って何なんだろうか。
二つの疑問は影みたいにぴっとりと私の体にくっ付いていてきて、未だに離れた試しがない。影は自分の存在をひけらかさない、だけどこの二つの疑問は違うのだ。ふと気付けばどこかからするりと脳みその中に入り込んできて、私の思考をちくちくと苛める。しかも苛め方が最悪だ。わざと私が考えていることと正反対のことを呟いて、物事を決定したり考えたりする時には、答えを曖昧にさせる。肯定と否定のマーブルが渦巻いていて、対処するのにかなり疲れる。
涼ちゃんと別れた後から。疑問たちはお互いに手を取り合い、嫌な笑い方をしながら生活していこうと勇む私の足を転ばせた。おかげ様で膝にも腕にも擦り傷やら打撲が残っていて、じわじわとした痛みを感じながら生きている。唯一嬉しいことは、それがリアルには関係してこないってこと。私さえ気にせずに普通の顔をして生活していたら、他人から見ればただの女子高生だ。
——でも、最近……気にしないことが出来なくなった。
何をするにも彼女の笑顔と悲しみに溢れた顔が浮かんできて、私の心臓を鷲づかみにする。痛い痛いと声をあげてみるのも助けを求めることも、彼女にとって加害者である私には許されないというのに。澄ました顔で過ごそうとしていれば傷だらけになって、痛いと喚かないために平然とした様子を保ち続ける——終わりのないループを繰り返していると気付いたのは、いつの話か。
(……寝た気が全然しない……だと……)
喚く目覚まし時計の頭部を思い切り叩くと、目覚まし時計はぴたりと声を発するのをやめた。イライラをぶつけるようにボタンを叩いたので、手のひらが痛い。柔らかい手のひらに残る赤いマルをちらりと眺めて、深いため息をついた。
——何やってんだ、私は。
上半身のみを起こして、ずんと体中にかかる重さにふらつく。髪の毛がぼさぼさになっていることが安易に想像出来たので、半ば習慣のように手櫛で軽くすいた。バスケ部時代から続いている、肩につかない程度に切られている私の髪の毛は、冷たい指先を静かに受け入れた。すいすいと頭髪を整えて、ようやくほっと一息つく。体を支えていた二酸化炭素を吐いたせいで、バランスが崩れた。ぐにゃりとくらげのように上半身をベッドの上へ折る。
「何でバスケ部の時とおんなじ髪型にしてんのかなぁ……」
あまり膨らんでいない胸に手をやり、ぎゅっと拳を握り締める。拳越しに存在している心は、バスケ部の時に起こったあの出来事と離れられずにいる私を責めるように痛む。朝っぱらから何を考えんのよ、と自分に呆れた言葉を投げかけてみて、自己嫌悪。疑問を生み出しているのもそれに傷ついているのも、離れられないのも私という一人の人間でしかない。いくら鏡の向こうの自分に起こっても意味のないのと同じ。結局、全部自分なのだ。
昨晩ずっとパソコン上の例のスレを眺めていたせいか、寝不足である。普段ならいくら眠くても、勉強をしなくちゃならないからと一生懸命眠気を取り払う努力をするのだけど、今日は少し事情が違った。授業がないからだ。
——まぁ、その代わりに卒業式があるけど。
羽毛布団をベッドの向こう側へと押しやる。ぐしゃりと皺が寄った布団は、今日の私のもやもや気分を表しているみたいだ。部屋の中の冷気により鳥肌がたった腕をさすりながら、もこもこ素材のスリッパを履く。
「……ほんと、頭痛い……」
額に手をやり、もう一度大きい溜め息。足取りがおぼつかないまま、勉強机に近づいた。そして、今にもシャッターを下ろしそうな瞳でカレンダーを見る。カレンダーは昨日まで含めた今日までの空白を、全て赤いばってんでいっぱいになっていた。私がしたわけだから、特に驚きもないけれど。苦笑いをして、コロコロ付きの椅子に腰を下ろした。起きたばかりの体はすとんと重力と椅子に預ける。背もたれに体重をかけて、薄く微笑んだ。
「卒業式、だー」
——先輩が、卒業する日だ。
幾度となく呟いてきた言葉をもう一度繰り返すと、それは心の中で苦く響いた。
——あぁ、ブルーだ。
- 最後まで手を伸ばす私2 ( No.135 )
- 日時: 2011/08/31 20:09
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: めちゃくちゃ更新速度遅くなります、すみません
*
「ぬ、ぬぁいッ!!」
どっ、と体育館全体から笑いが湧きあがった。舞台の上に上がっている校長先生ですら笑いがこみ上げてくるのを抑えているようだ、口元が緩んでいる。奇抜な返事をしてしまった卒業生は、後頭部に手を当てながら「てへへー」と舌を出す仕草をして、歩み始めた。そのおちゃらけた姿に一層、周囲の人間の笑い声が大きくなる。
対して、私はこめかみを押さえ、今朝から何度目かになるため息を深くつく。
「…………先ッ輩……」
呆れたように呟いた名前(あだ名なのだろうか?)は、紛れも無く現在進行形で壇上に上がろうとする卒業生へ向けてだった。さっき、卒業生こと松尾先輩は、校長先生の名前を読み上げる声に対してびびったように立ち上がった。……付属品として、会場のいる皆の笑いを誘うような返事と共に。まさかナ行で返事されるとは思ってなかったんだろう、しんみりとしていた会場内が一気に騒々しくなった。この状況を作り出した本人のことを考えると、正直、頭痛が酷くなったように感じる。
——何ッで最後までそんなヘタレな返事してるんですか先輩……!
今日で着るのは最後になる制服。そのスカートの後ろの部分がぐしゃぐしゃで、近くの女子生徒に指摘された先輩は、慌てたようすでお尻の辺りを直した。直す行動に、同級生達が涙を忘れて笑う。同級生から笑われたのはさすがに癪にさわったんだろう、先輩が「むきー!」と両腕を挙げて抗議した。すぐにマイク係の先生に睨まれてやめたけど。……ちなみに、その先生はいつか先輩のことを追い掛け回していた男子体育の先生だった。
日常的に彼女のぐだぐだ振りはよく見てきたけど、まさかこういうちゃんとした式でこんな失態を見ることになるとは思わなかった。暖房の効いていない体育館の中は寒く、ぎりりと握り締めた拳が冷たい。指先に裂くような痛みを感じたので、握り締めていた拳を弛緩させた。手の甲を裏返して、手の平を見ると爪の痕がついていて真っ赤だった。
「あー、痛い」
唇の隙間から声にならない「痛い」を洩らすと、耳ざとい隣の友人が不思議そうにこっちを向いた。まさか聴かれるとは思っていなかった程に小さな声だったので、驚いて友人の視線から急いで逃げる。凝り固まった首を無理に動かすと嫌な音がしたけれど、気にしない。卒業式に集中している様子を見せ付けるために、壇上への階段を上り始めた先輩に視線を注いだ。
先輩はゆらゆらと不安定なバランスのまま壇上に上がっていき、一礼した。私たち二年生の席は、ちょっと舞台全体を見渡せるような丁度良い位置にある。三年生はしばらく自由登校だったので、先輩を見るのは久しぶりだったりする。
あまり良くない視力を総動員して、遠い場所にいる先輩の横顔を見ようと頑張る。校長先生の前へと歩を進める先輩の横顔は、ひどくすっきりとした表情だった。
(まるで、何かをやり終えたみたいな——ふっきったみたいな?)
澄んだ瞳で卒業証書を受け取る先輩は、結構さまになっていた。さっきの返事から、また変な受け取り方をするんじゃないかと考えていたので、先輩の形式通りの丁寧な一例にびっくりした。笑っていた人達も、ちゃんとした先輩の姿を見て表情に真剣さが戻る。
隣の子がぽんぽんと肩を叩いて、私の耳元に口を寄せてきた。
「……ねぇねぇ、あれってりりるの先輩でしょ?」
「あ、うーん……クラブは違うけど、確かに先輩かも。どうしたの」
「いやー、さっき面白い返事したのにさぁ、卒業証書もらってるトコはきっちりしてんなぁ、と」
「ふふっ、そうだね」
——何だ、みんな思ったことは一緒か。
隣の席の子は「だよねー」と小声で言うと、おかしそうに目を細める。つられるように薄く笑うと、隣の子は口元を押さえた状態のまま目を丸くした。私の笑いに何か驚きを誘うようなものがあったのかと思いきや、彼女の視線の先に居たのは私ではなかった。出来るだけ顔を動かさないように視線のみを向けると、彼女の見つめる先には顔をしかめた男子体育の鬼教師。
あちゃー、と悪戯がバレた時のような苦笑を浮かべられる。鬼教師の怒声の大きさと、罵倒関連の言葉のボギャブラリーの多さは学校でも有名である。式の終わった後で罵声を浴びせられたくないので、私も彼女も視線に姿勢を良くして前を向いた。体が恐怖を回避しようとしているらしい。
「別にさぁ、三年生との行事はこれで最後なんだから……ちょっとぐらいお喋り許してくれても良いじゃんねー?」
「……じゃんねー」
ぷくっと頬を膨らませて放たれた言葉に、私は体の中心を氷の槍で貫かれたような気がした。
今まで逸らしていた顔を、目の前の現実に向き合わされたような、冷たさ。
(そうだ、今日で最後なんだ……)
最後という言葉と共に、体中の力が抜けるような錯覚を覚えた。ぐにゃりと弛緩した体は、クラゲみたいにぶよぶよとしていて人形のようだ。力が抜けてしまったので、半分しがみつくようにしてスチール椅子に座る。傍目からは普通の座り方に見えるだろうけど、実際はかなり必死だ。体の中心は支えを失い、両腕は何とか踏ん張ろうとぶるぶると痙攣しながら椅子の端を掴む。
膝にも力がこめられなくなり、座れないことへの不自由さから若干の苛立ちが表情に表れてしまう。
——自分一人じゃ、何も出来ない。
きちんと座るのを諦めて、ずり落ちるような格好のまま深く息を吐いた。冷たい空気が肺を満たして、胸を冷やす。冷たさに耐えるようにして、私は卒業証書を受け取り、壇上から去ってゆく先輩を見た。やはり先輩はあのへらへらとした曖昧な笑みではなくて、真っ直ぐな瞳でこれから自分の進むべき道を見つめていた。
——この差は何なんだろう。
何時の間にか、胸の奥底にどろどろとした疑問が湧いていた。押し留めようと思考を中断するために意識を集中させる。けど意識はその黒い何かにずぶずぶと浸かっていき、私の脳内は黒いもやもやと白がマーブルに溶け合い始めた。
(何で、先輩はあんな顔をしてるのに。私は、何で)
やるべきことをやり終えたような、どこまでも真っ直ぐに先を見つめている先輩。いつまでも過去の中でうずくまって、前を向こうとしても足元ばかり見つめている私。この差は何なんだろう。今まで夢と現実のマーブルの中で悩んでいた先輩は、卒業式というこの終わりで、ハッピーエンドを迎えようとしているのに。なのに私は、全然だ。一つも前に進めなくて、何もかもが分からなくなってきている。
——先輩なら、答えをくれるのに。
不満気な色を含みながら先輩に視線を向けると、先輩は席に着く前に何かを呟いていた。
微かに動いた唇がどんな言葉を零したのかは、私にはよく分からなかった。
- 最後まで手を伸ばす私3 ( No.136 )
- 日時: 2011/09/02 20:08
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: めちゃくちゃ更新速度遅くなります、すみません
*
「先輩、卒業おめでとうございます。大学行っても、もし暇があれば陸上部に来てくださいね。歓迎しますから」
「りりるにそう言われたら、もう今すぐにでも新一年生になってりりるの後輩になるのになー」
「こらこらぁ。私たちもう卒業したんだから、そういう泣き言言わない」
「…………っうわー! 卒業したくないよぉー今更だけどぉー!」
陸上の漫才コンビと先生から名づけられていた女子陸上部の二人の先輩が、お互いに肩を抱き合い泣き始めた。
夏頃には真っ黒に日焼けしていた肌は、すっかり陸上のりの字も残っていない。白く女性らしい肌になっていた。筋肉が落ちたと嘆き、そして今一年生になりたいと嘆いていた先輩の方は、どうやら市内の大学に受かったらしい。どや顔で自慢してきた。
体育館前のロビーは人、人、人。とにかく卒業生との別れを惜しむ声で賑わっている。人がゴミのようだ、とはこの雰囲気の中では言い辛い。ぐすぐすと悲しみを露わにして泣き顔をみせる人もいれば、笑いながら憧れの大学生ライフに喜びを感じている人もいる。でも皆、表情にはこの学校と分かれてしまう切なさが入り混じっていて——しんみりとした気持ちになるのは、私だけじゃないはずだ。
「卒業したんだから、もっと笑顔で出て行ってくださいよ。先輩、いつも笑顔じゃないですか」
「ひっく、ひっく…………だってさぁ、ほんとに卒業するとは思わなかったんだもん! うわーん!」
「何言ってるのよ。あんた私と一緒に、大学行って合格したの見てきたじゃ、ない……今さらそういうこと言わないでよ。涙腺、緩くなる」
「うわーぁぁぁぁぁぁん!」
まるで子供のように無邪気、だけど人一倍陸上にかける愛はあった先輩。てきぱきと後輩たちに指示を飛ばしてクラブ内の統率を行っていたクールな先輩。二人の相性はクラブ内でも良く、先生からはかなりの評価だった。私が転部してきた時も、二人は優しく迎えてくれ、陸上部について詳しく説明してくれた。
そんな二人が見れなくなるのも、今日で最後だ。全く会えないってわけじゃないだろうけど、やっぱり頻度は減る。当たり前だと知っているけど、泣いている二人を前にしたらどうしても嘘だと信じたくなった。まだべそをかいている先輩たちに向き直って、明るい笑顔を作る。
「大丈夫です。陸上部はちゃんと私たち二年生が引き継いでいきますから。だから、安心して大学生活を楽しんでください。応援してますから」
可能な限り笑顔を努めようと、泣いている先輩方を安心させるように言った。でもそれは逆効果だったようで、先輩たちは私の言葉に今までの高校生活三年間をふっと思い出したらしい。またうるうると瞳が潤んできて、片方の先輩なんか周りの目を気にせずにわんわんと喚き始めた。……まぁ、周囲も同じような状況だったから、あまり目立たないけど。それでも、先輩の泣き声は人一倍大きいような気がした。
「大学やーだー! 高校がいーいー! うわーぁん!」
「こら、笹宮。いい加減に帰るよ。あんたの家、今日卒業パーティーするんでしょ。お兄さんからメールがあったって言ってたじゃない」
「兄貴はどうせ美人な担当さんとご飯食べるんだから良いのー! それよりもっとここに居たいー! むしろ泊まりたいー!」
「阿呆か!」
ぼろぼろと涙継続中の自分の友人に、まだ瞳の端に涙を浮かべた先輩が叱咤した。いつも部活で見ることの出来た二人の掛け合いも、コンビネーションも、もう見ることはない。私は花束を軽い会釈と共に先輩たちに渡した。その花束にまた涙の波が押し寄せそうになりながらも、泣き顔の先輩の方が「ありがとう」と声を絞り出す。
クール美人な先輩の方は、優雅に微笑んで頭を撫でてくれた。苦笑いを浮かべながら、先輩はしっかりした口調で言う。
「りりるちゃん、最後までこんなのでごめんね。陸上。頑張ってね。応援してるから」
「分かりました。頑張ります。……あの、先輩」
「ん? 何?」
目を細めて笑う先輩に、私は何気ない調子で尋ねた。視線をクール美人な先輩から周囲の雑踏に滑らせる。
「先輩……いえ、松尾先輩知りませんか。式が終わってから、姿見てなくて」
「松尾? あぁ、松尾なら何かよく分からないけど……三浦さん探してたかも。りりるが松尾探して、松尾が三浦探してるって感じね」
「え、松尾ちゃん? おー! そーゆー質問はあたしのターンッあたしのターンッ!」
と、私の質問を聞いて、陸上馬鹿でお馴染みの笹宮先輩が、クール美人な先輩の肩の方から飛び出てきた。片手をぴしっと挙げて、自分が答える権利を求めようと必死になっている。数分前の泣き顔はどこに吹っ飛んだのやら。切り替わり早いなぁ、と感じながら「じゃあ先輩、どうぞ」と先生みたいにして答えを促した。
「……んとねー、見たよ、うん。その辺で、人がいっぱいいたからわちゃわちゃーってなってた。たぶん、正門の方に行ってたよーん」
「正門の方ですか。それっていつ頃の話ですか?」
「あー、十分前ぐらいかな。最後のホームルーム終わった瞬間、めっちゃダッシュで教室出て行くとこ見た。そっから後は、しばらく私も他の子とくっちゃべってたから、よく知らないーみたいな?」
「十分? それおかしくない?」
オウムのように笹宮先輩の言葉を繰り返す。すると私の隣で涙ぐんでいたクール美人な先輩が、異議有りとばかりに不満顔で問いかけた。
「私は三分ぐらい前に正門と逆方向からやって来る松尾見たんだけど……笹宮の話が正しいんなら、松尾はとっくに三分前には正門から帰ってるはずでしょう? でも、私さっき、ちゃーんと松尾が正門と逆方向からこっちに来るの見たわよ」
「はいはい、チミの負けず嫌いは中学の時から知ってまちゅよー? てか、見間違いじゃね?」
「嘘じゃないって言ってるでしょーが!」
逆方向という言葉にアクセントを置いて一つの事実を告げたクール(以下略)先輩と、馬鹿にしながら自分の話との矛盾点を指摘して悦に入る笹宮先輩。二人の先輩の話を前にした私は、一瞬困惑する。どちらの話を信じれば良いのか、と。
しかしすぐに頭の中で「十分前に正門へ向かった先輩」と「三分前に体育館前で逆方向に向かっていた先輩」——そして、人が多いという背景の三つを組み立てて、推察した。某子供探偵のように体は子供、頭脳は大人なんてことはないけど。バーロー、と身体精神ともに普通の女子高生並みな自分に呟いた。
「…………すみません、私、ちょっと用事あるので。これで失礼します」
「んにゃー。松尾の居場所、分かったようだね。顔がそれを物語ってるぜい!」
「ごめんね、力になれなくて……最後にお喋りに来てくれてありがとう。嬉しかった」
「はい、大体分かったんで、行ってみます。先輩方、本当に——」
——御卒業、おめでとうございます。
深々と下げた頭を撫でたのは、今度は笹宮先輩の温かい手だった。
- Re: 【最後まで】音符的スタッカート!【手を伸ばす】 ( No.137 )
- 日時: 2011/09/03 15:15
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)
どうもお久しぶりです。
松尾さんパート素敵です。ちーちゃんは松尾姓になったのかは分かりませんがとりあえずニヤニヤしたのは私だけじゃないはずなんですけど…あれ? 何はともあれ、ハッピーエンドで良かったですね!
りりるちゃんパートは何かどうなるのか不安です。というか私ビックリ。
笹 宮 さ ん !?
世界は狭いですねー。ちくしょういいなあ笹宮さんの妹。美人担当の妹になるわけですから。はあ…いいなあ(遠い目)。
とにかくりりるちゃんも笹宮さんも楽しみに待ってますということで!
頑張ってください!
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