ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

【完結】音符的スタッカート!【しました】
日時: 2012/02/02 19:27
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
参照: http://sasachiki.blog.fc2.com/

 そして「わたし」と「私」と「僕」は。
 望んだハッピーエンドへと、飛び込む。










 >>188■完結しましたのでお話でも。







 原点回帰っていうより、原点退化っていうか
 というわけで久しいささめです

 ■お客様でせう
 *メモ帳(95)様 *かしお様 *真飛様 *朱音様 *今日様 *ハナビ様 *遮犬様 *蟻様
 *nanashi様 *とろわ様 *匿名の流星様 *ソルト様

 
 ■本編

 ・起・
  >>01>>02>>4>>10>>12>>17 — 小説家(仮)なわたし
  >>21>>31        — 陸上部な私
  >>33>>39>>40>>49      — 小説家な僕

 ・承・
  >>54>>59>>60>>61   — 思想中(微)なわたし
  >>63-64>>66>>68 — 試走中(殆)な私
  >>70>>80>>81  — 死相中(終)な僕

 ・転・
  >>85>>88-90 — KENKA☆なわたし
  >>92-93>>98-100>>102-104— KANKA*な私
  >>105-106>>110-114   — KEIKA★な僕

 ・結・
  >>116-121>>124-126>>129-131— 最後まで夢見がちなわたし 終了
  >>134-136>>139-140>>144-147  — 最後まで手を伸ばす私 終了
  >>151-160>>162>>165-168    — 最後まで大好きな僕 終了


 ・エピローグ・
  >>172-173  — そして、歩き始めた僕 終了
  >>174-176  — きっと、駆け出し始めた私 終了
  >>180-184  — だけど、書き始めたわたし 終了


 ■おまけ?
  登場人物の名前の読み仮名 >>11
  キャラに贈りたい曲
    ☆主人公その一、私へ >>107
    ☆主人公その二、衣食りりるへ >>108
    ☆主人公その三、笹宮因幡へ >>109
 転の前に少しお礼をば。 >>115
 謝礼 >>150

*2010/09/08 21:40に執筆始めました。
 やっぱこのスレタイすっきりして落ち着きます。

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最後まで大好きな僕8 ( No.158 )
日時: 2011/10/20 20:59
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: X9vp/.hV)
参照: 久しぶりだって良いじゃない、そうじゃない












「うっ、がっ、いっ、うびゃぁああああああああ」

 足がもつれる、舌噛む、浮遊する!
 軽快な三テンポは、川沿いの道から河川敷まで転落させるには十分だった。段ボールを胸にしっかりと抱きしめた状態で、「あばばばばば」とローリングで坂を下ってしまった。スタイリッシュ過ぎるぜ、僕。短めに生えた芝生が、顔や体中を苛め倒した。河川敷に転げ落ちた僕は、痒さと痛みのお徳用パックを与えられてしばしの間悶える。がりがりと頬が石粒にそがれているので、血だか汗だか分からない液体で顔中がねとねとになっていた。
 足、舌、眼球。三テンポに合わせたのか、痛みもしっかり三等分されて僕に苦しみを味あわせていた。どんな三等分だ。

「つッ…………着いたってばよ……ぐへぇ……」

 三つの箇所を激痛に染め上げた末にやってきたのは、近所の河川敷だった。
 部屋を飛び出してきた時には青かった空も、だんだんと夕方の色を含み始めている。本来ならば空を仰ぎ、その美しさに目を細めるのが一般の方々の反応なんだろうが、疲弊した僕には空なんてどうでも良かった。上半身を石の集団の上に放り出し、大の字になっている僕は——内臓を吐きだしそうなぐらいの勢いで酸素を求めていた。二酸化炭素を吐き出し、空気を肺いっぱいに取り込む。川の近くで、僕は異様な姿で息をついていた。
 首に集う熱を潰すように、寝ころんだ姿勢で自分の足を見つめる。「もやしっ子、むしろもやしのひげっ子?」と彼女に以前評価された自身の足は、びくびくと痙攣をリピートしていた。暑くてたまらないので、ジーンズの裾を引っ張って足を露出させてみる。女の子並みに細い脚が出てきたので自己嫌悪に浸った。

「っくしょー……結婚却下されたし……足いてーし……息すげぇしゴホガハッ!!」

 口の中の唾液が気に食わずに、唾を吐く。血が混じっているようで、口の中が鉄臭い。奥歯を噛みしめて、まぶたを下ろしたくなるのを堪えた。やっぱり日頃から運動をしていないと、疲れた時にすぐ眠たくなってしまうので危ない。実際、今の僕のコマンドには「寝る」と「眠る」と「ゴゥトゥベッド」しかない。血のせいで嘔吐感も増し、酸素が足りない頭ががんがんと痛んだ。
 黄色と水色がどろどろに溶けあう空は、まるで溶かしたバターをプールに流しいれた時のような淡さだった。バターをプールに入れたことなんてないけれど、陽射しの黄色に侵食され始めたこの空への表現は、ナイスだと思う。ナイス僕、とどや顔で自分を褒めてみる。むなしい。
 彼女の「ユー、男と結婚しちゃいなYО」攻撃に傷ついた心は、自己修復しようとじわりと粘液を生む。ねばつく液体は心臓から血管を通り、そして頭部————視神経にキた。視界の端から、正常な世界が解けていくような感覚を味わう。走る最中は隠れていたのに、粘液は今になって突然やってきた。

「……うぅあぁ……何で今頃泣いてんだよ僕……。……くっそー、まじでくっそー!」

 がん、と普段キーボードを打つことしかない左手で、石ころの一つを殴った。当然だけど痛い。涙が鼻から漏れてきそうだった。骨折れたんじゃないのかな、と無駄にチキンな心配をして手の甲を見ると、赤くなっていた。めったに日に焼けることのない肌にくっきりとついた石の赤い丸はよく目立つ。もう一度言っておく、めっちゃ痛い。
 腹の底からふつふつと湧いてくるのは、マグマのように熱い何か。額に汗、目に涙を浮かべて、僕は雄叫びをあげた。「うおおおおおおわッ、げふッ、うばぁ」気管に鼻水が入り、咳込む。塩辛いものが喉の奥に召喚され、心臓をぎゅるりと締め付ける。
 まだ痛む拳で眼球を押し潰し、外へと粘液が零れないようにした。

「泣いてんじゃねぇ、泣いてんじゃねぇぞ笹宮因幡ァ!」

 とにかく、彼女の言葉のせいで泣きたくはなかった。それだけが、僕の虚栄心。
 彼女が言った言葉のせいだ、彼女に言われなければ泣かなかった。そんな言い訳をするような——彼女に責任を押し付けるような馬鹿な男には死んでもなりたくない。だって、彼女は自分の気持ちを遠まわしに告げただけなのだから。それを捻じれた解釈をして、恨むようなことはしたくはない。潔く、引き下がりたいのだ。彼女のことが最後まで大好きな男として。

「なんつって、未だに未練たらッたらなんスけどね僕! だって彼女の言葉に傷ついてるし、何かイライラしてるし! ひゃっほぅ、ヘタレ王に僕はなる! ……みたいなさぁ」

 ——やっぱりさぁ。僕は、カッコ良く去っていくヒーローのようにはなれないっぽいなぁ、うん。
 自分に見切りをつけた分、僕の肩に乗っていた何かは軽くなった。悲しみにどっぷりと浸かってゆくテンションをあげるために、僕はひ弱な腹筋を使って上体を起こした。お尻の方にゴツゴツとした石の感触。
 あぁ、起き上がってみて今知ったんだけど。どうやら僕は、相当周囲から変人に思われていたらしい。河川敷の遠くの辺りでサッカーをしている少年たちが、ちらちらとこちらを不審そうな表情で窺っていた。やぁ、諸君。これが振られ男という奴だよ! 友好のつもりで片手を軽く挙げて応えると、逃げられた。土手の方を見上げると、高校生らしき女子数人が、寝転がっていた僕を虫けらを見るかのような視線で射抜いてきた。その数人は良かったんだけど、その数人の後に一人で歩いていた女生徒(遠目にしかわからないけど、結構な美人さんだ。いや、彼女には劣るけど)が、冬の厳しさよりも冷たい目、さらに真顔でこっちを眺めていたので、めちゃくちゃ死にたくなった。

「……あーあ、みんな引きこもりの小説家には厳しいんだっつーの」

最後まで大好きな僕9 ( No.159 )
日時: 2011/10/20 21:03
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: X9vp/.hV)
参照: 久しぶりだって良いじゃない、そうじゃない

 不安定な足場の上。びきびきと引き攣るふくらはぎを殴りつけ、立ちあがる。立つ際に、ぐらりと目眩を起こした。視界が前後に揺さぶられ、眠ってしまいたい衝動に駆られる。コマンド、寝————ってそうじゃないだろう僕。ばしんっ、自分で自分の横面を容赦なくはたいた。その衝撃に意識が飛びそうになったけど我慢。
 短い呼吸を続けながら、僕は投げ出していた段ボール箱に歩み寄った。至近距離から、その茶色い四角を見下ろす。

「……っ、はぁ、はぁ……はぁ」

 思考に薄もやがかかり、いまいち酸素が足りていない。いまいちキレが足りない、みたいな調子で何言ってんだろう僕は。自分の呼吸音が耳触りで、僕は耳を捻った。
じっとりと汗をかいた首筋をシャツの襟で拭う。湿った手で段ボールの箱を開けた。目に飛び込んできたのは、隙間なく敷き詰められたピンク。そのピンクは————彼女が僕の部屋でいつも読んでいる、ボーイズラブの本の数々。
 一冊。
 僕はずらりと並んだピンクを手に取った。表紙には、またかというか、でしょうねというか。やはり、男と男が絡み合っていた。お互いに頬が紅潮しており、そこには濃密な桃色世界が————

「————って、ふざけんな畜生おおおおおおおおおオオオオオオオオ!!」

 咆哮、WITH、本を破っ、た!
 勢いに任せて、縦に本を引き裂く。裂かれた本(死亡)の表紙は、見事真っ二つだ。絡み合っていた男二人が、裂かれたぎざぎざラインを境にして引き離されている。その表情が少し切なげに見えなくもない。こんなことを考えるってことは、僕も彼女の毒素に侵されてきているのだろうか。

「誰がっ、男とっ、結婚するんだよ馬鹿やろーっ!」

 叫び、自分の境遇を嘆き、また叫んだ。彼女の気まずそうな笑いが忘れられない。今、僕は怒っていた。でもそれは僕との約束を裏切った(もといはぐらかした)彼女にじゃなく。どこまでもヘタレで、こんな風に本を破るしかない自分に対してでありまして。
 登場人物たちの物語を壊すように、ページを細かく千切っていく。一冊目を紙切れにしてしまうと、自然に二冊目に手が伸びた。まず、カバーを両手で掴み一気に引き裂く。次に、破ったそれらをさらに細かくしていく。僕は喚きながら、その行動を繰り返した。

「てか、男同士で結婚できねーよ! アメリカか、アメリカ行けばいいのか!? 笹宮因幡がイナバ・ササミーヤになるのかコラァ!」

 体の中にたまっていたものを、爆発させる。からからを通り越してもはやいがいがになった喉は、まだ大声を出せた。意外だ、と驚きながら五冊目の本を紙屑に変化させる。

「君が望むことは何でもやるし、嫌なことはしたくねーと思うけどさぁ! でもさぁ、アメリカには行きたくねーよ! だって、君に会えなくなるじゃんかぁ!」

 じくじくとした熱さが、指先に灯る。よく見ると、手の平に血がにじんでいた。乾燥肌のくせして、指を無理に動かしたせいだ。プラス、インドア派のくせして物語の主人公みたいなクール系のことをやったから。爪と肉の間から、濃い赤色が流れ出す。それでも、僕は叫ぶのも、本を破るのもやめなかった。
 この本の山さえ無くしてしまえば。彼女の気持ちがこっちに向くんじゃないかって。
 そんな淡い期待を抱いてしまったから、止まるに止まれなくて。

「君に会えなくなるのは、絶対嫌なんだよ、僕は!」

 十冊目。印刷された活字が指の腹につき、黒くなる。ぶれる視界の中で、さっきの少年たちがサッカーをしているのが見えた。比較的こっち側に近い位置に立っている少年Aが、僕の方を気にしているような素振りをしている。おいチラッチラこっち見んな! 少年Aじゃなくて山田太郎君って呼ぶぞ山田! ……半ば嘘に近い言葉を投げかけるか迷う。無難に、「こんな大人になってはいけないよ」と紳士ぶってみた訳だけれど。以上、全て心の中で行われた悶々。十三冊目をブロウクンした。

「あんな風にフラれても! あんなに困った感じで話されても! それでもさぁ、それでも! 大好きなんだよ、君のことが!!」

 …………(びっくり中)。
 一瞬、自分が発した言葉に作業の手が止まった。一瞬の躊躇いが僕の中の良心を揺さぶり、本を破ることを迷わせる。同時に、ぐちゃぐちゃだった脳がクリアになる。
 ——大好きなんだよ、君のことが。
 さっきの自分の言葉が、眼球に貼り付いていた何かを剥がす。剥がされた何かはとけて消え、代わりに鮮やかな感情が噴き出した。十八冊目。摩擦で指が焼ける。

(何だよ、僕)

 二十二冊目は、紙の素材が違ったらしくて、破るのにちょっと手間取った。だけど破り捨てる。二十三冊目。
 心の隅っこがむず痒い。さっきまで辛い、悲しいとほざいていたはずの心。今でも彼女の言葉を考えるとずきずきと痛い心。だけど、覚えていた。彼女に裏切られてても、僕自身の弱さを目の前に突きつけられても。覚えていた。この感覚を。
 この——むず痒いような、温かいような、幸せな、感覚は?

(結局まだ僕は————彼女に恋、してんじゃねーか)

 少しの間黙った僕を、遠くにいる山田(仮)という少年が不思議そうに眺めている。やがて、他の友人に名前を呼ばれて試合へと戻っていく。土手を歩いていたおじいさんは、ようやく静かになったかと言わんばかりに満足そうに白いひげを撫でで、風景の鑑賞に勤しんでいた。女子高生たちは、はなっから僕なんて相手にしてなかったみたいに、個人の談笑に花を咲かせ始める。
 そんな中。僕はたった一人で、こみ上げてくる嬉しさをこらえきれずにいた。涙なんかを吹っ飛ばすようなその感情が、崩れ落ちていた僕の手をとる。
 誰もいない空を、涙と汗でぐちゃぐちゃの顔で仰いだ。どこかにいるであろう彼女に向かって。思い切り、声を出した。

「僕は、女々しいし、ヘタレだ! こんなに好き好き言って気持ち悪いって思われてるだろうけど! まだまだ、君の期待に答えられるような小説家じゃないけど!」

 彼女は、僕と違ってエリートで、美人で、要良の良い編集者だ。こっちの業界じゃぁ、彼女の名前は有名だ。だからこそ、僕のような若手小説家とは釣り合わない。今回、彼女との約束のために頑張って賞をとったけれど、きっとそれだけでは僕の価値は上がらない。もっともっと、僕は有名になって、小説家としての自分を高めていかなくてはならない。
 ——誰よりも素敵な彼女の横に、並ぶために。

「僕がまだまだ未熟ってことはわかってるから、だから、せめて君に釣り合うぐらいの男になるまで! 君の隣で、——…………」


最後まで大好きな僕10 ( No.160 )
日時: 2011/11/08 22:15
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: X9vp/.hV)
参照: テ ラ 遅 い で す ね



 君の隣で。
 その先が、続けなくなった。
 君の隣で僕は何をしていたいんだろう。新しい疑問が芽を出す。風が頬をゆるく裂いて痛みを伴った。君の隣という単語が僕の視界を埋め尽くして、目眩を起こしそうだ。
 口元に孤を描いて愉快そうに微笑む彼女が何度も脳裏にフラッシュバックして、……っか、顔が真っ赤になってきたってどゆことなの! ぎゃひゅ、と息を洩らして熱くなってきた頬を両手で挟みこんだ。
 ……か、彼女要素が足りないせいで笑顔なんかで顔が熱いってわけですね、わかりま——わかんねー!
 頭をわしゃわしゃと掻き乱し、気恥ずかしさを有耶無耶にしようと頑張る。背骨が悲鳴をあげるのも無視して、大きく仰け反ったまま、不安定な姿勢を維持した。両ひじを空に向けて、頭を両掌で包み込む。

「っは、はははは……」

 上身を斜めに構え、僕は乾いた笑みをぼろぼろと零した。今さらながら足の裏がすごく痛い。痛みを堪えようと、頬を引きつらせてさらに笑った。
 ——そうだ、僕がしたいことは。
 僕が、君の隣で。これから、していきたいことは。息を吸いこんで、吐く。うむ、やはりまだ寒い。
 いつだって僕の行動は単純で、言葉は率直で愚直だ。主人公のキャラは一貫していないと、読者が困ってしまうではないか。
 だから、僕は息を吸い込む。単純で率直で愚直な愛の言葉を空へ飛ばすために。
 君の隣で何をしたいか、考えたそれを、爆発させるよう、にっ!

「君の隣で! 僕はっ! ずっと! 人生の残り時間をっ! 君のために、小説を書いていたいぃッ!」

 声が裏返り、書いていたいという意味のはずが書くと痛い、みたいになってしまった。ついでに。びくっ、遠い向こうで少年山田君が怯えているのが観測出来た。
 君の隣でこれからずっと、数十年間、小説を書いていたいということは。
 簡単に言うと、君と結婚したいってことで。
 つまりは、まぁ、つまり、だ。

「君のことが大好きだァァァァァァ!! 結婚してくれッ、漆原っ、雅ィ——ッ!!」

 限界、が、来た。
 ぐらりと体が前後に揺れて、酸素が欠けた脳内がにゅるにゅると立ち眩みを促す。ふんぬ、と先ほどと同じように踏ん張ろうとしたけど、本格的に身体に疲れがのしかかって来て、立っていられない。世界中のみんなに元気を分けてもらおうと両手を挙げ、逆にそれがバランスを失わせて、僕は呆気なく倒れこんだ。
 尻餅をつき、生まれたての小鹿(小さい馬鹿の略)のような膝を横目に、苦笑い一つ。走っている間にたまっていたいた重みは、腹の中からその存在を消滅させていた。すっきりした空気が、鼻の穴から胃へと流れ込む。

「…………はぁ」

 心臓の音が、とくとくと小さくそして静かになっていく。高なっていた鼓動が落ち着いていく感覚を手の平越しに感じる。一息ついて気付いたんだけど、耳が結構冷たい。きりきりと痛む。
 耳を指で摘み、大の字に寝転がった。体全体の筋肉が引き締まるような感覚を覚え、むず痒さが二の腕に集う。今、上空からミサイルとか飛んで来ても避けられそうにない。カラスが家に帰ろうと、視界の端から端へと飛んで行く。
 しばらくの間、僕は体の力を抜いてそうしていた。オレンジ色に染まりつつある空を、ぼんやりと。猛烈にみかんを食べたい衝動に襲われた。だけど僕は室外にいるので、みかんの皮を向こうと伸ばした手は空気をかするのみ。喉が渇いて仕方がない。
 
「うだー……疲れたー、うぱー……」

 体中に残された倦怠感。ぎしぎしと軋む体とは対照的に、僕の心はやけにすっきりとしていた。
 首筋に刺さる芝生の感触がくすぐったくて、身をよじる。草の一本一本が外の空気を含んでいるようで、頭を静かに冷やす装置みたいだ。叫ぶ時はあんなに汗だくで愛が溢れていたというのに、冷静になった今ではシャツがぐしゃぐしゃで気持ち悪いっていう感想しか無い。これだから現実は、と二次元にはまっているタイプ人特有の苛立ちを口にしてみた。
 と、そこに。

「…………うぉ?」

 ザッ、ザッ————草を踏みしめる音が、僕の耳に届いた。
 首のみを稼働させて、土手の方へと目をこらす。行動範囲を大きく超えた眼球の動きに、付属品として涙が滲んできた。
 頭部オンリーで視界を確保しようとした僕が得たのは、逆さまの世界。緑色の影の向こうに、タイツを履いた艶めかしい女性の足が垣間見えた。「うあー」喉から変な擬音を発しながら、そのタイツ足がやってくるのを見守る。がらがらの掠れた声だったので「ぶばー」という仕上がりになったけど。

 



ほざき ( No.161 )
日時: 2011/11/08 22:31
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: X9vp/.hV)

■【重要!!】人の肉を快楽的に摂取する等の、公序良俗に著しく反する描写が一部小説に見られます。サイト運営上重大な支障が出ますので、見つけ次第スレッドごと削除し、(略)未成年者が執筆している場合は、当該行為責任が保護者の方にも及ぶ場合がありますので、(略)(色々略)



すげえ。

ということでどうもお久しぶりです、ささめです。
最近はお久しぶりですとささめですしかほざいてない気がしますけど気のせいだと思います、ささめです。

久しぶりにカキコ来たら(いやそこまで久しぶりじゃないですけど)↑の警告文があったので、「すげぇ」ってなりました。うん、すげぇ。

ささめ的には、こういう警告有難いんですけどね。管理人様有難う御座います。
西尾さんかいるまんの影響だか知りませんけど、最近はいるまん系とかグロい一人称僕系はやってるんじゃにゃいのきゃなーっていうのがささめ的サムシングなので。とか言いつつ、ささめも影響ばっちりんぐなんですけどね。けどね。とあ禁の影響受けてたのはささめです(挙手)
何人の人が「×ーくんと●ーちゃん」っていうタイトルつけるのかどきどき物じゃないすか。読者参加型も流行りましたしねぇ。応募して書いて未完結なのは珍しいことじゃないってのがネット小説のあるあるってことでな(以下略)————あ、この小説は例え2012年になっても頑張りたいです。めちゃくちゃ更新遅いんでしょうけど。受験ってキビシー。

てか、未成年が執筆している場合は——ってとこに愛を感じますよね。
ほとんどってところが嬉しいです。「俺たちゃ大学生やら高校生だぜェ!! おい小中学生、グロ系書くなよ!」みたいなのがなくて嬉しいです。未成年って二十歳未満の人のことですよね。間違ってたらささめを誰か殴ってー。
もう今の時代は、色々年齢関係ないですよね。中学生はまだまだ子供ですよ。高校生も大学生も社会人も、まだまだ子供だろうに。みたいなね。年齢高いからって偉い物言いは……先生、可笑しいと思うな……(真顔)


これを「私たち書き手の自由を奪ってるわ、プソプソ!」って人いたら腹抱えて大爆笑物なんでしょうかね。人の肉ってこの世の中で一番うまい、と習字の先生が説明してきれましたが。
まぁ、アレだよね。うまいもん食ったら栄養になるよ!! 風邪ひいたらはちみつレモンとかネギ類食べような、鍋とか!!


あぱー
またリアルに潜ります、ささめでした。


p.s 音符的は来年の春には完結できたらいいなぁ

最後まで大好きな僕11 ( No.162 )
日時: 2011/12/12 18:38
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: X9vp/.hV)
参照: アッサシーン!!


 ザッ。芝生を足裏にする音が空気を揺らした。
 ぎょろり、と目玉を下から上へと急速に動かし、そのタイツ足の主を確かめる。
 やがてタイツ足の主もとい女性は——僕の前に仁王立ちになった。

「う、え……?」

 彼女、だった。
 僕の動力源、そして現状況の理由であり原因でもある漆原雅だった。
 ルージュを塗った形の良い唇が、鮮やかな色を僕の網膜に焼き付ける。猫のようだと常日頃考えているアーモンド型の瞳が少々丸みを帯び、長いまつげを動かしている。如何にもびっくり、という風体だ。服装はいつも通りの黒色のスーツ。シャツの第一、二ボタンが外されていることと、膝頭が見えるか見えないかぐらいの長さのタイトスカートが官能さをアップさせているような気がしてならない。スーツを押し上げている良い大きさの胸元は、神様に恵みを与えられた者の証だろう。
 それら、全てが。
 それが全てが、数十分前に僕が部屋を飛び出してきたのと変わりない。半日も経っていないんだから当たり前だと、他人に笑われるのは目に見えている。
 しかし、彼女中毒者である僕には、目の前の彼女がとても懐かしく感じられた。

「…………、落ち着いたー?」

 にへら。彼女が普段の穏やかな笑いを見せて訊いてきた。
 僕は間髪入れずに答える。

「パンツは見えた」
「だれがそんなこと訊いたんじゃコラー」

 どぐしゃ、と顔面が陥没した音がした。踵の尖ったハイヒールは、綺麗に顔面に吸い込まれたようだ。
 斜面に寝転がっている健全な男子の上の方で、スカートでやってくるのが悪い。中身を見られたくないならスカートを履くな、むしろスカート無しでお願いします。……そう考えると、何だかこの傷みがとても理不尽なものに思えた。
 だが、自身の無実を主張する僕は、ハイヒールで顔を踏まれる間も目を開けていたので、まぁ、うん、アレだ。…………フィフティ・フィフティ? ……みたいな。

「ちなみに、水色だったね」
「うりゅしばらパーンチ」
「あぎゅを」

 パンツという名の目潰しを食らった。さすがの僕も、目にまでATフィールドを仕込んでいない。粘膜を思い切り突かれたの、しばし悶える。涙が滲む左目を手で押さえ、視界を確保しようと無事な右目を「くわっ!」と開いた。
 そのまま、全身の血液の流れが止まったような気がした。
 否応なく思考がストップされ、言葉が出なくなる。
 草の上でごろごろとのたうち回っている僕の目に映ったのは、ぼうっとした表情で、ばらばらの紙屑を眺める彼女だった。
 その呆然とした表情が、輝くような笑顔を常に保つ彼女らしくなくて、僕は焦るように一言を絞り出した。気まずくて閉じそうな唇を、べりりと動かして。

「…………ごめ、ん」
「えー、何がー?」
「君の本、ばらばら、にしちゃって。……本当に、ごめん」

 するりと出た謝罪の言葉、と言いたいところだったけど、僕の言葉は読点ばかりだった。言葉はぶつ切りにされていたが、彼女には届いたようだった。「あぁ、それ」と返事を返してきた。
 急に風が冷たくなった気がして、僕は体育座りをして自分の肩を抱いた。目の端に残った涙の粒が空気にさらされ、眼球の熱を奪ってゆく。
 へこんだ、というより明らかにテンションの下がった僕。しばらく(とは言っても数十秒だけど)無言でいると、彼女はそんな僕に向かって、あっけんからんと言った。

「あー、うん。別に良いよー? だって、同じの、もう一箱あるし」
「………………え? もう、一箱? 同じの?」
「うん。同じやつね。自分の家にはそうだなぁ——後、三箱ぐらいかなー? あ、四箱目いるかも」

 …………。
 あるのかよ…………。衝撃の事実を知り、自分が悪いことをしたにも関わらず、謝ったことを少しもったいないと思う。じとーっ、と無言の重圧をかけて彼女へと非難をこめたオーラで見つめた。
 彼女は僕のじと目に気付くことなく、草をいじっている訳だけど。土手に生えているのは、植物に詳しくない僕にはわからない草ばかりだ。唯一、一般的によく知られているクローバーだけがわかった。僕が口をつぐんだのを境に、二人の間に会話が失われる。また冬の空気が戻ってきたような気がして、首をすくめた。
 やがて、沈黙が破られる。

「てか、笹宮が私に謝るんだね」

 彼女の方からさっきの話題を振ってくるとは思っていなかったので、答えを探すのには数秒ほど要した。
 なめらかな指は、物分かりの悪い僕に苛立つように草の生涯を断ってゆく。白い肌に緑が付着していくのを、僕は注意せずに傍らで見守っていた。

「だーかーらぁ。私を責めたり、怒ったりしないんだね……ってことだよ」
「いや、それはしないよ」
「だから、何で?」

のろのろと口を開いた僕とは違い、速くはっきりとした口調でさらに言葉を返される。横目で隣をのぞくと、自潮気味の笑みを口元に浮かべていた。
 ——何で、そんな顔してるんだよ?
 脳内が疑問と不安で染められていく。気まずくて、僕は頭をかきながら答え始めた。うはは、と笑いながら。

「だって君は——正しい判断をしただけじゃないか。普通、こんな新人小説家が言い寄ってきたら……うん。自分で言うのもあれだけど、君みたいなカリスマ編集者が僕みたいなのを相手にするはずもないかな、みたいな。……だから、今回の約束はしょうがないって思————」
「————っ、……から……」


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