ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

【完結】音符的スタッカート!【しました】
日時: 2012/02/02 19:27
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
参照: http://sasachiki.blog.fc2.com/

 そして「わたし」と「私」と「僕」は。
 望んだハッピーエンドへと、飛び込む。










 >>188■完結しましたのでお話でも。







 原点回帰っていうより、原点退化っていうか
 というわけで久しいささめです

 ■お客様でせう
 *メモ帳(95)様 *かしお様 *真飛様 *朱音様 *今日様 *ハナビ様 *遮犬様 *蟻様
 *nanashi様 *とろわ様 *匿名の流星様 *ソルト様

 
 ■本編

 ・起・
  >>01>>02>>4>>10>>12>>17 — 小説家(仮)なわたし
  >>21>>31        — 陸上部な私
  >>33>>39>>40>>49      — 小説家な僕

 ・承・
  >>54>>59>>60>>61   — 思想中(微)なわたし
  >>63-64>>66>>68 — 試走中(殆)な私
  >>70>>80>>81  — 死相中(終)な僕

 ・転・
  >>85>>88-90 — KENKA☆なわたし
  >>92-93>>98-100>>102-104— KANKA*な私
  >>105-106>>110-114   — KEIKA★な僕

 ・結・
  >>116-121>>124-126>>129-131— 最後まで夢見がちなわたし 終了
  >>134-136>>139-140>>144-147  — 最後まで手を伸ばす私 終了
  >>151-160>>162>>165-168    — 最後まで大好きな僕 終了


 ・エピローグ・
  >>172-173  — そして、歩き始めた僕 終了
  >>174-176  — きっと、駆け出し始めた私 終了
  >>180-184  — だけど、書き始めたわたし 終了


 ■おまけ?
  登場人物の名前の読み仮名 >>11
  キャラに贈りたい曲
    ☆主人公その一、私へ >>107
    ☆主人公その二、衣食りりるへ >>108
    ☆主人公その三、笹宮因幡へ >>109
 転の前に少しお礼をば。 >>115
 謝礼 >>150

*2010/09/08 21:40に執筆始めました。
 やっぱこのスレタイすっきりして落ち着きます。

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■贈りたい曲2 ( No.108 )
日時: 2011/08/16 18:34
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=qqzQfrVepLU

■キャラに贈りたい曲


☆主人公その二、衣食りりるへ
  ⇒奥華子/迷路

 りりるちゃんに贈りたい曲は、一番悩みました(苦笑)
 ひたすら過去のブラックなところを歌っている曲を贈りたいのか、頑張って前を向いて欲しいと言える曲を贈るのか。結果的には両方を満たす曲を贈ることが出来て満足です。
 ついでですが、なぜイメージソングやキャラクターソングとささめが言わないかというと、どちらもたいそうな言い方過ぎて腰がひけてしまったからですw単にささめが登場人物たちに聴かせてやりたいな、と思ったものなのでwもっとかっこいい理由あれば良かったんでしょうけどね……ほら……ささめですから……(遠い目)

 こちらも、歌詞については割愛。動画の方にくっ付いておりますので、歌詞をしっかり味わっていただきたいと思います。けしてチョサクケーンにびびっているとか断じてないですよチキンだなんてヘタレだなんて言わせないんだからねっ!——変なツンデレ(笑)失礼しました。

 りりるちゃんは、すごく本音を周囲に伝えるのが難しい子なんだと思います。
 それはプライドのせいでもあり、言ったら傷が疼くせいでもあり。
 過去の自分に後悔は嫌と言うほどしています。だけど、それをばねにして頑張りたいと思う気持ちがある。
 たった一人、彼女を理解してくれる誰かがいたなら。りりるちゃんの心は救われるのかもしれません。

 彼女の声を聞いてくれる誰かを求めて、物語のラストをささめと一緒に突っ切ってくれればなぁ、と思います。

Re: 音符的スタッカート!【贈りたい曲2】 ( No.109 )
日時: 2011/08/17 08:47
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=Rcm3fBn-p60

■キャラに贈りたい曲


☆主人公その三、笹宮因幡へ
  ⇒ポルノグラフィティ/Sheep ~Song of Teenage Love Soldier~

 とにかく愛を! 愛を!と意気込んで選んだのがこれです。笹宮くんの方も某ボーカロイド曲で愛してるおーってこと叫ぶ奴ばっかり選ぶつもりだったんですけど……漆原ちゃんのことに関してもっと触れているのがこの曲かなぁと。ポルノ大好きなんで良かったっす。てか前二つの歌手さんも全員好きですこの野郎みたいなね。

 これも歌詞については割愛。コメント欄の一番上にありますので、笹宮カップルのいちゃいちゃ振りを堪能してとりあえず「リア充永遠に結婚しろ」と叫んであげてください。血の涙流しても結構ですので。ささめはもう流してますうぐぐぐぐ……!

 笹宮くんは、好きだ好きだ言ってる割には本気で愛を語っていないんじゃないのかなと思ってます。いや、結婚して欲しいってことは常に露わにしてますが。ささめが言いたいのは、真面目に話し合える場を設けられない人じゃないのかなということです。

 社会人の恋って、恋だけじゃ終わらないんじゃないのか。恋=結婚に結び付けられてもおかしくないんじゃないか——と思いながら書いている笹宮パートだったりします。
 笹宮パートに安定感があるのは、あえて「仕事」や「結婚」っていう、社会人として向き合っていかなくちゃいかないものを直視していないからかなぁ、とひっそり考えてたりします。難しいことを取っ払って、恋と愛それだけに重点を置いてるからこそ、本人にとって幸せで、バランスが取れている。

 いつか、漆原雅が笹宮雅に変わることを願って。

KEIKA★な僕3 ( No.110 )
日時: 2011/08/17 09:40
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)







「っておかしいだろうが!」
「あ、起きた」

 起きた反動で思い切り蹴り飛ばしたことにより、羽毛布団が捲りあがった。もこもこのそれが重力に沿って僕の膝元へ落ちるのを、肩で息をしながら見つめる。ぜはーぜはーと肩で息をし、だんだんと現状況を確認していく。
 さっきの状況と変わらず、僕は僕の部屋に居た。当然のように見慣れたベッドの上だ。ベッドの横には、さっきのような少女や金髪美女はいない。その代わりとでもいうように、飛び起きた僕の隣には——

「……何でお前がいんだよ……白場……」
「いや、電話したんだけどなー。つながらなかったから、直に来た」

 ——小学校からずっと同じ道を辿ってきた悪友が、一人座っていた。
 僕が突然起きたことに少し驚いているようだ、持っている本から顔を上げて、目をまん丸にしている。白場を一瞥して、もう一度布団へと視線を落とす。寝汗をかいたせいか首筋に嫌なべとつきを感じた。とりあえず服を着替えようとベッドから思い腰を上げてみた。着替えのシャツを選ぶ際に、未だこの部屋の主に謝りもせずに堂々と居座り続けている白場いつきを睨む。

「てか、何でお前いんの。お前も小説、今一番大変な時じゃねーの?」
「あー良いの良いの。終わったから」
「ふーん。…………あー、変な夢見た」

 適当に衣服を見繕い、気を使う理由もない友人を前にじっとりとしたシャツを脱ぐ。新しいシャツから頭を出して「ぷはぁ」と息を洩らすと、友人は本に向けていた視線をちらりとこちらに寄せ、また本に戻した。うわー、何こいつ。人ん家着て本読むかよふつー。
 ——ま、そんなに面白い本なのかなーっと。
 僕と同じように小説家であるこいつが読む本とは何だろうか。好奇心に誘われて、真面目に本を前にする白場の横から内容を盗み見る。
 白場が読んでいるページでは、金髪ミニスカナースで黒網タイツの女性が、魅惑的なポーズをとっていた。

「お前が主犯か!」
「うわっ、何だよ……静かに本を読む文学青年を驚かすとかお前……趣味わりぃな」
「とりあえずお前のどこが文学青年だ! 青年のせいの字が性別の性だろうが! てかお前その本どうしたんだよ!」
「あー、っとな……。自宅だと彼女にバレるから、お前のところに……」
「はぁ? 隠しに来たのかよ」
「いや、売りに来た。一冊千円」
「余計たち悪いわ! てか高ぇよ!」

 ——何でこいつと喋ると、すぐにボ.ケとツッコミの応酬が始まるんだろう……。
 げんなりしながらベッドの方を見やる。すると、何かピンクちっくな本(肌色面積が異様に多い)が枕元やら羽毛布団の上に雑多にばら撒かれていた。本は僕の頭部に当たる位置にもばら撒かれており、何故僕があんな変な夢を見たのかを納得させる。頭の辺りには、幼い少女がリコーダーをくわえているようないかがわしげなそっち系の本が一冊、SM関係の本が一冊ずつあった。他にも同じ系統の本はあり、僕のベッドが桃色に彩られるほど種類と数は多い。

「お前……この種類の多いエ口本どうしたの……てか何でこんな多いの」
「いやー、お前も俺と同じように小説一本書き上げたってお前の彼女から聞いたから? たまたま家入ってきたら寝てたから、起こそうかと思って顔の上どんどん置いてたって訳だよ」
「理由になっとらんわ!」

 膝元に広がっている幼女とSMナース(さっきの夢に出てきた子たち。何かポーズが卑猥である)を叩き落として抗議する。僕の言葉に白場は口を尖らした。言っておくが大の男が口尖らせても気持ち悪さしか上昇しない。気持ち悪さうなぎのぼり。何て嫌な言葉だ。

「だからお前の気ぃ楽にさせてやろうかと思ったんだけど——あいにく、趣味が分からなくてな。小学校からの付き合いとしてお前のことが理解できなかったってことは、不覚の事態だった。お前の満足する種類のものを用意できなかっただなんて、俺はお前のマニアック度を侮っていた——本当に……すまん。許して欲しい……っ」
「あのね白場。今ここで謝るべきことはけして本の種類とかジャンルについてじゃないんだ。とりあえず顔上げろよそして一発殴らせてくれよ。頼むからそういう感動的な謝り方は青春時代、僕に迷惑かけた時にやって欲しかったぜ」
「……はぁ、お前ほんッとーにあの漆原の雅ちゃん以外には手厳しいなぁ」

 簡単に真剣な雰囲気から不満そうな顔になった白場を横目に、僕はぐちゃぐちゃに広げられた本の回収に努め始めた。
 幼女にSMナース、水着にバニー、女子高生などバリエーションは豊富だ。一体こいつはどれだけの嗜好を持ち合わせているのだろうと疑問に思う。数も多いということはその……肌色を大胆に露出させている女性も多いわけで。彼女がいるので僕は不必要だけど、何となく真正面から見ることがためらわれる。気恥ずかしい、というのも一因だ。
 何冊ものエ口本を拾っていくことへのやるせなさを消しさるために、成人向けの本を斜め読みしている白場に質問をする。

「お前のせいで僕、こういうナースとか女の子が出てくる夢見たんだけどさぁ……もっと良い感じの、っていうか。まともな奴、無かったわけ? 幼女とこんなおねーさんって間逆のタイプじゃん。お前どんだけ守備範囲広いの」
「だから言ったろ。お前起こす為に色々載せてみた、って。お前が目ぇ開いたらびっくりすんのが面白ぇんじゃねーか」
「もしも起きなかったら何するつもりだったんだよ……」
「その時はこれを」

 差し出されたのは、いつぞやの彼女が読んでいたボーイズがラブっている桃色世界の代物だった。

「むしろ幼女の方がありがてぇ!!」

 僕の率直な感想に対して白場は何か言うと思いきや、無言だった。
 その代わり、差し出した本を直視しないようにと少し視線を逸らして部屋の隅っこを一瞥した。

「……俺も、お前の部屋の隅に段ボールがあったからさ……菓子か何か入ってるのかと思ったんだよ……」
「段ボールの中身は?」
「こういう本がびっしりだった」
「……………………ごめん…………なさい」

 申し訳なさがこみあげてきて、僕は頭を垂れた。友人は真っ青な顔をして黙ってしまう。おい喋れよ。引くなよ人の彼女に。

KEIKA★な僕4 ( No.111 )
日時: 2011/08/17 16:10
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
参照: 白場=しらば


 白場いつき。こいつを四字熟語で例えると、傍若無人、唯我独尊、自由気ままというところだろう。最後は四字熟語ではなかったけどまぁそこは勘弁して欲しい。
 白場とは小学校から中学高校大学社会人、と全く同じ経歴である。世間的には幼馴染という枠に収められるだろう。
 こいつも僕と同じように小説家で、大人らしい小説を書いている(大人なんだけどね)。ジャンルは僕とは違う意味で幅広くて、グロやホラーから官能小説、はたまた大人の恋愛まで書ききっている。こいつの持つ文章から滲み出るえぐみという奴は、業界では少し有名だ。それについて言及すると、本人は「うっせぇな書きたいように書いてるだけだ畜生」と怒る訳だが。

(今日もいつもに増して……白いな)

 まずこいつを目にした奴は頭を見てぎょっとするだろう。僕はこいつの容姿の変化なんていちいち反応なんかしちゃいないが、高校時代に頭が真っ白になって登校してきた時はこいつの母さんばりにキレた。地毛大事にしろよこの野郎という僕と、白場のうっせぇなハゲてねぇからセーフだというやり取りが一晩中行われたのは今では良い思い出だ。
 脱色された真っ白い髪の毛は、こいつの彼女の好みなのか短めに刈られてつんつんとしている。加えて目つきが狼のように鋭く、獰猛さが溢れているから、ひょろい僕みたいな奴は初対面でドン引きする。睨んでるみたいな視線だからだろうか。そこが女子には「きゃー、ワイルドー」と騒がれる一要因なのだが。モテてんじゃねぇ!

「……んで、今日は何の用だよ」
「さっき言っただろ。お前が賞に応募する小説一本書き上げて、俺も別の仕事で小説一本片付けたわけ。つまり俺もお前も仕事終わって今ハッピーだろ?」
「まぁそうだけど」
「という訳でだな」

 悪友が背後に手を伸ばすと何かを掴み、僕の前へちらつかせる。がたいの良い背中から出てきたのは、僕の好きな銘柄のお酒だった。
 いくら陽気に笑っても目つきの悪さのせいで悪役のような笑いにしか見えない僕の友人は、どこからともなくコップを出して来て、自分と僕の間に置く。

「ま、小説の話でも肴に呑もうぜ?」

 ノーと断る理由が見当たらなかった。






「そんで、お前はアレだ、彼女とどーなんだよー! おい、テメェ因幡ァ! かっこいいアーティストの半分みてーな名前しやがって漢字は違うとか詐欺だろテメェコラァ」
「うっせーな! 酒豪のくせにわざと酔ってるふりして絡んでくんな! 僕の近く寄るな! お前こそ名前の通りに髪の毛脱色して白くなってんじゃねーよキャラ付けかこの野郎!」

 赤らんだ顔をしている白場に怒りを飛ばす。酒を含むとこいつも僕も顔が赤くなる性質だけど、実際にはちょっとしか酔っていない。昔からの親友だからこそ、お互いにどれぐらい飲めば酔うのかということは把握しているつもりだ。
 ——その点でいえば、こいつはまだ全ッ然酔ってないけどな。ザルだし!

「頭のことは今関係ねぇだろうが! お前は何で俺の髪について俺のおかんばりにしつこく言ってくんだ、しつこい男は漆原雅に嫌われるぜ!」
「何で彼女だけピンポイントで攻めてくんだよ! 僕が名前について気にしてるって知ってるくせにお前はお前のこと言われたらキレるとか何なの馬鹿なの死ねよ!」
「お前最後ネタ言ってるふりして実は俺に対する願望言ってるだろうが!」
「悪いかこの脱色えぐみ駄小説家!」
「うっせぇなこの童貞ゴミ小説家!」

 二人で散々言い合った後に、さめざめと泣いたのは内緒である。お互いに。
 簡単に酒盛りをやろうと提案したくせに、時間はもう午後九時。白場がやってきたのは午後三時頃だったから、もう六時間近く酒を呑んでいることになる。軽いという意味が僕ら社会人には通用しないらしい。大人になったのに、時間を守らないとこや悪口を言い合うとこはこいつも僕も子供っぽい。うぅ、大人っぽい彼女との違いを自覚してしまってちょっとショック、かも。

「……何お前、涙目なってんの? うわー、二十代半ばの男の涙目とかどこに需要あんだよ」
「うっせーな! てめーが彼女について言ってくるから、彼女のことについて色々不安になってきたんだっつーの! デリケートに扱え僕のガラスのハート!」
「ブロウクンッ!!」
「べへらっ!?」

 視界がぐるぐると回転し、やがてふらつきながらも見慣れたフローリングの床へと落ち付く。
 頬に鈍い痛みが奔るあたり、どうやら白場に殴られたらしい。何で殴られたし。突然倒れこんだせいか胃の中の酒類がたぽんと音を発した。気持ち悪さが体内から触手を伸ばして、喉を伝って外へと出ようと活け気づいた。要は吐きそうになる、うえぇ……。

「な……何で僕……今殴られたんだよド畜生……うぅぷ……」
「ごめん、ノリだわ。で? 漆原の雅ちゃんとのきゃっきゃうふふ生活がどうしたって?」
「ノリで殴んなよ! ……ぅぷ。……てか、きゃっきゃうふふとか……言ってねー……」
「まぁまぁ、殴ったことは謝んから。とりあえず話してみろよ。俺、超カリスマ編集者としての漆原雅についてはよく知ってるけどよー。誰かの女としての漆原雅は知らねーんだわ。しかも付き合ってる相手がお前みたいな腑抜け野郎だったら、めちゃくちゃ面白い展開じゃねーか。美人てきぱき編集者とどこぞの馬の骨ともわからん若輩小説家——うん、下手な小説のサブタイっぽいな。酒の肴ついでだ、話せ」

 一応殴ったことと僕の涙目に気遣ってくれているのか、「ほらよ」とコップを口元に押しつけられた。中には水が入っていて、ひやりと唇に冷たさを感じる。喉元にたまる不快感を断ち切ろうと、一気に冷水をあおった。胃にはさらに水の質感を感じるようになったけど、吐き気や不快感が去ってすっきりした。

KEIKA★な僕5 ( No.112 )
日時: 2011/08/18 08:16
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
参照: 戸坂=とさか


 涙の残滓がまだ残っていたけど、自由奔放な態度をとる白場を睨みつけようと顔を上げる。酒もちょうど良い具合なのかにたにたと妙な笑いを浮かべている友人は、片手をひらひらと振るだけで僕に語る権利を無理やり押し付けてきた。畜生、何か悔しい。彼女とのことなんて話したくねー。
 ——けど、彼女に対する不安をぶちまけたい僕もいる訳で。
 崩れた体勢だったので、ちゃんと座り直す。口をついて出てきたのは、あまりに弱過ぎる彼女への。

「……彼女は僕の告白を受けてくれたし、僕の小説家としての力も伸ばしてくれてる。彼女のことは大好きだし、信じたいって思うから、この幸せは噛みしめてるよ。……でも、時々思うんだ。本当に彼女は僕のことが好きで、彼氏にしてくれたのかなって。単に僕がしつこかったから嫌々オーケーしたのか、小説家としての僕を失いたくないからなのか——って。……今回の結婚の約束も、僕の小説が単純に仕事として受け取りたいだけで、ほんとは僕のこと……嫌いなんじゃないのか、って」

 この考えは、今に始まったことじゃない。
 まだ、小説家という重き仕事から逃げてるような若い僕に、仕事を何でもてきぱきこなすカリスマ編集者である彼女。僕らの間のつながりは、彼氏と彼女を抜きにしたら小説家と編集者しか残らない。僕と彼女のつながりはその程度で、しかも好きだとはっきりと告げているのは僕だけ。彼女は「はいはい」と呆れたように笑うのみ。
 僕なんて奴と付き合わなくても、彼女は美人だから僕よりイケメンの男、経済力のある男など好きに選べるだろう。だというのに僕のしつこいアタックを受け入れたのは——僕が小説家で、彼女がいないと小説を書けないって言ったからだろうか。駄目な小説家だから私がついていないと——過保護な母親のような、彼氏と彼女からは離れた、そんな愛情につなぎ止められているから、だろうか?

「お前の結婚の約束について知ってる。雅ちゃんに言われたしな、この前」
「え、まじ? 何て言ってた?」

 ——え、ちょ、何を言ってたんだ!?
 ぴくりと彼女レーダーが反応する。白場は瞳をきらめかせて答えを待つ僕を溜息で迎えると、近くのビールの缶を開けた。

「私みたいなのとの結婚で士気あがってくれるなら嬉しいけどね、だって。そんで……」
「う、嬉しいだって……! そ、それで?」
「…………出来たら、白場君との結婚も————」
「顔を土気色にしてまで続きを言わなくて良いわ畜生っ!」
「んじゃ、それは置いといて、と。それでお前の結婚について詳しく聞いたらなぁ……」

 一旦、白場の言葉が止まる。酒を口にするのかと思いきや、何か考え込むような仕草になった。「……いや、これは言ったらつまんねぇよなぁ……ただでさえいちゃつきカップルなんだから少しぐらい愛の障害って奴を……」と何やらぶつぶつ独り言をほざいている。
 やがて考え込むポーズから普通の姿勢に戻り、あっけんからんと言った。

「ま、良いや。気にするな親友」
「ちょ、良くねぇよ!? こんな時ばっか親友って言葉使うなよ! お前との結婚より僕にとっては彼女の言葉の方が……」
「うっせ、ゲイは散れ」
「はい残念でしたー! お前もネタにされてますぅー! 僕だけじゃないですぅー!」
「だからうるせーっつってんだろ。……てかお前、自分で言って言葉の意味を噛みしめて細々と泣くなよ。俺が苛めてるみてーじゃねぇか」

 ふいっと白場は横を向いて缶に口をつけ、すすった。僕はビールよりもチューハイの方が好きだから、柑橘の豊かな香りと表示されてある缶を一つとり、プルトップに指をかける。
 ……と、そこで白場が横を向いているというよりは、何かを見つめていることに気づいた。無言で何かを見つめる白場の視線を辿ってみると、壁にかかっている高校の時の集合写真に到着した。僕もこいつも同じクラスだったせいか、昔のことを振り返って懐かしく思っているのだろうか。
 何か思い出話のひとつでもすべきか否か、と悩んでいると、白場の方から口を開いた。

「お前さ、俺の彼女について知ってるよな」
「? みつきちゃんのことだろ? みつきちゃん、小学五年生の時に引っ越してきたよな。田舎の僕たちから見たら、都会のお姫様ーって感じで、可愛くて、クラスのアイドルで。……それからずーっと、僕とお前とみつきちゃんで仲良くて。一番の思い出は、よく中学の時に帰り一緒に待ち合わせして、アイス食べながら帰ったことかな。まぁ、お前とみつきちゃんが付き合うってことになったら、僕さすがに気を遣って二人きりにしてあげましたけど?」

 まるで人形みたいに白い肌に、細い手足。薄いピンクに色づいた唇をほのかに動かしておとなしそうに笑う美少女——みつきちゃんこと戸坂みつきちゃんのことを思い出すと、胸が暖かくなる。小学生の時に僕と白場のクラスにやってきた彼女は、中学高校大学続けて仲の良い幼馴染だ。僕と白場とみつきちゃんは、今でもずっと仲良しだ。
 白場とみつきちゃんは、中学生の時に白場から告白したらしく、現在も恋人の関係だ。三人のうち二人が恋仲になると残る一人はハネにされるともっぱらの噂だけど、二人はそこまでお互いにべたべたしなかったので、むしろ僕が二人の仲を心配してたぐらいだ。みつきちゃんに言わせると「恋人も大事だけど、いーちゃんみたいなお友達も重要なんだよ、私には」ということらしい。
 
「初めは、お前とみつきちゃん……白場いつきと戸坂みつきだから、つきの部分が似てるってことで仲良くなって。そこにお前が女と一対一で友達なのは照れるって言ったから、僕も入って。みつきちゃんとか、僕の因幡のいといつきのいが同じだから、いーちゃんって呼んだら二人振り返っちゃうよねって焦りだしてさ? 僕とお前、その言葉に大爆笑して。……結果的にはお前はいつきって名前で呼ばれて、みつきちゃんの彼氏。何か、娘を嫁にやる父親の気分だよな、これって」

 グレープフルーツの香りが甘酸っぱい青春時代の思い出と合っていて、妙にみつきちゃんと話したくなった。……いや、一週間前ぐらいに会ったけど。でも原稿で修羅場中だった僕はあいにく記憶が曖昧だ。「いーちゃん、大丈夫!?」と慌ててコンビニでおにぎりやパンを買ってきてくれたのは覚えてるけど。
 僕が思い出を語っている間、白場は特に口を挟まなかった。普段なら「別にお前のおかげで付き合った訳じゃねぇ」と一喝くるはずなんだけど。
 先ほどまで饒舌だった悪友の様子が可笑しくなってきたので、僕の方も必然的に口数が少なくなる。


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