ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 【完結】音符的スタッカート!【しました】
- 日時: 2012/02/02 19:27
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
- 参照: http://sasachiki.blog.fc2.com/
そして「わたし」と「私」と「僕」は。
望んだハッピーエンドへと、飛び込む。
*
>>188■完結しましたのでお話でも。
原点回帰っていうより、原点退化っていうか
というわけで久しいささめです
■お客様でせう
*メモ帳(95)様 *かしお様 *真飛様 *朱音様 *今日様 *ハナビ様 *遮犬様 *蟻様
*nanashi様 *とろわ様 *匿名の流星様 *ソルト様
■本編
・起・
>>01>>02>>4>>10>>12>>17 — 小説家(仮)なわたし
>>21>>31 — 陸上部な私
>>33>>39>>40>>49 — 小説家な僕
・承・
>>54>>59>>60>>61 — 思想中(微)なわたし
>>63-64>>66>>68 — 試走中(殆)な私
>>70>>80>>81 — 死相中(終)な僕
・転・
>>85>>88-90 — KENKA☆なわたし
>>92-93>>98-100>>102-104— KANKA*な私
>>105-106>>110-114 — KEIKA★な僕
・結・
>>116-121>>124-126>>129-131— 最後まで夢見がちなわたし 終了
>>134-136>>139-140>>144-147 — 最後まで手を伸ばす私 終了
>>151-160>>162>>165-168 — 最後まで大好きな僕 終了
・エピローグ・
>>172-173 — そして、歩き始めた僕 終了
>>174-176 — きっと、駆け出し始めた私 終了
>>180-184 — だけど、書き始めたわたし 終了
■おまけ?
登場人物の名前の読み仮名 >>11
キャラに贈りたい曲
☆主人公その一、私へ >>107
☆主人公その二、衣食りりるへ >>108
☆主人公その三、笹宮因幡へ >>109
転の前に少しお礼をば。 >>115
謝礼 >>150
*2010/09/08 21:40に執筆始めました。
やっぱこのスレタイすっきりして落ち着きます。
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- KANKA*な私7 ( No.103 )
- 日時: 2011/08/13 23:21
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: 一族滅亡☆キック
涼ちゃんに、一緒に居られないということを告げた後。
彼女は一言だけ、言った。私じゃなくて桐島さんを選ぶんだね、と。選んだつもりは毛頭なかったんだけど、涼ちゃんにとっては自分は切り捨てられたのと同じらしかった。
次の日から、私と涼ちゃんは全然喋らなくなった。喋らない、じゃない。喋られないってのが正しいけど。えみちゃんは私の様子——涼ちゃんと気まずくなった私を喜んでいた。自分を選んでくれたと勘違いして。
「私があんたを選んだのは——ただ、自分の正義感を貫きたかっただけなのに。そこには、友情も愛情も、何ひとつなかった、のに」
えみちゃんと涼ちゃんの仲は、私がどちらかにつくことによってだんだんと鎮火していった。……私が選択したら、もっと早くに二人の仲は改善されていたんだと遠まわしに言われてるみたいだった。
えみちゃんと涼ちゃんの仲が良くなるにつれて、クラブ内の雰囲気も良くなっていった。先輩達はえみちゃんに対してまだ少し距離を置いていたけど、きつい対処はとらなくなっていた。えみちゃんもえみちゃんで、先輩に対しての態度が良くなった。
でも、その代償に私の環境は悪くなっていった。
まず、えみちゃんが涼ちゃんの隣によくいるようになった。クラブに行くことが苦痛に感じ始めた頃に、私はその光景をよく目にするようになった。
(二人は確か、お互いに嫌い合っていたはずだ。えみちゃんなんか、特に。何で、何で嫌いだって言ったのに、私がいなくなったら涼ちゃんのとこにいるんだよ)
違和感を感じてはいたけど、笑顔のえみちゃんには言い出せなかった。えみちゃんは私と涼ちゃんがどうなったかを知っているくせに、嬉しそうに彼女と喋ったことを私に語った。
私は一応、涼ちゃん以外の子と話していたけど、その子たちも私と涼ちゃんの仲がどうかを察していたらしい。いくら会話をしていても、微妙な雰囲気だった。私は違和感を感じる日常を過ごしながら——やがて、ぼんやりとわかった。
(あぁ、そっか。えみちゃんは、涼ちゃんの隣っていう私の居場所を——奪ったのか)
しばらくは、絶望の毎日だった。でも時間は私の個人的事情に関係なく、ゆるやかに過ぎてゆく。えみちゃんは私より涼ちゃんと多くいるようになり、私はクラブ内で一人になる回数が増えていった。
居心地の悪さを、唇を噛みしめることで、泣きそうになりながら耐えていた。唯一ありがたかったのは、涼ちゃんと仲が悪くなったからといって、彼女のおかげで出来た友達の態度は変わらなかったことか。
今となっては良かったと感じるけど、涼ちゃんとえみちゃんは同じクラス。私は別のクラスだったので、何とか顔を合わせずに済んだ。
そして、同じクラス内で仲が良い友達は彼女のおかげで多かったので、クラスでは笑顔で過ごすことができていた。
「……てか、顔合わせたらえみちゃんに殴りかかりそうだったからなぁ。涼ちゃんとは目も合わせられなかったし」
クラスでは希望、クラブでは絶望を味わう、最悪の二ヶ月。ときどき登校拒否になりそうになりながら、でも両親に許してもらえないのはわかっていたから、吐きそうになりながらクラブに臨んで、しかし辛くて堪らなくて大好きなバスケを辞めて————高校生活至上最悪の極み。
そんな中、衣食りりるはあの先輩に出会ったのだ。
(っはは、初めの印象は変な人、だったなぁ……)
たまたま、だった。退部届を顧問の先生に提出するために職員室の前で待機していたら、たまたま。
九月の初め、二学期がまだ始まってまもない頃。茹だるような残暑に体をさらして、額の汗を拭って一息つくと。
目の前に、段ボール星人(詳しくいうと、段ボールを山のように抱えていた。後に話を聞くと、生徒会の手伝いだとかちーちゃんのためさとかほざいていた。日本語キボンヌってこういうことだと思う)が立っていた。
段ボール星人は箱の側面に視界を奪われながらも、私の手元にある退部届を一瞥した。
『退部、すんの?』
『あ……はい、そうです。あの、段ボール持ちましょうか? 何か、いっぱいありますし……』
『段ボールは良いんじゃよ。段ボール好っきゃねん、だからねー。あのさー、転部するつもりはある感じっすか』
『好きなんですか、それはありがた迷惑でしたねすみません。……転部、ですか。出来たらしたいですけど……でも、今の時期じゃクラブの体系固まっちゃってるから、無難に美術部とかの幽霊部員でも……』
『愛してるね、あぁ愛してるさだって箱だもの! ……ふーん、んじゃ、陸上部なんてどうっすか』
『陸、上部?』
陸上部。この高校で初めて耳にした単語だった。これも後日談だけど、学校の陸上部はかなり昔は県の中でも一、二を争う超有名なクラブだったらしい。
でも、だんだんと生徒たちが陸上に興味を示さなくなり、幽霊部員さえいなくなり、新入生も陸上の存在を知らないまま他のクラブに入り——と、破滅の道を辿っていたという。破滅かはどうか知らないけど。
『そうだよん、陸上部。君さ、バスケ部ではちょいとした有名人でしょ。一、年、セイッ! ……なのに、レギュラーにも抜擢されたーとか。見た目可愛いから、バスケのアイドルーきゅぴきゅぴーみたいな』
『その辺は……知りませんでした……』
『だろうねー』
私の言葉にうんうんと頷くダンボール星人。顔は見えないけど、きっとどや顔してるんだろうなと理解。
段ボール星人は、茶色い箱をゆらゆらと危なげに揺らして言葉をつなげた。
『あんな楽しくないよーなとこにいたら、外のことなんて全然分かんなくなるよよね』
『…………え、あれ。元バスケ部ですか?』
『うんにゃ。こちとら現役女子高生および現役文芸部ですことよおほほ。……いやーね、単純に噂だよ。最近、女子のバスケ部の雰囲気が悪いって』
『っ』
君のことじゃないの? ……言外にそう告げられているような気がして、私は息を呑んだ。ねばっこい熱風だけが、喉を焼く。
黙りこんだ私に向かって段ボール星人が————いや、段ボールが地面へと置かれた。危ういバランスを保つそれを地面へと置いて一息。そして一言。
『うーんとさ。……わざわざそんな二酸化炭素だらけで呼吸しにくいとこでさぁ、一生懸命酸素求めて、自分に厳しくしなくて良いじゃん?』
そうして、彼女は私に一枚の紙を手渡した。
『だからー。陸上部で思い切り気持ちいー風浴びてさ、酸素取り込んでいこうぜ!』
『……い、意味分かんないです……』
意味が分からないと言いながらも、陸上部への入部届けを受け取ってしまった自分が、そこにいた。
- KANKA*な私8 ( No.104 )
- 日時: 2011/08/14 16:36
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: 蛇足だと思ったけれどどうしても付け加えたかった
*
「らっしゃーせー」という店員のやる気のなさそうな出迎えを片耳で受け止めて自動ドアをくぐる。すると、外気にさらされて冷たくなった私の頬を温風が撫でた。
ついつい頬に温かい何かしらが付着しているような気がして、ひやりとした指先で頬をなぞった。案の定何もついていなかったから、歩みを止めることもなく飲料コーナーへと進んでいく。
田舎の方のコンビニ、更に季節が季節のせいで店内はがらがらだった。私の他に二人ほど人気の少ないコンビニの中で暇をもてあましている。さっきの店員と同じようにだらだらとした雰囲気が蔓延していてお客である私を歓迎していないような。
——店長が出てきて、そんで両手を掲げて「ようこそお嬢さァん!」と言われたら、それはそれで嫌だけど。
想像してみると笑いがこみ上げてくる。くすりと笑うと、数少ないお客の内の雑誌コーナーで成人向けの本を堪能していたおじさんと目があった。慌てて口元を引き締め、早歩きで目当てのコーナーへと急ぐ。急に笑うなんて行動は挙動不審という枠にぴったり過ぎる。
(……えーと……何にしよう……)
思案するのは数十秒。制服姿(コート羽織ってるけど)の女子高生が、コンビニの中をうろうろするのは何となく良くない……気がするので商品を選ぶのは早めに。万が一、万引きだと疑われるのも何となく嫌だし。声に出して言われないとしても、妙な視線を向けられるのも困る。
無難にミルクティーを選択、炭酸系も欲しいのでレモン系の爽やかソーダをかごに放り込もうと思い、そこでかごを持っていないことに気付いた。
「あ、かご。かご持ってこなくちゃ」
——つい独り言が出てくるのは、きっとまだ夢の続きだと勘違いしてるせいだ!
かごの存在を忘れていた自分自身に言い訳して、くるっと冷蔵庫にかかとを向ける。自動ドアの入り口のところに、オレンジ色のかごが積んであった。
手をオレンジの取っ手へと伸ばし——外の景色を、顔を上げるついでに見た瞬間。
「……あ」
「…………」
ガラス越しに、八千代坂涼と目が合った。
涼ちゃんは私とは違って長袖のジャージだった。ポニーテールで細身の涼ちゃんには、紺色のジャージが似合う。多分クラブの帰りだろう。
外に吹いている風が吹雪に変わらないと、彼女の表情はあそこまで凍らないと思う。コンビニに入ろうとしていたのか、右足を不自然に出した格好で固まっていた。
瞳が大きく開いていて店内の私へと視線が釘付けだ。風が目に入ると結構痛いというのに、大丈夫なんだろうか。
「えっと、あの……りょ、じゃなくて。や、八千代坂さん……?」
と、空気を読んでいるのか、ここで自動ドアが静かに開いた。冷たい外気が鼻腔を刺す。
涼ちゃんではなく八千代坂さんと言いなおしたのは、私には彼女のことを名前で呼ぶ理由がなくなった気がしたからだ。
私の言葉に涼ちゃんは初め反応しなかったけど、自動ドアが開いたことで気付き、険しい顔つきになった。
やがて——渋い顔をしたまま、涼ちゃんは無言で元来た道を戻り始めた。バスケ部で鍛え上げられたであろう走力を生かして、全速力で。
「…………え、あ、ちょっと、八千代坂さんッ!?」
何故、彼女を傷つけた私はその背中を追おうとしたのだろうか。
涼ちゃんを引き止めようと、同じように走り出そうとする。でも、片手に掴んだかごを店外へ持ち出すのに抵抗を覚えて、私は紺の背中を見つめていることしか出来なかった。
ひゅるりと吹いた風が温かい店内へと入ってくる。自動ドアの前に立ったままの私を、レジの店員さんが迷惑そうに眺めているのが嫌でも分かった。
「っ、ちくしょー…………何でだよ……」
——やはり、私はまだ彼女に許されていないのだ。
実感したその痛みを平然と受け止められる程、私の心は強くは無かった。
- KEIKA★な僕1 ( No.105 )
- 日時: 2011/08/15 00:43
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: 長い。長いです。
とにかく。
書いて書いて書いて書いて書いて書いて食べて寝て書いて書いて書いて寝てうろうろして書いて書いてコンビニ行って彼女に怒られて幸せになって書いて詰まってだらだらして電話して彼女が部屋に来て嬉しくてきゃいきゃいして書いて書いて書いてだれて眠くてうつらうつらして殴られて仕事しろって言われてむせび泣いて書いて書いて書いて書いて書いて書いた!
はい、僕の近況終わり! ちなみにこの書いている間に時は新年へと移り変わりました! ザ・ワールドなんて使ってねぇ!
とにかく明けましておめでとうございます今年のジューンブライドはお楽しみにふふん!
「…………つッッッかれた……」
執筆中にため込んでおいたため息は、今日という日の為に用意しておいたのだ。心置きなく二酸化炭素を排出する。ぶはぁ。
ぼふんッと勢い良くベッドにダイブした。もう二週間ぐらいまともに睡眠してなかったので、睡魔に襲われる。あー……眠い。こらえきれられずに、ため息と同じぐらい大きな口を開けて欠伸する。まぶたが重くなってきたところで、「ッはッ!!」とベッドから飛び上がった。きょろきょろといつもと変わらない自室を見渡して——安堵する。
「そっか、僕……書いたんだ……」
ごろりと横になっても、もう誰にも文句を言われない。「あのさァーここまで書くって豪語してたのに書いてないよね、何でェ!?」と切れて殴りかかってくる担当(もとい彼女)は、昨日から僕の原稿を持っていったっきり連絡が来ない。仕事を終えた抜け殻(僕)には興味ないということか。僕の価値は小説だけ? そりゃちょっとっていうかかなり寂しいかも。
——まぁ、色々あったけど。つまりは……
「よ、よーやく小説書けたってことだー」
ちょっと辛いけど、キーを打ちすぎてふるふると微震する両腕を万歳のポーズで固めた。パソコンを使っている間ずっと駆使していた両腕の筋肉はほぼ限界に近い。右手なんてマウスと二刀流だったせいで、血管が浮き出ている。赤黒い色をした右手から目をそらすように(僕はグロが嫌いなんですって)、天井を仰ぎ見た。
「あぁぁぁぁぁー! ……自由、だ」
いつのまにか口元がにやりとひきつっているのを感じて、さらににやり。
昨日の夜。彼女と約束していた賞に応募する作品の執筆が————終了した。つまり、一本の小説を描き終えたということだ。内容についての言及はともかく、書けると見栄を張ったあの日から彼女との結婚式を目標にひたすら疾走また迷走してきたのだ。描き終えた嬉しさと達成感は半端じゃない。
しかも、先ほどから何度も口にしていたように、受賞すれば僕は彼女と結婚出来るのだ。「うわぁ、馬の目の前に人参吊り下げてるもんじゃないか」と他人から見れば嫌悪の対象になるんだろうが、僕にとっては人参と彼女のような女神を一緒にするなと怒ってやりたいぐらいだ。え、論点違う?
「と、とりあえず……メールを……」
うかったらめえるしてねまる、という幼稚園が打つようなメールを急いで送信する。
送信完了しましたの画面を確認すると、僕の意識は真っ暗な闇の中へと沈んでいった。あぁ、眠たい……。
*
「ねぇ、起きて因幡」
——んん、何だろう。僕はまだ寝ていたいのに……。
眠い目を擦りながらベッドから上体だけ起こす。
欠伸を噛みころして顔を上げると、目の前には嬉しそうに笑みを浮かべる彼女が立っていた。目を細めて、寝呆けている僕をおかしそうに見つめている。
「おはよう、因幡」
「え……えっと……? お、おはよう」
返答に疑問符が混じっているのは、けして僕が彼女を見てどうこう思ったからでは無い。
単に————この状況の整理がつかないだけだ。
「あのね……因幡はどっちが好きかな……私、因幡の好きな方にしたいな……」
「ふぇ? 好きな、ほう?」
ぽっと頬を朱に染める彼女。相変わらず可愛い。デッドヒート中のあの般若の形相(般若のような、とはあえて言わない)を忘れさせるぐらいだ。
——は? 僕の好きな方……って何だそれ?
眠りから覚めて間もない僕の目の前で、彼女は上目遣いでもじもじしている。照れているようだ。うわ、可愛い。やっぱり可愛い。小説家らしく多種多様の文章を巧みに使いこなして彼女の可愛さについて語りたいけど、前にも言った通り僕のボギャブラリーは常に言葉の在庫が無いので割愛。一番ポピュラーな可愛いとだけ表現しておく(いやだって彼女のファンが増えたら困以下略)。
——僕の好きな方にしたい。はて、それはどういうことだ?
謎だらけのその言葉をゆっくりと咀嚼しながら、僕の前で照れ照れしている可愛い可愛い彼女を頭のてっぺんから足の先までまじまじと眺める。
やがて、彼女は僕に片手をおずおずと差し出した。その片手には——
「——純白の、ウェディングドレス……だと……!?」
しかもフリル多め。だが露出はきちんとしている。胸と背が適度に開く、清楚なセクシーさを保った——ウェディングドレスだ。彼女は取り出したドレスを「どうかな?」と甘い声で聞いて、ベッドに未だ上半身起こしただけの僕の隣に置いた。ふわりと良い香りが鼻を掠める。僕は彼女の美しさと現状況の素晴らしさにこくこくと首を振るばかりだ。
ところで——ウェディングドレス……だと……(二度目)。ウェディングドレスってのは、つまりアレだ、用途は一つしか無い訳でして。ウェディングって言うからには、結婚式で結婚する人が着るアレな訳でして。んで、その結婚する人は必ずしも女性である訳でして、そんでそんで……!
「それとも因幡が好きなのはこっち、かな?」
「ッッ!? ……それは、日本古来の歴史より伝わる——白無垢、だと…………ッ」
彼女がどこからともなく取り出した白無垢を前にすると、何故かベッドの上で正座になってしまった。恐ろしきかな白無垢の力。
先ほどのドレスとは違い、白無垢はとても清楚できりっとして見える。いつも姿勢が綺麗な黒髪の彼女には、こういう和服も似合うかもしれない。夢が弾む。
拳を握り締めて解説(もとい興奮)している僕の反応を窺っているのかいないのか、彼女はドレスの上に白無垢を重ねた。「どう?」と聞かれる。僕はまた首振り人形のように首を上下に振った。
「因幡、ドレスも白無垢にも何も言わないけど……もしかして、嫌、かな……」
「嫌な訳がないッ! むしろ大歓迎だよ、てか君がそんなに結婚に対してポジティブかつ積極的だなんて——」
- KEIKA★な僕2 ( No.106 )
- 日時: 2011/08/15 17:01
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: 因幡くんにイラッとした人は正常です。
——嬉しすぎるだろう、という言葉をこらえて、僕は至って真面目な表情を作った。ハァハァと荒い息をする僕がこんなこと言ってもただの変態だ。いつもの僕の真摯な雰囲気が台無しではなかろうか。
僕が大声で否定したせいか、彼女は「嬉しい……」と愛しげに「因幡……」と名前を呟き、ごそごそとポケットを探り始めた。もしかして、そこから結婚式の衣装は出てくるのだろうか。何て夢のある光景だろう。さすが彼女、漆原雅。彼女はやはり天使なのだ。天使。天使だから、彼女の頭上にある神々しい円状の何かしらはきっと天使の輪なのだ。背中から射す光は、神様のお恵みなんだ。すげぇ!
「……じゃぁ、これはどうかな?」
「え、君。……こ、これって……」
雅まじ天使、と呟いていると——僕の目の前に、新たな結婚式衣装が出された。彼女は小首を傾げて僕の返答を待っている。
結婚式の衣装として僕の好みに合うか否か、ベッドの上に載せられたそれを手に取り、しっかりと観察する。
触ってみると生地は——ポリエステルを想像させる。吸水性に期待が出来る。肩の辺りをざっくりと切り、太ももがばっちり見えるような大胆なデザインだ。
胸のところには白い布が縫い付けられており、油性のマジックで書かれ、「三年二組、うるしばらみやび」と可愛らしい字だ。色は紺色で、さっきまでの白色の衣装とはまた異なる。薄く弾力性がある胸の辺りの生地の裏には柔らかい二つの小さな山があり、いつか遠い昔に体育の水泳の授業で目にしたことのあるその衣服はまるで————
「————ってスクール水着じゃないかっ!!」
まるでというよりもろスクール水着だ。スクール水着というジャンルに直球どストライク。ストライクすんじゃねえ!
成人男性が持っていたら確実に逮捕される物ベストエイトに入る紺色のそれを手にしたまま、僕が彼女に問いかけようと顔を上げる。
すると、
「因幡……こういうの——どうかな」
「ッぶはッ!?」
鼻すれすれのところに、潤んだ瞳で僕を見つめる彼女。その衣服は——黒網タイツのミニスカナース。犯罪の香りがほのかにする。もしもこの状況で僕の母が部屋に武力介入してきたら僕はひとたまりもないだろう。僕との血縁関係があるかどうかを疑問に誘うような冷たい視線を母からプレゼントされるか、はたまた素直に警察へ母が速やかに連絡するか。出来たらカツ丼は食べたくない。
——なんて……こったい……!?
彼女の魅惑過ぎる太ももに目を奪われつつも、何とかまともな風体を装うと頭を抱える。これで誰が部屋の中に入ってきても「ナースな彼女と一緒に考える人の真似ごっこをしていたんだよ」と言い訳が出来る。ふぅ。
「あの……さ、どうしたの、その格好……」
「因幡お兄ちゃんはは、こういうの嫌いかな?」
「いや、むしろ大好き——って、え? 因幡……“おにいちゃん”?」
——おにいちゃん……だと?
にまーっと満面を笑みを浮かべている彼女に、眉をひそめた。
一言言っておくが、僕は今まで彼女に妹になってくれと土下座したことも、年下趣味だったこともない。ましてや大人っぽい彼女に妹属性を押し付けるなど。けして妹属性が嫌いなわけじゃないが(彼女ならどんなのでも良いけど。例えばなまこな彼女とか。うじゅるうじゅる言う彼女とか)
……うーん、どうも可笑しい。何か、彼女が可笑しい。初め辺りは全然全くこれっぽっちも不自然ではなかったのに。
「……えっと、お兄ちゃんってどういうこ——」
「——え、なぁに? おにぃちゃん」
「——え、何よ? この雄豚」
「え!?」
彼女に質問した僕の目の前に立ちはだかるは——おかっぱ黒髪ランドセルな、小学校低学年ぐらいの女の子。
隣には、金髪ミニスカートナース。ちなみに金髪美女さんの方は鞭を片手に構えている。どちらも、僕のよく知る彼女とは程遠い人相をしている。
ひやりと首筋に冷や汗が伝う。一体これはどういう状況だ。ネットでよく言う「これ何てエ口ゲ?」という言葉が脳内で反芻される。
「おにーちゃん、だめ?」
少女の方が、僕の方に短い腕を伸ばす。幼いくせして、その表情は色っぽさが微かににじんでいる。
——手を出したら犯罪だぜ。
幼い少女から逃げるように、僕は隣にいる金髪美女の方に身体を向けた。
「調教してあげるわ、来なさい」
金髪さんの方が、僕の方に鞭を向ける。びしぃッと鞭の音が空しく僕の耳に響いた。舌なめずりをされる。
——僕はマゾではないんだけど。
更に逃げようとして、逃げた先には先ほどの少女。やばい、ベッドの上に行動範囲を限定された僕は動けなくなった。背中から感じる壁の感触がひどく切ない。
「おにーちゃん……」
「雄豚……」
タイプが逆方向の女性二人が、頬を赤らめて僕の方へと顔を寄せる。
ひくりと表情がひきつる僕は——迫ってくる女性二人に対して、一言だけ、はっきりと叫んだ。
- ■贈りたい曲1 ( No.107 )
- 日時: 2011/08/15 22:31
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=2x8uxa0ksDw
■キャラに贈りたい曲
☆主人公その一、私へ
⇒BUMP OF CHICKEN/才悩人応援歌
本当は、某ボーカロイド曲の自由に歌ってみた感じのかなりはっちゃけたのを用意してた(というか一番推したかった)のですが、世間の風当たり強そうなのでやめときました。ふんどしとかさすがに帰れって言われそうでしたので。……うお、こんなところで少しの後悔が。
歌詞については色々大人の事情があるので割愛。動画上で見てくだされば、主人公の気持ちとリンクさせちゃったり読者の方々の気持ちとリンクさせちゃったり出来るのではないか、と。とりあえず聴いてみれば良いじゃない、その後ささめに軽蔑ちっくな視線を投げかければ良いじゃない。蔑まれるのが良いんじゃない。
自分には才能がないんだと、平凡なんだと分かっている。
声援なんて素敵なものはないくせに、逆光ばかり浴びてしまう。
夢を忘れたくて諦めたくて必死なのに、どうしても夢を全力で追いかけたい。
本編中では明るい表情ばかり際立って「私」の必死な感情は表に出ませんが、この曲のおかげでちょっとでも「私」の別の一面を感じていただけたら嬉しいです。
誰か大切な一人の為に歌を紡ぐのも、正しい決断なのではないでしょうか。
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