ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 【完結】音符的スタッカート!【しました】
- 日時: 2012/02/02 19:27
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
- 参照: http://sasachiki.blog.fc2.com/
そして「わたし」と「私」と「僕」は。
望んだハッピーエンドへと、飛び込む。
*
>>188■完結しましたのでお話でも。
原点回帰っていうより、原点退化っていうか
というわけで久しいささめです
■お客様でせう
*メモ帳(95)様 *かしお様 *真飛様 *朱音様 *今日様 *ハナビ様 *遮犬様 *蟻様
*nanashi様 *とろわ様 *匿名の流星様 *ソルト様
■本編
・起・
>>01>>02>>4>>10>>12>>17 — 小説家(仮)なわたし
>>21>>31 — 陸上部な私
>>33>>39>>40>>49 — 小説家な僕
・承・
>>54>>59>>60>>61 — 思想中(微)なわたし
>>63-64>>66>>68 — 試走中(殆)な私
>>70>>80>>81 — 死相中(終)な僕
・転・
>>85>>88-90 — KENKA☆なわたし
>>92-93>>98-100>>102-104— KANKA*な私
>>105-106>>110-114 — KEIKA★な僕
・結・
>>116-121>>124-126>>129-131— 最後まで夢見がちなわたし 終了
>>134-136>>139-140>>144-147 — 最後まで手を伸ばす私 終了
>>151-160>>162>>165-168 — 最後まで大好きな僕 終了
・エピローグ・
>>172-173 — そして、歩き始めた僕 終了
>>174-176 — きっと、駆け出し始めた私 終了
>>180-184 — だけど、書き始めたわたし 終了
■おまけ?
登場人物の名前の読み仮名 >>11
キャラに贈りたい曲
☆主人公その一、私へ >>107
☆主人公その二、衣食りりるへ >>108
☆主人公その三、笹宮因幡へ >>109
転の前に少しお礼をば。 >>115
謝礼 >>150
*2010/09/08 21:40に執筆始めました。
やっぱこのスレタイすっきりして落ち着きます。
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- KEIKA★な僕6 ( No.113 )
- 日時: 2011/08/18 08:26
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
「……みつきと付き合って、もう十年近く経つ」
のろのろと呟かれたのは、僕のお酒が少なくなってきた辺りだった。
つまみを摘む指を止めて白場の方を見る。白場はビールの缶を横に置いて、膝を立てて座っていた。
「中学から付き合ってるんだったらさっさと結婚しろ——オカンも親父もなんて実家に戻るとすぐそれだ。昔、同クラスだった奴らも、ふと道端で会うといっつも言われるんだよなぁ……最近、特に」
「え、お前のかーさんそんなこと言うわけ?」
「言う言う。この前とかよ、オカンに『いつきとはいつ結婚するの?』とか訊かれてよ。みつき、顔真っ赤にして……料理中だったから持ってた包丁取りこぼして、床にぶっすり。危ねーっつの」
思い出して笑えてきたのか、口元がつり上がる。うーん、どこまでも凶悪なその表情に敬礼するしかない。
「いる?」と手元にあったくんさきを手渡すと、白場はまた手をひらひらさせてやわらかく断った。今気づいたけど、どうやらこいつはザルのくせして酔ってしまっているらしい。口数が減ったのはそのせいか。 普段酔わされる僕(主に白場がビールを押し付けてくる)にとっては、酔うこいつってはかなり珍しい。
動物園のライオンを見るみたいだ。にやにや笑いと好奇心を隠して、質問を投げかける。
「……んで、本気でいつ結婚すんの? もう十年も付き合ってるんだから、お互いに結婚したいんじゃないの?」
「ダウト」
ビールを持つ指を駆使して、僕の方に中指を突きつけた。ぐ、と僕は突き出された中指にたじろぐ。
白場はビールの泡だけをすするように飲んだ。乾いた唇が濡れ、つらつらと続きの言葉が流れ出す。
「お前が一番よく知ってるだろ。……中学三年生の時に、高校になったら離れるかもしれないって焦って告白して、受け入れたような……時間に流されちまうような、亀みたいに動きの遅い俺達だぞ? 今まで——少なくとも俺が告白した瞬間までは、お互いに現在のラインを超えるべきか守るべきか必死だったんだよ」
「それはまぁ……知ってるけどさぁ」
言われて、少し物思いに耽る。確かに、カップルになったと本人たちの口から聞かされるまで、僕はずっと異性であるみつきちゃんに対しては友達感覚だった。時々、微笑にどきりとしたこともあったし、こいつとみつきちゃんの雰囲気も良いなと考えたことも少なくはない。それでも、こいつらが付き合い始めたことに驚いたのは事実だ。
「だろ?」と疲れたように喉を震わせると、白場はもう一度、壁にかけてある写真を見た。
「結婚しろ? いつになれば家庭を築くんだ? ……んなこと言われたって。ようやく……十年間かけて、やっと友達から恋人ってとこまで引き上げたのに。……そんで結婚なんての押しつけられても、俺達二人とも固まっちまうんだよ。俺達のお互いを思いやる感情に、結婚っていう枠を当てはめて良いのかがわかんねぇ」
「枠ってお前。結婚ってもっとこう、ほのぼのしたハッピーキラキラ—! ……って感じじゃね? お前ちょっと考え過ぎだろ。小説書き過ぎて脳みそ疲れてんじゃね?」
「…………因幡てめぇ、最後の言葉は俺じゃなかったらぜってー今殴られてるぞ」
「ははっ、当たり前だろ? 何で悪友の白場いつきサマに対して礼儀をわきまえなくちゃならないんだっつーの」
「っは。正論過ぎて笑うしかねーな」
「だろ!」
にひり、とつまみを噛み過ぎて疲れた頬の筋肉を稼働させて、快活に笑ってみた。胃の中の液体が音を立てて揺れる。
僕の冗談めいた言葉にこいつは気が緩んだように肩の力を抜いた。苗字の通りに真っ白な髪の毛をくしゃくしゃと掻き立て、「あぁ!」と弱音を吐いていた自分の失態を取り払うように、喉を鳴らして酒をあおる。時計を見るともう午後十時を回っていた。おかしい、もう一時間経ったとでも言うのか神よ。
「あー、もう十時だけど。どうする、今日はうちに泊まるか?」
「そうだな……まぁ、ちょうど眠くなってきたしな。それに酒抜きたいし、シャワー借りるわ」
「おうおう借りろ借りろー! 風呂場に行って驚くなよ……貴様の印税では所詮メリットを越えられまい……!」
「残念、椿派だ」
「な……ナンダッテー!」
- KEIKA★な僕7 ( No.114 )
- 日時: 2011/08/18 18:37
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
妙にテンションの高い会話を繰り広げながら、僕は脳みその端っこを使って、さっきの白場の言葉について考えていた。
——枠をはめて良いのか……ねぇ。
脳裏に彼女の笑顔が浮かぶ。出版業界では、仕事が出来て有能さらに美人と褒め言葉しかくっ付かないような彼女。僕みたいな未熟な作家に対しても、自分の信念を貫いて真摯に指導してくれる彼女。才能、魅力、スキルという点では彼女は誰にも引けをとらないだろう。たとえ凡人では無理なものでも、彼女は自身のポリシーだからという単純な理由で全てをこなしてしまう。
——だからこそ、こんな僕の彼女でいてくれることが。
「おい、因幡」
「っ!? ……あ、うん、いや、何だよ」
——あれ、今僕……何て言おうとしてたっけ?
ぼんやりとしていたところを、廊下から顔を出す白場によって現実に引き戻される。白場はすっかり通常運転になっていた。眉をひそめて、僕に不機嫌そうに言う。
ちょっと待ってと持っていた缶を床に避難させて、立ちあがった。どしどしと大股で歩いて行く白場の後を、酒が回ってふらふらする足取りでついていく。
「タオルどこだ。後、石鹸切れてるから新しいの出す、どこにある」
「えっと……タオルはそこの積んでる奴使って。石鹸はたぶん、流しの下」
「そうか、分かった」
風呂場の前で、白場の質問におろおろと対応する。彼女のことを考えながら行動すると、僕の動きは鈍くなってしまうということを石鹸を床に落としたことで実感した。
白場がもそもそとシャツを脱ぎ始める。照明が点いた風呂場を後にしながら、僕は考える。日頃、彼女への愛で浸食されている脳みそで、彼女への疑問を。
——彼女は、僕のこと……どう思ってるのかな。好き? 嫌い? それとも、ただの小説家? ……最後の答えだと、ちょい切ない。
本人に訊かないと分からないのに、何をうじうじしてるんだ。お前はいつも彼女に好きだって言ってるじゃないか。いつも通り能天気に聞けばいいだろう。
——違うよ、これはいつもの好きとは違うんだ。好きの中に疑問が混ざるなんて、今までなかったよ。
何言ってんだ。でも圧倒的に好きの方が割合を占めてるだろう? 彼女のことが好きだろう? じゃぁ、無邪気な顔をしていろよ。普段の笹宮因幡らしく、冗談みたいに愛を振りまいてろ。そうすれば彼女の方もお前のことを本気に考えない。
——考えないのは嫌だよ、本気で僕のこと、結婚について考えて欲しいよ。このもやもやも、はっきりしたい。いつまでも、こんなあやふやな関係は嫌だよ。
良いのか? そんな、はっきりした線引きをしようとして。
そんなことしたら、お前も白場みたいに————……
「彼女を枠にはめることになる、か?」
「ぶっっっ!?」
口に含んでいたチューハイを思い切り噴き出す。げほげほと床に手をついてむせていると、白場は目つきの悪い瞳を普段以上に歪ませて、転がったチューハイの缶や吐き出された液体を睨んだ。涙目継続中の僕は、どくどくと大きく拍動する心臓を握るように胸に手を当てて、何とか声を絞り出す。
「おま、シャワー……っ!?」
「あん? 浴びてきたっつーの。締切直前の小説家がどれだけ風呂早いか思い知らせてやった」
「…………あぁ、そう……けほ……」
梅独特の酸味と風味が鼻の粘膜を刺激する。炭酸が気管にこびり付いていているような気がして、僕はしばらくむせていた。
その間、目の前のこいつは、目を潤ませたままの僕の前で白く濡れた髪の毛を持っているタオルでわしゃわしゃと雑に拭いていた。一言も発さない、白場が酔っていた(と思わされていた)状況を思い出させる、沈黙の時間だった。
しばらくし、僕の喉を刺激するものが無くなった頃——先に言葉を発したのは、どこまでも悪人顔である僕の友人だった。
「お前、俺の言葉を聞いたからって、漆原雅との結婚の約束を断ろうとか思うなよ」
「あっほー! 何言ってんだ、誰もが羨むラブラブランデブーな美人彼女だぞ? ……誰が、手放すかよ」
「そうか。お前がいつもより更にへなっちょろい顔してるから、てっきり漆原を諦めるかと思った。余計なお世話だったか」
体格の良いこいつがソファーに座ると、それだけで重圧を感じる。長年の友人だというのに、小学校の時から変わらない。
その、一見棘しか見当たらないようで、お前の彼女か僕しか分からないような——本当は相手を気遣っている言葉もだ。
「結婚は確かに、それまでの曖昧な恋人たちをはっきりとさせる。それは当然のことだ」
しみじみと語る白場は、まるで自分のことのように言っていると思う。床に避難させておいた酒はとっくのとうに温くなっていた。こいつの話を聞いていると、みつきちゃんの笑顔を思い出す。きっと、こいつがみつきちゃんのことを想いながら言葉を紡いでいるからだと思う。
「でも、それと引き換えに——本ッ当に温かくて大切な何かを、はっきりと両手に実感出来たりするってのが……結婚、だよな」
——そんなに優しそうに笑うんだな、みつきちゃん関係だと。
笑顔を般若に変える危険性のある言葉を飲み込む。こいつ、ちゃんとみつきちゃんに言ってやれば良いのになぁ。……結婚したい、って。
遠まわしにのろけられた気がして、僕はあえて軽口を叩いた。
「…………何か、えぐいことに定評のある白場いつきの言葉とは思えないなぁ……。おい、中の人出て来い、中の人!」
「うっせ、因幡カップル」
「お前……因幡とバ.カップルかけたな畜生」
「私の秘書が全てやったことです」
「記憶にございませんとか言ったらのめすからな!?」
——結婚しよう、そんで、そんで……!
結婚という、幸せの門へ辿り着くために。彼女へのもやもやは、とりあえず横に置いておく。
僕が今考えたいのは、きっと、彼女にこの思いを上手に伝えられる言葉だと思うから。
そのことに気付かせてくれたこの性悪男には……まぁ、感謝をしないでもない。面と向かって言うのは負けた気がするので、心の片隅でこっそりと。
「よっしー、…………ハッピーエンド、行くぜぇ!」
小さく決意をしたのは、言うまでもない……よね。
*
そうして、三月の初め。
僕は、結婚の約束がかかっていたあの賞を、受賞した。
- ■さてさてーん ( No.115 )
- 日時: 2011/08/19 08:28
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
「もしもお前が道端で怪我をして救急車を呼ばれても絶対に俺はついて行かない絶対にだ」と兄貴に言われたので小一時間そのことについて語り合ってました、どうもささめです。
さてさて、ついに物語の方も佳境っていうんですかねこれ。起承転結の転も終わった訳ですが。こんなんですが一応転終わりました。「展開速い」とか「結局何が言いたいの?」とか「はかせは俺の嫁」は一応ちゃんと分かってるつもりなのでというか最後の奴は前出ろ前だ。
ちょっと落ち着かせてもらいます。ふーはー。
「私」はちーちゃんへ。りりるちゃんは涼ちゃんへ。僕は彼女へ。
それぞれの主人公がそれぞれのヒロイン(え、ヒロイン?)へとまぁ色々ワカチャナドゥし始めました。つまりまぁ色々起承転結でいう転っぽい展開になったってことですね!! よし分からない、良いぞ、分からないぞ!! ……すみません、何か言うべきことが見つからん。
兎に角、これからラストパートです。
夏休みも終わると思うので更新速度遅くなると思いますが、絶対に書ききってやりてぇなーと。予想以上に書いてて楽しいのとコメントと参照のおかげっす。
いつも読んでくださる方、今回初めて読んでくださる方。そしてコメントを残してくださった方々。本当に有難う御座います。常に書く糧にさせて頂いてますw本当に辛い時にタイミング良く皆様コメントしてくださるので、有難いばかり。感謝してます!
ラストも、スタッカートと共に付いて来てくれれば嬉しいです!
後、ちょっと付け加えを。
これ全部終わったら、ちょっとしか出てない子達とかの短編ぽいぽいしたいなーと。デヴァイスさん(覚えてますかね)とか、りりるちゃんと「私」とか、僕と彼女のあれやそれとか。個人的には一番、白場のいっちゃんとみつきちゃんの小話が書きたいです。笹宮カップルの次に幸せにしてあげたいカップル。
というわけで、引き続き宜しくお願いします。
- 最後まで夢見がちなわたし1 ( No.116 )
- 日時: 2011/08/19 08:32
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
とにかく。
勉強して書いて勉強して書いて大学勉強して書いて大学入学の勉強して書いて大学のために勉強して書いて自分のために勉強して書いて食べて寝て書いて書いて勉強して書いて寝てうろうろして書いて書いてコンビニ行って母に怒られて弟に引かれて両手振り上げて講義して書いてだらだらして書いて書いて勉強して勉強さらにして書いてだれて眠くてうつらうつらして早めに寝て父に勉強しろって言われて切れて弟と同じように引かれて勉強して勉強してむせび泣いて書いて書いて書いて書いて書いて書いた!
はい、今日の私に到達するまでの道のり終わり! ちなみにこの受験勉強と小説のコラボを繰り返している間に時は新年へと移り変わった! ザ・ワールドなんて使ってねぇ!
「…………何か、どっかの誰かとめちゃくちゃデジャヴしてる気がする……」
欠伸を噛み殺しながら、席を立つ。夜の間ずっと座っていたせいで、固まった腰からべきべきと音が鳴る。目はパソコンの光を長時間浴びていたせいで痛みを発していた。立ち上がった瞬間ぐらりと眩暈がしたのは、最近まともに寝ていない私の体とのお約束だ。良い物語をと脳みそに血を巡らせ書いていたせいで、頭部にたまりにたまっていた血流が足元へと急降下し始めた。じいんとした痺れに似たものと、少しの浮遊感が体を揺らす。
「ぅう。やべー……。体調げき悪、かもー……」
掠れた声は一晩中、奇声を発しながら一心不乱に小説を書いていたからだろうな。喉のいがいがを確かめるように手をあてると、通常より熱いことに気がついた。……本気で少し体調悪いのかも。今まで風邪なんてひいた覚えないので、ちょっとブルーな気分だ。
でもまぁ、と緩んでくる唇に手をあてて、出来るだけ明るい声を発そうと努めてみた。
「まぁ、この小説書けたから——かなり、ハッピーなんですけどね」
私の言葉に全力で応えるように、机の上から白い紙が雪崩みたいに落ちてきた。どさぁ。ちょおま、落ちてくるかふつー!?
未だにプリンターから雑音と共に吐き出されるのは、私が昨晩ようやく完成させた一つの小説の欠片。欠片をこぼし続ける私の愛用機械は、今現在もフル活動中。起承転結でいう転の辺りまでは印刷を終えてくれたと思う。
足元にするりと滑り込んできた一枚を手に取り、眺める。ちょうど一番手をかけた(と思っていたけど誤字と脱字両方発見したなう!)部分だった。主人公の女の子が、昔のことを振り返るシーン。指がのってきた時はもうちょっと書きたいなと思っていたけど、スランプ状態に陥った時には苦労した。とにかく主人公の心情がダークに走らないようにと、ベクトルを上へ上へとするのが精いっぱいだったのだ。
「…………。うっあ、ねっむ。これまぶた下がるぅあ……」
活字を目で追っていると、とうとう眼球が挙手して限界を告げてきた。どっと眠気に襲われる。
でも、ここで寝るのはやばい、と理性的な私が耳打ちする。時計を横目で見ると、今の時間は午前六時半。普通の高校生活を送っていた私ならもう少し惰眠を貪ることも叶ったんだろうけど————だって、今日は、今日という日は。
「卒業式、だぁーぁああああ!!」
両手を頭上に掲げて、コロンビア! ……うん、徹夜明けのネタは駄目だ、分かりづらい。てか何してんだろ自分。
コロンビア状態改め万歳のポーズから、両手を下ろしていつもと変わらない自分を取り戻してみた。両肩がパソコンのキーを打ち過ぎて完全に疲れておられる。御苦労。
さて、今日は卒業式である。高校三年生の私が、卒業する日なのである。市内の高校三年生が教育を終える、ちょっと特別な日なのである。
「プラス、私が私を私として私らしく私ってみるような私のための私の日でもあるのであーる。……げへっ」
とにかく、今日は高校三年生の私ではなく——個人の私としての日でも、ある。
今さっき触れた、そして現在進行中で動いているプリンターが吐き出している紙切れが、今まで甘ったれだった私の決意表明。
「…………スタッカート、ばんっばんだからねーぇ。覚悟してんなよーぅ、ちーちゃーん?」
悪役に抜擢されそうな声色で、ぐひひと笑う。喉のいがいがが増したけど、そこは雰囲気的にスルー。フローリングの床を覆うほどに散らばった何百枚の小説の欠片。これを彼女に見せてどうなるかはわからない。それこそ、神のみぞしるって奴だ。こういう時に使う言葉なのかは知らない。こちとら、いつだってどこでだって数少ないぼぎゃぶらりぃという箱の中から、無理矢理言葉をねじり出しているような、知識皆無の奴なんだ。
——だからこそ私は、こんなうわっついた奴でもやれるってことを……これで証明したい。
足元で群れとなっている白い希望を見下ろして、静かに決意してみる。こういう時にかっこつけられたら主人公ってゆーキラキラしたヒーローなんだと思うけど……徹夜明けでジャージ姿、しかも目の下に隈があるんじゃぁかっこつくもんもつかないってもんでしょーに。
「とと、とりあえずまだ見ぬちーちゃんに宣戦布告する前に顔を洗いましょうかねぇーっと」
真面目な雰囲気に気まずさを感じて(一人ぼっちの室内で私は何をやってんだか)、とてとてと紙を避けながら部屋の出入り口へと向かう。ドアに辿り着くまでに、回避したつもりの紙を何度も踏んづけて足裏に張り付いたことに切なさを覚えた。
ふらふらと無意識の内に左右にダンスしながら、ドアのノブを掴む。ひやりとした金属特有の冷たさを孕むそれが、希望への扉のようでちょっとドキワク。いやごめん嘘っす、冷たい。寒がりの私的には指先ぶるぶるーでさぶさぶーみたいな。あぁ脳みそ回らない。
とか、ふざけたこと脳内で呟いている、と。
「!? ……はぁっ!?」
日常の中で一度聞いたことがあるか否かぐらいの耳触りな音が、私の背後からした。
——何、この……ぎぎぎぃっていう変な音!?
内心めちゃくちゃ焦りつつ、私は背中の方を振り返る。そして、順調だと思えていたリアルをぶち壊すような出来事に——遭遇した。
さっきまで余裕で緩んでいた口元が、驚きでぱくりと開かれる。エアコンの埃っぽい空気が喉をかすめて、いがいがが増幅した。でもそれさえどうでも良いと思えるような出来事が、眼前にはあった。
「な……何じゃこりゃぁー」
力なく叫んでみるも、目の前の状況は変えられなかった。
- 最後まで夢見がちなわたし2 ( No.117 )
- 日時: 2011/08/19 21:56
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
*
私がちーちゃんに電話をしてからのことを話そう。
ちーちゃんは私の曲聞いて欲しい発言に対して頷きはしなかった。だんまりを決め込むちーちゃんに代わって、私が場所と日時を指定したけど。その日時が今日という、私たちが卒業する日だった。「仲直りしてもどっちみち今日で最後だから意味ないじゃないですか。先輩ってあれですか、カレンダー読めません? それとも頭のねじ関係でおかしいんですか?」とりりるちゃん辺りにねちねち言われそうだ。
……でも、これで良いのだ。
覚悟を決めるのは、いつでもギリギリじゃなくてはならない。
十年後にやってくる悪の大王に向けて準備するなんてつまらないじゃないか。
つまんないことは私は嫌だ。だからあえて今日にした。
どっちがどう終わっても、後腐れの無い日を。
後腐れの無いラストというのは、逆に——
「——もうこれしかチャンスが無い、ってことなんですけどねぇ」
にへらと路上で笑っていたら、近所の黒猫と目があった。視線を外される。テメェ。
親が二人とも仕事だからという理由で、卒業式に挑むべく一人で通学路をてこてこー。言ってみた割に、足音はずざざざー。理由なんて明確、一ヶ月強続けてきた過酷な受験勉強と小説のチャンポン、徹夜、疲労に疲労を重ねるような狂ったハイペース。数えたら切りのない苦しかった毎日も、鞄の中に入っている分厚いこれのおかげで、全部笑顔に変わる。えへー。げへへー。
「……あんた、何笑ってんの」
「あ、常元ちゃんではないか。はよっす、そして今日でグッバイ」
「常元じゃねーっつの。とりあえず、おはよー。あーぁ、とうとう今日は卒業式だねぇ。何かあんだけ卒業したかったのに、切ないやー」
——ありゃ、間違った?
あちゃぱーと冗談ぽく笑ってみせると、名前のミスを故意によるものだと理解してくれたようだった。私の歩調に合わせて、同じクラスメートである岡……岡なんたらちゃんは一緒に登校し始める。どうやら後ろから来ていたようだけど、疲れで鈍った聴覚やら視覚は反応してくれなかっぽい。
朝日で光る程に磨かれた(予想)おでこに定評がある岡なんたらちゃんは、一年間同じクラスだったのにあんま喋った記憶がない私に対して友好的に話しかけてきた。せめて彼女の前髪を留めているピンを外せば、私の網膜に突き刺さってくる朝日の光は軽減されるだろうに。にやにや笑いについては分かってくれるのに、目の辛さを分かってくれないらしい。
「あー、確かに切ないっすねぇ。今まで続いてたもんが終わるってのは、けっこーキツいっつーかですね」
「え? 今まで楽しかった学校のメンバーと離れるのが悲しくない? 何かさぁ、もう会えないっていうか。あたしとかさー結局好きな人に告白せずに終わりそうだし。……あー! 最後にノリで告白しよっかな、ノリで!」
「えーでもメンバーにはまだ会えるじゃん、たぶん。この辺の大学行く人もいっぱいでしょ。ここ田舎だし」
「うわぁ、冷めてるわアンタ!」
——そいや、ちーちゃんは県外の大学だったなぁ。
目の前の岡ちゃん(仮)を傍目に冷酷な彼女を思い出す。あー、さっさとこの鞄の中の重い奴渡して、反応見てー。
完全にぼーっとしてた私に気づいて、岡ちゃんが浅い溜息をついた。吐かれた二酸化炭素の音で我に帰る私。呆れた様子の岡ちゃんが目の前にいた。
「おぉう、何さその目。私のヘッドに何か御用か! 御用か御用かぁ!」
「まぁその異常なテンションは今日が卒業式だから、って理由にしとくわ……。そうじゃなくてさぁ、アンタって何かこう……どこまでも掴めない奴だなぁ、と。卒業してからも変わらなかったら良いね、それ」
「掴めないって何じゃーそりゃー。わしは掴めるぞーほらぁ!」
岡ちゃんの空いている手をがしりと掴んで、ちらつかせる。苦笑いをして「そーゆう意味じゃないっての」と言う岡ちゃんの口調は、付き合いの薄かった私にさえ優しいものを帯びていた。
「アンタってクラスの中でかなり存在感あったのに、ふと冷静にアンタの方見てみたら、どのグループにも所属してないんだよねー。いっつも散子のとこいた。……普通さ、二人きりのコミュニティだとその二人だけで友達って成立しちゃうじゃない? 相手しか友達いないから、その二人組の間でもお互いがお互いに依存してるし」
……いつも「きゃー! サッカー部の佐倉きゅーん!」と騒いでいた子とはかけ離れた言葉だった。
もう通ることも少なくなるんだろう通学路を、今までまともに名前を確認したこともないような子と二人で登校する。本来なら気まずくなるっていうのに、何故か彼女の言う通りに、少し切ない後悔がにじんできた。
——あぁ、岡ちゃんと話してたら、今の私もちょっと変わってたのかも。
鞄の中の重い紙の束が、もしかしたらデジカメとか仲良しの子への手紙とか、もっとキラキラしたものだったかもしれない。卒業最後に告白しようと思って、身だしなみを整える道具だとか、ラブレターだとか。他人から見れば青春だと微笑まれるような今だったかもしれないのかも。
「でもさぁー、アンタは違うんだよね。散子のとこいるのに、散子と友達っぽくないの。……あ、別に散子との雰囲気が悪そうだったとか、友達みたいじゃないとかそういう悪い感じじゃないよ? 変な聞こえ方してたらごめんね」
「あ、うん。全く聞こえなかったっちゅーに!」
「そんなら良かったかなー、ほらあたしってさ、結構きついこと言っちゃうタイプだからねー」
薄く化粧をした頬を上げて、ふふっと笑う。可愛いなぁ、と思うのはけしてそっち系ではなく単純に羨ましいのかも。青春時代の方向がキラキラした何かしらに向いていた岡ちゃんと、小説にどっぷり浸かってた私の差異に。
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