ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

リアルゲーム
日時: 2017/06/21 00:50
名前: 電波 (ID: iruYO3tg)

皆さん初めまして、電波と申します!
ここで投稿するのは初めてなので少し緊張しているのですが、よろしくお願いします。
また、文才ないのでうまく書けないかもしれませんがご了承ください!
それとそれと!
この作品には過度な暴力表現とグロテスクな描写が(たまに性的描写も)あります。それがダメな人は回れ右してください!

・注意事項

暴言や荒らしなどの行為はやめてください。


以上です。

・ゲームのルール

1.『全校生徒で殺し合いをする』

2.『期間は7日間。それまでに校内の生存者は2人にしておくこと。また、期間内に規定の人数に到達しなかった場合、全員失格。死刑になる』

3.『ゲーム途中に校外へと出た者は罪(ペナルティ)となり、失格となる』

4.『全校生徒にはそれぞれ戦うための異能(スキル)が配布される』

5.『殺し方や戦い方に縛りはない』

6.『校舎内に『鈴木さん』が徘徊する』

7.『クリア条件は2種類。1つ目は7日間以内に生存者を2人にすること。2つ目は校舎を徘徊する『鈴木さん』を殺すこと。その場合は、生存者の数に関係なくゲームがクリアとなる』


Re: リアルゲーム ( No.100 )
日時: 2016/02/09 21:03
名前: 電波 (ID: JIRis42C)

 一階廊下にて、三毛門は廊下を歩いていた。まだ完全ではないにしろ、一人で歩く分には何も問題ない。ただ、このまま廊下を歩き続けるのは危険が伴う。廊下には食料や性欲を求めて暴徒化した生徒か少なからずいる。その生徒たちがもし集団で襲ってきたとなってはひとたまりもない。それに、アナウンスの主が言っていた『鈴木さん』という存在も気がかりだった。校内を徘徊し、見つけた生徒を殺す。このまま校舎を歩いているのは決して良い判断とは言い難いがそこまでのリスクを背負ってまで三毛門はやらなければならないことがあった。


「あともう少し……あそこに辿り着けさえすれば……」


 同時刻。二年C組にて虻川 辰雄は他の不良仲間と共にこれからの行動について話し合っていた。と言っても虻川の一方的な提案ばかりで他のメンバーは口を挟む隙さえなかった。


「あの木偶の坊は必ず体育館にいるはずだ。今から殴りこんでアイツを徹底的にボコす!」


 虻川は教卓に腰かけ、憎しみを露わにする。前回、勝平に奇襲をかけたものの服部の拳で返り討ちに合い、そのまま二時間、彼は廊下で意識を失ったまま倒れていた。たまたま彼を探していた仲間の一人に救出されるも顔は鼻から中心に腫れあがり、見るも絶えない姿にあった。

「ぶち殺す! 今度は命乞いしても殺す!」


 鼻に大きなガーゼを貼り付け、怒りで顔を歪める。

「まぁ、虻川がそう言うならやるか……なぁ?」
「お、おう……そうだな」


 他の仲間は戸惑いながら同意する。虻川のチームは総勢二十三人。いつもは仲間から色々な言葉が飛び交うのだが、今の虻川に何か言ったら無事ではいられないと感じたらしい。誰も彼に対して意見を述べる者はいなかった。

「おら、行くぞ」


 虻川はそう言いながら乱暴にその場から立ち上がり、教室を出て行く。残ったメンバーもお互い顔を見合わせながら虻川を追って教室を後にする。



 それから数分が経過した。服部への恨みを抱えながら、彼はコツコツと足を進めていく。片手には金属バッド。懐にはもしもの時の為の携帯ナイフがしまわれている。さらには彼の仲間が重装備で自分の後ろを守っている。これで今度こそ負けない。


 絶対の勝利を確信する虻川。その時だった。


「なぁ、なんか声聞こえね?」


 後ろを守っていた仲間の一人が奇妙な事を口走った。いきなりのことでメンバーの全員がその男に視線を集める。虻川も目線は前に向けたまま男に耳を傾ける。他の仲間は声なんて聞こえねーぞ、聞き間違いじゃねぇの? とそれぞれが言うが、男ははっきり聞いた! と言う。しかし、今の虻川はそんなことを気にしている場合じゃなかった。

「うるせぇぞ!! ビビッてっからそんなもんが聞こえんだよ!! こえぇんだったら教室に帰って引きこもってろ!!」


 瞬間、虻川の一喝に辺りは静まり返った。そして、

「声が……止んだ……」

 さっきの男から声が返ってきた。今度は異様な変化を感じ取ったらしく、小刻みに震えている。まるで虻川の言葉が何者かにも届いたかのようにピタリ、とその言葉を止めたと男は言う。その男の言葉に虻川は鼻で笑う。

「そりゃあ良かったなぁ! これでビクビクしなくて済むぞ!」
「し、信じてくれよ! 教室を出た時からずっと聞こえてたんだよ!絶対何か———」

 まるでテレビの電源を切ったかのように、男の言葉は切れた。疑問に思った仲間がその男の方へと振り向くと口を開けてそれを見つめる。やがて腰が引けたのか、金魚のように口をパクパクと開閉させながら、尻餅をついてひたすら後ろへと下がろうとする。

 それに気が付いた他の仲間が怯えている仲間の視線の先を見つめ、絶句する。そこには宙にぶら下がりながら、顔をだらりと垂らす、さきほどの男の変わり果てた姿だった。目はくっきり見開かれ、手足は時折ピクピクと蛙の足のように痙攣(けいれん)している。そして、何といっても彼の胸から飛び出した鈍く光る銀色の光。あれが彼を絶命に追いやった根源であることが誰の目にも分かった。


「わぁぁぁぁああぁあぁぁあ!!」


 ようやくその声で非常事態であることが全体へと広がった。声で振り返った虻川はその光景を見て、言葉を失う。今まであった服部への恨みなんかが掻き消える程にそれは異常だったからだ。宙を浮いている男の体を支えているのは、彼の胸に刺さった一本のナイフだった。


 そして、男をナイフ一本で持ち上げているのは、誰?

 『とおりゃんせぇとおりゃんせぇ。こ〜こはど〜この細道じゃあ?天神さまの細道じゃあ』

———

 三毛門はようやく目的地にたどり着いた。白塗りのコンクリートで覆われた二階建ての建物。そこは校舎から少し離れた位置に建てられている所謂(いわゆる)別館とも呼べる場所である。主に実技の授業や部活などの活動が中心になって使用されており、ここも校舎同様の徹底した設備となっている。


 その別館にも校舎同様に部室が備えられており、三毛門が今回ここへやってきた目的とも言える。三毛門は機械・模型部という部活の部員であり、その活動場所もこの別館である。主に機械弄りや模型の組み立てを行うことがメインの部活だ。部活内容が彼女の趣味とピッタリなのでパソコンを触る時以外は大体ここにいる。なので、彼女に機械を触らせたら右に出る者はこの校内にはまずいないだろう。


「さぁて、自分との戦いだな……」


 彼女はそう呟くと、目の前の両開きの扉を開け入っていった。
 

Re: リアルゲーム ( No.101 )
日時: 2016/02/10 17:52
名前: 電波 (ID: JIRis42C)


 三毛門が今現在いる場所は機械・模型部の部室である。教室と変わらない広さに加え、トイレ、風呂場等の設備が備え付けられていた。授業に使われる机は存在せず、機械や工具などを置くのに適した大きな机が一つ置いてある。あとは壁に掛けられた無数の工具や作りかけの模型、部屋の隅に集められた鉄の廃材だけだ。


 その中で彼女は大きな机の前で作業を行っていた。机の上にはこれから必要になる材料や工具やらが並べられ、それらを手慣れた手つきで取り扱う。ここに来てから三十分程時間が経ったが、外の様子に変わった様子はない。念のため、扉の鍵は閉め、机などの重い物を扉の前に置き、外からは入ってこれないようにしてある。しかし、それは気休めにしかならないことを十分承知していた。なので目的とはまた別の物を彼女は急ピッチで作っていた。


「あと二、三個といったところか……」


 軽く息を吐き、完成した物を一旦見ると、次に材料の方へと視線を動かす。材料は沢山あり、その気になればいくらでも作れそうではあるが彼女の目的にはそれらを一気に消費するため、数をセーブする必要がある。厳しい表情を浮かべるがないよりはマシだと言い聞かせ、作業を再開させる。その時だった。


「おい、開かねぇぞ! どうなってんだ、クソッ!!」
「ッ……!」


 作業していた手を止める三毛門。外から誰か来たことで彼女のアラームが一気に警戒レベルまで引き上げられた。彼女は完成した『それ』をしまい込み、適当な工具を持って扉の様子を見に行く。向こうは何やら話し合いながら必死に扉を開けようとドアノブをガチャガチャ鳴らしているようだ。彼女はゆっくりと教室からドアの方へと覗くと、そこには複数の男がいた。見た目からあまりガラの良い連中ではないことが分かったが、何か様子がおかしかった。頻りに後ろを確認したり、扉を異常なまでに叩いたり、まるで何かに追われているようだった。


「あいつら、見殺しにする?」
「ッ!?」

 突然聞こえた、ねっとりと絡みつくような声は、僅かに隙を見せていた彼女を簡単に恐怖へと突き落とした。全身の筋肉は委縮し、反射的に体が反応する。即座に後ろに佇む人物を押しのけ、相手との距離を置く。そこでようやく相手の姿を見るのだが、その表情は唖然としていた。

「君は……」

 彼女はそこに立っていた人物を見て唖然とした。

「やぁ、元気になったみたいだね」


 彼女の目の前にいたのは相変わらずの薄っぺらな笑みを浮かべる桐ケ谷 神居だった。片手を軽く上げ、友人に挨拶する様は学校の風景の一コマを思わせる。しかし、それがなんだ、と彼女は不快な表情へと変えた。


「何しに来たんだい? 僕を連れ戻しに来たのか?」
「え、違うよ」


 肯定するかに思われたその言葉を、神居はあっさり斬って捨てた。

「僕はたまたまここで誰かいないか探してた時に、君が偶然入ってきたんだよ」

 そして、続けて神居は言う。

「それより、どうするの?」
「…………」

 神居の言っている問いかけは十中八九扉の前にいる不良達のことだろう。彼女はひたすら考えていた。否、考えるふりをしていた。答えは既に持っている。もし彼らを中に入れて命を助けたとしても、今度は自分が狙われるかもしれない。そのリスクを無視してまで彼らを助けるメリットなんかなかった。が、

「もちろん決まってるよ」

 神居は三毛門の回答を読んでいた。二日目とは言え、これだけの状況下において彼らを助ける理由はないと。故に神居は楽しんでいた。彼女の闇を、人間の闇を見るために。

「助ける」
「…………」

 鳩が豆鉄砲でも食らったかのような表情を浮かべる神居。そんな彼に彼女は何も言わず扉の方へと走りだす。興奮状態の為かあまり痛みは感じず、力も入っていた。


「お、おい! 人がいるぞ!」
「開けろぉ! 早くしねぇとアイツが来る!」

 男たちの命令口調にイラッと来ながらも彼女は急いで扉の前に置かれた机や椅子などを剥がし、扉の鍵を開けた。すると、なだれ込むように人が入り、つい吹き飛ばされそうになる。まるで嵐のような凄まじさだったが何とか耐え、全員入るのを確認すると、すぐに施錠し、バリケードを構築する。一連の動作でかなり体力を使ってしまったが、何とかうまくいった。しかし、一息吐いたのも束の間、ある一人の男が声を上げる。


「テメェこのクソアマァ!! 助けるのがおせぇんだよ!!」
「おい止めろよ! 結果的に助かったんだから良いだろ!」

 茶髪の男が彼女の方へと怒気を荒らげるが、仲間の一人に止められる。この時、三毛門は男たちを助けてしまったことを後悔した。こういう集団と言うのは元気だけが取り柄の脳筋集団だ。どんなに言ってもその行動は止めず、当人の気が済むまでそれは続く。彼女からしてみればこの不良と言うのは面倒ばかり起こすマイナスな集団でしかなかった。


「何に追われてるか知らないけど、とりあえず少しの間ここにいると良いよ」
「ああ、わりぃな」

 感謝の言葉を聞くと、彼女は黙って作業場に戻っていった。

「何で助けたの?」

 彼女が教室に入った途端、神居は不服そうに問いかける。確かに、彼女にとって彼らはリスクでしかない存在だ。理論的に考えると見捨てた方が正解だった。しかし、それを無視してでも彼女は彼らを助けた。そこまでして助ける理由が彼には分からなかった。彼女は少し暗い顔してこう答える。

「意地になったんだよ」
「意地?」
「そう……」

 少し間を空け、彼女は言う。

「君は僕が彼らを見捨てる選択を選ぶのを楽しみにしているようなきがしたから助けた」


 つまり、と続けながら彼女はほとほと醜悪な自分を笑った。



「偽善だよ……」

 
 

Re: リアルゲーム ( No.102 )
日時: 2016/02/13 02:43
名前: 電波 (ID: JIRis42C)


 三毛門は彼、桐ケ谷 神居に向けてこう言い放った。『偽善』だと。どんなに綺麗な言葉を並べても、本質的にはその人間の汚さは誰しも持っている。困った人を助ける警察官然り、人を助ける医者もまた然り。人である限り、その穢れは落ちない。だから、散々その穢れを見てきた神居も彼女がこれからするはずの行動を読んでいた。

———彼女は見殺しにすると。


 ところがどうだ、彼女は見殺しにすると思われていた不良達を助け、あまつさえそれを偽善であると認めたのだ。醜さを否定し、詭弁(きべん)を垂れ流すなら彼にとってはまだ楽しめるし、見応えのあるショーになったのだが、これではありきたりの王道パターンを見せられた感じがして気に入らなかった。

「面白いね、そう来るとは思わなかったよ」

 皮肉気な笑みを交えて、彼女に言った。当の本人はそれにまったく受け答える気はないのか、黙って元の作業へと移る。

「あの人達はどうするの?」
「ん、ああ……放っといて大丈夫なんじゃない?」


 一切彼の方を見る事なく、作業を続ける。

「それより、君は滝沢先輩の所へ戻った方が良いと思うけど……」
「どうして?」
「だって、君の彼女でしょ?」

 頬をピクリとも上げず、能面のような顔へと彼はなった。その無表情の裏に僅かな殺意が湧かなくもなかったが、ここで殺してしまっても面白みの欠片もなさそうなので考えを改める。

「違うよ」

 即答とはいかないが彼女の問いから二秒くらいで答える。

「ふーん……まぁ良いや」

 作業の背中を黙って見つめる神居に彼女はふとこんなことを提案した。

「悪いけどちょっと偵察してくれないかな?」
「偵察?」

 急な提案に神居は顔をしかめた。

「そう、あの不良君達を追っていた犯人が近くにいないか確認してくれれば良いよ」

 すると、少し面食らったかのような顔をしたかと思えばフッと笑みを浮かべる。まるで話にならない。そう思いながら、彼は馬鹿馬鹿しいといった加減で、彼女に言う。
 
「そんな所に行って僕に何のメリットがあるんだい?」

 その時、作業の手を止め、彼女は振り返りざまに怪訝な顔をしてこう言った。

「君、僕の友達なんでしょ?」
「…………」

 確かにそのようなことを彼は口走った。だが、細かい所を言うとまだ彼女の答えを聞いていない。あの時は状況が状況で彼自身、答えを聞かず終いだった。なので君とは友達じゃない、と一言言ってやることもできる。しかし、敢えて神居はこう言った。


「それなら仕方ないね。友達の君に免じて頼まれてあげよう」

 その時の彼の表情は、満面の笑みだった。


———



 場所は変わり、一階の脱離場付近にて。
 虻川 辰雄は逃げていた。自分を追いかける者から。服は刃物で切り裂かれたのか、所々に穴が空いている。そして、その穴からは赤色が溢れ、学ランの色を一色増やしていた。

 体中が痛みで悲鳴を上げるが、特に酷いのが彼の右の横腹だ。彼は『アレ』と対面した刹那、気づいた時には横腹を数センチ裂かれていた。何の原理かは到底自分の脳では到底理解できない。だが、一つだけ分かったのが『アレ』と戦ったらいけないこと。勝負なんてない、ただの虐殺しか残らない。


 至る所の傷口が彼から冷静な判断力を奪っていく。


「ははっ……こんなの……夢に決まってる」


 虻川は笑みをこぼした。横腹の傷口を手で覆いながら、引きつった笑みを浮かべる。


「そうだ……悪夢だ……たくっ……縁起でもねぇ……!!」

 足はどことなく覚束ない。次第に足から血の気が引いていくのが伝わってきた。彼の足は上半身の傷口から小川のように流れ出た物で緩やかに濡れていく。時間が経つに連れ、彼が歩いて行った場所は段々ハンコを打つように残っていった。


「いい加減……覚めろよ! もう……こんなのは……たく……さんだ!」

 必死にそう願いながら歩く。どうにかこの夢を終わらせてくれ、と懇願する。この痛みから解放されたいと縋(すが)る。彼の悲痛な叫びが届いたのか、神様は使いを寄越した。


『この子の七つのお祝いにぃ、お札を納めに参ります』


 その声はさっきまで聞こえなかったはずだった。だが、今こうして虻川の耳元で囁く。子供をあやすように、眠りにつかせるように、ゆっくりと優しく聴かせる。ナイフをどこからか取り出し、彼を終わらせるため突き立てようとる。


「殺(あや)すの下手だね」

 どこからともなく聞こえた声に僅かに『ソレ』は反応した。間もなく、彼の背中にグシャ、と生々しい音が響いた。冷たい金属が肉を裂き、ずぶずぶと『ソレ』の中に入り込んでいく。それに比例して傷口の出血量は多く、すぐに彼の包丁は真っ赤に染められた。


 『ソレ』の行動は止まり、目の前の獲物を呆然と見ていた。

「ねぇ、歌うのは得意? 得意だったら……」


 彼は『ソレ』から包丁を引き抜くと、笑みを浮かべた。それはいつものような薄っぺらな笑みではなく、どう相手を苦しめるかを考えに考えた狂気の笑みだった。そんな表情ができるのは、


「僕に聴かせてよ、『鈴木さん』」

 
 神居だけだ。


 



Re: リアルゲーム ( No.103 )
日時: 2016/02/18 18:34
名前: 電波 (ID: JIRis42C)


 遡ること一五分前。
 別館にて、神居は三毛門に一階周辺を偵察に行くように言われ、出口に向かう途中だった。

「待てよ」

 その時、机や椅子で固められた出口を目の前にして彼は立ち止まった。左右には先ほど逃げ込んできた不良達が威圧的な視線を向けている。

「なんだい?」

 彼は友達と会話をするような笑みで、自分に声を掛けた一人の男へと視線を投げる。相手は少し戸惑った様子を見せるが、すぐに落ち着いて口を開く。

「お前、どこに行く気だよ」
「一階に行くんだよ。君たちが何かに追われてたらしいから、その様子を見にね」

 それを聞くと、彼らは互いに顔を見合わせて何か決心したかのように頷き、再び神居へと向き直った。

「頼む。勝手な頼みかもしれないけど俺たちを連れて行ってくれないか?」

 真剣な表情で一人の男が言う。

「なんで?」

 男は少し苦々しい笑みを浮かべて、彼の問いに答えた。

「仲間を……俺たちのリーダーを置き去りにしちまったんだよ……」
「…………」

 男は言葉を続けた。

「命欲しさだったんだ……自分が大切だった!」

 だけど、と男は言葉を紡ぐ。

「ここに着て色々と考えたんだ。仲間を犠牲にして助かるなんて……良いのかよって……」

 男は心底悔しそうに顔を歪め、ドン!と壁を殴った。

「アイツは色々バカやって色んな奴と喧嘩したりした。荒い性格だし、何かと因縁つける奴だった」

 でも、と言いながら壁にぶつけた拳に力を込める。

「俺たち仲間には優しかった……何があっても俺たちを信用してくれた……周りと馴染めなかった時だって……アイツが声を掛けてくれた」


 体を小刻みに震わせながら男は次の言葉を言い放つ。

「だから———」
「だから彼を助けるのかい?」

 男の言葉を神居は遮った。その顔はまるで体(てい)の良い人間ドラマを見せられているような不快な表情で彼らを睨みつけていた。そのせいか、不良達は反論しようにも彼から発せられる圧力で何も言えない。

「はっきり言うよ。君たちはただ純粋に彼を助けようと思ってるんじゃない」
「…………!!」

 驚く男たちに構わず彼は発言する。

「ただ自分達がしでかした汚点を洗い流そうとしているだけなんだ」
「んなわけねぇだろ!!」

 すると、他の男が声を上げた。神居の言い分がそれほど気に食わなかったのか重圧を物ともせず、威嚇する。その表情を平然と見る彼は、一つ質問をした。

「じゃあ聞くけど、そのリーダーの為に自分の命捨てられるの?」
「ッ!?」


 男は目を見開き、何も言えず黙ってしまった。

「嫌悪することはない。それが普通なんだ。いつだって自分が可愛くて当然だよ」


 彼はそう言うと、何も言わずバリケードを進んでいく。色々な物で固められた出口をまるで飾りのようにスッとすり抜けて行った。



————

 現在、神居は『鈴木さん』を襲撃していた。彼の握っている包丁は見事に相手を捉え、傷を抉っている。このままの状態でも、相手の血が傷口から溢れ、ドクドクと黒いポンチョのような服から床へと垂れている。

「どうしたの鈴木さん……早くしないと死んじゃうよ?」

 そう言いながら、彼は包丁を持つ手に力を込める。じわじわと彼の中へ包丁が突き進み、肉を裂き、血を出させる。感触を確かめ、さらに奥へと入れた時だった。


「…………」

 止まった。
 順調に進んでいた包丁が何か固い物に当たったのか勢いが急に無くなったのだ。恐らく骨に当たって、これ以上進む事が出来ないという結論に至った神居は今度は刃を横にスライドさせようと考えた。


 しかし。


「……ッ!」


 動かない。まるで包丁その物を固定されているかの如く、微動だにしない。それに、まだ彼を驚かせることがあった。

「血が……止まってる?」


 彼はそれなりに刃を深くまで押し込んだはずだった。常人なら廊下一体を血の海に染めることだってできる程の怪我なのに、だ。それにも関わらず、傷口から小川のように流れていた血はいつの間にか止まっていた。

———理屈は通じない。


———理屈が通じない。


 このゲームが始まって何もかもがめちゃくちゃだと言うことは彼は分かっていた。いや、分かっているつもりだった。二人の異能者を殺し、能力を奪ってきた神居でさえ、たった僅かなこのやり取りで相手が想像もできない底なしの闇を持っていたことを思い知らされた。


 このままでいたらマズイ、そう感じた彼はナイフから手を放し、一歩後ろへと下がりかけた時だった。


「大丈夫か!!」

 彼の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。視線をその声の方へと向けると、そこには別館から出る時に声を掛けてきた不良の一人がいた。その男の後ろには数人の仲間がこちらの様子を伺っている。


 だが、間が悪かった。
 まるでそれが合図かのように『鈴木さん』はグルンとそのまま回転、そのまま自分の手を薙(な)ぐ。ドゴンッ、と籠った音と共に壁は見事に『鈴木さん』の拳を中心にクレーターを作る。さらにいつの間にナイフを持ち替えたのか、壁に深くまで突き刺さっていた。不幸中の幸いなことに、一瞬気を取られた彼は『鈴木さん』の行動に対応できず、思わずバランスを崩し、後ろへと倒れていた。


「危ないなぁ……」


 彼はそう言いながら、相手を見る。黒の帽子に黒いコート。顔は褐色のお面を付けていて分からない。お面は、表情が歪んでいて、怒っているようにも悲しんでいるようにも見え、不気味さを醸し出している。神居はすぐさま立ち上がり、戦闘態勢に入った。

 それに応じるかのように、相手もどこからかナイフを取り出した。しかも片手に四本ずつ。両手合わせて八本ずつ鉤爪のように握られていた。そして。


『ね〜んね〜ん、ころ〜りぃよぉ』


 


Re: リアルゲーム ( No.104 )
日時: 2016/03/01 22:08
名前: 電波 (ID: JIRis42C)


 神居と化け物の距離は手を伸ばせば届く距離にあった。一切の油断が命取りとなるこの空気の中で、まず行動を起こしたのは予想もしていない人物からだった。

「虻川ぁ!!」

 遥か後方に立っていた不良の仲間が走りだす。パチン、パチンと履いたシューズを床にぶつけながら、自分たちのリーダーの元へと駆け寄ろうとする。だがその前に、とその男の視線は鈴木さんを捉えた。

 男は廊下に落ちていた椅子の足を拾いながら、まっすぐ鈴木さんの元へと走りだす。椅子の足は強い衝撃を受けて割れたのか、先端は不規則に尖り、凶器として扱うには十分だった。

「よくも俺達の仲間をぉぉ!!」

 恨みの念を晴らそうと吠える不良。一瞬、鈴木さんの視線が不良の方へと向く。視線が消えたのを感じた神居は、すぐさま攻撃の構えへと入る。

「ッ!?」

 動作をしている最中、神居は相手から放たれる妙な空気を感じ取った。刹那、彼の体から何かが突き抜けて行く。咄嗟の判断で『埋没者(ハーフ・キル)』を発動して、なんとかその攻撃を回避することはできた。

「……」

 息も吐かず、彼は相手の方へと視線を向ける。気づけば、鈴木さんは一連の動作を終了させたばかりのようだった。その場に立ち、左手を高く掲げ、仮面越しから虚ろ気に何かを見ている。この光景から彼はあることを察し、鈴木さんの左手へと視線を投げた。


 カラン……。

 後ろから寂しげに、金属音が聞こえてくる。事態を把握するのにそう時間はそうかからなかった。ドシャ、と重々しい何かが倒れるような音が聞こえてくる。

「義明ぃぃ!!」


 他の不良の仲間が叫ぶ。その断末魔にも似た声を聞きながら、彼は相手の動きに軽い関心のようなものを持つ。不謹慎なことだというのに、まったくのお構いもなく、にぃと笑って見せた。


「良いね。まったくもって隙も無い」


 その言葉を皮切りに神居の攻撃が始まる。制服の裏から何本の包丁を手にする。その数は先ほど鈴木さんが両手に持っていた本数と同じ。器用に持ち、二重の鉤爪を形成し、振りぬく。


 だが、彼の爪が相手に届く事は無く、斬撃は空を切った。いつ立ち回ったのか、背後には化け物が右手のナイフを振っていた。想定内と言わんばかりに彼は体を捻(ひね)り、ナイフをバラまく。


「はっ……!」


 四方八方にバラまかれたナイフは相手の体に突き刺さったり、天井を抉ったりそれぞれの方向へと散っていく。しかし、背中に深い刺し傷を受けてなおも動じなかった相手に対して、適当に放ったナイフが刺さったところで怯むはずもない。鈴木さんはそのままナイフを振り降ろす。


『……』


 しかし、振り降ろした先に既に少年の姿はなくなっていた。まるで床の中に潜り込むように消え、後に残ったのはなんの変哲もないただの床。対象を失った攻撃は床の形を変え、欠片が宙へと舞う。目の前の現象に、化け物は首を傾げる。


 彼は鈴木さんの真下に潜っていた。一度相手から姿を隠してしまえば、後は奇襲を仕掛け、致命傷を与えていくだけのこと。たとえ見つかったとしても、すぐに床や壁に潜れば自分の身を守れるだけではなく、奇襲するチャンスもある。このやり方だったら確実にあの怪物を殺せる。


 そう考えた神居はゆっくりと相手の背後へと回り込み、陸に這い上がるように出てきた。化け物は立ち上がり、自分の手に持っているナイフの砕けた刀身を一通り見る。どうやら使い物にならないと判断したのか、その場に捨てまた新しいナイフを両手にいっぱい取り出す。

 先ほどバラまいておいたナイフを逆持ちで取り、一見無防備な化け物の首周りを狙って突き出す。


「死ねっ……!」

 彼は化け物に、鈴木さんにそう宣告する。だが、それが彼の最大のミスであり、慢心であることを示した。

 ザシュ、気づけば彼の腕には四本のナイフが下から上へと生えていた。そして、目の前にいたのは後姿のそれではなく、真正面を向いた化け物だった。右腕は四本のナイフで持ち上げられ、逃げようにも逃げられない。スキルでナイフをすり抜けようと試すが、なぜか抜けられない。

(たった一言いっただけでこの反応か……)


 相手との距離はまさに目と鼻の先だった。しかも、ナイフが相手の首を貫く寸前に言ったにも関わらずだ。それでも彼の攻撃を止めることが出来るのはなぜなのか。それを踏まえると、浮上してくる可能性は二つ。


(ただの化け物か、スキルを持った人間か……)


 しかし、それを考えるのは今ではない。今はどうやってこの危機的状況を乗り越えるかが重要だった。

「ま、どうとでもなるけどね」

 彼がそう言った瞬間、ジュッとナイフから煙が上がる。手に持っている物や腕に刺さっているもの、全てがまるで粘土の様にどろどろととろけていく。そして、すかさず相手の腕を捕まえ逃げられないようにする。


「悪いね。僕、欲張りなんだ」


 ジュウゥゥゥ……と静かな廊下にその音が聞こえてくる。そして、鉄臭かった匂いはやがて人の焦げた匂いが漂い始めた。鼻に来る悪臭が不良達をも不快にさせる。やがて、その悪臭に耐えきれなくなった一部の不良はその場で今日一日分の栄養を床にぶちまけた。

 


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。