ダーク・ファンタジー小説

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リアルゲーム
日時: 2017/06/21 00:50
名前: 電波 (ID: iruYO3tg)

皆さん初めまして、電波と申します!
ここで投稿するのは初めてなので少し緊張しているのですが、よろしくお願いします。
また、文才ないのでうまく書けないかもしれませんがご了承ください!
それとそれと!
この作品には過度な暴力表現とグロテスクな描写が(たまに性的描写も)あります。それがダメな人は回れ右してください!

・注意事項

暴言や荒らしなどの行為はやめてください。


以上です。

・ゲームのルール

1.『全校生徒で殺し合いをする』

2.『期間は7日間。それまでに校内の生存者は2人にしておくこと。また、期間内に規定の人数に到達しなかった場合、全員失格。死刑になる』

3.『ゲーム途中に校外へと出た者は罪(ペナルティ)となり、失格となる』

4.『全校生徒にはそれぞれ戦うための異能(スキル)が配布される』

5.『殺し方や戦い方に縛りはない』

6.『校舎内に『鈴木さん』が徘徊する』

7.『クリア条件は2種類。1つ目は7日間以内に生存者を2人にすること。2つ目は校舎を徘徊する『鈴木さん』を殺すこと。その場合は、生存者の数に関係なくゲームがクリアとなる』


Re: リアルゲーム ( No.135 )
日時: 2016/12/11 03:28
名前: 電波 (ID: JIRis42C)

 バカな……と声を出そうと思ったが彼から声を出す力はもう無くなっていた。精々、声に似た何かを呻くのが精一杯。そんな彼を嘲笑の眼差しで神居は続ける。

「君の言いたいことは分かるよ。奪ったタイミングなんてどこにもない、そう言いたいのだろう?」
「……」

 だけど、と神居は言う。

「一回だけあったんだよ。君のスキルを奪うタイミングが」

 神居がそう言った時、彼の脳裏に心当たりと思える描写が浮かんだ。そう、それは、神居が堂本の胸を貫いた時だった。しかし、一つだけ疑問が残る。仮にあの時スキルが奪われていたのなら彼の体はなぜ再生したのか? という疑問。それについても、神居は答えと一緒に説明した。

「僕が君を貫いたときさ。その時に君の肉を手でちぎって、隙を見て口の中に入れていたんだよ。すぐには飲み込まず、相手のスキルがどんなものか観察しながら、ね」

 神居は言葉の語尾の辺りで変形していた腕を元に戻す。バキボキと骨を鳴らしながら、まるで別の生き物のように元に戻る。あまりに見れたものではなく、思わず目を背けるような光景だった。しかし、失われた片腕の方は相変わらずで、生えてくる様子はない。なにか理由があるのか、と推測を立てようとしたが、今の彼に正常な思考は働かない。とりあえず分かったのが、自分はもう駄目だということだ。そうなると、行動は早い。

 堂本は四つん這いの姿勢で、ゆっくりではあるが、とある場所へと向かう。そこは、恋人の三蕪木 楓の元だ。一年もない僅かな交際期間ではあったが、彼の人生は今までにないほどに幸せだった。思い出も多いか少ないかで聞かれたら少ない。しかし、その思い出一つ一つはとても掛け替えのないものだった。

「………」

 堂本は口をパクパクと開ける。頬には涙が伝い、誰にも届かない懺悔を述べる。手を伸ばし、許しを請うように徐々に彼女へと這い寄るのだ。情けない様子だが、彼は構わない。そこに彼女がいるのなら。次第に彼女との距離は縮まっていく。すると、堂本はあることに気が付いた。自分から音が少しづつだが、遠くなっていくのを。例えるなら、テレビの音量を一つづつ落としていく感覚だ。

(ああ、命の終わりは……こんなにも寂しいものなのか……)

 堂本は納得して、距離を少しづつ詰めていく。そして、ようやく彼女が見える所まで来ると彼女の首周りの物を見て、動きを止めた。それは、赤く、どこの宝石にも負けないくらいの輝きを放つ、ネックレスだった。ふと、堂本の思い出にこんな会話が蘇る。


 それは、堂本が彼女にネックレスをプレゼントした後のこと。放課後の帰り道、彼がふとこんなことを彼女に問いかけた。

「ところであのネックレスなんだが、今も着けているのか?」

 彼女はちょっと空を見上げると、ニコッと彼に笑いかけてこう言った。

「まっさかぁ!」

 その時は、ちょっとショックだった堂本だったが、今こうして彼女が首元にそれを着けているのを見て、心から口元が綻んだ。

(楓め……嘘も大概にせんか……)

 ズルッと彼の体を支えていた腕が、その機能を停止した。堂本の体が地面に伏す。もう彼に体を動かすだけの力は無い。ここまで動けたのは本当に奇跡だろう。今までの彼の日頃の鍛錬、執念によるものがここまで動かせることが出来た。だが、まだこれでは終われない。堂本は最後の力を振り絞り、手を彼女に向けて限界まで伸ばす。

「………」

 何かを絞り出すように口を開く。その最期の言葉の一文字まで言い終えると、彼は幸せそうな笑みを浮かべた。

 パタリ

 彼の手は、糸が切れたかのように力なく落ちた。そしてそれは、堂本 励が絶命したという証拠にもなった。遠目で一部始終を見ていた神居は、何も思うこともなくこの教室を出る。そう、何もだ。彼は自分が殺したいからそうした。だから、何もない。何も感じない。教室の前で立ち止まると、気がつけば、彼の右手が拳を作っていた。

(なんだこれ)

 なぜか自分の右手に力が入っていることを疑問に思った。意識すればすぐにその加減は緩み、元通りになる。なぜこうなったかは不思議に思ったが、早々に立ち去ろうと足を一歩踏み出す。


 一方、空の教室にてズズズと黒い影のような物が動き出した。物陰のどこかに潜んでいたであろうそれは、幸せそうな終わりを迎えた、男女の遺体へと近づく。不気味な笑みを浮かべた赤褐色の仮面は、首を真横に傾ける。そして、腰をゆっくりと下ろすと、まるで品定めをするように、二人の遺体へと手を伸ばす。

『チょーだい』

 その時、教室の前にいた神居の足が立ち止まる。すぐに、後ろを振り返ると、そこには誰もいなかった。

「………」

 神居は無言で二人の死体を見つめた。その二人は、窓から入る日の光の中心にいた。堂本の伸ばした手が彼女の遺体の手に重なり、手を繋いでいるかのような光景だった。きっと堂本は幸せだったのだろう、最後まで。

Re: リアルゲーム ( No.136 )
日時: 2016/12/11 03:35
名前: 電波 (ID: LLmHEHg2)


今回は話の都合上、二レス使って話を作りました。
ちょっと無理しすぎたと反省中です。
一応そこのところご了承ください。

Re: リアルゲーム ( No.137 )
日時: 2017/01/01 20:14
名前: 電波 (ID: iruYO3tg)

 神居が堂本と接触する一時間前。神居は建物の中で寝かされていた。と言うよりは、放置されていたというべきが正しいのかもしれない。背中はずっと固い床のままで寝かされていたせいか、体の芯からくるような鈍痛に襲われている。意識がまだはっきりとはせず、目を開けるには少し時間がかかりそうだった。そばに誰かいる気配はない。だが、少し先の方で、すすり泣くような声が複数聞こえてくる。その声に神居は静かに思う。

(……うるさい)

 至って冷静に、その今にも途切れそうな声に不愉快さを感じたのか、眉が寄る。その時、

「できることはやったけど、僕には無理だよ」

 はっきりとした声が、残酷な結果を述べていた。その声を聞いたためか、答えるようにすすり泣く声もより大きくなる。誰かが死んだらしい。彼は、深いため息をついた。理由は簡単だ。

(しょうもな)

 彼にとって誰かの死を嘆く理由なんて、ない。すべては他人事で形成されている。誰かが病気になった。

——お大事に。

 誰かが事故に遭った。

——お気の毒。

 誰かが死んだ。

——ご冥福をお祈りします。

 今、人がこうして生を終えても、神居はそうなんだ、と軽く答えるしかない。どんなに人が不幸に遭ったって、神居は無関心に口笛を吹きながら生きていくのだ。どうせ、みんな僕と同類なのだから、と薄ら笑いを浮かべて。

 ふと、彼の瞼が軽くなる。ようやく視界に飛び込んできたのは、古びた木製の天井。どうやらここは以前にも来た別館のとある教室だろう。まだ視界がぼやけて見えるのか、顔をしかめる神居。そして、まだまともに見えないのに、彼はそのまま首を横へと動かした。そこには複数の生徒がある場所を取り囲むように膝を着き、四つん這いになっている光景があった。

 何も知らないで見たなら滑稽だと笑っていたであろうが、神居は彼らの隙間からある人物が倒れているのを見つけた。彼ら、不良グループの中心、リーダーだった虻川が生気もなく横たわっていたのだ。うまく見えない彼だったが、状況はなんとなく察した。

 片手で何とか体を起こし、立ち上がる。立ち上がる時に若干ふらつきはしたものの、それほど危なげもなく安定して立つことができた。

「目が覚めたかい?」

 不良達から少し離れた場所で壁際に立つ、紫髪のツインテールの女子生徒、三毛門がそこにいた。

「おかげさまでね。ところで……」

 神居は視線をある場所へと下ろした。彼女の両手は真っ赤に染まっており、まるで真っ赤なゴム手袋を着けているようだった。三毛門はその視線に気づき、ああ、これねと答える。

「彼の手当てで付いたものだよ。もっとも、助からなかったけどね」
「………」

 視線を、今度は向こうに倒れている虻川へと向ける。視界もはっきりとしてきて、彼の状態がようやく視覚で判断できた。口から血を流し、肌は血の気が引いていて白い。もう彼の生命活動が停止していることが誰の目から見ても分かった。

「なんで……お前タフじゃねぇのかよ……喧嘩だって負けなしだったじゃねぇかよ……」

 無念を漏らす一部の男。それほどまでに、虻川はこの不良達から信頼されていたようだ。その人間性は面識のない神居には知らないが、彼らの様子を見る限りは、そう見えた。神居は遠目でそれを眺めた後、この教室の出口へと足を進めた。

「どこに行くつもりだい?」
「………」

 途中、三毛門が神居の方を見ずに呼び止める。

「校舎の中の様子を確かめてくるよ」

 足を止めた彼はニコッと笑みを浮かべて、彼女に向けた。


「また同級生を殺すの?」


 神居は笑顔のまま何も答えない。その様子に戸惑うことなく、かぶせるように彼女はまた問いを投げかける。

「言い方変えようか?」
「………」

 反応はないが、拒否を示すような様子もない。三毛門は構わず真意を問う。

「どれだけ人を殺したいの?」

 彼女は生きるために人を殺したことはないが、傷つけたことがある。純粋に綺麗な人生を送ることはできなくても、汚くとも楽しい人生があると考えている。そんな考えを持つ彼女とは別に、彼の思考は破綻している。というよりも、分からない。彼がなぜ人をそこまで傷つけたがるのか。純粋に思った疑問に、神居はこう答える。

「僕にも分からない。もしかしたら目の前を通り過ぎて邪魔だったから殺したりするかもしれないし、口調が気に入らないから殺すのかもしれない」

 実際は知っている。だが、そこで彼女に伝えたところで、こう反論され、永遠と話の平行線を辿るのが関の山だ。

——それはただの殺人鬼だ。

 以前に彼は、このことを身内の一人に話したことがある。その人物は冷たく彼を見つめた後、抉るような言葉でさっきの似たような文面で返してきた。人を殺す過程を楽しむなど、常人に分かるわけがない。その身内であっても常人とは少し違う人間ではあったが、彼の気持ちを良しとすることはなかった。だったら、一人で抱えるしかない。

「だから、これからは互いにあまり関わらないでいこう」
「その理由は?」

 冷静に彼女は神居の言葉を返してきた。

「目障りだからだよ。視界の周りをウロチョロされるとイライラするんだ。それに、殺したくなる」

 さわやかな笑みでそう返す神居。その答えに少し間が空いた彼女だったが、軽くため息をつくと口を開いた。

「そう、ならここでお別れということで」

 あっさりとそう返答した彼女に、若干拍子抜けしながらも足を進めようとする。進み始めて数歩、彼女がふと言い忘れたかのように言った。

「近くに例のアイツがいるかもしれないから気を付けてね。床、爆破して地下に落としたけど、奴の姿なかったから」

 それと、と付け足すように彼女はもう一言いい始める。

「滝沢先輩もこっちに連れてきなよ」

 ピタッ、と今まで話しかけられ続けても止まらなかった彼の足が止まった。ゆっくりと彼女の方へと向ける。何も感じていないような仮面のような笑みを浮かべた表情だが、微かに戸惑いの空気が流れている。

「忠告ありがとう、三毛門さん。けど、なぜそこで滝沢さんをここに連れて来る必要があるんだい?」
「なぜって、それは危ないからだろう?」
「彼女をここに連れて来るだけで時間が掛かるじゃないか。その間に敵に狙われてみなよ。致命的だ」

 目の不自由な彼女はスムーズに行動することができない。当然、目が見えなくては走ることもできない。スキルがあってもそれは相手の位置を確認できる能力であって、実際に見えているわけではない。常に誰かの補助がなくては移動も困難だ。それを考慮すれば神居の言っていることは正しい。

「じゃあ、なんで今まで一緒にいたんだい?」
「………」

 ふと、思わぬところから飛び出した疑問。彼女の視線は彼へと向けられた。彼女の瞳はまるで神居の中を見透かそうとしているのか、真剣だった。

「最初から彼女を置いて、好きな場所でも行ってれば良かったんじゃないかな? そうすれば敵に見つかるリスクも少ない」

 何も言わず、彼は表情を崩さない。一方の彼女は続けて言う。

「一つ言っておくよ、桐ケ谷。君は『矛盾』してる」
「………」

 思い返せば、彼の行動は彼女の言う通り矛盾している。気分屋にしても彼女を見逃すことはあっても、わざわざ連れていくことはしない。それだけ危険も高まるし、移動も困難だ。

「もし気分屋だというなら、先輩をずっと連れ続けていくことなんてできないよね。桐ケ谷の立場で考えると、彼女を連れ続けていくことになんのメリットもない。むしろ邪魔のはずさ」

 それでも君はなぜ一緒にいるのか、と彼女がそう言おうとした時、

「やめろ」

 ゾゾッと三毛門の背筋に悪寒が走る。彼の表情はいつのまにか、さっきのようなへらへらとした笑みではなく、そこには無表情で彼女を見つめる神居の姿だった。内側から染み出すかのようにピリピリとした殺気が空気を伝って彼女に襲い掛かる。

「ああ、すまない。この話はやめにしよう。ただ、君のその性格が他人事ながら気になってねぇ。余計なお世話だったら聞き流してくれて良い。滝沢先輩のことだって放っておいてくれたって構いはしないよ」

 すると、スッと彼の表情は普段通りの薄ら笑いに戻る。さっきまで出てた殺気もいつのまにか消えていた。

「ごめんごめん、ついカッてなっちゃって! というか、あまり人の中にまでズカズカ入ってきたらだめだよ!」

 そう言って彼は、踵を返して廊下を歩いていく。その背中をジーッと見つめながら、三毛門は不敵な笑みを浮かべる。

「さて、こっちも準備しようかにやあ」

Re: リアルゲーム ( No.138 )
日時: 2017/01/04 19:13
名前: 電波 (ID: iruYO3tg)


 別館から校舎へ続く渡り廊下にて。神居は廊下に空いた穴をのぞき込んでいた。穴の奥に広がるのは、瓦礫の山だけで鈴木さんの姿はなかった。周りへと視線を配らせたが、光源は穴から差し込む日の光だけで、辺りはやたら薄暗くて見づらい。

(彼女の言った通りか……)

 彼は視線をその穴から目線を上げ、ひょいっとその間を跨(また)いだ。穴の大きさはさほど大きくもなく、人が一人入れるくらいの大きさだった。静寂の満ちた廊下を歩き始める。相手が気づくように、彼は鼻歌を歌う。なるべく大きな音を立てれば、相手はそれに反応して近づいてくる。

 数分が経過。彼は一階にある保健室に来ていた。部屋の中は教室同様に荒らされていた。薬品が入っていたであろう無数の瓶が割れ、破片が床に散乱している。錠剤や液体など、薬品の中身も床にこぼれており、その臭いが部屋の中で充満している。彼は嫌な顔一つせず、その中を探索する。

 視界の先に飛び込んできたのは、所々、引き裂かれた白のカーテンで囲まれた二つのベッド。反対側には教師が普段使うであろう机が置かれている。そこも誰かの黒ずんだ血が斑(まだら)模様を描いていた。他を見てみれば、薬品が入っているはずの戸が付いた棚は開け放たれ、誰かが乱暴に開けたのか、その下には薬品が無残な姿で転がっている。

 そして、神居が真っ先に気を向けたのがベッドの方だ。誰かがいるかもしれない、そんな気持ちでベッドへと近づく。遠目で、穴からベッドを覗き込む。一部だが、紺色の制服が見える。

 彼は懐から包丁を取り出し、ゆっくりとそのベッドに近づく。そして、片手でカーテンを掴む。

 ガシャッ、とカーテンを開ける。

「………」

 神居は落胆した。そこにいたのは、仰向けに倒れた女子生徒。体には無数に開けられた刺し傷。女子生徒は苦痛に顔を歪め、目を開けていた。寝かされた状態で殺されたようだ。

 神居はカーテンを閉め、隣のベッドに移動した。隣のベッドも、穴を覗いてみれば誰かが寝ているようだ。神居は再びカーテンに手をかけ、開ける。そこにいたのは、うつ伏せに倒れた男子生徒だった。背中にはいくつもの刺し傷が見当たる。黒髪で、やけに跳ねている髪。顔立ちはどこにでもいるような平凡な顔だ。この男も寝かされた状態で殺されたようだ。まだ、安らかに眠ってるので、隣の女子生徒よりかはマシだっただろう。

「………」

 神居は無言のまま、くるん、と手に持った包丁を起用に回転させ刃の向きを下に向けた。ニタァ、と気色の悪い笑みを浮かべた後、体重を乗せて刃を下ろした。刹那、遺体と思われた体はすぐさまその場から転がり、ベッドから落ちる。ガシャン、一秒も立たずに包丁がベッドのクッション部分を貫き、骨組みに刺さる。

「あっぶねぇ!!」

 床に尻もちを着いた男子生徒が冷や汗をかきながら神居を見上げる。

「なんで生きてるってバレたんだ!? これ完璧な偽装だったはずだぞ!?」

 相手は心底驚いたように自分の偽装を見抜かれたことに戸惑いを隠せない。神居は包丁をベッドから引き抜くと、コキン、と首を鳴らして言葉を放ち始めた。

「入った時にアルコール消毒液が床にこぼれていた。しかも、液が零れてから時間はそう経ってない」

 さらに、神居は言葉を紡ぐ。

「一般に僕らが使っているアルコール消毒液は揮発性が高くて、ちょっとすれば蒸発する。その液体が結構な量で床に零れていたのなら、それは割ってそう時間も経ってないことになる」

 それに、と神居は会話を続ける。

「君の腕に着けている包帯、妙に綺麗だった。普通だったら時間が経てば包帯なんて色んな汚れが付いて変色していくはずさ。なのに、君の包帯はやけに真っ白」

 あとは言いたいことは分かるよね? と神居は半分答えの出た質問をする。相手はあっと、口を開けて自分の腕に巻いた包帯を見つめた。


 「巻いてから時間がそう経ってないってこと」

 そう言い終わると、彼は包丁を片手に持てるだけ取り出す。

「ちょいちょい!! 待ってくださいよぉ、俺は通りすがりの一般人Aのような存在でして、貴方様に殺されるような価値はありゃしないっすよぉ!!」

 両手を突き出し、必死に笑顔を取り繕って神居を宥(なだ)めようとする男子生徒。しかし、いくらそんなに懇願しても、彼は許してくれないのは想像するのに難しくない。

「やだね」
「ええぇぇ!?」

 彼はベッドに飛び乗り、そのクッションの反動を利用し、男子生徒の方へと飛び掛かる。

「わわっ!」

 おどおどとしながらも、男子生徒はその場から走って逃げる。数秒の差で彼の包丁がガシャンとアスファルトの床に激突し、粉砕される。神居はそんなのお構いなしに、彼は使い物にならなくなった床に捨て、新しい包丁を取り出した。

「俺は無実ですよぉ!!」

 男子生徒はそう叫ぶと、部屋から走って出て行った。神居も迷わず、その後ろを追いかけていく。

 

———
 
 十分後、神居はツイてないと心の底から落ち込んだ。せっかく見つけた獲物には、うまいこと撒かれてしまった。また探すにも時間が掛かる上に保証もないので本来の目的へと戻る。彼は三階の階段へと足を進める。

「ん?」

 ふと床に目を移すと、血の跡が点々と階段の上へと続いていた。しかも、血はまだ綺麗な赤色をしていることから時間はそう経ってない。彼に、笑みが広がる。また人を殺せる、と。神居は血の跡を辿っていき、やがて、とある教室へと行きついた。

「………」

 教室内はやはり荒らされており、天井や壁にもたくさんの血がへばりついている。その教室でもいかに凄惨な出来事があったかを物語っているかのようだ。そして、聞こえる。静寂さに交じってか細い息遣いが。すぐ近くに誰かが潜んでいる。そう思った彼はゆっくりとナイフを取り出す。

 教室内に入り、その音のする方へと近づいていく。なるべく音を立てぬように、ゆっくりと。ナイフを掴む手に力が入る。期待に胸が膨らみ、自然と笑みが広がる。机や椅子を避け、そしていよいよ辿り着いた。

「………」

 が、彼に突き付けられた現実はそんなに甘くはなかった。そこにいたのは、黒の長髪で、すらっとした体つきの女子生徒。顔立ちは整っており、どこのモデルに属してもおかしくない程の顔立ちだ。それがどうした、と言わんばかりの説明だが本題はこっからだ。彼女の左腹部は何かに抉られたのだろうか、そこから大量の血だまりができていた。

 そして、纏めていたであろう髪は解けており、髪留めは彼女の横に転がっている。片手には、護身用として竹刀だったものが握られていた。この竹刀だったものとは、刀身の半分が、何かに切り裂かれたかのようにすっぱりと切れていたもののことだ。

 ひゅー……ひゅー……と風が抜けるような音が彼女の口元から聞こえる。焦点も合ってなく、瞳には生気がない。死ぬのも時間の問題だろう。

「生きてるかい?」

 そんな彼女に彼は気さくに話しかける。少しだが、その女子生徒は頭を前に傾げた。

「そう、それはなにより」

 うんうん、と頭を上下に揺らす。その時、彼女は喋りづらそうに口を開いた。

「あなた……確か……」
「桐ケ谷 神居だよ。ひっさびさだねぇ、三蕪木先輩!」

 彼はいつも通りのテンションで彼女に答える。それに対して、彼女の反応は薄い。彼女にとって彼のイメージというのは、そんなに良くないのだろう。それでも、彼は普段通りに気軽に話しかけていく。

「それにしてもなんという格好だ。周りを気にした方が良いよ、先輩」
「う……さい……相変わらず……の口ぶりで、逆に安心……したわ」
「風紀委員の手伝いをする君に、よく絡まれたのはいい思い出だねぇ」

 彼女は特に反応を示さない。死という微睡みが彼女の感覚を鈍くしているのか、これ以上の返答はなかった。

「ところで、なぜ君ともあろう者がここで死にかけてるんだい?」
「分かる……でしょ……鈴木さん……よ。ずっと、武道館……に隠れてたのに……アイツ——」

 途中、彼女は咳と一緒に血を吐き出し、床を汚した。彼はその様子を黙って見る。もう、彼女は限界だろう。少しでも瞼を下せば、すぐに果ててしまうほどにか弱い。極限状態にまで削った木の棒を、摘まんで捻れば、折れてしまうようなものだ。他に例えるなら、薄い氷だ。少しの力が加われば壊れてしまうし、時間が経てば経つほど形を維持できなくてなくなってしまう。それが、今の彼女の状態だ。

「ごめんね、三蕪木先輩。もう、喋るのきついよね」

 彼は包丁を持つ手に力を再び入れる。

「ふっ……そういえば……あなたの……左腕、無くなってるじゃん……」
「訳あってね、まっ、仕方ないと思ってる」

 彼女は皮肉気に初めて微笑んだ。まだ、自分は大丈夫だと言わんばかりに口を開き始める。

「失うっていう……のは……本当に……怖いよ……それが……忽然と自分の前から……消えてくのだから……」
「さぁ、僕には分からないよ。それって大切なものがあるから言えることであって、それがない僕には関係がない」
「その……うち……気が付く……よ」

 徐々に、彼女の瞼が下りていく。

「ああ……ダメ……ちょっと……でも良いから……起きて……いたい……最後に……励に……会いたい……会い……たいよ……」

 死んだ瞳から涙が零れ、もうその声もどこか遠くに消え入りそうだった。もう彼女に、外の世界を見る力はなく、目は微かに開いていても、殆ど暗闇が占めていた。そんな彼女に一言、声をかける。

「先輩、そのペンダント、綺麗だね」

 その言葉を聞いていたかはどうかは不明だが、彼女は死んでいた。
 
 

Re: リアルゲーム ( No.139 )
日時: 2017/01/07 22:12
名前: 電波 (ID: iruYO3tg)


 また殺せなかった、と嘆くのが正しいのか、それとも楽にしてやりたかったと叫ぶべきなのか、彼は茫然と彼女の死体を眺める。これが顔見知りの死というものか、と理解するも、なんだかあっさりしたものだと神居は思った。彼が人を殺すときと同じようにあっさりとしている。だが、後に残った彼の心の中は、人を殺した時のそれとは別な気がした。正確にそれがなんなのかは今の彼に分かるはずもなく、疑問しか残らない。モヤモヤとした気持ちを抱えながらも、彼の思考はすぐに切り替わる。

 神居は彼女の身に着けているものを漁り、ある物を取り出した。それは携帯端末。彼女がどのスキルを得ていたかを確認するには、事前に送られてきたメールを確認する他ない。彼は携帯端末のボタンに彼女の指紋を入力させ、ロックを解除した。

 そして、開かれたホーム画面の左下にメールのアプリが存在した。彼はアプリを開き、送られてきたこのゲームの運営らしき人物のメールを開いた。

『おめでとうございます。あなたのスキルは『直感視(サプライズ・ガード)』でございます。このスキルは相手の行動を見極めることができ、どんなに素早い動きでも見切ることが可能です』

 メールの内容はこれだけだった。神居は携帯を閉じ、床に置く。彼女はつまり、どんなに早い動きでも視界に捉えることができていたということだ。言い方を変えれば、相手の動きに合わせて避けたり、攻撃できたりできるということだ。

 一つ疑問が残るのは、そのスキルを持ってしても鈴木さんに致命傷を与えられたということ。全ての攻撃を視覚で捉えられるというなら、なぜ彼女は鈴木さんの攻撃を避けることができなかったのだろうか? そんなことを思いながら彼は一旦床に膝を着き、彼女の傷口へと顔を近づけた。

「いただきますっと」

 そう言うと、彼女の裂けた肉に歯を立て、引きちぎる。ぐちゃぐちゃと、音を立てて、飲み込む。ゴクリと肉が喉を通ると、彼は立ち上がった。

 静寂がひたすら彼を包む。それに伴ってか、口元に付いた血の臭いがやたらと鼻に突く。鬱陶しい、と思うも口元を拭う気がしない。彼女の死体を眺めて、彼はどうするべきかと自分に問う。再び、あの化け物を殺しに行くべきなのか、それともあの一般生徒を殺すべく辺りを散策するか、それとも……。

「滝沢さん……」

 あの盲目の少女が脳裏に浮かぶ。いつも孤立していた神居に世話を焼いていた人物。目も見えない癖して、なぜ自分をあんなにも気にかけてくれていたのかは彼には分からない。ただ、あの目障りな女を三毛門の言う通り、別館に預けてしまえば、心置きなくここで暴れられるかもしれない。三毛門の言葉に従うみたいで、若干抵抗はあったがその方が効率的だと判断した彼は行動を起こそうとする。

「楓……」
「………」

 ふと掠れたような声が廊下から聞こえた。ゆっくりと見ると、そこには見るからに普通の高校生とは思えないほどの老けた男子生徒が立っていた。そして、その男子生徒は茫然として彼女の死体を眺めている。彼女の名前を口にしているとすれば、彼女とはそれなりの中だということが分かった。

「……殺したのか?」

 相手の言いたいことが分からず、神居は首を傾げた。すると、その行動が相手の癪に障ったのか、表情には険しさだけを残してこう怒鳴った。

「そこの女を殺したのは、お前かと聞いている!!」

 やっと彼の言いたいことが理解できて、ああ……と神居は納得した。確かにこの状況を見てしまえば、彼が殺したように見える。彼は一度彼女の死体を見て少し考える。実際は、殺したのは神居ではない。彼が来た時には三蕪木は既に虫の息だった。だが、どの道彼は彼女を殺そうと思っていた。なら、自分が殺したことにしても良いんじゃないか? 

「うん、そうだよ!」

 明かるげに彼は言った。まるで無邪気な子供のように、はっきりと。男子生徒は猛る。憎い、偽りの犯人を殺しに。これで良かった、と神居は判断する。もし、彼女を殺したのが鈴木さんと知ったら、彼は鈴木さんに無意味な戦いを挑み、死ぬ。なら、と神居は標的を自分に向けたのだ。自分が殺したことにすれば、相手はきっと無意味に死ななくて済む。たとえ殺されても、神居の中に、永遠に力になり続ける。そして、万が一に限ったら、自分を殺せて恨みを晴らすことができるかもしれない。気が狂ったような考えを浮かべた神居は、思わず口元に笑みが零れた。


——さぁ、殺し合おう!


———


 教室の中は再び静寂に包まれていた。気づけば、相手の男子生徒は四つん這いになって彼女のもとへと向かっていく。力は殆どないというのに、傷はもう癒えないというのに、彼は縋る。やり残したことを果たすために。その光景を遠目で見ていた神居は不思議に思う。

(何がそこまで……彼をそうさせているのだろう?)

 純粋な気持ちだった。少ない時間とはいえ、死闘を繰り広げたあの男子生徒は、彼女を失った途端、ものすごい勢いで自分に襲い掛かってきたのだ。原因は彼女にあるのか、と理解するも、なぜ三蕪木が死んだくらいでそんなに激昂するのか、と新たに疑問が生じる。

(これが失う怖さ?)

 もしそれがそうだとしても、神居は納得しないだろう。失うことに恐怖は感じない。現に目の前で、這いずっている男は苦しそうな表情はしているとはいえ、その顔に恐怖は窺えない。神居ははっ……と乾いた笑いを浮かべる。

「まるで言っていることが違うじゃないか三蕪木先輩。彼は君を失っても、悲しい表情なんて浮かべていない。失う恐怖なんて、僕にも
、彼にも、ありはしないんだよ」

 死んだ彼女に向けた言葉。返ってくるのは静けさと僅かに布を擦るような音。ジロッと今度は彼女の元へ這う男子生徒に視線を投げた。

「君もなんでそこまで頑張っちゃうのかな? もう君の大切な人はいないよ。諦めて楽になりなよ」

 しかし、彼の動きは止まらない。神居から、ギシッと奥歯を軋ませるような音が鳴る。

「なんで止まらないかな? もう無駄なんだよ。君の行動で何も変わらない。決まったことなんだ」

 彼は止まらない。

「そんなに頑張ったって彼女は戻ってきたりはしないんだ。ここいらでキリつけようよ」

 止まらない。

「まったく粗末な人生だったね。君のそれも全部無意味さ。見ている奴なんて誰一人いない」

 止まらない。

「可哀想だね。たった十数年しか生きられなくて、しかも大切な人を数分の差で看取ってやれなくて、本当に嘆かわしいよ」

 止まらない。

「いい加減にしなよ。なんでそこまでするんだよ。もう良いだろ」

 止まらない。止まってくれない。彼はとっくに生命器官の殆どがその活動を停止している。耳もその機能を停止し、神居の言葉など彼にはもう届いていない。残っているのは気力だけ。気力だけで彼は彼女のもとへ向かっている。これ以上、神居が何を言っても無駄だということは目に見えた。

「………」

 神居は口を閉ざす。ただ、不愉快な視線を彼に送り続けることぐらいしかできないと悟った。徐々に徐々にと、進んでいた彼と彼女の距離がなくなった。安心したためか、ズルッ、と体を支えていた両腕の力が失われた。両足も続いて崩れ落ちる。完全に床に付した男子生徒。神居はその状況を見て、彼はもう終わりだと感じた。

 しかし、男子生徒はそれを否定するかのように手を伸ばす。力のない、弱弱しい灯り火のような覚束ない手が彼女に向けられて伸びる。そして、男子生徒は口を開閉させる。全ての気力を喉から絞り出すように、彼は言った。

「……あ……い……し……て……る……」

 言い終えると、彼は幸せそうな笑みを浮かべた。いや、訂正しよう。幸せな笑みを浮かべていた。

 パタン、と軽い音が教室内に響く。手は床に崩れ落ち、もう彼が動くことは二度となかった。完全な死が訪れたようだ。もう、さきほどのような力強さや言葉を発することもない。本当の終わりが彼にやってきた。神居は黙ってそれを見て、何も思うこともなく教室を出た。

 出口を一歩出た後、ふと右手に違和感を感じた。彼は右手を持ち上げて確認してみると、右手が握り拳を作っている。

(なんだこれ)

 右手に意識を集中するとうぐに右手は解け、元の状態に戻った。なぜこんことをしているのかと疑問に思う。だが、彼の表情に陰りもなく、普通にたまたま起きた現象ということでその場を立ち去ろうとする。

『チょーだい』

 バッと神居は体を後ろへ向けた。神居の視線の先には二人の遺体が、幸福に満ちたように倒れていること以外、何もなかった。彼は少しだけ、二人の遺体を見る。理由はなく、彼はただなんとなくで見ていた。一秒経つか経たないかの時点で、彼は彼らから視線を離し、その場から去っていく。今度こそ鈴木さんを殺すために。


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