ダーク・ファンタジー小説
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- リアルゲーム
- 日時: 2017/06/21 00:50
- 名前: 電波 (ID: iruYO3tg)
皆さん初めまして、電波と申します!
ここで投稿するのは初めてなので少し緊張しているのですが、よろしくお願いします。
また、文才ないのでうまく書けないかもしれませんがご了承ください!
それとそれと!
この作品には過度な暴力表現とグロテスクな描写が(たまに性的描写も)あります。それがダメな人は回れ右してください!
・注意事項
暴言や荒らしなどの行為はやめてください。
以上です。
・ゲームのルール
1.『全校生徒で殺し合いをする』
2.『期間は7日間。それまでに校内の生存者は2人にしておくこと。また、期間内に規定の人数に到達しなかった場合、全員失格。死刑になる』
3.『ゲーム途中に校外へと出た者は罪(ペナルティ)となり、失格となる』
4.『全校生徒にはそれぞれ戦うための異能(スキル)が配布される』
5.『殺し方や戦い方に縛りはない』
6.『校舎内に『鈴木さん』が徘徊する』
7.『クリア条件は2種類。1つ目は7日間以内に生存者を2人にすること。2つ目は校舎を徘徊する『鈴木さん』を殺すこと。その場合は、生存者の数に関係なくゲームがクリアとなる』
- Re:リアルゲーム ( No.140 )
- 日時: 2017/01/09 15:26
- 名前: 雷華 (ID: DdBicf6e)
ちわっす!お久しぶりっすね〜!
覚えてますか〜?雷華っすよ!
いやー見ない間に話が進んでて驚いたっすよ〜
鈴木さん、相変わらず怖いっすw…けど面白いキャラなんで嫌いになれないんすよねぇ
では!これからも頑張ってくださいっす!応援してるっすよ〜
- Re: リアルゲーム ( No.141 )
- 日時: 2017/01/09 16:31
- 名前: 電波 (ID: iruYO3tg)
雷華さんへ
お久しぶりです!
勿論覚えてますよ!
鈴木さんは自分でも気に入ってるキャラなので毎回毎回どう動かそうかと、考える度にワクワクしますねw
雷華さんに気に入って頂けて嬉しいです!
すぐには更新できませんが、気長に楽しみにしてくれると幸いです!
雷華さんも小説の更新頑張ってくださいね!
応援してます!
- Re: リアルゲーム ( No.142 )
- 日時: 2017/02/05 00:38
- 名前: 電波 (ID: iruYO3tg)
無駄部屋、通称用務員室前にて。神居は暗闇が続く出入口を見つめていた。暗さや角度もあって滝沢の姿は見られない。どうやら、鈴木さんを殺す前に、彼女をこの校舎からどかすつもりらしい。彼は何食わぬ顔でその部屋に入っていく。瞬間、神居の表情が僅かに歪んだ。空気の流れが変わっていた。まるで自分の家に誰かが入った時のような違和感。
「………」
無言のまま神居は包丁を取り出した。その表情に相手を殺せるかもしれないという愉悦の笑みはなく、ただ、真剣な目つきそのものだった。不思議と喉の奥が干上がるような感覚を覚える。理由も不明。ただ彼の視点から言えるのは、良い気分ではないことは確かだった。
彼はゆっくりと部屋の中心へと入っていく。そして、神居はある場所を見つけると、何も言わず立ち尽くす。彼の視線の先にはここを出ていく前に彼女が座っていた椅子。そこに彼女の姿はなく、ガランと寂し気に置かれていた。部屋の周りは特別散らかっているわけでもなく、彼女はなんの抵抗もなく何者かに連れ去られたか、考えにくいが一人でどこかに行ってしまったか、だ。当然、彼が考えたのは前者の方だ。
だが、彼女を連れていくメリットはそう対してない。あって自分の気の済むままに彼女を弄ぶくらいだ。それか、誰かが善意で助け出したのかもしれない。連れていくとしたら体育館だが、実際そこに連れて行ってる可能性は高いわけでもない。途中で殺されているかもしれないし、どこかに身を潜めているのかもしれない。結局のところ、彼にも分からない。ふと、自然に視線が鋭くなる。
「誰か探してるんすか?」
「………」
彼の背後に声が響く。その声は明かるげな声ではあるが、彼を心配しているような労った話し方だった。だが、一方の彼の表情はニタァと笑みを浮かべる。以前に取り逃した獲物が、わざわざ向こうから来るとは思いもしないために不意を突かれた。さっきの形容もできないほどのべたついた気分はすぐに塗り潰され、高揚とした気分へと移り変わった。
「もしかして——」
後ろの人物がそう言いかけた時、ドスッと包丁が壁に突き刺さった。
「うおっ!?」
彼が振り返りざまに放ったナイフに飛び上がりながらも、何とか回避、生徒は神居に抗議する。
「あっ、危ないから! 死んじまう死んじまう!」
その人物は以前に神居が取り逃した男子生徒だった。なんの特徴もなく平凡そうな顔をした彼は、必死の形相で攻撃の中止を懇願する。だが、そんなことで止まる神居であるはずもなくまた新しい包丁を取り出す。
「僕はとりあえず人を殺したいんだ。殺して殺して殺して、強くなって強くなって強くなって、あの化け物を殺さなくちゃならないんだ」
だから、と言って神居は右手に持つ包丁を相手に向けた。
「僕のために死んでくれよ」
「いやいや、意味分からないから!」
男子生徒は言葉を続ける。
「人を殺したい理由事態は分からないが、あんたは間違ってるよ! みんなお前と変わらない年の奴らなんだぞ! やりたいこと、やり残したこと、皆色々あんのにただ殺したいからっていうだけで全部奪うってのかよ!」
彼の発言に、神居はフッと鼻で笑って見せた。まるでどこかのセリフをそのまま引用してきたような言葉だ、と神居は素直に思った。返答するべきかと彼は思考したが、相手の真剣な表情を見て、答えてやるのもまた面白そうだと判断する。
「確かに、本当にやりたいことや、やり残したことがあるんだろうね。遊んだり、デートしたり、結婚したり、皆にも夢があった。そんな彼らが死ぬのは、とてもとても悲しい」
「じゃあ……」
男子生徒がホッと胸を撫で下ろした時だった。
「でも皆がそうなのかな?」
神居は口元を笑みで歪ませる。
「将来に希望が持てない人間だっている。自分はなぜ生きているのか疑問に思う人だっている。希望を持っている人間と同じように世の中に不満を持って生きている人間なんて、どれだけでもいるんだよ?」
男子生徒は困惑したように神居を見る。一方の彼も構わず話を続ける。
「所詮自分の人生はこの程度だと諦め、屈した足を立たせることができない人間なんて普通誰が必要だと思う? 当然、いない。そんなもの、誰も必要とするわけがない。精々、人の足を引っ張ることしか能のない奴でしかない」
狂気を含んだ声は止まらない。
「なら、僕が意味を与えてあげればいい。僕の餌になることで、その人は僕の中でずっと役に立ち続ける。無意味な死ではなく、せめてその人が生きた証を永遠に僕に刻むんだ!」
今の彼の思考を言うなれば、「破綻」している。絶望や生きる意味を失ったものに与えるものが「死」というのは、誰の視点から視てもやはりおかしい。全てにおいて不満を持つなら、それを信頼できる誰かに共有するのが普通である。ましてや、不満や不安を抱えているものにいきなり考えることを放棄させ、死を与えるのは間違いだ。男子生徒もそう思った。
「間違いっすよ! そんなことで人を殺すなんて馬鹿げてる! あなたは大切な人とかはいないんですか!? いたとして、その人に対しても、そうやって平然と殺そうと思えるんですか!?」
一瞬、神居の脳裏に滝沢の後姿がチラついた。ピクッ、と口角が反応したが冷静に余裕のある笑みで言葉を返す。
「殺すよ。だって、終わりたがっている人に終わりを与えてあげなくちゃ、可哀想だろ?」
もうダメだ、と男子生徒は目を細めた。この男は根本的に頭のネジが飛んでいる。ここまで来ては何を言ったところでこの殺人鬼は人を殺し続けるだろう。説得なんて通じる相手でもなく、それどころか見境なく人を襲う。男子生徒は乾いた笑いを吐きながら、彼に告げる。
「あんた、まるで『鈴木さん』だな」
すると、フッと皮肉気に笑う神居。
「『鈴木さん』がこんなに弱いわけないだろ? ね、『鈴木さん』?」
「ッ!!」
その言葉と同時に神居はナイフを握っている手首にスナップを効かせて、腕を上下に振る。驚く程に早い速度で飛んできた包丁は男子生徒の頬を掠めた。そのコンマ一秒あるかないかの時差で、ズシャッという肉を裂くような音が聞こえる。
男子生徒は身の毛もよだつような恐怖に震えた。即座に後ろへと視線を動かす。すると、そこには歪んだ笑顔を浮かべるお面を付けた、黒装束の人物が片腕を上げていた。その手には当然のようにナイフが握られ、今にも振り下ろしてもおかしくないのだが、一向にその気配は訪れない。ふと、『鈴木さん』の二の腕に包丁が刺さっているのが視界に入った。
咄嗟にそれのおかげで自分は殺されずに済んだのだと判断し、すぐさま『鈴木さん』との距離を開ける。と言っても、男子生徒が移動したのはほんの数メートル。神居の方には行かず、彼と『鈴木さん』との間の距離で立ち止まった。
「あれ、こっちに来ないの?」
不気味な笑みを浮かべて、皮肉気に問いかける。
「人の命を簡単に奪おうとするような奴と肩を並べて戦いたくないっすよ」
「あらら〜」
神居は後頭部を掻いて瞳を閉じる。そして、ゆっくりと再び目を開けるときにはその眼は、真剣そのものだった。さっきのふざけたような雰囲気でもなく、ただ純粋なさっきだけが彼から放たれる。
『いっ、イだぁぁぁぁい!!』
ふと、呼応するかのように『鈴木さん』は腕に刺さった包丁を引き抜いた。すると、小川のように相手の傷口から血が流れ出る。男でも女でもないような籠った声が、静寂を切り裂いていく。
「………」
絶句、男子生徒はその光景を茫然と眺めていた。相手の異常な行動にただ何をして良いか、困惑も少し交じって。
「悪いこと言わないからこっちに来た方が良いよ。アイツ、何をしてくるか分からないからさ」
今度は冗談でもなく、真剣な表情。今度こそ、奴の息の根を確実に止めなくてはいけない。ゲームを終わらせるためではなく、自分のプライドのために。そうするには、まず目の前にいる一般人を退かす必要がある。
男子生徒は一度神居を見て躊躇したが、神居の何もしないという言葉にようやく動き出した。男子生徒が傍に来たことを確認すると、神居は包丁を取り出して、臨戦態勢に入る。
「さぁ、『鈴木さん』。今度こそ殺すよ」
- Re: リアルゲーム ( No.143 )
- 日時: 2017/03/12 16:04
- 名前: 電波 (ID: iruYO3tg)
時を同じくして、とある場所では順調に事が運んでいた。沈むような静寂にカタカタとタイピングの音が聞こえる。壁際にはズラッとずっと続く作業用のデスク。そこにそこのスタッフと思わしき白衣を身に纏った人物たちが椅子に腰かけ、目の前のパソコンに何か打ち込んでいる。楕円形に作られた部屋の中、その中心に一人の男が立っていた。
短髪の白い髪をかき上げ、眼鏡越しから覗く侮蔑の視線。彼が着ているのは格の高い社員が身に着けるであろう質の良い黒スーツ。片手には書類が挟まったバインダーが握られている。そこには、今回のゲームの参加者名簿や様々な情報が記されていた。
「K3621の状態はどうだ?」
一部の壁に映し出されたモニターを眺めながら、男は問いかける。
「バイタル、平常値です」
パソコンを前にした職員の一人が無機質な声で返答する。
「引き続き奴のチェックをしておけ。何か異常があれば逐一俺に報告しろ」
「了解」
射殺してしまいそうな程の視線をモニターに向けたあと、手元のバインダーに目を移す。
「あの、君嶋(きみじま)さん……つかぬことを聞いてもよろしいでしょうか?」
ふと、君嶋と呼ばれた白髪の男の後ろに一人、若々しい男性が立っていた。癖毛なのか所々黒髪が跳ね、ちゃんとした生活を送れていないのか口上や顎には不規則に生えた髭が目立っている。ここの研究員なのか、白衣を身に着けている。
「なんだ?」
君嶋は一切男性の方へと視線を動かすことなく、答えた。
「この企画はおかしいです。なぜ子供を殺し合わせるようなことをさせるのですか? 上の方々も、そして国までも……なぜこのようなことを許可させるのですか?」
男性は不信感を瞳に宿らせ、君嶋の背に投げかける。ずっと疑問に思っていたこと、納得がいかないこと、それを彼にぶつけた。これだけのことをやって許されるはずがない。いくら国が許可したとは言えだ。君嶋は男性の言葉に軽く息を漏らすと、呆れたような口調で彼に返す。
「今更だな、高梨一等研究官」
「………!」
尚も君嶋は彼の方を見ない。
「君の地位はこの実験のおかげであることを忘れたか?」
「………」
「何回もこの実験に携わってきた君の成果が、アレを確実に強くしていることをいい加減気づいた方が良い。君も加害者だ」
高梨は押し黙る。彼が今までやってきたことは事実であり、弁解の余地もない。自分が今一番気にしていることを突かれては、返すこともできなかった。
「他国に後れを取っている我々に、手段など選ぶ暇はない」
淡々と、抑揚のない声で君嶋はそう呟いた。
———
ザシュ、ザシュ、ザシュ、と肉を切り裂くような音が廊下内に響く。音が鳴るたびに宙には赤い液体が細かく飛び散り、辺りを染め上げる。
「クックック、アハハハ!!」
けたたましく叫ぶのは片腕を無くした青年。彼は包丁を逆手に取ってあらゆる方向から〝奴″を切り刻む。僅かな動きで的確に相手の重要器官を刻んだ結果、相手の黒服は遠目からでも分かるくらいに赤く染まっていた。
『イだいよぉ! いダぃよぃ……!』
相手も神居の動きに合わせ、攻撃と防御を組み合わせている。しかし、どの動作も彼の動きはでは意味を成さない。次第に『鈴木さん』は一歩後ろへと下がり始めていた。それを無駄部屋から覗き込む形で見ていた男子生徒は、動揺を隠せなかった。
(マジか……あの『鈴木さん』を追い詰めてる……)
クラスメイトを虐殺していたあの悪魔を一方的に嬲(なぶ)る神居。相手の攻撃を避け、そのまま攻撃に転じる様はまるで舞っているかの如く華麗だ。一斬り一斬りに無駄がなく、鋭く、そして確実に深い傷跡を負わせていく。
「楽しい! 楽しい!」
ほぼ理性が飛んでいた。獲物の血がもっと見たい、もっと肉の感触を味わいたい。衝動に駆られ、動きもやがて加速する。溺れる、溺れる、欲望の海に彼は溺れかける。
「血が見たいな? もっともっともっとももももももも——」
最後の押し込みに、ナイフを振り上げる。半狂乱の中、彼は半ば意識もない状態で相手のある違和感に気が付いた。
(あれ、こんなに弱かったっけ?)
以前の戦闘においては、圧倒的な戦力差を感じた神居だったが、今回はそれ程までに手こずるようでもない。そして、あと一つ。最初と今では何かが違った。その何かとは具体的には不明だが、雰囲気なのかそれとも見た目なのか、以前の『鈴木さん』とは違うものを感じた。神居がこの僅かな疑問に躓(つまず)いた瞬間だった。
『いてェなぁ』
今までの態度とは一変し、『鈴木さん』の仮面の中の本性が顔を覗かせた。底のない闇が神居の精神を一瞬にして包み、神居の中に微かな動揺を生ませた。前言撤回、相手はまさしく『鈴木さん』だった。表面では恐怖を振りまき、内面では殺意を孕んでいる。相手が予想しているであろう行動を裏切り、不意の致命傷を与えて来る殺戮者だ。
『鈴木さん』は自ら神居の刃の間合いに入り込み、両手いっぱいにナイフを取り出す。そのままナイフを神居に向けて刺し穿つかと思われたが、相手はそのまま彼への方へと向かい、そして抱き着いた。
「ッ!?」
相手はガッチリと彼の体を拘束し、身動きを取らせさせない。唯一動くのが、奴を殺すために大きく振り上げた片腕。彼は相手の行動に驚きはしたものの、すぐさま攻撃を再開。片手にある包丁を彼の背中に突き立てる。何度も何度も、肉を裂き、血をまき散らす。しかし、それだけのことをやっても尚、『鈴木さん』の腕力が弱まることはなかった。
これでは埒があかないと思った神居は、一旦相手の背中に包丁を突き立てたあと、包丁から手を離し、最初に手に入れたスキル、『異質崩壊(グロー・ダウン)』を使用する。触った対象を溶かすスキル。これで相手の背中に直接触れれば、致命的な一撃を与えられる。神居がそうしようと、包丁から手を離した瞬間だった。
ズリュズリュズリュズリュ!!
「ああぁあぁあぁああああ!?」
神居の背中に激痛が走った。肉を確実に何本もの刃が左右から裂かれていく感触と、鋭い刃物が彼の内部を深いところまで動く感覚が伝わる。激痛の波に吞まれながらも、彼は咄嗟に『肉体改造(ライフ・ゲイン)』を使用。即座に空いた傷口を彼の組織が埋めていく。
だが、
「ああああぁぁぁああああぁ!!」
回復した刹那、激痛が伴った。再び埋められた傷口がまた開く。さらには新しく傷が開き、先ほどよりも傷の量が増えている。すぐさま回復スキルを使用するが、使って間もなくその皮膚切り裂かれる。激痛による激痛に、武器も持てず、死ぬまいと自分の体を回復させることしかできない。回復して裂かれ、回復して裂かれ、を繰り返し神居は攻勢の機会を失った。
そして、『鈴木さん』はそんな彼を愛おしそうに、子供に語り掛けるように言った。
『おねんね、楽しいネー?』
- Re: リアルゲーム ( No.144 )
- 日時: 2017/04/15 14:59
- 名前: 電波 (ID: iruYO3tg)
ナイフが神居の背中を切り刻む。彼の背中から飛び散る肉片と血飛沫が床に散らばっていく。再生される体、引き裂かれる皮膚。永遠に終わりのない地獄に見舞われる。彼はひたすら苦痛に表情を歪ませながら、『肉体改造(ライフ・ゲイン)』を使用し続ける。そんな光景を部屋から覗いていた男子生徒は、生唾を飲んで拳に力を入れる。
(まずい、早く助けないと!)
彼は部屋から出ようと一歩足を踏み出す。
その時、
ゴキンッ!
先ほどまで肉を裂くような音に包まれた廊下内に、一際大きく鈍い音が鳴り響いた。一瞬、何が起きたか分からなかった男子生徒だが彼らの様子を見て愕然とする。
『鈴木さん』の首が百八十度回転してこちらを見たのだ。体中が総毛立つのを感じた男子生徒だったがすぐにそれは解消される。なぜなら、『鈴木さん』の頭を二本の腕がしっかりと捕まえていたからだ。『鈴木さん』の膝が床に着く。
「お前……手が……」
ないはずの腕が、神居から伸びていた。あり得ない、と男子生徒は思った。ない腕がいきなり生えるなど、人間の構造では決してあり得ない。戸惑いを隠せない彼に対し、神居はすかした笑みではっきり返す。
「ああ、手品だよ」
彼はさっきまで、ただ無駄にスキルで自分の回復をしていた訳じゃない。背中も治療していたが、これはあくまで死なないための保険。本題は、彼の左手を治療することにあった。
(回復の範囲が広いと、回復のスピードも落ちるものか。特に損傷が大きい箇所は、さらに……か)
ドサッ、と『鈴木さん』を床に倒し、まるでさっきまで苦痛に表情を浮かべていたとは思えない程落ち着いていた。だが、何はともあれこれでゲームクリアに違いないだろう。男子生徒がそう安堵した瞬間だった。
「あ、消えた」
間の抜けた声が聞こえ、最初はなんのことか理解できないでいた男子生徒だったが、その意味がすぐに分かった。『鈴木さん』がいない。影も形もなく、その姿はどこにもありはしなかった。
「は、なんだ……これ?」
「さぁね、ダミーじゃない? ゲームもまだ続いてるみたいだし」
そう言って、再生した自分の手を握ったり開いたりと動作の不具合を確認する。彼の冷静な態度に困惑する男子生徒。
「なんでそうやって落ち着いていられるんすか?」
「冷静……ねぇ」
少し考えたように間を置くと、彼は薄く笑った。
「確かに落ち着いてるかもね。今だってこうして目の前の君を考えなく殺そうと思わない辺り、良い証拠かも」
「……ッ!?」
「まぁ、それは置いといてだ」
神居の頭の中には、彼女の存在があった。
「人を探してるんだ。見た目は金髪で、目が不自由な女子生徒。知らないかい?」
男子生徒は顔をしかめた後、口を開いた。
「知らないですよ。そんな目立つ人、見かけてたら声かけてますよ」
そう、と神居は返事をした。目を細め、心当たりを探す。
(最悪三毛門さんのところか……)
———
一方その頃、滝沢 エミリアは生徒会室にいた。部屋の中心には長机が二枚並べられ、その机の前に並べられた椅子。その椅子に彼女は座っていた。彼女の周りにはロッカーやどこかの大会の優勝トロフィーやらが部屋の隅の小さな棚に置かれている。あまり飾り気もなく、部屋の中は静寂に包まれていた。不穏な表情を浮かべて、滝沢は俯く。
「………」
生徒会室は無駄部屋から二階上の部屋に位置している。こんな危険な状況で、盲目の少女がとても一人で来れる場所ではない。では、どうやってここまで来れたのか、理由は簡単である。
「あの、すみません……」
「ん、なんだ?」
「待っている人がいるんですが……」
声の人物は窓の方を見下ろしながら、ああ、と声を返した。
「たった今終わったな」
「え?」
声の人物は少し伸びたグレーの後ろ髪を纏めており、双眼は部屋が薄暗いためか赤く光っていた。彼の名前は伊吹 和麻。以前、唯腹 勝平と共に生徒会の計画を失敗させた人物。なぜこの男が彼女と一緒にいるのかと言うと、一階の無駄部屋にて待機していた滝沢をたまたま通りすがった伊吹が彼女を保護したのだ。
彼は窓から離れると、ゆっくりと彼女の元へと歩み寄る。
「今お前の仲間らしき奴が『鈴木さん』と戦った」
「!?」
彼女は表情を強張らせた。
「心配するな。そいつは生きてる」
伊吹の言葉に安堵のため息を零す。だが、すぐにその表情に陰りが見える。
「あの、私これからどうなるのでしょう?」
「取り合えず体育館に避難してもらう……って言いたいところだが一つ問題がある」
「……?」
そう言って彼は苦い表情を浮かべた。
「生徒会長の使い走りだ。図書室から書類を持ってかなくちゃならねぇんだ」
「こんな時にですか?」
「俺だってそんなもののためにわざわざここまで来たくなかったぜ」
ただ、と伊吹は赤い瞳を細めてあの生徒会長の凍り付きそうな表情を想像する。仕事の依頼という体で前金ももらった(もらわされた)上に職務放棄したことを考えれば、きっと無事では済まされないだろう。彼の情報量を持ってすれば、彼女が一体何をしてくるのか容易に想像できてしまう。それ故に余計に恐ろしい。深い溜息を吐き、今ほど情報を学年全員の情報を蓄えておくべきではなかったと彼は後悔する。
「で、だ。今からお前の仲間と連絡を取ってここまで来てもらう。それで事の経緯を説明して俺の仕事の手伝いをしてもらった後、体育館に避難だ」
「しかし、どうやって連絡を? 私、携帯電話は持っていませんし……」
「まぁ確かに、あんたのその様子を見てれば持ってなさそうだな」
伊吹はポケットから携帯のイヤホンを片方の耳に装着し、口を開いた。
———
一階の無駄部屋前にて。戦いが終わったばかりの廊下はやけに静かだった。物音や人の声が聞こえないまったくの無音。耳が痛くなりそうなほどの静寂の中、男子生徒は黙り込む神居を目の前にして背中から汗が伝うのを感じた。
(何を考えてるんだ? さっきは急に金髪の女の子を聞いたと思ったら急に黙り込んで……)
あの戦闘の後で、神居がどれ程やばい存在であるか身に染みるほど分かった男子生徒。次はどんな行動を移すか、男子生徒の中の緊迫感が広がる。その時だった。
ふと視線の端で何かが映ったのだ。あまりその風景に似つかわしくないそれは違和感でしかなく、彼は思わずその方向へと、視線を向ける。瞬間、体中から沸き上がるように鳥肌が立ち始めた。窓を越えた先の庭。かなり距離があったがそこに誰かが立っていた。黒装束に薄気味悪い笑みを浮かべた褐色の面。
『鈴木さん』は手を軽く上げ、こちらに向かって手を振っていた。まるで、自分に気づくか試しているかのように。男子生徒はすぐに目を逸らし、自分の足元を見つめた。
(ヤバいヤバいヤバい!! なんだアイツ!! なんでいるんだよ!!)
尋常ではない恐怖が体を支配する。体が小刻みに震え、心臓も警鐘を鳴らすかのように大きな鼓動を刻む。呼吸も少し荒くなり、もう彼の頭の中は真っ白になっていた。
(それに、この人はなんでこんな落ち着いているんだ!? 気づいていないのか!?)
スッと視線を神居の方へと向けると、体は真正面を向いているものの、明らかに神居のその視線は窓の向こうへと向いていた。
(気づいてる……でも、なんでそんなに落ち着いていられるんだよ! 恐くないのか!?)
男子生徒がそう心の中で呟いた時だった。
『おい、聞こえるか?』
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