ダーク・ファンタジー小説
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- 君の為に
- 日時: 2021/01/03 09:55
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
『君の為に』
この物語は昭和から平成に変って間もなくの頃、北陸は金沢で大学生が空手の稽古中に誤って親友を死なせてしまい、一九才の少年(堀内健)は苦しみ大学を中退し岩手県にある名勝、浄土ヶ浜近くのお寺へ精神修行する所から始まる。その寺の住職は合気道の達人で大勢の門下生に教えていた。その一人娘(小夜子)女子大学生も幼い頃から合気道を学び有段者であった。堀内健は修行して住職から色んな事を学んだ。精神面も強くなりまた合気道も教わるが、その小夜子の父である両親が何者かに殺された。堀内健にとっても大事な師匠である。小夜子はその犯人を追って、青年となった堀内健の力を借り犯人を追って岩手-東京-シンガポール-岩手へと修行から合わせて八年間にも及ぶ過酷な戦いと共に芽生えた愛と復讐の物語である。
『前回投稿した、宝くじに当たった男に続く長編ものです』
前回同様宜しくお願い致します。
- Re: 君の為に ( No.93 )
- 日時: 2021/12/26 18:41
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 93
最終章 君の為に
最終節 愛しき人よ
それから数分して、けたたましいサイレンの音が海岸添の闇に響く。それはパトカーのサイレンの音だった。ここを通った車の運転手が通報したのだろうか。
「おい? サイレンの音が聞こえるぞ」松本が言った。
小夜子の嫌な予感が的中したのか、数分して小夜子達の乗った車が、壮絶な争いの現場に到着した。かなりの数のパトカーに救急車も数台、到着していた。
松本、橋本、森そして小夜子らが車ら降りて走った。
救急隊員は担架で怪我人を運んで来る。その二人目の担架に健の姿があった。
「ケン! ケ~~ン」
小夜子の発狂したような、声が暗闇に響き渡る。松本達も唖然として周りの光景を見渡した。
パトカーなど警察車両から、まるでナイター中継のようなサーチライトが現場を照らしていた。健の担架は血だらけになっている。健の顔が青ざめて来た。その健を見て、血に染まった手に小夜子が縋りついた。
「どうして一人で戦うの? どうして……ケンしっかりして」
そんな声が聞いたのか健の眼が薄っすらと開いた。
「さっ……小夜ちゃんやったよ。仇は獲ったよ。盛田は泣いて詫びたよ」
その時に健が右手に金のネックレスを、血で染まった手で握り締めていた。
「駄目! 健が死んだら意味がないわ! そんなのイヤッ~~~」
「ごめんね。小夜ちゃん……でも仇は獲ったよ」
健は小夜子に笑って言った。健の仇は討ったとは殺し事ではない、まず詫びさせて罪を認め警察に逮捕させることだ。
「イヤッ!! 死なないでケン! 私を残して死なないでケン」
「小夜ちゃん……強く……生きてくれ。約束を守れなくてゴ……」
「いやっあ!! ケン、死んじゃイヤッ」
小夜子は健の顔を抑えて 必死に叫ぶ小夜子の柔らかい手に包まれて健は安らぎを感じ始めた。そして……。
つづく
- Re: 君の為に ( No.94 )
- 日時: 2021/12/29 20:20
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 94
「駄目!! 死んじゃあ! ケンは、ケンは……お父さんになるのよ」
小夜子の口から、思いがけない言葉が出た。
ほとんど意識のない健の表情が僅かに動いた。その言葉は健の脳裏に響いた。
「ぼっ僕が? おとうさん……そうか。ありがとう……う・れ・し・い・な」
振り絞った健の最後の声だ。健の青ざめた顔が少しだけ微笑んだ。
「しあわせだったよ。小夜ちゃ--------」
「どうしたのケン 返事して!」
側に居た救急救命士が慌てて小夜子をどかしAEDを取り出した。
「下がって心肺停止状態です。これから蘇生処置を行います」
AEDを心臓付近にあてがい電気ショックを起こす。ケンの体は大きくバウンドする、そして二度目、更に三度目。その度ケンの体はパウンドする度に小夜子はそれに耐えられず気絶してしまった。松本は慌てる小夜子を抱きかかえ乗って来た車の後部座席に横たわらせる。救急救命士はマッサージと電気ショックを繰り返す。
それから五時間が過ぎていた。此処は病院の一室、小夜子はやっと目覚めた。状況が把握出来ないボーっとしている。そして我に返った。精神的に不安定になっていたので麻酔薬で眠っていたのだった。
「ケン、ケンはどこ ? 」
小夜子は自分の置かれた状況が分からず叫ぶ。覚えているのは腱が心配停止の状態のところまで。腱がAEDの電気ショックで体がバウンドするのを見て気を失ったのだ。すると側に居た松本が声を掛ける。
「小夜子さん、落ち着いて。いま健は手術の最中だよ。きっと上手く行くさ」
そう言われても小夜子には気休めにしか聞こえない。小夜子は立ち上がろうとしたが足がフラつく。
「小夜子さん無理しないで」
「いやよ、健が心配なの」
また小夜子は立ちあがろうとするが上手く立てない。見かねた松本は看護師を読んだ。看護師の方が、説得力がある。慌てて飛んで来た看護師は小夜子を宥める。
「坂城さん、しっかりして下さい。貴女のお腹には赤ちゃんがいるでしょう。これ以上冷静さを失ったら赤ちゃんに影響しますよ」
つづく
- Re: 君の為に ( No.95 )
- 日時: 2022/01/02 22:56
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 95
そう言われ小夜子はやっと我に返った。そうだ私達の子がいるのだ。万が一の事があったら健は嘆くだろう。しかし健の事も心配だ。ともあれ冷静になろうと自分に言い聞かせる。もう手術室に入って八時間が絶とうとしていた。それだけ健は重症なのだ。考えて見たら小夜子も松本も橋本、森も食事もしていない。すると森が言った。
「そうだ俺、近くにコンビニで弁当か何か買ってくるよ」
「そうだな、すっかり忘れていた。思い出したら腹が減って来たな。悪いが買ってきてくれ」
松本が言い終わらないうちに橋本が森に声を掛ける。
「悪いが、その他にコーヒーとかおにぎりも欲しいな。あとは森が適当に買ってきてくれ。
そうだな、小夜子さんも弱り切っているし栄養ドリンクも欲しいな」
「おー分かった。食いきれないほど買ってくるからな。残すなよ」
これも森の精一杯のジョークだろうか。少しでも慰めになればと気遣いだ。三十分ほどして森が戻って来た。もう外は夜明けを迎える時間になって来た。こう言う時のコンビニは有難い。二十四時間営業は田舎でもコンビニだけは店が開いている。小夜子はお茶とおにぎりを食べて居た。それから一時間が過ぎやっと手術が終わった。なんと十時間にも及ぶ大手術だった。
小夜子は立ち上がった。今度はふらつく事もなく、そこへ看護師が駆け寄って来た。
「大丈夫ですよ。堀内さんは手術を終え眠っています。命は取り留めましたよ。安心して下さい」
助かったと言われ。小夜子は手で顏を覆って泣き崩れた。だが看護師の言葉が続く。
「ただ、まだ危機を脱した訳ではありません。とりあえず命は取りとめたと言う事です。あとは経過を見ないと、あとで先生からお聞きしてください」
命は取り留めたと言われたが、そのあとにつづく言葉が危機を脱した訳ではないと言う言葉が気になる。
「小夜子さん良かったね。普通の人なら助からなかったそうだよ。強靭的な体力を持っているな」
「それもそうだけれど、お父さんに成れると聞き、死の淵から戻ったと思うよ」
すると小夜子は照れ臭そうにお腹を摩った。
つづく
- Re: 君の為に ( No.96 )
- 日時: 2022/01/08 20:03
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
No.96
それから三カ月後、裁判が行われていた。健は(仇を獲った)と言っていたから盛田が死んだと思っていたが命は助かったようだ。ただもう一生歩く事は出来ないらしい。
もっとも刑務所からも一生出る事が出来ない。まだ完全に刑は確定していないが、これだけの事件だし最終的に一年以上裁判は続くだろう。
腱は被告席ではなく証人とし出廷していた。腱の強靭的な体力が瀕死の重傷から脱したのだ。もちろん完全に回復した訳ではないが、日常生活は問題ないようだが、運動は無理な状態だ。そしてここに裁判の証人席に立っている。過剰防衛も問われたが相手は十五人以上、しかも拳銃を持っている者が五人もいた事から過剰防衛には至らず。逆に盛田を始め多くの手下達は殺人と殺人未遂など複数の罪に問われた。
シンガポール警察よりマイケル・ワン警部が出来るだけの証拠を提供したのが決め手らしい。シンガポールで起きた事件は新日本同盟が絡んでいた。それだけではない盛田も麻薬取引に協力して利益を得ようと企んでいたのだ。
事件は解決したが健と小夜子は入籍もしていなし結婚式も挙げて居ない。二人とも自分達の事となると、無頓着だった。それを知った松本達が一役買って出た。小夜子のお腹には新しい生命が宿っている。まもなく三カ月になる。早く式を挙げないと目立ってくる。
勿論、矢崎組が表に立ち訳には行かない。矢崎組からは腱と小夜子の知り合い数人だけ。まず松本はなんとシンガポールに電話を入れた。あのマイケル・ワン警部補だ。式に出席するかどうかは別としてお祝い事だから知らせて悪いはずがない。
小夜子も友人や元門弟たちにも連絡をした。健は道場の門弟たちとは知り合いだが、あとは地元金沢に両親を含め知らせるべきか迷った。あれだけの事件が合ったし自分も重傷を負え死の淵を味わった。それ以上に親友を死に追いやった。喜んで結婚式を挙げるなんて許されない。逆に迷惑を掛けると、どうして良いか分からない。
本来なら健は、シンガポールで合気道を教えている筈だったのに。もしかしたら警官の夢も叶えられたかも知れなかったのに。色々と考えは浮かんで消えて行く。結局は金沢の両親には簡単な式を挙げるが、喜んで両親を迎え、式を挙げる事が出来ない。そんな理由で両親の出席はなしで進められた。結婚式しめやかに知り行われた。
松本も橋本、森が招待客の中にいる。そしてもう一人ジミーサットンが眼を赤くして立っている姿が見えた。シンガポールで一緒に活躍した友人だった。ジミーが誰となく言った。
『健はさわやかな青年だ。明るくて苦労もしたが、やっと幸せをつかんだのかな』
ジミーが出席したがこの中に知り合いもなく端の方で健に向かってワイングラスを高く上げた。それに気づいた健はジミーの側に駆け寄って来る。
「ジミーさん遠い所ありがとうございました」
「ケン、今度は幸せを逃がしては駄目だよ。今すぐとは言わないが子供さんが大きまなってからでいい、我がシンガポール警察で合気道を教えて欲しい」
「ありがとうございます。これで僕も無職ではなく就職道があるという事ですね」
健のジョークにジミーは笑ってハグして来た。
つづく
次回最終話
- Re: 君の為に ( No.97 )
- 日時: 2022/01/13 19:43
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
最終話
時は流れて、平成十五年十二月。
此処は健が最初に来て座禅を組んだ場所だ。小夜子と語り合った場所でもある。
その広場も真っ白な雪で覆われている。その厳しい寒さの中で、親子がたたずんでいた。その眼下には浄土ヶ浜の海が見える。あの砂浜を毎日二人で走った思い出の場所が見える。
「ほら健一、見てごらん。あの砂浜をハパとママがいつも走ったのよ」
母は厳冬の寒さも感じない程に、息子に語り掛けた。
その隣に、健の面影にそっくりな少年が言った。
「ねぇママ、ここはパパとママの思い出の場所なの」
「そうよ、でももう此処とは暫しお別れね」
「どうして? 大事な場所なんでしょう」
「そうね、でも此処は悲しい事が多すぎた今度はパパと新しい思い出の場所を作るのよ」
「新しい場所って、ここには住まないの」
「そう、今パパが居る所が私達の新しく住む所よ」
「それってシンガポールのこと」
「そうパパは私達が住む家と探しているのよ。シンガポール警察の近くで通勤も近いから便利だって」
「ふーん、パパはシンガポール警察の人たちに合気道を教えているの」
「そうよ、健一だってパパに教わって強くなるのよ」
「やっぱりパパはかっこいね。自慢のパパだ」
「そうよ! 健一、パパは最高の人よ。世界で最高の人よ」
今日は天気が良いのか遠くの島まで良く見渡せる。
二人の親子は、しっかりと手を握り合って遠い海を眺めた。
この海もシンガポールに繋がっているのだと、小夜子は思った。
それから暫くして小夜子と健一はシンガポールに渡った。税関を出て外に出ると健が満面の笑みを浮かべて二人を迎えた。健一はパパを見つけると急いで健の胸に飛び込んだ。
それを小夜子は嬉しそうに眺める。そして小夜子も健の胸に飛び込む。知らない人でもこの光景は美しく映る。親子と夫婦の再開は眩しい。
健が警察官になって、小夜子と生まれて来た健一と過ごす夢が間もなく叶えそうだ。
シンガポールの夢は、いつか健一が果たしてくれるだろう。
「健……見て! たった三ヶ月しか離れていないのに、益々健に似て来た貴方にそっくりでしょ」
その少年は、もう小学生になって居るらしい。
そして今は、父と母から合気道を習って居るらしい。
完
一年間ありがとうございました。
この小説は私が書いた初めての長編処女作でした。
ただ寂しいのは誰が読んでいるか分からないのが寂しい。
その足跡も辿る事が出来ない。ここはそういう所なのでしょうか。
また機会があったら掲載したいと思います。
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