ダーク・ファンタジー小説

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君の為に
日時: 2021/01/03 09:55
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

『君の為に』


この物語は昭和から平成に変って間もなくの頃、北陸は金沢で大学生が空手の稽古中に誤って親友を死なせてしまい、一九才の少年(堀内健)は苦しみ大学を中退し岩手県にある名勝、浄土ヶ浜近くのお寺へ精神修行する所から始まる。その寺の住職は合気道の達人で大勢の門下生に教えていた。その一人娘(小夜子)女子大学生も幼い頃から合気道を学び有段者であった。堀内健は修行して住職から色んな事を学んだ。精神面も強くなりまた合気道も教わるが、その小夜子の父である両親が何者かに殺された。堀内健にとっても大事な師匠である。小夜子はその犯人を追って、青年となった堀内健の力を借り犯人を追って岩手-東京-シンガポール-岩手へと修行から合わせて八年間にも及ぶ過酷な戦いと共に芽生えた愛と復讐の物語である。

『前回投稿した、宝くじに当たった男に続く長編ものです』

前回同様宜しくお願い致します。

Re: 君の為に ( No.63 )
日時: 2021/06/21 19:22
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 62

 それを聞いた健の表情がみるみる変わっていった。
 今までの甘さがいっぺんに飛んだ。
 「えっ! 小夜ちゃんが今どこに居るんだ? 何処に行けばいいのだ」
 健はジミーに詰め寄った。いったい小夜子に何が起こったと云うのだ。
 健は自分を責めた。自分は何をしていたんだ。いつも側に居て守ると約束したのに。
 「健、落着け。いま説明するから」
 ジミーは、こんなに取り乱した健を見るのは初めてだ。
 ジミーは場所を記したメモと目印などを教えた。
 健はそのメモを手に凄い形相で探偵社を飛び出した。
 駐車場から車に乗って大通りに出たが、こう云う時に限って渋滞していた。
 イライラしながら車の運転をして、やっと辿り着いた。その場所はあのコンビナートから五キロ程離れた総合病院だった。健は病院に入った。どうやら緊急治療室に居るらしいが、その病室の前の長椅子に見慣れた二人の男が立ったり座ったりと、ソワソワと歩き回っている。

 走ってくる健に松本と橋本は気づいて健の側に駆け寄って来た。
 「堀内くん、待っていたよ」
 松本はなんとも言えない顔で健に声を掛けた。
 「えっ松本さんに橋本さん? どうして此処にいるんだ。小夜ちゃんは」
 「訳はあとで話が、まだ面会も出来ない状態なんだ」
 「小夜ちゃんは小夜ちゃんは! 大丈夫なのか」
 健は小夜子の容態が心配でならない。居ても立って居られなくなり、その緊急治療室の扉を勝手に開けた。そこにはベッドに横たわって沢山のパイプや医療器具などが小夜子の体に繋がれていた。口には呼吸器が付いて眠っているように見えたのだが。
 まだ手術が終わって間もないだろうか、それとも手術も出来ない状態なのだろうか。
「小夜ちゃん死ぬな! 死ぬんじゃない」
 健は涙声で叫んだ。そこに看護士が病室に入って来て咎めた。
 「あなた! 何をして居るのですか。此処は立入り禁止です。すぐに出て下さい」
 看護士が慌てて入って来て健に厳しく注意した。健はその看護士に訴えた。
 「彼女は、彼女は助かるのですか」

 看護士はその問いに顔を横に振り健を病室の外に連れ出した。
そしては看護士健に小夜子との関係を尋ねた。
だが健は興奮している。落ち着くようにとは看護士が叱咤した。。
 「貴方は坂城さんの身内の方ですか」
 健は一瞬その問いに迷ったが身内以上に、いや誰よりも心配している。
 「そっ、それは……僕にとって最愛の人です」と答えた。
看護士は恋人と受け止めたのだろうか。とにかく落ち着くようにと看護士。
「貴方しか居ないのですね。ではナースセンターへ来てください」
「はいそうです。彼女の両親は亡くなり頼れるのは僕しか居ないのです。お願いです絶対に助けてください」
 そのナースセンターで、ここで待ちように云われ看護士は出て行った。
 まもなく待っていたら担当医師がやって来た。また落ち着いてと医師が言った。
 「今、坂城さんは大変に危険な状態にあります。最善の努力はしていますが、今はなんとも申し上げられません。彼女の幸運を祈るだけです。だから貴方も祈ってください」
 その医師の説明に健は呆然とした。もう神に祈るしかないのかと。

つづく

Re: 君の為に ( No.64 )
日時: 2021/06/23 22:58
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 63

「先生お願いします。彼女を助けて下さい。僕の命と引き換えにしても必要なら僕の臓器を提供しますから、お願いします。先生お願いします」
 そんな事は出来る筈もないが。健には、そう言わずに居られなかった。
 健は、うな垂れて廊下に出ると二人の屈強な男に声を掛けられた。
 健は怪訝な顔をして、その二人を見た。どうやら私服の警官のように思われた。
「私たちはシンガポール警察の者です」
 どこの国でも、そうだと思うが銃で撃たれて病院に運ばれれば、すぐ病院から警察に連絡が入る仕組みになっている。多分それで聞き込みに来たのだろう。
「ハイ……どう云う、お話なのでしょうか」
「いや今、調べて分ったことなのですが入院されている坂城小夜子さんは、あの時のハイジャック事件の功労者ですね。先ほど本部に問い合わせたら、名前が同じだったもので、すると貴方はもう一人の英雄? かな」
 「別に英雄じゃありませんよ」
今更、英雄扱いされても小夜子が改善するはずもなく健はムッとした。

 「いや失礼、いまは彼女の容態が心配でしょう。しかし、どうしてこんな事になったのですか? 貴方なら、ご存知じゃないですか」
「ええ、それが私も仕事の都合で彼女と暫らく逢ってないので、慌てて駆けつけた処なので、状況がよく分からないんです」
 その警官は、それ以上は聴かなかった。心中察するものがあったのだろう。
 何せシンガポール警察の語り草になっている人物だ。健に気を使ったのだろうか。
「そうそうジョイ・ハミルトン警視が貴方の事を良く話していましたよ。ではまた、彼女が快復次第また来ます。彼女の幸運を祈りますよ」
 そう言って二人の警官は、健の肩をポンポンと叩き励まして帰って行った。
 健は気落ちしたまま待合室へ向かう。其処には松本と橋本が待っていた。
 「すまない、みんな俺が悪いんだ。小夜子さんが俺を助ける為に危険を犯して新日本同盟の事務所に来て俺を救い出して、松本の車に乗りこもうとした時に、どこからか拳銃が発射されて小夜子さんに当たったんだ。俺を助ける為に本当に申し訳ない」

 「いや俺が小夜子さんを橋本を助ける為に呼んだ。俺が悪いんだ。勘弁してくれ」
 二人は健に悲痛な思いで、何度も詫びるのだった。しかし誰が詫びようが健がどんなに祈ろうと、その状況は変らないのだから。
 今更、二人を責めても小夜子が命を取り留める保障はどこにもないのだ。
考えてみれば一番悪いのは自分なのだ。いつも一緒に行動しようと約束してシンガポールに来たのは何の為なのか、仕事に迷いを感じて小夜子を一人にした責任は自分にあるのだ。小夜子は心が病んでいる自分を、これ以上傷つけたくなかったのだろう。
「取り敢えず外に出よう。話はそれから聞かせてもらいましょう」
 健は少し冷静にならなければ何も始まらないと考えたのだろうか。
 深呼吸してフーと溜息を漏らす。三人は一旦、病院の外へ出て、近くのカフィに入って行った。
 松本と橋本は、これまでの経過を話した。その松本と橋本の話の内容はこうだった。
 小夜子が車に乗る寸前に撃たれて橋本は小夜子を抱き抱えて車に乗せた。
 松本は追っ手から逃れる為に車をフルスピードで走らせなんとか脱出して、そのまま病院に連れ込んだ。もちろん警察にも届けた。いろいろ聞かれたけど、こっちは被害者と言う事で、あとで叉、事情を聞く事になっているらしい。

つづく

Re: 君の為に ( No.65 )
日時: 2021/06/27 18:43
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 64

 それから四日目の事だ。幸いにして危険な状態からは脱したようだ。
 だがまだ意識が回復していない。万が一治って意識がどの程度回復するか分らないと云う。毎日病院に通い、その夕方、小夜子の病室に向かった。病室に入る寸前に小夜子を担当の看護師が健の方に走り寄って来た。
 「看護師さん、どうしたのですか慌てて」
 健は一瞬、不安がよぎった。状態が悪い方へ急変したのかドキリとした。
 「ちょうど良かったわ。一時間程前に坂城さんの意識が戻ったのよ」
 看護婦は誇らしげに健に告げて健の次の言葉を待った。
 「えっ本当ですか! 本当に意識が戻ったのですか」
 「ええ間違いないわ。但し、まだ絶対安静に変わりはないけど、もう大丈夫よ」
  健は、急に真っ暗な闇夜から光を感じ胸が込み上げて瞼が熱くなった。

 そして看護師の手を取って何度も何度も、お礼を述べた。
 シンガポールに来て、こんなに苦しく、こんなに嬉しかった事があっただろうか。
 小夜子にもしもの事があったら、生きて行く自信さえ失いかけていた健だった。
 「看護師さん彼女に逢えますか。いや逢わせて下さい。お願いします」
 「いいわ、でも長い時間や興奮させない事さえ守ってくれればOKよ」
 看護婦は笑顔で健を病室の方に押しやった。そして個室の病室のドアを開けたると、小夜子はまだ眠っていた。

 看護師が静かに窓のカーテンを開けて窓も開けた。外から新鮮な空気が入って来て小夜子の頬を撫でる。小夜子が無意識に腕をベッドに掛かっている毛布から手を伸ばした。
 看護師は小夜子にそっと、その毛布を三分の一ほど捲りあげると、体に何か感じたのだろうか小夜子はゆっくりと目を開けて顔を動かした。
 「坂城さん……お客様ですよ」
 まだ意識が朦朧としているのだろうか、虚ろな眼で病室を見渡しと、その先の健の姿を見て少しずつではあるが、しっかりと健を視線で捉えた。
 健は小夜子の手をそっと握って、小夜子の瞳を見つめた。健は涙で霞んで小夜子が良く見えない。小夜子も健に気づいたのか。その瞳は潤んでいたが健の手を握り返した。

つづく

Re: 君の為に ( No.66 )
日時: 2021/07/04 18:50
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 65

「小夜ちゃん良かった。本当に良かった」
 健はもう言葉にならなかった。小夜子のその手が、また健の手を握り返して囁く。
 「わ、私もう健に逢えないかと思ったわ」
 「小夜ちゃん。ゴメンよ。本当にごめん。もう一人にはしないよ。絶対に」
 看護師は二人の再会を確認すると、気遣って病室を出ていった。
 「私、生きているのね。良く分からない内に、意識が薄れて」
 小夜子はあの時、撃たれて意識が遠のく時、もうすべてが消えて永遠に目が覚めないような感じがしたと思ったようだ。
 「早く元気になって美味しい食事をまた一緒にしたいね。小夜ちゃん」
 「そうね。健と一緒に食事が出来るといいね」
 二人は手を握り合ったまま語り合った。その手は暖かくもあり熱くもあった。
 もう小夜子を悲しませたりしない、どんな事があっても絶対にと健は心に誓った。

 自分さえ、しっかりして居れば小夜子をこんな目に合わせなかったのにと全ては自分に責任があると。思い詰めた健は涙が止まらない。もうすでに面会時間が過ぎていたが。
 「小夜ちゃん。もっと一緒に居たいけど身体にも障るし、そろそろ帰るね」
 「ウン分かった。でも又、来てくれるでしょう健」
 小夜子は健がまた消えて、しまうのじゃないかと不安だった。
気丈な小夜子が異国の地で一人ぼっちにされ生死の境を彷徨っていては、気弱になるのは仕方がないことだ。全て健の心の迷いから起きた事だ。
健もやっと悟った。己の精神の弱さに、理不尽な仕事だから嫌気がさすのは良いが小夜子にまで不安を抱かせた罪は思い。そもそもなんの目的でシンガポールに来たのか。
 犯人を捜し出し追い詰め、黒幕を暴き出し復讐する為ではなかったのか。
非情にならなければ出来ない事だ。例え理不尽な仕事でも目的の為に非情にならなければならない。健はやっと悟ったようだ。

つづく

Re: 君の為に ( No.67 )
日時: 2021/07/10 20:43
名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)

君の為に 66

「勿論だよ。時間の都合がつく限り小夜ちゃんの側にいるよ」
 健も小夜子も名残惜しそうに、手を離して別れを惜しんだ。
小夜子は笑顔で健を見ていた。やがて廊下に出ると二人に気を使った看護師が待っていた。
 「あっどうも看護師さん。本当にありがとうございました」
 「良かったわね。病室に入ろうと思ったけど、入りにくかったわ。フフッ」
 看護師は二人の、その雰囲気に入るのをためらった程に二人は熱かった。
 「本当に先生や看護師さんには感謝しています。ありがとう」
 健の言葉は本当に、言葉で言い表せない程の感謝の気持ちがこもっていた。

 「うれしいわ、私達は、そんな言葉を貰えると仕事に誇りを持てる時なのね。患者さんや家族の方に感謝される度に、この仕事に生き甲斐を感じるの。もう彼女は大丈夫よ。後は心のケアは貴方の仕事よ。お願いしますね」
 看護師は健と入れ替わりに小夜子の病室に入って行った。健は日本式に深くお辞儀した。
 風習の違う外国人の彼女には、その姿はどんな風に映ったのだろうか? 
少なくとも日本式の、お辞儀は彼女にも好感もたらした事だろう。
翌日、松本に小夜子が回復した事を知らせる電話を入れた。その松本が電話口に出た。
 「ハイ? おっ堀内君、小夜子さんの様態は……おう、そりゃあ良かった。橋本なんか何度も手を合わせて祈っていたよ。橋本には命の恩人だものな」
 「そうですか。橋本さんにも、そう伝えてください。松本さん、じゃ後でそちらに行きますので」
 それから健が松本達のホテルに着いたのは夕方だった。
 「おっ来たなぁ、今、橋本と安田で話し合っていた処だ」

 安田の話によると月二回、日本へ出航する便があるそうだ。その時に新日本同盟のリーダー各の浜口孝介が現れると安田から、そんな情報を得ることが出来た。
 「で、今度はいつなのですか。浜口が現れるって」
 すでに健の表情は険しくなっていた。小夜子が退院するまでに何とかしたかった。
やっと探し得た一人の情報が入って、シンガポールに来た最初の目的が晴らせると。
その部屋には松本と、橋本ともう一人知らない人物が居た。
健は怪訝な顔をした。矢崎組がもう一人日本から送り込んだ人間なのかと思った。
 「堀内くん、勘弁してくれ。こいつが悪いんだ」
 橋本はいきなり健に誤った。こいつと云って指差した相手は安田だった。健と安田は初対面だ。橋本が何を云っているのか、健は飲み込めないでいた。
 それにしても、どうして安田が寛いでいるのか 縛られて居ないのか? 松本が詳しく説明した。

つづく


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