ダーク・ファンタジー小説
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- 君の為に
- 日時: 2021/01/03 09:55
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
『君の為に』
この物語は昭和から平成に変って間もなくの頃、北陸は金沢で大学生が空手の稽古中に誤って親友を死なせてしまい、一九才の少年(堀内健)は苦しみ大学を中退し岩手県にある名勝、浄土ヶ浜近くのお寺へ精神修行する所から始まる。その寺の住職は合気道の達人で大勢の門下生に教えていた。その一人娘(小夜子)女子大学生も幼い頃から合気道を学び有段者であった。堀内健は修行して住職から色んな事を学んだ。精神面も強くなりまた合気道も教わるが、その小夜子の父である両親が何者かに殺された。堀内健にとっても大事な師匠である。小夜子はその犯人を追って、青年となった堀内健の力を借り犯人を追って岩手-東京-シンガポール-岩手へと修行から合わせて八年間にも及ぶ過酷な戦いと共に芽生えた愛と復讐の物語である。
『前回投稿した、宝くじに当たった男に続く長編ものです』
前回同様宜しくお願い致します。
- Re: 君の為に ( No.73 )
- 日時: 2021/08/23 08:52
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 72
健は地面を一回転して起き上がった時には、右足が連れの男の顎を蹴り上げていた。
もんどり打ってアスファルトにその男は転がって行く。間髪を入れず健は浜口に襲いかかる。しかし浜口は次の健の蹴りを辛うじてかわした。なかなかの運動神経の持ち主と見ていいだろう。すかさず浜口は距離を取ろうとしたが、健は距離を置かせなかった。
焦った浜口は拳銃を取ろうと、また懐に手を入れた。それが一瞬の遅れとなった。
健が一気に間合いを詰めて合気道の〔横面打ち〕が顔面にヒットさせた。
すかさず浜口の手首を取り、左の拳で顔面を襲い手首を軸に回転させると浜口は何も出来ぬ間に体が宙を飛んだ。そして地面に叩きつけられた。
合気道(片手取り内回転投げ)の大技であった。その弾みで拳銃が浜口の懐から飛び出して転がった。
こう云う時の健は一瞬のスキも見逃さない。空手、合気道と修行して来た成果だ。
一瞬の遅れが勝負を決める事は百も承知していた。それが浜口のミスとなった。
浜口は拳銃に目をやったが取りに行くのを諦めた。取りに行ったら次の攻撃も避けられず、打ちのめされるかも知れないと思ったのだろう。健の連続攻撃がスキを与えないからだ。
浜口は投げられた衝撃で、何所か痛めているにも関わらず半回転して起き上がった。
すかさず反撃に出た。いきなり右手が健の顔面に伸びて来た。なかなか素早い動きだった。健は辛うじてステップバックして、そのパンチをかわしたが少しバランスを崩した。
浜口が左フック、左アッパーと繰り出して来た。健はたまらずにバック回転して四メーターくらい後ろに着地した。まるでサーカスの団員を思わせるような身の動きだ。
健はまたしても、あの宮崎と同様にプロボクサーの経験者だと判断した。
こいつ等は、いずれもボクサー崩れの用心棒か殺し屋なのかと警戒した。
これではまともに前に立ったら、何発が顔面にヒットされるかも知れないと思った。
浜口は自分のキックボクシングに自信を持っているが、健を前にして己の練習不足を悔やんだ。こんな強敵を相手に浜口の自信が揺らいだ。何がなんだか分からないまま、敵を目の前にして考える余裕もなかった。しかも自分の連れを、あっと言う間にアスファルトに転がした。その男は脳震盪を起こしたのか動けないでいる。かなりの強敵に浜口の鼓動が激しく波打つ。
しかも自分の自信を持ったパンチが、当たらない事が驚きの連続で焦りを感じた。
ボクサー以外に外すことがなかった。ストレートパンチを軽くかわされて動揺していた。
不意打ちとは云え、顔面を叩かれ投げ飛ばされた事は事実だった。
互いに間合いを計りながら、相手の隙を付いて攻撃チャンスをうかがう。
その時やっと我に返ったのか、先ほど健に蹴り上げられた男が起きあがった。
しかし健は浜口から目を、逸らす訳には行かなかった。浜口が仕掛けて来た。
左ジャブの連続そして右アッパーと繰り出してくる。さすがに元キックボクサーであろう、そのスピードなら普通の人間は二~三発浴びて地面を、のたうちまわっているかも知れない。
その時だ。後ろから起き上がった男が殴りかかって来た。遠くから見ていた橋本と安田が「危ない!」と大きな声で口走って慌てて口元を押さえる。
その男は後ろから健の後頭部を狙って右こぶしが飛んできた。当たると思った瞬間だった。健は腰を落としてかわすと、次には大きく跳躍して左足が回転した。
その回転した足がまともに、顔面に炸裂して男は数メートル先に吹っ飛んだ。
確認する間もなく浜口が右フックを、健の頬を狙って繰り出した。
健はその右手首を捉えた瞬間その技は冴えた〔片手取り小手返し〕だ。
浜口は右手の甲を抑えられ其のまま一回転した。ウ~ンと浜口の低い唸り声がした。
次の瞬間、健の膝が倒れた浜口の顔面にめり込む。意識が朦朧とした浜口の首に健の右腕が蛇のようにからみつき一気に首を締め上げる、
まるでレスリングの寝技のように強烈に締め上げた。
浜口は目が虚ろになり口から、泡を吹き出して完全に気を失った。
しかし健の怒りは収まらない後頭部を何度か蹴った。あの冷静な健の怒りが収まらない。小夜子が死の間際まで追い込まれた事が頭をよぎったのだろうか。容赦なく蹴り続ける。
鬼の形相と云った方が相応しい今の健の表情だった。ルール無用の死闘なのだ。
離れた居た所から見ていた橋本達は、勝負があった事を確認したが。健の様子がおかしいと思った。余りにも冷酷な蹴りが続いている。ヤクザが見ていても身震いする程だ。
あわてて橋本と安田は走って行って健を止めに入った。
「ヤメロ!! それ以上やったら死ぬぞ! 殺人者になってもいいのか」
殺人者と聞いて健は我に帰った。いくら憎い犯人でも故意で殺すことは許されない。
こんな悪人でも心配する人が居るだろうと。橋本は健に抱きついて、やっとの思いで健の動きを静止させた。浜口とその連れはまったく動かない。安田は脈を診たが大丈夫のようだ。健のその表情は凄まずい。橋本は必死で止めて落ち着かせた。
いくら相手が憎い奴でも殺せば不味いことになる。
健も灼熱のターボエンジンが静かにスローダウンして回転数が下がって行くように、深呼吸をして力を抜いていった。気が付いたら浜口は泡を吹いて虫の息だった。
つづく
- Re: 君の為に ( No.74 )
- 日時: 2021/08/28 21:20
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 73
第六章 太陽は昇る
第二節 さらばシンガポール
「ここはまずい車で早く離れよう。この二人を後ろのトランクに入れよう。奴等に気づかれないうちに、早く引き上げようや」
橋本と安田が得意のトランク入れだ。二人を縛り付けて無理やり押し込んだ。
安田はついあの時の事を思い出した。自分がトランクに入れられてオマケに暫く忘れられてトランクに置き去りされた思いがある。危うく死ぬかと思った。
この間までの雇い主を、自分が入れる事になるとは縁がなものだと改めて思った。
世の中、一寸先が分からないものと、つくづく感じた安田だった。
浜口らをトランクに乗せて健、橋本が後部座席に安田が運転して波止場を離れた。
橋本は無線機を取り出し松本を呼び出した。
まだ松本は彼等の事務所にいるのだろうか?
「松ちゃん、こっちは片づいたぜ。いま何をしている」
「おーそうか、旨くやったか。事務所の通りの道路まで来てくれ」
その事務所には誰も居ないのだろうか、事務所と云っても電話が置いてある程度だったが、松本はそれがカモフラージュしてある事に気づいて。あの橋本が縛られていた場所の地下室がある。その地下室に隠された金庫を松本は大胆にも、どういう手を使ったのか金庫をこじ開けて、何か書類のような物を持ち出したようだ。
暫らく走ると松本が、車に気がついたのか路上で手を振っている。
やがて松本を載せて、車は今三人がアジトにしている安いホテルに車を付けた。
深夜だから人目に付く事はない。駐車場からだとフロントも通らなくていい。
管理システムがずさんだった。なんなく浜口らを部屋に連れ込む事が出来た。
取り敢えず大きな仕事をやりとげた。松本は参加しなかったが、それに近い成果を上げた。金庫から取り出した書類は、これまでの密輸取り引き相手の名前や団体名。所在地。麻薬取引の量や拳銃取引なども細かく記載たれてある。これを警察に密告すれば新日本同盟は消滅する。
二人は後ろ手を縛られ猿口輪に目隠しと、おまけに麻袋の中だ。
新日本同盟でもやり手の殺し屋も見る姿ない。こうなれば何も出来ない敵の捕虜となった。松本はニヤリと笑って言った。
「堀内くん。浜口に聞きたい事があるだろうが、そう簡単には奴は吐かないぜ」
「それは分かっているけど、何か良い方法でもあるの?」
「俺たちはヤクザだぜ。方法はいくらでもあるさ。なあ安田」
いきなり名指しされ安田はドキリとした。最初ここに連れ込まれた時に、散々いたぶられた事を思い出していた。つまりこれから松本達によって拷問が始まる訳だ。警察と違ってヤクザには法律は関係ない。徹底的に吐くまで痛めつける。法律は松本達に云わせれば、破る為にあると心得ているから恐ろしい。
つづく
- Re: 君の為に ( No.75 )
- 日時: 2021/09/02 21:08
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 74
もし健が浜口の口を割らせるには、どんな手を使っても無駄だろう。やはり暴力に頼るしかないのだろうか、だからと云って死なし訳にも行かないが。ここはその道のプロに任せるのが妥当だろうと健は思った。だが健でさえ想像も付かない事が始まる。
「分かった。松本さんに頼むよ。でも、その後に浜口はどうするのですか」
「堀内くんは、どうしたいのだ。もう一度袋叩きにでもするか。それともヤクを飲ませて海に沈めるとか」
「いや殺しはちょっと。さっき散々蹴り飛ばしたから。他に俺が聞きたいのは、沖田勝男の行方だけです」
「よし引き受けた。今日はあんたの手柄だよ。ゆっくり休んでくれ、後は任せろよ」
橋本と安田も、松本の言葉に大きく頷いた。健が一人で戦ったのだから。
「気持ちは嬉しいけど、新日本同盟の連中は必死に探しているのじゃないの」
「その事だけど、浜口の口を割らせたら俺たちはサッサッと日本に帰るぜ」
「堀内くんのお陰で組長にいい土産が出来た。もう新日本同盟の麻薬密輸の証拠書類は持っているし、奴等は浜口を探すよりも逃げる方が先かも知れんなぁ」
健はある事を思い出した。あのハイジャック事件の時に出会った。シンガポール警察の人に事情を話せば訊いてくれるも知れない。少なくとも自分の事を覚えて居るはずである。
「松本さん、いい考えがあるよ。俺がその書類と浜口等を警察に引渡しよ。ちょっとした知り合いが警察に居るんでね」
「書類を?」
松本がせっかく手に入れた大事な物だ。それを警察に渡すとは納得が行かない。
「松本さん誤解しないで下さい。僕が手柄を横取りとかそう意味ではなく、仮にその書類を組長に届けたら、組長はどうするんですか」
「そりゃあ……」
そう言ったきり黙りこんだ。
「実はシンガポール警察の偉い人に知り合いがいるんです。その人に渡せば新日本同盟や相手も一網打尽に出来ます。そこでどうしてその種類を手に入れたか聞かれるでしょう。そうなれば松本さんの矢崎組も取り調べを受けます。組長は喜びますか?」
「警察に知り合いが居るのか? その方が安心だな。俺が警察に密売組織の証拠書類を持って行っても身元を聞かれたら困るからな。ヤクザじゃこっちがヤバイよ」
「その可能性はありますね。じゃあ警察に僕が持って行ってもいいですか。勿論、警察に取って有り難い話です。だから矢崎組や松本さん達に迷惑が掛からないように取引しますよ。それと新日本同盟は日本の警察と協力してもらい。完全に潰してくれる確約を貰ったら渡しと条件付きで」
「流石だ。抜け目がない。よっしゃあ頼むよ」
つづく
- Re: 君の為に ( No.76 )
- 日時: 2021/09/12 11:01
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 75
健がその書類を預かって警察に持って行く事にした。勿論、浜口に白状させてから警察に引き渡して、松本達には罪が及ばない条件を持ち賭けてみる事にした。
罪と云ったら拉致したり拷問を加えたりした事くらいだが? それなら健はどうなるのか。勿論ハイジャック事件の功労者だ。何のお咎めも、ある筈がない?
日本の警察なら、そんな事は許される訳はないが外国の警察はその点は合法的な処がある。健は書類を持って帰る事にした。その前に浜口達の口を割らせると松本は言った。
後のことは松本達に任せて小夜子の病院に行こうと思ったが少しためらった。
このまま行ったら、きっと自分の様子に気づき、何かあったと小夜子は思うかも知れない。
小夜子は、その辺が鋭いから合気道とは人の動作、心理を読む事に長けているからだ。
結局そのまま寮に帰った。翌日の夕方、健に松本から電話が入った。
浜口が白状したらしい。どんな手を使ったのだろうと考えると、恐ろしい程の拷問でもしたのだろうか。その事は聞かない事にした。
決して気分の良い物ではないから。その浜口が白状して分かったことは、あの沖田が日本に戻っている事が分かった。それが分ればあとは警察に引き渡してもいい。浜口の罪状はきっと日本の警察に問い合わせて、それ相応の判決が下るだろう。
健は早速、麻薬密輸の証拠書類を持ってシンガポール警察に向かった。
いわば司法取引をするのだ。ハイジャック事件の総責任者だったジョイ・ハミルトン警視から名刺を貰っていた。今日はシンガポール警察の外事課担当本部長のジョイ・ハミルトンを訪ねた。以前に小夜子が入院した時に病院であった事がある人物だ。
あいにくハミルトン警視は、出かけて居て署内には居なかった。仕方なく出直そうと思った時、あのハイジャック事件のおり、顔見知りの警官がにこやかな顔をして声を掛けて来た。
「やぁ貴方は堀内さんでしょ? その顔は忘れないよ。ハッハハ。驚いたなあ一体どうしたのですか」
健も急に声を掛けられて戸惑った。その顔には、わずかに記憶に残っていたが。
「ど、どうも久しぶりです。実はハミルトン警視を訪ねて来たのですが」
そう言うしかなかった。だが当時の英雄の登場に警官は親切に応接室に案内してくれた。
「そうですか。警視は生憎、出かけて居ておりませんが。私でよければ珈琲でも飲みながら話を聞きましょうか。あれからどうして居るかと、署内では噂になっていましたよ」
自分のことを覚えて居てくれた。別に英雄になりたかった訳じゃないが結果として有り難かった。好意に思ってくれるなら誘われるままに、その警官に着いて行った。
二人は応接室に入って挨拶を交わしている内に、香りの良い珈琲が運ばれて来た。
つづく
- Re: 君の為に ( No.77 )
- 日時: 2021/09/19 09:48
- 名前: ドリーム (ID: JbG8aaI6)
君の為に 76
「そうそう、あの美人の彼女は、どうして居ますか」
その彼女とは小夜子の事であるらしい。ハイジャック事件のもう一人の立役者だ。
どうやら小夜子の事件の事は、この警官は知らないようだ。
「ええそれが、いま入院して居ます」
「えっ、またどうして。病気か何かですか」
「実は今日来たのは、その事を含めてなのですが」
健は新日本同盟から松本が盗みだした密輸や麻薬取引に関する書類を預かって来ていた。出来ればジョイ・ハミルトン警視に渡したかったのだが、居ないのでは仕方がない。
日を改めるにしては、事が重大だけに一刻も早く調べて欲しかったのだ。信頼出来るなら、この警官でもと思った。その向かい合っている警官はどうやら、訳が有りそうだと感じたらしい。まもなく運ばれて来た珈琲を警官が勧めてくれた。
「そうですか、まあ珈琲をどうぞ。それからゆっくりと伺いましょう」
健は進められるままに珈琲を飲んだ。だが香りは良かったのだが。不味い! 日本の喫茶店で飲む珈琲とは、まったく違っていた。味が薄くただ珈琲の匂いがする程度の代物だった。しかし彼らはそれが、お茶と同じなのだ。そう云う風に考えれば飲めない事はない。逆に彼らに日本茶を、勧めても美味いとは思わないだろう。文化の違いかも知れない。
だが目の前の警官は美味そうに飲んでニコニコとしている。陽気な警官だ。
「良く訪ねて来てくれました。警視も貴方に、お願いがあるらしくて随分と気にかけておりましたよ。申し送れましたが、私は」と名刺を差し出した。
本来、名刺は日本人が考え出した。ビジネスに欠かせない自己紹介用のものだったが、外国人には、そういう習慣が昔はなかったそうだ。
だが、この名刺はビネスの革命を起こした。今や世界共通の名刺となっている。
今の日本の経済発展に役立ったのは、この名刺と軍手だと言われている。
軍手とは名の通り、旧日本軍が考え出した物だが外国にはなかった。
作業をする上で非常に安くて、便利で応用が利き、あらゆる作業に対応が出来る。
地味だが経済発展に欠かせない物だった。戦後の日本経済発展に貢献したのだ。
つづく
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